ダーク・ファンタジー小説

藤の如く笑えよと
日時: 2019/08/03 20:38
名前: 千葉里絵
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?n=12561

 遥か昔、未だこの國が國神様に造られてから幾百年しか経っていなかった頃に、ある女が居たそうな。
 その女は産まれは貴族ではなかったが、赤子の頃に有力な四家のうちの一家に拾われ、貴族となった。
 人々からは「藤花の君」と呼ばれ、大層美しい女人に育ったそうな。
 そんな時分に日嗣の御子、つまり若宮が妃を取ることになった。
 妃は四家の姫から選ばれる事になった。
 勿論、藤花もそのうちの一姫である。
 姫達はそこから一年、同じ土地で暮らした。
 しかし、同じ土地とは言えども、姫たちは一人に一つ宮を授けられた。
 これが後の授宮の儀の元となる。
 藤花は夏ノ宮を若宮から授かった。
 しかし、生活の中で姫同士が話すことはまず無かった。
 皆、少しでも若宮に振り向いてもらおうと必死だったのだ。
 だが、若宮は夏ノ宮に足繁く通っていた。他の宮とは比にならない程であったという。
 そんな中、遂に若宮が妃を選ぶ日がやって来たそうな。
 誰もが、自分の主を最も信じるべき女房達でさえも、藤花が選ばれると思っていた。
 四姫が揃うと、妃を選ぶ段になる。
 若宮は迷うことなく藤花に近寄り
ー懐刀で刺し貫いた
誰も一言も発せなかったそうな。

 この愚か者めが。私を欺き通せるとでも思うたか。女人の神聖な宮によくも女でないお前が入ったな。ましてや、人でさえないお前が入れる場ではない。お前の養父は騙せども私を騙すことは出来ぬぞ。
と言われたそうな。
 今までの若宮の夏ノ宮へのお通いは、藤花の証を得るためであった。

 そうか、気付かれていたか。しかしな、若宮よ。御主にはこの後、数多の困難が待ち受けているであろう。その困難に苦しみ、藻掻け。そして辛くなれば、我の名を呼び、乞い願うが良い。何時でも助けてやろうぞ。我を妻としなかった御主を………
 藤花はそう言うと藤の花弁と成り散っていったと。
「東ノ領ノ翁ニテ語ラレタル話集ヨリ『藤花ノ事』」

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Re: 藤の如く笑えよと ( No.10 )
日時: 2019/06/19 20:46
名前: 千葉里絵

〜作者から〜
 こんにちは、千葉里絵です。
 いろいろ事情がありまして、更新が今以上に遅くなります。
 大変申し訳ございません。
 読みにくい文を読んでくださる方々には常日頃からとても感謝しております。
 遅くはなりますが、更新は必ず週に一回は最低でもしようと思っていますので、宜しくお願い致します。

Re: 藤の如く笑えよと ( No.11 )
日時: 2019/08/02 22:28
名前: 千葉里絵

 ちどりが御簾の向こうに思いを馳せているうちに授宮の儀は終わっていた。
 山吹に声を掛けられ、慌てて他の三姫の後ろに続いて藤花宮を後にする。
 緊張から解放され、ちどりが溜め息を吐くと横から山吹が「お疲れ様です」と労いの言葉を掛けてくれた。
 ただ座って話を聞いているだけだったのに、本当に疲れた。
 そして、来る前からあった気後れが他の姫達を見てますます膨れ上がった。
「私、本当に春領の姫としてやっていけるかしら……」
 思わずそう溢すと、横から優しげな声が返ってきた。
「大丈夫ですよ、ちどりの君。貴女は十分綺麗だ。気後れする必要はない」
 はっとして横を見ると其処には夏領の葵が立っていた。
「あ、葵様……。そんな、お世辞でも嬉しいです……有り難うございます」
 微笑みながら此方を見ている葵には何とも言えない安心感の様なものがある。
「お世辞などではない。それにそんなに緊張しないでいい。私の夏領とお前の春領、同じ血筋同士仲良くしよう」
 葵の優しい声音に緊張が少し解れると同時に、同じ血筋という言葉が気になった。
「あのぅ、葵様……同じ血す」
「あら、春領の方? 確かちどりと言いましたわね。こんな所で何をしてらして?」
 ちどりが葵に血筋のことを聞こうとしていた処に華やかな一団がやって来た。
 先頭を歩いているのは秋領の蘇芳菊である。
 藤花宮に居た時よりは抑えめではあるが、それでも十分に華美な衣裳を身に付けている。
 蘇芳菊はするりと葵とちどりの間に入り込むと、まるで今気が付いたように「あら、夏宮の方もいらしたの。気付きませんでしたわ」と言った。
 葵はこの嫌味を聞いても、今までと変わらず優しげな笑みを湛えていた。
だが、口から発せられたのは表情に合わない皮肉だった。
「おや、気付くのが遅いね。そんなに無駄にきらきらと着飾っているから、目の調子が悪くなっているのでは? うーん……だが、その唐衣の柄や襲色目を見ている限り、衣を選ぶ前から目の調子は悪かった様だ」
 その言葉に蘇芳菊は顔をひきつらせている。
 その顔を面白そうに見つめると、葵は先程までよりも生き生きとした表情で、では後程、と優雅に一礼して女房達を引き連れて夏の宮へと戻っていった。
 ちどりが呆気に取られてその後ろ姿を見送っていると、横から蘇芳菊の震え声が聞こえてきた。
「……な、何なの?! あの姫は!」
 そこから暫く葵に対する怒りに蘇芳菊は震えていたのだが、少し経つと大分落ち着いた様でちどりに話し掛けてきた。
「……まぁ、良いですわ。そもそも、あの方に用は無かったのですし。それよりもちどりの君、私可愛らしいものや、美しい物は皆好ましいと思ってますの。貴女も私程ではないけれど綺麗でしょう?」
だから、お近づきの印に此方を差し上げるわと蘇芳菊が言うと、後ろに控えていた女房が綺麗な朱色の箱を持って進み出てきた。
 箱には贅沢にも鶴や亀が金箔で所狭しと描かれている。
「この箱をくださるのですか? 美しいですねぇ。有り難うございます」
 ちどりがそう微笑むと、蘇芳菊はぽかんとした顔をした。
 後ろに居る女房達の肩が小刻みに震えている。
 遂に女房の一人が、ぷっと噴き出した。
 それに釣られて他の女房も笑い出す。
 失礼でしょう、と女房達をたしなめている蘇芳菊も唇の端が歪に歪んでいる。だが蘇芳菊においてはその歪みさえも歪というよりも美しいと思わされてしまう。
 場は一瞬のうちに笑いに包まれた。
 ちどりは何故こんなにも笑われているのか理解が出来ずに、笑っている秋領の女房達を見つめていると、山吹が囁き声で宮中では入れ物があれくらい豪華なのは当たり前なのだ、と教えてくれた。
 ずっと別邸で女房達と暮らしていたちどりが知らないのは無理もないのだが、どうやら自分には宮中の常識が足りないのだとようやく実感出来た。
「ち、ちどりの君。勿論、この箱も差し上げますとも」
 ですが私が貴女に差し上げたいのは箱の中身ですと蘇芳菊が笑いを噛み殺しながら言うと、箱の蓋が開かれ、中にある物が見えた。
 それは、銀と桃色に輝く宝石をふんだんに使った海棠の髪飾りだった。
 きらきらと日の光を浴びて輝くそれは世間知らずのちどりでさえも高級な品だとわかる。
「此方は我が領の名工が腕を振るって作った品ですの。秋領でしか採れない紅水晶と銀を使っています。紅水晶は本当に薄く削られているのでこの様に桃色に見えますのよ。見てください、この紅水晶の輝きの美しいこと!」
 蘇芳菊の声に応えているかの様にきらきらと輝く水晶は確かに美しい。
「大した物ではないですけれど、どうぞお納めになって」
「こ、これをでございますか……?」
 蘇芳菊に恐る恐るという風に訊ねたのはちどりではなく山吹だった。
 何か問題が?と蘇芳菊は問題などある訳がないと言わんばかりの口調で訊ねる。
 主の代わりに品物を受け取った山吹は何時もより動きが堅く慎重に箱を抱え持っている。
 それに気付いたのか蘇芳菊が山吹に笑い掛けながら言った。
「気にしないでくださって結構ですのよ? これくらいの物、私掃いて捨てる程持ってますもの。宮仕えの前だと言うのに、お父様や殿方がくださるんですの」
 美しすぎるのも悩みの種ですわね、と嘆く蘇芳菊の嘆きの中にはちらちらと嬉しさが見え隠れしている。
 確かに蘇芳菊はとても美しい。
 とても美しいのではあるが、何と言うか……強烈だ、とちどりは此処まで話を聞いていてそう感じていた。
 そんなちどりに構わず蘇芳菊は話を続けている。
「先程、淡雪にも差し上げましたのよ。葵にはあげませんけれどね。それに貴女のその淡い髪色。私程ではないけれど美しいのですから、きっとその髪飾りも似合いますわ!」
 淡雪もそう思うでしょう、と言いながら蘇芳菊が振り返った先を見ると淡雪が静かに立っていた。
 静かすぎて、ちどりも今まで気付かなかった程だ。
「はい、そうでございますね。ちどり様によく似合うかと……」
 目線を足元に落としながらそう言っている彼女は、抱き締めればぽきりと折れてしまいそうにか細く思える。
 「淡雪様……! いらっしゃったのに挨拶もせず……申し訳ございませんっ」
 ちどりが慌てて頭を下げると、上からあの低めの声が降ってくる。
「いえ、挨拶をしなかったのはわたくしも同じです。頭を上げてください、ちどり様」
「ですが……」
 淡雪は別に許してくれているし、そもそも挨拶をしろとも言われていないのだ。
 だが、ちどりの気が済まなかった。
 礼儀を欠いたという恥ずかしさと申し訳無さがない混ぜになり混乱していたのだ。
 すると混乱しているちどりの頭の中に、淡雪の声がすっと滑り込んできた。
「四家の姫は全員対等な立場なのですから、そんなに頭を下げないでください」
 確かに、家柄としてはちどりも淡雪も、蘇芳菊や葵だって対等であり上下は無い。
 だが、ちどりにはとてもではないが自分と他の三姫が対等だなどとは思えなかった。
 ちどりがそう思いを巡らせ、頭を上げられないでいると、いきなり淡雪の綺麗な顔がそっと下から覗き込んできた。
 ちどりが驚いて体を起こすとしゃがんでいた淡雪もゆっくりと立ち上がる。
「わたくし達は此処では対等なのです」
 ちどりが顔を上げたのを確認すると淡雪はちどりにしか聞こえない様な声でそう囁いた。

「淡雪様、そろそろお召替えのお時間です」
 女房の一人が後ろから淡雪に声を掛ける。
 淡雪はそれに頷きで返した。
「では皆様、また別の機会にお会い出来ることを楽しみにしております」
 にこりともせずにそう言うと淡雪は冬の宮に帰っていってしまった。
 

Re: 藤の如く笑えよと ( No.12 )
日時: 2019/08/02 22:31
名前: 千葉里絵

「淡雪は照れ屋なんですわ。だから今日もあんな地味な色目の衣を選んでしまったんですのよ」
 せっかくの晴れ着だと言うのに、と淡雪の行った方を見ながら、哀れむ様な声音で蘇芳菊は言った。
 だがちどりはその言葉に何とも言えない気持ちの悪さを覚えた。
 確かに淡雪の着ていた衣は白を基調とした淡い色合いの物であったが、それが淡雪の場合はとても良く似合っていたのだ。
 それに、恐らくはあの衣も今日のために迷いに迷って決めたのだろう。
 皆、自分に最も似合う物を今日のために準備してきたのだ。
 例えば、葵が着ていた衣。美しい秘色の衣は正装には用いられない細長だった。
 しかし、葵はそれをしっかりと着こなしていた。誰もその着こなしに文句を言えない程に美しく、葵だからこそ着れたのだとちどりは感じた。
 かくいうちどりだって、今日のために悩んでこの衣を選んだのだ。
 紅梅の匂はやや色が明るかったかもしれないとも思ったが、自分にはこの色が似合うと思いこれに決めたのだ。
 それをもし自分がこの様に言われたら、と考えるだけでも悲しくなった。
 気が重くなり黙っていると、蘇芳菊が何を思ったのか突然「今度、茶会でも開きませんこと?」と言い出した。
「茶会………ですか?」
「ええ、秋の宮で行いましょう。私が主催ということで」
 どうかしら、と訊ねる蘇芳菊は活き活きとしている。
「良いと思います……」
 勢いに圧されてちどりは肯定することしか出来なかった。
「茶会なんて楽しみですわ。今回は葵も呼んであげましょう」
 日取りは何時が良いかしら、と楽しそうに計画を練りながら蘇芳菊は挨拶もそこそこに自分の宮へと戻っていった。
 ちどりとその女房達だけになると、遠慮がちに後ろからそうっと声を掛けられた。
「姫様……」
 山吹のたった一言で一気に力が抜けてしまったちどりである。
「ねぇ、山吹……わからないことだらけだわ……」

Re: 藤の如く笑えよと ( No.13 )
日時: 2019/07/27 13:31
名前: 千葉里絵

「申し訳ありません……私が姫様に宮中のことをあまり教えなかったばかりに……」
 そう言いながら頭を下げる山吹を見てちどりは慌てた。別に山吹を責めるつもりはなかったのだ。
「いいえ、いいえ。山吹は悪くないわ。私が悪いのよ。宮中の事なんて何一つ知らないのに、のこのことやって来て……やっぱり妹が、あの子が来た方が良かったのよ……」
 今日一日で自分がいかに常識が無いのかを知った。あの子だったらもっと上手く立ち回っただろうと思うと悲しく、辛い。
 本当なら妹が「ちどり」という名を貰い宮中に赴く筈だったのを、自分が奪った。こんなにも無能な自分が。
 「姫様……こんな所で泣かないでくださいませ……」
 気が付けば涙が溢れていた。女房達が心配そうに此方を見ている。
「でも、でも……」
「姫様、大丈夫です。私共がついています。取り合えず宮に行きましょう」
 きっと美しい宮ですよ、という山吹の声はいつもよりも少しばかり明るい。
 そんな山吹の優しさに、ますます涙が溢れそうになる。
「……ええ、そうね。きっと美しいわ」
 ちどりは溢れた涙を拭った。こんなに優しく、自分を心配してくれる人をこれ以上困らせてはいけない。
 そう思い、今の自分に出来る精一杯の笑みを見せると、山吹も少し安心したように柔らかい笑みを溢した。
「では、行きましょうか」
と声を掛けると帝家から派遣された女官の一人が前に出てきた。
「ちどり様、この度帝家より遣わされました、初音と申します。春の宮まで私がちどり様を案内させて頂きます」
 そう言って先頭に立った初音は、そばかすのある愛らしい顔立ちをしていた。
 

Re: 藤の如く笑えよと ( No.14 )
日時: 2019/08/14 16:02
名前: 千葉里絵

「ええ、初音宜しくね。……情けない姿を見せてしまってごめんなさいね」
 ちどりが恥ずかしくなってそう詫びると、初音は驚いた様な顔をした後慌ててそれを否定した。
「……い、いいえ。ちどり様、そんな情けないだなんて……。あの、ちどり様が不安に思うのも仕方がないと、あたしは思います……。あ、ちどり様のお気持ちがあたしなんかに分かるわけはないのですが……その……えっと……」
 何と言えば良いのかわからず、でも確かにちどりのことを思いやってくれるその言動を見て、ちどりは初音に少し心を開いていた。
 今さっき初めて話した女官。春家から

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