ダーク・ファンタジー小説

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咎無くて死す。 【 短編集 】
日時: 2020/09/28 20:57
名前: 蜂蜜林檎 (ID: LH/LPtL4)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12828

短いお話を書きたくなる事があるので短編集作りました。
超絶不定期更新だと思いますが見てやってください。

【 目次 】
>>1『 土竜 』

【 スレ立て日2020/8/18 】

土竜 ( No.1 )
日時: 2020/09/28 20:45
名前: 蜂蜜林檎 (ID: LH/LPtL4)

ヨモツカミさん主催の「 みんなでつくる短編集 」の方に投稿させてもらったものです。

***

「 彼岸花には触っちゃ駄目よ 」

昔からそう言われて育ってきた。毒があるとか、死体が埋まっているとか、摘むと近いうちに火事がおこるとか。あの紅い花は綺麗な見た目で命までも奪うのだと。

どこかの小学校で下校の音楽が流れる。今、世の中はお彼岸だ何だって騒がしい。墓参りの帰りに偶然立ち寄った近所の神社は、神社なのか目を疑うほどにぼろぼろだった。伸びっぱなしの雑草と、そこらにちらほら咲く彼岸花。毎年行っていた年越しや夏祭りの騒がしい面影は消えてなくなっている。
ふと人がいるのに気がついた。今にも崩れ落ちそうなベンチに、小柄な女が腰かけている。女が着ているワンピースは彼岸花を思わせるような紅。

「 あれ、人いたの 」

そう言って立ち上がる。長いまつげを揺らし、肩にかかるくらいの髪をかきあげる様は自分じゃ言い表せないくらい綺麗だった。

「 誰も来なくってさ。暇してたの 」
「 はぁ、そうですか 」

座って座ってと苔むしたベンチに誘導される。馴れ馴れしく自分の事を話し出す彼女は、私の存在など無視するように喋り続けた。日はもう少しで暮れそうで、でも帰りたくなくて。時々意味の分からない事を言ったが、さほど気にはしない。何故か聞いているのが心地よかった。

「 そろそろ帰ります 」
「 あ、そうなの。またね。いい夜を 」

きっともう会わないだろうけど。
彼岸花。食べたら毒がある。そんなどうでもいい事が頭をよぎって、すぐに消えてった。

家に帰って、寝て、起きて、学校へ行って。気がついたら、またあの神社へ行っていた。女が、彼岸花が座っている神社へ。午後六時を告げる音楽が今日も響く。女は昨日と同じワンピースを着ていて、こちらに気がつくと嬉しそうに手を振る。二人で笑った。昨日会ったばかりなのに、まだお互いの名前も知らないのに。

「 私ねぇ、えーと...ひぃふぅみぃよぉ...五日くらいたったらもう多分いないよ 」

急にそんなことを言い出した。目の前の彼岸花はあたかも当たり前のようににこにこしている。

「 いないって、どういうことですか 」
「 えっとね、枯れるの。ぐしゃぐしゃ~って崩れて 」

彼岸花は近くにいた鈴虫をおもむろに掴み、羽を一枚千切りだす。そして羽をぐしゃりと握り潰して、「 こんな感じ 」と微笑んだ。鈴虫はばたばたと足を動かし、必死に鳴き声をあげる。その様子を見て初めて、なにかがおかしいことに気づいた。

「 ...かわいそうですよ 」
「 なんで ? いずれ皆枯れるでしょ。それより見てよ。この虫、生きようとしてるの。綺麗だね 」

羽とか足とか、生えているものは全部千切った。四肢をもがれてもなお懸命に鳴き続ける虫を、彼岸花は手のひらの上で転がす。愛でるように。

「 ...帰りますね 」
「 じゃあね。また来るんだよ ? 絶対 」

絶対。絶対。絶対という言葉が呪縛のようにつきまとう。明日は行かない。私は行かない。あの神社に。異常だ。あそこにいたら、駄目だ。あの彼岸花は毒だ。

「 どうして来なかったの 」

一日神社へ顔を出さなかっただけで、彼岸花はかなり変わっていた。ワンピースは真っ赤というよりかはどす黒く、くすんでいる。白くて美しかった肌には痣みたいな痕。右の手にはハサミが握られていて、刃の部分が怪しげにぎらぎらと光っていた。近づいてきて、私の心臓辺りにハサミの刃を押し付けてくる。

「 殺すんですか。私を 」
「 そんなことするわけないじゃん。だって大好きだもん。君も私のこと好きでしょ 」

こくり、とうなずいていた。なんで。どうして。勝手に動く頭をどうにも止めることはできない。

「 へへ、嬉しい。私も大好き 」

また、笑った。綺麗だった。でも、気持ち悪かった。
夕焼けに染まる神社は三日前とは比べ物にならないほど寒くて、静か。虫の音もかすれて聞こえる。さっきまで私の首に巻いていたマフラーを彼岸花にあげると、ハサミで半分に切り始めた。若干長い方を私の首に巻き、短い方を喜んで自分の首に巻く。

彼岸花が枯れると言っていた日まで、私は神社に欠かさず通った。彼岸花が好きで、嫌いで。笑った顔とか、声とか、長いまつげとか、さらさらの髪とか、肌とか、全部好きで、嫌い。

「 今日枯れちゃうのかぁ 」

そう呟く横顔はもう前の顔じゃなかった。痩せこけて、醜い。でも綺麗。





「 貴方が、好きです。嫌いだけど、好きです 」
いつの間にか口から出ていた言葉は、二人の間を滑る。彼岸花はもう喋らなかった。枯れた。ずり落ちたマフラーは切ったところから糸がほつれて、直る気配はない。
薄い唇にそっと唇を重ねてみる。温度がなくて、苦くて、甘い。

やっぱり毒だ。触っちゃ駄目だったんだ。食べちゃ駄目だったんだ。彼岸花の毒は時に人をも狂わせる。うかつに触ったら最後、毒に侵される。


彼岸花にまた会う日まで、多分この毒は一生抜けない。


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