ダーク・ファンタジー小説

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欠片達の海にて
日時: 2017/04/02 15:40
名前: 赤湖都 (ID: bmJ5BkM0)

私は腸の海の中に寝ていた。

<あなたが ころしたのです>
<おまえの てで ころしたのだよ>
<いまは どんな きぶんだね>
<そこに いのちはない>
<あるのは きみのいのちと いのちだったもののみ>

どうして?
疑問の海に私は沈む。さしずめ、撃沈された戦艦のように
孤独なまま、俗世から断絶された私だけの異次元へと投げ込まれる。

誰か、助けてくれ。
誰も、助けてくれないこの私を。

助からぬ窮地から助けてくれ。
私には、欲などなかった。

この異様なまでに美しい造形物が、神によって作られたのか?
そんなことなどどうでもよかった。

<ここまでうつくしいものが、ひとのちからだけでつくれるはずはない>

何故?
ならば私の疑問は愚弄されるべきなのか?
命は、躍動しているそれこそ美しいというのか?

桜は大地に散る時が美しいのに、
花火は虚空に弾ける時が美しいのに、
ヒト、我々は、生ける時が美しいのか?

私は、もしそうならば私の全てをリセットせねばなるまい。

私は怖くなった。

私の立つ大地ではまるで蛇がうねるかの如く、腸がうねる。
命を持たぬヒトだったものが、弱々しくも美しく、大地を蹂躙する。

空を見上げる。
空は赤い。

大地に張り巡らされた死して永劫の芸術が、空をも赤く染めたのか。
まるで私に応答するように。ならば、ははは、悩むなど愚かしい。
私に間違いなどなかったのならば、私はそこへと動けばいい。

理屈?馬鹿な。美しきものに理屈などを後付けすれば、醜くなってしまう。

気付くと、空の片隅が青かった。私はそれを醜く思った。
ふと横を見る。
美しい少女が気絶している。
これが、最後のパズルピースか。

ならば最後に相応しく、楽しもう。
少女を起こす。
少女は恐れる。

肩に触れると、恐怖に震えているのが分かる。
その肩を優しく抱き抱える。

もう安心だよ。最後の欠片にしてあげよう。

少女は拒絶した。
手の甲を引っ掻く。
赤い血が滲む。
そしてそれに、人間がみな平等な美しさを内包しているということを実感する。
最後のピースは丁寧に置く。
崩れないように、丁寧に。
悲鳴と血飛沫が甘美でそれでいて寂しい。

どんなパズルも、完成は避けられない。
完成を喜ぶ人間の感情、私には理解出来ない。
あれほどまでに虚しいものが、何故嬉しく感じられるのか。
最後に、訊いてみよう。

ねぇ。パズルって、完成したら、つまらないよね?

少女は答えてくれなかった。
そのまま、抵抗を終えた。
灯火が消えてパズルが完成してしまった。

すると空が私を呼ぶ。

<さあ きなさい>

この声は
私の姉。

<しがらみのないカンセイへとようこそ>

ただいま。姉さん。今そっちに行く。

<あなたのあるべきカンセイをたかみからみおろすといいわ>

私は空を昇った。
歩くと高みへと昇れる。
地上の赤さは果てまで続いていた。
あった筈の世界がない。家屋。海。
見える筈の場所にいるのに、見えない。
この解答も正しさもない世界においては当然か。
地上からは見果てぬ筈の地平線すら赤かった。

Re: 欠片達の海にて ( No.1 )
日時: 2017/04/02 17:05
名前: 赤湖都 (ID: bmJ5BkM0)



<アナタニハ ソレガ デキルハズヨ>
<オマエハ ユウシュウダ ナンデモ デキルサ>

思えばそうとばかり言われてきた。
抑圧。
私の中の何かが抑圧されていた。
心に枷。
自由なき世界が私の目前にあった。
それは絶望するほどつまらなかった。
だからその呪縛から解かれた時、快楽を感じた。
まるで刺激のような快楽。
喉を焼き、手足を痺れさせ、頭を真っ白にするような。
不可思議で不快なのに、快楽を感じた。
その矛盾にもまた、快楽が潜んでいた。

今はその呪縛と真逆の私が暴走出来る。
出来ることではなく、やりたいことを出来る。

結局人間にとってはそれが一番の望み。だから抑圧を嫌い反逆を起こす。罪だ。反逆は罪だ。だからそれをきっかけに理性は崩壊してゆく。
私のように。

あるいはそれが、人間というものなのかもしれない。



姉の虚像はいつまでも私を抱えている。
虚空に浮かぶ二人。笑みと共に血の海を見下ろす。

赤く艶やかで情欲を誘う腸。よく見える。
どうしても美しくならなかった。

だが、最後に、私は最高のひとつをあの群像の中に放り込めた。

そしてそれは何より美しく、探し求めたものだった。
私は自らの魂に答えた。

そうだね。こんな身近なところに、最高に美しいものがあったんだね。
終わり


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