ダーク・ファンタジー小説

【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
日時: 2017/09/17 14:49
名前: 流沢藍蓮

 目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)

第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7

Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7


第二章 訣別の果てに >>8-11>>14

Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14


第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17

Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17


第四章 王族の使命 >>18-25

Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18 
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25


第五章 花の都 >>26-36

Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36


第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49

Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49


第七章 心の夜 >>50-55

Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55


第八章 時戻しのオ=クロック >>56-

Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57


 はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
 あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
 それではでは。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。

「魔導士部隊、位置に着け!」
 高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
 彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」

 この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
 それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
 まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
 (よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
 願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
 そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
 リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
 しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。

 そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
 ――だから、利用させてもらうよ。
 この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
 それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
 ――国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
 そして――。
 
 太陽が、月に食われた。

 日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「――今だ!」
 リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
 皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ――日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
 神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す――!
 が。

 ――崩壊は、一瞬だった。

「あれ……うそだろ……」
 白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
 だとしても。
 ――この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
 見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
 ――さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
 みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
 ――国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
 リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
 存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
 地にくずおれ、獣のように咆哮する。
 ――天使は、破壊神だった。
 確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
 平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
――コンナコトジャナカッタ。
 絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
 壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
 その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
 背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
 幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
 その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
 そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。

 ――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。

 王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
 ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
 そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
 これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
 悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。

 ――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉

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カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep49 嵐の予感 ( No.53 )
日時: 2017/09/07 20:40
名前: 流沢藍蓮

 更新遅れてすみません。リアルが忙しかったのです。
 なのになぜ、「夜明けの演者」は更新されているのかって?
 それは……こっちで50話目に派手にやらかそうと思っていたのですが、そのつなぎの49話目がなかなか浮かばなくてですね……。今回短めなのはそのせいですハイ。

 来週の月曜日から、本格的にとりかかることになりそうです。
 学校で文化祭があるんですよ……。ご勘弁を。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――場所はローヴァンディア王宮。


「アロン、失敗したと?」


 ローヴァンディア王ヴォルラスの詰問に、暗赤色の髪の男は冷や汗を浮かべる。
 アロン。暗赤色の髪の男。ヴォルラスの腹心。
 この男こそ、これまでリクシア達を苦しめてきた、魔物使いの男である。

 ヴォルラスは、男を睨みつけた。

「『反戦部隊』を壊滅させられなかっただけでなく、魔物部隊の一部も失ったと申すか! ええ? アロンよ! ……魔物の操り方はもうわかっておるのだ。ゆえにそなたに罰を与えても。わが方が被る被害は僅か……」

 王は、何かを思案しているようだった。アロンは気が気でなかった。
 やがて、彼は言う。

「余は、これより貴殿を指揮官の地位から外し、一般兵士として戦闘に臨むように申しつける。反論は許さん! それと」
 彼はアロンに近づいて行き、その首に提げられていた何かを奪った。

 それは、笛のようにも見えた。

「貴殿よりこれを取り上げる。よって、もう貴殿は魔物を操ることができぬ。これが打ち洩らした罰である。異論はないな!」

 ……反論、できるわけもない。
 今回の事件の非は、全てアロンにあったから。
 下された罰はあまりに重いが。否と言えようはずもなく。

「……承知、致しました」

 彼は静かに部屋を辞す。





 その先で絶望に囚われて。
 彼が魔物化することを。

 ――王は、予期していたのだろうか――

 その次の日、魔物部隊に新たな魔物が加えられた。
 その魔物の毛は、暗赤色をしていた――。


  ◆

 
「行こうか、兄さん」
「……もう、大丈夫なのか?」
「天使は回復力が強いんだよ。その血が半分しか流れていなくたって……僕はもう、大丈夫さ」

 極北の地。
 花の都のあったところ。
 残った三色天使と半天使と半悪魔のお陰で、そこは二カ月の間に復興しつつあった。
 フィオルは、言う。

「みんな、待ってる。そろそろ、行かなきゃ」

 失われた翼は、少しずつ再び生えてきて。
 まだうまく飛べるほどではないけれど。いつかは再び、飛べるようになるだろう。

「行くのか」

 ヴァンツァーが、声をかけた。

「生憎と。俺たちは当分ここを離れられないからな……。ついて行ってやれないのが残念だが」
「大丈夫さ。僕ら、これまでずっと。二人きりでやってきたんだから」

 笑って、アーヴェイに手を伸ばす。
 アーヴェイはその手をしっかりと握り、柔らかく微笑んだ。

「オレたちの休息は長すぎた。向こうに行ったあの砂糖菓子が、どうなっているのか気になり始めたころだしな」

 リクシアのことを砂糖菓子とアーヴェイは揶揄した。
 その言葉を聞いて、吹き出したラーヴェル。

「本人に言ってやれよ……くくくっ、ぷぷっ! 砂糖菓子! 言い得て妙だぜ!」
「さびしくなるのです〜」
 
 リリエルが、少し悲しそうな顔をした。
「でも、私たち、ここで待ってますから! 戻し旅? それが無事に終わったら、またここに来て下さいよ〜。復活した町で歓迎するのです〜!」

「ああ、絶対に、戻ってくるさ」

 言って、前に差し出したアーヴェイの異形の手を。
 三人の天使が、それぞれ握る。
 フィオルもその手を差し出した。

「絶対に」

 こうしてそちらも別れていく。胸に新たな希望を燃やして。
 しかし彼らは、知らなかった。




 
 ――とうの昔に、戦乱は始まっていることを。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ハイどーもお久しぶりです藍蓮です。

 更新遅れてすみませんね〜。何が「一日一話」じゃ。二日も更新遅れました。殴ってくれても構いません。内容浮かばなかったのですよぅ。

 次はいよいよ50話目。「カラミティ・ハーツ」も長かった……。
 次はおそらく、短くても4000文字越えます。プロットがあります。フラグとか言わないでください。しっかり回収する気があります。
 ただし……。それだけの量を書くには、それなりに余裕がいるわけで。
 更新遅れたらすみませんが、まあ、気長にお待ちください……。

 ご精読、ありがとうございました。
 次の話に、請うご期待!

カラミティ・ハーツ Ep50 Calamity Hearts ( No.54 )
日時: 2017/09/11 00:18
名前: 流沢藍蓮

 ……更新遅れて本当に申し訳ありませんでした!
 リアルが忙しかったのですよ、ご勘弁を。

 記念すべき50話目。究極のどんでん返しが、始まる――。


※ 5500文字でめっちゃ重いです。
  余裕を持ってお読みください!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 戦場。
 向かった先で見たのは。阿鼻叫喚の地獄。
 見慣れたと思っていたのに。思わず顔をそむけたリクシアを。

「大丈夫なの」

 エリセナが優しく笑って、励ました。
 柔らかな光をたたえる薄青の瞳が、強い光を浮かべて戦場を睨んだ。

「でもね、これが、ここの当たり前なの。だから……嘆いても仕方がないの。慣れるしかないの」

 ……わかっている。
 しかし、それでも割り切れないものだってあって。
 迷いを振り捨てるように、リクシアは高く右手を掲げた。
 今も。魔物と化した人間に、多くの人間が引き裂かれていく。

「……わかっているわ、ええ!」

 魔物は元は人間だ、が。そんなこと気にしている余裕はなくて。
 掲げた右手。唱えようとした魔法。
 しかし、そのとき偶然、左手があるものに触れて。
 動きが、止まる。





 触れたのは、柔らかい色の白い羽根だった。





 リクシアは、思い出す。
 だいぶ、前。極北の地で。天使と悪魔と別れた日。


 ――大変になったら使ってと、渡された白い羽を。


 今こそその時。今こそ、使うべき時。
 だって、敵の魔物は無数にいるのに。
 抵抗するこちらはそこまでいなくて。
 このままだと、負ける可能性も大きいし。
 何より、前線に出たフェロンが心配だったから。

「……それ、何なの?」
「まあ見ていてよ」

 訝しげなエリセナに強く笑いかけ、その羽根を首から外し、天に高く放り投げた。
 懐かしいあの二人の姿を。強く強く思い浮かべる。





「――フィオル! アーヴェイ! 私を助けて!」





「……待ってました」
「丁度そちらへ向かおうとしていたところでな」

 目を向ければ。
 そこには、懐かしの仲間たちがいて。
 フィオルはまだ少し翼を庇っているような感じがして、アーヴェイの右腕は異形だけれど。

 ――変わらないで、そこにいる。

 思わず嬉しくなって、リクシアは笑いかけた。

「会いたかったわ!」
「こっちこそ。で、何? 今、戦時中?」
「状況を完結に頼む。王子と王女は? 傷痕はどうした?」
「……リクシア、私、何が何だか全然わからないの」

 その後、帰ってきた疑問の嵐に。
 リクシアは短く、これまでの経緯を三人に話すのだった。
 その目は変わらず、戦場を向いていた。


  ◆


「やられるかぁッ!」

 襲いかかってきた魔物を。剣の一閃で薙ぎ払う。

「やるじゃん! 怪我人のくせに!」
「僕らの状況は特別だった。伊達に魔物と戦っているわけじゃないんだ」
「あ、それやばそう! 今度教えてくれよな〜」
「時間があったらな」

 ――大丈夫だ、戦える。

 戦場でフェロンは、ひらりひらりと優雅に敵陣を舞った。
 その瞳に情けはない。慈悲もない。優しさなんて欠片もない。
 なぜなら、今の彼は

 ――殺人剣のFだから。

 そう呼ばれていたころの彼は、手加減なんてできなかった。覚えていたのは殺しだけ。手加減なんて、している暇がないほどに自らを追い込み、狂ったように戦いを求め続けた。
 その時代の彼は、自分の命に頓着していなかった。だからこそ。故にこそ。彼は強かった。
 死を恐れない人間は。神になれるという話さえある。
 だから彼は。最後まで「殺し」を求め続け、自分のことを省みなかった彼は。
 知ることになる。





「が……ッ!」
「フェロン!」





 貫いた爪は。





 確実に、その胸を貫通し。





 致命傷を負ったのだと、彼に理解させるに至った。





 これまで彼は幾度となく死地をくぐり抜けてきたが。


 これまで感じたことのないほどの熱さと息苦しさに。





 彼は、己の死を悟った。





「フェロン、おま――」
「――フェロン!」


 マックスの声を裂いて飛び込んできた、少女の、悲鳴。
 くずおれる。赤く明滅する視界の中に映った、甘ちゃん魔導士の白い髪。

「フェロン!?」
「傷痕!」

 この場にいるわけのない、天使と悪魔の対照的な姿。
 自分の身体が、誰かに抱かれたような、感覚。
 フェロンは、目の前にリクシアの存在を確認した。

「リア……。魔導士部隊に……いた……はずじゃ……?」
「そんなのどうでもいいからぁ! 早く、早く治療を! 傷だらけのフェロンが戦うなんて、無理だったんだよぉ! 大丈夫、私が連れてく!」
「……諦めろ」

 彼女の言葉を全否定する悪魔の声が。
 鋭く冷たく響いた。

「どう見ても致命傷だ。フェロンは死ぬ。……死ぬんだ。助かりようがない」
「……ようやく……名を言ってくれたのか……」
「減らず口をたたく暇があるなら、生きろ馬鹿」
「……無理だ……って」

 アーヴェイと小さな会話を交わしていたら。
 ごぽりと口から溢れだした血液。
 ああ、息が苦しい。
 おそらく肺にも血は回ったか。
 そして心臓にはきっと、すでに傷が付いている。
 おそらく。保ってもあと数呼吸程度だと、彼は諦めた心境でそう見積もった。

 泣き出した幼馴染を。妹みたいな少女を。どこまでも甘い砂糖菓子頭の、しかしどこか憎めない明るい女の子を。守ってあげたい友人を。

 ――そして。いつの日か芽生え始めた恋心を、捧げる相手を。

 不思議なほどに凪いだ心で。
 走馬灯のように、これまでの日々を思い返しながらも。

 散り際の一言を、言う。















「――大切な時間を……ありが……とう」















 彼女と過ごしてきた日々は。
 フェロンの長くはない生の中で。
 確かな彩りと、確かな温かさを。
 添えたから。


「――――フェロォォォオオオオオオオンッッッ!!!!!!!!!! 嫌だ、嫌だぁッ! 死んじゃ嫌だぁッ! 逝かないで……! 逝かないでよぉ、フェロン。逝かないでぇッ!」


 幼いころから、ずっと一緒だったフェロン。
 リクシアの、大好きな幼馴染であり、もう一人の兄であり。

 ――恋人みたいだった、フェロン。

 そして。彼の死は。さらなる事態を。
 最も避けたかった事態を。

 呼び起こす。


「フェロン、フェロ、フェ、ロ、フェロンフェロフェロフェロォォォオオオオオオオンッッッ!」





 ――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。





「まずい!」
「止まれリクシア! 兄の二の舞になりたいか!」










 ――その身体が、異形になっていく。









 ――リクシアが、魔物になる――!









「アアア……アア……オオオオオオオオオオオオオオオ!」

「止まってよ!」
「無駄だフィオ! くそっ、オレたちが呼ばれたのはこんなことのためだったのか!? 戦争を終わらせるためじゃなかったのか! こんな……こんな、悲しすぎる後始末のためにッ! これまでの苦難の旅はどうしたッ!!!!!!!!!!」

 狂い始めたその瞳には。天使も悪魔も映っていない。
 誰もがもう、彼女は完全に魔物になり、理性を失った、そう思った。

 ――なのに。










「グォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!」










 ――別の魔物の、声が、して。





 振り向いた、そこにいたのは。
 身体中に鎖の残骸をひっつけた、
 本来ならば、グラエキアの檻にいるはずの。










 ――リュクシオン=モンスターだった。










「……嘘だ……」
「なんでここに……」

 その経過を知らない天使と悪魔でも。
 その登場は、あまりにも予想外で。

 突如現れた悲しみの魔物は。
 リクシア=モンスター? からフェロンの遺体を奪うようにして抱いて。


「オオオ……ウォオオオ……ウォオオオオオオオオオオッ!」


 まるで彼の死を嘆き悲しむかのように、空に向かって咆哮を放った。
 魔物になって。心を失ったはずなのに。
 その途端、はじけた光。
 優しく呼びかける、言葉にならない声。
 それは、リクシア=モンスター? の耳に届いて。

 光が四散した。

 次の瞬間。そこにいたのは。
 真っ白な魔物ではなくて。





 ――驚いたような顔で地面にへたり込む、魔導士リクシアだった――。





「シア! 正気に――」
「二度と闇に囚われるなy――」


「……お兄ちゃん」


 心配するハーフたちの声を遮るようにして。
 どこか虚ろな顔で、リクシアはつぶやいた。
 悲しみの魔物が。その背中が。彼女の目の前に、あった。

 リュクシオン=モンスターは振り返る。
 表情のない顔がその瞬間、明らかな「笑み」の形になった。
 それは、言った。
 いつしかみたいに、変な声ではなくて。
 
 本当の、リクシアのお兄ちゃんの、声で。


「リア」


 先ほどよりも、さらに強い光が溢れた。
 思わずみんな目を覆う。
 やがて光が晴れたとき、そこにいたのは――!










「 … … ご め ん ね 、リ ア 」










 泣きそうな顔で、魔物ではなくなった大召喚師は、呟いた。
 訳のわからない言葉を叫び、ただひたすらに、リクシアは兄に近づこうとした。
 当然だ、念願がかなったのだから!

 しかし、ここでハッピーエンドなんて、そんな都合の良いエンディング、あるわけないだろう?

 大召喚師が腕を一振りすれば。
 一気に吹っ飛ばされたリクシア。

「……お兄ちゃん……?」

 驚き、傷ついたような顔をした彼女に。
 泣きそうな顔の大召喚師は、泣きそうな声で呟いた。










「 邪 魔 し な い で 」










 ――それは。

 いつしかアルフェリオが悪夢となったときに言った言葉と。
 丸っきり、同じだった。
 後から起こることを予想して、リクシアは叫んだ。

「いやぁ! やめて! やめてよお兄ちゃん!」





「――召喚。我は『器』なり! 我に宿りて現れよ悪魔! 混沌の渦より生を享(う)け、万物を無に帰す破壊の化身!」





 ――それは、行ってはいけない禁忌の召喚術。















「――縛る鎖を解き放て! ……死色の混沌! 悪魔アバドンッ!!」















 ――なぜ。


 なぜ、彼はこんな愚行に出たのか。


 誰もわからない。わかるわけがない。


 しかし。


 彼のたぐいまれなる召喚師の技によって。


 今宵、悪魔は呼び出され。





 ――大召喚師リュクシオンの身体に、宿った――。





 それはすなわち!


「……破壊……破壊……破壊……ッ!」





 ――リュクシオンの意思が。完全にこの世から失われること――!





 リクシアは、見る。


 フェロンの物言わぬ遺体と。


 ――心を悪魔に譲り渡した、大召喚師のなれの果てを――。


「どうして……! どうして……ッ!」


 叫ぼうが、何しようが。
 関係ない。


「破壊ッ!」
「させないッ!」

 ローヴァンディア軍に向けられた、悪魔の魔法を。
 己の力すべてを込めて、受け止めて注意を引きつけた。

「お兄ちゃんは確かに私を戦争に勝たせようとしたのかもしれないよ……。でもね、駄目。こんな方法じゃ、駄目ぇッ! お兄ちゃんが悪魔になればッ! ローヴァンディア軍は壊滅だよ! だけど……」

 混沌の悪魔、アバドンは。
 絶対に、そんな程度の破壊では、満足しない。
 ローヴァンディア軍がやられたら、次に矛先が向くのは。


 ――リクシアの、方だ。


「お兄ちゃんの馬鹿ァッ!」


 叫び、その目から滂沱と涙を流しながらも。
 魔物化はしない。そう心に固く誓って。





「わかったわ、お兄ちゃん! それがあなたの答えなんだ! ならば私は! ……あなたを、全力でぶっ潰すッッッ!」





 どこで間違えたのだろう。
 リュクシオンが一瞬、元に戻った瞬間。
 リクシアはハッピーエンドの予感を感じた。
 たとえフェロンが死んでしまっても。
 みんなでまた、幸せになれるって!

 でも、そんなことはなかった。
 あの瞬間。人間に戻ったリュクシオンは。
 己の身に悪魔を宿し。自らの意思を完全に消し去ってまでして、戦争を終わらせようとした。
 いつもの彼ならば絶対に。そんな真似、しないのに。
 温厚で優しくて。急展開を嫌う彼なら――。

 ――なのに!

 なのになのになのに!

 おかしいんだ、この現実が!
 有得ないんだ、この真実が!

 ハッピーエンドなんて、存在しなかった!

 今、目の前にあるのは。
 完全なる悪夢!

 リクシアは、後ろに控える仲間たちを見た。


「邪魔しないでね。これは私とお兄ちゃんの、戦いなんだから」


 今ならわかる気がする。
 あの王族たちの、言っていた、

 ――責任感、という意味が!





「あなたの悪夢を終わらせられるのは――私しかいないッ!」





 間接的にだが。この状況を呼んだのはリクシアだし。
 第一。リュクシオンを倒すのは、リクシア以外にはあり得ないから。

 涙を振り払って。悲しみを乗り越えて。
 死んだフェロンに削ってもらった、イチイの杖を天高く掲げた。
 そこに集まるは風と光。
 リクシアの属性で、杖に新たな形が追加されていく。
 やがて生ま変わったそれは。簡素な木の棒から。

 ――その頂点に輝ける不死鳥の彫刻を戴いた、シンプルな純白の杖へと変じた。

 兄を倒すため。兄に乗り移った悪魔を倒すため。
 想いが生んだ、その杖を。


「……デイ=ブレイク」


 夜明けと名付けて。
 
 
 その杖を、リュクシオン=アバドンへと向けた。
 悪魔の乗り移った青の瞳が、瞬時に赤色へと染まる。

 もう泣かない。もう嘆かない!
 これが私の選んだ道だ! その先に幾ら悲劇があったとしても!
 乗り越えてみせろ、乗りきってみせろ!

 リクシアは、壮絶に笑った。














「――さあ。殺戮ゲームの、始まりよ」














 解き放たれた混沌の悪魔の力と。
 純粋な想いから成る、光の力が。

 抗い合い、叫びを上げながらも。


 ――火の粉を散らし、ぶつかりあった――。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ……藍蓮です。予告通り、シリアスすぎる50話、お届けいたします。

 人は死ぬわ魔物化するわ、なんだかんだ言って最悪ですね。
 この話は前々から考えていたものなのですが、時間がなくて出せませんでした。
 しかし。多忙な状況が終わった今日、書かせていただきます!

 悲しみと絶望の戦いが幕を開ける。
 その戦いの結末とは――!

 終盤に向かって一気に駆け足な「カラミティ・ハーツ」!
 次の話に、請うご期待!

※気がついたら、閲覧数500行っていたんですね。皆様ありがとうございます。
 ローヴァンディア編が終わったらアルヴァトの短編を書く予定がありますので、しばしお付き合いください。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep51 明けの見えぬ夜 ( No.55 )
日時: 2017/09/11 16:10
名前: 流沢藍蓮

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 杖を構えて風を呼ぶ。光を呼ぶ。思いを乗せて。
 対する悪魔は闇の力で。リクシアを引き裂こうと襲いかかる。
 そして戦争は再開される。人々は彼らを遠巻きにして。再び争い始める。

 ――そこは、地獄だった。

 愛する者と戦わされ。悲しみの海を行く。
 終わらぬ戦乱、終わらぬ悲劇。
 死んだフェロンの望んだ平和は。今は一体いずこにあるや?
 リクシアは、この世界が嫌いだ。この醜く、悲しみしか呼ばない世界が。
 しかし。
 現実があるから。

 目の前にいるのは兄ではない。
 兄はとっくに死んだんだ!
 そう思いこみ、杖を振った。光が相手の肌を焼き、風が衣を引き裂いた。

 リュクシオン=アバドンは唸り声をあげてリクシアに迫り、闇の力のこもった腕を突き出すが。

「無駄よッ!」

 死んだフェロンに教えてもらった棒術。
 杖の先端で地を突いて、大きく後ろに跳びすさり、
 唱えるは、想いの呪文!


「闇夜にこそ咲く純白の花、荒野にこそ吹く枯れた風。報われぬ運命に抗いて、今こそ見せよ、その真価! 彼方(あなた)呼ばうは炎の瞳! 穢れなき白、想いの赤!」


 それに警戒して襲い来る悪魔を。
 撃退しようとしたフィオルが吹っ飛ばされ、アーヴェイが悪魔モードを解放する。
 それでも目を逸らさない。それにも心を揺らさない。それが自分にできること!


「悪夢の律法、その目を開けて! 今、運命を、書き換えよ!」


 警戒した悪魔もまた、ある邪法の用意を始める。
 それでも止まらない。
 たとえ相討ちになったって!
 自分ができることを。最後まで、全力でやるだけだ!


「光と風と、溢るる想い! 解き放て――!」


 その魔法の名前は――!














「 ― ― エ ル フ ェ ゴ ー ル ッ ! 」















 放たれた。
 光と風が。
 悪魔乗り移ったリュクシオンに向かって。

 そして。

 放たれた。
 闇と氷が。
 正義へと突き進む、リクシアに向かって。

 光と闇。風と氷。
 対抗する属性の魔法が。
 互いに術を完成したばかりで、防御の態勢の取れない二人を。
 包み込む。
 爆発する。
 押し流す。
 捻り潰す。

 抵抗なんて、する暇がない。
 仲間の声が遠く聞こえる。

 光放ったリクシアは。
 溢れる闇に、身体中を蝕まれ。
 砕ける氷に、身体中を引き裂かれた。
 これまでにない苦しみが全身を襲うが。
 闇に閉ざされる視界の中で。
 自分と同じように苦しむ悪魔の姿を、視認した。

 当然だ、悪魔が100%の力を出し切るには。
 人の身体を『器』なんかにしないで。
 直接降臨させてもらえば、済む話。
 なのにリュクシオンは、そうさせなかった。
 それは。
 異常な行動をとった彼の。
 最後の理性の表れだろうか。
 しかし、もう彼はいない。
 永遠にいない。
 完全に、この世から消え去ってしまった。
 悪魔に己の身体を譲り渡し、己の意識を消滅させた。
 だから。
 わからない、わからない、わからない。
 もう、二度とわからない。
 けれど、仕方がないことなのだと、リクシアはぼんやりと思った。

 闇は己を蝕んでいくが。
 胸の羽根が。
 青い羽根が。
 アルフェリオの、遺した羽根が。
 彼の唯一の遺品が、強く強く輝いて。
 光り出す。
 それは闇を払う力になった。

 ――まだ、死ねない。

 こんな状況の中では。
 まだ、死ねない。
 リクシアは目を開けた。
 いつしか苦しみは消えていて。
 闇もまた、晴れていた。
 倒れたのは、悪魔の方。
 その唇が、言葉を紡ぐ。

 ――完全に消え去った、はずなのに。





「さヨうナラ」





「……お兄ちゃん」

 倒れたリュクシオン=アバドンは。
 その身体から、黒いもやを立ち上らせながらも。
 身体から完全に悪魔が抜けて。
 ただの大召喚師の姿となって、そのまま死んだ。

 ああ、彼は、死んだ。
 死んだのだ! リクシアが、あれほどまで追い求めてやまなかった「お兄ちゃん」が!
 彼女の旅の、最終目標が!

 そしてその視界の隅に、新たなる悪夢が映り込む。
 ぐったりとして動かないフィオルを抱いて。
 魔物となったアーヴェイが、敵味方見境なく、狂ったように暴れ始めていた。

 ああ、こんなところで終わるのか。
 フェロンが死に、リュクシオンが死に。
 フィオルが死んで、アーヴェイが狂って。
 エルヴァインとグラエキアは無事だろうか。
 しかし、どうせもう、旅は終わりだ。

 涙にかすむ視界の中。
 リクシアは完全なる絶望というものを理解した。
 戦いの終わったリクシアとリュクシオンの戦場。
 敵軍兵士が剣を持ってリクシアに近寄ってくる。
 ああ、自分も終わるのかな。
 敵軍兵士に殺されて。

 でも、もうどうでもいい。
 諦めたような心境で、そう思った。
 何をやったって。時は巻き戻りはしない。
 この絶望的な状況が、変わることなんて――。

 ――と、思っていたのに。

 リクシアは思い出す。ある伝説を。
 その名も、「時戻しのオ=クロック」。
 エルヴァインが一度だけ口にした、ウィンチェバル王国に伝わる不思議な物語。
 そんな逸話、信じてなんていないけれど。
 目の前に剣の反射光が迫る。
 時間がない。
 だからリクシアは、藁にもすがる思いで、その名を口にした。





「――オ=クロック!」





 その途端。リクシア以外のすべての時間が、止まった。



〈第七章 了〉

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep52 巻き戻しの秘儀 ( No.56 )
日時: 2017/09/12 13:48
名前: 流沢藍蓮

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「――オ=クロック!」


 絶望の中、呼んだ名前。
 その途端、リクシア以外のすべての時間が止まった。
 リクシアは、見た。
 この戦場に、現れるはずのない神聖な影を。


「……呼びましたか?」


 優雅に笑って。長い髪をはためかせ。身体のあちこちに時計をくっつけた、男とも女ともつかぬ姿。右手には、巨大な時計の嵌めこまれた杖を持つ。――時戻しのオ=クロック。

 ウィンチェバルに伝わる伝説にある。この世界には、時戻しのオ=クロックなる、気まぐれな神がいると。その神は、人の人生をその人の生涯の中で一度だけ、「戻してほしい時間」に巻き戻すことができるという。巻き戻された人は、「元の時間」の記憶も持ったままで過去へ飛び、そこで起きた悲劇を食い止めるなどして、新しい人生を始めることができる、と。そんな伝説が、あった。

 その神は、呼べば来るという。その人の人生において、たった一度だけ。
 絶対に変えたい過去を、変えてくれるのだという。

 人の選択肢やその先にある未来は、無数に枝分かれした木みたいなものらしい。オ=クロックは、その枝を、枝から枝へ渡らせる力を持つ。枝そのものはなくならないが、その枝にいた「本人」は消える。巻き戻しを行った時点で、巻き戻しを行う前にいた「本人」は、「前の枝」にはそもそも存在しなかったことになる。

 それはあくまでも伝説だった。誰も本気にしようとはしなかった。
 ――なのに――。

「……オ=クロック」

 もう一度呟いて、リクシアは目をごしごしとこすった。
 消えない。いなくならない、『時戻しのオ=クロック』は今、目の前にいる!
 時計ばっかりくっつけた、不思議な神様は、男とも女ともつかない声で、言う。

「あなたが私を呼んだのですか?」

 リクシアは、うなずいた。
 変えたかった、この現状を。
 すべてが悪夢に終わった現在を。
 希望も潰え、死ぬしかなかったこの今を。
 だからリクシアは、言った。
 強い、強い、強い、声で。

「戻して、欲しいの。フェロンが死ぬ前に。すべての悲劇が始まる前に――!」

 思えば。フェロンの死から、全てが狂い始めたといっても過言ではないのだ。
 決意を込めて、言う。

「戻してくれたら、変えてみせるわ。この――あたしが!」

 変えなければならなかった。この悪夢を変えられるなら。
 この悲しみの現在に。二度とたどりつかないようにできるなら。

「あなたは時戻しのオ=クロックでしょ! ならば変えて! あたしは今ここで、生涯に一度の願いを使い切るから! この先何があったって――絶対に! 今よりひどくなるなんてこと、あり得ないんだから!」
「……いかにも。私は時戻しのオ=クロック。貴方の決意は本物ですか?」
「嘘だったのなら、ここで死んでる!」

 オ=クロックは、そうですかとうなずいて。
 巨大な時計の嵌めこまれた杖を、天に掲げた。

「いいでしょう、貴方の思い、受け取りました。今日の朝に時を戻します。しかしチャンスは一度きり。その一度を逃したら、もう二度と、時を戻すことはありません。それが私の規則ですので」
「わかってる。その一度で、あたしは絶対に未来を変えてみせるんだ!」
「承知。ただし一つ忠告が。あなたの胸元にあった天使の羽根、それは使わない方が無難でしょう」

 リクシアは、首をかしげた。

「……どうして、そんなことまで教えてくれるの?」

 オ=クロックの冷たい面に。
 一瞬、微笑みのようなものがよぎる。

「運命神の決めた運命が、あまりに気に食わなかったものでしてね」

 言って、オ=クロックは彼女に呼びかけた。

「……この時間軸からおさらばする覚悟が、できましたか?」
「当然よ! あたしは未来を変えてみせる!」
「ではそろそろ移動しますが、よろしいでしょうか?」
「お願い! 戻して!」
「承知いたしました」

 オ=クロックは、構えた杖をサッと横に凪ぐ。
 その途端、彼もしくは彼女の身体中に付いた時計の、針が。
 異常なほどのハイスピードで、逆回転を始める。

「時戻しの秘儀!」

 時計の針が、目に見えないほどのスピードになっていく――!










「――輪廻……サムサーラ!」










 瞬間、光が溢れた。
 リクシアは、時計だらけの不思議な空間にいた。
 後ろにはオ=クロックがいる。前には光放つ扉がある!
 リクシアは迷わず、扉の方へ歩いて行き、その取っ手に手をかけた。

「変えるから」

 決意を込めて、扉を開いた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep53 好きだから ( No.57 )
日時: 2017/09/17 14:47
名前: 流沢藍蓮

 ……誠に申し訳ございませんでしたぁ!

 更新が遅れました、5日間も。なぜなら。
 ……身内に不幸があったのですよ。それでもう、てんてこ舞い!
 状況が落ち着くまで、更新は不定期になりそうですね。落ち着いても不定期になりそうかもです。
 いろいろと事情があって、リアルが忙しいのですよ……。
 すみません、ご了承願いますですハイ。

 というわけで、久しぶりの投稿なのです。
 今日は割と時間がある方ですので〜。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 目が覚めたら、今日の朝だった。
 強制徴兵令で、戦に駆り出された日の、朝。

「強制徴兵令ね……」

 変わらず、もたらされた知らせに。
 リクシアは達観したようにうなずいた。
 変えるのは今じゃない。兵士たちが来てからだ。
 これまでの会話なんてすべて覚えているわけがないから。若干シナリオは変わるだろうけれど。

 その情報を聞いて、苦い顔で、エルヴァインは頭を抱えた。

「僕はとっくに……ばれているだろうな」
「加勢するわ」

 グラエキアが、強い笑みを浮かべた。

「グライア、だが」
「魔導士は剣士とは違って、まだマシな待遇を、受けられるとは思うけれど?」

 ……何はともあれ。
 時が、来たのだ。戦いのときが。
 再び、再び!
 今度こそ、間違えない。
 リクシアは大きくうなずいた。

「私、立ち向かうから」

 傷の治りきっていないフェロンに、笑いかけた。
 ふと胸元を見れば、そこにあるのは三枚の羽根。
 これでフィオル達を呼んではならない。それが惨状につながるから。
 心の中で小さくうなずいて、羽根から意識を切り離す。

 時だった。


「扉を開けろ! そこにウィンチェバル人がいるのはわかっているんだ!」


 声が、して。
 ああ、ついに再び時が来たのかと、思った。
 リクシアは真っ先に扉に駆け寄り、開けた。


「私はリクシア・エルフェゴール! ウィンチェバル人。魔物になった、リュクシオンの妹よ!」


 堂々と名乗って。
 その手を差し出した。


「徴兵するんでしょ? すればいいわ! 私は光と風の魔導士! 役に立てるんじゃないかしら!」


 自ら進んで名乗り出て。悲劇の未来を変えるんだ。
 決意を込めて、差し出した手。
 徴兵に来た男は、そのあまりに堂々とした態度にびっくりしたようだが、首を振って言った。

「お前だけじゃないだろう! 他のみんなも、出て来い!」

 グラエキアは、ちらりと後ろの檻を見た。大丈夫だ、しっかり隠蔽されている。
 徴兵係には、ばれていない。
 グラエキアは、エルヴァインとともに、進み出た。

「ならば名乗るわ。私はグラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。今は亡きウィンチェバル王の姪っ子よ!」
「エルヴァイン・ウィンチェバル! ウィンチェバル王の第三王子だ! しっかりとした待遇を望むね」

 その、凄すぎる名乗りに。徴兵係は一瞬、固まって。

「……善処いたします!」

 そう、叫ぶしかなかった。
 最後に、フェロンがふらりと現れた。
 彼は剣士だが、生憎怪我が治りきっていない。しかも顔の左半分には大きな傷跡があり、完全に左目は見えない。それでも戦えというのだ。この国――バルチェスターは。
 そして、やがて彼は死ぬ。それですべてが崩壊する!


 ――だから、変えるんだ!


 フェロンは、淡々と名乗った。

「フェロン。剣士だ」
「戦えるか?」
「それなりに」
「なら、戦え」
「……承知」

 その言い分は、以前とまったく変わらず。
 リクシアは苦く微笑んだ。
 変えなければならないんだ、悲劇の未来を。
 そのためには。フェロンが戦場に出てはならないと、踏んだ。
 未来改変は、大きな犠牲を伴う禁忌。
 それでも。
 リクシアは直感する。
 今こそ。変えるべき時だと!

 リクシアは、泣きそうな顔でフェロンを見た。
 これから彼女がやることは。本当にやりたくないことだ。
 それでも。彼の命がそれで助かるならば。


 ――やるしか、ない。


「……フェロン」
「何だ」
「ごめんね、フェロン。私を……許してくれる……?」
「……? いきなりどうした。わかるように説明してくれ」


「――こういうことよッ!」


 リクシアは杖を天に差し上げて。風を呼ぶ、光を呼ぶ。
 何のために? 誰に対して?
 それは――。

「あなたには死んでほしくないの! だからお願い、よけないで!」

 泣きながら、放つ、魔法。
 杖を向ける相手はフェロン。

「な……ッ! 血迷ったか、リア!」
「血迷ってなんかない! これが最善の策なんだ! ……切り裂け、風よ!」

 風の刃が。的確に、フェロンの利き腕である左腕を狙って飛んでくる。
 こうでもしなければ、こうでもしなければ!
 彼が戦えないようにしなければ、徴兵をまぬかれることはできないんだ!
 泣きながらも。叫んだ。

「避けないでェッ!」

 ……フェロンは、動けなかった。
 腰の剣に手を伸ばせば。風の刃くらい、弾くことはできたろうに。
 ……動けなかったのだ。

「く……ッ!」

 切り裂かれた腕。利き腕の左。
 確かにここをやられれば、彼は戦えない。
 戦えない戦士に意味はない、から。そういった者は徴兵しない。
 強引な方法ではあるが、それは確実な方法で。
 彼が戦えなくなったのを見てとったあと、リクシアは魔法をやめた。
 呆然とする徴兵係に涙声で一言。

「……これで、フェロンを外してくれる?」

 徴兵係はしばし、声を失っていたが。
 やがて、我に返って。

「は、はい。戦えない戦士に意味はございませんので……」

 言って。
 他の者の相手もせずに。
 その場から逃げるように去って行った。
 残されたのは、泣き続けるリクシアと、あっけに取られたフェロンと、目を瞠ったグラエキアと、顔をしかめたエルヴァインだけ。
 室内には。フェロンのものである血が飛び散っていた。

「……リクシア・エルフェゴール」

 エルヴァインが、低い声で言った。
 その顔は、ひどく冷たい。

「フェロンを失いたくないのはよくわかった、が。だからと言って、徴兵を逃れるためにここまでするのはやりすぎだと思うぞ。彼は優秀な戦士だ。……戦えないことはなかったろうに」
「……エルヴァインには、わからないよ」
「何だと?」

 わからない。わかるわけない。
 エルヴァインだけじゃない。他のみんなだって。
 だって、これはリクシアにとって「あの悲劇が起こる前」の「過去」で。
 誰も知らない。
 あの時味わった喪失感と、限りない絶望感なんて。
 あの時リクシアは地獄を見た。虚ろなる深淵を覗いた。

 だけど、気づいたことだってあるんだ。
 それは、暗い感情から成るものではなくて。
 失ったことで気がついた、本当の気持ち。


 幼いころから、ずっと一緒だったフェロン。
 リクシアの、大好きな幼馴染であり、もう一人の兄であり。


 ――恋人みたいだった、フェロン。

 
 生きているうちに。今こそ。
 気持ちを伝えるんだ。
 それが、何よりも大きな理由になる!

 ――その感情の正体は、愛!

 リクシアは、勇気を出して告白する。





「……私、フェロンのことが、好き、なの」





 辺りが驚愕に包まれる。
 リクシアはあふれ出た思いに任せて。泣きながらもその先を言う。

「……だから。だから! 死んでほしくないんだ! 戦いになんて、出てほしくないの! だって、私はフェロンのことが好きなんだもの! フェロンを守るためなら、私の心が傷ついたって、何だってする!」

 だから、唱えた。だから、傷つけた。
 悲しみの未来からすべてを救うためだけじゃない。
 好きな人を、守りたいから!

「ごめんなさい……ごめんね、フェロン! でも私、こうするしか……ッ!」
「……わかった、もういい」

 左腕の手当てを終えたフェロンがリクシアにそっと近づいて行き、その頭を軽くぽんと叩いた。
 彼はまだ気づいていない。自分の心を満たす、リクシアに対するこの感情が何なのか。
 しかし、彼は知っている。それはひどく、温かいものだ、と。

「……気遣ってくれて、ありがとな」

 その言葉を聞いて、リクシアは花が咲いたような笑顔で笑った。

「当然でしょ! フェロンが好きだから!」

 気づいたら、簡単だった。この絆、この思い。
 二度と失ってなるものか。
 幼馴染のフェロン、緑の戦士!

 しかし。彼の徴兵はまぬかれても。
 リクシアは行かなくてはならないから。
 強く笑って、戸口に立った。

「じゃあ、行ってくるわね」

 そうさ。悲しみへの要素は排除したけれど。
 この戦を、終わらせなければ。
 完全なる回避はあり得ないから。

「……魔導士は、避けられないのか」
 
 呟くように言ったフェロンに。
 リクシアは強い笑みを返す。

「避けられないけど、危険は少ない! 私は絶対に、この戦乱を勝ち残るんだから!」

 待っていて、欲しいんだ。悲しみも何も知らないで。
 みんなには、幸せでいてほしいんだ。
 リクシアはそっと目を閉じて、誓う。

 ――傷つくのは、私だけでいいから! 他の人は傷つけさせない!

 かくしてリクシアは、本格的に戦に加わることになる。
 改変した未来。フェロンのいない戦場。

 ――リュクシオン=モンスターの、暴れださない戦場!

 この戦の結果がどうなるかはわからないけれど。
 早く終わらせて、戻し旅を再開したい、そう思うリクシアであった。
 戦乱だけが、すべてではない。本来の目的だって、きちんと覚えているさ。
 色々と紆余曲折があったけれど。またいずれ、再開できるだろう

 ――待っていて、お兄ちゃん。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 どーも、藍蓮です。
 時戻しのオ=クロックの力を借りて。過去改変がスタートしました。
 次に赴くは、戦場。
 リクシアはこの戦に、終止符を打てるのか――。
 次の話に、請うご期待!


※ 明後日以降はまた更新が不定期になります。
  ……ご了承ください。

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