ダーク・ファンタジー小説
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- 【本文修正中】SoA 夜明けの演者
- 日時: 2017/10/22 11:26
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=598.png
※ SoAはStories of Andalsiaの略です。
長すぎるので略しました。
※ ただいま本文修正中です。変な所が多すぎたので。
あ、でもたまには番外編も更新しますよ?
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〈導入部〉
柔らかな春風が肌を撫でた。
少女から大人になった彼女はそれに目を開け、草むらに転がらせていた身を起こす。
身を起こして立ち上がれば。輝かんばかりの金色の髪が風に揺れ、彼女の視界にも入ってきた。
春。その季節に、彼女は遠い日を思い起こす。
彼女が「みんな」に出会ったのは秋で、春に「みんな」を失った。
春は暖かくて幸せな季節だけれど。彼女にとって春とは、切なく痛む悲しみの季節でもある。
暖かな春空。優しい空気。その中で彼女は一つ、呟いた。
「……わたし、大人になったよ……?」
大人になる前に死んでしまった仲間を思って、彼女はそっと目を閉じた。
その紫水晶の瞳から、こらえきれぬ涙が一つ、二つ。零れ落ちていって、乾いた地面を濡らす。
彼女の名を、フルージアといった。
——そう、これは彼女、フルージアの物語。
「演者」と呼ばれる特殊な才を持った少女の、最も鮮やかだったころのものがたり——。
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Index
第一部 アスフィラル劇団 >>1-6
序章 フルージアの初舞台 >>1
二章 夜明けの演者 >>2-3
三章 力と未来 >>4-6
第二部 セラン特殊部隊 >>7-20
一章 新しい仲間たち >>7-8
二章 初陣は突風とともに >>9
三章 流転の善悪 >>10-14
四章 切れない絆 >>15-17
五章 束の間の夢だけど >>18-20
第三部 戦乱の彼方に >>21-32
一章 覚悟を決めろ >>21-22
二章 命の序列 >>23-26
三章 天秤に掛けるなら >>27
四章 燃える生き様 >>28-30
五章 爆発の太陽(エクスプロード・サン) >>31-32
エピローグ どんな夜にも…… >>33
あとがき >>34
メロディーのないテーマソング >>35
後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば >>36
♪
《番外編1 風色の諧謔(かいぎゃく)》
第一章 始まりのオルヴェイン >>39-44
1 10の誕生日に >>39
2 「化け物」と呼ばれた子 >>40
3 束縛を脱して >>41
4 二人の絆 >>44
第二章 師匠とともに >>45-
1 嵐の瞳 >>45
2 我らレヴィオンの生徒たち! >>46
3 青玉の証 >>47
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どーも、藍蓮です。
今作は、趣味で書いていた話を文芸部に提出したら、「長すぎる」と言われ、40000字も泣く泣くカットする羽目になった話の完全版です。つまり、完成した原型があります。それをちょっと推敲するだけなので……。まぁ、投稿ペースは速いと思いますよ。
それではでは。不思議な世界にご案内♪
(地図を添付しました。URL参照)
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補足 この世界の魔法の仕組み(時々更新?)(すみません、複雑です)
〜アンダルシア魔道原則〜
1 この世界には魔法素(マナ)と呼ばれる、意思を持たないエネルギー粒子が無数に飛び交っている。それは、ある異種族(イデュールの民)以外の目には見えず、通常は人々に認識されないし、ただそこにあるというだけで、別段、人に害を及ぼすものではない。
2 この世界で言う「魔導士」とは、無数に飛び交う魔法素を才能で特定の形に組み、それを破壊することで、空間をゆがませたりひずみを加えたりして高エネルギー体である魔法素に働きかけ、何らかの事象を引き起こす人々のこと。魔法素を組み、破壊することそのものが「魔法」と呼ばれる。
3 魔法素には、それぞれ関与できる事象が異なる一団、通称「属性」がある。魔導士は魔法素を組めないと話にならないが、個人の適性によって、どの「属性」の魔法素が組めるかが大きく異なる。
たとえば「火」の魔導士は「火」の魔法素を組んで火に関する事象を起こせるが、それ以外の魔法素は少ししか扱えない。
とはいえ魔法素の基本は同じで、「属性」はそれにわずかに付与された「特性」みたいなものだから、「火」の魔導士でも、弱い事象ならば「水」や「風」も操れる。
4 この世界で言う「魔力」とは「魔法素を組める力」のこと。これは運動すれば体力が減るのと同じで、魔法を使えば魔力が減る。体力が減れば身体的に疲れるが、魔力が減れば精神的に疲れる。
7 この世界には、「反魔法素(アンチマナ)」と呼ばれる、魔法素よりも大きい、意思を持たないエネルギー粒子がややまばらに飛び交っている。反魔法素には魔法素でつくられた術式そのものを破壊し、ときにはその術者にさえ影響をもたらすことがある。
8 反魔法素は凡人はおろか通常の魔導士でさえ操れないが、操れる者もいるにはいる。彼らは「破術師」と呼ばれ、その存在は非常に貴重である。反魔法素を使えば、呪いの類はもちろん、攻撃魔法や補助・妨害、離脱・移動魔法、発動前の、まだ魔法素を組んだだけで破壊していない魔法すら壊せる。
しかし「破術師」は破術にのみ特化しており、魔法は一切使えない。
9 この世界には、「原初魔法素(オリジンマナ)」と呼ばれる、魔法素と反魔法素の中間ぐらいの大きさの魔法素が存在する。それは、何の属性にも染まっていない魔法素のことで、「属性による事象(発火、突風、落雷など)」が起こせない代わりに、集まることで力を成す。
要は、目に見えぬ拳で殴ったり、目に見えぬ壁で攻撃を受け止めたり、などということが可能。ただし、どれも通常の魔法素に比べると威力が劣るが、その術式は決して破術では破壊できない点が特徴。
10 「原初魔法素」使いは「無属性魔導士」と呼ばれる。属性の一切こもっていない「力の球」などで攻撃をされると対処が難しいため、割と応用範囲は広い。「破術師」ほど稀少ではないが、これを使える者は少ない。無属性魔法は破術での打ち消しができないが、消費魔力が多めの上に、属性魔法よりも威力が劣るので何とも言えない。
結論;三つの魔法素は、どっちもどっちの能力である。
12 特珠職業「魔素使(まそし)」は、魔法素を武器や盾として実体化させて戦うが、それに使われる魔法素は原初魔法素である。要は、無属性魔導士の派生職。魔素使は破術師並みに人数が少ない。
実体化させた武器や盾は、本人の意思によって、あるいは本人の意識の消滅によって消えてしまう。
13 魔法素を組む方法は個人によって異なるが、「詠唱」として言葉に出して行う者が多い。頭の中の考えがバラバラだとできる式もおかしくなるが、言葉に出すことによって、考えに指向性を持たせて正確な式を作る。
詠唱の言葉はその人のアドリブで構わないし、技名をつけるのも勝手なので、特にそのあたりに決まりはない。技や詠唱=人それぞれ、と言ったところか。
19 魔法素は目に見えず、普通は触れられないため、感覚的に組まれる。慣れぬ者は頭の中で式を組んでから術を使うが、慣れた者は頭の中で式を組まなくとも、無意識に術を使える。
魔導士として大切なのは理論ではなく、才能と勘と経験である。理論だけでは魔導士には決してなれない。
26 神も悪魔も精霊も死者も。一定の条件が整えば、人間と契約し、その力を貸し与えることができる。契約の方法はそれぞれ違い、あらゆる決定権は人間でない側にあることがほとんどである。
ちなみに。「召喚」と「契約」は似て非なるものである。
32 神や悪魔、精霊は気まぐれに人間と契ることがある。(ときには逆、あるいは相互もある)これを「契約」と呼ぶ。
「契約」は召喚ほどの強制力はないため、互いに信頼し合っていることが大切である。(人間の上位に当たる存在から契約を迫ってきた場合、信頼がなくとも契約できる)
33 人間の力には「魔力」「体力」「生命力」の三つがある。わかりやすくたとえてみよう。
ここに一つの器があるとする。その真ん中には仕切りがあり、左右それぞれ別の液体が満たされているとする。このうちの片方が「魔力」、もう片方が「体力」、器そのものが「生命力」である。
この中で「魔力」が減って(使われて)も、仕切りがあるため「体力」は減らない。その逆もしかり。ただし、人によって「魔力」と「体力」の配分は異なる。つまり、仕切りが偏っていることがある。
しかし、「生命力」、つまり器そのものが削れたり欠けたりすれば、「魔力」も「体力」も、満たすことのできる絶対量が必然的に減る。いくら「液体」があろうとも、「器」が小さければあふれるばかりで、全てを収めることはできないのだから。
「生命力」すなわち「生きる力」である。だから、これがなくなれば人は死ぬ。「死」はいわば、「器が砕ける」ことである。
【ごちゃごちゃしてきたし、本編に関係のない原則も出てきたので、いずれ整理します……】
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速報!
2017/8/31 この作品が、小説大会ダークファンタジー部門で、次点を獲得しました!
いえ、次点ですけどね。あくまでも次点。
ですが、本当に、心から嬉しく思ったので!
皆様、ありがとうございました!(うれし泣き)(号泣)
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2017/8/17 連載開始
2017/9/12 本編終了
2017/9/24 番外編1 風色の諧謔 開始
- Re:コメ返し ( No.43 )
- 日時: 2017/10/03 00:38
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
今日はダーク・ファンタジー更新する気がなかったのですが、何となくのぞいてみたらびっくりしました(゜o゜)
>>42
読んでいただけたんですか、ありがとうございます!
三人称小説なので上手く心理描写ができたか自信はなかったのですが……。そう言っていただいてうれしいです♪
伏線回収……あれれ、なんか色々書きすぎて、どこのことなのかわからなくなっちゃいました。自分の作品なのに……。えーと、良かったらそのフレーズだけでも教えてくれませんか? ざっと読み返してみましたが何がなんやら(汗)
部隊メンバー、ほとんど出ないままで使い捨てにしちゃったキャラが三名くらいおります(汗)
主人公は……「力」が活かしきれていない結果になってしまったのではと落ち込んでいます。まあ、性別も私と同じですし、歳も近いので感情とかは書きやすかったです。私は自分の作るキャラを自分と近い歳にしがちなのです。
リクセスは個人的にも好きです。アイオンは……幼い子供ですからあんな口調になりました。彼女の短編もいずれ書きます。本編ではあまり活躍できなかったですし。
能力は考えるの苦労しましたが、この世界「アンダルシア」は異能の宝庫ですから! まだ出していない特珠職業とかたくさんあるんです。特殊部隊は異能のサラダボウルですが、10人いてもまだ網羅しきれていなかったり。
はい、キャラの散らせ方を考えるのには一番苦労しました。同じ死に方をしても面白くはないですし。死に方にも「個性」って必要なんですよね〜。
最初から「あの人数」生き残らせることは決定事項だったので、後はどのようにして生き残らないキャラを美しく死なせるか、ずっと考えていました。
ちなみにこれでも人数削減した方です。物語が一番膨らんでいた時は部隊メンバー19人もいたので流石に扱いきれんわと思い、一気に削減しました。本来なら「あのキャラ」は裏切らず、そこに別のポジションのキャラがいたのにそのキャラを消したことで彼が裏切る羽目になったという。そこから悲劇につながったので、私は彼に恨まれてますな(笑)。そういう裏事情が実はありました。
わぁい、読者様がいる!
はい、更新頻繁に頑張ろうと思います。モチベーションが急上昇です!
素晴らしい感想、どうもありがとうございました!
読んだ瞬間、感動しましたよ……!
- 風色の諧謔 1-4 二人の絆 ( No.44 )
- 日時: 2017/10/04 20:49
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
以降のコメントは、藍蓮の所有する雑談スレにてお願いいたします。
コメントはめっちゃ嬉しいのです!
しかし目次の作成上の問題もありますしねぇ。
よろしくなのですよー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
4 二人の絆
◇
暖かい。ふわふわした感触。ここはベッドの上らしい。
翌朝。リクセスは朝の光に目を覚ます。自分の家ではない。なぜこんなところにいるのだろうと記憶をたどれば、父親に殴られて兄に助けられたことを思い出す。今いる場所は、騎士の寄宿舎だということも。
そして、彼は感じた。
「僕は……自由になったんだねぇ」
もう、魔法を隠さなくてもいい。こっそり生きなくたっていい。
しかしそれは、両親との永遠の断絶をも示していた。
決して好きな両親ではなかったが、リクセスにとって彼らは、まぎれもない家族で。
解放感と同時に、彼はどことなく寂寥感を覚えた。
様々な思いを抱えながらも、彼はそっと身を起こす、が。
「…………ッ」
昨日受けた傷の数々が激痛を放ち、たまらず彼はベッドに倒れ込んだ。
すると、それに気づいて、部屋の奥から何者かが現れた。
落ち着いた茶色の髪、深い海の瞳。
リクセスの兄、ヴィクトールだ。
「おっと、まだ起きるなよ」
彼は優しく笑って、リクセスにスープの椀を差し出した。
「簡単に動ける身体じゃないんだから無理するな。……と言っているそばからだが。起きれるか? 俺の友人がスープ作ってくれたんだ。身体はつらいかもしれないが、何か食べないとまずいだろう」
その言葉にうなずき、もう一度起き上がろうと力を込めたリクセスの背を。ヴィクトールの大きな腕がしっかりと支え、姿勢が楽になるようにしてくれた。リクセスは何とか兄の手からスープの椀を受け取り、匙で中身をそっと掬った。
口に入れたスープは温かくて甘い。身体中にじんわりと力が満ちていくのを、リクセスは感じた。
「美味しい……」
「それは良かった。あいつ、大雑把な奴のくせに料理だけは上手いんだ」
リクセスは微笑んで、静かにスープを掬っていく。
やがて食べ終わり空になった椀を、兄に突き出した。
「食べたな? よし。こっちはお前が動けるようになるまでは動かないから、遠慮なく休んでいいんだぞ?」
いつもリクセスには甘いヴィクトール。
両親はあんなに冷たかったのに。
ヴィクトールは彼を、「化け物」と呼ばないんだ。
「兄さんは」
純粋に疑問に思って、部屋を去りゆく兄に言葉を投げる。
「僕を、化け物と呼ばないのかい?」
「呼ぶわけないだろう」
当たり前さと言わんばかりに、ヴィクトールは鼻を鳴らした。
リクセスは首をかしげた。
「……どうしてだい? 父さんも母さんも、僕をそう呼んだのに」
だって、と彼は去りゆく戸口から振り返って言った。
「大切な、弟だからさ」
ヴィクトール・オルヴェイン。
彼の所属する騎士団では、生真面目でお堅い奴として名が知られているが、実は彼は。
——大変な、弟思いなのであった。
◇
それから一週間ほど。
完調とはまだ言えないが、リクセスの受けた傷もそれなりに癒えてきたから。
ヴァランも連れて。リクセス、ヴィクトール、ヴァランの三人で、王都を目指す小さな旅が始まった。
旅そのものは平穏で、特に何事もなく王都についた。
その日は夜だったから、ある小さな宿に泊まった。
そしてその次の日、リクセスは彼の人生を左右する、ある大魔導士に出会うことになる——。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 風色の諧謔 2-1 嵐の瞳 ( No.45 )
- 日時: 2017/10/07 13:27
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1 嵐の瞳
◇
「で、その大魔導士というのは何処にいる」
「まぁ、ついて来いって」
王都に到着した次の日。リクセス達はヴィクトールの騎士仲間であるヴァランの案内に従って、王都を歩いていた。
この国セランは治安がいい。その王都ともなれば設備も整っていて美しい。美しい白亜の町並みは、それ自体ですでに芸術品のようだった。
ヴィクトールがリクセスを気遣いつつも、向かった先には。
「……ここが、大魔導士様の家?」
拍子抜けするほど簡素な家が、立っていた。
いや、広い。確かに広い。そこらの家より圧倒的に広い、が。
「……質素なのがお好きなようだ」
その家の周囲にある家に比べて、余計な装飾がまるでないのだ。だから簡素に見える。よく見ればなかなか広いのに。
ヴァランはそうさと笑った。
「いい人だぜぇ? 力はあるのに金にも権力にも興味がないんだ。どこまでも潔白な心を持っていてなぁ」
「どこぞの騎士とは大違いなんだな」
「あぁん? 何だとてめぇ、このヴィクトール!」
「…………喧嘩はやめようよ? みっともない」
「「悪かった」」
突如勃発した小さな喧嘩を鎮めながらも、リクセスはその簡素な建物を見上げた。
自分はこの人の弟子になる。
どんな人なんだろうと、思いを馳せた。
◇
「よっすー、レヴィオン。ヴァランだぜぇ? 入ってもいいかー」
いかにも旧知の間柄みたいにして、ヴァランが簡素な家の扉を叩く。すると、呆れたような声がして扉が開いた。
「師匠は今忙しいよー。何の用で来たのさ」
扉を開けて顔をのぞかせたのは、ミントグリーンの髪にエメラルド色の瞳を持った少女。さわやかな印象のする彼女は、後ろにいたリクセスとヴィクトールに目を留めた。
「あらら、お客さん? なら、待って待って。とりあえず中にあがっていいよ?」
彼女の招きに従って、二人はそっと中に入る。ヴァランがサッと扉を閉めた。
入った瞬間、すぐに目に入ったのは綺麗な応接間。外装とは違いここは豪華だ。革張りのソファがあり、天井にはシャンデリア。目の前にある机はよく磨いた木で作られているらしい。
大魔導士の家と聞いたからもっと乱雑な所を想像していたリクセスは拍子抜けした。思ったよりもきちんとしている。
先ほどの少女が奥からティーポットとカップを三つ持ってきて、リクセスとヴィクトール、ヴァランの前に置いた。彼女はリクセス達に問う。
「初めまして、私はミューシカ。レヴィオン師匠の弟子よ。あなたたちは何の用でここに?」
それにはリクセスが答える。
「僕はその人の弟子になりたいんだ。……居場所が、ないから」
ミューシカと名乗った少女は、なるほどとうなずいた。
「この家にはそういった人が数多く来るわ……。うん? そこの騎士様は付き添いかしな?」
「そうだ。俺はヴィクトールという。そこのヴァランとは腐れ縁だ。弟は身体が弱いから、それで」
「了解。じゃ、ちょっと待っていて。多分、師匠なら受け入れてくれるよ?」
明るく笑って彼女は奥へ向かった。
「師匠を呼んでくるから、お茶でも飲んで待っていてね」
◇
しばらくして。
奥の方にあった扉が開いて、灰色のローブをまとった男がミューシカを伴って現れた。
一部白いものの混じった灰色の髪、嵐の空のような灰色の瞳。
その男は、全身で魔法の気配を発していた。
嵐の瞳が、リクセスの翡翠の瞳をとらえる。
男は問うた。
「ミューシカから聞いた。私はレヴィオン。そなたが私の弟子になりたいと志望する者か」
全身で威圧感を発する男。しかしリクセスはひるまず、その瞳をしっかと見つめる。
「そうだ。僕は貴方の弟子になりたいん……」
「リク!」
だ、と言おうとしたところで。
不意にめまいを感じ、リクセスはふらついた。
その身体をヴィクトールが支えてやろうとする前に、男が手を伸ばして支えた。
その嵐の瞳は、何もかもを見透かしているかのようで。
男は一目で看破した。
「……そなた、身の内に病を抱えているな?」
すぐに見破られたことにリクセスは驚いた。ふらついたのはほんの一瞬。なのに。
男は小さく微笑んだ。
彼は、言うのだ。
「……その病、取り除いてやろうか?」
「…………?」
リクセスもヴィクトールも首をかしげた。ただヴァランとミューシカだけが、理解の色をその目に浮かべている。
男は何をしようというのだろう。
彼は、言うのだ。
「人の命は器のようなもの。器の中に満たされた液体がその人の命だ。それは少しずつ減っていき、それが尽きたら人は死ぬ。たとえ話をしようか。今、一つの『命の器』がある。しかしそれは虫によってかじられ、少しずつ命が漏れだしている。その流出を止めるには?」
彼は手を伸ばし、そっとリクセスの胸に触れた。リクセスは一瞬身を固くしたが、「そのまま」と彼が言ったので動かずにそのまま突っ立った。
彼は、言うのだ。
「簡単だ。その虫を退治すればいいだけの話」
瞬間。
彼の手が触れたところから一気に光があふれ出して。
そしてリクセスは知った。己の身体を蝕む病魔が、抜け切ったことを。
不思議と軽くなる身体。リクセスは驚きとともに、レヴィオンを見た。
彼は穏やかに笑っていた。
「魔法は誰かを救うこともできる。これでそなたはもう大丈夫だろう」
笑って、彼はリクセスにその手を差し出した。
「ようこそ、我らが学びの家へ。弟子になりたい? ああ、歓迎しよう。帰る場所がないのならばここに住み込んでも構わない。こんな男だがな? これからよろしく頼む」
その手を握って、リクセスは再度、嵐の瞳を見上げた。
その瞳は確かに嵐の灰色だけれど。そこには確かな光があった。
リクセスは大きく息を吸い込んだ。
「……リクセス・オルヴェインです。よろしくお願いいたします!」
後ろを振り返れば。ほっとしたようなヴィクトールと、にやにや笑うヴァラン。歓迎の意を込めて瞳を輝かせるミューシカがいた。
新しい日々が、始まる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 風色の諧謔 2-2 我らレヴィオンの生徒たち! ( No.46 )
- 日時: 2017/10/09 10:49
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2 我らレヴィオンの生徒たち!
◇
「何かあったらしっかり頼れよ」
そう言い残してヴィクトールはいなくなった。リクセスは笑顔で兄を見送り、改めてレヴィオンの前に立つ。
全身から鋭い魔法の気配を放ち、威圧感を与える男。
でもリクセスは恐れない。強気に笑って男を見た。
「いい目だ」
満足げにレヴィオンはうなずいた。
「そうそう。私の弟子はミューシカだけではないのだ。そなたはこれからここで学ぶ。ならば共に学ぶ者くらいは知っていた方が良いと思ってな。紹介しよう。……ミューシカ、呼んできてくれるか?」
「了解!」
レヴィオンが声をかければ。ミューシカは部屋の奥へすっ飛んで行った。
しばらくして。
奥から現れたのは、ミューシカ含めて三人の人影。
見知らぬ二人。一人は水色の髪と青い瞳を持った、冷たい印象の少年。
もう一人は、ショートボブの金髪に、明るい紫の瞳の少女。
少し気弱そうな金髪の少女は、リクセスを見てミューシカに訊いた。
「えっと……この子が新しい仲間なの?」
それに答えるはレヴィオン。
「そうだ。折角だから互いに自己紹介しようか。ミューシカ、リクセス、お前たちもだ。名前と何の魔導士か、くらいは言った方が良いだろう」
レヴィオンの言葉にうなずき、ミューシカが一番手とばかりに前に進み出る。
「改めまして! 私は風魔導士のミューシカ。お料理が得意で運動もできます! 師匠の弟子の中では私、一番の古参なんだー」
彼女がふわりと微笑めば。何もないのに軽く周囲で風が巻き起こった。
全身で自由な風を表しているような少女だった。
次に進み出たのは青い少年。彼は自分の胸に手を当てた。
「お初にお目にかかる。僕は氷魔導士のラルヴィ。ラヴィと呼んでくれて構わない。……以上だ」
簡素で簡潔なあいさつだが、飾らぬところにまた好感が持てる。
最後に進み出たのは金髪の少女。彼女は大きくお辞儀をした。
「初めまして、人形使のルフィアです。えっと、良かったら仲良くしてください!」
気弱そうな瞳が泳ぐ。ミューシカが、「そんなにビビらなくても」と苦笑した。
さて、最後はリクセスの番だ。リクセスは軽くお辞儀をして名乗る。
「特殊魔導士『組師』のリクセス。多分、やろうと思えば全属性使えるよ? これからよろしく」
そう名乗れば。ミューシカが驚きをあらわにして叫んだ。
「ええっ、全属性使えるんだ!? すごいねー」
その目に浮かぶのは、確かな歓迎の光。
皆の自己紹介が終わったのを見計らって、レヴィオンが切り出した。
「さて。新しい弟子を迎えた時の定番なのだが……。歓迎会を兼ねて、皆で王都を回ろうと思うのだが、いいか?」
「賛成!」
「定番だからな」
「やった! またですねー!」
レヴィオンの提案に、みな口々に賛同の意を示す。
変えは確かに威圧感を与える人だが、中身まで怖いというわけではないらしい。
話せばほら、こんなにも。明るく楽しい人間で。
リクセスは大きく微笑んだ。
「王都は初めてなんだ! 折角だから案内してくれるかい?」
レヴィオンとミューシカとラヴィとルフィアと。
新しい仲間たち。新しい環境。
リクセスは、自分の未来が大きく開けていくような錯覚を覚えた。
そうさ、この人たちとなら。
——きっとうまく、やっていける。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 風色の諧謔 2-3 青玉の証 ( No.47 )
- 日時: 2017/10/20 23:11
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3 青玉の証
◇
セランの王都、セルヴィスには沢山のものがある。
大きな図書館、下町に行けば色とりどりの屋台や様々な店。
そして、ここにはセラン王国にしかない「ある施設」があった。
「まずは魔導士たるお前は、『ギルド』で登録をしなければならん」
レヴィオンの案内によって、たどり着いたのは石造りの建物。落ち着いた色の看板には、「魔導士ギルド」と書いてある。
セランには『ギルド』と呼ばれる制度がある。ギルドにも様々な種類があって、魔導士ギルド、」暗殺者ギルド、商人ギルド、傭兵ギルド、職人ギルド、運送ギルド、など。ギルドによって管理する職種が違う。
ギルドは様々な立場の人が自分の職業にあったところに登録し、登録によって恩恵を受けられるシステムだ。魔導士ギルドの人はここに行けば魔法アイテムを半額で買えるし、暗殺者ギルドには種々の暗器がそろっている。
ギルドに登録した人は皆、管理される立場にある。悪事を犯したらギルドによって制裁を受けるし、ギルドの意向から完全に外れたことをやってはならない。暗殺者ギルドでは『管理』が顕著で、ここに入った者は子供であれ何であれ、暗殺者教育を受ける義務がある。守秘義務を破ろうものなら即抹殺され、家族がいるならその家族も消される。ギルドに登録するということは大きな枷を受けることでもある。
だが、それでも恩恵は大きい。登録さえすれば、自分が危機に陥ったとしてもギルドメンバーが助けてくれる。ギルドに入ってない者に比べ、上にも多少は融通がきく。
別にギルド加入は義務ではないのだが、国全体で推奨している。ギルドに入っていない対象者は社会から白い目で見られる。片田舎に住んでいる分ならば別にそれで構わないのだが、王都に来たのならば話は別だ。
そんなわけで。魔導士たるリクセスは今、登録を受けるために魔導士ギルドの目の前に立っているのだった。
若干緊張気味のリクセスを見て、ミューシカが明るく励ました。
「別にそこまで緊張しなくてもいいんだよ? ただ登録するだけだしさ。私も登録受けたけど、名前と使う魔法を聞かれただけだもん。あと名前書くだけ」
リクセスは彼女の言葉に小さくうなずいた。
「入るぞ」とレヴィオンがギルドの扉を開く。
中に入ったそこには、内側から青色の光を放つ球が、石造りのテーブルの上に置かれていた。それの放つ光は神秘的で美しく、思わずリクセスはそれに魅入った。
「ようこそ、魔導士ギルドへ。って、レヴィオンさん!? 何ですか、新しいお弟子さんですか?」
その感動を打ち破るかのように、素っ頓狂な声がする。彼らの目の前には、栗色の髪をお下げにして青い瞳を持つ、眼鏡をかけた女性が経っていた。
彼女の言葉に、レヴィオンはそうだと返す。
「リクセスという。たぐいまれなる『組師』の才能を持っている。彼をギルドに登録したい」
「はいはいわかりました。じゃ、この手紙にサインして」
彼女は懐から一枚の紙を取り出して、リクセスに差し出した。ついでに、先が異様に尖ったペンも渡される。リクセスは書かれた文字を読んでみたが、それはリクセスの全く知らない文字で、彼には一文字たりとも理解できなかった。
眼鏡の女性は説明する。
「この登録書には魔法が込められているの。余計な手続きは要らないわ、あなたはただそこに名前を書くだけ。けれど書くのは普通のインクではいけないの」
彼女はリクセスに渡した先の尖ったペンを見た。
普通の文字を書くだけならば、ここまで先を尖らせる必要はない。つまり。
「これであなたの皮膚を傷つけて、あなたの血で署名するのよ」
血はその人と大きくつながるもの、故にこういった契約には有効なのだと彼女は付け足して、リクセスに微笑んだ。
「さあ、少年。痛いのはたった一瞬なのよ、怖いなんて言わないわよね?」
「もちろんさ」
リクセスは大きくうなずいて、そのペンの先で自分の手首を傷つけた。
傷つくことには慣れていた。だから、このくらいリクセスにとって痛みではない。
にじみ出た血をペン先に吸わせて、リクセスは登録書に自分の名前を記して女性に渡した。それを受け取り、彼女は満足げに笑った。
「はい、登録完了よ。登録完了の証にこれをあげるわ。魔導士ギルドメンバーの証」
渡されたのは、青い球の描かれたペンダント。そこに描かれた青い球は先ほどリクセスが見た、あの神秘的なものと同じものだった。
あれは何なのだろうとリクセスは思ったが、それを聞く前にレヴィオンがいとまを告げた。
「登録承認、感謝する。では行くぞ、我が弟子たちよ。これも確かに重要だったが今日は遊びの日。思う存分王都を楽しめ!」
そのまま彼は師匠に引っ張られるようにして、ギルドを出た。
ギルドを出た彼の首には、青い球のペンダントが下がっていた。それは、魔導士ギルドメンバーの証。彼の所属する巨大組織の証。
故郷を出て失ったと思われた生活は今、少しずつ取り戻されつつある。沢山の仲間たちの手によって。
リクセスは、今は騎士舎にいるであろう心配性な兄を想い、小さく微笑んだ。
(大丈夫さ、兄さん)
——この王都になら、僕の居場所はあるから。
状況が落ち着いたら騎士舎にも足を運ぼうかなと、彼はぼんやり考えた。
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