ダーク・ファンタジー小説
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- 逆十字の聖魔戦争
- 日時: 2017/04/30 01:07
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
吸血鬼、人間の血を飲む怪物と呼ばれる生き物。耳が尖っており、吸血鬼かどうかはすぐ見分けられるが人間はごくまれに耳が尖っているものを産む。その人間は迫害され、捨てられ、最終的に魔術師になるケースが多い。
魔術師、元人間や吸血鬼など、様々な種族が魔力をもち不死身になった生き物をまとめてそう呼ぶ。元人間、と言うのは魔力をもった際に人間の記憶を忘れる為。吸血鬼はそうならない。他に精霊族や人狼族など色々な種族がいる。
聖戦士、神と人間によってつくられた通常の人間より遥かに強力な術を手に入れた吸血鬼と魔術師を消す為だけに存在する部隊。
ーーーーーーーーーー
初めまして!そーれんかです。去年から妄想してたやつを小説書く練習がてら書こうかなと思ってます。語彙力のない中学生なので至らぬ点が多いだろうとは思いますがアドバイス等宜しくお願いします_(:3」∠)_
追記
宗教に対する批判的なセリフがありますが、決して実在する宗教を批判する意図で作った訳ではありません。そこはご理解頂けると幸いです。グロテスクな所も少なからず登場します。苦手な方はお控え下さいm(*_ _)m
登場人物を移動させました。そして題名もはっきり決まったので変更しましたヾ(:3ヾ∠)_
登場人物
>>66 異端側
>>67 聖戦士側
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.97 )
- 日時: 2017/05/31 03:42
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
「さぁ最終試験よ。聖戦士達から私を守りなさい。私をチキちゃんと思って、ね?」
スオははーいと返事をするがミサはまだジンリンの事を睨んでいる。
「〜〜〜...ごめんねミサちゃん、スオちゃん。私は取り返しのつかない事をした。けど、あんまり昔の事に囚われすぎていると...わかるわね」
ジンリンは悲しげな笑顔で二人に話しかける。
「っ...」
「何度も言うけれど、今の主はチキちゃんでしょう?なら、私情を挟まずチキちゃんを護りなさい。間違っても主を先に死なせるような事をしては駄目。要するに、主より先に逃げては駄目よ」
ミサは無言のまま頷く。スオも笑って返事をした。
「...間違っても"侵された壊れかけ"みたいにはならないでね」
意味深長な言葉を二人に投げかけ、頭を撫でる。二人は言葉の意味をあまり理解しないまま聖戦士のいる場所へと走っていった。
あの吸血鬼、余計な事しちゃって。この戦争に関わらないなんて嘘ついて、そうまでして自身の欲求を満たしたい訳?冗談きついわ...。心臓に杭でも打とうかしら。どうせあの吸血鬼だし、死なないだろうけど。
ジンリンははぁとため息をつき、長い髪を結って二人の後を追う。
ジンリンが踏んだ跡には、小さな芽が芽吹いて。
「お、お、お姉さん聞いてない!私聞いてないよ!!」「私も聞いてないから!聖騎士が二人いるって...!」
聖戦士は数十人しかいないものの、聖騎士が交じるとかなり手強い。ましてや術を完成させたばかりの二人にとっては恐ろしいことこの上ない。
聖騎士はどちらも男。一人はシェン、もう一人は見慣れぬもじゃもじゃ頭の青年だった。シェンは眼鏡を中指でくいっとあげ、決めポーズをする。
「異端よ。私はシェン・ダターチ。貴女たちはまだ子供であるだろう?今降伏し魔術師の元へ連れてってくれるのであれば危害は加えないでおこう」
そして再びくいっと眼鏡を中指であげた。
聖戦士側から黄色い声が飛ぶ。当然の如くもう一人の青年とミサ達は引きつった顔をしていたが。
「あぁー...えっと、僕は錐。大体シェンが言ったんだけど、魔術師の元に案内できるかな?そうしてくれれば君達に殺しもさせないし、危害も加えない」
好青年そうな錐という聖騎士。シェンと眼鏡が同じのようだがどちらが似合っているかどうか聞かれたら迷わずシェンを選ぶだろう。なんというか、無理矢理同じにさせられた感じがスオには否めなかった。
「...残念ですが、貴方達を先へ進ませることは致しません」
ミサがそう言い、続けてスオも
「私達の護る者の為、この戦いには必ず勝たなければいけませんから。逃げる事など以ての外!」
と叫んだ。
シェンと錐は顔を見合わせまるで子供のチャンバラごっこを眺める優しい親のような顔をする。
「はっはっは!かっこいい決め台詞を持っているんだな、だがそれは私達大人には通用しないから!」
「いやシェンも大概だろ...」
そんなツッコミは完全に無視されシェンはまたまた眼鏡を中指でくいっとあげる。
「まぁ、避けて通れない戦いなら仕方のない。少しだけ見せてもらうよ」
"神の瞳"
錐は持っていた白紙の本にボールペンで何かを書いている。
「ふむふむ...炎星夢盾に愚か者への鎮魂歌...と。使いこなせているかどうかは別として結構強い技だね」
錐はにっこり笑い顎先でボールペンをノックし、ペン先をしまう。
「「!!」」
ミサとスオは驚き、汗を一滴床に垂らす。
「僕こんな事しか出来なくてね。ほら、書き留めたよ」
先程の本をシェンに渡し、錐は少し後ろに下がる。
「おや...結構書いてるじゃないか。OK任せな、待ってる間女の子と戯れているといい」
「シェンみたいに女たらしじゃないから僕」
シェンは苦笑いをし、ぺらぺらとページをめくる。
「情報を抜かれたくらいで固まるのも子供らしいな。大人しく言えば...言わなさそうだな」
ミサとスオは震え汗を流しつつも、武器だけはしっかりと握っている。
「ならば子供とて容赦はしない!」
"妬んだ女の毒果実"
「...シェンって童話好きだよな」
錐のツッコミはまた無視される。無視されるのは決まって図星の時である。
女の白い幻が現れ半分だけ毒々しい色の果実を口にする。
白かった幻はどんどん黒く染まっていき、完全に黒く染まった幻はミサ達に襲いかかる。
「スオ!攻撃しないで隠れなさい!」「う、うん!」
逃げては攻撃を盾で防ぎ、そんな事が数回続く。シェンはイライラしてきたのか雑に攻撃をするか聖戦士に任せるようになってきていた。
「はん!攻撃をせず防御ばかりか!子供だな!」
大体防げてはいるが、攻撃をする暇が一瞬も見つからない。
ジンリン(さん)は何をやっているんだ、とミサが思っていると、ヒールの音が扉側から聞こえてくる。
「〜〜〜。はい合格!お疲れ様、二人共」
ジンリンが笑顔で話しかける。
「なんの試験だか知らないが、守ってばかりの子供を合格にするのか?」
相当イライラしているようでシェンは吐き捨てるようにジンリンに話しかける。
「あら?この試験は私を守ることが合格条件なのよ?守れているから合格にする他ないでしょう?」
そう言ってジンリンはウインクをする。
「さて、終わりにしましょうか。そこの聖戦士たちの生命はないと思いなさい!」
"死の花女神"
上から下から、植物の根が聖戦士達を絡めとり突き刺し殴打する。
返り血などで紅く染まる一室は花が散りゆく様を表しているのだろうか、それとも咲き誇る様を表しているのだろうか。どちらの姿としても共通点がある。
それは美しい事だ
「...げほっ」
シェンと錐は大怪我をしても自身が生きていることに少し苛立ちを感じつつも、袖で血を拭ってジンリン達を睨みつける。
「...罪深き異端め...」
「骨すら残らぬ聖戦士達に...神の慈悲がありますように」
そう言って二人は消えていく。
ジンリンはため息をつき、床に座り込む。
「いい加減理解すればいいのになー。聖騎士一人や二人じゃ私達には適わないってこと。無駄死にさせといて神の慈悲なんてむしが良すぎるわよ」
もっともだった。ミサとスオなら倒せると思ったのだろうか、それとも人員が少ないのか。
「〜〜〜。なるべくこの屋敷では戦いたくないのよねー。お茶会の時間はズレるし、この部屋直すの大変だし。ってことでミサちゃんスオちゃん!お片付けしましょー!」
「ええっ!?ちょっと...!」
無理矢理腕を引かれ、強制的に片付けにさんかさせられたのだった。
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.98 )
- 日時: 2017/06/01 03:29
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
ちょっと待ってよ、一体いつになったらこの戦争は終わるわけ?そもそも終わりなんてあるの?異端か人類のどちらか滅べば終わり...なんて無茶苦茶な話だわ。力は魔術師が上だとしても、聖戦士は増えるばかりで減りやしない。人間や他の種族が魔力に覚醒しても他の部隊がすぐに殺しちゃう。
...根本的な話をすれば今の私達に人間に対する敵対意思はほぼないのに、聖戦士達が襲ってくるんだもの。殺されるわけにもいかないから抗ってるだけなんだけどなぁ。
普通に生活が出来ればそれで良かったのに。
あーあ、滅茶苦茶だわ。
全部捨てる事ができたら楽になるのかしらね?
「ジンリンさん?どうしたのボーッとして」
スオに肩を叩かれはっとする。その拍子に高く積み上げていた本がバランスを崩しドサドサと音を立て落ちていく。
「.....。あぁ...うん...大丈夫よ...」
心底面倒くさそうな表情をし、本を拾い上げる。スオは謝りミサは拾う手伝いをする。
ジンリンはその様子を見ながら、目線を合わせるようにしてしゃがみこむ。
「〜〜。ねぇ二人共。変な事聞くけど...いいかな」
二人は顔を見合わせ、こくりと頷く。
「...二人は名前に意味があるって思ってる?」
「え...名前に?」
ミサがポカーンとしているとスオは頭を掻き、笑いながら口を開く。
「私は考えた事なかったなー、ただ与えられたその言葉は私のものって感じだった」
「へぇ。ミサちゃんは?」
「私は...」
ミサはそのまま口篭る。
「〜〜〜。あっ、ごめんね?わかんないなら無理に言わなくていいのよ?ちょっと気になっただけだから」
「そー言うジンリンさんはなんだと思ってるんですかー?」
スオはニヤニヤと笑いながら問いかける。
「そうねぇ...私は...名前って個体識別番号としか思ってないわよ」
そう言うジンリンの表情は少し悲しげで、遠い昔を見つめているような感じだった。
「私の名前も旅していた所での国の言葉で精霊という意味なの。そう言えばその国は今どうなってるのかしら?気になるわぁー」
ジンリンは近くに転がっていた水晶を手に取り覗き込む。ミサとスオも近づき覗き込んだ。
「...?」
"ーーー?"
"ーー!!!"
".....!!"
ミサとスオには何を話しているのかは分からなかったが、精霊が何かをされているのがぼんやりと見える。ジンリンはわなわなと身体を震わせる。
「こうしちゃいられない、二人共!幻影に全て任せるから片付けて帰ってていいわよ!」
瞬時に寝巻きのようによれよれの服から正装らしきものに着替え魔扉の中に入っていく。
二人は何が何だか分からないまま散らかった部屋を片付けようと本を手に取った。
ーーーーーー
本当に最悪!どうしてあの国にまでアレがいるわけ!?しかも精霊族の住む森の近くに!!訳わがわからないわ!!
...でも、一番訳がわからないのは私が足を運んでいるって所かしら?
"精霊族よ!いい加減この森から出てゆけ!ここは我々人狼族が住まう森だ!"
"嫌よ!貴方達人狼族はすぐ転々と場所を変えるくせに元々貴方達が住んでいた所は精霊族にとって住みにくい環境になっているじゃない!"
人狼族。ルアイリも人狼族だったが、例外中の例外だと言っていい。元々人狼族は転々と居場所を変え、今のように他種族に対して傲慢な態度をとる。だが同じ種族に対しては皆平等に愛し続ける。死が訪れるならば皆で悲しみ、生が訪れるならば皆で喜ぶ。自種族愛が強い種族だ。
その愛ゆえ、他種族を簡単に殺してしまうのだが。
"あんたが人狼の長老ね、はん!あんた達みたいなゴロツキにこの森は渡さないわよ!"
"ずいぶん気が強い長老だなぁ?力はこっちが上だ、なめてかかると痛い目見るぞ!"
二つの種族はいがみ合う。ジンリンはその様子をドキドキしながら見ていた。どちらの血も流させない、そう思いながら。
"いい加減にして頂戴!あんた達にあげる森なんて少しもないわ!"
"はん...宜しい。その口黙らせてやるわ!"
人狼族の長老が尖った爪でひっかこうとした時、二つの種族の間に風が巻き起こる。
"か...風?"
「はいはい静かに。昔ここを旅した旅者Aですよーっと。今日は用があってここにきました...でいいかしら?」
ジンリンはふわっと飛び降り、二つの種族の間に割って入る。
"なっ...精霊族じゃないか!お前も精霊の味方をするのか!?"
「いいえ?私は精霊族だけど貴方達人狼族のいい所知ってるわよ。最近まで一緒にいた人狼族がいるもの」
"な、なんですってー!?精霊族なのに...人狼族と...!?"
今度は二つの種族が一斉にジンリンの方を睨む。
"急に話に入ってきたかと思えばどういう事だ貴様は!"
「まぁまぁ...精霊族がそんなに住まう事を拒む事も、人狼族が転々とする理由知っている。だからいい方法を教えに来たのよ!」
そう言ってジンリンは胸をどんと叩く。二つの種族は白けた目で見ていたが。
"ふーん...ならなにかして見なさいよ"
「いいわよー?」
にこにこと笑いながら術を唱える。
"精狼の苑"
ピカッと光っただけで見ただけでは何も変わらない。
"何が変わったの?"
「次元を増やしたのよ。人狼さん、入ってみてよ」
人狼は少し不安気にしながらも森の入口に足を入れる。その瞬間に人狼の姿は消え、どこにもいなくなる。
「戻ってきていいわよー!」
そう言うと再び人狼は森の外に姿を現す。
"な.....何よこれ!?凄いじゃない!どうやるの?"
精霊は先程とは打って変わってキラキラした目でジンリンの方を見つめる。
「私達が存在している次元を薄く増やしただけよ。術が通る範囲でしかこうならないし、人狼族が出ていく時には自動的に解除されるの」
"う...ううむ、よくわからんがこれで安心して住む事が出来る。礼を言わせてくれ"
そう言って人狼はジンリンの手の甲に口付けをする。
「あら、礼なんていいわよ。少なくとも貴方達は仲良くしてくれるならね?」
".....しょうがないわね、特別よ!人狼!"
"はん、珍しい事だ"
そう言って二つの種族は手をしっかり握る。
改めて礼を言おうとするが、そこにジンリンの姿は無かった。
あぁ恥ずかしかった。私は何やってるんだろう、寄り道...かな。まぁいいわ、恩返し...ってことにしときましょう。
ジンリンは屋敷へ戻ろうと魔扉を開く。すぅと息を吸い、扉に足を踏み入れた。
ーーーーーー
ジンリンはリアルな話中国語で精霊という意味です。中国要素ほぼありませんがジンリンちゃんは中国出身という設定が前ありまして...その名残です(:3_ヽ)_
もうすぐ100レスですね、クソ長いですが完結まで走れるよう頑張ります( ´^o^` )
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.99 )
- 日時: 2017/06/02 04:10
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
俺は昔無実の罪の人間の首をはねた
俺は昔疎まれ嫌われ殺された
俺は昔神にすら死ぬ事を拒まれた
俺は今死ぬ為に異端を殺す
色々おかしいが、この部隊はそんな変人ばかりだ。処刑人、スラム出身、医者、人形師、博士、聖戦士、画家...
絶対に会うことのなかった本当の名前も知らぬ者達が今こうして戦っている、話している。
生まれも育ちも違えど、目的は同じ。
復讐を終えて死ぬ事。
「いたいた。ハハハ、大丈夫?」
四頁は隠れていた少女に手を差し伸べる。
「私は大丈夫だけど...しーちゃん...怪我大丈夫?」
そう言って少女は包帯を見る。
「んー?大丈夫大丈夫。何とかなるさ」
四頁はケラケラと笑い少女をおんぶする。腹部に力が入ったことで苦痛に顔を歪めるがそれを少女に見られないように顔を下に向ける。
「しーちゃん」
「なーに」
「しーちゃんって何歳?」
「ブッ...な...何歳って...」
四頁の顔が引き攣る。痛みで引き攣ったわけではなく、何故今年齢を聞かれたかという驚きで思考回路が一瞬停止してしまったからだった。
「二十歳?三十歳?」
「.....ハハハ...二十二歳で...」
「.....もっと上かなって思ってたけど、結構若いんだね」
少女は褒めたつもりだろうが四頁にはただただ心に突き刺さる言葉の刃でしかなかった。
「あぅ...男だからってそんなビシバシ言うもんじゃないんだよ...」
四頁はため息をつく。
ずっと下を向いていたが、障害物がないかと少し顔を上げる。
「あ、前!」
と少女が言うも時すでに遅し、目の前の人物にぶつかり四頁は打った鼻を押さえる。
「いだだ...ん...?い、一頁!?いつからいたの!?」
そのぶつかった人物は一頁で、腕を組みじーっと二人の方を見ている。
「さっきからずっといたが?お前がいつ気がつくかと思っていたが、ぶつかってようやく気がつくとは...俺より目が悪いんじゃないのか」
一頁ははぁとため息をつく。それに対して四頁はムッとした表情で反論する。
「一頁より目が悪いわけないでしょ、僕両目2.0なんだけど?ったく...目を司ってる癖に右目はほぼ見えないじゃん」
「左目は1.5だ。で、そこの女の子は何なんだ?」
一頁は少女の方を見る。少女はサッと四頁の方に隠れ、舌を突き出す。
「変な人!しーちゃんの知り合いなの?」
「へっ...変!?」
四頁は腹を抱えて笑い出す。
「ひーっ、いだっ...ぎゃはははは!!いたたはははははは!!!」
痛い痛いと言いながらも大笑いをする。地面を叩き、一頁はフードで隠れた顔を引き攣らせる。
「フードで顔隠しててマスクしてる人は変な人ってみんな言ってるんだよ!」
「ひー...ひー...いてて...」
「お前は笑うな!ったく...あんまりフードは外したくないんだが...」
一頁は四頁の頭を軽く蹴った後、フードを外す。緑色の瞳で、ほぼ見えない右目には十字架のような模様が中心部に印されている。
「おお、一頁の素顔久しぶりに見たや。写真撮っとくかな?」
「撮るな...ん?」
少女はポカーンとした表情で一頁を見ている。
「なんだ、まだ変な人に見えるのか?」
「...しーちゃんより若いの?思ってたより...若く見えるな」
笑っていた四頁は身体を固まらせる。一頁は無言で自身の顔に手をあてる。
「.....いや...一頁は少し顔が子供っぽいけどさ...世の中は難しいね...若く見られたい人がいれば年上に見られたい人もいるんだから...」
「.....四頁、お前後で覚えてろよ」
表情は手で隠されて見えなかったが、決していい表情でないことは確かだった。
「...そろそろ戻るぞ、三頁の平手打ちくらいたくなきゃ一刻も早く戻った方がいい」
一頁は無理矢理話を戻す。
「ハハハ、三頁も痛いけど僕は六頁が一番痛いと思ってるんだよ」
「.....お前あいつに何した?」
一頁は大体の事は察しているような口ぶりで四頁に問いかける。
「七頁を転ばせようと張った糸に六頁が引っかかって骨にヒビが入ったんだよ、そしたら骨の方で殴られたんだ」
やっぱりか、という様子でため息をつく。
「...程々にな」
「自分なりの程々でね」
四頁は少女の手を引きながら一頁の後について行く。
「しーちゃん...怪我大丈夫?」
少女は心配そうに四頁に話しかける。
「ハハハ。大丈夫だって、心配性だなぁ」
四頁は笑っているが一頁は苛立った声で振り返らずに話す。
「自分の糸ですら切れるような精神力で大丈夫とでも?」
「うげ...よく見てるなぁ。そーだよ痛いよ、けど治し方がわかんない以上泣き叫んだってどうしようもないじゃん」
四頁は少しずつ笑顔から怒りの表情に変わっていく。怒りだけでなく、痛みも混じっての表情だろう。
「お前は助けを求めるのが遅すぎるんだよ!なんでもしょうがないで済ますな!」
「じゃあどうしろと!?僕は昔からこうなんだ、それがそんなに気に食わないなら見殺しにするなり何なりすればいいじゃないか!わざわざ一人で追っかけてくるなよ!」
四頁がそう言うと、一頁は振り向いて目を見開き腕を振り上げる。
パァン
その音が人気のない道に響き渡る。四頁は驚いた表情で赤くなった頬に触れる。
「悪いが、全員の目的が果たされるまで誰一人として欠けさせる事はしない。人間の身体ははどれか一つが欠ければ完全でなくなるようにな」
そう言ってフードを再び被り、先に歩いていく。だがその歩くスピードばゆっくりだった。
「...ハ...ハハ...一頁のが一番痛いや...」
おたおたしている少女の手を引き、一頁の隣に並んだ。
「にしても結構恥ずかしい事言われた気がするけど大丈夫?」
「黙れ」
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.100 )
- 日時: 2017/06/05 04:07
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
無言で三人は隠れ家に向かって歩き続ける。地面と靴が擦れる音だけが辺りに響く。
...僕は昔からこんな静かな空気は苦手だ。何を話していいのかわからないし、何より気が重くなる。
「...改めて聞こう。お前の願いは?」
そんな空気をぶち破るかのように一頁は唐突に質問を投げかける。
「何さ唐突に。共通の願い以外って事?」
こくりと頷く。分厚く大きなフードなもので、動いているのか動いていないのかよくわからないが。
「ハハハ。そうだねぇ、今の願いはこの子を母親の元に帰すこと...かな?」
そう言うと一頁らフード越しからでもわかるくらいに呆けた表情になる。
「.....お前の口からそんな言葉が出るなんて思ってもみなかった」
「失礼な!僕これでも修道士の枠に入るんだからね!?」
むっと口を尖らせた後に舌を突き出す。やってる事は子供そのものだが高身長な為、違和感しか生まれない。
「お前...そろそろ自重した方がいいぞ?身長一番高いんだから」
「アハハ、何言ってんのさ。僕と一頁3cmしか変わんないじゃん」
ケタケタと笑い自身の背と一頁の背を改めて見比べる。
「身長の場合は3cm″も″だ馬鹿!...っとそんな事言っている間に着いたな」
一頁はポケットから鍵を出し、扉を開ける。
「七頁ッ!!」
開けた途端いきなり五頁がそう叫び、ドタドタと玄関の方に走ってくる七頁を見て三人は一瞬呆然とする。
「ちょっと!一頁でも四頁でもいいから七頁とめてくださいですのー!!」
その声でハッとし、そのまま向かってくる七頁を塞ぐように並ぶ。
そのまま前を見ていなかった七頁はぶつかり、鼻の辺りを押さえる。四頁もその場にうずくまりぷるぷると震えている。
「いだだだだだ!!傷に当たったって!!」
七頁は顔を下にして震えているだけで、何も喋ろうとしない。
「...七頁?」
一頁がぐいっと顔を上げると、七頁はボロボロと泣いていた。
「...鼻強く打ったのか?」
ぶんぶんと頭を振る。
「ぢゅうじゃ...ごわぃ...」
数秒の間。そして二人は口を揃えて
「「は?」」
と言った。
ーーーーー
「.....で、注射が怖いから逃げようと?」
一頁は呆れ顔で冷凍庫から氷を取り出す。
「...だって痛いし怖くないか!?針が肉に刺さる瞬間とか!薬が入ってる時ですら痛いだろアレ!!」
必死な顔で訴えるも皆白けた顔で七頁を見る。
「あー...いや...医者やってて注射針怖がる子供はいたが大人はな...」
と引き攣った笑顔で四頁の包帯を取り替える三頁。
「いやぁ...人にはどうしても克服不可能なのってあるじゃん?だから三頁、笑っ...フフ...ちゃダメ...ハハハッ...だよ」
「なら最後まで堪えろよ!!」
再び涙目になる。その様子を見て五頁はフッと鼻で笑う。
「七頁ったら子供ですのね...所でさっきから四頁の足に座ってる女の子は誰ですの?まさか...そういう趣味があるんですの!?」
「いやないからね!?...でもそういや名前聞いてなかったなぁ。名前は?」
少女はようやく聞いてくれたかと言わんばかりにぬいぐるみをきつく抱きしめふんと強く鼻息を出す。
「私はリーベ!みんなから愛されますようにって願いでつけたっていつもお母さんが言ってたの!」
「...いいお母さんをもったんですね」
いつもは無表情の六頁が微笑む。微笑むと言っても口角が少し上に上がった程度だが。
「んまぁ親が見つかり次第帰すかな。それで...話を戻すけどその注射打たないと治らないんだよね?って言うか治る方法そんなに早く見つかったの?」
無意識の内に四頁は二頁が食べている菓子に手を伸ばす。その手はバシンと弾かれケチ、と四頁は舌を突き出す。
「正確には治るかもしれない方法、ですの。物は試し、やって見なくちゃわからないですの!」
その発言に四頁と七頁の二人は幾分かの不安を覚えた。
「...僕達の事モルモットか何かと勘違いしないでよ?」
「安心するといいですの。毒薬盛られても死なないくらいですの、きっと大丈夫ですのよ!」
...不安しかなくなった。そう二人は確信した。
「と言うか三頁、お前医者だったんだろ?わかんないのか?」
三頁は包帯などの治療物資が入ったバッグをしまった後、小さく息をつく。
「俺は既知の病や怪我を既知の治療法で治すしかできないんだ、残念ながらな。内臓とかに異常があるなら開けずに診てやるよ」
嫌な笑みを浮かべ、ポンポンといつもくっついているハートマークのものを叩く。
「...いつも思っていたがそれ何なんだ?食えるのか?」
ボリボリとスナック菓子を食べながら三頁のハートをじっと見る。
「これは俺の心臓だ!俺の生命活動停止させる気か!!」
「.....心臓なのか...チョコかと...」
少しだけ残念そうな顔をする。
「お前達今迄これをなんだと思ったんだよ!それにどの世界に脈打ってるチョコがあるんだ!」
息を荒くし思い切りつっこむ。
四頁がいきなり手をパチパチと叩きはじめる。
「あっはっはっは!三頁もツッコミ冴えてるよね、いつも静かにしてないでツッコミに専念したら?」
「お前達に一々つっこんでたら身が持たないから断る」
即答だった。ぶぅ、と四頁は頬をふくらませ、ソファに座る。
「...はーあ。別になんともないんだよなぁ、痛みも普通の刺し傷と変わんないし。おかしい所あげるとすれば傷の治りが異常に遅くて出てくる液体の色が紫色だったり黒色だったり...って事かな?あ、糸切れた」
あやとりをしようとするもすぐ切れる、プチプチプチプチと。いつもなら身体の切断くらいお手の物だが、今は少し引っ張るだけでも切れてしまう。
「それは何ともないと言えないんじゃ...?でも傷の治りが異常に遅い事は同じだな、これくらいの傷すぐに治るはずだが...うぅ、ムズムズする...」
「変えるか?取っていいぞ」
そう言われ、七頁は首元の包帯を巻きとっていく。
「...!」
皆は目を丸くした。
無理もない、傷の辺りが黒く変色していれば。
その変色も、ゆっくりと広くなっていく。
全身が変色すればきっとただじゃ済まない。
三頁は注射を手に取った。
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.101 )
- 日時: 2017/06/06 04:30
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
.....僕は記憶力がいい事くらいしか取得がなくて、身体はとても弱くていつも身体を壊していた。家族は僕の身体が良くなりますようにって毎日と言っていい程教会に行った。何か一つでも得意なものができればいい、そんな風に。
教会によく出入りしていたら、当然の如くそこにいる修道士達に顔を覚えられ、僕も覚えた。修道士達は僕達に優しくしてくれた。胸にかけられている十字架がとても綺麗で、思わず手を伸ばしてしまうほどだった。そしたらその修道士は言ったんだ。
″この十字架が俺を拒む事になったらやる″
って。まだ幼かった僕にはよく分からなかったけど、それから間もないうちに僕の家にはその十字架が届いた。
...僕は今でもその十字架を身につけている。その修道士は死んだのか、はたまたただの人間に戻ったのか。どちらかは分からないけど、僕はいつか会えると信じてこの十字架を身につけ続ける。
...身近にいる気がするんだ。
PM 14:00
現在地 教会 F7
「うぅ...だ、大丈夫ですか...?ご、ごめんなさい、何も出来なくて...」
聖人はおどおどと再興天使に着いていく。天使は優しい笑みで聖人の頭を撫で、口を開く。
「聖人様はあの三姉妹の足止めをしてくれました、それだけでも十分ですよ。...よく良く考えれば手荒な手段だと思っています。私は少し感情的になりすぎましたね」
「で、でも、あんな事言われたら...その...僕でも...」
と言いかけて口ごもる。聖人自身なら怒る前に泣いてしまうから、という事が恥ずかしくその先は言えなかった。
「...長女のソフィア様と次女のロフ様、根はいい人なんですよ。三女のレシリィ様は思った事を包み隠さず言う点ではいい人なのかも知れませんが...隠しておいた方が良い事も言ってしまいますしね」
そう言って天使は苦笑する。
「え、いい人...?ご、ごごごごめんなさい!一部を見ただけで嫌な天使だって決めつけちゃって...!!ど、土下座します!すみません!!」
と、ツルツルに磨かれている床に土下座した...と思えばぴょんと跳ね、ボロボロ泣きだす。
「ううぅぅぅ...こ、この綺麗な床に土下座するなんて言ってごめんなさいぃぃ...歩いててごめんなさいぃ...」
「...聖人様、落ち着きましょう。そんなにネガティブになられると皆が困ります、ほら!ポジティブにいきましょう!」
天使が元気づけようと聖人の肩をぽんぽんと叩く。ネガティブ発言は収まったが、まだボロボロと泣いている。
「フフッ...聖人の泣き虫ぃ」
天使におぶられ眠っていたネメシスが目を覚まし、ひょっこりと顔を覗かせる。あくどい顔が聖人にだけ見え、聖人は目を覚ました嬉しさと泣き虫と言われた悲しさで変な声を出す。
「何よその声、わた...我がなにかするんじゃないかって思ってんじゃないんでしょうね!我はやっさしーからそんな事はしないよー?」
ネメシスはふふんと鼻を鳴らすが、怪我をしたところが痛むのかきゃんと小さな悲鳴をあげる。
「ちょっとネメシス様!まだ怪我は完治してないのだからじっとしておいて下さい!」
「ひぃん...いたぁい...」
「もう...ヒューイ様達が帰ってくるまで、大人しくしていてくださいね!」
ネメシスをベッドに寝かせ、二人も椅子に座る。ようやく泣き止んだ聖人は手帳とペンを取り出し食べた記憶を書き始める。
「.....ねぇ、再興天使」
さっきのあくどい顔はどこへやら、しんみりした表情で天使の服の裾を引っ張る。
「あのさ...神様って本当にいるのかな…って思って...こんな事思っちゃいけないのは分かってる...けど目の前で瞬きする間に死んでいく聖戦士達を見てると...なんで助けてくれないのっていつも思うんだ」
今にも泣きそうな表情になりぐっと下唇を噛む。
天使もつられて下唇を噛む。目線をネメシスの方からおもむろに逸らし、再び振り向いた時には少しキツめの表情になっていた。
「...ネメシス様、何故同じ修道士などの聖側でも教会に属さず部隊として存在しているのか...分かってますよね?」
「...。分かってるさ。部隊は教会のはぐれ者が集まって出来たもの...昔は幾つかあったけれど壊滅したり併合したりで今はこの部隊と人身の部隊だけしかないんでしょう…?」
天使は頷き近くにあったコップに水を汲む。
「そもそも教会は聖戦士達を駒としか思っていません。数で勝てるわけもない相手に何度も数で挑んでる。そりゃあ損失しかおきませんよ。聖騎士の上は紙で指示を出すだけで顔すら見せない...」
ぐいっと水を飲み干し、ガンとテーブルにコップを叩きつける。いつもは見られない光景に、ネメシスと聖人は息をのむ。
「ッ...だから抜けたんですよ!こんな腐った教会なんざに属するメリットなんざ一つもないわ!神頼みする前に自分達の編成を考えろよ!!そんな人間の勝手で神様が動いてくれるわけないでしょうが!」
一気に言い、息を切らす。二人は呆然と天使の方を見る。あんな天使は初めて見た。
「...すみません、取り乱しすぎましたね...ネメシス様、神は助けようとしないんじゃなくて助けられないんですよ...あまりに無謀な事をするから、助ける余裕もない」
はぁと息をつき、椅子に腰掛ける。
「...そう...か。ごめん...変な事聞いて...」
ネメシスは複雑な表情で窓の方に視線を向ける。ちょうど真上にある太陽が眩しく光っている。
「......あんまり見てると、目がやられますよ」
「...ねぇ、聖戦士達って楽に死ねるのかな。聖人は...どう思う?」
少し鼻声で聞かれ、聖人はペンを動かす手を止める。
「...僕達には知る由もないです。でも、ネメシスさんがその聖戦士達の分まで生きる事...せめて楽に逝けた事を祈るなんて事は出来るんじゃないんでしょうか...?」
ネメシスは赤くなった目を丸くし、ボロボロと涙を流す。
「聖人のくせに...いい事言うじゃん...後を追うんじゃなくて、その分まで生きるんだね...」
天使も微笑み、席を立つ。
「二人共、ジュースを入れるので待っててください。ネメシス様、シーツで鼻はかまないで、お願いしますから」
冷蔵庫からジュースを取り出し、乾燥したコップに注ぐ。
...注意も虚しくシーツで鼻をかんだネメシスを見て、天使は顔から笑顔を消し去った。
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