ダーク・ファンタジー小説

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セリカの瞳
日時: 2017/06/03 11:50
名前: なこ (ID: mXt9My6w)

初投稿です。なこと申します。よろしくお願いします。

Re: セリカの瞳 ( No.1 )
日時: 2017/06/03 11:52
名前: なこ (ID: mXt9My6w)

26歳の女性・・・・・・一体普通はどんな生活をしているのでしょうか。丁度学生を卒業し、社会人としてようやく慣れてきたころですか?それとも婚活を始める時期でしょうか?大体、普通の人たちならそんな生活を送っているでしょう。私も今年で26歳になる一人の女性です。私はメイドをしています、主の身の周りを掃除するお仕事です。名前はノア・ウィリウス、ごく普通の名前ですね。そんな私の事よりも主のお話をしましょう。私の雇い主であるセリカ様こと、セリュスレイリカ=エル=アストイル様はとても落ち着いていて大人びた女性です。

でも年齢は18歳・・・そんな彼女が一家の主なのです、どうしてこんな若い少女が一家を治める事が出来ているのでしょう。彼女には一体どんな才能があるのでしょうか?私にはわかり

ません、何せ私には・・・・・・
「・・・・・・普通に生きる資格など無いのですから。」

Re: セリカの瞳 ( No.2 )
日時: 2017/06/03 11:56
名前: なこ (ID: mXt9My6w)

第一章 メイドと暗殺者
「おいこらノア! もっと丁寧に飲み物を注げないのか!!」
「零れてませんよね……大丈夫です。」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだろ! ここは由緒正しいアストイル家なんだぞ?! もっと一つ一つの作業を丁寧にしろ!!」
「私はそんなことに構っているギルバートさんの方が心配です。」
「納得出来ねぇけど、 お前の面倒を見る事が主の命令なんだよ。 セリカも変わりもんだよ… 執事とメイドの違いわかってんのかな。」
「あの人にとって召使は全員召使なんですよ、 きっと。お金持ちの考えってそんなもんじゃないんですか。」
ようやく朝日が昇り始めた秋の朝。 アストイル家の豪邸では、四人の使用人たちが総出で主の朝食を用意していた。ここでは四人の使用人が働いている。執事が一人メイドが二人、料理長が一人だ。 この綺麗に真っ白なテーブルクロスが引かれた美しいアンティークなテーブルが目を引く食堂にいるのは、 黒髪で黒い膝まである丈のメイド服を着た女性、 ノアと銀髪で黒い燕尾服を着た男性、ギルバートだ。 ノア・ウィリウス、 アストイル家で働く新米メイドでクールな性格を持つ。 常に落ち着いており、忠誠心もかなり薄い様々な事情を抱え込む26歳の女性。ギルバート・ラズウェル、アストイル家の執事で主からの信頼も厚い。忠誠心も強く、生真面目な性格でノアとは全てが正反対な26歳。
ノアは透明な美しいグラスに赤紫の飲み物……想定するに赤ぶどうのワインだろうか、それをすり切り一杯注いでいた。その危なっかしい様子を見てギルバートは頭を抱えて女性に注意していた。
「おい。助けられた身でありながらセリカのことそんな風に言うのか?そんなこと言える立場か?わかってんのか?」
「私は助けられたなんて思っていません。あの時、セリュスレイリカは私を殺すべきだった。それを決断できなかったんですから、彼女は決断の出来ないただのお嬢様です。自分の人生を邪魔する者を消せない人間はただ弱いだけ、精神面が鍛えられていないだけです。」
「……今のはさすがに取り消せ。お前みたいな奴がセリカを悪く言うな!!あいつがどんな気持ちでお前をこうしているのかわかっているのか!?」
「わかりません。弱い人間の考えなんてわかりません。想定するなら、人を殺して殺人者に堕ちるのが怖いだけなんじゃないですか。」
「そんなわけ……!!」

Re: セリカの瞳 ( No.3 )
日時: 2017/06/03 11:59
名前: なこ (ID: mXt9My6w)

「ほんっとギルは朝から元気よね。とりあえず、その拳は下ろしなさい。女性に手を上げるなんて執事の階級が廃るわよ?」
二人がもめあっている後ろの扉の方から可愛らしい少女の声がした。そこを見ると、金髪の二つ結びおさげヘアに可愛らしい白のレースやリボンが目を引く桜色を基調としたロリータドレス、同色の基調カラーとレースを持つレースハイソックスに桜色のクロスストラップが女の子らしいロリータシューズを履いていた。少しでも身長をサギりたいのか、ちゃっかり五センチくらいかかとが上がっていた。丸くて大きな少女の瞳は左目がラベンダーを連想させる紫色、右目はベリーのような明るく美しいレッドピンク・・・・・・美しく輝くオッドアイが只者ではない雰囲気を漂わせている。可愛らしい見た目からは想像できないような威厳が、どこからともなく溢れていた。
「っ……。」
「おはようございます、セリュスレイリカ様。お気分はいかがですか。」
「うーん……まぁ良いか悪いかって言えば悪いかも。朝から執事とメイドの喧嘩見ちゃったからなぁ・・・・・・。」
「も、申し訳ありませんでした。」
そう言ってギルバートは深々と少女セリュスレイリカ、セリカに謝罪する。それを見ても不思議そうに自分を見るノアの背中を彼は無理やり押し、謝罪させる。よくわからないまま、ノアも力づくで頭を下げさせられた。
「そうやって簡単に頭下げるところ……少し直した方が良いわね、ギル。こういうところは貴方に強要されるまで堂々としていたノアの方が好きよ。」
「……。」
「変な所は常識人なんですね。」
「あら、それはお互いさまじゃないの。」
「そうですね。」
「お前、喧嘩売られてるのわかってんのか?」
「いいえ、彼女は本当の事を言っただけなのでそれは喧嘩を売ったことにはなりません。」
「ええ、私も喧嘩を売ったつもりは無かったもの。」
そう言ってセリカはニコニコと少女らしい無邪気な笑顔を見せた。驚きの表情を隠せないギルバートと笑顔のセリカを見て、ノアは困惑した表情で首を傾げた。そんな様子を主の後ろで一人の女性が微笑ましそうに見ていた。
「本当にのんちゃんとギルさんは仲が良いよね!羨ましいよ〜。」
「こ、こんな光景見てお前はこいつと俺が仲が良いと……?」
「そりゃあそうだよ!お互い本音を言い合える仲なんだもの、良いことよ!」

Re: セリカの瞳 ( No.4 )
日時: 2017/06/03 12:02
名前: なこ (ID: mXt9My6w)

「のんちゃんって私の事ですよね。どうしてノアと呼ばないんですかリリアナさん、私そんな風に呼ばれたこと無いので困るんです。」
桜色の髪を持つメイド、リリアナは無表情で自分に問うノアを見てうふふっと笑顔で微笑んだ。リリアナ・ミレイリス、ノアの先輩に当たるアストイル家のハウスキーパーで明るく陽気な性格を持つ。アストイル家のムードメーカーで、クールなノアにも優しく接する25歳。
「少しでも距離を近づけたくてね!私後輩なんて初めて出来たから仲良くなりたくって・・・あだ名で呼んだ方が親近感沸くかなって思って!」
「そういうものですか?大体普通は後輩ってこき使うものですよ、仲良くなろうだなんて変わってますね。」
「のんちゃんも色んな人と仲良くなると楽しいでしょ?それと同じだよ!」
「別に楽しいとは思いません。まず他人を信じようと思いませんよ、信じられるのは自分だけです。感情を共有しようだなんて思いませんから。」
私は料理を運んできます。
そう言ってノアは静かに調理場へ向かって部屋を跡にした。つかの間、食堂には気まずい静けさが漂った。
「……さて!セリちゃん、ここに腰をかけてお待ちください!すぐにお食事をお持ちします!」
「……良いわ。リアはさっきから私の部屋を綺麗にしてくれていたから疲れているでしょう?ギルに頼むわ、お願いできる?」
「あ……はい。すぐにお持ちします。」
ギルバートはセリカからそう言われると足早に調理場へと向かって行った。食堂に残されたのはセリカとリリアナ、二人の女子だった。静かに腰をかけるセリカの隣で童顔ハウスキーパーも静かに佇んでいる。
「リアは本当に面倒見が良いわね。どう?ノアとは上手くやっていけそう?」
「も、勿論ですよ!のんちゃんは仕事は出来るし、女子力も高くって家庭的な能力も申し分ないんです。メイドとしての才能にあふれていますし……」
「でも、彼女は半強制的に雇った存在。仕事も完璧に出来てしまうでしょう・・ノアは元々暗殺者、潜入調査のために色んなことを身につけているはずだから。」
「例え暗殺者でも、私の初めての後輩ってことに変わりはありません。」
ノアは元々、セリカの命を狙う暗殺者だった。彼女が襲撃して来たとき、執事であるギルが彼女を拘束しセリカとどう処分するかを検討し、彼女をメイドにすることを決めたのであった。復讐目的ではなかった、ノアが普通の女性に戻ることができる機会になったらというセリカの想いからであった。でもノアはそれを聞いた時に……
「そんな機会必要ありません。私は暗殺者として生きていくことを自分で決めたのです、今更そんな人生を変えるつもりなんてありませんから。」
とばっさりセリカの意見を切り捨てた。だが、自分は拘束された身だというのでここで働くことに関しては反対しなかった。それが一週間前のお話。感情も薄く無愛想な彼女はしょっちゅう仕事真面目なギルバートとは口喧嘩をし、親切にするリリアナの心遣いも切り捨てていた。何も言わないだけでこの二人は悩んでいるだろう……そのことにセリカは勿論気がついていた。だからこうして個人的にカウンセリングのようなこともしているのである。
「セリちゃんは私たちの主なんですから、召使たちのことなんて気にしないでください!こんな個人的なことにお時間を頂くわけにはいきませんし……」
「……わかってるのよ、私も。いきなり裏社会で人を殺すことで生きてきた人間と親しくなれるなんて思ってないもの。私も最初は怖かった、でも自分でもよくわからないけれどノアを救いたいと思ったのよ。彼女の望む人生を歩ませてあげたいって。」
「でものんちゃんは暗殺者の人生が自分の人生だって……」
「それが本当の事だと思えない。誰も好きで人間なんて殺さないでしょう?自分と生物学的に同じ存在なのよ、簡単に楽しく命を奪うことなんて出来ないもの。まだ彼女なら引き返せると思うのよ・・それに、あの顔はどこかで見覚えがある。どこかでノアとは会っていた気がするの。」
「えっ……あの子は十年近く人を殺め続けているんですよ?少なくともセリちゃんが子供の間に会う機会なんて無いと思うんですが……」
「でもね、このセリちゃんは見事に十年前の記憶が無いのよ。会っていてもおかしくないでしょ?」
「ま、まぁそうですね。そのせいで少しセリちゃんには貴族の威厳が欠落していますし。」
「別にいいでしょ、あんまり恭しくされるのも嫌だから良いの!」
そう言ってセリカは少しでも動かせば零れそうなグラスを器用に持ち上げ、グイッと飲み干した。貴族の娘とは思えないような見事な飲みっぷりだった。口周りをグッと豪快に拭きながらにっこりリリアナに少女らしい無邪気な明るい笑顔を見せ、彼女の様子を窺った。このサバサバした性格が肩っ苦しい空気を嫌うらしく、召使いたちに様付けされるのをことごとく嫌い自分たちの呼び方をさせるように教育している。
「……私はノアの役に立ちたいのよ。ただのエゴかもしれないけれど、今はそれで良い。」
いつか、彼女を普通の女子にするの。ある意味戦いね。
そう言ってセリカは机に片肘をついて不敵に微笑んだ。とても楽しそうな、明るい笑顔だった。


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