二次創作小説(紙ほか)
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- ポケットモンスター 七つの星と罪
- 日時: 2013/07/21 23:48
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
- プロフ: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
旧二次小説板を覗いた事のある人なら、知ってる人がいるかもしれませんね。以前もポケモンの二次小説を執筆していました。
前作はゲームのストーリーをモデルにしていましたが、今回はほぼ完全なオリジナルです。前作との繋がりは……ないとは言いませんが、一作目と二作目ほどの繋がりはありません。
ちなみに白黒は前作、この時期ぐらいに更新が止まっていました。何分この時期は忙しい身でして、しばらく更新は遅いと思いますが、ご了承ください。
それと、本作品では非公式のポケモンも登場します。>>0にURLを貼っていますので、参考にしてください。
なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。それは物語を進めていくうちに作中で追々説明しますが、まあ超次元サッカーとか異能力麻雀とか、そんな感じのものだと思ってください。
それでは、白黒の新しい物語が始まります——
登場人物紹介
>>31
プロローグ
>>1
序章
>>7 >>10 >>11
シコタン島編
ハルビタウン
>>12 >>13 >>14
シュンセイシティ
>>17 >>18 >>23 >>24 >>29 >>30 >>35
ハルサメタウン
>>37 >>40 >>41 >>42 >>43
クナシル島編
サミダレタウン
>>63 >>73 >>74 >>77 >>80 >>84 >>87 >>88
ライカシティ
>>91 >>92 >>95 >>98 >>99 >>100 >>106
オボロシティ
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>115 >>119 >>120 >>123
カゲロウシティ
>>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137 >>140 >>143 >>149 >>150
ライウタウン
>>151 >>154 >>155 >>156 >>159 >>162 >>166 >>171 >>172 >>175 >>176 >>177 >>178 >>179 >>180
- 第46話 ジムバトルⅣ カゲロウジム3 ( No.129 )
- 日時: 2013/05/11 22:49
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 白熱するカゲロウジム戦、次々に倒されるフィアのポケモンたち——
アーロンは戦闘不能となったウインディをボールに戻し、静かに次のボールを構える。
「さあ行け、サムラダケ」
アーロンの三番手は、擬人化キノコとでも言うようなポケモンだ。人型だが、体は青く頭部は赤いキノコの傘状、手に持っている刀もキノコを細長くしたように見える。
『Information
サムラダケ きのこポケモン
自分の主人であるトレーナーを
生涯を賭けてまで守り抜く。
非常に忠誠心の高いポケモン。』
「草と炎タイプか……パチリスじゃ厳しいかな」
しかしパチリスはウインディとのバトルで消耗している。手負いのまま戻しても、すぐには回復しないだろう。
「それに帯電もあるし、ここは攻める。パチリス、必殺前歯!」
パチリスは前歯を剥き、サムラダケへと駆け出す。
「サムラダケ、リーフブレード」
サムラダケも刀を腰に溜めて構え、パチリスを迎え撃つ姿勢を取った。
パチリスは勢いのまま前歯を突き出し、サムラダケはスッと刀を抜いて横薙ぎに振るう。双方の攻撃が交錯し、互いに背中を向けた。そして、
「サムラダケ、真空波」
サムラダケは素早く刀を返し、真空波を放ってパチリスを撃墜する。
「パチリス!」
その一撃でパチリスは地面に落ち、戦闘不能となった。
「……戻って、パチリス」
フィアはパチリスをボールに戻し、すぐに次のボールを構えた。
「頼んだよ、ブースター!」
フィアが繰り出したのは、当然ながらブースターだ。
「……サムラダケ、成長」
サムラダケは一度刀を下ろし、天を仰ぐようにして目を閉じる。するとサムラダケの体が見るからに滾っていく。
「成長は、確か帯電と同じで攻撃と特攻を同時に上げる技……日差しが強いと、二段階一気に上がるんだ……」
つまり今のサムラダケは、攻撃も特攻も通常の二倍ということになる。
「だったら早めに決めないと。ブースター、ニトロチャージ!」
「サムラダケ、炎のパンチ」
ブースターは全身に炎を纏って突進。サムラダケの炎を灯した拳と激しくぶつかり合う。
「アイアンテールだ!」
やがて互いの攻撃が弾かれると、ブースターは空中で一回転しながら鋼鉄の如く硬化された尻尾を振り下ろし、サムラダケの脳天に叩き込む。
「火炎放射!」
さらに空中から炎を噴射して追撃。日照りの恩恵を受け、ブースターの炎技も強化されている。
「ニトロチャージ!」
「炎のパンチだ」
着地したブースターは、間髪入れずに炎を纏って突進し、サムラダケの拳とぶつかり合って互いに弾かれる。
「ブースター、火炎放射!」
「リーフブレードで切り裂け」
ブースターは攻撃の手を緩めることなく炎を噴射するが、今度はサムラダケの刀で切り裂かれてしまう。
「真空波だ」
サムラダケはそのまま素早く刀を振るい、真空波を飛ばしてブースターを攻撃。成長で強化されているが、素の威力が低いので大打撃にはならない。
「リーフブレード」
だがサムラダケはブースターが怯んだ隙に接近し、刀で切り裂く。成長で攻撃が倍加しているので、実質等倍のダメージだ。
「くっ、アイアンテール!」
「炎のパンチで弾き返せ」
ブースターはターンして鋼鉄の尻尾を振るうが、サムラダケも裏拳のように炎を灯した拳を繰り出し、アイアンテールを弾いてしまう。
「リーフブレードだ」
そして刀を振るってブースターを切り裂き、
「炎のパンチ」
炎の拳でブースターを殴り飛ばす。
「ブースター……!」
ブースターは地面を転がり、なんとか起き上がる。致命傷というほどではないが、それでもサムラダケの連撃でダメージが溜まってきている。
「サムラダケ、真空波」
そこにサムラダケは、刀を振るって真空波を飛ばす。
「く、うぅ……ブースター、ニトロチャージだ!」
ブースターは炎を纏って駆け出し、真空波を突き破ってサムラダケに突撃。
「アイアンテール!」
そして鋼鉄の尻尾を振るい、今度はサムラダケを吹っ飛ばした。
ブースターのダメージが蓄積しているように、サムラダケも消耗しているはず。サムラダケが成長で攻撃と特攻を上げているように、ブースターも三度のニトロチャージで素早さが上がっている。
条件は今のところ、ほとんど五分だ。むしろ技の構成上、ほとんどが等倍になり日照りの恩恵も受けるブースターの方が有利と言える。
「ブースター、火炎放射だ!」
「サムラダケ、リーフブレードで切り裂け」
ブースターが放つ炎を、サムラダケは刀を振るって切り裂き、
「真空波」
返す刀でもう一度振るい、真空波を飛ばして反撃する。
「成長だ」
ここでサムラダケは一旦刀を下ろし、天を仰いで目を閉じる。そして体を成長させ、力を滾らせようとするが、
「っ、ニトロチャージ!」
ブースターが即座に炎を纏って突進し、サムラダケを突き飛ばした。よって成長は中断される。
現状ではサムラダケとブースターの力はほぼ拮抗状態だ。素の火力でははブースターが上回り、日照りの恩恵も強く受けているが、サムラダケはその差を日差しが強い状態の成長で埋めている。
要するに、これ以上サムラダケに成長され、攻撃能力を上げられると、ブースターでは敵わなくなってしまうのだ。なのでブースターは、絶対にサムラダケに成長させてはならない。
「……サムラダケ、炎のパンチ」
サムラダケは拳に炎を灯して振りかぶり、ブースターへと飛びかかる。
「アイアンテールだ!」
ブースターも鋼鉄の尻尾で迎え撃つが、タイプ相性もあり、サムラダケに押し切られてしまう。
「リーフブレード」
そしてサムラダケは素早く刀を振るってブースターを切り裂く。ブースターの体力も、かなり削れてきた頃だろう。あと一息で、ブースターはサムラダケに押し切られてしまうかもしれない。
だが、
「ブースター、起死回生!」
ブースターはくるりとターンし、凄まじい勢いで前足を突き出してサムラダケを吹っ飛ばす。
「起死回生……」
サムラダケは壁に叩き付けられた。最大火力の起死回生ではなかったためか、まだギリギリ戦闘不能ではないが、かなりの大ダメージを負ってしまう。
「火炎放射!」
そこにブースターはすかさず炎を吹きつけて追撃。サムラダケを炎で包み込む。
炎が晴れると、サムラダケは壁からずり落ちる。刀を地面に刺してなんとか立ち上がろうとするが、結局膝は上がらず、刀に寄りかかったまま戦闘不能となった。
「戻れ、サムラダケ」
アーロンは静かにサムラダケをボールに戻した。これでアーロンの手持ちは残り一体。
しかしフィアにとっては、彼自身の手持ちもブースター一体だ。
「…………」
「……?」
アーロンは次のボールを出さずにしばらくフィアを見つめていたが、やがてゆっくりと最後のボールを構えた。
「おい」
「は、はいっ」
構えたところで、アーロンはフィアに呼びかける。
「このバトルは、四対四だ」
「……はい」
「分かっているか」
「……分かっています」
唐突にルールを再確認するアーロン。フィアは控えめに答えるが、傍から見れば意味があるようには思えない、意味不明のやりとりだ。
「……? なんなの……?」
現に観戦しているイオンはしきりに首を傾げている。
そんなイオンはさて置き、バトルが続行される。
アーロンは構えたままのボールを握り締め、最後のポケモンを繰り出す。
「さあ行くぞ——」
カゲロウジム戦その三です。アーロンの三番手はサムラダケ。ここまでで分かった人もいるかもしれませんが、アーロンの手持ちはすべて和風です。いや、ウインディは中国に伝わるポケモンらしいですが、狛犬っていう説もあるみたいですしね……それはさておき、アーロンの手持ちは和風揃いです。となると、最後のポケモン、彼のエースが分かる人もいるのではないでしょうか。以前URLか何かで触れましたが、今作のジムリーダーは服装や髪形や装飾などにエースポケモンを現す意匠が含まれています。なのでヒントは和風と服装、それから炎タイプですかね。トクサのエースとかも予想してみてくださいな。さてさて、今回は文字数が非常に余ったのであとがきが長くなったのですが、もう書きたいことも特にないというか、書きたいことを忘れてしまったので、この辺にします。次回はカゲロウジム戦その四……だと思います。というのも、次回はジム戦よりも例のポケモンについて言及しようと思っているので、もしかしたらサブタイトルがジム戦じゃなくなるかもしれません。まあそんなことはどうでもいいとして、次回もお楽しみに。
- 第47話 ジムバトルⅣ カゲロウジム4 ( No.130 )
- 日時: 2013/05/12 17:42
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 佳境に入るカゲロウジム戦、フィアの最後のポケモンは——
「さあ行くぞ、オオイナリ」
アーロンの最後のポケモンは、キュウコンと同じ狐の姿をしているが、体は白く、尻尾や目元、そして首から下がっている護符のようなものは赤く染まっている。
『Information
オオイナリ 狐ポケモン
オオイナリが鳴くと幸せが
訪れる。しかし誰のところ
に訪れるのかは分からない。』
オオイナリ。炎とエスパータイプのポケモンだ。
「うぅ……」
炎とエスパーというのは、ブースターにとって非常に不利な組み合わせだ。なぜなら、ブースターの覚えている技はこの二つのタイプで全て半減されてしまう。
しかもオオイナリの特性が貰い火である可能性もある。だとすれば炎技が無効化され、本格的にダメージを与える手段がなくなってしまうのだ。
「来ないのならこちらから行くぞ。オオイナリ、火炎放射」
戸惑い焦るフィアとブースターに、オオイナリは容赦なく日照りで強化された炎を噴射する。
「っ、火炎放射!」
ブースターも咄嗟に火炎放射を放ち、オオイナリの炎を相殺しようとするが、特攻の火力ではオオイナリの方が高いようで、ブースターの火炎放射は突っ切られてしまった。
「神通力」
さらにオオイナリは、神々しい念力を発してブースターを持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。
「くっ……ブースター、アイアンテール!」
ブースターは起き上がると、跳躍して前方回転しながら鋼鉄のように硬化させた尻尾をオオイナリの脳天へと振り下ろす。
「オオイナリ、ソーラービームだ」
だがオオイナリに鋼技は効果いまひとつ。怯むことすらない。
オオイナリは全身に太陽の光を浴びて吸収し、それを凝縮して口腔から一本の光線を発射する。
「ブースター!」
至近距離からソーラービームの直撃を受け、ブースターは大きく吹っ飛ばされて壁に叩き付けられる。
ソーラービームは高威力だが攻撃する前に溜めが必要な技。しかし今のような日差しが強い状態なら、その溜めも必要ない。というより、瞬時に溜めることが可能だ。
「まだだ。神通力」
「く、う……火炎放射!」
オオイナリが発する神通力を、ブースターの火炎放射が相殺するが、
「ソーラービーム」
直後、太陽光を凝縮した光線が発射され、再びブースターを壁に叩き付ける。
「もう一度ソーラービームだ」
間髪入れずにオオイナリはソーラービームを発射。日照りで攻撃の隙が少なくなり、弾速が速く、威力が高いソーラービームは驚異的だ。この攻撃を相殺することはブースターには不可能だろう。
「ブースター、火炎放射!」
それでもブースターは炎を噴射し、光線の勢いを削ぐ。焼け石に水をかけるようなものだが、それでも少しはダメージを抑えられる。
「ブースター、アイアンテールだ!」
ブースターは地面を蹴って勢いよく飛び出し、鋼のように硬化させた尻尾を勢いよく振るってオオイナリに叩き付ける。
「起死回生!」
さらにブースターは、素早く切り返して尻尾をもう一度薙ぎ払い、オオイナリを追撃。ほぼ最高火力に達した起死回生は、効果いまひとつでもかなりのダメージを負わせることができるだろう。
「ブースター、起死回生!」
再びブースターは尻尾を薙ぎ、続けてオオイナリを攻撃しようとする。しかし、
「オオイナリ、神通力」
オオイナリの神通力で止まられてしまった。
ブースターはそのまま地面に這いつくばらせられ、動きを拘束される。
「しまった……ブースター!」
ブースターは必死に起き上がろうとするが、体力が限界に達しているブースターではその拘束を自力で解くことは出来ない。
「決めるぞ、オオイナリ」
オオイナリは高い声で鳴くと、全身で太陽の光を浴び、体を薄く発光させる。
そして、
「ソーラービーム」
次の瞬間、這いつくばっているブースターにオオイナリのソーラービームが直撃する。至近距離から地面に押し付けるようにして放たれるソーラービームは、ブースターに吹っ飛ぶということすら禁じ、継続的に光線を浴びせ続ける。
「ブースター……!」
実際以上に長い時間が流れ、やがてソーラービームは収まる。そしてその光線の標的となったブースターはぐったりと地面に伏せており、見るまでもなく戦闘不能だった。
「…………」
声も出せないフィア。震える手でブースターをボールに戻す。
これでフィアの手持ちは三体が失われた。使用ポケモンは残り一体、その一体をフィアは持っていないわけではない。
ない、のだが、
「……ダンバル」
ゆっくりと最後のボールを手に取り、フィアは目を閉じて思い返した。
このダンバルを、戦わせないと決めた時のことを。
それはシュンセイシティに、フィアとフロルが到着した時だ。あの時は最初にフロルがジム戦をし、フィアはその間、ポケモンセンターの地下でイオンとバトルをしていた。
だがそのバトルの前に、フィアはジョーイさんと話をしていたのだ。それも与太話などではなく、もっと深刻な話を。
フィアはこの世界に来る前、彼女からイーブイを譲り受けた。この世界に来てから、博士にミズゴロウを託された。ライカシティでは、パチリスを迎え入れた。
だがこれより以前、フィアが前の世界から離れ、この世界を知覚する前に訪れた場所がある。それが、ダイケンキやデンチュラのトレーナーである青年と出会った、暗闇の遺跡だ。
あの遺跡で青年の協力の下、初めて捕獲したポケモンが、ダンバルである。言ってしまえば、フィアが初めて自分で捕まえたポケモンだ。
そのダンバルを、今までフィアがバトルに出さなかった——手持ちポケモンの数を偽ってまで戦わせなかったのには、当然ながら確固とした理由がある。
「やっぱり……外傷はないけど、脳神経が傷ついているわね。普通に動くだけなら問題はないと思うけど、あまり激しいことはさせない方がいいかもしれないわ」
シュンセイシティでジョーイさんの告げられたのは、そんな言葉だ。
遺跡で青年と離ればなれになる前、フィアたちは多数のポケモンに襲われた。その時、フィアの些細なミスでダンバルは大きなダメージを受けてしまった。いわばその後遺症が残っているのだ。
激しいこと——つまりバトルはさせない方がいいという言葉がなくとも、フィアは自責の念から、ダンバルをバトルに出すつもりはなかった。そしてはいけないと思ったし、そうしたくないと思った。
だからフィアは、これからもずっと、ダンバルをバトルに出すことをしないと決意したのだ——
(そうだ。あの時ダンバルは、僕のせいで傷ついたんだ……だからこれ以上、傷つけさせることはできない)
ゆっくりと目を開き、フィアは手にしたボールを下ろした。
「……アーロンさん」
そして、呼びかけるように、アーロンに告げようとする。
「この勝負、僕の——」
——僕の負けです、と言おうとしたところで、フィアの手の中で、何かが開いた。
「っ!?」
何かなんて、言うまでもない。フィアが今手にしているのモンスターボールだ。それが開いたということはつまり、中のポケモンが勝手に出て来たということ。そして、そのポケモンとは、
「ダ……ダンバル!?」
だった。
「な、何で出て来たの——って痛っ!」
ダンバルはフィアの正面まで浮かび上がると、一つ目の頭でフィアの額に頭突きをする。ダンバルの頭は鋼鉄なので、頭蓋骨が粉砕する恐れのある、洒落にならない攻撃だ。
フィアは額を押さえながら、ダンバルを見据える。
「ダンバル……ダメだよ、君はバトルをしちゃいけないし、僕は君をバトルに出したくない——ってだから痛い!」
フィアの言葉を否定するように、ダンバルは怒った瞳でフィアを睨み、頭突きする。
その時だった。
「戦わせればいいさ」
「え……?」
不意に、アーロンが口を挟んだ。
「そいつが戦うことを望むのなら、戦わせればいい」
「で、でも……」
フィアの意志を抜きにしても、ダンバルは戦うことを許されていない。厳禁ではないが、ダンバルは戦うべきではないのだ。
「お前はそのダンバルを思って戦いを止めるのだろうが、それがそいつやお前の糧になるか」
「……?」
「仲間とは、守ったり助けたり、救ったりするものばかりではない。時として見捨て、見放し、無謀な戦いにも送り出す。それが当人の意志を尊重するものならな」
「ダンバルの、意志……?」
ダンバルは今まで戦ってこなかったが、それでもボールの中からブースターやヌマクロー、パチリスのバトルを見ていた。
もしかしたらダンバルも、戦いたいと思っていたのかもしれない。
「俺は最初に言ったぞ、全力で来いと。お前自身まだダンバルという余力を残している。そしてそのダンバルは、戦いを望んでいる……あとはお前次第だ、フィア」
アーロンに促され、フィアはダンバルに視線を移す。しばし互いに見つめ合い、そして、
「そうだね……そうだったね、ダンバル。今まで君と一緒に戦ったことはなかったけど、それでも他の皆と同じで、君が僕のポケモンであることは、変わりないんだよね」
フィアは一度目を閉じ、開く。ダンバルを強く見つめて。
「ダンバル、君の力が必要だ……僕と一緒に、戦って欲しい」
フィアの、今の本心からの言葉がダンバルに届く——
——そして、ダンバルが光り輝いた。
「ダンバル……これって」
「……進化か」
光の中で、ダンバルはその身を変化させていく。
円盤状の青いボディ、そこから伸びる両腕と爪はダンバルの姿を連想させる。
『Information
メタング 鉄爪ポケモン
磁力で宙に浮かんでいる。進化して
ジェット機と衝突しても傷つかない体
と鉄板を引き裂く鋭い爪を手に入れた。』
「ダンバルが、進化した……メタング!」
フィアの声に、メタングも黙って返す。その鋼鉄の体からは、溢れる力が感じられる。
「……それが、お前の全力か」
「はい」
「そうか……ならば委細なし。本気でかかってこい」
「はい!」
アーロンに力強く言葉を返すフィア。そしてフィアはメタングを一瞥し、口を開いた。
「やろう、メタング。僕と君の力で、オオイナリを——アーロンさんを倒すんだ!」
その言葉にメタングは、拳を構え、オオイナリと相対し——応えた。
ふぅ……遂にここまで来てしまいました、カゲロウジム戦その四です。この辺までは前作の更新が止まっている間に白黒が考えていたところですね。逆に言えばこの先はつい最近考えていたところで、まだ設定や構成が固まりきっておりません。ほぼノープランです。それはともかく、随分前に登場したダンバルが今になってやっと出て来ました。というか今までダンバルが出て来なかったことに対して疑問を覚えていた方々の謎が解けたのではないでしょうか。さてさて、では次回、カゲロウジム戦決着です。初陣で進化してアーロンのエースと直接対決。メタングはオオイナリに勝てるのか、次回をお楽しみに。
- 第48話 ジムバトルⅣ カゲロウジム5 ( No.131 )
- 日時: 2013/05/12 18:28
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 決戦を迎えるカゲロウジム戦、メタングvsオオイナリの勝負の行方は——
「先ほどああ言った手前、今更こう言うのは気が引けるが……お前のメタングが俺のオオイナリに勝つことは困難だ」
メタングが勇敢に拳を構える中、アーロンは表情を見せず、静かに口を開いた。
「今の天候は日差しが強い状態、炎技は強化される。俺のオオイナリはその恩恵を強く受ける炎タイプで、お前のメタングは炎に弱い鋼タイプ……それでも、やるのか」
「やります。僕とメタングはオオイナリを倒します」
「……そうか」
ならばもう何も言わん、と言って、オオイナリは構え直す。
「オオイナリ、火炎——」
「メタング、バレットパンチ!」
アーロンの指示が終わるより早く、オオイナリが炎を放つより速く、メタングはオオイナリに接近して殴り飛ばしていた。
「む……」
効果いまひとつなのでダメージは大きくないが、それでもオオイナリを一撃で殴り飛ばすほどのパワーに、アーロンは反応を示した。
「……オオイナリ、シャドーボール」
オオイナリは素早く起き上がると、影の球を生成し、メタングへと発射する。
「シャドークローだ!」
だが放たれたシャドーボールは、メタングの影を纏った爪で引き裂かれ、消滅してしまった。
「バレットパンチ!」
そしてメタングはすぐさま拳を構え、弾丸のようなスピードでオオイナリに接近し、殴りつける。今度はオオイナリも踏ん張り、吹っ飛ばされずに耐えきった。
「火炎放射だ」
「っ、思念の頭突き!」
オオイナリはそこで口から炎を噴射しようとしたが、その前にメタングの思念を集めた頭突きがヒットし、怯んでしまったため火炎放射が中断される。
「メタング、一旦オオイナリから離れて」
その隙にメタングは後退し、オオイナリから距離を取る。
「メタング、岩雪崩だ!」
メタングが大声を上げると、虚空からいくつもの岩石が降り注ぎ、オオイナリを押し潰す。効果抜群なので、ダメージは大きいだろう。
「オオイナリ、岩をどけろ。神通力」
だがまだオオイナリは戦闘不能ではない。オオイナリは神々しい念力でのしかかる岩石を吹き飛ばし、態勢を立て直す。
「シャドーボール、三発だ」
そして影の球を今度は三つ生成し、同時にメタングへと発射した。
「メタング、シャドークローで引き裂くんだ!」
メタングも両手の爪に影を纏わせて飛来するシャドーボールを打ち消すが、メタングでは両手で捌けるのは二つまで。最後の一発は打ち消せず、メタングに直撃した。
「ソーラービーム」
メタングが怯んだ一瞬の隙を利用し、オオイナリは全身に太陽光を浴びる。そして凝縮されたエネルギーを口腔内で圧縮し、光線としてメタングに発射。
メタングは光線の直撃を受け、ブースターのように吹っ飛ばされて壁に叩き付けられる。効果はいまひとつだが、やはりかなりの威力だ。
「オオイナリ、シャドーボール」
オオイナリは影の球を三つ生成し、メタングへと発射して追撃をかける。単発では効果がないことは、もうオオイナリにも分かっているようだ。
「シャドークローで防げないなら……突き破るしかない。メタング、バレットパンチ!」
メタングは拳を固め、弾丸のようなスピードでオオイナリに突っ込んで拳を叩き込む。途中でシャドーボールを受けたが、それほど大きなダメージでもない。
「シャドークロー!」
「神通力」
続けてメタングは影の爪を振りかざすが、オオイナリはギリギリのところで神通力を発し、メタングの動きを止める。
ここで火炎放射が放たれれば絶望的だが、メタングはエスパーと鋼タイプ。エスパー技である神通力は効き難く、オオイナリも動きを止めるだけで精一杯のようだ。
やがて神通力が解け、双方が後ろに下がる。
「……このままでは、どちらも消耗するばかりか」
不意に、アーロンが呟く。
メタングもオオイナリも、相手に決定打を与えられる技はあるのだが、それはフィアもアーロンも分かっている。だからこそその技を警戒し、受けないように気を配っている。
となれば等倍以下の攻撃を当て合う形になるのだが、そんなことをちまちま繰り返していたら、あっと言う間に日が暮れる。それに消耗戦なら、耐久力の高いメタングが有利だ。
「ここらでそろそろ、決めたいところではあるな」
アーロンは静かに呟くと、やはり静かに、オオイナリへと指示を出す。
「オオイナリ、火炎放射」
指示を受けたオオイナリは、しかし炎を放たない。大きく息を吸い、吐き、深呼吸を繰り返すだけだ。
だが、それだけだが、オオイナリの力が満たされていく感覚がフィアにも伝わってくる。
(力を溜めてる……早めに決めないと)
オオイナリはフルパワーになったところで炎を噴射するはず。となればその力が充填し切る前に、決めなくてはならない。
「メタング、岩雪崩!」
メタングは虚空からいくつもの岩石を降らせ、オオイナリを押し潰す。しかしオオイナリはまったく動じず、静かに深呼吸を続けるだけだった。岩に体のほとんどを埋め尽くされたオオイナリは、まるで岩を背負っているようにすら見える。
「……だったらもう、正面突破しかない」
フィアとメタングも覚悟を決める。オオイナリの炎を正面から突き破ると、決意する。
その直後だった。
「放て」
オオイナリは口から激しい炎を放射する。日照りで強化されているとはいえ、その炎の規模と熱量は尋常ではない。メタングが喰らえば一撃で戦闘不能になってもおかしくないだろう。
だが、
「メタング、岩雪崩だ!」
正面突破とは言ったものの、こんな炎に向かって馬鹿正直に突っ込んでも焼かれてお終いだ。まずメタングは、虚空から岩石を降り注ぎ、壁を作る。
とはいえこの壁も、オオイナリの炎で焼き崩されてしまうのが関の山だ。しかしそれでも壁、炎の勢いを大きく削ぐ役割は果たすはず。
「思念の頭突き!」
次に頭に思念を集め、メタングは突っ込んだ。その時はもう岩の壁は焼き崩されてしまい、莫大な炎がメタングに襲い掛かったが、メタングももう後には退かない。全身全霊で突っ込む。
「耐えてくれ、メタング……!」
頭に集中させた思念が、僅かながらも炎を減衰する。圧倒的な炎に飲まれながら、焼き焦がされながら、メタングは炎の中を突き進んでいく。
(もう少し、あと少しだ……!)
やがて頭の思念も消え、本格的に炎がメタングを焼いていく。
しかし、もう既にこの時、フィアの目的はほとんど達成されていた。
(今だ!)
オオイナリの炎は確かに強大だが、その強大な炎をいつまでも放てるわけではない。むしろ
つまりフィアの狙いは、オオイナリが疲れて炎の出力が落ちるまで耐え切ることだ。
「メタング、バレットパンチ!」
メタグロスは炎の中、弾丸のようなスピードでオオイナリに突っ込む。
火炎放射を放っていたオオイナリも、高火力の炎を吹き続け、披露している。そこにメタングの渾身の拳が、叩き込まれた。
「……ここまでか」
ブースターからのダメージに、攻撃の疲労が溜まり、そこにとどめのバレットパンチ。
オオイナリの体力は遂に限界を迎え——戦闘不能となった。
アーロンは戦闘不能となったオオイナリを無言でボールに戻し、そのボールを仕舞い込むと、フィアへと歩み寄る。
「お前の力、しかと見せてもらった」
「僕の力だけじゃないですよ……ヌマクローやパチリス、ブースターに——メタング、皆の力があったからこそです」
「……そうだな」
フッと、そこで初めてアーロンは微笑みを見せる。
そして懐から薄い箱を取り出し、フィアに差し出した。
「これがお前と、お前のポケモンが全力を出し切った結晶、俺に勝利した証——」
そこに収められていたのは、噴火して溶岩を噴き出した、火山のような形状のバッジだ。
「——ボルケーノバッジだ。受け取れ」
「はい! ありがとうございす!」
かくして、フィアは四つ目のジムバッジを手に入れた。これでフィアは、半分のジムバッジを蒐集したこになる。
だが、ジムバッジを集めることは、フィアの物語が進むということ。物語が進むということは、彼の物語に潜む巨大な存在に、近づくということである——
カゲロウジム戦、終了です。というかメタングはよく勝てましたね、シャドークローと岩雪崩があっても、かなり厳しいバトルだと思うのですが。ちなみにボルケーノバッジのボルケーノは、バッジの形まんまで火山という意味です。本当は、英語の頭文字が『V』なので発音重視でヴォルケーノバッジにしたかったのですが、ジムバッジの文字数は今のところ最高八文字ですからね。そこは不承不承、仕方なく妥協して合わせました。さて、では次回ですが……やることは決まっているのですが、どう言えばいいのか分からないです。たぶんイベントって言うのが一番正しいと思うんですけど……うーむ。まあさらに言うなら、たぶん新キャラが出ると思います。上手く事が進めばですけど。では次回、そんなこんなでイベント発生です。お楽しみに。
- Re: ポケットモンスター 七つの星と罪 ( No.132 )
- 日時: 2013/05/12 21:04
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
アーロン 男 45歳
容姿:黒い短髪で、筋肉質な体に真っ赤な着物を纏い、右腕だけ袖を通さず胸元から出している。腰には赤い護符のようなプレートが数枚、瓢箪が一つぶら下がっており、グローブと一体化した手甲を付け、サングラスをかけている。歳の割に老け顔だが、渋いという印象を与える出で立ち。
性格:寡黙で多くは語らず、相手に見極めさせるような態度を取る。落ち着き払った物腰と、貫禄や威厳のある雰囲気で、武人や求道者といったものを思わせる。何事にも強い信念を持って接するが、柔軟な思考も持ち合わせており、状況によっては相手を導くような発言をすることもある。ホッポウのジムリーダーでは最高齢かつ最もジムリーダー暦が長い。そのためホッポウ地方のジムリーダーの統括のような役割を担っている。またカゲロウシティの市長も兼任している。
異名:爆炎武人
戦術:先発のキュウコンで天候を日差しが強い状態にし、後は搦め手を交えながらも火力の高い技で攻める攻撃重視のスタイル。日照りがあるだけで防御面はある程度保証されているからこその戦術。
バッジ:ボルケーノバッジ
手持ちポケモン
キュウコン:♀
技:鬼火、熱風、神通力、祟り目
特性:日照り
性格:大人しい、粘り強い
ウインディ:♂
技:炎の牙、雷の牙、燕返し、バークアウト
特性:正義の心
性格:勇敢、物をよく散らかす
サムラダケ:♂
技:炎のパンチ、リーフブレード、真空波、成長
特性:張り切り
性格:真面目、抜け目がない
オオイナリ:♀
技:火炎放射、神通力、シャドーボール、ソーラービーム
特性:貰い火
性格:おっとり、考え事が多い
- 第49話 seven-pointed star ( No.133 )
- 日時: 2013/05/12 22:51
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: そろそろ今までの伏線を回収しないと……まあまた張りますが。
アーロンとのバトルを終えたフィアとイオンは、揃ってカゲロウジムを後にする——が、その時。
またしても、懐かしい顔ぶれと出会った。
「フロル、ルゥ先輩……!」
それは、サミダレタウンで別れた、フロルとルゥナの二人だ。
「フィア、久しぶりだね」
久しぶりと言っても、ほんの数週間程度だが、その数週間で色々なことを経験したフィアからしても、確かに久しぶりという感はある。
「フィア君もジム戦? どうだった?」
「なんとか、勝てました……辛勝ですけど」
と遠慮がちに言うと、フロルが、
「凄いね。わたしなんて、これで七回目の挑戦だよ」
と、サラッと物凄いことを言う。
「ななっ……え、そんなに挑戦してるの!?」
普通、六回も挑んで負け続ければ、諦めて別のジムに移るはずだ。というか勝てる見込みが出て来るまで特訓するのが普通なので、そんなに挑戦する方がおかしい。
よく言えば素直だが、悪く言えば馬鹿正直なフロルだった。
「あれ? でもフロルが挑戦するんだったら、ルゥさんはどうすんの?」
いつの間にかルゥナと親しげになっているイオンはそう問う。
確かにフィアからしても、フロルとルゥナが、なぜ一緒に行動しているのかは疑問だった。
「ルゥちゃんせんぱいは、特訓に付き合ってくれてたんだよ、今まで」
「ルゥちゃんせんぱいって……」
そんな呼び方してたのか、とフィアは内心思った。
同時に、六回も挑戦して負け続けているフロルが、七回目のチャレンジでアーロンに勝てるのかと疑念を抱いたりもしたが、
「大丈夫だよフィア君。今回はとっておきの秘策もあるからさっ」
「秘策……?」
むしろそれはもっと早い段階で使うべきだったのではとも思うが、口には出さない。
「まあ、何でもいいけど……頑張ってね、フロル」
「うん、今度こそ勝つよ」
フロルを激励し、フィアとイオンは、今度こそカゲロウジムを後にした。
それから一時間ほど経過し、ポケモンセンターの中に少女二人組が飛び込んできた。
「フィアっ! 勝ったよ!」
フロルの満面の笑みで発せられる第一声はそれだった。
「おめでとう、フロル」
「やったじゃん」
フィアとイオンも称賛し、フロルははにかむ。
「そういえば、ルゥ先輩はここのジムバッジ、ゲットしたんですか?」
「うん、したよ。と言っても、私がゲットしたのはサミダレタウンの大会より前だったけど」
ちなみに今のバッジは四つね、とルゥナは付け足して言う。現在はフィアやイオンと同数らしい。
「さーて、じゃー折角みんな集まったし、全員で行かない?」
「? どこに?」
イオンが人差し指を立てて、したり顔で言うが、フィアには何のことだが分からない。だがイオンは得意げに続ける。
「この日この街で行くとこといったら決まってるじゃん。祭り祭り、カゲロウ山のお祭りさ」
「祭り……」
そういえば街の案内にもそんなことが載っていた。それにフィアのバトルを観戦する時、イオンがそんなことを言っていた気もする。
(祭りって、どんなものかな……僕のいた世界みたいな祭りなのかな)
イオンの口振りからすると参加は自由っぽいので、期待に胸を膨らませるフィア。
その時、不意に重い声が響く。
「その祭りのことだがな」
「うわぁ!?」
驚いて振り返ると、そこには真っ赤な着物を着崩した男、カゲロウシティのジムリーダー、アーロンが立っていた。
「ア、アーロンさん……いつの間に……!?」
「わたしたちと一緒に来たよ? 気づかなかった?」
全然気付かなかった。
「お前たちに頼みがある」
「た、頼み……? 何ですか?」
「カゲロウ山の祭りでは、毎年志願者を募ってバトル大会を開いている。だが今年は集まりが悪い、お前たちも参加しろ」
頼みというわりには、命令口調だった。性分だろうか。
「案ずるな。お前たちほどの実力なら優勝も不可能ではない。それに、強い者が参加すれば、祭りも盛り上がる」
つまりアーロンは、人数の足りない大会の数合わせに加え、実力者を入れることで大会を、ひいては祭りそのものを盛り上げて町興しを考えているのだろう。これはジムリーダーというより、カゲロウシティの市長としてのお願いのようだ。
「僕は……構いませんけど」
「オレも。大会ってことは、賞品とかもあるんでしょ?」
「わ、わたしも出たい……!」
「データ集まるかもだし、新しいことも試したいし……いい機会だから私も出るよ」
ということで、フィア、イオン、フロル、ルゥナ。以上四名の出場が決定した。
「承知した。参加登録は俺の方で済ませておく。お前たちは……そうだな。祭りまでまだ少し時間もある。この街の温泉でも入って、汗を流すといい。手前味噌だが、この街の温泉はホッポウ一だ。浴衣の貸し出しもしている」
「温泉……」
その言葉に、どことなく親近感を覚えるフィア。別段、フィアは温泉に強い思い入れや縁があるわけではないが、彼の世界の文化に広く浸透しているそれがこの世界にもあると知ると、思わず高揚してしまう。
(温泉か……中学の修学旅行以来かな……)
ふとフロルの方を見ると、ルゥナと一緒になってキャッキャと喜んでいる。彼女たちも温泉が楽しみのようだ。
「……そういえば、一つ言い忘れていたが」
「? 何ですか?」
祭りの準備があるらしく、立ち去ろうとしたアーロンは、足を止めて呟くように言った。
ある意味、この上なく重大なことを。
「この時間、この街の温泉はすべて混浴だ」
「え……!?」
「それだけだ。じゃあな」
アーロンに何を言っても無意味だが、この時フィアは立ち去るアーロンに非情さを感じた。
「フィア、早く行こうよっ」
「え、あ、いや……」
フィアの服の袖を引っ張るフロル。もしかしたら今のアーロンの言葉を聞いていなかったのかもしれない。いや、フロルなら聞いた上で言っている可能性もなくはないが。
「えーっと、その……僕はいいよ……」
「オレも。広い風呂って落ち着かないんだよねー」
仲間が増えた。とフィアは内心イオンを絶賛する。彼の場合、本心なのかアーロンの言葉を受けてなのかは分からないが。
「えー……わかったよ。じゃあルゥちゃんせんぱいと行ってくる」
「一時間後、カゲロウ山のふもとに集合、でいいかな?」
「はい……気をつけて……」
少しがっかりしたフロルを見ると罪悪感が湧かないでもないが、混浴となればフィアも好き好んで入りたくはない。
密かに楽しみにしていた温泉だったが、フィアもフィアで仕方なく、部屋に備え付けられているシャワーを浴びることとなった。
「はぁ……温泉、結構楽しみだったんだけどな……」
ポケモンセンター宿舎に備え付けられているシャワー室で、フィアは一人ごちる。今更そんなことを言ってもどうにもならないというのに。
「まあ、別に温泉に入れるのは今日だけじゃないし、また今度、機会がある時でいいかな……」
と言いつつ、ノズルを回してお湯を出し、それを頭からかぶる。
(そう言えば、結局まだ元の世界に帰る方法は見つからないな……)
ライカシティで青年のポケモンであるデンチュラを見つけたが、あの時に得た情報だけでは何も解決しない。まだ謎は深いままだ。
(部長だってどこにいるのか分からないし。というかあの人はこの世界にいるの? いやそれ以前に生きて——)
そこで一旦、フィアは思考を止めた。このまま行くと、どんどん深みにはまってしまいそうだったため、一度思考停止する。
ノズルを閉めてシャワーを止め、目を開く。
「ん……? なんだろ、これ……」
すると、フィアの視界にあるものが映る。
それはフィアの腹——ではあるのだが、厳密には違う。厳密というか、正確に言えば彼の腹に異常なものがあるのだ。
異状というと悪いように取られてしまうが、実際はなんてことのないもの。痣だ。
だが普通の痣にしては、少し奇妙だった。
「赤い、のはいいけど、星……? なんだっけこれ、いち、に、さん……七つだから、七芒星?」
簡単に言えば、五角形の辺を延長して出来た星型の図形が五芒星。六角形なら六芒星。フィアの腹にあるのが、七角形の辺を延長した星型の図形、七芒星である。五芒星や六芒星はメジャーだが、七芒星となるとなぜかマイナーなため、フィアも思い出すのに時間がかかった。
とにかく、フィアの腹——へそよりも少し下の位置に、赤い七芒星の痣があるのだ。
「いつの間にこんなの出来たんだろ、不気味だな……ていうかこんなに綺麗に痣ってつくものなの?」
などと疑問を覚えるフィアだったが、不意に顔を上げると時計の針がかなり進んでいる。
「そろそろ出ないと、時間、間に合わないな……」
フィアはシャワー室から出ると、少し急いで着替え、持ち物をチェックしてから集合場所のカゲロウ山へと駆けだした。
カゲロウ山のバトルフィールドで、設営の最終調整を進めるアーロンは、あることを考えていた。
(フィア……バトルの筋は悪くないが、どこか別世界のような匂いを感じるトレーナーだったな)
それに、と胸中で続け、
(奴のメタング、いやダンバル。あのダンバルは、元々かなりの実力があったようだが、バトルの経験はほぼ皆無、ないように見えた。奴の口ぶりからしても、戦わせたことはなかったのだろう。だが、あの局面で進化した)
ポケモンの進化の形態は様々だ。イーブイのように道具を使用するものもあれば、他人と交換したり、時間に関係する種もいる。
中でも一般的なのは、戦いの経験を積むこと。これで進化するポケモンが大半を占め、ダンバルもそれに該当する。
(なんの経験もなしでいきなり進化……奴のダンバルに対する思いが奇跡を起こした、などと言えば絵本の世界なら綺麗に収まりがつくが、生憎この世界は現実だ)
現実では、そんな簡単には済ませられない。
(フィア……奴には、何かあるな……)
今回はバトルのない回……というかどこのラノベだよ、みたいな展開になってしまった感があります。いや、これが悪いとは思ってないですけど、なんかしっくりこないです。それはともかく、この辺りから物語は急展開……とは行かないまでも、結構物語の深いところに潜っていく予定です。フィアの体の痣や、アーロンの思考からもそれは読み取れると思います。さて、それでは次回、お祭りです。次回こそ新キャラ出したいですが、こればっかりは文字数次第なので分からないです。では次回もお楽しみに。
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