シリアス・ダーク小説

宝くじに当たった男
日時: 2020/07/09 17:30
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当った男 1
 第一章  成金になる  

(はじめに)
 誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
 この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
 人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
 当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
 自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
 もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
 東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
 誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
 それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
 人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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 第一話  どうせ駄目な男

 物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
 課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
 気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
 重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?  
 コンコン「失礼します」
 「おっ山城君ご苦労さん」
 そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
 部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
 お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
 その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。

 「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
 予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
 「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
 山城はハァと言うのがやっとだった。
 やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
 いやここで褒めてどうすると言うのだ。
 たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
 最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
 山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
 そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
 言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
 山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
 もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
 『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
 まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
 取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。 
 もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。

つづく

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Re: 宝くじに当たった男 ( No.26 )
日時: 2020/08/04 19:53
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 27

「ゴメン遅くなりました。松野さん怪我はなかったですか」
 早紀はあまりにも突然の救出に声もでなかった。
「いや昨夜はちょっと気分を変えて飲みに行ったら松野さんが居ないんでね」
 早紀はヤクザの亭主の舎弟に捕まった以上、もう無理だと諦めていた。またあの夫の監視の下で玩具のような扱いを受けた生活に戻るのだと。
「ほっ本当に何度も助けてもらって……でもどうして分ったの」
 アキラは困った。どうしてと言われても信じてもらえる訳がない。まさか占い師に占って貰ったなんて、しかも電話でだ。
「まぁそれは勘ですよ。ただの勘ハッハハハでも巧くいって良かったです」
 車は花園から嵐山を左に曲がって川添えに走る西京極から国道一号線へ、其処から三十分ほど走り高速道路に乗った。もうすぐ大阪に入る。またまた渋滞にはまったが、なんとか大阪から神戸に入って来た。まさか奴らは此処まで来ないだろうと思ったが、あの執念深さは侮れない。彼等も組長の女を逃した。なんて事になったら手ぶらで帰れないだろう。

 多分それほど怖い組長かもしれない。早紀でさえ怯えているくらいだから。
 車は淡路島に入った。あの阪神大地震で多くの人が犠牲になった。もう十年以上が経つのに今も当時の凄さを物語る爪あとが残されている。高台の原っぱには地震の亀裂が所々に見られる。淡路島は東京二十三区かシンガポールの面積とほぼ同じである。
 その淡路島を一気に抜けると四国の玄関口、鳴門海峡に架かる鳴門大橋。
 あの鳴門の渦潮で有名な場所だ。遊覧船が出ているがいつでも渦潮がある訳じゃない潮の流れによって違う。遊覧船は大人千五百円くらいで乗れるが決して高くはない。それほどに見る価値があると言う事だ。アキラと早紀は船には乗らなかったが渦潮が見える高台の公園で車を降りて休憩を取った。観光地らしく沢山の店がある。

 鳴門と言えば数年前の二月二十日に第百二十三回ロトシックスで一等三本のうち二本が鳴門市内の同じ窓口で出た。その金額が一本二億四千五百万円も出たそうだ。
 もし同じ人なら約五億円近い金額になる。あぁ羨ましいかぎりだ。
「何度か私ここに来たけど此処は壮大で大好きよ」
 久し振りに早紀は海峡を眺めて気分が落ち着いたのかアキラに語りかけた。
「さあて出発しようか、早く行って友達に逢ったら安心するでしょう」
 アキラは少しだけの休憩だったが、モタモタしていたら何が起きるか。いくらアキラでも、そうそう揉め事ばかり起していられない。車を高速道路に乗せて走り出した。高知まで時間にして二時間三十分で着く予定だ。上板、土成、阿波、脇町、美馬、三好〜そして、はりまやをアキラはノンストップで走った。
「早紀さん場所、分りますか?」
「えぇこの先にある競馬場の近くです」
 やっとの長旅は早紀の目的地、友人の居る高知に着いた。

 浦戸湾の先に名所、桂浜がある。それを見下ろしように坂本竜馬の銅像が高台に建っている。そこから五分程走って目的地に到着する筈だ。春野総合運動公園入り口に差し掛かると早紀は「あっここよ」と言った。
「ありがとう山城さん。ちょっと待っていてね。行って来るわ」
 早紀は走ってその家に入って行ったが、その家を見たアキラは……
 アレッと思わず声が出た。アキラが見たものは? なんだか立派な看板が玄関にあった。普通の家にしては大き過ぎる。なんの看板かな? アキラは身を乗り出した。『竜馬隊』と立派な金文字の看板だった。なるほど坂本竜馬の資料館かな? やがて十分後、松野早紀と落着いた和服姿の女性が近づいて来た。その女性が先の友人らしいが、年は先と同じ三十歳くらいだ。

「ご苦労様です。この度は早紀が大変お世話になりました。どうぞ中に入って旅の疲れを癒してくださいませ」
 なかなか女性にしては貫禄が感じられ威圧感さえ漂っていた。
「初めまして山城旭です。松野さんとは縁ありまして一緒に旅をさせて貰いました。急ぎ旅でもないので気にしないで下さい」
 アキラは案内された駐車場に車を停めた。それにしても黒塗りのベンツが数台も置いてある。
 相当な家柄なのかも知れないと最初は思ったのだが、資料館でないようだ。
 とっ玄関が近づいて来ると、いきなり七〜八の男が玄関の両側に整列した。
 なっなんだあ〜〜この連中は? アキラは呆気にとられた。
 どうやら其処は、またしても竜馬隊と言うヤクザの組事務所ようだっだ。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.27 )
日時: 2020/08/05 21:37
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 28

類は友を呼ぶと云うがヤクザの友はヤクザだった。
両側に整列した恰幅のいい男達、どう見てもその筋の人間達だ。
「ご苦労様です」と大きな声で、応援団のように両足を広げて腰を折り曲げ歓迎の儀式を受けて中に入った。だが、そのヤクザ達より更に威圧感のあるアキラの大きな体格に彼らもきっと驚いている事だろう。中に通されると応接間と思われる立派な和室があった。その広さは三十畳もあろうかと思われるほど広く床柱も黒光りしている。
上座にあたる正面には大きな掛け軸に『任侠道』と書かれていた。
大広間を通り過ぎて入った部屋は一転して二十畳ほどの洋室だ。豪華なソファーとテーブルが置かれてある。落ち着いたところで松野早紀が話し始めた。
「改めて紹介するわ。私の友人の坂本愛子。彼女とは高校時代からの親友なの。見ての通り愛子は私と同業者よ。でも彼女は六代目隊長よ。でも普通のヤクザ組織とは少し違うけど。あとは愛子が説明して私には難しいわ」

「山城さんって本当に大きい方ですねぇ、早紀も安心していられたでしょう。そうねぇ、訳があって父が亡くなってから私が引き継いでいるけどこの『竜馬隊』明治時代から、坂本竜馬の末裔と言われているの。同じ坂本の姓だから、竜馬隊になったかは分らないですが、まぁヤクザと言われてもしょうがない家業ですが表向きはテキヤ家業です。私達は任侠道を大事にしているわ。一般の方に迷惑かけない主義よ。地元にも貢献しているし街の人達にも信頼されて居るから今日まで続いてるのよ」
 「なるほど静岡の清水次郎長みたいな感じですね」
 「面白い例えね、同じ任侠でもあれほど町民に愛された人はいないでしょうる。私達も同じく街に愛される任侠を目指しています」

どうもアキラはヤクザと縁があるのか学生時代からだから、それほど驚く事もないが敵に回さなければ悪くはない人達だ。むしろ遊び相手としては飽きることがないだろう。
何はともあれアキラの役目は終った。松野早紀の旦那がこのあと、どんな行動を取るかは知れないが、なんたって坂本竜馬の末裔と言われる竜馬隊が付いてる。問題ないだろう。きっと早紀を竜馬隊の威信に掛けて守ってくれるだろう。
坂本愛子から名刺と、立派な添え状を貰った。その添え状は山城旭なる男は『竜馬隊』の客人であり竜馬隊同様に手厚く、御持て成しを願います。と書かれてあった。つまり何処か地の組に行っても厚い持て成しを受けられる有り難い添え状である。
 だがヤクザでもないアキラが、一宿一飯で世話になる事ないだろう。ただ最大の厚い誠意は嬉しかった。アキラは坂本愛子の丁重な御持て成しを後に竜馬隊を出た。後にこの竜馬隊一行と再会する事になるのだが、それはまだ先の話。かくしてアキラは自由の身となった。アキラも色んな意味で収穫があった。
 旅に出る前のモヤモヤも消え、一路アキラは東京に帰る事決めた。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.28 )
日時: 2020/08/06 18:56
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 29

第三章 浅田美代との再会編

 アキラは帰る途中含み笑いを浮かべていた。早紀と出会え振り回されヤクザとの格闘、飲み屋で喧嘩の仲裁など、アキラとしては充分に楽しめた旅だった。だが三億円当ってから、自分の歯車が狂い始めて来ている。アキラは働くことへ意欲をなくした訳ではないが、働く理由に疑問を感じていた。
一生懸命に働いても月二十五〜三十万、会社にいくら汗水流して貢献してもそれだけの報酬だ。しかしアキラは運だけで労せず三億円を手に入れた。地味に暮らせばと仮定して五十年間暮らして行ける。なら他人(会社)の為に汗水流して働く意味がない。
 そんな疑問が頭の中をよぎり、未だに心は燻ぶっている。
 結局は高知まで来て多少のトラブルはあったが、求めていた答えが出ない。
 アキラは高知から東京まで出ているフェリーに車を乗り入れた。あとは運転する手間も省け特等室でのんびりと船旅を楽しむ事にした。船室に荷物を置いてアキラは甲板に出ると風が冷たい。まもなく十二月が入ろうかと言う季節、空は真っ青に澄み切っていた。その時アキラの携帯に着信メロディが流れた。相手の名は携帯の登録者以外の人間からだった。誰だろう?

「ハイ山城です……」 
「あのう……私、浅田美代ですが分りますか」
 忘れるはずがない。しかし彼女の好意を無駄にしてしまって、つい今まで申し訳ない気持がモヤモヤとしていたアキラだった。
「あ〜どっどうもご無沙汰しています。貴女に謝らなければと思っていました。つい言えそびれて旅に出てしまって本当にすみません」
「いいえ、それより急にごめんなさい。占い師の真田さんから番号を聞きました。ですから私そんなつもりで電話したんじゃないです。ただ急に退職なさり、何があったのかと心配しておりました。心配事があるなら。もし私で役に立てることがあるなら、あの時のお返しが出来ればと」
 なんと思いやりのある言葉だろうか。アキラにとって、まるで女神の囁きに聞こえるのも無理はない。

「俺。いや僕は今フェリーで東京に向かっています。明日の朝には東京に着く予定です。もしその時にでもお詫びを兼ねて食事などいかがでしょうか」
「あっそうですね。もしお疲れでなければ構いませんですよ」
 なんとアキラは躊躇なく美代を食事に誘った。以前のアキラでは考えられないことだ。
 あの怪しげな女、松野早紀との珍道中で女性の免疫が出来た為だろうか。アキラは船で何もする事はないし疲れる事もない。もし死ぬほど疲れていても、ぜんぜん疲れていませんと答えるだろう。アキラの陳道中もやっと終幕を迎えた。
 予定通りフェリーは早朝、東京に入港した。アキラは自宅の豪華マンションに帰宅した。さてさて、その旅で得た事は? 松野早紀に振り回された事だけだった。他には、これからの自分に役立ことは皆無に等しかった。
 時間と金の浪費に終わった。母親が聞いたら、さぞかし嘆くだろうよアキラ。
 その日の夕方七時に待ち合わせた池袋のレストランに向かった。アキラが案内されて席に着くと間もなく浅田美代が現れた。

 アキラは席を立って美代に軽く会釈して彼女に椅子を勧めた。
 周りの客がアキラに視線を送る。やはり百九十八センチは目立つのか? 体重が百五キロなら、かなり太っていると思われるが、そこは二メートル近い長身。以外とスマートだ。筋肉で覆われた肉体はガッシリとしいて、威圧感を感じさせる。
 最近まで空手道場に通っていたので体重も百五キロになったが身体が締まっていた。
「どうも、お久し振りで浅田さんの好意を無駄にしてしまって申し訳ないです」
「本当に気になさらないで下さい。それより何かあったのかと心配していましたのよ」
 それは確かにあった。それも大ありだ。話せば楽になるが。それを聞いた人は「あー良かったね」で終わらないだろうと思っている。特にアキラ見たいな文無しには人生を大きく左右する大金であった。二人が逢うのは三ヶ月ぶりの事だった。
 浅田美代は女性には最近の女性らは見られない控えめな態度で、物事を冷静に見る判断力と知性があり、素晴らしい女性である。美人と言うよりもキュートで可愛らしい女性であり、まさにアキラの理想的なタイプの女性であった。
「浅田さんも、この若さで無職ではと呆れているでしょうが、ちょっと事情がありまして、本当は話せれば楽になるのですが今は親にも言えない悩みが……まぁ取り敢えず食べるには今の処は心配ないのです。いずれ分るかも知れませんが、今はまだ申し上げられない事をお許し下さい」
「そうですか山城さんも色々と事情がおありでしょう。本当は私なんか差し出がましい事なのですが、山城さんが元気でいて下されれば私が特に心配する事もないですよね。お節介でごめんなさい」

 そう言って浅田美代は照れくさそうに下を向いた。なんと奥ゆかしい女性だろう。多分アキラの心の中は熱い恋の炎で煮えたぎっている事だろう。
「とんでもない、お節介だなんて僕の事を気にかけて頂けただけで僕は幸せです。ましてや浅田さんのような綺麗な女性に」
「まぁー山城さんって、お世辞が上手なのですね」
「いや、お世辞なんかじゃありません。本当の事ですから」
 ついアキラは弾みで言ってしまったが、それは本心であり美代に惹かれている事には間違いない。浅田美代と初めて出会ったのは銀行強盗が起きてパニック状態の時だ。
 それが最初で浅田美代には、その大きな体で必死に、かばってくれた人は、なんと言おうと自分の身を危険に晒してまで守ってくれた命の恩人である。
 千、万の言葉よりも行動で語ってくれた。それは逞しく優しい人だった。
 たしかにアキラは優しい、もし心が顔に出るならアキラは間違いなく美男子になるだろう。アキラは決して、お世辞で言った訳でもないし元々お世辞なんか言える柄でもない。そんなアキラを見抜いた美代は少しハートが熱くなった。
「ありがとうございます。私……なんだか恥かしい。そしてとても嬉しいです」
 美代はアキラの言葉を素直に受け止めて、胸に大事に閉まって置きたいと思った。
 アキラの夢のようなひと時が、美代との食事の時間であった。アキラと浅田美代は再会を約束してレストランを後にした。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.29 )
日時: 2020/08/08 10:13
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 30

 とにかく次も逢う約束する事が出来た。また会える、アキラにとってこれ以上の喜びはない。赤羽のマンションに帰ったアキラは、美代とのひと時の余韻に浸っていた。その広いリビングのソファーに横になって旅の出来事を思い浮かべてみた。その旅も松野早紀に振り回されて、なんの収穫にもならないような気がした。宝くじで大金を得たが為に本来の自分を取り戻せないでいる。ともあれこのままではいけない。こんな生活ょ続けて居たらいずれ美代に嫌われてしまう少し焦りもある。
もっとも宝くじが当ってなくても、あの警備員で長い年月と共に年を重ねて行くだけで、将来が明るい人生とは言えないだろうが。

 アキラは誰かに相談したかった。こんなにも貧乏人が大金を手にする事は辛いものなのか、いや辛いと言うよりも、この金を有効に使える方法に苦悩しているのである。
 他人から見れば、そんなは贅沢な悩みだ。の一言だろう。
 旅行に行く前に二千五百万円を使っていた。二週間弱の旅行で百五十万円の浪費。あまりにも無謀な使いかたであった。こんな使い方をしていたら数年で使い切ってしまいそうだ。当選金額の一割近く使った事になる。それもまだ四ヶ月で。翌日に久し振りに真田小次郎と一緒に飲む事にした。
 真田小次郎の要望で、いつもの居酒屋に決まった。
 やはり銀座で超一流のホステスに囲まれてドンペリを飲む柄じゃない。いつものように、気さくに焼酎割りを飲む方が性に合っているらしい。長年親しんだ生活レベルを変える事は身体に変調をきたすだろう。子供の時に育った環境はなかなか抜け出せないもの。アキラはそれと同じで金の使い方が分らない。やっかいなものだ。居酒屋で待ち合わせ先に入っていたアキラは、そんな物思いにふけっている時、真田が居酒屋に入って来た。

「よう〜とっちぁん久し振り! いやいや先日驚いたよ。よっ日本一のいや世界一の占い師」
「やっと俺の凄さが分かったか。久し振りじゃのう。相変わらずデカイのう」
「何を言ってんだ。身長が変る訳ないだろう。どうせ言うなら一段と男前になったなぁと言って貰いたいもんだぜ」
二人は相変わらず冗談で再会が始まった。親子ほども年が違う二人だが呼吸が良く合う。アキラはビールを真田は焼酎の梅割りでグラスをカチンと合わせた。
「しかし驚いたなぁ、とっつぁんの占いにはピタリと当てるんだもの」
「だろう。こんな占い師、世界中探しても居ないぜ。正直、俺も驚いているけどな。ハッハハ」
「それってどう言う意味だい。あれはやっぱり、まぐれか」
「ヘッヘッヘどう思う? あのなぁそれ以上は聞くなよ」
どうやら予想通り、まぐれらしい。アキラは結局まぐれでも助かった訳で、真田に花を持たせる事にした。
「そうだ。あの彼女から電話がいったか」
「あっあ〜帰りの船に乗っている時に、ヘヘッまぁとっつぁん飲めや」
「そうか、今時珍しいくらい、しっかりした子よなぁアキラと丁度いい組み合わせだと俺は思っているいけどなぁ」

 真田の言葉は、息子に彼女が出来たような言い方だった。決して、面白半分にアキラをからかって居る訳ではないようだ。アキラもその真田の優しさが嬉しかった。
 旅に出て何か変わったか考えても収穫は何ひとつなかったように思える。
 無駄な時間と浪費に終ったのか? ただあの時お袋に疑われ絶望し旅に出た。
 あのまま我慢してマンションに閉じこもっていたら気が触れたかも知れない。
 アキラは仕方がなかったと思っているが、まだ後の事ではあるがアキラには大きな転機を迎える切っ掛けになっていたのである。そして今日もまた予定のない朝を迎えた。
 今日は何曜日かさえ分からない日々を送っている。その時、アキラの携帯から着信のメロディが流れた。

 なんと先日逢ったばかりの美代ちゃんからだ。
 アキラの目が輝いた。
 「はっはい山城です」
 「先日はご馳走様でした。今度の土曜日か日曜日お時間ありますか」
 「もっ勿論です。時間はタップリとあります」
 その声を聞いた美代は苦笑気味にクスッし笑った。
 「もし宜しかったら何処か、お出かけしませんか」
 アキラは天にも登る思いだった。憧れの美代ちゃんから誘って来たのだ。そう云えば誘うのはいつも浅田美代の方だった。アキラから誘ったのはフェリーに乗って帰る時だけ。いや誘いたいのは山々だったが、アキラには余りにも高嶺の花と思い込んでいたのだ。たからアキラは女心には疎いのであろう。アキラいい加減に美代ちゃんの心に気付けよ。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.30 )
日時: 2020/08/09 21:26
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 31

 「えっ本当ですか? 僕みたいな男でいいんですか」
 「何を仰います。山城さんと一緒だから楽しいじゃありませんか」
 「ありがとう御座います。こんな嬉しい誘いはありません」
  大袈裟なアキラの言葉にまた美代はクスッと苦笑する。
 「良かったです。では土曜日はいかがでしょうか」
 「分かりました。それで何処か行きたい所はありますか」
 「そうですねぇ、いつもお食事してお別れしているので海が見たいです」
 「海となると千葉か湘南、鎌倉、遠い所で鹿島灘ですかね」
 「そうですね。鎌倉ではいかがでしょう」
 「鎌倉いいですね。では鎌倉にしましょう。待ち合わせ場所は何処にしますか」
 「私、世田谷ですが山城さんは何処にお住まいですか。方向が違うと遠回りさせると申し訳ないですし」
 「僕は赤羽です。鎌倉に行くには通り道ですから浅田さんの、お近くまで行きますよ」
 「ありがとう御座います。では東急世田谷線の世田谷駅前に十時で宜しいですか」

 美代ちゃんから突然の誘いでアキラは天にも登るような気分だった。翌日、世田谷駅にアキラは真っ白な車体の愛車トヨタランドクルーザーで出掛けた。デートに使う車としては似合わないが仕方がない。どちらかと云うと悪路や山道を走る時はその力を発揮するもので女性を乗せるには向かない。これは長距離旅行を想定して買ったもので、車高が高いので見通しは良い。
 この車に更に二十四ボルトから家庭用に百ボルトの電気に返還し、携帯電話の充電や小物の電気用品が使える。当時の価格は四百万から六百三十万円まであり勿論アキラは最高級車を使用している。
三ヶ月前に買ったばかりで、いきなり高知まで行ったが、まだ走行距離三千キロと新車特有の匂いがプンプンする。今朝は七時に起きて洗車し、車内も磨きに磨きあげた。
 予定時間の十分前に環七通りを左折して間もなく世田谷駅に到着した。てっきり改札口から美代が現れると思ったら、駅近くの路上から歩いて来た。その時、美代は黒塗りの高級外車の運転手に手を振るような仕草をしたように見えた。アキラは怪訝に思ったが、勘違いかも知れない。
 アキラは白のランドクーザーで行くと伝えてあったので美代はそれに気付いたらしく小走りで歩み寄って来た。
 それに気付いたアキラは車から降りて「おはよう御座います」と挨拶した。
 「おはよう御座います。今日は宜しくお願いします」
 今日の美代は今まで見た事がないカジュアルなスタイルで下はリラックスパンツに上は淡いブルーのシャツに同色のカーデガンを羽織っていた。相変わらずの美しさにアキラは思わず小さな溜め息をつく。

「こんな車で申し訳ありません。乗用車と違って乗り心地は良くないですが」
「いいえ、でも車高が高くて良く前が見えます。助手席に乗るのも初めてで、なんだかワクワクします」
「そんなものです? それでは車の免許はお持ちじゃないのですか」
「ハイ今時としては珍しいですよね。取りたくても父が危ないからと許してくれないです」
「それだけ貴方を大事にしているからでしょう」
「言い換えれば過保護かも知れませんけど。鎌倉も久し振りですが海を見るのは久し振りです。楽しみです。今日は改めて宜しくお願いします」
 「こちらこそ。僕も鎌倉は久し振りで、と云うよりも小学生のとき以来ですよ」
 「あら、私もです。ではお互いに親と行ったのでしょうかね。私も家族で来たきりで、何処に何があるか記憶にはないですのよ」
 アキラも記憶は薄れがちだが、あの時は父も母も仲が良く楽しいひと時だった記憶は残っている。いま振り返ると一番幸せな時だったかも知れない。
 今は父が家族を捨てて未だ行方知れず。自分も大学を中退せざるを得ない状況に追い込まれアルバイを続けながら、なんとか就職出来たのも束の間、不景気風に見舞われ、クビ同然に追いだされたのだ。
 「山城さん? どうかなさったの」
 「ああ、いいえ家族と来た時の記憶を思い出していたのですが、殆どおぼろげで、思いだせないですよ」
 「無理もありませんわ、私も小学二年生くらいでしょうか、大きな大仏を見て凄いなぁと思った事くらいです」
 「せっかくですから、取り敢えず由比ガ浜の方に行きましょうか」

 季節は師走に入り寒さも厳しい季節となるが、それで海を訪れる人が多い。
 その代表的な遊びはサーフィンを楽しむ者達だ。彼らには寒さは無縁のようだ。
 由比ガ浜より少し先の片瀬海岸ではサーフィンスクールがあり二万円前後で一通り指導してくれるそうだ。やがて海岸近くの駐車場に車を停めて由比ガ浜の海岸へ下りて行った。
 「わあ、やっぱり海は気持ちがいいわね」
 「本当ですね。決して綺麗な海ではないけど都会のより視界が広くて爽快ですね」
 二人は砂浜を歩いた。時折り大きな波が打ち上げて来る。その都度、美代はキャアキャアとはしゃぐ。まるで子供のように、あの知的な美代が童心に返ったように波打ち際で戯れている。ついには靴を脱いで走り出した。アキラはどう対応して良いか分からない。この冷たい砂浜を裸足で走ると驚きだ。
 自分も一緒になってはしゃぐべきなのか、しかしこの身体そんな事をやったら誰もが白けてしまいそうだ。
 「ねえ山城さん、靴を脱いで。海水はそんなに冷たくなく気持ちいいですよ」
 そう言われればもはや「僕は遠慮します」なんて事は言えない。
 美代ちゃんが喜んでくれるならそれでもいい。道化役者でもなんでもやってやろうではないかとアキラも靴を脱いだ。確かに海水は思ったほど冷たくはなく砂浜を走り体が温まったせいか寒くない。美代の側に駆け寄って行くと美代はアキラに海水を手で救って掛けた。美代は完全に童心になりきっている。

つづく

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