ダーク・ファンタジー小説
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- 黒いリコリスの教団
- 日時: 2019/07/01 15:43
- 名前: シリアス (ID: CQQxIRdY)
初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。
オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!
登場人物
【リコリス教団】
ルシール・アルスレン
本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。
ミシェル・ヴォーン
教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。
ロベール・ド・カルツ
ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。
ルナリトナ
リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。
ソフィ・ツヴァイフェル
リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。
リク・フォーマルハウト
リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。
ジャスティン・リーベ
リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。
クロム・リート
リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。
カティーア・ヴァイン=トレート
リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。
ディーノ・アインス
リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。
リベア・グロリアス
リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。
レナ=ルナリア
リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。
テオドール・ヴェル・ドンゴラン
リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。
【セラフィムの騎士団】
ナザエル・ド・ラシャンス
セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。
クリスティア・ピサン
セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。
キルエル
イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。
ナデージュダ・ペトラウシュ
イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。
用語集
リコリス教団
セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。
セラフィムの騎士団
レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。
レフレール
フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。
ル・メヴェル教
レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。
……オリキャラ提供して頂いたお客様……
そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様
【お知らせ】
2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!
読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.46 )
- 日時: 2019/03/23 09:06
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
「はあはあ・・・・・・」 「はあはあ・・・・・・」
互いを手こずらせた両者は早い呼吸を繰り返した。弱みも隙も見せず睨み合っていた。
「はあ、まさか・・・・・・たかがガキに黒魔術を使う羽目に・・・・・・はあ・・・・・・なるとはな・・・・・・」
ナデージュダは好敵手と出会えたような言い方で感心の面持ちを顔に出した。刻印のある手を地面に降ろし軽く愉快に笑った。
「私、こう見えても強いんだよ・・・・・・?子供だってやればできるんだ・・・・・・」
ルシールも壮絶な殺し合いを楽しんでいる口調だった。優しく微笑み返し苦しく咳を吐き出した。
「ちょっとは見直した・・・・・・しかし、その幼い身体、最早体力は限界だろう?この一騎打ち、私の勝ちだ・・・・・・惜しかったな?」
ナデージュダはそう言ったがルシールは素直に頷く事はなかった。逆にその発言を自信ありげに否定する。
「残念だけどあなたの負けだよ・・・・・・もう勝負は着いてる・・・・・・」
「・・・・・・何!?」
ナデージュダは表情を少し歪ませた。何を言っているのか?理解するのに数秒の時間を費やした。言葉の意味を察しとっさに後ろを振り返った・・・・・・が手遅れだった。ミシェルは既に呪文を唱え終えており禍々しく輝く妖星と化した魔の球体を放った。球体は弾け棘の波がナデージュダに押し寄せる。それは彼女を取り囲み瞬く間に全身を縛り上げた。鋭くて硬く太い棘が皮膚に食い込み身体を圧迫する。
「ぎゃあああああ!!」
ナデージュダが悲鳴を上げる。もがけばもがくほど棘は強く閉まり苦痛が増す。
「L'execution de la sorciere(魔女の処刑台)・・・・・・一族に伝わる古の魔法・・・・・・断罪の鎖に巻きつかれた者は決して逃げられない・・・・・・」
弱った力を振り絞りミシェルは声を鋭くして言った。彼女は魔力を使い果たし僅かな気力を失った。役目を成し遂げうつ伏せに倒れる。
「・・・・・・このガキは・・・・・・私に魔法を喰らわすための時間稼ぎだったというのか・・・・・・!」
自由を奪われた身体で抗ってもびくともしない。子供相手にまんまと踊らされ罠にはまったナデージュダは最早、手も足も出なかった。不覚を取ってしまい敗北した事実に悔しさと屈辱を抱かずにはいられなかった。
「そういう事、戦いは剣で斬り合うだけじゃない。いかに頭を使い相手を陥れるか・・・・・・だよ?」
ルシールがそう言って歩み寄って来た。拘束されたナデージュダの前で立ち止まりガントレットからブレードを剥き出しにする。
「この私をここまで追い詰めるとは・・・・・・お前は一体・・・・・・!?」
「私?・・・・・・私はこの国を守護する教団の長、ルシール・アルスレン・・・・・・あの世へ行っても忘れないでね?」
ルシールは容赦ない止めの一撃を相手の腹部へお見舞いした。ブレードは止まる事なく体内の奥深くまで肉を裂いて突き進む。
「がああああっ・・・・・・あっ・・・・・・あ・・・・・・」
ナデージュダはこの世のものとは思えない悲痛の声を上げた。地獄で悶えるような唸り、一種の雑音のように聞こえる。意識が遠のき視界が黒く染まっていく。瞳孔をぐるりと上にやりやがて険しい顔が垂れて動かなくなった。
「あれ?死なずに気絶しちゃったか・・・・・・これでも生きてるなんて」
ルシールは少し驚きながらもブレードを引き抜く。同時に魔法が解け失神したナデージュダは地面に叩きつけられた。
「護衛の始末は終わった・・・・・・後は・・・・・・」
ルシールは落ちていた聖剣を拾い睨んだ顔を振り向かせる。高くそびえるマリアの像の前に今までの戦いの一部始終を見届けた標的がいた。
「今度こそお前の番だアルベルナ。覚悟しろ」
遠い位置から剣先を向けられアルベルナはくすっと笑った。
「まさかナデージュダを倒すとは・・・・・・私は少しあなた達を見くびっていたのかも知れませんね。しかし、ボロボロのあなた1人で私を倒せますか?天使は慈悲深い種族ですが戦いに手加減はしませんよ?まあ、あなた達はどの道ここで天に召される運命ですが」
アルベルナも大人の身長程長い刀身を軽々と中段に構えた。瞳に浮かんだ優しさを非情に変えルシールを睨む。大天使の翼を大きく羽ばたかせ威圧を与える。
(ナデージュダよりも遥かに凄まじい闘気だ・・・・・・どこにも攻め入る隙がない・・・・・・それに私も長く持ちそうにない・・・・・・せめて・・・・・・)
ルシールが死を覚悟した時
「ルシール!」
彼女の後ろで誰かが叫んだ。振り向くとディーノが駆けつけて来た。彼だけじゃない。ソフィやリク、リベアやレナ、クロムも一緒だった。教団のメンバー全員が無事に外の敵を片付けルシール達奇襲部隊に合流したのだ。
「ディーノ・・・・・・!ソフィ、リベアも無事だったんだね・・・・・・!?」
「ああ、こっちの戦いは退屈過ぎてつまらなかった。奇襲部隊として君達と一緒に行った方が楽しめただろうね」
リベアが余裕の笑みを零しながら言った。
「ルシール、生き残ったのはお前だけか?一緒にいた者達はどうした?それにそのダークエルフは誰なんだ?」
ソフィは気を失っているミシェルを抱き上げいくつも質問を浴びせる。
「そいつはアルベルナの護衛をしていたナデージュダという暗殺者、そいつに苦戦して皆、怪我をしてし
まったの。でも、全員生きてるよ」
「最悪な事態だけど奇跡と解釈した方がよさそうだね。流石ルシール、仲間を1人も死なせずに済んだ」
リクが優秀なリーダーシップに感心しルシールの頭を撫でる。
「姉さん達をこんな目に遭わせて・・・・・・殺さない代わりに存分にいたぶってやる!」
「俺のこの魔剣で切り刻んでこの教会を血で染め上げてやるよ」
「私達もいささか腹が立った。暴力は嫌いだけど少し理性を捨てちゃおうか」
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.47 )
- 日時: 2019/04/27 09:38
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
ディーノ、クロム、リベア、レナが怒りを露にし先鋒に立って武器を構える。
「奇襲部隊の働き、大義だった。今までの戦いでかなり疲れた事だろう。嬢ちゃん、後は俺達に任せて後ろに下がっているんだ」
剣を収めずルシールは頷かなかった。頭を横に振り彼らの間に並んだ。
「私も最後まで皆と一緒に戦いたい!どうしてもあいつに勝ちたい!」
「そうか、嬢ちゃんの熱意はどこまでも篤いな。じゃあ、1つだけ約束してくれ。絶対に無理はしないと」
「うん。分かった」
教団のメンバー全員がずらりと横に並んだ。包囲網の形式で標的の前を塞ぎ逃げ場をなくす。そして、相手の出方を窺いながらじりじりと距離を縮め標的に迫る。徐々に追い詰められていくにも関わらずアルベルナは一歩も下がらなかった。逆に不利な状況を楽しんでいるのか
「どんなに束になってこようが私の前では脆い羊皮紙と同じ、無様な返り討ちを演じさせてあげましょう」
彼女の持つ聖剣に白い羽のオーラが渦巻くように立ち込め魔力がこもる。短かった鍔は十字架の形状へと変異を遂げる。ただせさえ長かった刀身は更に長く伸び輝きを増す。それを一度大きく振り回し再び正面に構えた。
「天使とは思えない戦意の気迫がここまで伝わって来る・・・・・・無傷での捕縛は多分無理だな・・・・・・」
ディーノは苦い顔でカードから雷獣を手前に召喚する。ソフィもリクも武器を強く握りしめ決して標的から視線を逸らさなかった。余計な考えは捨てこれから起こるであろう死闘に集中する。アルベルナは瞬時に武器構えを切り替え槍のような剣先の狙いを襲撃者に定める。教団の戦士達を威嚇し一歩、足を後ろへ下がらせる。怯んだその瞬間を好機に一気に駆け出した。
「来るぞ!」
クロムが杖に炎を纏わせ叫んだ時だった。
「・・・・・・ぐぉっ!」
アルベルナが何かを吐き出したような聞き心地の悪い低い声を漏らし身体を硬直させた。それを合図に猛牛の如く素早い突進は途中で中断される。聖剣を落としふらふらと彷徨いやがて膝を下ろした。祈りに似た姿勢で身体を縮こませ苦しそうに鎧で覆われた胸を押さえている。突然の異変に教団側は何が起こったのか理解できなかった。彼らは互いに丸くした目を合わせ再びうずくまるアルベルナに視線を戻した。彼女の異様な行動をじっと眺める。
「ぎゃああああ!!」
直後、アルベルナがこの世のものとは思えない絶叫を上げる。泣き叫ぶ口から大量の血が噴水のように吐き出された。
「「「・・・・・・!!」」」
惨劇を見てルシール達は訳が分からないまま凍りついた。よく見ると彼女の胸元からスピアとも言える巨大なが槍先が突き出ていた。それは無慈悲にも心臓に大穴を空け強固な鎧、傷口を押さえる手を貫通している。誰かが背後から不意を突いたのだ。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・あ・・・・・・あ・・・・・・」
アルベルナは白く美しかった顔半分を赤く染め短く唸った。生温かい体液を垂れ流し耐え難い痛感に涙を溢れさせる。そして、再び吐血しながら咳き込み無様に倒れ動かなくなった。
「あはははははははは!」
天井の方に狂気じみた無邪気な笑い声を響かせる大天使がいた。大きな翼を羽ばたかせてこちらを見下ろしている。左手には聖天弓を構え矢を放った直後の姿勢が僅かに残っていた。
「も〜う、アルベルナちゃんったらこんなザコ共に苦戦しちゃって〜。白銀の聖女が聞いて呆れちゃうな」
教会にアルベルナが訪れた際、行動を共にしていたキルエルだった。援軍に訪れた訳じゃないらしく配下の衛兵はいない。いるのは彼女1人だ。最初からこうするつもりでやって来たのだろう。
「こ、こいつ、自分の仲間を!」
悪魔とも呼べる凶行にソフィが天使には見えないキルエルを見上げた。リベアも同じ怒りの形相で魔剣を震わせる。
「信じられない・・・・・・これが天使のやる事か・・・・・・」
「アルベルナちゃんはね、騎士団に相応しいとはお世辞に言えない子だった。もっと一緒にいたかったけど役立たずはいらないんだよね〜。だ〜か〜ら〜、苦しまない死刑に処してあげちゃいました〜。私ってホント慈悲深いよね〜」
「インフェルノトルネード!!」 「エレクトロボルト!!」
クロムとディーノが怒鳴り強力な属性魔法をキルエルに浴びせた。攻撃は見事に命中した・・・・・・だが
「何それ?もしかして私を殺すつもりだった?」
キルエルは2つの強力な魔術を容易く防いでいた。まるで何事もなかったように傷すらついていない聖天弓から見下した笑顔を覗かせる。
「言っとくけど、エデンの熾天使にはそんな攻撃通用しませ〜ん。仮にあなた達が100人いたとしても惨敗するだけだよ?」
「くっ・・・・・・!」
ルシールは無力に彼女を睨み悔しそうに唇を噛む。他の精鋭達も為す術がなかった。
「あなた達の人生をここで終わらせてもよかったんだけれど私、基本弱い者いじめは嫌いだから今日は特別に見逃してあげる。今日ここで起こった戦いを勝利と捉えてるのも負けと捉えるのも自由、それじゃあまたいつか♪」
「・・・・・・待て!」
教会を飛び去ろうとするキルエルをルシールが呼び止める。
「どうしたのお嬢ちゃん?何か言いたい事でもあるの?」
「どうして・・・・・・かけがえのない友達にこんな酷い事ができるの・・・・・・!?」
するとキルエルは"う〜ん・・・・・・"と実にくだらなそうに唸った。
「あなた、たちの悪い勘違いしてるよ。この子は友達でも何でもないしただの下等な捨て駒。そんな奴に情けをかける必要なんてないでしょ?」
非情極まりない台詞を吐き捨てキルエルは去って行った。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.48 )
- 日時: 2019/04/27 09:42
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
戦いは終わった。戦場の舞台となった教会は静寂に包まれる。大量の天使の死体、負傷した教団の精鋭、両陣営の戦士が横たわっていた。
「作戦は失敗だな・・・・・・」
ソフィが平静を保ち双剣を鞘に収め下を向いた。しかし、無念の表情からは強い悔しさが感じ取れる。リクが慰めるように彼女の肩に手を乗せる。
「皆、よく頑張ったよ・・・・・・誰も死なずにここまでやれた事、誇りに思う」
「くそっ!これじゃ姉さんやカティーアさんの努力は無駄じゃないかっ!」
クロムが望んでなかった結末に納得しきれず怒りを吐き捨てた。持っていた杖を地面に叩きつけ広い空間にさえない音を響かせる。
「クロム落ち着きなよ!」
リベアも必死になって彼を宥める。
「だってこんなの・・・・・・!」
「悔しいのは君だけじゃない!ここにいる皆が同じ気持ちなんだ!」
「もう一歩のところだったのに・・・・・・!ふざけるな・・・・・・!」
クロムは怒りをぶつける矛先が分からないまま座り込んでしまう。髪をかきむしり拳を地面に叩きつけた。その様子を教団の戦士達は何とも言えず眺めていた。
「しかし、自分の味方を捨て駒として殺すなんて・・・・・・私達はとんでもない相手を敵に回しているのかも知れないな・・・・・・」
レナも一度だけ虚しい吐息を吐き顔をしかめる。
「任務は失敗、この事実は決して塗り替えられない・・・・・・が、これが俺達の最初で最後の戦いではない。次の機会を待とう。とにかく今はここを離れる事が得策だ。これだけの騒ぎを起こしたんだ。もうすぐ敵の援軍も駆けつけてくるだろう。体力に余裕がある奴は怪我人を運んでくれ。隠れ家に撤退するぞ」
ディーノが冷静に適切な判断を下す。命令に従い戦士数人が負傷したジャスティンやルナリトナに駆け寄り介護する。彼女達を重そうに背負うと教会の出入り口へと向かう。
「俺達も行こう?ディーノの言う通りまだ教団は負けた訳じゃない。次の戦いに備えるんだ」
「まずは帰って汗を流そうよ?私は早く隠れ家に戻って冷えた果実酒が飲みたいな」
そう言ってリベアはさっき投げ捨てた杖を差し出す。隣にいるレナも優しい眼差しで見下ろしていた。クロムは後ろを振り向きそんな仲間を睨んだ。杖を奪い取るように受け取り立ち上がると不機嫌な声を上げ2人の横を通り過ぎる。
「ルシール?」
1人立ち尽くすルシールの姿に気づきリクが足を止める。
「・・・・・・」
彼女は倒れて動かないアルベルナをじっと見つめていた。まるで残忍な最期を迎えた殉教者のようだった。標的は既に他界したように動かない。広がった血の波が足元へ迫って来る。
「こいつはもう死んでる。仕方なかったんだ。さっきの展開は誰にも予測できない。誰の落ち度でもない」
リクは同じようにアルベルナを少しの間、眺めてやがて目を逸らした。
「さあ、俺達も行こう。時期にここも安全じゃなくなる」
「うん・・・・・・」
ルシールはリクと手を繋ぎ倒れた標的に背を向けた時だった。
「うう・・・・・・ごほっ・・・・・・」
どこから苦しそうな唸り声がした。女の声だった。2人は互いに顔を合わせすぐにはっとし振り返った。微かではあったがアルベルナの指先が動いていた。起き上がりたいのか残った力で頭を上げようとしている。
「嘘だろ・・・・・・こいつ生きてるぞ・・・・・・」
「アルベルナ・・・・・・!」
「おい、ディーノ!標的は死んでない!まだ息をしているぞ!」
リクが遠くにいる皆に叫ぶ。それを聞いた戦士達は当然、驚愕の反応を示した。そして我先にと急いで駆けつけて来た。
「アルベルナ、しっかりして!!」
ルシールが彼女の体を揺する。
「無暗に触るな!体に負担をかけてはいけない!」
ルシールを下がらせ慎重にアルベルナを抱き抱え上半身を起こす。彼女は虫の息だったが間違いなく生きていた。震えた目蓋を細く開け自身を支えるディーノを見上げた。
「クロム!治療魔法で傷口の応急処置をしてくれ!急げ!」
「わ、分かった!」
クロムは焦りながらも杖に魔力を込め癒しの光を生み出す。それをオーラと化させ負傷した胸部の体内へと流し込んだ。
「げほっ!おぇ・・・・・・!・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
激しく吐血したアルベルナだが魔法が効き痛みの和らぎを感じた。激痛から解放され心地良さそうな面持ちを浮かべた。
「心臓を貫かれても生きているとは・・・・・・大天使の生命力とは凄いものだ」
ソフィが感心しているのか呆れているのか分からない口調で言った。
「アルベルナ、大丈夫・・・・・・?」
ルシールは心配を隠せない口調で問いかける。だんだんと冷たくなっていく手を両手で包み離さなかった。
「クロム、治りそうか?」
後ろにいるリベアが聞いた。
「ありったけの魔力を傷に当てているけど刺さっているこの矢は特殊な魔法がかかっている。力づくで抜こうとしても抜けない。・・・・・・だから、この大天使はもうすぐ・・・・・・」
クロムは辛そうに返答を返し最後の事は言わなかった。
「何故・・・・・・敵である私を・・・・・・助けたのですか・・・・・・?」
残った痛みに耐えアルベルナは途切れ途切れの声でディーノに聞いた。
「勘違いするな。義や情のために助けたわけじゃない。我々の目的を果たすため、お前に死んでもらっては困るからだ」
ディーノは余命僅かの相手に睨んだ視線を緩めず非情に言い放った。そして、そのまま尋問に持ちかけ必要な情報を吐かせる。
「この国で起きているル・メヴェル教信者虐殺事件はお前らの仕業か?なら動機は何だ?」
「・・・・・・」
「お前ら騎士団の目的は何だ?この国を支配してどうするつもりだ?」
「ちょっと、ディーノ!いくら敵とはいえもうこんなに弱っているんだよ!?可哀想だよ!?」
乱暴な仕打ちにレナが思わず止めに入る。彼は一旦、顔を上げるもそれに頷く事はなかった。
「さっきの大天使がこいつにした事を目の当たりにしただろう?失態を犯した仲間を見捨て殺す。白い翼を生やしていても俺達が戦っているのは悪魔そのものだ。気を抜けばこちらがやられる。生きて勝ちたいなら死にかけた相手でも慈悲を捨てなきゃならん」
「でも・・・・・・!」
「お前も教団の精鋭なら精鋭らしく振る舞え!」
レナは晴れない気持ちでため息をついたこれ以上は何も言わず落ち込んだように下を向くとリベアの隣へ戻った。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.49 )
- 日時: 2019/04/27 09:45
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
「私は・・・・・・」
するとアルベルナは再び震えた唇を開いた。
「私は・・・・・・終わらせたかった・・・・・・」
「終わらせたかった・・・・・・って何を?」
ルシールが彼女に顔を寄せ問いかける。
「人間は・・・・・・弱くて・・・・・・慈悲がなくて争い・・・・・・をやめない・・・・・・憎しみや悲しみしか・・・・・・生まない行為を・・・・・・分か・・・・・・ていても繰り返す・・・・・・」
意外な台詞に戦士達の表情が変わる。敵である事は十分に理解していたがその正論には共感を覚えてしまう。そして、目の前に倒れる1人の天使がだんだんと哀れに感じてきた。
「お母様は・・・・・・人間の悲しみにい・・・・・・つも涙を流していた・・・・・・いつか自分がこの悲劇を・・・・・・終わらせる・・・・・・と・・・・・・お母様の理・・・・・・想はいつし・・・・・・か・・・・・・私の理想・・・・・・となっていた・・・・・・」
ルシールやディーノ達は話を聞き続ける。
「だけど・・・・・・エデンで起きた・・・・・・戦でお母様は・・・・・・帰らぬ人となった・・・・・・理想は私が受け・・・・・・継ぐ事になって・・・・・・そのために故郷を離れ・・・・・・地上へと降り立った・・・・・・」
「アルベルナ・・・・・・」
「そこで私は・・・・・・『クリスティア』や・・・・・・『キルエル』と出会った・・・・・・共に生き・・・・・・共に戦い・・・・・・そして騎士団の一員となっ・・・・・・おぇ・・・・・・げほぉっ!」
アルベルナが体内から漏れた黒い血を吐き出した。何度も咳込んだ直後、激しい痙攣を引き起こした。美しかった白い肌も青ざめ安定していた呼吸が複雑なリズムに乱れ始める。
「もういい、これ以上喋るな。クロム、治癒魔法を解け。こいつはもうすぐ死ぬ。これ以上の尋問は無理そうだ」
ディーノは抱いていたアルベルナを地面に降ろし立ち上がると付着した血液を服に拭った。クロムも辛い決断を受け入れたように頷くと杖を遠ざけ大して意味のない応急処置を打ち切る。
「騎士団は決して人々に崇められるような存在ではない。現にこいつらは人間の戦争に加担し災いを拡大させているからな。恐らく、この女は支配欲のためだけに騙され長い間、利用されてきたんだろう。ある意味、被害者と言える。同情はできないがせめて哀れな天使だと解釈しておこう。隠れ家に帰るぞ。負傷した仲間の手当てを優先しなければいかん」
ディーノは標的を倒した証拠としてアルベルナが身に着けていた金貨のネックレスを引き千切った。それを近くにいたクロムに渡し彼を前に歩かせる。他の戦士達も諦めきれない感情を抱きながら潔く誰もいない外へと向かう。
「ルシール、もうここには用はないよ。私達も行こう?」
レナが共に来るように促すが
「はあ・・・・・・ル、ルシール・・・・・・はあ・・・・・・あなたは・・・・・・まだそこに・・・・・・いるの・・・・・・?」
仰向けに横たわるアルベルナが聞いた。彼女の目に映る世界は色を失い遠くに見える天井が黒く染まっていく。切り裂かれ欠けた心臓の鼓動ももうすぐ終えようとしていた。
「うん、私はまだここにいるよ」
ルシールはまだアルベルナの手を握ったままだった。
「ごめんなさい・・・・・・はあ・・・・・・もう目が・・・・・・見えなくて・・・・・・あなたの顔すら・・・・・・映らない・・・・・・」
彼女は"大丈夫"と一言を呟き優しい言葉をかける。
「あなたはお母さんの理想を叶えたかったから騎士団に命を捧げたんだね・・・・・・あなたこそ、英雄に値する誇り高き大天使だよ」
「ありがとう・・・・・・敵同士・・・・・・なの・・・・・・に・・・・・・あなたに言われると・・・・・・友達に褒められた・・・・・・みたいで・・・・・・嬉しい・・・・・・」
アルベルナは幸せそうに言って完全に失明した緑色の目を閉ざした。近くにあった聖剣を手探りで触れるとグリップを握った。それをルシールの元へ寄せ彼女に差し出す。
「これを・・・・・・勝利の証と・・・・・・して持って行って・・・・・・それと・・・・・・頼みを聞いてほしいの・・・・・・ナデー・・・・・・ジュダをお願・・・・・・い・・・・・・騎士団は・・・・・・失態を犯した者に・・・・・・は容赦しない・・・・・・戻れば・・・・・・私と同じ目に・・・・・・遭わされて・・・・・・!」
ルシールは何とも言えず悩ましい表情でレナの方を見上げる。傍で話を聞いていた彼女は腕を組み何食わぬ顔で
「どうしようが私は別に構わないよ?ルシール、教団の長は君だ。引き受けるか断るかは君次第だ」
するとルシールは、はっきりと決意し再びアルベルナを見た。
「いいよ、ナデージュダは連れて行く。決してあなたと同じ目に合わせないから」
「ありが・・・・・・とう・・・・・・もう1つ・・・・・・私に・・・・・・止めを刺して・・・・・・」
「え?」
「・・・・・・痛くて・・・・・・寒いの・・・・・・もう・・・・・・耐えら・・・・・・れない・・・・・・せめてあなた・・・・・・の手で楽にして・・・・・・」
「・・・・・・アルベルナ・・・・・・」
「お願い・・・・・・孤独に悶え・・・・・・なが・・・・・・ら・・・・・・ゆっくり死ん・・・・・・でいくなんて嫌・・・・・・早く・・・・・・お母様・・・・・・の元へ・・・・・・」
「・・・・・・分かった・・・・・今、楽にしてあげるからね・・・・・・」
下を向き言いにくそうに解釈を肯定した。さっきまでの穏やかな表情を変え強く歯を噛みしめる。ためらいに震える自身の右手を眺め手首に隠れたブレードを伸ばす。
「レナ、悪いんだけど目をつぶっててくれないかな?」
「それが望みなら嫌とは言わない。終わったら教えて」
ルシールが頷きレナは2人に背を向けた。
「天国へ行・・・・・・く前に・・・・・・教えて・・・・・・あなた・・・・・・達は・・・・・・何のために・・・・・・戦うの・・・・・・?」
アルベルナの問いに少女は
「故郷であるこの国を守るため、自分や仲間が信じる正義のため・・・・・・」
その台詞を最後にブレードが喉に突き立てられる。アルベルナは穏やかな面持ちのまま息絶えた。
「さようなら・・・・・・アルベルナ・・・・・・」
ルシールは別れを告げ深く刺さったブレードを抜く。殺したばかりの標的の額に手を乗せ聖書の言葉を呟いた。
「終わった?」
レナが感情入りしない普段通りの口調で言った。
「うん、帰ろう。レナはナデージュダを運んで。私は剣を・・・・・・」
「ナデージュダってこいつ?はあ・・・・・・私って女の子だから誰かを背負うって苦手なんだよね・・・・・・リベアがいてくれたら・・・・・・」
レナは愚痴を零し気絶したナデージュダを背負うと淡々と立ち去るルシールの後に続いた。
戦士達は去り無人となった教会は更に静かになった。大きくそびえるマリアの像が眠りについたアルベルナを見下ろしていた人々が集う神聖な場所は外も中も血を流す無数の天使達の死体でいっぱいだった。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.50 )
- 日時: 2019/04/27 09:50
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
リコリス教団の隠れ家 ロベール神父の個室
任務の報告はルシールとミシェルが伝えに向かった。ロベールは部屋で戦士達の帰りを待っていた。彼は先の戦いでボロボロになった2人の少女を見て哀れんだ顔を浮かべる。
「非情に残念な知らせです。捕らえるはずだったアルベルナは死亡しルナリトナ、カティーア、ジャスティンの3人が負傷しました。今、クレイスが医務室で手当てをしている頃です。あと、ナデージュダというダークエルフの暗殺者を捕虜として捕らえました。地下牢に監禁しており近々尋問を行おうと思います」
ルシールは教会での出来事やこれからの予定を詳しく説明する。最後にディーノがアルベルナから奪った金貨のネックレスをテーブルに置いた。標的の血の着いた純金が窓から差し込んだ日の光を反射する。
「教団の長である私が仲間を守れず危険な目に遭わせてしまった・・・・・・ミシェルの魔法や皆が援軍に駆けつけて来なかったら間違いなく私も死んでた・・・・・・事態を想定できず最悪な結果をもたらしてしまった・・・・・・全部私のせい・・・・・・全部・・・・・・」
ルシールは深く落ち込んだ暗い顔を垂らした。失態の責任に自分を責めながら"ごめんなさい・・・・・・"と震えた声で呟いた。
「・・・・・・」
ロベールは回収したネックレスを手の平に乗せ無言で眺める。これといった反応はせずそれを再び置くと表情を変えず赤いインクに浸した羽ペンを取った。アルベルナの肖像画に罰印を付け足しキルリストに飾る。そして問いかけた。
「アルベルナはいかにして死んだのですか?」
質問にはルシールが答えた。
「彼女を追い詰めた直後、エデンの熾天使が現れ仲間である彼女に致命傷を負わせたんです。クロムの施した応急処置も空しくアルベルナは私に苦しみから解放してほしいと頼んだ・・・・・・それで・・・・・・止めを・・・・・・」
「なんて事だ・・・・・・自分の仲間を迷う事なく・・・・・・天使というのはそこまで残酷だったのか・・・・・・!」
「恐ろしかった・・・・・・地獄の悪魔を見ているようだった・・・・・・」
震えた声はやがて涙声に変わる。それにつられミシェルもとうとう声を上げ泣き出した。流れ出る涙で頬を濡らし恐かったと泣き叫んだ。ロベールは少女達の傍に行き両腕で優しく抱いて包んだ。
「恐い思いをしましたね。もう私がいるからもう大丈夫です。最後までよく頑張って・・・・・・2人共、本当に大義でした。あなた達全員が生きて帰って来てくれた事が何よりも嬉しい・・・・・・本当に無事でよかった」
「でも私が無力だったせいで・・・・・・」
「あなたのせいでもない。こうなる運命は誰だって予測出来なかった。だから自身を咎める必要などありません」
ロベールは安堵と慰めの言葉を送り目をつぶると幼い2人の髪を撫で下ろした。そして部屋に響く泣き声が治まるまでしばらく離さなかった。
いくつもの扉が並ぶ兵舎の廊下を進む3人の精鋭の姿があった。ディーノが先頭を行きすぐ後ろでリベアとレナが二列に続く。武器を持たずともこれから戦に出向くような緊張感のある面持ちを浮かべていた。
「あいつ、いるかな?」
レナが隣を歩くリベアに聞いた。彼はちらっと視線をやりほとんど確信を持った返事を返した。
「武器庫や訓練場、食堂にもいなかったからね。探していない所はあとここしかない」
やがて3人は1番奥にあった正面の扉の前で足を止める。中には誰もいないのか内側はしーんとしていて妙に静かだ。本当にいるのか疑いたくなる程に気配は漂ってこない。
「いいか?開けるぞ?」
ディーノが振り返りこれから行う事の準備を一応確認する。後ろにいたリベアとレナはすぐに頷き肯定の合図を送った。取っ手を回し扉を幅広く開けると彼らは室内へ流れ込んだ。
「おや?ディーノさん?何か御用ですか?リベアさんとレナさんもお揃いのようで」
数人では狭い個室にデオドールがいた。彼は羽ペンを手に書類の仕事に明け暮れている最中だった。普段通りの落ち着いた態度、何食わぬ顔でこちらを睨むディーノ達に視線を合わせる。その表情は同様の欠片もなかった。
「竜人、お前に話がある」
最初にディーノがはきはきと口を開いた。閉ざした扉の前に立ち塞がり逃げ場を遮る。
「一体どうしたんですか皆さん?そんなに恐い顔をして?」
「どうしたんですかじゃないでしょ?」
レナが敬遠の目つきで声を尖らせる。
「竜人、何故今日の戦いに参加しなかった?お前の到着を俺達全員が待ちわびていたんだ・・・・・・なのに来なかった。その理由を教えてくれないか?」
ディーノも次第に湧いてくる怒りを抑えながら問い詰める。
「え?ああ、それにはちょっとしたわけが」
デオドールは相変わらず無神経とも言える平静さを保ち椅子から立ち上がった。目の前にいる彼らに対し情けなく作り笑いをすると
「僕も皆さんと共に同行したかったのですが、朝から具合が悪く熱を出してしまって。だから足手まといにならないために休養する事にしたんです。クレイスさんの風邪がうつってしまったのかも知れませんね」
「自分に不都合なものは病気のせい、人のせいかよ・・・・・・!」
子供染みた言い訳にリベアはとうとう握っていた拳を振り上げ
「ふざけるなっ!!」
怒気に身を任せた怒鳴り声と同時にデオドールに飛び掛かった。胸ぐらを掴み強引に顔を引き寄せ頬を殴りつけようとした。ディーノのレナが止めに入り2人の間に割り込む。
「ルナリトナさんもカティーアさんもジャスティンさんもなあ、重傷を負ってまで戦ったんだ!!ルシールとミシェルだって死にかけた!!それなのに自分は呑気に過ごして病気をうつされただと!?ふざけるのもいい加減にしろっ!!」
暴れ狂うリベアをどうにか力任せに引き離す。粗暴に押し倒されたデオドールは反対側に飛ぶよう背中を打ちつけ倒れた。ひっくり返ったインクが頭上に被り積まれていた書類が宙を舞い散乱する。
「げほっ、げほっ・・・・・・!」
顔中が真っ黒に塗りつぶされたデオドールは絞められた胸元に手を当て咳を吐き出した。
「おい、冷静になれ!殴ったってどうにもならないだろう!?」
必死に取り押さえるディーノの叫びを無視しリベアは尚も掴みかかろうとする。
「こいつは傷つくのが恐いから仲間を身代わりに自分だけ逃げたんだぞ!?仲間が受けた苦しみをこいつも味わうべきだ!!」
「もうやめてっ!」
吠えたてる彼をレナは扉に押し付け強く訴えた。
「こんなの、リベアらしくない!君はいつも優しくて暴力を嫌う人だった!確かにデオドールは間違っている!だけど、彼を殴ってどうなるの!?仲間を傷つけてもお互いが不幸になるだけだって君が1番よく知ってるはずだよ!」
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・!何でだよ・・・・・・!?自分だけ助かろうとした卑怯者なのに・・・・・・どう考えたって許せないだろっ・・・・・・!!」
リベラは納得できないまま泣きそうな顔になり大人しくなった。興奮が冷め緩めた拳を下ろしふっと床に崩れ落ちる。
「その気持ち分かるよ・・・・・・許せないよね・・・・・・」
無我夢中で過ちを防いだレナも共感を抱きながら彼女も涙を流した。そして涙声で"君は間違ってない・・・・・・"を何度も繰り返した。
「・・・・・・」 「・・・・・・」
もう片方の2人はその様子をずっと眺めていた。やがてディーノがデオドールの方を振り返り普段よりも真剣な態度で
「竜人、リベアもレナも命懸けで戦ったんだ。お前も教団の一員なら彼らの気持ちを分かってやってくれ。体調不良は仕方ない、他の皆も大目に見てくれるはずだ。だが、それをクレイスのせいにするのはいささか感心しないな。軽蔑するつもりはないが同じ教団の精鋭として少し失望したぞ?」
それだけ言い放つと気力を出し尽くしたリベアの肩を持ち起き上がらせる。3人はこれ以上は咎めようとはせず部屋から去って行った。デオドールだけが1人、孤独に残され扉が閉ざされる。
「・・・・・・」
彼は何も言い返さず最後まで沈黙していた。感情のない顔に塗れたインクを拭い椅子を手すり代わりに何とか立ち上がる。散らかった机を僅かな間眺め意欲のないため息をつくと辺りに落ちた書類を片付け始める。
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