ダーク・ファンタジー小説

【リメイク版】カラミティ・ハーツ 心の魔物
日時: 2018/08/16 09:47
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。

「……どうして」
 大召喚師は悲嘆に暮れる。
 大切だったのに、とても大切だったのに。どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 その心は、絶望の底に突き落とされて。
 その日、一体の魔物が誕生した。

「私は、お兄ちゃんを元に戻すの、戻したいの」
 少女魔導士は決意を固める。
 大切だから、とても大切だから。どうしてもまた、大好きな兄と再会したいから。
 その心は、強い思いに燃えて。
 その日、一人の旅人が誕生した。

 絡み合う思い、ぶつかりあって。運命の手は兄妹を引き裂く。
 魔物になった兄と、兄を元に戻さんと世界の法則を探る少女。
 これは、大召喚師の妹たる少女の、長い長い旅の物語である。

*****

 去年の八月頃にここでこの作品を書いておりました、流沢藍蓮と申します。それから約一年。書きかけで挫折しましたこの作品をあらためて読みなおしてみましたところ、設定やキャラクターなどが良かったですし折角十一万文字も書いたものをそのまま捨てるのも、未完のまま終わらせるのももったいないなと思いまして、リメイクに至った次第にございます。
 あの頃に比べて少しは文章を書くの上達したかなと、あの頃の自分に挑戦するような気持ちです。興味がある方はこの板で「カラミティ・ハーツ」と検索してみてください。私の黒歴史の作品が出るはずです。ただし「カラミティ・ハーツ」を読むのが初めての方は検索するのをお勧めしません。内容はほとんど変わらないため、先に前の話を知ってしまうと面白くなくなるからです。
 前の話をご存知の方は、前と比べてどう変わったのかなどを見て頂けると幸いです。
 そんなわけで、開始します。

*****

 目次(一話ごと)


一気読み用! >>1-


プロローグ 心の魔物 >>1

第一章 始まりの戻し旅 >>2-6
 Ep2 大召喚師の遺した少女 >>2
 Ep3 天使と悪魔 >>3
 Ep4 古城に立つ影 >>4
 Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>5
 Ep6 悔恨の白い羽根 >>6

第二章 訣別の果てに >>7-11
 Ep7 ひとりのみちゆき >>7
 Ep8 戦いの傷跡 >>8
 Ep9 フェロウズ・リリース >>9
 Ep10 英雄がいなくても…… >>10
 Ep11 取り戻した絆 >>11

第三章 リュクシオン=モンスター >>12-14
 Ep12 迫る再会の時 >>12
 Ep13 なカナいデほしいから >>13
 Ep14 天魔物語 >>14

第四章 王族の使命 >>15-
 Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>15 
 Ep16 亡国の王女 >>
 Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>
 Ep18 ひとつの不安 >>
 Ep19 照らせ「満月」皓々と >>
 Ep20 常闇の忌み子 >>
 Ep21 信仰災厄 >>
 Ep22 明るいお別れ >>

第五章 花の都 >>
 Ep23 際限なき狂気 >>
 Ep24 赤と青の救い主 >>
 Ep25 極北の天使たち >>
 Ep26 ハーフエンジェル >>
 Ep27 存在しない町 >>
 Ep28 善意と掟と思惑と >>
 Ep29 剣を取るのは守るため >>
 Ep30 青藍の悪夢 >>
 Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>
 Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>

第六章 動乱のローヴァンディア >>
 Ep34 予想外の大捕り物 >>
 Ep35 緋色の逃亡者 >>
 Ep36 帝国の魔の手 >>
 Ep37 絡み合う思惑 >>
 Ep38 再会は暗い家で >>
 Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>
 Ep40 鏡写しの赤と青 >>
 Ep41 進むべき道 >>
 Ep42 想い宿すは純黒の >>
 Ep43 それぞれの戦い >>
 Ep44 魔物使いのゲーム >>
 Ep45 作戦完了 >>

第七章 心の夜 >>
 Ep46 反戦と戦乱 >>
 Ep47 強制徴兵令 >>
 Ep48 二人が抜けても >>
 Ep49 嵐の予感 >>
 Ep50 Calamity Hearts >>
 Ep51 明けの見えぬ夜 >>

第八章 時戻しのオ=クロック >>
 Ep52 巻き戻しの秘儀 >>
 Ep53 好きだから >>
 Ep54

(To Be Continued.Coming Soon!)

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カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep11 取り戻した絆  ( No.11 )
日時: 2018/08/07 09:57
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

〈Ep11 取り戻した絆〉
 
 リクシアは、夢を見ていた。
「お兄ちゃん」
 遠い昔。兄が魔物になる前の日々を。
「お兄ちゃん、あそぼ」
 幼いころの思い出を。
 今はない、今はあり得ない。心のどこかで解っているけど。
「お兄ちゃん、だぁいすき」
 認めたくない、そういった思いが。彼女を夢へと縛り付けた。

  ◆

「兄さん、何でまた……」
「仕方ないだろう、落盤事故だ。遠回りせざるを得ない」
「じゃあ、何でこの町を通るのさ」
「ルードさんとは懇意だからな」
「懇意の店主ならほかにもいるでしょ?」
「ここが一番近いんだ」
「あんなにひどいことされて言われて、兄さんはお人よしだねぇ」
「もう過ぎたことだろう」
「……心配とか、言わないんだね?」
「オレは素直じゃないからな」
「自分で言う!?」

 天使と、悪魔。真逆の見た目に見える一対が、再びこの町を訪れていた。

  ◆

 リクシアは、目覚めない。
「……疲労はとうに、回復してるはずなんだけどなぁ……」
 彼女は夢を見ているようだった。その顔は穏やかで、幸せそうだった。
「――起きてって、言ってんの」
 軽く小突いてみても何も反応がない。
 フェロンはため息をついた。
「外部からだれか来ないかなぁ……」

  ◆

「いらっしゃーせー……って、フィオルさんにアーヴィーさん!? どうしたんすか!」
 ルードが素っ頓狂な声を上げた。それに応えるは純白のフィオル。
「やぁ、どうも。落盤事故で遠回りだよ」
「だからアーヴィーじゃないって言っているだろう……」
 例の宿にて。天使と悪魔――フィオルとアーヴェイは、ルードに再会していた。
 しかしルードはどこかソワソワしていて、落ち着きがなかった。
「……ルード。何かあったな?」
 アーヴェイがつとその目を細める。
 胸の奥に感じる胸騒ぎ。何か、あった。
 ルードはうなずき、いきなり土下座した。
「フィオルさんッ! アーヴェイさんッ! どうか、どうか客の眠り姫を、起こして下さぃぃぃぃいいいいいッ!」
「……ちょっと待て。今、こいつ『アーヴェイ』って言ったな? しっかり発音したな?」
「兄さん、突っ込みどころ違う……」
 突っ込んでくれたフィオルは無視し。
「具体的に説明してくれ。だれが眠り姫だって?」
「だから、あなたたちが連れてきた――」
 リクシアさんですよ」

  ◆

 ルードの案内でフェロンに会った。彼は状況をしっかり説明した。アーヴェイは頷き、確認のための一言を放る。
「要は、何かの夢にとらわれて、自ら目覚めないと?」
「おそらく……。そういった認識で合っている」
「でも、オレたちで目覚めさせられるかだな……」
「誰でもいい。リアにかかわった人なら」
「理解した。まぁ、やってみるか」
 フェロンの案内でベッドに近づく。そこに、やせ細った少女の姿があった。当然だ。一週間も眠っていればそんなになる。
 その頬を、アーヴェイは思い切り張った。
「兄さ……っ!」
「おい!?」
 驚くフィオルとフェロンは無視して。

「――貴様、いつまで眠っているッ!」

 悪魔の瞳が、カッと見開かれていた。
 彼は、叫んだ。
「かつて貴様は、オレを仲間だと言ったな? だがな、それは違う! 貴様はオレたちを裏切った! だから、オレは貴様にもう一度言おう!」
 その一言を言われ、傷ついたリクシアは、危うく魔物になりかけた。
 その言葉が、再び。彼の口から発せられる。

「――お前なんて、最初から、仲間じゃなかった」

「違う!」
 リクシアは跳ね起きて、叫んでいた。
「あなたは仲間だった! 私が最初に出会ったあの時から! 別れた日は、混乱していただけで!  
 最初から――仲間だったんだッ!」
「……起きたじゃないか」
 アーヴェイが、にやりと笑った。
「アーヴェイ、すごい……」
「見直した」
 フィオルとフェロンが、呆然とした顔でつぶやいた。
 リクシアは、はっとなる。
「わ……わた……わた……し……」
 叶わぬ夢にとらわれて。現実を見ようとしなかった。
 力は回復したのに。待ってくれる人がいるのに。
 夢に、おぼれて。悲しみに、おぼれて、現実を、見ようともしなかった。
「ごめん……ごめんな……さい……!」
 なんて愚かだったのだろう。また、フィオルとアーヴェイに笑われる。
――フィオルと、アーヴェイ……?
 リクシアは何度も瞬きした。あれれ? おかしい。フィオルとアーヴェイとは、決別したはずだ。なのになぜ、ここにいるの?
「……目、おかしくなっちゃったのかな……」
「おかしくはないぜ」
 言葉を声が否定した。
「アー……ヴェイ……」
「落盤事故があって道が通れなくてな。引き返すついでにここに寄った」
 そんなアーヴェイに、呆れた顔でフィオルが突っ込みを入れる。
「兄さん素直じゃない……」
「素直だが?」
「今度は否定するわけね……」
 そのやり取りを、微笑んで聞きながらリクシアは呟いた。
「戻って……くれたんだ……」
「ああ。フェロンから話は聞いた。少しは成長したと思ったが、その様子じゃまだまだだな」
「……わかってるもん」
 フィオルに会い、アーヴェイに会い。フェロンと再開し、「ゼロ」と戦って。そのたびに、己の甘さを突き付けられて。
「……わかってる……わかってる……けど……」
 今なら受け入れてくれる。そんな甘い考えは捨てたけど。
 リクシアはこの人たちが好きだから。仲間として、友人として。好き、だから。
「お願い……私と……また、仲間になって……!」
「前置きせずにそう言え」
 アーヴェイが、微笑んでいた。
「いいだろう。武器を奪われて、戦力が不足していたところなんだ。お前を仲間として、受け入れる」
「僕も忘れないでね」
「了解だ、フェロン」
 ただし、と彼は、いたずらっぽく笑った。
「足手まといにだけは、なるなよ」
「――――はいっ!」
 リクシアは、強くうなずいた。
 また、彼らと一緒に旅ができることが心から嬉しかった。わだかまりもなく、話せることが。
 あの日。あの、別れの日以来。心にくすぶっていた黒い後悔。それが今溶けだして、春の清流となってリクシアの心を下っていく。
――よかった。
 ほっとして微笑めば、落ちてきた瞼。
「リア!? 」
 驚いたようなフェロンの声。今度はそれに、しっかりと返す。
「疲れたの。今度はちゃんと、起きるから、さ……。あとでご飯、持ってきて?」
 今はちょっと眠たいだけ。大丈夫、すぐに起きるからと彼女は安心させるように言った。
「……つくづく、兄さんもお人よしだよねぇ」
「困っている人をほっとけないだけだ」
「それをお人よしというんだよ!?」
 コントみたいな掛け合いを聞きながらも、リクシアは微笑みながら眠りに落ちる。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep12 迫る再会の時 ( No.12 )
日時: 2018/08/09 11:02
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

【第三章 リュクシオン=モンスター】
〈Ep12 迫る再会の時〉

「じゃ、また、フロイラインに行くの?」
 目覚めてから一週間。ようやく身体の機能を取り戻したリクシアは、戻ってくれた仲間たちにそう訊いた。今回はフィオルとアーヴェイだけでなくフェロンもいる。
 その問いに、フィオルがうなずいた。
「うん。落盤事故があったから遠回りして目指すんだけど、その前に」
 アーヴェイが言葉を引き継ぐ。

「――リュクシオン=モンスターが、出たぞ」

「えぇっ!?」
リクシアは思わず驚愕の声をあげた。
「……ッ!」
 そんな彼女の隣では、フェロンもまた、盛大に驚いていた。
 己の犯した過ちにより、魔物と化した、リクシアの兄。取り戻そうとして、リクシアはその方法を、探していた。
――そのリュクシオンが、魔物と化した大召喚師が、現れた。
リクシアは息せき切ってアーヴェイに問う。
「ど、どこにっ!」
答えたのはフィオル。
「この近辺らしいよ。ウィンチェバルの王宮魔道師の徽章をつけてたって。狂ったようにローヴァンディアを攻めていたのに、不意に戻ってきたらしい」
 ローヴァンディア。それは、あの戦いの日にウィンチェバルに攻め入っていた国の名前。かつてリュクシオンはそこにいた。そこを狂ったように攻めていた。彼の中にわずかに残った残留思念が、「ローヴァンディアは敵」と思い込ませ、そんな行動をとらせる。
――なのに。
「……その兄さんが、この近辺に現れた!? 回復そこそこに何なのよもう!」
 ただでさえ、「ゼロ」との問題があるのにこの事態。リクシアは頭が痛くなってきた。
「兄さんには会いたいけど……まだ、何の準備も整ってないよ!」
 魔物を元に戻す手掛かりすらないのに。こんな状況で再会したって、何ができるというのだろう。
そんな彼女に、フィオルが冷めた口調で問い掛ける。
「殺しちゃいけないんだよね?」
「おい、フィオル、それは当然だろ――」
「いいから。……殺しちゃいけないんだよね?」
 アーヴェイの言葉をさえぎって。天使の瞳がリクシアを射抜く。
 リクシアはその視線をしかと受け止めて、うなずいた。
「殺さないで。兄さんなの」
「わかった」
 フィオルは首肯する。
「じゃ、今回は兄さんは下がってて」
「……フィオ?」
アーヴェイは首をかしげてフィオルを見た。フィオルは淡々と答え、
「兄さんばっかりが傷つく必要なんてないんだ。僕だって戦える。それに――」
 現実を、突き付けた。
「『アバ=ドン』のないままで戦うなら、兄さんは悪魔になるしかない。でも、悪魔になったとして。相手を殺さずに戦えるかな?」
アーヴェイの赤い瞳に理解の色が浮かぶ。
「……そういうことか。承知した」
 あと、フェロンさんも駄目だから、とフィオルは言う。フェロンは心外だという顔をした。
「……なんで僕まで」
「あなたは剣士だ。剣士は完調でないときに強敵と戦うべきではないよ。それじゃあ命取りだって、解ってる?」
フェロンは口を尖らせて反論した。
「じゃあそっちはどうなんだ」
「僕? 僕は完調だよ。それに僕だって近接武器は扱えるさ。遠方攻撃はシア、近場は僕。リュクシオン=モンスターがこの町を襲わないようにかつ殺さないように、ギリギリで撃退する」
 言って彼は、どこからか三つ又の銀色の槍を取り出した。
「これが僕の武器。聖槍『シャングリ=ラ』だよ」
 楽園を意味する名をもつそれは、確かに天使によく似合っていた。
――ということは。
 リクシアははっとなる。
「兄さんと戦うの、私とフィオルしか、いないの……?」
「不満?」
「いえ、そうじゃなくって……」
 災厄と化した兄さんに、たった二人で挑むのかとリクシアは思う。そんな彼女を、透徹した青の視線が射抜いた。
「不安なの?」
 フィオルの言葉に、リクシアはうなずいた。
 そんなこと、と彼は苦笑いして、優しく言った。
「自分を信じれば、済む話じゃないか」

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep13 なカナいデほしいから ( No.13 )
日時: 2018/08/12 09:55
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.


〈Ep13 なカナいデほしいから〉

 この町を北に少し行ったところに、小さな丘がある。
 そこに、「それ」がいた。
 リュクシオン=モンスター。大召喚師のなれの果て。
 胸元にあるボロボロの徽章は、確かに彼のものだった。
「……お兄ちゃん」
 リクシアが呟いてみても、何も言わない。怪物はただ、その場にたたずんでいるだけだった。
「追い払う。でもね、シア」
 フィオルが真剣なまなざしで彼女を見た。
「追い払う、のはいいけど……。元は君の兄さんだったとしても、こいつは怪物なんだ。そのままにしたらまた誰かが死に、怪物がどんどん増えて行くんだよ」
 君は一人だけのために、多くの命を犠牲にしてる、と、彼は現実を突き付ける。
「まぁ、僕らだって人のことは言えないんだけど、さ……。殺さず生かすということは、他の誰かを殺すこと。僕らは変わり果てたあの人を撃退するたびに、そのことを胸に刻んでる。それに……彼は魔物だから。君じゃない他の人に倒される可能性だって、あるんだ」
 魔物になったら、元に戻せないのが当たり前。それをゆがめようとしているリクシアは、他の人の思いを踏みつけにしてまで自分の思いに忠実な、リクシアは。
「知ってる……。咎人、なんだ」
 それを意識し、リクシアは前を見据えた。
 変わり果てた彼女の兄は、悲しげに突っ立っていた。

 と。

 突然、リュクシオン=モンスターは咆哮を上げた。狂ったように、こっちに向かってくる。フィオルが鋭く警告の声を発する。
「来る!」
「わかってる!」
 リクシアは呪文を早口に唱える。フィオルが「シャングリ=ラ」を取り出し、リクシアを守るように前に立つ。
リクシアは、叫んだ。
「出てって、お兄ちゃん! ここは私の居場所なの! 壊そうとしないで!」
 風が、辺りに巻き起こる。リクシアの白い髪がざわざわと揺れた。
「彼方吹きゆく空の風! 今舞い降りよ。彼の烈風!」
――傷つけ、たくはなかったのに。
「仇なすものを斬り断ちて、めぐりめぐれよ、渦を巻け!」
 すさまじい勢いで振りかぶられた爪を、
「くうッ……!」
 フィオルの細い身体が受け止める。
 途端、巻きあがった烈風は、
「テアー・ウィンド!」
 叫ぶ魔物に襲いかかり、その皮膚を幾重にも切り裂いた。
 魔物の目が、リクシアをとらえる。怒っている。自分を傷つけた相手に対して。
 意思もない、理性もない、何もない。暗くよどんだ青の瞳が、怒りを宿してリクシアを見る。
リクシアはそんな魔物に対して叫ぶ。声の限りに叫びをあげる。思いのたけを叫びに変える。
「出て行って! 出て行きなさい、お兄ちゃん! 出て――」
そんな、時。
「シア、危ない!」
「グァァアァルルルルル!」
「――えっ?」
 リクシアは、包まれていた。温かく、がさがさした、腕に。
――魔物の、腕に。
「うぐぅッ!」
 フィオルの苦しそうな声。何があったかはわからない。
 声が、した。
「あらいやだ。魔物のくせして。他の誰かを守るなんて、ねぇ」
 それは、「ゼロ」を飼っていた、妖艶な女の声。
「出して!」
 魔物に叫べば。腕はあっさりとリクシアを開放していた。
 そして見たのは、
 脇腹から血を流し、うずくまるフィオルと、
 二本の剣を、リュクシオン=モンスターとフィオル、両方に向けていた女の姿だった。
「フィオル!」
 リクシアは叫んで近寄ろうとするが、リュクシオン=モンスターが引き戻す。
「放して、放してえっ! お兄ちゃん、フィオルが死んじゃう! 放してようっ!」
 魔物となり果てた兄は女を睨み、暴れる妹を抱いたまま、動かない。女を警戒しているようだ。
 それを見、女はつぶやいた。
「両方とも、ひと思いに殺してやろうと思ったのに。天使は反応素早すぎるし、魔導士ちゃんは魔物が守るし……。魔物には、意思なんてないって思っていたのに……。見当違いかしら、ねぇ」
 薄く笑って、
「じゃぁ天使ちゃん。これ、貰って行くわねぇ」
 投げ出された「シャングリ=ラ」を拾おうと手を伸ばした。
「やめ……ろ……!」
 フィオルの苦しそうな声。
「やめてぇぇっ!」
 リクシアの叫び。
 すると。
「ガァァァアアアアアッッッ!」
 リクシアを放り出した怪物の腕が、女を一直線に薙いだ。
「お兄……ちゃん……?」
 意思も、理性も、何もかも。無くなったはずなのに。
 壊れたような、声が言うのだ。

「いモウとの……タいセツなモの……キずツケさセなイ……!」

「お兄ちゃん!」 
「ダかラ……なカナいデ……おクレよ……!」
 召喚、された。もう大召喚師ではなくなったリュクシオンから。
 天使が、精霊が。たくさんの妖精たちが。
 どうして、とリクシアは疑問に思う。魔物になり果てて、意思も想いも、なくしたはずなのに。
 わずかに残された残留思念が、奇跡を起こした。
「魔物の……くせにッ!」
 叫ぶ女。人外に追われ、あわてて逃げだす。
 リクシアはそのさまを、呆然と見ていた。
「お兄……ちゃん」
 リュクシオン=モンスターは、首をかしげて妹を見て。
「サヨうナら」
 それだけ言い残し、女を追って、歩き出した。
 腕。あのとき、守ってくれた、腕。
 リュクシオン=モンスターは、怪我をしていた。その大きな腕に。
 リクシアを、守ったから。守って代わりに、怪我をした。
(どうして……?)
 もしも兄さんに意思が残されているのなら、純粋な敵として、戦えないじゃないか。
 守ってくれた、腕。
 魔物になっても。
 兄さんは兄さんだったのだと、知って。
(私は……どう、すれば……?)
リクシアは混乱するばかり。
 その時、フィオルの姿が目に入った。
「フィオル!」
 あわてて駆け寄ると、少年は苦い笑みを見せた。
「油断した……」
「そんなのどうでもいいから! 傷は!? 大丈夫? 歩ける!?」
 白い天使は脇腹を押えながらも、片手だけで「シャングリ=ラ」をつかみ、それを支えに立ち上がる。
 リクシアは衣を引き裂いて、即席の包帯にして、そっと傷に巻きつけた。
「私じゃこれくらいしか……」
「……構わない。ありがとう。……肩、貸してくれる?」
「ええ、もちろん」
 言ってリクシアは、フィオルの怪我をしてない側の肩を支えた。フィオルが手をさっと振ると、「シャングリ=ラ」は、一枚の白い羽根となって、その手に収まった。
「……便利」
 思わずつぶやくと。少年は、優しくほほ笑んだのだった。

 さあ、帰ろう。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep14 天魔物語 ( No.14 )
日時: 2018/08/14 10:20
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

〈Ep14 天魔物語〉

「フィオル!? 無事かッ!」
「兄さんも過保護だねぇ……」
 帰ってきたら、開口一番、アーヴェイの声が飛んできた。

「……というわけなの」
 とリクシアは締めくくった。
 フィオルの応急手当も終わり、今、皆は宿のある部屋に集まっている。
「参考までに聞きたいのだけれど。フィオル、アーヴェイ。あなたたちの大切な人は、兄さんみたいになったことある?」
 リクシアの疑問に、アーヴェイは首を振る。
「ハーティはそうはなら……いや、こっちの話だ」
「ハーティ? その人が、あなたたちの……」
「義理の母なんだ」
 少し昔の話をしようか、と彼は言った。

  ◆

 ずっと昔、二人は捨て子だったという。はじめにフィオル、次にアーヴェイ。その順に、とある女性に見つかった。
 女性の名はハーティ。茶髪に明るいオレンジの眼の、心やさしい女性だったらしい。彼女は捨てられた二人を良く育て、具合が悪くなったら医者に見せ、欲しいものがあったなら、よく吟味して買ってやった。教育にも熱心で、家事も非常にうまかった。彼女のもとで、フィオルもアーヴェイもまるで兄弟のようにして育ち、「当たり前」を謳歌した。

 しかし、平穏は長く続かない。それはある日のことだった。
「……嘘」
 ある手紙を読んで、彼女はくずおれるようにして泣き伏した。
「義母さん!?」
 ハーティには遠く離れた恋人がいた。その人は彼女の幼馴染で、フィオルもアーヴェイも、一度はその人に会ったことがあった。彼はクールで格好良くて、とても頼もしい印象を受けたと二人は語る。
 その日、届いたのは。その手紙は、
――その人の訃報。
 それを見るなり、ハーティは獣のような声をあげて咆哮した。それは魔物になる予兆。
「ハーティッ!」
アーヴェイは叫んだ。
 あの日、あの時。彼が悪魔の力を解放すれば、止められたかもしれないのに。
 駆け寄ったフィオルとアーヴェイは、振り上げた手に殴り飛ばされた。
「義母さんッ!」
 魔物になっていく、育ての親。止めたいのに、止められなくて。
「ウォォォォオオオオオオオオオオ!」
 狼のように遠吠えを一つ。
 そしてハーティはいなくなった。

  ◆

「……簡単にまとめれば、こうなる」
 アーヴェイがそう締めくくった。
「あれから何回か、ハーティ=モンスターに会った。一回はフィオルが死にそうになったことさえある。でも、彼女はリュクシオン=モンスターみたいにはならなかった。思うに……」
「リアはリュクシオンにとっての一番だったが、あんたたちはハーティにとっての一番じゃなかった。ハーティにとっての一番は、その恋人だったから……ということだろう。あんたたちにとって、ハーティが一番ではないように。あんたたちにとっての一番は……互いの存在だろうから」
 割り込むようにし、フェロンが言葉を引き継いだ。
 つまりは。
「魔物になった人があんな行動をとるのは、対象がその人の一番だったって場合だけ……?」
「そうみたいだな。よって僕の場合、リュークに会って生き残れるかはわからない」
「そうなんだ……」

 語られたのは、一つの物語。
 天使と悪魔が、花の都を目指した理由。

「……魔物、か」
 呟いて、リクシアは、今はいない兄に思いを馳せるのだった。

カラミティハーツ 心の魔物 Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」 ( No.15 )
日時: 2018/08/16 09:46
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6.

【第四章 王族の使命】
〈Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」〉

「リュクシオン=モンスター……」
 去りゆく怪物を、見据える影があった。
 「ゼロ」だ。今日はあの女と一緒ではなかった。
 だから彼は、本来はここにいないはずだった。
 彼女はあえて、彼を連れていかなかった。
 その理由は――
 オモイダサセタクナカッタカラ。
「――ッ! 頭が……」
 「ゼロ」は頭を押さえた。
 その怪物を見た途端、はじけだそうとする記憶。思い出したいのに、執拗な頭痛がそれをさせない。
「ぐ……ああっ!」
 脳裏に走った激痛。焼けつくように、突き刺すように。
 「ゼロ」はうめき、大地をのたうち、転げ回った。
 それでも――これは。
 魔物を見た瞬間、はじけそうになった記憶は、大切なものだから。
 苦しくても、苦しくても。思い出さなきゃならない、「ゼロ」はそんな気がした。
(リュクシオン=モンスター)
 唯一残った記憶が言うのだ。
(あれは、リュクシオン=モンスターだ)
 そして。
「ゼロ」
 彼の「母さん」の声。
(違う、あれは、母さんじゃない)
「ゼロ! 何してるの!」
(違う、僕の名は「ゼロ」じゃない)
 言っていたじゃないか、と彼は思い出す。あの日、戦った一人の少女が。
 思い出せ、思い出せ。あの少女の言った言葉を。
 頭痛はますますひどくなり、考えるのすら億劫になる。
 歯を食いしばり、痛みに耐え、「ゼロ」はあの日の記憶を呼び戻す。
「ゼロ!」
「ゼロじゃないッ!」
 あの少女の、言葉。
『******・*******! 目を覚ましてッ!』
「――思い出した」
 彼の頭痛は、消えていた。
「あなたは……母さんじゃ……なかった……」
「何を言っているの? 私はあなたの母さんでしょう」
「違うッ!」
 思い出した。思い出せた。あの遠い日の暮らし。父にいじめられ、兄にいじめられ。それでも、どんな時でも。母だけは味方でいてくれた。
「母さんの名はエリクシア! そして、僕の名は――!」
 あの子が教えてくれた、彼の本当の名前。
「……僕は、ある国の王子だった」
 唯一生き残った、王族。
 ゆえに、名乗ろう。思いを込めて。その名は――

「エルヴァイン・ウィンチェバルッッッ!」

 叫び、彼は「母」に剣を向けた。
「……運のない子」
 「母」は小さくつぶやいて、自らも剣を抜いた。
「ならば殺して差し上げるわ、私の可愛い『ゼロ』――いいえ、ウィンチェバル王国第三王子ッ! エルヴァイン・ウィンチェバルッ!」
「望むところだ! 人の記憶を勝手に操って……。この屈辱は、今、晴らす!」
 二本のつるぎが交わった。

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