ダーク・ファンタジー小説
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- 片翼の紅い天使
- 日時: 2014/01/12 23:42
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)
うぐ…。
い、いいよね!大丈夫だよね!
と、とりあえずまた新小説書くバカが通ります。
絶対更新が遅くなります。絶対です、必然です。
そんなこんなで始まりますが、
温かい目で、且つ広い心で受け止めてやって下さい。
◆目次
prologue >>001 登場人物 >>002
*001 >>003 *011 >>015
*002 >>004 *012 >>016
*003 >>005 *013 >>017
*004 >>006 *014 >>018
*005 >>007 *015 >>019
*006 >>008 *016 >>020
*007 >>009 *017 >>021
*008 >>010 *018 >>022
*009 >>011 *019 >>023
*010 >>014 *020 >>024
◆お知らせ
2011:09:06 執筆開始
- Re: 片翼の紅い天使 ( No.20 )
- 日時: 2013/05/25 11:17
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第016話 天ノ旅人、メヴィウス・ロイド
光が、妙な違和感が、神乃殊琉と高瀬龍紀に襲い掛かった。
先に駆け出した神乃を追うように、高瀬もそれに続いた。
外へ出ようと思ったところで、高瀬は気付いた。
玄関の鍵が、閉まっているのではないかと。
殊琉の姿を追いかけた彼は、玄関について思わず止まった。
玄関のドアが、半壊している。
「うっわー……えげつねえー……」
まあ良しと思って、高瀬は無理やりこじ開けられたドアを開けて、外に出る。
真っ暗がりの中で、ぽつぽつと見受けられる小さな光。
一見蛍のようにも見えるそれは、ふわふわと空中を泳いでいた。
神乃も止まったまま動かず、じっとその物体を見ていた。
「お、おい……何なんだよ? あれ」
「……」
「……? こ、殊琉?」
神乃は、咄嗟に辺りを見渡した。
鬼帝程ではないが、彼女も一応視力は良い方である。
黒い海の中を必死に泳ぐように、何かを探しているようだった。
蛍に包まれながら2人が、動く事を躊躇っていた。
その時。
「やっほー! ——————————おめーらと会うのは初めてか?」
飄々とした、男の声。
そんな声が、高瀬の頭上から聞こえてきた。
つまり、空から。
「何だよー? 天使に会うのは……初めてじゃあーねえんだろ?」
大きな、白い翼。加えて黄色い輪がくせっ毛の上で瞬く。
眩しい程綺麗な金髪の少年、いや、青年は、楽しそうな表情で空の上にいた。
「オレの名前はメヴィウス・ロイド——————天ノ旅人の1人だ。まあよろしく!」
そういったメヴィウスは、子供みたいな表情で笑った。
「て、天族……!?」
「……あら、随分無防備ね。てっきり地族に姿を見られるのを————恐がっているのかと思ってたわ」
神乃は、冷たく言い放った。
天族は、人間界において地族に姿を見られてはいけない。
何故なら人間は、天使の存在を信じていないからである。
地ノ旅人、そしてかなり一般人の高瀬には既に何度も存在を確認されているが。
そして堂々と人間界に潜り込んでくるところを見ると、正気でないのが分かる。
「何言ってんの? オレがこんな夜中に現れたのも、他の人間に姿を見られない為なんだぜ?」
「な、なるほど……確かに暗いし、大多数の人は街にいないけど……」
「バカね。そんな大群引き連れて来るなんて」
高瀬は彼女の言葉に驚いた。
大群? と彼は聞き返す。
「そこの光よ」
「……え?」
「だから、その浮かんでるやつ」
「これ蛍じゃないの!?」
「あんたバカじゃないの」
間髪も入れずにそうツッコミを入れる殊琉に対し、高瀬は何も反論できず固まっていた。
「ぎゃははははっ!! おもしれえーなあお前!!」
「ちょ、笑うな!!」
「こりゃあオレ等の——————」
「——————『対地族用小型追跡機』、『フォウ』ね」
金髪の青年が言い終わる前に、神乃の声が割って入った。
そして彼女の言った言葉は、真実を指し示す。
白い球状で、ほんのりと光を放ちながらふわふわと浮いている。
それは天族が作り出した、言わば小さな監視官。
人間界に送り込み、あらゆる情報収集を行うのがこの機器である。
地ノ旅人はそれを見かける度に何の躊躇いもなく壊し、情報の漏洩を防いでいるのだ。
「やっぱ知ってたか……誰かに壊されてると思ったらあんたらだったってわけ」
「……こんな夜中に、何をしに来たの?」
神乃の挑戦的な態度に、青年はにっと笑った。
「分かってんだろ? ————————魔族、“レルカ”の捕獲及び地族への奇襲だよ」
青年の手は、水を切るようにすっと伸びた。
その動きに合わせて、白い球体が皮を脱ぐように少し開け、中にある小さな穴から光線を放つ。
何百とあるその光線を一斉に浴びる。ビュン!! と幾つもの閃光が走った。
辺りが、大きな爆音と厚い煙に覆われる。
「生憎こんな街だ。誰かが能力使って暴れてるとしか、世間は思わねーんだよな」
悠長に空に浮かぶ青年は、立ち込める煙を眺めていた。
そこで。
「ったく何でオレがこんなめんどーな事を————————、ッ!?」
厚い煙の中から、妙な殺気を感じた。
次の瞬間。
「ったく……————ふざけんのも大概にしなさいよ」
今度は神乃が手を軽く振るった。
同時に、何百とある球体の3割が、内部から爆発するように四方に飛び散る。
その間、凡そ1秒もない。
パキンという音と共に、小さな身体は地に伏した。
「へえ……おめえ、やっぱ強ーな」
それでも余裕の表情をかます青年に、神乃は顔色一つ変えない。
煙の中で強く腕を伸ばす高瀬を、気にしなかった。
「ち、ちょ……おま……!」
「ああごめん龍紀。あんたがこれ程使えるとは思ってなかったわ」
「お前覚えとけよマジで」
煙が、晴れる。
薄暗い景色の中、苦しそうに立っていたのは高瀬だった。
そう、腕を限界まで伸ばして。
彼の頭上には、広く大きく、白い板のようなものが広がっている。
高瀬の能力——————、“形でないものを形にする力”だった。
前回の空気で剣を作り出すだけでなく、今度は閃光を受ける壁の役。
能力者と言えどまだD級の為、複雑な計算式は組み立てられない。
空気を凝縮し密度を高める事でより硬い壁ができるが、それをやるのに精一杯、全力を捧ぐ高瀬。
走ってもいないのに荒く息を乱す彼は、悠々と立つ神乃を地味に睨んでいた。
「そっちもやるなあー……じゃあこれでどうだ——————!」
白い球体が、神乃達を取り囲み、一斉に光を集める。
まずい、と小さく言葉を漏らす神乃を余所に、球体が強い光を纏っていた。
幾らS級と言えど、今は動き難い浴衣を着ている上にD級の人間をかばいながらの戦闘になる。
敵の数は残り500程度。彼女の能力ならば倒せない事もないが、何せ器用に動く物体である。
捉え難い、そして厄介な事に天ノ旅人本体もいる。
そうこうしている内に、青年はビッと指をこちらに向けた。
「いっけーっ!!」
白い球体は強い光を————————、
「——————!!?」
————————放つことが、できなかった。
全ての球体が、狂ったようにぐるぐると回って、ばたばたと地面に落ちていく。
痙攣しながら、壊れた様子もないのに、ただ奇妙に動き回っていて。
光が治まり、青年は驚いた様子もなく、神乃達の方を見据えた。
また、無邪気に笑う。
「なーる……————————おめえか、オレの道具を壊したのは」
神乃達の背後から現れたのは、白い髪を持つ人物。
可愛い顔立ちで、小さな体はこっちへ歩いてきた。
「って……————蒼!?」
狩野蒼。
地ノ旅人の一人であるその人物は、少々息を荒くしてほっと一息着いた。
間に合って良かったと、呟く。
そして可愛らしい笑顔で、青年に喧嘩を売るようににこっと微笑んでみせた。
- Re: 片翼の紅い天使 ( No.21 )
- 日時: 2013/07/03 21:10
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5PvEL/lW)
第017話 地ノ旅人、狩野蒼
地ノ旅人の1人、狩野蒼。
大きな瞳と、可愛らしい外見
高瀬達よりも年下に見えるその人物は、たたたっと近づいてきた。
「ま、間に合って……良かっ、たです……」
「相変わらず体力ないのね……」
「ず、ずみません……」
「それより、何でここに?」
「あ、はい。水痲さんから来てくれるようにと……」
「どうして?」
「何でも、夜中は一番危ないみたいで。もしもの時の為に潜伏しとけ、と」
「なるほどね……」
高瀬も、漸く理解をする。
そういえば、見た事があると。
以前天ノ旅人に襲われた時、鬼帝と共に助けてくれた人だ。
右目の眼帯が特徴的なので、すぐに思い出せた。
「お前この間の……!」
「あ、はい。高瀬君ですよね? またも遅れてしまってすみません」
「さっきのあれは?」
「あれは僕の能力です。本当、危ないところでした」
「……え? あれ?」
「? どうかしましたか?」
「ぼ、“僕”……?」
高瀬は、もう一度、しっかりと狩野を見た。
小さく華奢な体。長い髪の毛の横結び。
何よりくりくりの瞳に長い睫。
間違いない。
「なるほど! 最近流行りの僕っ子か!」
「はい?」
「……あんた、とんでもない勘違いをしてるわよ」
へ? と聞き返す高瀬。
ははは、と狩野も笑った。
「良く間違えられるんですけど、僕、男ですよ?」
一瞬にして、高瀬の頭の中にある処理能力が大破した。
「嘘だァーッ!!!」
「へ!? う、嘘じゃないですよ!!」
「詐欺だ!! こんなに可愛いのに詐欺だ!!!」
「本当に男です!!」
「遊んでないで集中しなさいよあんた等!!」
騒ぎ合っている暇はない事を、完全に忘れていた。
然し青年、メヴィウスは反論する気配もなく、ただ小さくくすくすと笑っていた。
「ははは!! やっぱ地族っておもしれーな!!!」
「……はぁ?」
「前々から思ってたんだよなあ……人間って、よえーくせにおもしれーよなって!!」
ぴきっと。
神乃の顔に、一つの青筋が浮かんだ。
「それ、どういう事? あんたらみたいな浮いた存在に、地族が負ける筈ないでしょ」
「おっとこえーこえー。そう怒んなや。天族は見下ろすのが好きなんだ———————景色も、人間も、な」
次の瞬間。
ドッ!! という、鈍い響きだけがこの場に響いた。
気が付けば、メヴィウスが地面に伏せっている。
背中に、ほんの少し衝撃を受けた跡を残して。
「あら。地族は見下ろされるの、好きじゃないの———————でも、地に伏した天使を眺めるのは、悪くないわね」
あんな離れたところで、空気に衝撃を加えた。
彼に直接触れなくとも、彼女の能力範囲が基より広い為、離れていても使う事ができる。
つまり触れた空気に触れている場所、近い空間内なら彼女の能力は行き届くという訳だ。
「いってえー……おいおい、手加減くらい、してくんねーかな……うえ……折角珍しく天衣装着てきたのに……」
然し彼は、痛くも痒くもないという様子でひょいと立ち上がった。
大きな白い翼にも、土はついているが傷一つない。
「化け物かあいつ……!?」
「流石天ノ旅人ですね……」
「さっさと追い払わないと……フォウの方は、蒼が壊してくれたから助かったけど」
そんな事より、と神乃は言った。
相手であるメヴィウスが、少し可笑しいと彼女は感づいていた。
「あんた……何であたし達を先に襲うの? レルカの捕獲が最優先でしょうが」
「……! 確かに!」
「ん……まああれだよ」
あんまり言いたくないんだよなー、と。
適当に金色の髪を掻きながら、そう言った。
メヴィウスは、肩をすくめる。
「興味ねえんだわ、オレ。魔族とかさ」
衝撃的な一言に、3人は何も言えなかった。
魔族であるレルカを、どれだけ天族が恐れているか。
にも関わらず彼は、興味がないと言い放った。
賺した表情で、彼は哀れむように笑う。
「オレはおめえ等と戦いてえ。その為にここにいんだよ——————それにオレ、ぶっちゃけ地族の方が好きだし」
こんな天族を、見た事がない。
神乃も狩野も、そう思った。
一番初めに高瀬を襲ったティルマ・アーチェインも。
二番目に襲ってきた、ティルマに良く似た少年も。
どちらも、レルカを捕獲し、高瀬を処分する為に人間界に潜り込んできた。
それなのに、この青年にはレルカを捕獲するどころか、レルカを捕獲しようという動きすら見えない。
ただ純粋に、戦闘を楽しんでいるようにしか。
「でも多勢に無勢はねえよなあ? ————————ちょっと、退場してもらおーか?」
ぱちん! と指の音が鳴る。
その瞬間、神乃の周りに鳥籠のような鉄の柵が天からすっと伸び、ガシャンという音と共に神乃を囲む。
急な事に判断の追いつかない神乃は、暫し固まっていた。
「ちょーっとお前さんは見学しててくれや——————流石にS級を“2人も”相手にできねーんでな」
その言葉に、高瀬は違和感を覚えた。
ここにいる能力者は3人だが、その内1人は神乃殊琉という国際的に有名なS級能力者で。
そして残りは、自分と狩野蒼という外見美少女系男子。
「ま、待ってくれ! 俺はD級————」
「はあ? 何言ってんの君。君の横にいる——————狩野蒼もまた“S級”だよ」
高瀬は、目を大きく見開く。
狩野は少し顔を歪めて、苦しそうにほんの少しだけ笑う。
「う、嘘だろ……お、お前……え、S級、なのか……?」
「えっ? あ、まぁ……はい……」
外見的にも、性格的にもそれは当てはまらなかった。
神乃のように肝が据わっている訳でも、体力が在る訳でも、運動神経もあまり良さそうではない。
何より“戦闘に向いていない”、そんな印象が高瀬にはあった。
「外見ってどうでも良いんだな……」
「そ、それは普段、神乃さんを見ているからでは……?」
そうか、とあっさり納得する高瀬に、ぷつんと神乃が切れた。
「あんたあたしの事何だと思ってるわけ」
「脅威」
「表に出なさい」
気のせいか。背後から指の骨を鳴らす音が聞こえる。
神乃の瞳は、本当に勢いで人を殺せてしまう程禍々しく光っていた。
「じゃあそろそろ始めっか? ——————夜はなげえからな!!」
ギャグモードにいた2人は、きりっと顔を正し前を向いた。
メヴィウスは、空に浮く。
「天滅の章——————光砲!!!」
翳した右手から、ぼう!! と多大なエネルギーが放たれる。
咆哮は、一瞬の間もなく2人に迫り、
「形————!!!」
高瀬が、負けじと自身の腕もぐんと伸ばした。
その行動に、咄嗟に避けた狩野が驚く。
「高瀬さん————!!!」
遅かった、と言わんばかりの表情で。
唸りを上げた深い煙が、辺り一面に広がった。
大きな爆音が、3人を包む。
「げほっ! ……げほっ、げ……ごほ……! う、うえ……っ」
喉元を抑え、高瀬はそこで四つん這いになっていた。
苦しそうに喉に手を添える。慌てて狩野は駆け寄る。
「無茶しないで下さい……! 相手は天ノ旅人ですよ……っ!?」
D級の高瀬が、相手に出来るレベルではない。
今の砲撃だけで、人間一人を一瞬で塵と化す程の威力があった。
空気の壁で抑えたはいいものの、それは天ノ旅人にとって布も同じ。
容易く裁つ事も、歪ませ壊す事もできる。
想像より遥かにいくその実力に、高瀬は驚きを隠せなかった。
- Re: 片翼の紅い天使 ( No.22 )
- 日時: 2013/08/06 16:25
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: kcbGQI7b)
第018話 狩野の能力
(今まで殊琉やこいつらは……こんなのを相手に、してたのかよ……ッ!!)
メヴィウスの顔は、依然として変わらず笑みを浮かべている。
光砲の攻撃力の高さに驚いた高瀬は、すっとその場から足を退いた。
「まともに喰らって生きてるなんて……タフだなーあんた。やっぱおもしれー!!」
「……高瀬さん、気を付けて下さい。奴の攻撃力はきっと普通の天ノ旅人のそれとは違う……」
「あ、ああ……今ので良く分かったよ……」
「……! 来ますよ! 高瀬さん!!」
2人の足元に、またしても放たれた一撃。
派手に飛び退いた高瀬は、地面についた拳を握り締めて叫ぶ。
「——————【形】!!!」
再び強く光を放つ拳の紋章は、その意味を示した。
周りの空気を巻き込んで、高瀬の手元には鋭く光る剣が現れる。
形でない大気を、剣という名の形に造り変えた。
「ひゅーっ! すっげーなそれ!! めちゃめちゃかっこよくね!? 何何空気の剣!!?」
「う……、うぐ……改めて言われると、なんか恥ずかしいな……」
「んじゃあオレも……男らしくそれで戦うか」
空に浮いていたメヴィは、その大きな翼をはためかせ、地面にまで降りてきた。
丁寧に翼をしまうと、すっと懐から何かを取り出す。
それは、銀に輝く短剣だった。
「え……剣!?」
「実はオレ……“こっち”の方が性に合うんだよな!!」
ぐんと伸びる腕は、短剣の矛先を高瀬に向ける。
咄嗟に長い剣で、高瀬はそれを防いだ。
金属音が、彼らの耳を駆ける。
「ぬぐぐ……んぐぁッ!!?」
剣で必死防いでいた腕が、急に力を失った。
長いメヴィの足は高瀬の脇腹に綺麗に食い込む。
勢いに乗った高瀬の体が、地面の上を派手に転がりまわった。
「いっ……つう……」
「やっべ……今ので骨折っちまったかも。いやぁわりいわりい!」
(あの人……脚力まで常人以上だ……っ)
狩野が慌てて高瀬の許へと駆けた。
蹲る高瀬は、多少の咳を零しながら尚立ち上がった。
ド素人でも分かる。あの脚の強さも、完全に骨が折られてしまった事も。
「良いねえタフな男の子……物語の基本は諦めを見せない主人公……ってか?」
「……な、にが言いてえんだよ……っ」
「そういう、よえーくせにでしゃばる奴……嫌いじゃねーよオレ」
嘲笑うかのように、楽しむかのように。
淡々と言葉は紡がれていく。
高瀬は、しゃんと立つ。
「た、高瀬さん大丈夫ですか……っ?」
「ああ、心配すんな! ちょっと……油断しただけだって」
「清清しいほど強がりだなーお前!」
「……そりゃ褒め言葉か?」
ふっと、メヴィは笑った。
軽く構えた短剣が、ぐっと掴まれた。
「認めちまえよ————————自分は“よえー”ってさ!!!」
踏み出したメヴィに合わせて、高瀬の足もぎゅんと土を踏みつけた。
再び重ねる剣と剣は、互いに力を合わせて、その力の交差点の中で何かを探っている。
一瞬、メヴィが力を弱めたのを、高瀬は見逃さなかった。
「————何!!?」
ダン!! と大きな一歩を、やっと高瀬は踏み出した。
メヴィの剣を弾き飛ばし、開いた懐に、一気に矛先を向ける。
「ぐはァッ!!」
口から吐き出された痰は、空に散る。
メヴィは、高瀬と距離をとった。
「んなことも……できるんだな……お前」
「さっきのお返しっつことでっ!」
すちゃっと、白い剣の矛先が天を向く。
メヴィもまた服の汚れを払って構えた。
彼は、ちらっと籠の中にいる神乃に目をやった。
彼女は、相変わらずの仏頂面で座っていた。
(……てかあの女……何で出てこねーんだ……?)
そう、さっきからずっと。
神乃殊琉は、じーっと2人の背中を見ながら、腕を組んだまま動かなかった。
実は、あの籠は簡単に壊せるようになっているのだ。
上級者の神乃も、それには気付いている筈。
にも関わらずそうしないのには、きっと別の理由があるのだろう。
然しその理由という奴は、メヴィには見当もつかなかった。
目の前で仲間がやられているのに、助けに行かない理由が。
(出てこれねえ“理由”っていうのが……あの女にはありそうだな……)
そんなシリアスモードも崩すように、ぐでーっとメヴィは表情だけ項垂れた。
あんまり物事を深く考える方ではない彼は、すぐに考える事を諦めた。
まあ別にいいやと、そう思った時だった。
「……!? 何だ!?」
高瀬が握っていた空気の剣は、途端に回りの大気に包まれた。
台風のように風を纏っていた剣は、その風に巻いたまま勢いよく横に飛び散った。
風に、消えた。
「え……お、俺の剣が!!?」
高瀬は剣を握っていたポーズで固まる。
途端に切れた能力を、高瀬はもう一度発動しようとする。
「うっ……————【形】!!!」
再び小さな台風を作り出したが、先程と同じように、空気を巻き横に弾けて消えた。
「あ……あれ? 【形】!! ……? 【形】ってば!!! …………な、何で……!」
何度も能力を発動しようとする高瀬の後ろで、ごほんとわざとらしい咳が聞こえてきた。
神乃は口に手を当て、いつもの表情を保ったまま口を開く。
「ばかね、それがあんたの限界なの。あんたの体がもう……能力についていけなくなったのよ」
「な、何でだよ!? 俺はまだ……!! ……!!? げほっ! ごほ……っ、げほッ!!」
「能力を最大限に生かす“体力”が、今のあんたには無いって言ってんの」
高瀬は、思い出した。
今日の夜ご飯の時、能力を発動したまま食事した時のことを。
体力が足りなくて、途中で力尽きてしまった高瀬。
あれは、そういう事だったのか、と。
「へえー……なんか知らねーけど大変そうだな? 能力使えないんじゃただの人間になっちまうじゃん!」
「……くっそ……っ」
「じゃあ今回はオレの勝ちってことで——————とどめを」
そこまで言って、瞬間言葉は遮られた。
途端に暴れ出した空気が、高瀬の時とは比べ物にならない程の大きな竜巻を纏う。
荒れ狂う大気の中心には、そう。
「……!!?」
狩野蒼が、整然と立っていた。
小さな機体を壊したかと思えば、風を纏って。
メヴィの口元が、歪んだ。
「さっきから思ってたんだけどさ……お前、おもしれー能力持ってんじゃねーか?」
「……」
「やっぱりオレは————つえー奴と戦り合いてえんだよな!!!」
右腕一つで、メヴィは大気を派手に払った。
崩れる空気の流れが変わった時、既にメヴィは大きく踏み込んでいて。
蒼は、腕を上げる。
「光閃——————!!!!」
まるで、雨を倒したかのように。
目の前からまるで細い針が迫りくるように光の刃が牙を向いた。
然し狩野は、全く動じもせず。
「——————————【惑】!!!!」
全ての刃の、牙を折る。
当たる直前に、まるで硬い何かにぶつかったかのように、バラバラに針は飛び散った。
この時、高瀬は確かに見たのだ。
能力者ランク2位に輝く神乃殊琉が持つ“撃する力”と、
異常な視力の持ち主鬼帝水痲が放つ“弾く力”と、
そして。
「言っておきますが——————僕は手加減なんてしませんよ」
それらに並ぶ——————————“惑わす力”を。
- Re: 片翼の紅い天使 ( No.23 )
- 日時: 2014/01/05 23:15
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)
- 参照: とりま一時復帰です。(一部の小説のみ)
第019話 長い夜
激しく渦を巻く風。
豪風が吹き荒れる中、高瀬龍紀は目の前にある小さな背中をじっと見ていた。
その人物は、華奢な体とは裏腹に辺り一面の風を片手で悠々と操っていた。
逞しすぎるだろ、と冷や汗が頬を流れる。
(これが……S級……!)
高瀬は、今まで殊琉の能力しか見たことがなかった。
S級は他にも3人いるらしいが、その中でも殊琉は2番めに強いと言われるくらいのもので。
他のS級はどんなもんかと思っていたら、正に度肝を抜かれてしまった。
風を惑わせ従わせるその姿勢は、自身が想像してもいなかったもの。
そう、S級は本物の化け物揃いなのかもしれない、と。
ここにきて改めて実感をさせられたのだ。
「こ、殊琉だけがすげーんだと思ってたわ……俺……」
「まあ、あんまり僕……戦闘に向かないんですけど、ね?」
へへ、と可愛らしく狩野蒼は笑った。
景色の向こう側にいるのは、人間の敵である天使の一族、天ノ旅人。
メヴィウス・ロイド。彼はただ輝く金髪をたなびかせていた。
さっきと違うところを述べるとしたら、表情。
へらへらとした彼はもう、どこにもいなかった。
「はは……すっげえすっげえな、おい……これがS級か……」
「……本気で僕と闘り合うつもりなんですか? ……残念ながら手は抜けませんよ」
「手を抜く? 何言ってんだよおめェ! んなことしたら————」
強風の中を、まるで割くように。
「————最高につまんねェじゃねーかッ!!」
短剣を構え、一気に加速する。
容易く風をすり抜けたメヴィウスは、ずんと狩野の前に出た。
よろめいた彼に向かって、剣を振りかざす。
「もらいィッ!!」
高瀬が叫ぼうとした、その瞬間。
狩野は、表情一つ変えずに。
「————は」
メヴィウスの右腕を、掴んだ。
風が緩やかなものに戻る。
景色に溶けるそれは、一瞬だけ狩野の周りを騒ぎ立てた。
彼の目が、冷たく光る。
「おいおい……お前、何て握力してんだよ……!」
「……!」
ばっ、とメヴィウスは腕を振り払った。
狩野も同時に手を放す。
メヴィウスは、笑った。
「は……————隙だらけだっつの!!」
狩野の足を、蹴り上げた。
「————うわァ!!」
ここにきて始めてひれ伏す狩野は、いてて、と言いながら腰に手を当てた。
完全に不意打ちを突かれた。
「おらよォ!」
再び剣を振り上げた。
さっと空を切ると同時に、咄嗟に避けた狩野の髪が僅かに舞う。
次々と繰り出される剣技に、狩野は全て華麗に避けていく。
「ふう……やっぱ俺も、天章使わなきゃきっついんかなー……っ」
「そうしたらどうですか? 勿体ぶるのもどうかと思うんですけど」
「そりゃあお互い様だろー?」
すっと、メヴィウスは手を翳した。
高瀬は知っている。狩野も、また。
あれは、天族が使う、‘‘天章‘‘を発動する時の構え。
「天滅の章——————光砲!!」
光が螺旋状に輝きを増し、狩野の体に向かって唸り出した。
狩野も、すっと軽く、腕を上げた。
「————————惑!!!」
突如、一定の距離感の中で、空気が歪んだ。
繰り出された光砲も、不自然に折れ曲がった。
光が、消えた時。
「後ろだよ————————少年君!!!」
既に彼は、背後にいた。
「天滅の章——————光閃!!!!」
光輝く金の雨が、狩野に突き刺さる瞬間だった。
「狩野ォ——————!!!」
高瀬が駆け出した、正にその時。
「————————言ったはずです」
力なく佇む彼の、眼帯のしていない右目。
それが、淡く月夜に照らし映し出される。
「僕は手加減なんて——————絶対にしない!!!」
彼の拳が、地面を叩いた。
轟く激音が、光の光線を歪ませる。そう、全て。
まるで止めどなく降り続ける雨を、物理的に止めてみせるように。
それは、決して人間技ではなかった。
「だから————————そっちじゃねーっての」
楽しそうに、笑う男の声。
折れ降る光の雨の中にはいなくて。
狩野は、咄嗟に振り返る。
「天滅の章————————光砲!!!!」
急いで飛び出た右手じゃ、間に合わなくて。
光に溢れた景色だけが、彼の視界を埋め尽くした。
その時。
「————————‘‘形‘‘!!!!」
狩野の目の前に、不透明な‘‘壁のようなもの‘‘が、突如出現した。
彼の目の前で、光は不自然にも四方へ飛び散った。
大きな籠の中で様子を見ていた神乃も、思わず驚いて目を見開く。
「へ、へへ……最後の足掻きだよ、こんちくしょー……」
へろへろっとした表情で、彼はそこに立っていた。
その直後、ばたんと盛大に倒れてしまったわけだが。
メヴィウスは、ぷっ、と小さく吹き出す。
「ははははは!! マジかよ!? 信じらんねーっ!! ぎゃはははは!!!」
「た、高瀬さん!? わわわ……だ、大丈夫ですか!?」
「はー! マジ面白いわ、地族ってやつはよぉ……もう、今回は十分だわ」
メヴィウスはぱっぱと服についた汚れを落として、ひらひらと手を振った。
「もういいわ。今回は退く。また今度遊ぼーな——————地族」
その直後。
あ、とメヴィウスは小さく声を上げた。
「今度はおめえともやらせてもらうからな————神乃」
興味溢れた、子供みたいな顔。
それでもその顔つきは、子供みたいな純粋なものではなくて。
単に、潰し合いたい、そんな表情であった。
彼女は言葉を返すこともなく、寄っかかっていた背中を離す。
やっと終わったかというように息を漏らした。
「あわわわ……! た、高瀬さん……」
「大丈夫よ、蒼。そいつタフだから」
「で、でも……」
「……あんたも、頑張ったわね。やっぱ強いわ」
ぽんと、狩野の頭の上に手を乗せる。
仲間を信頼しきっていたから、手を出さなかったのだろうか。
狩野は、その時そんな風に思った。
「あ、ありがとう、ございます……」
「ほら、面倒ごとにならないうちに本部に戻っておいて。あとはあたしがやるから」
「は、はい! 神乃さんも、お気をつけて」
「分かった」
軽々と気を失った高瀬を持ち上げてさっと消えていく神乃。
それを送ると、狩野も深い闇の中に消えた。
長い夜が、やっと終わる。
暖かい世界の中にいた。
そこはとても心地が良かった。
眩しい光が、瞼に差す。
くっ、と一瞬だけ瞼を揺らしたあとに、ぼーっとしたようにゆっくり視界を開いた。
歪んだ世界は、まだはっきりとは映らなくて。
ただ暖かい世界には潜っていたい気分であった。
「ん……ふぅ……ここは、部屋、か……?」
あまり機能していない頭を揺らす。
何気なく横を見るとそこには、幸せそうに眠る澤上迅。
ああ、ここはやっぱり部屋かと、改めて認識する。
「おはよう、龍紀」
「おう、おはよ……って、うえぇぇえ!? こ、こここ殊琉サン!!?」
「な、何でそんな驚くわけ……」
目の前に、頭の上に白い眼鏡を乗せた神乃がこっちを訳もなく睨んできている。
何故ここに、と軽い頭で必死に思考回路を巡る。
「今何時だと思ってんだよ……」
「あんた、それより大丈夫なわけ? 昨日の傷は?」
「へ……昨日……?」
「ま……見る限り大丈夫そうね。今日はあんまり無理しないでよ」
「え、と……それは、心配、ですか?」
「……何よ」
「珍しいですね、国宝級に」
「なるほど樹海が見たいのね」
「言ってないけど!?」
いつも通りの光景だった。
神乃は、珍しくも少しだけ微笑んで、立ち上がった。
「今日は安静にね。それじゃ」
いつも通り、無愛想にそう言って、部屋をあとにした。
高瀬は、ちらと拳を見つめる。
「……」
思うことがあって、でもそれは簡単に口には出せなくて。
よし、と小さく声を上げて、ぐっと開いた拳を握った。
強くなってやる、とそう思った。
- Re: 片翼の紅い天使 ( No.24 )
- 日時: 2014/02/23 19:34
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
- 参照: ※諸事情により彼の名前を変更しました。
第020話 山の中
ただ広い空間が広がってた。
まるで宇宙にいるかのように、部屋の端は見えない。
真っ白いその空間の中で、金の塗装を施した柱が4本、どこまでも天高く聳え立っていた。
4本の柱に囲まれた中心には大きなカーテンで覆われたベッドがあり、
それに集うように、空間と同じように真っ白い何かが立っている。
真っ白い、大きな翼を持った‘‘天使達‘‘が。
「よー……遅れちまってすまねーな……ふあぁ……」
「……よくも此処へ顔を出せたわね。地族に負け帰ってきた犬めが」
「はは! 油断ってヤツだ! それにまだ‘‘あれ‘‘は使ってねーし」
「使わなかったの? それほどの相手ではなかったということね」
「そういうこった! ま、次は負けねーよ、ヴィーナス」
「貴様にその名で呼ばれるのは気に食わないわ。百万歩譲って女神様とお呼び」
「いやだ」
「殺すぞ天パ」
最後の口調を除けば、見た目は極上の美人。
クリーム色の長い髪は波打っていて、島国を囲う碧い海を連想させる瞳もよく澄んでいる。
ふん、というようにヴィーナスという女性はそっぽを向いた。
「そんなことより、次は誰が奇襲に向かうの?」
「レルカの捕獲はあとでもできらあ。今はヤツらと血を交えるのが先だろ」
「この戦闘バカ。貴様には脳がないの?」
「じゃあボクらが行こうかーっ?」
ひょこっと天パの男、メヴィウス・ロイドの背後から顔を出す少女。
金髪に蒼い瞳の彼女は、いつか高瀬龍紀らと戦火を巻き起こした天使だった。
「……姉さん。実行するなら独断で頼む」
「ウィルマ! またボクを一人にする気!?」
「あーあーもう。まとまんねーな! やっぱ俺が行くしか————」
「聞こえなかったのか阿呆。貴様は負けたばかりだろう」
「じゃあ何だ? 次はお前が行くんか?」
「私は断る。私には、愚民と遊んでいる暇はないのよ」
「そうだとすると残りは……」
ちらっと、メヴィウスは残った一人を見た。
無表情なその顔は、じっと空を見ている。
長くて薄い赤色の髪。それを青い羽を模した髪飾りで2つに結い上げている。
右目が青で左目が赤のオッドアイを持つ彼女は、ゆっくりと顔を上げた。
大きな瞳に白い肌。とても端正な顔立ちをしている。
「おめーってことになるけど? ハクア」
名前を呼ばれた彼女は、その言葉に何も言わなかった。
くるっと踵を翻してから、振り返りもせず。
「……私が行く義務はない。そして、お前に答える義務もない」
それだけ言うと、その場からさっさと消えてしまった。
怒っているようで、落ち着いた口調。
たった一言だけで、その場の空気が冷たく静まり返ってしまった。
「……それじゃあ、僕が行こうか?」
ハクアが戻ってきたのかと思わせるほどの良いタイミングで現れた少年。
彼は真っ黒の髪に、天衣装ではなくスーツを着込んでいた。
さらさらの髪は風も立たないこの空間で静かに揺れていた。
一見人間のようにも思える。そして背中には————翼はなかった。
「あら久しぶりね……レイン。貴様がここにいるという事は異常事態?」
「嫌だなあ、それは褒めすぎだよヴィエラさん。今日も美しいね」
「……その笑顔は毎度のことながら気味が悪いわね」
少年はくすりと笑うと、すぐに姿勢を整えた。
彼もまた、とても綺麗な顔立ちをしている。
ただその顔に浮かぶ瞳は、決して綺麗とは言えなかった。
悪く言えば、淀みきった色に染まっているような。
「僕に任せてよ。実はこういうの、楽しみにしてたんだから」
彼もまたその場を立ち去ってしまった。
残された天族達は、呆れたように息を吐く。
面倒なことになりそうだと、誰もがそう思った。
レインという少年に続いて、メヴィウス達もその場をあとにした。
カーテンの裏側で、何かが蠢いたのも、感じることはできずに。
(お、おい……ちょ、っと待てよ……え……お、おい……っ)
今朝早くに起きて、朝食を食べ、正に合宿2日目が始まろうとしていた。
今日から本格的に始まるわけだが、生徒達が連れてこられたここは、山の麓。
教師が言うには、普通の学生と同じように山登りをするのだとか。
見た目体力のある者にとっては何の造作もない活動に見えるのだが、
一般生徒から見たら、天辺の見えない高く大きな山は、とても理不尽なものに見えていた。
無論高瀬龍紀は後者の人間であるが、本人が今驚いていることはそんなことではなかった。
なんと集合した生徒の中に、堂々とレルカ(魔族)が混じっているのだ。
「お、おおおおい!! こ、殊————むぐぅっ!?」
思わず声を張り上げた高瀬の口を、息と止めるかのように塞ぐ幼なじみ神乃殊琉。
緩いウェーブがかかった髪が揺れる。
「……ちょっと黙って。このまま息の根止めるわよ」
「…ふぁい」
然しながら、高瀬の冷や汗は止まることを知らなかった。
何故隠れているはずのレルカが堂々と生徒に紛れている。
そして何故誰もそこに触れず、普段通り友達とお喋りなんかしているのか。
普通集団の中に真っ赤な翼が片方だけ生えた人物を見つけたら騒ぐも同然だろう。
もしかして自分がおかしいのか、とついに高瀬の脳は狂い始める。
「と、いうことで今から4人1組のグループに分かれてね! 余ったら5人とかにして……」
は、と高瀬は気がつく。
先生の話をいつも通り聞いていないので、当然のように神乃に問いかけた。
「4人1組って?」
「やっぱり話を聞いてないのね……今から山登りをするチームよ。基本は4人だけど、5人でも良いってさ」
「チーム?」
「一人だけじゃ、登るのが厳しいってことかしらね」
確かに、目の前で天の奥まで高く聳える山は本当に登るのに苦労しそうだった。
誰かと逸れて迷子にならないようにするのも兼ねてのチーム構成なのだろう。
「ふーん……」
「不満そうね。どうしたの?」
「だってレルカが!!!!」
「声がでかいわ!!」
叫んだ高瀬の腹に痛恨の一撃。
一瞬だけ嫋やかに流れる川が見えた彼は、そのまま気を失った。
ぐたっと項垂れる彼を、神乃は顔色も変えずに抱え込んだ。
「さ、あたし達はどうする?」
「もちろん一緒に組も〜?」
「そうね。澤上は?」
「右に同じ! たっちゃんも強制なんだろーい?」
「当然よ」
「わ、わ! 待ってくださいっ!」
「遅いわよレルカ————これで全員ね」
さて、というように。
6人(若干一名気絶)は森に向けて歩き出した。
深い深い、森へと。
(ぬ……う、うう……?)
視界の中は薄暗かった。
ただ微妙に自分の体は揺れていた。
地味に見えた世界の先に、レルカがいた。
「レルカ!?」
「!!? ちょ、いきなり起きないでよ!! 何なの!?」
「あ。……お、おはよう、殊琉」
「下ろすわよ」
どさっと体ごと地面に叩き落とされた高瀬。
いてて、と頭を擦った時、すっと白い何かが自分に伸びてきた。
顔を上げると、レルカがにっこりと笑っていた。
自分の手を、差し出して。
「大丈夫ですか?」
「お、おう……」
レルカに引っ張られて起きる高瀬。
辺りはだいぶ暗くなっていて、風も強い。
そろそろ日は落ちるだろう。
「どのくらい経ったんだ?」
「結構経ったわ。多分、あれが今夜の寝床ね」
「へ?」
「聞いてなかったの? 今日というか、今回の実習のこと」
神乃はまたかという呆れきった表情で深い息を吐いた。
口を、開く。
「‘‘能力を使わずして頂上へ辿り着け‘‘————————これが合格条件よ」
何のことだかさっぱりという表情。
高瀬は出発前、理不尽にも寝ていた自分を少しだけ恨むことになる。