ダーク・ファンタジー小説
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- 狡猾で残虐と言われた魔王様は人間に憧れた
- 日時: 2017/11/12 16:52
- 名前: ノアール (ID: aYwQGfB6)
トントン
こんな真夜中に何かが扉を叩く音
「はぁーい?」
宿直のおばさん、トリーは、深く考えずに扉を開けた
ガチャ
其処には一人の少女
よく居る灰色の襤褸を纏った家無き子のような服ではない
金色の刺繍が入った、艶やかな服を着ていて、まるでアンティークドールの様
「……綺麗」
思わず呟いた言葉は空気に混じって消えた
「あらあら、びしょ濡れじゃないの!さぁ中にお入り」
トリーは優しい笑顔で少女を向かい入れる
そうか、
酒場が煩くて忘れていた
今日は大雨、酷い日だ
トリーや他の人間も手伝って少女の体を拭いていく
「お名前は?」
ウェイトレスのミシュカが聞く
「……×××」
「え?」
細々とした声で聞こえなかったのだろう
でも私には聞こえた
‘リゼット’、‘リゼットウィング・ハルウィー’と
リゼットがそれ以上なにも言わなかったのでミシュカも追求しなかった
人間は好奇心があるのかないのか解らない
見たところリゼットは高貴な身分のようだ
だがそれを口にしないと言うことは知られたくないと言うこと
だからトリー達もなにも言わないのだろう
いまのこの世は恐怖の時代
魔王に支配された‘暗黒の時代’なのだから
それにリゼットが人間に化けた魔王の手先かも知れないのに
今の魔王のは第二世
今の魔王は頭が悪く、愚かだ
だから人間達も安心して居るのだろう
初代魔王、この世界を支配した魔王は狡猾で残虐
雲泥の差だ
「ハァ…トリーさんワインをくれ」
私はトリーに言う
「あらあらハイドちゃん、酒の飲みすぎは毒よぉ〜」
「解ってますよ」
「全くハイドちゃんったら、女の子は自分を大切によ!」
「ハッハッハ!尤も、ハイド・リンギーン・デヴァスなんて男みたいな名前だったら男っぽくなるのもしょうがねぇだろ!」
マスターのデイットが笑う
————因みに…
私だけが知っているが、《ジキル》と呼ばれている初代魔王の本名は
ハイド・リンギーン・デヴァスだ
初代魔王が人間に化けて、生活してるなんて、知られちゃお仕舞いだな
結局リゼットはなにも言わなかった
そのあとに、デイットがリゼットを泊めることに決めた
大雨の日、沢山の冒険者たちが酒を飲みながら笑いあう
勿論私もだ
随分と楽しい夜だった
魔王の時は大雨の日なんて淋しくて独りぼっちだったからな
私の本名は魔王軍に知るやつは誰一人居ないし、
私が女だと知ってるのは現在魔王の養子であるアザイルと側近且つメイド長のホリスだけだ
「人間は…良いな」
「あらあらどうしたのよハイドちゃん、人間は良いなだなんて!」
「そうですよ、ハイドさん貴女だって人間でしょう?」
「ハッハッハ!相変わらずハイドはおもしれぇな!」
ここに居る人達は私が初代魔王だと知ったらどう思うのだろう
嫌うのか、恐れるのか
見てみたい気がすると考えてしまうのは
やはり魔族の性なのだろうか
- Re: ハイドの夢 ( No.1 )
- 日時: 2017/11/12 17:05
- 名前: ノアール (ID: aYwQGfB6)
「ハァハァ…」
走る少女
其れを追う、何者かの手
よく見るとその少女はリゼットだった
「何で…?」
私は呟く
よく見るとリゼットの姿はどこかで見覚えがある
「…?」
そしてリゼットを追う影
月明かりに照らされ見えたのは
魔王時代の私の姿————
「っは!」
私は飛び起きた
「あらあらハイドちゃん、大丈夫?」
トリーの声
回りは酔いつぶれた冒険者たちが寝ている
どうやら寝てしまっていたようだ
それにしても…さっきの夢は——
- Re: 見に覚えはあったかも… ( No.2 )
- 日時: 2017/11/12 20:12
- 名前: ノアール (ID: aYwQGfB6)
私が目を覚まし、厠へ行っていた時に、皆も目を覚ましていたようだ
「よぉー、ハイド」
「ハイドさん、おはようございます!」
「ハッハッハ!ミシュカはホントにハイドになついてんな!」
「デイットは少し黙れ、私はハイドさんとお話をしているの」
「あ、わりぃ…」
「フフッ」
相変わらずのミシュカとデイットのやり取りに笑みが零れる
「デイット、リゼットは?」
「リゼット?何方です?」
「あぁ、昨夜来た子供だよ」
「んあぁ、あのガキなら今起きてミルク飲んでるよ」
「解った、ありがとな」
安否を確認しに来たのだ
何故初めてあったあの子を私が追う夢を見たのか
兎に角なにか不安だ
早くいかねば…
「リゼットちゃん」
「!!」
声をかけられたリゼットはビクリと震える
そんなに私は怖いだろうか
少なくとも魔族である私が耳を隠すだけで、変化しなくとも生きていけているのだから見た目は怪しくないと思うが…
「ハイド…」
「え?」
リゼットは私の名を呼んだ
トリー辺りが教えたのか?
リゼットは私の前に歩いてきて、静かにこう言った
「よくも私の前に現れたね、初代魔王」
その時のリゼットの瞳は静かに光を放っていた
- Re:リゼットの目的 ( No.3 )
- 日時: 2017/11/13 18:24
- 名前: ノアール (ID: aYwQGfB6)
え………
えぇぇぇえぇえぇぇえぇぇぇぇぇ!?
私は困惑した
いや困惑処じゃない
ヤバイヤバイ!
嘘だろ!?
見知らぬ少女に一発で魔王だってバレた!
どうしよう…酒場の皆に言われたら…
「ねぇ…聞いてるの?」
リゼットに言われる
「………聞いてる…何が目的だ?」
「………目的………やっぱり覚えてないんだ…」
「……少なくとも今の記憶には無い」
「私は貴女に両親を殺され孤児に成った哀れな少女…」
やっぱりか…
でも全然覚えてない…
どうしよう…
「と、世間から思われてる者だよ!」
「は?」
「ハァ…良い?私はね、両親から酷い虐待を受けてたの!でも、貴女が其れを救ってくれた」
「はぁ…」
「だからお礼を言いに来たんだ!」
「………」
拍子抜けした
「其れでね!私の居場所は何処にもないの、だから…」
リゼットはそこで押し黙る
「貴女と一緒に旅に出させてくれないかな?」
「は?」
今度こそ呆れた
普通、両親を殺した魔王に一緒に行こうって…言うか!?
リゼットのキラキラした笑顔に私は何も言えないで居た
- Re: 狡猾で残虐と言われた魔王様は人間に憧れた ( No.4 )
- 日時: 2017/11/17 18:10
- 名前: ノアール (ID: aYwQGfB6)
「あの…な」
言葉を選んで慎重に言う
皆に魔王だとバラされたら大変だ…
「私は、確かに旅をしていて、定期的に此処に戻ってきて、と言う生活をずっとしている」
「知ってる」
即答するリゼット
何故知ってるのか…
「でも、御前のような子供を連れて旅をする余裕はない」
「だから…御前を連れていけはしない」
ゆっくりと言葉を紡いで話す
怒らない…よな…?
「…………………………………………………………」
深い沈黙
リゼットは俯いたままだ
段々不安になってくる…
もしも泣かしてしまったら…
「…………だ」
「え…?」
「やだぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁああぁあぁ!!!」
「っ!?」
つんざく様な叫び声
耳がっ!
「あぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁああぁあぁ!!!!!」
「ちょっ…落ち着け!」
「ハイドちゃん!?どうしたの!」
「は、ハイドさん?」
「どうしたどうしたあ!!」
皆裏から出てくる…
これは…
連れていくしか無いようだ…
- Re: 荷造りと邪魔者 ( No.5 )
- 日時: 2018/06/22 00:04
- 名前: ノアール (ID: ieZamAIV)
「ふぅ………」
荷造りを終えた私は、ため息をつきつつ後ろを振り向く
そこには、なんとも楽しそうに鼻歌を歌うリゼットがいた
その回りには、トリーやミシュカ、酒飲み仲間のリスキーラ等もいる
「全く凄いわねぇ、ハイドちゃんは色んな子から好かれて……羨ましいわぁ!」
「………でも、私の方がハイドさん大好きですから!」
「あっはは!!こりゃあ傑作だ!ハイドは女にモテモテだな!」
「そりゃあそうです!ハイドは恩人ですから!」
「恩人か!アイツはお人好しだからなぁ!」
皆の思い思いの言葉の中で見逃せないフレーズがひとつ
"お人好し"………だと?
あくまでも私は初代魔王だぞ!
「リスキーラ………」
「おん?どーしたよ」
手に酒瓶をもったままリスキーラが振り向く
「誰がお人好しだ?このアル中男女」
「いや、おま…ブッフォッww」
露骨に嫌な顔をする私を見て、奴も露骨に吹き出す
私の顔は面白くない!
「貴様……笑ったな?」
「笑っちゃいけないなんて知りませーんwww」
「表出ろおおぉおぉお!」
「上等だてめぇ!」
ギャーギャーと騒ぐ私たちを尻目にミシュカがポツリ
「良いから荷造りしましょうよ……」
残念無念
ド正論
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