ダーク・ファンタジー小説

同居臓器【完結済み】
日時: 2019/06/02 20:27
名前: 塩辛太郎

少し改変しました。

完結済みです。

手違いで以前のものが消えてしまいました。

再度あげさせていただきます。

分けておりませんので、一話で完結です。

長く読みにくい点も多々あるかと思いますが、
ご容赦ください。

1.5については読まなくてもよろしいかと。

終わり方が続編ある臭いですが、出すかどうかは分かりません…

Page:1



Re: 同居臓器【完結済み】 ( No.1 )
日時: 2019/05/15 23:43
名前: 塩辛太郎

十の頃から、他人が私とは別に体内に生きているような感覚が、常に私の中にありました。ふとした瞬間に、それは大きく、その存在を主張せんと、叫び声をあげます。その声はまるで赤子の産声のような、泣き叫ぶ子供の金切り声のようであります。私は、私の中の彼らとは、隣り合わせに平穏に暮らすことがどうにも難しいのだと感じておりました。私のものである私は、もう潰れてひしゃげた蛙のようになっているでしょう。醜い形になった私のものは、豚の肥やしにもならないのでございます。代わりとなった他人のものの、その生ぬるさと言ったら、まるで夏場の田の泥のようでした。彼らは叫んでいるので
すが、どうにも私には、何と彼らが申しているのか、それだけが年の先の方から疑問でございました。今でも彼らは叫んでおります。それでも私は、その言の葉を、あたかも噛み砕いたかのように飲み込むことはできないのであります。
私は私であって、その殆どが他人でございます。眼球を含めた全ての臓器を、十の頃より他人のものにすり替えられたのであります。その悲劇の主人公のような、御伽噺の出来事のような夢物語を、私は体の内に抱えながらも、どうにか生き長らえているのです。そして私は感じておりました。今現在ですら尚も強く、醜い形の私の臓器が波打つ音を。それが私には、とても恐ろしく思えたのでございます。
愚かで憐れな私は、恐怖に何度も殺されながら、今の今まで必死に、その命を紡いでおりました。そうしながら、早く、早くと、未だに動き続ける命が尽きるのを、その寿命が果てるのを、肉体のその最期を、今か今かと待ち望んでおりました。そんな矛盾した私とは裏腹に、彼らは嬉々として生き、私を苦しめ続けました。やはり彼らと私は分かり合えそうにないように思えました。実際に、今でも私は彼らと上手く平穏に同居しているとは言い難いのであります。
あの日は、丁度満月でございました。思えばあの見事な球体は、雨のように私に降りかかった不幸の前兆であったのかも知れません。それこそ弁慶も泣き出すような痛みを強いられ、思わず飛び降りた私のことなど、気にも留めずに、優雅に光り輝いていた月は、今宵も最高潮に満ちております。悲しいことに、時や季節というものは移り変わるもので、楽しかった思い出だけを置いてけぼりにして、世界は常に回っております。しかし考えれば考えるほどにその仕組みは奇怪で、この世に「証明できないこと」の一番であるかと思います。そんな無限の漂流の中、何を迷ったか彼らの魂は、私の中に入り、共に生き続けているのであります。昼夜問わず延々と続く叫び声は、やはり耳に入ることはできても、理解する事はどうしてもできないのでしょう。しかし彼らの叫びを聴きながら生き続けてまる15年。二十五の誕生日を迎えた日に、私の運命と彼らの運命は、その日を境に少し斜め上に走っていくことになるのであります。

夕方に落ち着くはずだった太陽は、すっかりあの灰のような曇にくるまってしまい、そんな曇などは、今にもその鉛色の涙を、まるで銃弾のように振らせようとしておりました。その涙でできた弾幕は、いっそのこと、私を撃ち殺いてくれはしまいかと、期待してしまうほどには強かにその身を打ち付けてきました。哀しみと憂いに苛まれていた私は、ただただ、雨によって殺されそうな街を眺めていました。思えば、彼女からの言葉は、この雨の比にならないほど、私の身を鋭く撃ちました。忘れた頃にまた火傷や凍傷のようにジクジクと痛み始めた古傷に、私はただただ眉を潜めていました。もう、思い出すものなどないと言うのに。痛みだけは、確かに感じ続けているのです。
ただ、一括りにきっかけと呼ぶものを挙げるとするならば、それは私の死への興味だったのでしょう。彼女はそんな私のような哀れなものを依存させては、自分への愛を確かめておりました。その後悍ましい習性を、どうやったって私達は突き放すことができませんでした。こうして、彼女は堕ちていったのであります。それを、止める事もなくただ見つめていた私は、やはり愚かなのでしょうか。
先の文でお分かりいただけたと思いますが、彼女を深く愛していたのは、何も私だけではなかったのです。時には彼女の魂を抜き、冷たくなったその体を愛で、互いに愛し合おうとする者もいましたが、そんな哀れな思考の持ち主は、それまた別の依存者にどうしても摘まれて行ってしまったのでした。けれども、私は彼女の下にいる中では最もまともな思考を持ち合わせていたに違いありません。その気になれば、自分や彼女を殺めてまでも、なんとか逃げ出す事が出来たのでしたから。
ある日、彼女に結婚を申し込んだ男がありました。彼女は、それに聖母のような笑みを浮かべて了承したと聞きました。私は、何度別の名前でそのような事実を伝えられたのでしょうか。彼女は決まってこう言うらしいのです。喜んで、と。
あのろくでなしの美人は、そのような綺麗事をつらつらと述べ続け、遂には一生をかけるほどの契約までもを欺いたのです。高価な指輪を渡した者は、その事実に気付いているのでしょうか。既に、依存しながらも傍観者と化していた私は、止める事もなく、時間の経過と、比例して大きくなる問題の大きさに、最早ため息をつくでもなく、淡々と情景を眺めておりました。今思えば、その選択こそが間違えだったのかもしれません。
ある時彼女は、未だに私が自分に依存しているとでも信じきっているかのような顔で、私に結婚を申し込んできました。私は暫し考え、そして断りの返事をしました。あの時の彼女の表情は今でも忘れる事が出来ません。
その後、私は彼女から別れを告げられました。自身を愛せない者は、必要ないとでも言うのでしょうか。どこまでも、彼女はエゴイストであり続けようとしているのでしょうか。私はそのエゴが、どうしても強がりなのだと思う事しか出来ないのでありました。
彼女と会う事は二度とない。そう思うと心が深海に沈められるような気が致しました。どこか安堵している自分にも、どうにも腹が立ちました。
それ以来、私はゆっくりと、しかし確実に死ねるように、タバコを吸うようになりました。時間をかけた自殺、とでも言うのでしょうか。この頃から、私の肌はどんどん白くなり、髪の色は黒から星のような銀に染まっていきました。目の色は、鮮やかな茶色から、憂いを帯びて淀んでしまった黒になりました。風貌の変わった私を、もう分かる人は誰一人としておりませんでした。
妙に、死への恐怖が膨れ上がっていくのが、私には分かりました。以前はもっと、手の届くところまでそれを縄か何かで引き寄せていたほどであったはずなのに。それが何故なのか、私は理解する事が出来ませんでした。

ある時、私は彼女に呼び出されました。酷く、胸が痛みました。彼女にまた、あの乱雑で痛々しい愛され方をするのだろうかと。そう思うと、私はその場で悶絶しそうになる程、気がまた沈んで行くのでした。四肢からは体温が引き、息ができなくなりました。まるで、溺れているかのように。そう、私は彼女に依存するとともに、激しく恐怖を抱き、嫌悪していたのです。まさしく私にとっての死とは、彼女の事であったのです。私の齢は前述の通り二十五でありましたが、今でも疎んでいる聡明なこの脳は、はっきりとその答えを出しました。そして遂に、私は彼女と再会しました。その酷い見た目と言ったら、もう目も当てられないほどでした。
腰のあたりまで伸びていた髪は痛み、まるで真珠のように光っていた肌は土気色に濁り、深い海のような色をしていたはずの瞳は、すっかり霞んで、黒であるはずなのに、白く見えなくなっているのではないかと勘違いするほど、曇っていました。
彼女はその唇を動かし、掠れた声で言いました。私を愛して、助けて、と。その声を聞いた途端、激しい痛みと共に、私の脳は異常をきたしました。世界が歪み、立つ事すらもままならなくなりました。それでもなんとか、彼女の目を見て告げました。あの日と同じ断りの返事を。その刹那、死んだように思えた彼女の目が、地獄のような色へ染まりました。彼女は叫びました。

「貴方を愛せるのはもう私しかいないのに。貴方はもうとっくに死んだも同然のはずなのに。人でなし!貴方は人間じゃない、ただ立って動くだけの肉塊よ。」

私は、暫く動く事が出来ませんでした。最後に聞いた言葉を思い出す事すら、その後の私の体は出来ませんでした。この脳ですら、私のものではないのではないかと考えると、それはもう恐ろしくて恐ろしくてたまりませんでした。漸く、指の一本を動かした私は、ビルの屋上から、街を見渡しました。あんなに恐ろしかった死が、もう興味も関心も湧かないものへと変化していました。生への執着も、そこで失せてしまったのであります。そのまま私は、地面へと身を投げ出しました。これではまるであの時と同じでは無いかと泣きそうになりながら、私は真っ直ぐに降りて行きました。
そう、私は十の頃、高い高い建物から飛び降りた事があるのです。ぐしゃぐしゃになった私は、他人の全てを無理やり繋ぎ合わせて、今の今までを生きてきました。彼らはきっと、私にこう言っていたのでは無いでしょうか。返せ、返せ、と。

目が覚めた私は、頭の痛みと共に、いつも以上に多くの声が聞こえるのに気が付きました。今度は男性だけでなく、女性の声も聞こえるような気が致しました。久々に声に耳を傾けてみましたが、やはり、何を言っているか分かりません。それどころか、何一つ、自身の名前すらも思い出す事が出来ません。今日は、何日で、ここは、何処なのか。髪は、こんなに長かったか。本当に、何も思い出せないのです。それがどれだけ恐ろしい事なのか、それがどれだけ辛い事なのか。分からない、分からない!嘆き方も泣き方も、感情すらも、私は忘れてしまったのです。もう、私は私では無いのでしょうか。
ドナーの話を、医者から聞きました。何人もの男性、女性が、私に臓器を移植したいと言っていたらしいのです。私は、もう何も考えませんでした。何か、思い出すようなこともありますが、それはきっと、思い出さなくていいものであるに違いないと、どういうわけか、自分は認識しているのでした。
_____________________________________________

彼の臓器移植を手伝った者は、皆んな同じ事を言った。

彼女と共に、彼の体へ入りたい。

いきなりそんな狂気じみたことを言われても、と私は戸惑うばかりであった。
たしかに彼は美しく、女性からの人気は凄まじいものに違いない。しかし、どうした事か、別の女性の名が出てくるのである。
女性は、確かに彼の臓器移植を手伝うといった。彼にこのことは告げないで欲しいとも。どういう関係なのだろうか。気になって仕方がなかったが、患者の素性を探るのは御法度だ。
彼は、目覚めた。何も覚えていない、赤子のような状態で。医学の進んだこの時代、心臓だって脳だって移植できる。彼は元々、小さな頃に臓器を移植されたらしい。そして、今度こそ、自身のものであるのは脳だけになってしまったのである。なんと哀れなことか。彼はもう、感情すらも表さなかった。

ある時、彼が私に言った。声が、聞こえるのだと。なんと言っているのか分からないと。私は、彼になんと返せばいいか分からなかった。なんせ、この臓器は彼女と共に、彼が死ぬまで生きたいだけの外道であり、そして、彼を苦しめ殺し、いつか彼女を自分の手中に収めたいと願っている者の所有物だ。ろくな物ではない。
彼の臓器は生きている。それも、私の中で。だからこそ、私にはあの臓器たちがなんと言っているのか、大方予想がつくのだ。

移植された、あの臓器。それは今でも、彼と平穏に同居しているとは言い難いのである。少なくとも、彼がその声を理解できるようになるまでは。彼が言葉を理解する時。それは彼の晩年に等しい。

…え?臓器たちはなんと言っているか?決まっているだろう?こう言っているのさ、四六時中。

『愛しておくれ、そして、死ね』

そう言っているんだよ。私の中の、彼の臓器がそうであるように。

きっと、彼の中にいた私も、同じ事を言っていたに違いないのだ。

とっくのとうに狂わされた人生は、同居するこの臓器によって、既に腐敗していたのである。

『カルテ11 同居臓器』

Re: 同居臓器【完結済み】 ( No.2 )
日時: 2019/06/02 20:26
名前: 塩辛太郎


そんな、狂気に塗れたカルテを読み終わり、彼女は顔を青ざめた。

彼に心臓を与えたはずの彼女を、私は知っている。

そう思いながら、廃病院を後にしようとする。

これは、一体何年前の話なのだろう。

これは、本当の話なのだろうか。

後方にある鏡からは、異様な雰囲気が感じ取れた。

逃げ出すように外に出る。

これがのちに、岩崎真守という青年の悲劇に変わるとは、誰も、思ってもいなかった。

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