ダーク・ファンタジー小説

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異世界に転生したのに死んでいた!
日時: 2017/01/13 23:41
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)

”人間なんて嫌いだ。神様も嫌いだ。生きるのなんてウンザリだ”
不幸な人生を送ったアラサーの俺は、最愛だったはずの妻に裏切られ、ついには交通事故で死んでしまった。しかし、ひょんなことから異世界へ転生することになり、今度こそ幸せな人生を満喫してみせる!と意気込んでいたのだが、いざ異世界転生してみると、俺はすでに『死んでいた』——!?

【あてんしょん】

〆小説家になろうに転載中です。

〆ギャグファンタジーな小説です
 剣とか魔法とか魔物とかアンデットとか勇者とか死霊術師とか色々ごった返しています。ダーク・ファンタジーを目指そうと思ってたのに筆者がコメディを挟まないと死んでしまう呪いにかかっているせいでコメディちっくな設定になってしまいました。どうしてこうなった/(^o^)\

〆オリジナルキャラクター募集について
 ある程度話が進んでなおかつ余裕があれば



目次======================

序 章『転生』>>001->>004
第1章『脱出』>>005->>007>>009>>011>>014>>015>>016>>017>>018>>020>>024>>025>>026

Re: 異世界に転生したのに死んでいた。【1/1更新】 ( No.23 )
日時: 2017/01/01 16:06
名前: アンデット ◆7cyUddbhrU (ID: RwTi/h2m)

明けましておめでとうございます
コメントありがとうございます!

名無さん
転生もののトラックの人は不憫ですね…なろうで読んだ作品に影響されて書きはじめた小説ですが、そういえばトラックが原因でしんだ主人公が多い気がします。
そのうちその運ちゃんにスポットが当たった小説が出てきそうですね
もしやすでにあったりするのだろうか…
神様に暴言は元ヒキニート設定の方々に多い傾向な感じがしますね
もしも自分が特典もらえて転生できるなら記憶力が欲しいです、切実に。
コメントありがとうございます、更新頑張ります

北風さん
なんと…なろうユーザー様でしたか!
ブックマーク、お気に入り作者登録ありがとうございます。とても嬉しいです!
夏あたりに書きはじめたのですが、プロットの練り直しとか色々あって更新再開が最近になってしまいました…反省です。これから本格的に冒険が始まり、色んなキャラクターが登場する…はず…?
今だヒロインが不在なのは本当に申し訳ないです。のんびりペースですが頑張ります
改めまして応援ありがとうございます、更新頑張ります

Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.24 )
日時: 2017/01/05 22:46
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)

なろうちっくに書いてると普通に書きたい衝動に駆られる今日この頃
新しい小説でも書こうかな…

=====================

 さて、雪山から救出したはいいが、青年の顔色が悪い。おまけに気を失っているときた。
(え、ええと、こういう時はどうすればいいんだ?)
 俺は生まれて初めての事態に困惑していた。
 数時間習った程度の知識ならあるが、俺には応急救護だとか応急処置の経験は無い。それに、どちらかと言うと応急救護される側の人間だった。昔から何かと不慮の事故に遭う事が多かったからな、救急車様様だ。

 だか、今は助けは来ない。助は呼べない。
 自分がやらねば彼は死んでしまうかもしれない。
 そうだ、自分がやるしかないのだ——頼れる者など、ここにはいないのだから。
(よし)
 俺は自分の頬を叩いて気合を入れた。
 軽く混乱していた心はいつの間にか落ち着きを取り戻していた。
 今は青年を助ける、それに集中しよう。

 俺はまず、青年が背負っていた大きなカバンを下ろし、服や体についた雪を払いのけた。
 初日の探索で見つけていたゾンビの体に巻く例の麻布を床に敷き、その上に青年を寝かせる。雪の中に埋まっていた時間はそう長くは無いはずだが、体温はおそらく低下している。なので、ひとまずこの部屋の温度を下げている雪山を”火炎(ファイア)”で溶かして……溶かして、ええと、どうしよう。ここは暖を取るべきなのだろうが、たき火を熾そうにも薪が無い。
(燃やせる物か……)
 俺は自分の着ているローブを青年の体に被せつつ考える。
 この部屋にあるものをもう一度挙げよう。二十冊の本、紙、木炭、エンバーミング用のハサミやナイフ、巨大な針、糸、ミイラの体に巻く麻布、短剣、溶けたロウソク。
 紙はすぐに燃え尽きるし、麻布はすでに使っている。文字を書くための木炭では小さすぎるし、溶けたロウソク程度の火では暖は取れないだろう。これらと不燃物を除外すると、自然に候補は絞られる。俺は周りに散らばっているそれらに目をやった。
(これしかないかぁ)
 そう、俺の暇をつぶしてくれた二十冊の本である。
 もちろん中には読めていないものもある。
 名残惜しい。が、人の命がかかっているのだ、背に腹は代えられない。
 俺は魔法の基礎が書かれている手引書①、何らかの召喚魔法が書かれている手引書②以外の本を薪代わりにする事にした。
 さらば、数十日間のお供よ。

*

 数分後、まだ遠くからゾンビの声は聞こえるが、部屋の中は非常に静かである。
 たき火の音が妙に心地良く感じるのは何故だろう、ここに自分以外の人間がいるからだろうか。

 青年に視線を移すと、彼の顔色はすっかり良くなっていた。しかし、まだ意識を取り戻す様子はない。
(このまま目を覚まさない……て事は無いよな)
 そんな一抹の不安を覚えるが、彼が目覚めた後の事も考えねばならいのもまた事実。

 正直に言うと、この青年を放っておいて逃げ出すこともできる。
 俺はアンデット、青年が敵意をむき出しにするのも仕方のない事である。目覚めてすぐに俺を消し炭にしてしまう、そんな状況が容易に想像できる。
 そもそも、だ。
 襲われた手前、彼を助ける義理など無い。
 しかし、だからと言って放って逃げると、意識を失ったまま青年がゾンビや幽霊に襲われる可能性がある。鉄格子を閉めれば敵の侵入は防げるだろうが、それは彼を閉じ込める事にもなる。飲み食い不要のゾンビの俺だから生き延びる事はできたが、彼では死ぬ。そう、死ぬのだ。

 また、俺はこの世界の事について殆ど何も知らない。
 そんな状態のまま逃げ出したとして、それからどうしようと言うのか。ここから出た後の事は色々想像したが、具体的にどう生きて行こうだとか全く考えていなかった。『まぁどうにかなるだろう』と楽観的に考えていたのだ。
 今後どうやってこの世界で生きていくか、身の振り方を考える時期なのだろう。

 で、それについて考えた結果、”まずは味方を作る事”を最優先するべきだと結論付けた。
 そして、その味方(ターゲット)として狙いを定めているのがこの青年である。
 というか彼しかいない。なので彼を置いて逃げるという選択肢はなくなった。

(しかしなぁ)
 青年を味方に引き入れるとしても、どうしたものか。
 アンデットという地点で少なくとも警戒はされる。というか実際された。そして敵対して彼を殺しかけたのである、警戒を解けと言う方が無理ではなかろうか。
(弁明しようにも口が利けないし……どうすりゃいいんだ)
 俺は頭を抱える。
 と、そんな時。

「う……」

 青年が小さな声を上げた。
(意識が戻った!?)
 苦しそうな声だったが、確かに青年のものだ。
 俺は思わず青年に近寄ろうとしたが、先ほどの事を思い出して体を止めた。
(危ない。目が覚めたら目の前にこのホラーフェイスはまずい)
 俺が青年だったら迷わず”火炎球(ファイアボール)”をぶち込むところだ。
 しかし、でも、どうしよう。青年が起きてからの事について考えていたが、考えはまとまっていない。どうにか攻撃される状況は回避せねば、そう思いひとまず棺桶の影に身を隠す。
 しかし、いつまで経っても青年が起き上がる気配はない。
(……? どうしたんだ……?)
 心配になって恐る恐る青年に近づく。

 青年の顔色は確かに良くなった。しかし、その表情は苦しそうだった。
「…………」
 彼はうっすら目を開ける。僅(わず)かに開かれたその目と視線がぶつかり肩が震えた。
(し、しまった、迂闊だった。完全に顔見られた!)
 俺は攻撃を受ける事を覚悟して慌てて顔を両腕で覆う。
 が、彼から攻撃を受けることは無かった。
 彼はまだ意識がハッキリしていないようで、再び目を閉じてしまったのだ。
 俺はひとまず胸をなで下ろす。

(でも、まずいな。反撃する体力が残っていないって事だよな……)

 青年の容態は自分が想像しているよりも遥かに悪いのかもしれない。
 それに気づいて不安になる。
(考えろ、考えろ。この場合どうすればいい? 体力を回復させるには——)
 『食事』、その言葉が真っ先に思い浮かんだ。
 俺は即座に青年が背負っていたカバンの方に顔を向けた。
 生憎この部屋に食料は無い。青年が何かしら食料を携えているだろう、という可能性に期待してカバンの中を漁らせてもらうことにした。そんな訳で、ゴソゴソ。
(ええと、これは……本? ”死の国”って物騒な題名(タイトル)だな)
 この世界で有名な小説なのだろうか? とりあえず傍らに置く。
 そして次に手にとったものを取り出し、俺は目を丸くした。
 それは、小さなガラスの瓶である。中には透き通った緑色の液体。300ml、といったところだろうか。それが2、3本カバンの中から見つかった。俺のゲーム知識をあてにできるかは分からないが、これはもしや、あれではなかろうか? ゲームで緑の液体と言えば、あれしか無かろう!
(まさか”回復薬”というやつでは!?)
 俺は少し興奮しながら瓶を軽く振る。
 中で緑の液体が揺れるが、ドロドロとしている訳でもなさそうだ。どちらかと言えば水に近い感じか。

 そしてゲーム脳の俺は思った。
 これを使えば青年のHP(たいりょく)が回復するのでは!? と。

 早速俺は瓶を手にとって青年に近づく。
 しかし、回復薬らしきものを青年に使おうとしたところで、俺の中に衝撃が走った。
(この回復薬って”飲み薬”なのか!? ”塗り薬”なのか!?)
 今の今までゲームに登場する回復アイテムは飲んだり食べたりするものだと思っていたが、実際に使用するとなると分からない。試しに少しだけ口の中に緑の液体を落としてみるが……うーん、わかんない!
 俺の体は視覚、聴覚以外はほぼ死んでいるからね。皮膚感覚もガバガバで、僅かに触覚はあるが痛覚、温度覚というものは全く感じない。つまり味は分からないのだ、今判明したことだけど。て、そんな事はいいんだよ。問題はこの回復薬をどうするかだよ。

 とりあえず、あるだけ持ち出そうと青年のカバンから全て緑の液体の入った瓶取り出した。それを手に抱えつつ栓を抜く、のだが。それがダメだった。周囲への注意が疎かになっていた俺は、たき火のストックとして置いていた本に足を取られてしまったのだ。
「ア"ッ」
 気づいた時にはすべてが遅かった。
 俺は成すすべもなくすっ転び、青年の顔に緑色の液体をぶちまけたのだった。

 あ、ちなみに青年はすぐに悲鳴を上げて飛び起きました。

謝罪 ( No.25 )
日時: 2017/01/06 00:56
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)

* * *


 目を覚ました時、青年——ウィリアムの意識はおぼろげだった。
 しかし、そんな彼にも近くに誰(なに)かがいる事は解っていた。それはウィリアムが意識を取り戻したことを知ってか知らずか、しばらくすると周りでゴソゴソと何やら動き始める。
 何をしているんだろう、そうぼんやりと考えていると、たき火の音が彼の耳に入った。そこでウィリアムは自分がどんな目に遭ったのかを思い出した。

 ユーベルの墓地の最深部までやってきた事、魔力の粒子をあてにしてゾンビ達を蹴散らした事、好奇心から鉄格子を開けた事、祭壇に一匹のゾンビがいた事。そして、その対峙したゾンビがウィリアムの言葉を理解した事、それを利用して、そのゾンビを倒そうとした事、しかし仕留め損ねて魔法で応戦された事、ゾンビが発動した歪な魔法で雪の中に閉じ込められて意識を失ってしまった事。

 そして自分は、誰かに助けられた。
 雪の中から助け出されて、たき火の傍で寝かせられている。

 その事を理解したウィリアムは安心した。安心すると、突然睡魔に襲われた。
 あぁ、体がまだ怠い。誰かがいるなら、この場を任せてしまっても良いのではないのだろうか——ウィリアムはそのまま眠りにつこうとしていたところで、顔に何かがかかった。
 雪とまではいかないが、突然顔に降りかかった冷たい感覚に驚きウィリアムは飛び起きた。上半身を起こし、自分の顔を拭う。すると、薬草の匂いが鼻腔を掠めた。ウィリアムは呆気にとられつつも、頭は混乱していた。
「え、な、何!? なにこれ!?」
 状況がイマイチ理解できない。
 と、そこでウィリアムは自分の体に古びたローブがかけられている事に気が付いた。それを手にとり、首を傾げる。自分を助けてくれた人が被せてくれたのだろうか? と首を傾げたところで、ウィリアムは思いだした。
 祭壇で対峙したあのゾンビが身にまとっていたそれと、同じものであったと。
(——えっ)
 ウィリアムは目を見開いた。
 同時に妙な胸騒ぎを覚えた。いや、そんなまさか、そんなはずが。
 そう思いつつ、ウィリアムは自分のすぐ横に転がっていた瓶に視線を移す。瓶の中に残っていた緑を見て、ウィリアムはすぐにそれが”回復薬”であると察した。そして視界の中にある明りを追ってたき火に視線を移す。燃えているのは薪ではない、長方形の何か。たき火の傍らに置かれている本が目に入り、おそらくそれであろうと推測された。
 ウィリアムがさらに遠くに視線を向けると、自分のカバンが置いてある事に気づいた。しかし、カバンは開いている。何事かと思いつつさらに視線を遠くにやると、『死の国』を盾にして震えている人影が見えた。
 それが何か理解すると、ウィリアムは固まった。

「あ」

 思わず口から声が漏れた。
 あぁ、もしかしたら、そうなのではないかと思っていたのだ。
 ウィリアムは自分と対峙し——そして、助けてくれた一匹のアンデットに視線を向ける。

 それは、えらく怯えていた。
 ただウィリアムを見つめて、震えているのだ。
 全身を震わせ、腰が抜けているのか立ち上がって逃げる余裕も無い様子だった。

 乾ききったその手に生気などまるで無い。
 目玉の無い顔、二つの深い黒の中に浮かび上がる光。
 他のゾンビと変わりない不気味な風貌。

 しかし、違う。その仕草は、その行動は、まるで他のゾンビとは違う。何なんだ、このゾンビは。指定魔族(モンスター)と出会ったことは無かったが、今まで読んできたどの本にもこんなゾンビは登場しなかった。

 いつしか、ウィリアムの中で、そのゾンビに対する恐怖心は好奇心へと変わっていた。
 そう言えば、このゾンビは自分の言葉を理解していた……その事を思い出し、ウィリアムは意を決して、もう一度それに向かって口を開いた。


「もしかして……助けてくれたのか?」


 そう尋ねると、ブルブルと震えるゾンビは困惑した様に固まった。
 そして、数秒後。
 一度だけ、弱々しくもそれは確かに——頷いた。

 それを見て、ウィリアムは何も言えなくなってしまった。
 そして冷静になっていた。

 つまり、だ。
 自分は突然、彼(ゾンビ)の住処(すみか)に踏み入り、驚いて出てきた彼に攻撃し、敵意は無いと示す彼に騙し討を仕掛けたのだ。それで彼の怒りを買い、反撃され、やられてしまった。そんな自分を彼は助けてくれたのだ。

 ウィリアムは自分の傍らに転がっていた空になった瓶を手にとり、そのゾンビに見せるように差し出した。怯える彼の肩が大きく揺れる。そんな彼に、ウィリアムはあくまで優しく、そしてゆっくりと話しかける。

「これ、飲ませようとしてくれたんだろ? これを飲むと少しずつ体力が戻って元気になるんだ。ありがとう」

 ウィリアムがそう言って笑いかけると、震えるゾンビの表情が——明るくなったような、そんな気がした。
 ゾンビはコクコクと頭を縦に振り、ジッとウィリアムを見つめた。しかし、決してこっちに近づこうとはしなかった。そんなゾンビを見て、ウィリアムは突然罪悪感に襲われた。なぜこちらに近づいてこないのか察したのだ。
 ウィリアムはこめかみに手を当て、考える。そのゾンビが「何をしているんだろう」と様子を窺うように頭を横に傾げたところで、ウィリアムはゾンビの方に体を向け、座り直した。
 そして。

「さっきは本当に、すまなかった」

 ウィリアムは深々と、ゾンビに頭を下げたのだった。

ゾンビが仲間になりたそうに見つめている!▼ ( No.26 )
日時: 2017/01/07 12:57
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)

* * *

 青年が謝罪をした後、彼は自身の事を話してくれた。
 青年の名前は『ウィリアム=ロンリヘック』と言い、各地を旅しているいわゆる”冒険者”というやつらしい。ある行商人(はこびや)の馬車に乗り込み、偶然この墓地(はやり墓地だったか)の近くを通りかかったらしい。そこでゾンビ達に襲われ、行商人を逃がし、自分はゾンビを食い止めるために墓地までやってきたのだと言う。
 俺はたき火を挟み、その話を正座で、そして猛省しながら聞いていた。
 つまり、俺が例のオーブを破裂させゾンビ達を蘇らせたせいで、この青年——ウィリアムはここへやって来る破目(はめ)になったって事か?
 そんな事を考えていると、青年はさらに説明を付け加えた。

「原因はよく分からないけど……この墓地には不思議な光の粒子が漂っていて、少なからずそれの影響でアンデットが蘇ったんだと思う」

 アッー、やっぱり。
 ウィリアムの話を聞いて、俺の予想は確信に変わった。
 やはり俺の所為(せい)じゃないか。
 ちょっとした魔法の実験(?)がとんでもない事態に発展していたらしい。
 人様にも迷惑をかけてしまうとは……。

 俯く俺の姿から落ち込んでいる雰囲気を察したのか、ウィリアムもまた申し訳なさそうな表情で俺の顔を覗き込んできた。
「その、本当にすまなかったよ……俺が騒がしくしてた所為(せい)で蘇ったのかもしれない。ゾンビを蹴散らせるためとは言え、派手に魔法を使ったし……」
 歯切れ悪くウィリアムはそう話した。

 魔法。魔法って言えば”火炎球(ファイアボール)”の事か。
 ぶっちゃけ何十日も前から起きてはいたけど、いや本当ビックリしたよあれは。部屋の外で急に爆発が起こったもん、恐ろしかったよマジで。俺が”火炎球(ファイアボール)”を使ってもあの威力は出せないと思う。もうあんなのは勘弁願いたい。
 俺があからさまに怖がってみせると、青年は慌てて口を開いた。

「だ、大丈夫だから! って言っても説得力は無いと思うけど……アンデットとは言え、助けてくれた恩人にもう攻撃しようとは思わないよ」
 
 必死に弁明するウィリアム。
 そんな彼に”本当かァ〜?”と疑いの眼差しを向ける。

 まぁ、とは言っても。
 本心でそう言っているのだろうなと言うのは何となく俺にも伝わっていた。
 俺がお人好しでそう感じているだけなのかもしれないが……そう、彼の眼つきが代わった気がする。先ほど対峙した時は、一切の油断も無い鋭い目つきだったが、今はどこか穏やかだ。そしてその瞳に好奇心が見え隠れしているのも何となく分かっている。

 俺みたいなゾンビも珍しいのだろうな、と、オーブを破裂させた直後にやってきたゾンビの大群を思い出しながら考える。あいつら理性の欠片も無かったもんな。

 そんな事を考えていると、ウィリアムが咳ばらいをした。
 その後に「それに」と前置きをした上で口を開く。

「それに、たぶんもうあの威力で”火炎球(ファイアボール)”は使えないと思う」

(……ほう?)
 どれはどういう事だ? 一体なぜ?
 そう視線を送ると、俺の考えを察してか彼は頷いた後に詳しく説明してくれた。

 外で爆発を起こした時や俺と対峙していた時の”火炎球(ファイアボール)”はどうやら異常な威力だったらしい。と、言うのも、先ほど話に出た光の粒子、あれが原因らしい。あれが粒子化した魔力である事は察していたが、どうやらあの魔力の粒子が漂う空間で魔法を使うと魔法に粒子が吸収されて威力が上がるか、あるいは消費魔力? とやらを抑える事ができるらしい。 

 で、その光の粒子なのだが、いつの間にかこの部屋からは綺麗さっぱりなくなっていた。おそらくウィリアムが連発した”火炎球(ファイアボール)”や、俺の雪山を作り出した魔法に吸収されてしまったのだろう。
 と言うかそれも俺の所為(せい)だったのか、碌な事してないな俺。

 しかし、ほほう。そうなのか。それは面白い事を聞いたな。
 魔法を成功させる事もできたし、ちょうど色々実験してみたいとは思ってたんだ。
 俺はちょちょっと魔力を操って魔力の塊——手のひらサイズのオーブを作ってみせた。そこでウィリアムがギョッとしていたので、慌てて彼に背を向ける形となったが、俺はそのオーブを宙に飛ばした。そして、適当な間隔を離す。

「何をしてるんだ?」
 恐る恐る、と言った感じでウィリアムは尋ねてきた。
 まぁ実験ってやつですよ、鉄は熱いうちに打っとかないと。
 そんな訳でオーブに向かって”火炎(ファイア)”を放った。
 そして、”火炎(ファイア)”がオーブに到達したその瞬間。

 軽い爆発が起こった。
 吹っ飛ばされる程ではないが、そこそこの衝撃が来た。
 思わず「きたねえ花火だ」という言葉が出かかったが、振り返った先でウィリアムが放心していたので飲み込んだ。
 しかし、これは予想外だ。ここまで威力が高いものだとは。
 魔法の術式に組み込めたら強力な魔法に仕上がりそうだが、今はそれは置いておいて。

(ウ、ウィリアムさん? 生きてらっしゃいます?)
 俺は放心しているウィリアムの顔の前で手を振った。
 すると、彼はようやく我に返ったようで、ゆっくりと俺の顔を見る。
 そして数秒間見つめ合った後。
 
「す、すごいよ君ッ!」

 何やら物凄く興奮した様子で俺の両手を掴んできた。
 おまけに手をブンブン振り回される。
「ゾンビが魔法を使うのも驚きだけど、まるで魔法研究者みたいな事もするんだね! やっぱり君は他のゾンビとは違うよ!」
 そう言う彼の目は物凄く輝いていた。
 面白いおもちゃを見つけた子供のような無邪気な表情である。
 しかし、次の瞬間ウィリアムは何か思いだしたように手を止めると、突然声を震わせた。

「ちょ、ちょっと待てよ……魔法が使えるって事は生前、魔術師か何かだったって事だよな。で、魔法研究ができるほどの知識を持った上位の魔術師となると……まさかっ!」

 ウィリアムはそう言って俺の顔にズイッと顔を近づけてきた。
(え、何?)
 何かまずい事でもやってしまったのだろうか。というか話について行けないのですが……。
 俺が困惑していると、ウィリアムは俺の肩に両手を置いた。
 そして、一つ一つ確かめる様な口調で、ゆっくりと俺に尋ねた。

「貴方は、生前の名前を、覚えていたりしますか?」

 なぜ敬語?
 突然ウィリアムの口調が代わったのが気になるものの……うーん、生前か。
 生前の名前は残念ながら知らないんだよな、俺も知りたいところではある。
 トラックに撥ねられて死んだ不幸な男の名前なら憶えてるけどね。
 そんなわけで首を横に振ると、ウィリアムはあからさまにガッカリしていた。
 一体何を期待していたというのか。

 しかし、ウィリアムはまだ諦めてはいなかったようで、彼はふと辺りを見渡し、傍に落ちていた一冊の本に手を伸ばした。タイトルは『死の国』、俺がウィリアムのカバンから見つけ出した本である。
 彼はその本をパラパラとめくり、あるページを開いて俺に見せてきた。
 そして、ある一つの単語を指差し、尋ねる。
「この名前に聞き覚えは?」
 俺が彼の指先に視線を向けると、そこには”Valensis”という名前が書かれていた。
 ヴァレンシス?
 まったく見覚えも聞き覚えも無いな。
 再度首を横に振ると、彼は「そっかぁ」と呟き肩を落としていた。
 何だか申し訳ない。


 さて、彼は気を取り直すようにふうと息を吐くと、俺が貸していた(?)ローブを丁寧に畳んで手渡してきた。
 俺はそれを受け取りつつ首を傾げると、ウィリアムは言う。
「ここに長居するのも君に迷惑が掛かるし悪いかなと思って。体力も戻ったし、出口を目指そうと思う」
 そう言いながら、彼は荷物をまとめ始める。
(……え?)
 いや待てそれは困る。というか俺もここに居るつもりはないぞ!
 しかし、その意思を伝えようにも方法がない。
 慌てる俺をしり目に、青年は言葉を続ける。
「それに、たぶんそろそろ”アフタニアの騎士団”がここに到着するはず。アンデットといえば聖魔法の使い手がやってくるはずだから、君もまた静かに眠ることができると思うよ」
 どこか穏やかな表情で答えるウィリアム。

 一つ言っていい? 何言ってんだお前マジで。
 静かに眠る、とは。
 つまりあれだよな、永遠の眠りって事だよな? 馬鹿じゃねえの?
 というか”アフタニアの騎士団”って何だ? 
 聞くからにヤバいというか、たぶんあれだよな、この世界の警察みたいな感じの連中だよな? 悪い事したら「スタアァァァァアアアップ!」って言いながら駆け寄ってくるどこぞのゲームの衛兵さんが思い浮かぶ。
 というか、ウィリアムの話からするに、そいつら絶対この墓地にいるゾンビ達を鎮圧するために来る感じだよな?
 じゃあ余裕で俺も討伐対象じゃね?
 ひいいぃ、まだ死にたくねぇ! 体は死んでるけど!
 ウィリアムの言葉に全力で首を横に振ると、彼は「どうしたの?」と、不思議そうに首を傾げていた。
 
 その様子を見て何となく察した。
 そうか、ウィリアムはこの墓地のゾンビ、ひいては俺が不本意に蘇ったと認識している訳か。
 まぁ確かに、他のゾンビは不本意で蘇ったのかもしれない(俺の所為(せい)で)。
 しかし俺は違うぞ! 死にたくないぞ俺はッ!
 俺は必死にそれを伝えようとボディランゲージで示す。
「え、えーと。どうしたの?」
 しかし、ウィリアムにはどうしても伝わらないようで、ウィリアムは首を傾げるばかりである。
 とにかく行かないでくれ、と彼の服を掴むと、彼は困った様に苦笑いを浮かべた。
「まさか、引き留めてる?」
 続けざまに言葉は話せないの? と問われたので、ゾンビ声で「はい」と答えたらビビられてしまった。

 違うんだ、引き留めるつもりはないんだ。
 ええと、マジでどうしよう。ここ一番の「どうしよう」だ。
 俺が困っていると、同じく困っていたウィリアムがポツリと呟く。

「何か伝えようとしてるのは解るんだけどねー……。君が文字でも書ければ手っ取り早いんだけど」

 それを聞いて、俺はウィリアムの全力で指差した。
 それだよ、その手があったよ。天才かよ。

 俺はすぐさま紙と木炭を手にとると、とりあえず『一緒に行きたい』とだけ書いて彼に献上した。
 その文字の書かれた紙を受け取った彼は、また驚いたように目を丸くしていた。

Re: 異世界に転生したのに死んでいた!【1/7更新】 ( No.27 )
日時: 2017/01/13 23:40
名前: アンデット ◆kBtWSUzXOo (ID: RwTi/h2m)

 言葉を理解するゾンビとはいえ、まさか文字まで書くとは思わなかったのだろう。狐につままれたような表情を浮かべるウィリアムの視線は、その目の前で正座をする俺の顔と手元の紙を行き来していた。そして紙を顔の前まで近づけると、彼は頬をかきつつ再び俺の顔を見た。

「俺の読み間違いじゃなければ、自分も外に出たいって感じの事が書いてあるんだけど……」

 俺はそれを聞いて少し安堵する。
 体の記憶を頼りに文字を書いている状態だが、どうやら文字は合っているらしい。
 俺は親指をつきあげてサムズアップしながら、肯定の意を伝えるべく二、三度頷いた。
 そして、そんな俺を見つめながら何度も瞬きをするウィリアム。もう一度だけ俺の顔と紙を交互に見た後、彼は突然息を噴き出すと、声を上げて笑いはじめた。
「あぁもう、君って本当にワケが分からないな!」
 そう言って何の躊躇いもなくウィリアムは俺の手を掴んだ。俺が驚いて固まっていると、ウィリアムはその手をブンブンと縦に振る。
「分かったよ、一緒にここを出ようじゃないか。恩人の頼みを断るわけにもいかないからね! よろしく!」
 やや乱暴であるが、彼の言葉からしてどうやらこれは握手らしい。
 どうやら、今度こそ本当に味方になってくれるようだ。
 俺もウィリアムに握手を返した。
 彼は楽しそうな笑顔を浮かべてウンウンと頷く。
「はー……我ながら中々の一大決心だよ」
 彼はそう呟くと、一つ手を叩いた。同時に彼の表情が変わる。

「さて、そうなればすぐにでも作戦会議だね」

 神妙な面持ちになった彼はふと出口の方に顔を向けた。
 俺もつられて出口の方に顔を向ける。
 彼が黙り込んだことで静まり返る部屋。たき火の音と、相変わらずゾンビの声が聞こえる。
 そして、それに混じり……遠い所で何か別の音がしている事に気づいた。
(何の音だ?)
 俺が首を傾げると、彼は一つ頷いて言った。



「人の声だ。アフタニアの騎士団がもう到着したらしい」



* * *

(一時保存。まじめな小説も書きたい…)


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