ダーク・ファンタジー小説

【リメイク版】カラミティ・ハーツ 心の魔物
日時: 2018/08/20 10:38
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。

「……どうして」
 大召喚師は悲嘆に暮れる。
 大切だったのに、とても大切だったのに。どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 その心は、絶望の底に突き落とされて。
 その日、一体の魔物が誕生した。

「私は、お兄ちゃんを元に戻すの、戻したいの」
 少女魔導士は決意を固める。
 大切だから、とても大切だから。どうしてもまた、大好きな兄と再会したいから。
 その心は、強い思いに燃えて。
 その日、一人の旅人が誕生した。

 絡み合う思い、ぶつかりあって。運命の手は兄妹を引き裂く。
 魔物になった兄と、兄を元に戻さんと世界の法則を探る少女。
 これは、大召喚師の妹たる少女の、長い長い旅の物語である。

*****

 去年の八月頃にここでこの作品を書いておりました、流沢藍蓮と申します。それから約一年。書きかけで挫折しましたこの作品をあらためて読みなおしてみましたところ、設定やキャラクターなどが良かったですし折角十一万文字も書いたものをそのまま捨てるのも、未完のまま終わらせるのももったいないなと思いまして、リメイクに至った次第にございます。
 あの頃に比べて少しは文章を書くの上達したかなと、あの頃の自分に挑戦するような気持ちです。興味がある方はこの板で「カラミティ・ハーツ」と検索してみてください。私の黒歴史の作品が出るはずです。ただし「カラミティ・ハーツ」を読むのが初めての方は検索するのをお勧めしません。内容はほとんど変わらないため、先に前の話を知ってしまうと面白くなくなるからです。
 前の話をご存知の方は、前と比べてどう変わったのかなどを見て頂けると幸いです。
 そんなわけで、開始します。

*****

 目次(一話ごと)


一気読み用! >>1-


プロローグ 心の魔物 >>1

第一章 始まりの戻し旅 >>2-6
 Ep2 大召喚師の遺した少女 >>2
 Ep3 天使と悪魔 >>3
 Ep4 古城に立つ影 >>4
 Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>5
 Ep6 悔恨の白い羽根 >>6

第二章 訣別の果てに >>7-11
 Ep7 ひとりのみちゆき >>7
 Ep8 戦いの傷跡 >>8
 Ep9 フェロウズ・リリース >>9
 Ep10 英雄がいなくても…… >>10
 Ep11 取り戻した絆 >>11

第三章 リュクシオン=モンスター >>12-14
 Ep12 迫る再会の時 >>12
 Ep13 なカナいデほしいから >>13
 Ep14 天魔物語 >>14

第四章 王族の使命 >>15-
 Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>15 
 Ep16 亡国の王女 >>16
 Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>17
 Ep18 ひとつの不安 >>
 Ep19 照らせ「満月」皓々と >>
 Ep20 常闇の忌み子 >>
 Ep21 信仰災厄 >>
 Ep22 明るいお別れ >>

第五章 花の都 >>
 Ep23 際限なき狂気 >>
 Ep24 赤と青の救い主 >>
 Ep25 極北の天使たち >>
 Ep26 ハーフエンジェル >>
 Ep27 存在しない町 >>
 Ep28 善意と掟と思惑と >>
 Ep29 剣を取るのは守るため >>
 Ep30 青藍の悪夢 >>
 Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>
 Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>

第六章 動乱のローヴァンディア >>
 Ep34 予想外の大捕り物 >>
 Ep35 緋色の逃亡者 >>
 Ep36 帝国の魔の手 >>
 Ep37 絡み合う思惑 >>
 Ep38 再会は暗い家で >>
 Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>
 Ep40 鏡写しの赤と青 >>
 Ep41 進むべき道 >>
 Ep42 想い宿すは純黒の >>
 Ep43 それぞれの戦い >>
 Ep44 魔物使いのゲーム >>
 Ep45 作戦完了 >>

第七章 心の夜 >>
 Ep46 反戦と戦乱 >>
 Ep47 強制徴兵令 >>
 Ep48 二人が抜けても >>
 Ep49 嵐の予感 >>
 Ep50 Calamity Hearts >>
 Ep51 明けの見えぬ夜 >>

第八章 時戻しのオ=クロック >>
 Ep52 巻き戻しの秘儀 >>
 Ep53 好きだから >>
 Ep54

(To Be Continued.Coming Soon!)

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カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep14 天魔物語 ( No.14 )
日時: 2018/08/14 10:20
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

〈Ep14 天魔物語〉

「フィオル!? 無事かッ!」
「兄さんも過保護だねぇ……」
 帰ってきたら、開口一番、アーヴェイの声が飛んできた。

「……というわけなの」
 とリクシアは締めくくった。
 フィオルの応急手当も終わり、今、皆は宿のある部屋に集まっている。
「参考までに聞きたいのだけれど。フィオル、アーヴェイ。あなたたちの大切な人は、兄さんみたいになったことある?」
 リクシアの疑問に、アーヴェイは首を振る。
「ハーティはそうはなら……いや、こっちの話だ」
「ハーティ? その人が、あなたたちの……」
「義理の母なんだ」
 少し昔の話をしようか、と彼は言った。

  ◆

 ずっと昔、二人は捨て子だったという。はじめにフィオル、次にアーヴェイ。その順に、とある女性に見つかった。
 女性の名はハーティ。茶髪に明るいオレンジの眼の、心やさしい女性だったらしい。彼女は捨てられた二人を良く育て、具合が悪くなったら医者に見せ、欲しいものがあったなら、よく吟味して買ってやった。教育にも熱心で、家事も非常にうまかった。彼女のもとで、フィオルもアーヴェイもまるで兄弟のようにして育ち、「当たり前」を謳歌した。

 しかし、平穏は長く続かない。それはある日のことだった。
「……嘘」
 ある手紙を読んで、彼女はくずおれるようにして泣き伏した。
「義母さん!?」
 ハーティには遠く離れた恋人がいた。その人は彼女の幼馴染で、フィオルもアーヴェイも、一度はその人に会ったことがあった。彼はクールで格好良くて、とても頼もしい印象を受けたと二人は語る。
 その日、届いたのは。その手紙は、
――その人の訃報。
 それを見るなり、ハーティは獣のような声をあげて咆哮した。それは魔物になる予兆。
「ハーティッ!」
アーヴェイは叫んだ。
 あの日、あの時。彼が悪魔の力を解放すれば、止められたかもしれないのに。
 駆け寄ったフィオルとアーヴェイは、振り上げた手に殴り飛ばされた。
「義母さんッ!」
 魔物になっていく、育ての親。止めたいのに、止められなくて。
「ウォォォォオオオオオオオオオオ!」
 狼のように遠吠えを一つ。
 そしてハーティはいなくなった。

  ◆

「……簡単にまとめれば、こうなる」
 アーヴェイがそう締めくくった。
「あれから何回か、ハーティ=モンスターに会った。一回はフィオルが死にそうになったことさえある。でも、彼女はリュクシオン=モンスターみたいにはならなかった。思うに……」
「リアはリュクシオンにとっての一番だったが、あんたたちはハーティにとっての一番じゃなかった。ハーティにとっての一番は、その恋人だったから……ということだろう。あんたたちにとって、ハーティが一番ではないように。あんたたちにとっての一番は……互いの存在だろうから」
 割り込むようにし、フェロンが言葉を引き継いだ。
 つまりは。
「魔物になった人があんな行動をとるのは、対象がその人の一番だったって場合だけ……?」
「そうみたいだな。よって僕の場合、リュークに会って生き残れるかはわからない」
「そうなんだ……」

 語られたのは、一つの物語。
 天使と悪魔が、花の都を目指した理由。

「……魔物、か」
 呟いて、リクシアは、今はいない兄に思いを馳せるのだった。

カラミティハーツ 心の魔物 Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」 ( No.15 )
日時: 2018/08/16 09:46
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

【第四章 王族の使命】
〈Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」〉

「リュクシオン=モンスター……」
 去りゆく怪物を、見据える影があった。
 「ゼロ」だ。今日はあの女と一緒ではなかった。
 だから彼は、本来はここにいないはずだった。
 彼女はあえて、彼を連れていかなかった。
 その理由は――
 オモイダサセタクナカッタカラ。
「――ッ! 頭が……」
 「ゼロ」は頭を押さえた。
 その怪物を見た途端、はじけだそうとする記憶。思い出したいのに、執拗な頭痛がそれをさせない。
「ぐ……ああっ!」
 脳裏に走った激痛。焼けつくように、突き刺すように。
 「ゼロ」はうめき、大地をのたうち、転げ回った。
 それでも――これは。
 魔物を見た瞬間、はじけそうになった記憶は、大切なものだから。
 苦しくても、苦しくても。思い出さなきゃならない、「ゼロ」はそんな気がした。
(リュクシオン=モンスター)
 唯一残った記憶が言うのだ。
(あれは、リュクシオン=モンスターだ)
 そして。
「ゼロ」
 彼の「母さん」の声。
(違う、あれは、母さんじゃない)
「ゼロ! 何してるの!」
(違う、僕の名は「ゼロ」じゃない)
 言っていたじゃないか、と彼は思い出す。あの日、戦った一人の少女が。
 思い出せ、思い出せ。あの少女の言った言葉を。
 頭痛はますますひどくなり、考えるのすら億劫になる。
 歯を食いしばり、痛みに耐え、「ゼロ」はあの日の記憶を呼び戻す。
「ゼロ!」
「ゼロじゃないッ!」
 あの少女の、言葉。
『******・*******! 目を覚ましてッ!』
「――思い出した」
 彼の頭痛は、消えていた。
「あなたは……母さんじゃ……なかった……」
「何を言っているの? 私はあなたの母さんでしょう」
「違うッ!」
 思い出した。思い出せた。あの遠い日の暮らし。父にいじめられ、兄にいじめられ。それでも、どんな時でも。母だけは味方でいてくれた。
「母さんの名はエリクシア! そして、僕の名は――!」
 あの子が教えてくれた、彼の本当の名前。
「……僕は、ある国の王子だった」
 唯一生き残った、王族。
 ゆえに、名乗ろう。思いを込めて。その名は――

「エルヴァイン・ウィンチェバルッッッ!」

 叫び、彼は「母」に剣を向けた。
「……運のない子」
 「母」は小さくつぶやいて、自らも剣を抜いた。
「ならば殺して差し上げるわ、私の可愛い『ゼロ』――いいえ、ウィンチェバル王国第三王子ッ! エルヴァイン・ウィンチェバルッ!」
「望むところだ! 人の記憶を勝手に操って……。この屈辱は、今、晴らす!」
 二本のつるぎが交わった。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep16 亡国の王女 ( No.16 )
日時: 2018/08/18 08:00
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

〈Ep16 亡国の王女〉

――力量が、違った。

「ぐうッ!」
 身体を貫いた剣を、彼は呆然と見ていた。
「運のない子。忘れたままなら、こうはならなかったのに」
 剣を引き抜き、露を払い。そのまま歩き去ろうとする背に。
「待……て……!」
 かけた声は無視されて。
 エルヴァインは、くずおれるようにして膝をつく。
 視界がゆがむ。何もかもが真っ赤に染まる。
「こんな……ところで……!」
 彼には果たさなければならない使命があった。謝らなければならない人がいた。やりたいこと、やるべきこと。まだまだたくさんあったのに。
 貫く痛みに意識を失いかけ、なんとか再び覚醒する。
 生きたいと、死にたくないと。彼の心が全身が。魂の叫びをあげていた。
「僕は……まだ……!」
 死ぬわけには、行かないのに――。

 あの日。あの女に誘惑された。それが崩壊の始まりで。
 記憶をなくし、意思もなくし。操り人形のように生きていた。
 そして、今。記憶も意思も取り戻した彼は、また何かをなくそうとしている。
――それは、命だ。
「嫌だッ!」
 叫んでももがいても、必死に足掻いても、何かが変わることはなかった。何かが起きることもなかった。
 当然だ。神様なんて、いないのだから。彼は奇跡なんかに期待しない。
 でも、生きたい、から。
 どうすれば、生きられるのだろう――?
 絶え絶えの息の中、エルヴァインは生を願った。

  ◆

 丘の上に、銀色の少年が倒れていた。腹から血を流し、青ざめた顔で。
 でも彼は、辛うじて、生きていた。
「……仕方ない、か」
 一人の少女が、その身体を抱きかかえた。少女の髪は鴉の濡れ羽色で背中の半ばまで真っすぐ伸び、その瞳はぬばたまの黒。漆黒のロリータドレスを身に纏い、頭には黒薔薇のコサージュをつけている。全身黒づくめで、その肌は蝋人形のように白く唇は血のように赤い。
「まったく。こんなところで倒れないでほしいものだわ」
 淡々とした声は、しかし、どこか心配げだった。
「あなたはいっつも無茶をして……。あの女の正体をわかっていたの? 知らなかったんでしょう。知っていたなら、問答無用で逃げていた」
 少女はぶつぶつと呟きながらも、少年をどこかに連れていく。

  ◆

「じゃぁ、再び目指そう、花の都、フロイラインを」
 フィオルも少し、回復してきた頃。リクシアがそう、提案した。
「でも、今回はフェロンも一緒だもーん。みんなで行こうよ? そこに行って、何かを見つけないと……話は全然進まないもの」
 だな、とアーヴェイもうなずいた。
 すると、そこへ。
 コンコン。ドアのノックされる音。これまでいろいろなことがあったから、リクシアは思わず身構える。他の皆も油断なく武器を構え、誰何した。
「何者っ!」
 リクシアの声に、淡々とした静かな声が応える。
「グラエキア・アリアンロッド。本名を名乗るとあまりに長すぎるから省くわ。エルヴァイン・ウィンチェバルと深い関わりをもつ者、といったらわかるかしら?」
 その言葉を聞いて、リクシアはこくりと頷いた。
「……入って」
 エルヴァイン・ウィンチェバル。それは、あの「ゼロ」のことだ。リクシアにとって、他人ごとではない。
 家の中で。グラエキアと名乗った漆黒の少女が口を開いた。
「単刀直入に聞くわ。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていたの?」
そんな彼女に、フェロンが警戒の声をあげる。
「それ以前に、貴様は誰だッ!」
「身分で言うのならば」
 静かな声が、告げる。

「今は亡き、ウィンチェバル王の姪よ」

 新たなる波乱が巻き起ころうとしていた。

カラミティハーツ心の魔物 Ep17 正義は変わる、人それぞれ ( No.17 )
日時: 2018/08/20 10:37
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

〈Ep17 正義は変わる、人それぞれ〉

 グラエキア・アリアンロッドことグラエキアは、言った。
「エルヴァイン・ウィンチェバルは元に戻ったわ。リュクシオン=モンスターを見て記憶が戻った。でも、今は大怪我をして、動けない。だから私が来たのよ」
 彼女は再び訊いた。
「だから、質問なの。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていた?」
「……兄さんに何する気?」
 リクシアの警戒は、消えない。そんな彼女にグラエキアはあくまでも淡々とした口調で答えた。
「当たり前じゃない」
 人形みたいに淡々とした彼女は、言うのだ。

「殺すのよ」

 リクシアは我が耳を疑った。
「……今、なんて?」
 そんなリクシアにもお構いなしに、いつもの調子で答えるグラエキア。
「言った、殺すと。あれは災厄。存在してはならぬモノ」
「でも、兄さんなんだよっ!」
 その言葉に怒りを示し、リクシアは乱暴に立ち上がった。
「魔物になっても、怪物になっても。あれは……兄さんなの。殺すなんて、そんなっ!」
「生憎と私情を優先している暇はないわ。あなたはアレが、一体どれくらいの人を殺したのかご存じ?」
「し、知らないわよ、そんな……」
「百」
 突きつけられるは冷たい現実。
「私の情報網なら、余裕で百は越えるとの数値が出ている。あなたは百というのが、どんなに大きな数字かわかってる? 百人いれば、村ができるわ。小さな町だってできる。あなたの兄さんはね、エルフェゴール」
「どうしてその名を――」
 戸惑うリクシアに、
 グラエキアは現実を突きつけた。
「町を一つ潰したも、同罪よ」
「――――ッ!」
 百。百人。百の命。重い、すさまじく重い。重すぎる、それ、を。
「奪ったのはあなただ。討伐しようともしないで。叶わぬ夢を、無駄に追い続けた」
「…………やめて」
「だから、私は再び問うわ。あなたは人殺しになるのかと。罪もない女子供を。私情のために犠牲にするのかと。大召喚師の妹が、聞いて呆れる。所詮、あなたの正義はあなたにとっての正義でしかなく、他人を一切省みない」
「やめてったら――」
「……やめろ、アリアンロッド」
 フェロンが静かに割り込んだ。
「ああ、僕らが掲げるのは身勝手な正義さ。だがな、それのどこが悪い。人は皆、聖人君子であるわけじゃない。……身勝手な正義の、何が悪い」
「……あら、開き直るのね」
 思わぬ反撃に、グラエキアは小さく声をもらした。
「確かに身勝手な正義だって、悪くはないけれど」
 その紫の瞳が、強い笑みを浮かべた。
「私たちは、王族だから」
 部屋の扉に、手をかけて。
「そんな私たちの正義は、家臣の失態をすすぐこと」
 邪魔したわね、と言って彼女はいなくなった。
 敵なのか味方なのか。よくわからないけれど。人には人の正義がある。それが対立することだって、あるのだとリクシアはわかった。
「……確かに、グラエキアの言葉には一理あるが」
 アーヴェイが目を閉じ、つぶやいた。
「だがな、おそらく奴は知らない。身近な者が魔物になった悲しさを。だからあんな冷たいこと、言えるんだ」
 大切な存在が魔物となったとき、それを救いたいと考えるのは当たり前のこと。
「いそごう、フロイラインへ」
 フィオルは言った。
「グラエキアに、リュクシオン=モンスターが、討伐される前に」

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep18 ひとつの不安 ( No.18 )
日時: 2018/08/23 07:59
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


〈Ep18 ひとつの不安〉

「極北の町、フロイラインには。日の沈まぬ夜と日の昇らぬ朝があるらしい」

 あの後、リクシアらは急がなければと宿を出た。
 そこでアーヴェイがした話。リクシアは首をかしげてアーヴェイに問うた。
「え? おかしいよ。日の沈まぬ夜と日の昇らぬ朝? お伽話の類じゃないの」
「それが事実らしいよ。前にリュークが、精霊からそんな話を聞いたって」
 フェロンがそれに割り込んだ。
「話によると、フロイラインだけでなく極北と呼ばれる地域なら、どこにだってあることらしい。天使と悪魔、そうなんだろう?」
 悪魔、という呼び名に、アーヴェイは顔をしかめる。
「……好きで悪魔に生まれたわけじゃないがな、傷痕。ああ、そういう話だ。しかしフロイラインは伝承と伝説の国……。具体的な場所はわからないんだ。だから」
 言いかけた言葉をフェロンがつなぐ。
「傷痕呼ばわりはやめてほしいけど。つまり、北を目指してればいいってこと?」
「曖昧で悪かったな?」
「誰もそんなこと言ってないよ」
 フェロンは苦笑いを返した。
 話を聞いて、リクシアはふーんと思う。
「でも、そこ、実在するの?」
 空気が一瞬、固まった。フィオルが弱気な声で言う。
「実在するかはわからないんだ。でも……手掛かりは、ここしかないから。ここ以外で、魔物が人間に戻った話は聞かないから」
 仕方ないのさ、と呟いた。
「溺れる者はわらをもつかむ。……期待掛けて、すまなかったね」
「いえいえ、そんな」
 言いながらも、リクシアは不安を感じずにはいられない。
 実在するかもわからない町、か。
 そんなものを目指して旅する。
 グラエキアは、もっと確実な目的を、持っているのに。
「不利、よねぇ……」
 彼女はふうっとため息をついた。
 
  ◆

「……まだ、目覚めないのね」
 グラエキアは、眠るエルヴァインを見て小さくつぶやいた。
「生き残ったなら戦いなさい。いつまで眠っている気なの」
 剣の貫通した腹の傷は、グラエキアがしっかり手当てした。
 眠ったままのエルヴァインの顔は、苦しそうでもあった。
「もっとほかに生き残っていたらよかったけど……無理な話か」
 嫌われ者のエルヴァインと、戦争を厭ったグラエキア。
 王族ならば本来、戦争の場にいなくてはならないのに、この二人は国外にいたために、「大災厄」を免れた。
(まぁ、これで生き残ってたって、それはつまり臆病者ってことよね。そんな仲間なんて要らないわ)
 彼女は天を振り仰いだ。
「今、こうしている間にも、あの魔物は、きっと人を殺している……」
 それを正すのが、私たちの正義だ、とグラエキアは思う。
「夢は見ない。見るのはただ、現実だけよ。……あの少女と私たち。どっちが早いかしら」
 呟き、彼女は首を振って前を見る。
「どっちにしろ、道はわかれた」
 彼女はエルヴァインの顔を見た。
「……いい加減、目覚めてくれるかな?」

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