ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 外伝 常闇の忌み子
日時: 2017/08/13 19:17
名前: 流沢藍蓮

 ――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。

  ◆

 どーも、藍蓮です。

 「カラミティ・ハーツ」を書いていて、想像が大きく膨らんだので、あるキャラの外伝を書きたいと思います。
 誰の話かは……。本編をEp20まで読めばわかるはず! 章のタイトルのまんまだし!
 一応、「カラミティ・ハーツ」を知らない人にもわかる仕様にしますが、知っていれば、より楽しめること確実です!

 それでは。物語の世界へご案内♪


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 昔々、王国があった。その王国の名はウィンチェバル。
 小さいけれど、資源が豊かな国で。しょっちゅう侵略されてきた。
 でも、今は、ないんだ。国を救おうとした召喚師が。誤って国を滅ぼしたから。
 諸行無常だね。あんなに栄えた国が、あっけなく。

  ◆

 僕の名は、エルヴァイン・ウィンチェバル。ウィンチェバル王国の第三王子。

 ――その生まれに、訳あったから。「忌み子」として、さげすまれた。

 聞いてほしい物語が、ある。

 つまらないものかもしれないけれど。それは――僕の物語だ。

 常闇の忌み子と呼ばれた、或る王子の物語――。

  ◆

 INDEX

1 師匠と僕 >>1
2 僕の日常 >>2 ※いじめ要素あり
3 僕と母上 >>3
4 僕を縛る「闇」>>4
5 僕のともだち >>5
6 僕の休日 >>6

Page:1 2



カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 2 僕の日常 ( No.2 )
日時: 2017/08/11 10:51
名前: 流沢藍蓮

※いじめ要素あり

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「…………」
「偉いねぇ、エルは。こっちは大助かりだなぁ」
 石の敷かれた道を、歩く。
 二コールは上機嫌で、どっさりと買い物をしていた。
「あれもいいし、あれもほしいし……。それっ。はい、よろしくー」
 荷物がドンと積み上げられる。
 それを持つのはいつも僕。逆らったら、何されるかわかったもんじゃない。従うしかないんだ。……僕は立場が弱いから。
 精一杯伸ばした両の腕に。かかる重さは果てしない。
 当然だ。二コールはあえて、重いものばかり買っているんだ。
「これよろしくー」
 腕にかかった新たな重さ。乗せられたのは、金の杯。
「これ、壊れやすいからな。落とすなよ、絶対に落とすなよ?」
「…………」
「返事はどうした!」
 殴られた。
 あ、まずい。
 殴られたひょうしに、バランスを大きく崩して。。
 金の杯が、腕からすっぽ抜けた。
 地に落ちて。
 大きく、
 ゆがんだ。

「――貴様ァッ!」

 激怒した二コールは、剣で鞘ごと、僕に殴りかかった。
 何も持っていなければよけられたのに。今、僕の腕の中は、二コールの荷物でいっぱいだ。
 渾身の殴打が僕を襲う。
 よけられない衝撃が、全身を震わせた。
「ぐあぅッ!」
 容赦ない一撃。
 もう一発。
「あぐぅッ!」
 全身に走る痛み。
 さらに一発。さらに一発。さらに一発。
 果てしない殴打。
 骨は折れたか。ひびだって入ったかもしれない。
 僕は何もしていないのに。いつもこんな目にあわされる。
 ――これが、僕の日常なんだ。
 これを師匠が見たら、きっと二コールを殺してしまう。
 僕は師匠を犯罪者には、したくないんだ。
 大切な人だから。
「う……あ……」
 引き裂く痛みに朦朧とする意識。
 僕は痛みと、必死で闘った。

「へい、お疲れさん」
 やがて、終わった殴打。僕は涙目で兄を見た。
「泣かないんだな。可愛くないやつ」
 言って、町を後にする。
「俺の荷物、拾っておけよ」
 無情な言葉を残して。
 町の人は、そんな僕らを。ただ遠巻きに眺めるだけだ。
 当然だ。こんな、王族同士の醜い争いになんて、誰が進んで関わろうとするものか。
 僕は激痛をこらえ、身体の被害状況を確認する。
(あばらが三本、それと右腕……? まずい、下手に動くと悪化する……)
 特にあばらはかなりまずい。慎重に動かなければ、肺が傷ついてしまう。
(で、右腕、か。こんな状況で、どうやって運べって言うんだ)
 唯一使える左腕には。闇が這いあがりつつあった。
(万事休す、だな)
 足は何ともないみたいだが……。手ぶらで帰ったら殺されるかもしれない。
 だから剣を習ったんだ。強くなるために。
(でも、この怪我じゃあ)
 身を守れる、訳がない。
 これが僕の日常なんだ。日常茶飯事なのさ。
(往復を繰り返すか)
 闇の這いあがる左腕は激痛がする。が、怪我があるわけではないので、これを使えば。
 左腕を使い、なんとか立ち上がって。
 散らばった荷物を回収する。
 どれもこれも重いから。一つずつ、拾って。
 遠い王宮へ歩いていく。傷の手当もそのままに。
 日が暮れても。夜になっても。僕はずっと往復を続けた。
 やがて、全てを運び終わった頃。
 門はとっくに閉じていて、僕は城に帰れなかった。
「……今日は、黒星」
 小さくつぶやいた。
 動かない左腕だけで、なんとか即席の手当てをする。
「……夜は、冷えるんだよね」
 でも、帰れないのだから仕方がないか。
 僕はあきらめ、町に戻って。
 そこらに生えている街路樹にもたれて、傷に障らないようにして、眠ったんだ。
 明日は訓練場にいけないなぁ。師匠にどう言い訳しようか。
 そんなことを考えながら。

 これが、僕の日常だった。

 だから僕は、人が嫌いだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 3 僕と母上 ( No.3 )
日時: 2017/08/11 12:38
名前: 流沢藍蓮

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 朝になった。僕はふらふらと立ち上がり、城の門まで歩いていった。
 門番が、僕を見た。嘲るように。蔑むように。
 そんな目線には慣れっこだから。僕は無視して部屋へと向かう。

 その途中で、母上に出会った。
 いつもは離宮にいるはずの、母上に。

「……エルヴァイン……?」
 母上は僕を見た。僕の傷ついた姿を見た。僕に向かって手を伸ばして、その後で肋骨の骨折に気付き、その手をひっこめた。
「ああ……なんてこと……。エルヴァイン……」
 母上の瞳に涙がたまる。母上はそのまま泣きだした。泣きながら、言う。
「エル、エル、私のエル……! 手当てしてあげるから……ついておいで……」
 正直、この不自由な身体では。満足な手当てもできないから。
「……ありがとう」
 呟いて。母上の後についていった。

 母上は、弱い人だった。
 精神的にも、身体的にも。
 そもそも母上は侍女だった。美しい顔と美しい声。それに一目ぼれした父上が、母上を強引にベッドに連れ込んだんだ。
 母上が願っていたのは、そんな偉大な人に見初められることじゃなくて。普通の生活をし、普通の人と結婚し。普通の毎日を送ることだけだったのに。
 それで、僕が生まれた。『常闇の忌み子』と嘲られ、蔑まれる僕が。
 ただでさえ、「侍女のくせに」と王宮でいじめられていた母上は、さらにいじめられることになって。父上に頼んで、離宮を用意してもらったんだ。それで、ようやく何とかなったけど、母上が「忌み子」を産んだという事実は、彼女の風評をさらに悪くした。

「……ああ……なんてひどい怪我なの……」
 母上は、泣きながらも、僕の手当てをしてくれる。
「あなたはなにも、悪くないのでしょう。なのに、なのに、こんな……」
 耐えられないわと、泣くのだ。
「あなたは私の子供なのに。ああ、気が狂ってしまいそう……」
 母上の白い手が、そっと胸に触れた。走った激痛に思わずうめく。
 母上は、悲しそうだった。
「エル。……つらいなら、離宮に来てもいいのよ……?」
 折れた肋骨を手早く固定しながらも、そう提案してくれた。そして、自分の出した案に、自分で喜んだ。
「そうよ、それがいいわ! そうすれば、私もあなたも傷つかないで済――」
「それはできない」
 母上の言葉を、僕は途中で遮った。
 母上は、とても悲しそうな顔をした。
 ああ、母上。そんな目で僕を見ないで。
 母上は、泣き出しそうな顔で、言うのだ。
「……エルは……私が嫌いなの……? 嫌いだから、そんなこと言うの……?」
 誤解が生まれているようだった。僕はゆっくりと首を振り、その言葉を否定する。
「違うよ。僕は母上が好きだ」
「なら、どうして……!」
 理由は簡単。

「強くなりたいから」

 子供みたいな理由だけど。
「強くなって、強くなって。いつしか兄上たちを見返してやる。……それが僕の復讐なんだ」
 離宮には、師匠は来ない。離宮にいては、強くなれない。
 だから僕はここに残る。それが僕の矜持なんだ。
「いじめになんて、屈しない」
 力強く、言った。
「僕は、僕のために。全力で抗うつもりだから」
 その言葉を聞き、母上は悲しそうに笑った。
「あなたは……私みたいに、平穏なんて、望んでないのね」
「…………」
 泣き出しそうに、笑うのだった。
「私は……あなたと一緒に、あの離宮で、穏やかに暮らしたかったけど……。それは叶わぬ夢なのね」
「……ごめん」
「あなたが謝ることじゃないわ、エル」
 言って、彼女は僕の身体を抱き寄せた。
 手当てが終わり、身体が少し、楽になったような気がした。
「……母上……?」
 彼女は僕を、細い腕で抱きしめた。
「ごめんね……ごめんね、エル……。こんな身体に産んじゃって。つらかったでしょう、苦しかったでしょう。ごめんね……母さんを許して……」
 母上の流した涙が、僕の服を濡らしていく。
「……そうじゃない」
 僕は、小さく首を振った。
「母上が謝ることじゃない。生まれたことは喜びだよ。だから、僕は言おう」
 どんな身体に生まれたって。産んでくれたことは事実なのだから。

「……産んでくれて、ありがとう」

「…………!」
 母上は、驚いたように目をしばたたかせた。僕は、続ける。
「許してだって? 許すも何も。母上は僕を産んでくれた。それだけで十分だ」
 だって僕は、生きているから。
 そう言ったら。
 母上は、少し嬉しそうな顔をした。
「……あなたを産めて、よかったわ」
「あなたの息子で、良かった」
 穏やかな視線が、交わった。
 母上は、話を切り替えて、言った。
「……エル。その怪我じゃ、みんなの前に出るのは無理よ。今日は離宮においでなさい。久しぶりに、親子の時間を過ごしましょう……?」
 申し出は、ありがたかったけれど。
「師匠のところに、行かなきゃならないから」
「その怪我で!? あの人には私が言っておくから……」
「ありのままを伝えたら、師匠はきっと、兄上を殺すよ。僕は師匠を犯罪者にしたくないんだ。だから、直接会いに行って、しばらく剣の練習はできない旨を伝えて……言い訳を、言わなくちゃ」
「私も行くわ」
「ごめん、来ないで」
 申し出を、退けた。
「僕の些細なミスでこうなったって、伝えなきゃならないんだ。母上が来たら、どんな大事が起きたんだって、疑われちゃうだろ」
「……そっか」
 母上は、素直にうなずいた。
「じゃあ、離宮で待っているから。用がすんだらすぐ戻ってきてね。あと……悪い子たちに、つかまらないでね……?」
 「悪い子たち」というのが、兄上たちのことだと分かって、僕は苦笑いした。
 母上に、その手を差し出す。
「約束する」
 言って、僕は部屋を出た。
 言い訳を、考えなくちゃ。
 師匠が殺人犯になっちゃう。
 それは、嫌だから。

 その背中を、母上が心配そうに、泣き出しそうに、見守っていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 4 僕を縛る「闇」 ( No.4 )
日時: 2017/08/11 19:03
名前: 流沢藍蓮

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 訓練場へと向かう途中で。不意に身体に激痛を感じ、思わず僕はうずくまった。
「――――ッ!」
 何か怪我をしたわけじゃないのに。何なんだ、この痛みは。
 思わず左の腕を見れば、底から這い上がってきた闇が。
(食ってる)
 蝕むように、貪るように。僕の全身を冒していたのだった。
 前々からあった常闇の呪縛。これまでは左腕だけだったのに。
 それは腕を這いあがり、地獄の痛みとともに全身に広がっていく。
「うあ……ぐ……!」
 歯をくいしばって耐えようとするが。蝕む闇は、止まらなくって。
「師匠に……会わ……な……きゃ」
 立ち上がろうとするが、全身がふるえて、身を起こすことすらままならなくて。
「ああ……ぐ……あああ……!」
 耐えきれなくなり、ついに僕は。痛みのあまり、絶叫した。

  ◆

 不意に、絶叫が聞こえた。

 って、おい? 誰だよ? 一体何があった!
 俺はあわてて立ち上がり、声のした方に駆け出した。
 すると。
「エル坊!?」
 そこでは、俺の可愛い可愛い弟子が、絶叫を上げながらのたうちまわっていた。
「何があった! 誰がやった! おい、聞こえるかエル坊!」
 そして、俺は見た。エル坊の身体中に巻きつき、貪るようにうごめいている、漆黒の闇を――!

「……常闇の忌み子、か」

 そう呼ばれる所以たる黒い闇。
「だがなぁ、俺はそういった、魔術的なモンの専門家じゃぁねぇんだよ……」
 俺じゃあ、エル坊を救えない。
 でも、少しでもできることをしなきゃあ、な。
「エル坊、エル坊! 聞こえるか! 俺だ、ヴェルンだ! とりあえずお前を動かすからな! 大丈夫だから!」
 そっと腕を伸ばし抱きかかえる。あいつはまだ、暴れていた。
「ったく、ホントに難儀な身体だよなぁ」
 抱えた身体は驚くほど軽くって。
「ちゃんと飯食えよ、なぁ?」
 思わず声をかけた。
「師……匠……」
「無理すんな」
 言って、俺の部屋まで運んでいく。
 途中。
 気がついた。
(こいつ……怪我してやがる)
 右腕と、肋骨。手当てのされた跡がある。
(なんかあったら言えって、ちゃんと伝えたのによぉ)
 痛みはひいたらしく、ぐったりしたエル坊は、答えない。
(ったく、心配掛けさせやがって)
 ため息をつきながらも。俺は自室に戻った。

  ◆

 目を覚ますと、師匠の背中が見えた。
「……師匠……?」
 僕は声をかけた。師匠は何か作業中らしく、僕に背中を向けたまま、言った。
「まだ寝てろ。話はあとから聞く」
「…………」
 身体の痛みは消えていた。這い上がってきた漆黒の闇も。
 それでもまだ身体がうずくのは、肋骨と右腕の怪我があるからだ。
 しばらくして、師匠は作業を終え、僕の方を向いた。
「さあ、説明してもらおうか。エル坊、一体何があった?」
 ありのままを言うわけにはいかない。僕は適当に話をでっち上げ、崖から落ちたと説明した。
 その返答を聞くと、師匠はどこか、腑に落ちないような顔をした。
「崖から落ちて、崖から落ちて、崖から落ちて……。お前の怪我した理由を聞くと、いつだってそれだ。お前は馬鹿じゃない。なのに、なぜそんなにしょっちゅう崖から落ちるかねぇ。……もしかして、落とされたんじゃ?」
 師匠はなかなか鋭かった。
 だけど、その時。
 師匠の優しい言葉と。
 嘘をついているという罪悪感から。
 助けてほしいという、僕の本音があふれ出た。
「…………ニコール」
「え? なんだって?」
 言いかけた言葉は、止められない。
「二コールなんだ。二コールが、こんなことしたんだ」
 いつも、じっと耐えてきた。だけどね、ニコール、兄上。

 ――仏の顔も三度まで、という言葉を、知っているか――?

 直情径行の師匠は、「ぶっ殺す」とは言わなかった。
 ただ一言。
「つらいならそう言えって、言ってるだろうが」
 言って、僕の頭をくしゃくしゃに撫でまわした。
「ニコールか。あの鼻もちならねぇガキ。あいつがお前をボロボロにしたんだな? 今回の大怪我も、あいつのせいか?」
 僕がうなずくと、師匠は任せろと親指を上げた。
「なら、俺の知り合いに頼んでやる。まだ少女なんだが、俺よかよっぽど弁論が立ってなぁ。あの子に鼻っ柱を折ってもらうぜ」
 
 ……「ぶっ殺す」なんて、言わなかった。師匠はちゃんと大人だった。
(結局深読みしすぎで杞憂で、それで状況改善が遅れたなんて)
 馬鹿じゃないのか、僕は。何を足踏みしていたのか。
 師匠は悲しそうな顔なんてしなかった。弱い母上とは違うんだ。

「あ、そうそう、エル坊」
 不意に師匠が声をかけてきた。
「お前、記憶力に自信はあるか?」
「……なんの、こと」
 師匠は誰かを思い出しつつ、苦い笑いを浮かべた。
「いやさ、その子、めっちゃ長い名前を持っていてなぁ。それを一度聞いただけで覚えられた人には、無条件で味方するって言う、謎の行動原理で動いているんだよ。あまりにも名前が長いんで、俺はグライアと省略して呼んでいるが」
「……グライア? 女の子なの?」
「そうさ」
 師匠は、ニッと笑った。
「グラエキア・アリアンロッド。お前の従姉だよ、エルヴァイン」

 ……未来、僕は彼女に救われることになる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ……やぁ、皆さん。
 次の話は、僕とグラエキアの話だ。
「短編集」で知っている人もいるかもしれないが、こっちは僕視点。
 別に、全然大した話でもないけどね。あの日、僕と彼女は出会った。

 そして、僕の未来は。一気に明るくなったんだ。

カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 5 僕のともだち ( No.5 )
日時: 2017/08/11 22:55
名前: 流沢藍蓮


「僕の話はいいからいい加減本編書きなよ」
「『常闇の忌み子』の章書いたら疲れきってしまった」
「主人公が活躍してないよね? あと、無駄に僕を苦しめるのやめてくれる?」
「世の中に犠牲は必要なのさ」
「……いい加減にしようか、藍蓮さん」
「茶番済みませんでしたー! (前書きを書けない仕様だからここで弁解した)
 ちなみに、この話の内容は「短編集」とほとんど同じらしいよ」

 さてと。
 閑話休題。僕の話に移ろうか。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 あれから、しばらく。僕は母上の離宮で療養していた。久々の親子の時間は穏やかで、幸せな時間を過ごせたと思う。

 で、僕は。その日、久々に離宮から出た。怪我も治ったし、身体もなまっていることだし。師匠にまた会って、稽古をつけてもらうんだ。
 そこで。大嫌いな兄上と、大嫌いな姉上と。すれ違った。

「だからアンタは邪魔なのよッ!」
「ゴミめ、しっしっ、あっち行け!」
 朝から敵意丸出しで。暴言を吐いてきた兄上と姉上。
 まあ、もう慣れっこなんだけど。
「アンタなんて、死んじゃえばいいのッ!」
 それを言ったのは実の姉。
 殴ってきたのは実の兄。
 いつもみたいに殴られて。吹っ飛ばされて、地面に転がった。
「なんだよ? 睨んでんじゃねぇよ!」
 今度はブーツの爪先で蹴られて。
 剣を覚えたって、いじめは終わらない。
 ここで剣を使ったら、犯罪者になってしまうんだ。
 だから。
 いくら、今がつらくても。唇を噛んで耐えるしかない。
 僕は剣を覚えたけれど。喧嘩の仕方は知らないんだ。
「……剣の師匠のところに行くんだ。邪魔しないでくれるか」
 努めて冷静な口調で言って、衣服の埃を払い、立ち上がった。
 その背を。
 剣の鞘で、殴ってきた兄ニコール。
「剣の師匠? 真面目なもんだねぇ。ならこの一撃を、受けてみろッ!」
 まずい。
 そんなものを叩き込まれたら。
 場所によっては、死ぬぞ。
 中に入っているのは、剣。
 鉄の武器なんだから。

 倒れ込んだ僕の脳天に、重い革の鞘が、

 打ち込まれなかった。


「――あなたたちは、弱い者いじめがお好きのようね」

 
「…………!」
 不意に現れた漆黒の少女が、その手を前に差し出していた。
 手から現れた漆黒の鎖が。剣の鞘を縛り付けていた。
 この人が、助けてくれたみたいだ。
「誰だ貴様はッ!」
 ニコールが吼える。
「知らないの? あらまぁ、あなたたるお人が! 従妹の名前一つ、覚えられないなんて。これは失礼いたしましたわ」
 芝居がかった仕草で例をして、名乗る。

「私の名前は、グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド」

 その名乗りを聞いた時。僕は師匠の言葉を思い出した。
『グラエキア・アリアンロッド。お前の従姉だよ、エルヴァイン』
 彼女の名乗った名前は。
 グラエキア・アリアンロッド。グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド! 確かに長い名前だが。僕の記憶力ならこのくらい余裕だ。

 彼女はふわりとほほ笑んだ。
「さて、質問。私の名前は?」

 ニコールは憤慨して、叫んだ。
「ふざけるなよッ! そんな長い名前、覚えられるわけが――!」
「じゃ、あなた、名乗ってみなさいな」
「いいだろう! 聞いて驚け! 俺の名は――!」
 ニコールは朗々と名乗りを上げる。ニコールも……無駄に長かった記憶がある。
「ニコール・マクスウェル・グリージィアルト・ヴェヌス・フォン・クライシス・ローリヌス・ヴァン・ダグラス・ウィンチェバル! もう一回言ってみろ!」
「簡単よ。ニコール・マクスウェル・グリージィアルト・ヴェヌス・フォン・クライシス・ローリヌス・ヴァン・ダグラス・ウィンチェバル」
 グラエキア・アリアンロッドは。こともなげに言って返した。大した記憶力だ。
「なッ――貴様ッ!」

「だから、もう一度問うわ」

 悪魔の笑みを、浮かべて。彼女は言った。

「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。さて、私の名前は? 言えないわけがないわよね? 私があなたの名前を、しっかり言えたのだから」
「く、くそッ!」
 ニコールは、唇を噛み、叫んだ。
 そう言えば、ニコールのこんな顔、見たことがない。
「グラーキア・アルディヘイム・フォン・ヴァイナ・アリアンロッド! これでどうだッ!」
 ……ミスを連発し始めた。
「……訂正していい?」
 グラエキア・アリアンロッドは、見てられないわと首を振る。
「まず、グラーキアじゃなくってグラエキアだから。で、ドはどうしたの? クラインレーヴェルもないし、ヴァイナじゃなくってヴァジュナだし、位置もフォンのあとじゃないし……。めちゃくちゃね。それでよく、自分の名前を覚えられたものよね」
 冷静な口調で、侮辱した。
「貴様ァッ!」
 二コールは彼女に殴りかかろうとしたが、彼女が漆黒の鎖を呼び出すと、その身体は拘束された。
 それは、僕の「闇」とは違うものだけれど。似たものの匂いが、した。
「外せッ!」
 叫ぶ二コールに。
「私の名前は?」
 悪魔みたいに笑って、問いかけた。
「グランキア・ラーディヘルム――」
 案の定、間違えれば。
「情けないわね」
 彼女はふうと溜め息をついた。
「こんな人が、王族だなんて」
 言って、倒れたままの僕に、手を差し出した。
 そして、問う。
「私の名前は?」
 あんなに聞けば。覚えるのなんて楽勝だ。
「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド」
 答えたら。

「上出来」 

 彼女は優しくほほ笑んだ。
「あんな馬鹿より、あなたの方が、よっぽどいいわ。あなたの名前は?」
「……エルヴァイン・ウィンチェバル」
 長ったらしい名は、持っていない。
 そう答えると。
「短い方が、覚えやすいものね。私だって、あんなに長い名でいつも呼ばれていたら、たまったものじゃないから、さ」
「……グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド……」
 手を握って、立ち上がった僕に。
「グラエキアでいいわ。だから、私も。……エルヴァインって、呼ばせてくれる?」
 彼女は、言うのだ。
「あなた、そんなに賢いんだからさ。あんな馬鹿にいじめられるなんておかしい。いじめられないように、考えたらどう?」
 僕は、うなずいた。
 小さく、礼を言う。
「……ありがとう、グラエキア」
「私の名前を間違えずに言えた人は、助けることにしているのよ」
 それが、彼女との出会いだった。

 未来、僕のかけがえのない友達となる人との――。
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 とまあ、こんなふうに終わるけど。
 「短編集」(オリジナル)とほとんど内容変わらないけど。
 この話は、書かなきゃいけないと、思ったから。

 読んでくれて、ありがとう。

カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 6 僕の休日 ( No.6 )
日時: 2017/08/13 19:13
名前: 流沢藍蓮

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ねぇ、どこか行かない?」

 その日、僕のもとを訪れたグラエキアは、そう言った。
「いつも王宮暮らしじゃつらいでしょう。私、綺麗な場所を知っているの」
 ……確かに、そうかもしれない。
 兄上にこき使われている時以外。僕は王宮の外というものを知らなかった。
「いいけど……外出許可は?」
 尋ねれば。グラエキアは、おかしそうに笑うのだった。
「そんなもの。なくたって」
 裏道があるのよ、と僕に言う。
「そこを使えば出るのは簡単。私、ただのおしとやかな姫君には、なりたくはなくってよ。こう見えて、裏道とかには詳しいのですわ」
 悪戯っぽく笑ったグラエキア。おもしろそうだと僕は思った。
「行きたい。……教えてくれる?」
「当然よ。ついてきて」
 機嫌良さげに歩くグラエキア。僕はそのあとについていく。
 ああ、いいことがありそうだ。

  ◆

 生垣に空いた穴をくぐり、井戸の中から顔を出す。そんな冒険まがいのことは、僕を少しわくわくさせた。そして歩く道すがら。いつもと違って見える、町の喧騒。
 それはどこか新鮮で。警戒と疑念に凝り固まった僕の心を、そっと解きほぐした。

 そしてたどり着いたのは。
「…………!」
 突如ひらけた、緑の絶景。
 目を瞠るような、緑の海。
「ここは……」
 グラエキアは、ふふと笑った。
「王都は高い所にある。誰も攻めてこられないよう、その端のところは絶壁になっているのよ」
 ……聞いたことがある。そんな話を。
 ここ、王都ウィストリアは、絶壁に建っている。
 攻めにくく、守りやすい。自然の要塞に、という記述を思い出した。
「でもね、ここは」
 グラエキアが、手を広げて深呼吸した。
「それだけじゃない。絶壁の下は、ほら。……こんなに綺麗」
 これを見せたかったのよ、と彼女は僕に笑いかけた。

「だって、あなた。いつも寂しそうなんですもの」

 ……寂しそう、か。
 確かに、あの王宮には。楽しいことなんて何もなかったし、味方らしい味方は師匠くらいしかいなかった。いじめを恐れ。嘲りを恐れ。いつも目立たないように、柱の陰に隠れていた。
「あのねぇ、エルヴァイン」
 明るく、彼女は笑った。
「つらかったら、言ってもいいのよ? 大丈夫。私はヴェルンさんみたいに直情傾向じゃないし。二コールを見たでしょう? お望みなら、あなたの姉様の鼻っ柱だって、私はへし折れるのよ」
 僕は、苦笑した。あの日。あの、はじめて出会った日。
 言葉だけで、二コールをぼこぼこにしたグラエキア。
 そうだね、そうだ。僕は、誰かに頼ることを知らないんだ。
 グラエキアでもいいから。何かあったら、人に相談することが大切なんだ。
「ありがとう、グラエキア」
「グライアでも、いいわよ?」
 グラエキアは、微笑んだ。悪戯っぽく、笑った。
「私がねぇ、あの長い名前を一番省略して呼ぶことを許すのって、あなたで三人目なんだから」
 グライア。口にしてみると、響きが凛々しい。
 グラエキアは、言うのだった。
「ま、だから」
 言いながら、歩き出す。
「何でも相談してよね。ヴェルンさんなら、私の居場所を知っているし」
 僕は、彼女についていく。
「じゃ、そろそろ帰ろっか。抜け出しっぱじゃ、心配されちゃう」
 そうだね、と僕はうなずき、最後にもう一度振り返った。
 うねる緑の海。美しい風景。休日が終わったら、見られなくなるから。
「エルヴァインー?」
「すぐ行く、グライア」
 グラエキアの声を受け、僕は目線を外した。

 ああ、楽しい休日だったな。
 久しぶりに、心から楽しめた。

 小さな幸せを感じながらも。僕らはその場を後にした。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

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