二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- デュエル・マスターズ Mythology
- 日時: 2015/08/16 04:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
初めましての人は初めまして、モノクロという者です。ここでは二次板と雑談板が拠点です。
本作では基本的に既存のカードを使用するつもりではありますが、オリジナルのカードも多数登場します。ご了承ください。
投稿したオリキャラのデッキにキーカードや切り札を追加したり、既存の切り札級のカードや、追加した切り札に召喚時の台詞を追加しても構いません。追加したい時はその旨をお伝えください。
目次
一章『神話戦争』
一話『焦土神話』
>>1 >>2 >>6 >>9 >>12 >>13 >>14
二話『萌芽神話』
>>17 >>18 >>21 >>22
三話『賢愚神話』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>33
二章『慈愛なき崇拝』
一話『精力なき級友』
>>41 >>45 >>49 >>52 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61
二話『加護なき信仰』
>>63 >>64 >>66 >>70 >>71
三話『慈悲なき女神』
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76
四話『表裏ある未来』
>>77 >>78
三章『裏に生まれる世界』
一話『裏の素顔』
>>79 >>80 >>81 >>82 >>85 >>86 >>91 >>92 >>94
二話『裏へと踏み入る者』
>>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101
四章『summer vacation 〜夏休〜』
一話『summer wars 〜夏戦〜』
>>103 >>106 >>107 >>110 >>111
二話『summer festival 〜夏祭〜』
>>112 >>113 >>114 >>117
三話『summer ocean 〜夏海〜』
>>118 >>121 >>127 >>128 >>129 >>132 >>141 >>148
五章『雀宮高等学校文化祭店舗名簿』
一話『ガーリックトーストレストラン』
>>152 >>153 >>156 >>157 >>158 >>160 >>162 >>163 >>164 >>167
二話『ロイヤルミルクティーカフェテリア』
>>168 >>169 >>170 >>173
三話『ゾロアスター教目録』
>>174 >>175
四話『天の羽衣伝説調査』
>>185 >>186
五話『日蓮宗体験記録』
>>187 >>190
六話『天草四朗時貞絵巻』
>>191 >>192
七話『後夜祭・神々の生誕劇場』
>>193 >>202 >>206 >>207
六章『旧・太陽神話』
一話『序・太陽神話』
>>208 >>212 >>213
二話『破・太陽神話』
>>214 >>217 >>218 >>219 >>221 >>222 >>223 >>224 >>231 >>235 >>236 >>243 >>244
三話『急・太陽神話』
>>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>279 >>282 >>285 >>292
七章『続・太陽神話』
一話『再・太陽神話』
>>293 >>299 >>300 >>303 >>304 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>322 >>323 >>324 >>329 >>330 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>338 >>341 >>342 >>343 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>365
二話『終・太陽神話』
>>366 >>371 >>372 >>373 >>374 >>375 >>376 >>377 >>380 >>381 >>382 >>383 >>384 >>385 >>386 >>387
三話『新・太陽神話』
>>393 >>395 >>396 >>397 >>398 >>399 >>402 >>403 >>404
八章『十二神話・召還』
一話『焦土神話・帰還』
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409
二話『海洋神話・還流』
>>410 >>411 >>412 >>413 >>415
三話『萌芽神話・還却』
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>423 >>424
九章『聖夜の賢愚』
一話『祝祭の前夜』
>>425
二話『双子の門番』
>>426 >>429 >>430 >>431
三話『祝宴の闘争』
>>432 >>433 >>434 >>435 >>436 >>437 >>438 >>439 >>440
四話『知将の逆襲』
>>441 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447
第十章『月の下の約束です』
一話『月影の同盟です』
>>468 >>469 >>470 >>471 >>472 >>473
二話『月夜野汐です』
>>486 >>487 >>489 >>490 >>491 >>492
三話『私の先輩です』
>>493 >>496 >>497 >>498 >>499 >>500 >>503 >>506 >>507 >>508
第十一章『新年』
一話『初詣』
>>512 >>513 >>514 >>515 >>516 >>519 >>520 >>521 >>522 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>530 >>531 >>532 >>533 >>534 >>535 >>536 >>537 >>538 >>539 >>540 >>541 >>542 >>543 >>544 >>545 >>546 >>547 >>548 >>549 >>550 >>553 >>554 >>557 >>558 >>559 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>566 >>567 >>568 >>571 >>572 >>573
十二章『空城夕陽の義理/光ヶ丘姫乃の本命』
一話『誕生日/バレンタインデー』
>>577 >>578 >>579 >>580 >>583 >>584
二話『軍人と探偵と科学者と/友人と双子と浮浪者と』
>>585 >>586 >>587 >>590 >>591 >>592 >>593 >>594 >>595 >>596 >>597 >>598 >>599 >>600 >>601 >>602 >>603 >>604 >>605 >>606
三話『告白——/——警告』
>>609 >>610
十三章『友愛「親友だから——」』
一話『恋愛「思いを惹きずって」』
>>616 >>617
二話『敬愛「意志を継ぎたい」』
>>618 >>619
三話『家族愛「ゆずれないものがある」』
>>620 >>621 >>622 >>627 >>628 >>629 >>630 >>631 >>632 >>633 >>634 >>635 >>636
四話『親愛「——あなたのことが大好きです」』
>>637
コラボ短編
【1——0・メモリー(タクさんコラボ)】
外伝『Junior to connect』
一話『Recollection』
>>474
二話『His outrage』
>>475 >>476 >>477 >>478 >>480
三話『My junior and his friend』
>>482
デッキ調査室
№1『空城夕陽1』 >>95
№2『春永このみ1』 >>102
№3『御舟汐1』 >>136 >>137
人物
>>34
組織
>>35
フレーバーテキスト
>>574
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.641 )
- 日時: 2017/01/02 04:23
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「二年四組の担任を務めさせていただきます、黒村です……一年間、よろしくお願いします、皆さん……」
壇上で陰気な挨拶がされる中、夕陽は頭を抱えていた。
なんとなくわかっていた。知り合いがほとんど同じクラスだった時点で、なんとなく察していた。だからこれは予定調和だ。
「だけどなんか釈然としないぞ……黒村先生が担任って、やっぱ【ラボ】の陰謀じゃないのか……?」
機会があったら聞いてみようと思うが、恐らく聞く機会はないし、聞いても教えてはくれないだろう。
皆はどう思っているのか、と首を軽く回してみると、このみと目があった。なにやら、パチパチと目を瞬かせている。
ウィンクのようだが、アイコンタクトだった。別に暗号として作ったわけではないが、夕陽にはなんとなく彼女の言いたいことが分かる。
(後で、話が、ある……? なんだ、話って?)
わざわざアイコンタクトで一報入れたということは、よほどのことなのだろう。しかも、夕陽の存在が不可欠ななにか。加えて、教室に入るまでなにも言わなかったところを見るに、今さっき思いついたか、思い出したことだろう。
どうせろくでもないことだと思いつつも、逃げようとしても逃がしてはもらえないと思うので、とりあえず話だけは聞こうという気にはなった。
ただ、姫乃の存在が、夕陽の中で懸念として引っかかったままだった。
本日は始業式のみで、授業がない日。一通りの行事が終了すると、すぐに解散となった。
そして、後で話があるとこのみから召集を受けた夕陽は、いつもの三人で固まっていた。
できるだけ姫乃のことは意識の外に置きながら、このみに視線を合わせて問う。
「で、話ってなんだよ」
「ゆーくん。ゆーくんは知ってると思うけど、キラちゃんは部活をやってるよね」
「うちの妹? 確かになんか入ってたな……遊戯部、だったか」
「文化祭の時、お邪魔させてもらったよね」
半年前。夕陽の妹が通う東鷲宮中学(この三人の母校でもある)の文化祭を訪れたことがある。
その時、妹が在籍する部活——遊戯部なるなにをする部活なのかまるで想像がつかない奇天烈な部活の催し(やることはなぜかデュエマだった)に参加した。
そんな昔の出来事を回想するが、このみが言いたいのは文化祭ではなく、遊戯部そのもの。もっと言えば、部活動だ。
「あたしはキラちゃんたちを見て、部活もおもしろいなー、って思ったんだよ」
「それで?」
「この学校だと、二年生からなら部活を作る申請が出せるんだって」
だからさ、とこのみは目を輝かせて言う。
「ゆーくん、姫ちゃん! 一緒に部活を作ろうよ!」
「嫌だ」
「拒否が早いよ!?」
「ん? あぁ、悪い。つい反射で」
「そう? じゃあ気を取り直して……部活を作ろうよ!」
「嫌だ」
「結果が変わってない!?」
「……相変わらず仲が良いよね、二人って」
夕陽の拒絶に吃驚の表情を浮かべているこのみは、バンッと机を叩きながら身を乗り出して、夕陽に詰め寄った。
「なんで!? なんでなのさ!」
「嫌だからだよ。面倒くさい」
「面倒くさい!? そんな理由で!?」
「部の設立申請なんて、手続きが手間だろ。人数を集めて、顧問を探して、活動場所を考えて、書類を書いて……そんなものに付き合えるか」
「確かに、わたしたちだけで部活動を立ち上げるのは、ちょっと難しいかも……」
姫乃も渋い表情をしている。家のことやバイトもある姫乃としても、部活で時間を取られるのはあまり良いとは言えない。
「そもそも、なに部を作る気なんだ?」
「え? あー、えーっと……キラちゃんとこみたいな」
「思いつきも甚だしい計画性だな。僕はやらないから」
「むー、ゆーくんのいじわる……!」
「お前の無計画な思い付きにつきあう義理はない」
昔からこのみに振り回されて、痛い目を見てきたのだ。もうそう安々と彼女の思惑に乗ったりはしない。
「部活作ったら、絶対に名簿に入れてやるんだから! 覚悟しといてよね!」
「僕のサインもなしにか?」
「キラちゃん通せばゆーくんの印鑑くらい手に入れられるもん!」
「サラッと恐ろしいこと言うんじゃねぇよ!?」
このみと妹の仲は非常に良好で、二人ともお互いにかなりべったりしているので、やけに現実味を帯びた発言なのが恐ろしかった。
しかし流石の妹でも、たとえ相手がこのみだとしても、そう簡単に印鑑なんて渡すはずがない……と、思いたい。
このみは夕陽にとりつく島もないと感じるや否や、姫乃に矛先を変えて説得に入っていた。姫乃の性格上、断るに断りづらいだろうから、かなり困ることだろう。
とはいえ夕陽も姫乃とできるだけ一緒にいたくなかったので、このみのことは姫乃に任せて、一人教室を出て行った。
今日はもうすることがない。後は帰るだけだが、帰ってからどうするべきか。
どのように暇つぶしをするかを考えていると、ふと前方に、見慣れた人影が見える。
相手もこちらの存在に気付いたようで、視線を合わせ、か細い声で呟いた。
「……先輩」
汐だ。
そして、その隣にはもう一人、女子生徒。
「御舟か。それと、えっと……」
「ミントです。御影ミント。また会いましたね、空城先輩」
朝出会った新入生、ミントだ。
明らかに名前を忘却していた夕陽だが、ミントは気にする風もなく、笑顔で返す。
「先輩はお一人ですか。このみ先輩や姫乃先輩は」
「光ヶ丘なら、このみの思い付きにつき合わされてる」
「このみ先輩の思い付き……」
「部活を作りたいんだと。うちの妹に触発されたみたいで」
「……いつぞやの文化祭ですか。確かにあの時のこのみ先輩、妙に目が輝いていたですね」
「僕はそんな面倒なことに首を突っ込む気はないから、早々に逃げて来たけど」
「それが賢明でしょうね」
今にして思うと、汐はこのみを甘やかさず、かといって反感を買うほど突っ撥ねもせず、かなり上手い具合にアメとムチを使い分けている。
このみは癇癪を起こしても面倒なので、いつかそのノウハウをご教授いただきたいとか、どうでもいいことを考えていた。
「御舟たちも、今から帰り?」
「私はそうです。店番があるので」
「そうか。じゃあ、今日は暇だし、『御舟屋』で暇をつぶそうかな」
「私は一向に構わないですよ」
と、夕陽と汐の二人でそんなやり取りをしていると、ミントが疑問符を浮かべていた。
「みふねや……? 店番、って?」
「あぁ、そういえばまだ言ってなかったですね。私の家はカードショップなのです。かなり辺鄙なところにあるので、お客さんはいないですけど」
「昔からよく利用しててさ。大抵はそこでデュエマしてるよ」
「デュエマ? 御舟さんたちって、デュエマやってるんだ」
ミントの表情が、パァッと華やぐ。
「私もデュエマやってるんだけど、前に住んでたところでは、あんまりやってる人がいなかったんだ」
「……そうでしたか」
「…………」
夕陽も澪から少しだけ聞いたことがある。
汐が以前住んでいたところでは、汐の実力が高すぎるゆえに、対戦相手が自然と遠のいてしまったと。
対戦したくても、戦う相手が周囲にいないということが、どういうことなのか。彼女はその身で理解しているのだろう。
「……だったら、うちに来るですか」
「構わないですよ。いつも閑古鳥が鳴いている店なので、新しいお客さんは大歓迎です。先輩も、いいですか」
「いいよ。そもそも、僕が口出しできるところじゃないし」
「……それじゃあ、お邪魔します」
こうして。
いつもと違う風が、『御舟屋』に吹き込むのだった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.642 )
- 日時: 2017/02/12 16:08
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「アミさん」
「…………」
「ねえねえ、アミさん」
「…………」
「アミさんってば。おーい、アーミーさー——」
「だぁ! うっせぇよ! 黙ってろ青崎!」
「あ、やっとレスポンスが返ってきた」
怒気を込めた火野亜実の叫びに、青崎記はくすくすと軽薄そうな笑みで返す。
二人は学部、学科ともに違うが、同じ鶴田大学に通う同期であり、また同じ【神格社界】というコミュニティに属する者同士であり、そしてミリタリー研究会(通称ミリ研)の数少ない部員同士であった。
そのため、なんやかんや、一緒にいることが多い。授業が被ることは皆無だが、授業が終わって部室棟に向かえば顔を合わす。食堂で昼食を摂る時や、図書館、大学構内ですれ違うこともしばしばだ。大学に入学してから、そんな毎日を過ごしていた。そして今も過ごしている。
お互い、仲の良い友人こそいるが、最も同じ時間を過ごしたという点に限れば、お互い同士がそうであった。
それは今のようなプライベートにおいても、水面下の出来事においても、だ。
亜実はスマートフォンを机に置くと、記に視線を向ける。
「で、なんだよ。一回呼べば分かる、何度も呼ぶな」
「あからさまにシカト決め込んでたにも関わらずそんな不遜な態度が取れるアミさんが、僕は好きですよ。いやね、僕らも無事進級できて二年生。新年度を迎えたにも関わらず、会長様が勧誘活動の一つもしないのは、なんでかなーって思って」
「そのことか。別に必要ないだろ。どうせ入らない奴はうちには入らない」
現在は四月初旬。今期の授業がちょうど始まった頃。
高校までにおける部活動と、大学におけるサークル活動は、それなりの違いこそあれ度、どちらも複数人の人間が集団となり、一つの目的のために行動するという本質を持つものであり、この本質を遂行するためには構成する人間が必要である。
要するに部員がいなくては部活は成り立たないという意味だ。ミリ研は正式なサークルではなく同好会ではあるが、それでも団体の性質を帯びている以上は、その問題点は同じである。
ついぞ先週ほどには入学式や新入生歓迎会があった。一般的なサークルは、そこで新入生獲得のために、ビラ配りやら、サークル体験やら、説明会やら、発表会やら——とにかくなんらかの形で勧誘活動を行うのだが、ミリ研はそれらの時期、なにもしていない。
まるで活動していなかった。
なぜ活動しなかったのかと言われれば、ミリ研の創設者であり、いわゆる会長である、火野亜実がなにも指示を出さなかったから、ということに他ならない。
ではなぜなにも指示を出さなかったかというと、その答えが先ほどの彼女の言葉だ。
「サークルってのは好きな奴らが集まって好きにやるもんだ。無理やり勧誘して頭数増やしたところで意味はない。雑兵ばかりの烏合の衆だ」
「勧誘っていうのは、そもそも自分たちの存在をアピールする意味もあるんだけどね。ミリ研がありますよー、っていうことをまず知ってもらわなきゃ、来るものも来ないよ?」
「新入生用資料には名前があるだろ。わざわざ自分たちで出向かなくても、それ見りゃ一発でわかる」
「果たしてあんな紙束にちゃんと目を通す新入生がどれほどいるか、期待しちゃうね」
亜実の勧誘に対する意識の低さをせせら笑う記だが、亜実はまるで気にする様子がない。
「ところで、美月さんはどうした? 今日まだ見てないんだが」
「向こうにいるよ、麻雀部。終わったら来るんじゃないかな」
「長引いてんのか。ま、特にやることもないし、適当に待ってるか」
しかし本当にやることがない。そもそもサークルは、好きなことをする集団。活動内容を定め、その活動ができないと判断された時には、なにもできないのだ。
なにもできない。ならば、代わりのなるなにかが、必要である。
「……アミさん。暇ならさ、やらない?」
「お前から持ちかけるなんて珍しいな」
「いつもアミさんのサンドバックにされてる僕だけど、やられっぱなしっていうのはやっぱり面白くないからね」
「あっそ」
「冷めてるなぁ……それに、知は力だけど、力も知だ。知るためには力が必要だからね。ちょっとつきあってよ」
「しゃーねぇなぁ……」
どうせ暇だからいいか、と亜実は鞄から“それ”を取り出し、机に置く——
コンコン
と、その時。
部室の扉がノッキングされた。
「? 誰だ?」
「珍しいね、うちに用のある人なんて。北上先輩らはノックなんてしないだろうし、誰だろ……どうぞー、開いてますよー」
記が扉越しでも聞こえるように応じると、ギィ、と小さく扉が開いた。
「し、失礼します……」
入ってきたのは、黒髪の少女だった。
見覚えのない人物。しかし、彼女から発せられる雰囲気や、見覚えのないという無の情報から、彼女の存在をある程度推測できた。
彼女はこちらをまっすぐに見つめると、口を開いた。
「あの……ミリタリー研究会は、ここでしょうか……?」
「文学部、文学科。長良川詠です。一年生です」
長良川詠と名乗る彼女は、やはり新入生だった。
宣伝もほとんどしていないのに新入生が来るとは思っておらず、少々面食らったが、二人はそれなりの対応で彼女を迎え入れる。
「僕は副会長の青崎記です。で、こっちの厳つい人が火野亜実さん。二年生だけど、会長だよ」
「厳ついは余計だ」
「それで、長良川さんはうちに入部希望ってことなのかな?」
「はい! 新入生パンフレットで名前を見て、一目散に駆けてきました!」
「ミリタリー、好きなんだ」
「はい!」
詠の瞳は、キラキラと輝いていた。
大学生活に輝かしい希望を抱いている目だ。これから待ち受ける、汚濁にまみれた単位取得戦争の闇を微塵も知らない、純粋な光がそこにはあった。
それはそれとして、彼女がこのサークルの活動拠点に足を踏み入れたということは、前述の理由も含めて、本当にこの団体の活動に興味関心があるということ。
この新入生がどうしようと構わない。新入生との話のとっかかりを求めているわけでもない。単純な興味と、ほんの少しの気まぐれで、亜実は彼女に問うてみた。
「……時代は?」
「日露戦争が一番好きです! 20世紀初の総力戦ですし、この戦争をモデルにした作品もたくさん出てるんですよ」
「近代史か……あぁいや、歴学ではないのか」
「文学科だね。趣味と専攻を別にする人は少なくないけど、なんだか珍しいね?」
たとえば亜実は歴史学科であり、専攻している時代は、先ほど名前が挙がった近代史。自分の専攻がそのまま趣味であり、この二つはイコール関係。それゆえにミリタリー研究会を設立したのだ。
一方、記は人文情報学科。自分の趣味嗜好でありライフワークの一部と化している“情報”の一点を専攻しており、ミリタリーとは縁もゆかりもないのだが、なんやかんやで亜実に引き抜かれた。彼がここにいる理由は、彼自身の好みだとか意思だとかいうよりも、亜実のスカウトによるところが大きい。
ミリタリーと言えば、ジャンルとしては好む者が一定数存在する分野であるが、突き詰めていくとかなり閉鎖的かつ専門的になってしまい、それ故に学びたいと思うのであれば、大学で専攻するだけで十分となってしまう。この団体に人があまりいない理由の一つだ。
もっとも、このことはミリ研以外の団体にも言えることであるが。
「あ、私、戦争そのものよりも、戦争を題材にした詩や小説が好きで……そこが入り口だったんです」
「あぁ。まあ多いよね、そういう人って。残念だね亜実さん、趣味が合わなくて」
「別に。そっちの方が一般的だろう。あたしの好みの方がマイノリティである自覚はある」
戦争を題材にした作品群。そこから戦争の一端を知り、興味関心を抱く若者は、少なくない。
詠もその一人で、だからここに来た。それだけのようだ。
それはそれで、構うことなど一つもないのだが。
「それに、現代で戦争なんてナンセンスだ。本質さえ見失わなければ、それを様々な媒体、手段で表現することは間違ってはいない」
「果たして戦争の本質を捉えた作品がどれだけ存在するのか、僕にとっては疑問だけどね」
亜実の言葉に、皮肉っぽく返す記。
いつも一緒にいる仲とはいえ、決して仲良しとは言えない二人。こんなやり取りはしょっちゅうだが、新入生が目の前にいるというのに、火と油が触れてしまいそうな剣呑な空気が漂う。
その空気を察してなのか、詠はテーブルの上に置かれた物に目をつけて、指差した。
「あの、ところで、それ……デュエマ、ですよね?」
「ん? あぁ、ごめんね。あんまり人が来ないものだから、ちょっと暇潰しで遊ぼうと思ってたんだ」
「知ってるんだな」
「はい。高校生までは、近くのカードショップでバイトしてたこともあるんですよ」
「筋金入りだ」
広く人気のあるカードゲームなので、知っていてもおかしくはない。プレイヤーでも驚きはないが、カードショップでバイトしていたとなると、なかなか見ない類の人物だ。
そこで記は、ひとつ思いついた。
「せっかく新入生が来てくれたんだし、このサークルらしい活動をしようと思ったけど、よく考えたらこのサークルにまともな活動ってなかったね」
「会誌制作は夏だしな」
「そうなんですか?」
「実はまだ非公認団体だからね。単なる同好会だし、普段はそれらしい話題でお喋りしてるだけだよ」
「だから、ロクな活動紹介もないし、体験もできない。悪いな」
「なんだけど」
活動紹介や体験の代わりに、少しばかりの余興——というにしても突発的すぎる遊戯的なものがある。
「親睦会ではないけど、もし入ってくれるっていうなら僕らとしても仲良くなりたいし、長良川さんがよければ、ちょっとやってく?」
そう言って記は、机の上に置いたデッキを掲げた。
一団体としてどうかとは思うが、理解が重なり、他にできることもすべきこもないのであれば、それもいいだろうと。
それは、対戦の申し込みだった。
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.643 )
- 日時: 2017/02/12 21:35
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
まるでサークルの活動とは関係なく、唐突な対戦の申し出にを、思った以上に素直に承諾した詠。そもそも、大学に、しかも入学したのこの時期に、デッキを持ち歩いているということが驚きであったが。
そんなこんなで、ミリ研の机を挟んで、亜実と詠が向かい合う。
「——で、なんであたしなんだ?」
「言わせないよアミさん。僕なりの考えがあってのことさ」
「お前から持ちかけたことなのにな」
「でしゃばると文句言う癖に、退いても不満を漏らすよね、アミさんって」
「基本的にお前には悪意しかねぇよ」
などといつものような罵倒と皮肉のどつきあいをしつつも、なんやかんやで亜実はデッキを取る。
「まあいいか……超次元は使うか?」
「私は使いません」
「そうか。あたしはこれだ」
亜実がデッキの横に置いた八枚のカード。
その中身は、このようになっていた。
《勝利のガイアール・カイザー》
《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》
《時空の指令コンボイ・トレーラー》
《紅蓮の怒 鬼流院 刃》
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》
《勝利のリュウセイ・カイザー》
《ヴォルグ・サンダー》
《勝利のプリンプリン》
「この次元……《ウララー》っぽい。ドギバスかな……?」
全体的にハンターの高コストサイキック・クリーチャーが多い。色がバラバラなことから、自分の使用文明に縛られない《勝利のアパッチ・ウララー》の存在を考える詠。
そんな彼女の推測を補強するかのように、亜実はもう一枚のカードを場に出した。
「それと、こいつも使う」
場に出されたのは、一枚の赤いカード。
亜実はそのカードの上に、デッキから六枚のカードを裏向きに置いた。
「《禁断》……! やっぱりドギバスかなぁ……辛いなぁ」
《禁断 〜封印されしX〜》。
最初からバトルゾーンに設置される新タイプのカード、禁断の鼓動。
ゲーム開始時に六枚の封印が付けられ、自分の火のコマンドが出るたびに、その封印は外れていく。封印がすべて外れれば禁断解放し、一体のクリーチャーとなるカードだ。禁断解放すれば、全体除去で一気に場を制圧され、打点も大きく増強される。
詠の読みが正しければ、あくまでサブ的なカードでしかないはずだが、もしも禁断解放するようなことがあれば、ほぼ負けの状況だろうと思う。なので、あまり気にしないことにした。
お互いに対戦前の準備は済み、じゃんけんで先攻後攻を決める。亜実の手はグー、詠はパーだった。
「やった、先攻とれた……じゃあ、私のターンからですね。《トリプルマウス》を埋めてエンドです」
「あたしのターン。《アパッチ・ウララー》をチャージして終了だ」
「わ、もう流石に確定かな……《ロラパルーザ》を埋めます。2マナで《フェアリー・ライフ》! マナを一枚追加します」
詠は順調に2ターン目に《フェアリー・ライフ》を唱え、マナ加速。マナに落ちたのは《魔天聖邪ビッグディアウト》だった。
亜実たちは加速したことそのものよりも、マナに置かれたカードたちに注目する。
「《ロラパルーザ》に《ビッグディアウト》……?」
「ゴッド・ノヴァだね。ネクラのゴッド・ノヴァOMGデッキ?」
「少し引っかかるが、なくはないか……あたしのターン」
亜実は思案しつつカードを引きつつ、手札を眺める。そして、
「……《ウララー》をチャージして終了だ」
マナチャージだけして、ターンを終えた。
「私のターン。《ジャスミン》を埋めて、《ライフプラン・チャージャー》を唱えます。五枚見て、《トリプルマウス》を手札に加えますね。エンドです」
「《クロック》をチャージして《リロード・チャージャー》だ。手札の《クロック》を捨て、一枚ドロー」
「一気に《クロック》二枚消えたね。残念、亜実さん」
「うるせぇよ。ターン終了だ」
「私のターンですね。《腐敗無頼トリプルマウス》召喚! マナを追加、手札を一枚ハンデスです。失礼します……えっと、これで」
詠が裏向きのまま亜実の手札を一枚選択。落とされたのは、《絶叫の悪魔龍 イーヴィル・ヒート》だった。
「やった……! エンドです!」
「一積みの《イーヴィル》が落とされるのは、少し厳しいな……あたしのターン。《リロード・チャージャー》をチャージ。4マナで《ドンドン吸い込むなう》! 五枚見て、《ムシャ・ホール》を手札に。バウンスはしない。ターン終了だ」
「私のターンです。ここは……こっちから! 《テラネスク》をチャージ!」
ほんの少し思案してから、詠は二枚残った手札の片方を引き抜く。
「7マナタップ! 《右神のイザナイ ゾロスター》を召喚!」
出されたカードは、少々意外なカードだった。
「っ? 《ゾロスター》?」
「しかも右神の方……これは珍しいね」
《右神のイザナイ ゾロスター》は、ゴッド・ノヴァOMGでありながら光臨を持つ特殊なクリーチャー。
しかしその光臨対象がオラクリオンと、ゴッド・ノヴァOMGと特にシナジーしないことから、個性はあるものの使いづらいクリーチャーという評価を下されている。
このタイミングで出て来たということであれば、次のターンには左腕のゴッドが出るはず。そうなると、ゴッド特有の除去耐性もあり、厄介なことになるかもしれないが、
「あたしのターン。こっちも準備はできた。一気にぶち込むぞ!」
ゴッドはリンクするまで、光臨はタップするまで、それぞれタイムラグがある。
その隙に、準備を完了した亜実は、勝負を決めにかかる。
「《ボーンおどり・チャージャー》をチャージし、5マナで《超次元ムシャ・ホール》! 破壊対象はいないが、超次元ゾーンから《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに出す!」
「! ここで生姜ってことは、やっぱり……!」
「火のコマンドが場に出たので、《禁断》の封印を一つ解放。続けて《勝利のガイアール・カイザー》でプレイヤーを攻撃——する時に!」
亜実は手札のカードと、場の《勝利のガイアール・カイザー》を——入れ替える。
「革命チェンジ! 《蒼き団長 ドギラゴン剣》!」
指定された条件を満たすクリーチャーが攻撃する時、そのクリーチャーと入れ替わり、手札から現れる能力、革命チェンジ。
《ドギラゴン剣》の革命チェンジ条件は、コスト5以上の火か自然のドラゴン。《勝利のガイアール・カイザー》はその条件を満たしており、たった5コストの超次元呪文から、コスト8、パワー13000のTブレイカーが飛び出した。
それだけではない。
「再び火のコマンドが出たので、封印を一つ解放。さらに《ドギラゴン剣》のファイナル革命発動! マナゾーンから《勝利のアパッチ・ウララー》をバトルゾーンへ!」
《ドギラゴン剣》には、ターン中一度だけ使用できるファイナル革命の能力がある。それにより、手札またはマナゾーンから、コスト6以下になるように多色クリーチャーが飛び出してくる。《ドギラゴン剣》自身が多色クリーチャーをスピードアタッカー化するため、瞬間的な爆発力は凄まじい。
「最後の手札を見せてもらうぞ」
「……どうぞ」
「これは勝負あったかな」
《勝利のアパッチ・ウララー》は、登場時に相手の手札を見て、公開されたカードに含まれる文明のハンターサイキック・クリーチャーを呼び出せる。
光や水なら《BGOOON・パンツァー》、火や自然なら《鬼流院 刃》、闇なら《勝利のリュウセイ》や《ヴォルグ・サンダー》。どの文明を捲ろうとも二打点が追加されるので、S・トリガーがない限り、詠はこのターンでワンショットされる。
仮に攻撃を防いだとしても、場には三体のクリーチャーが並んでいるのだ。《アパッチ・ウララー》は破壊された時にも能力が発動するので、一度攻め込まれてしまえば、この猛攻を防ぎ切ることは難しいだろう。
ただしそれは、スタートダッシュに成功した場合だ。
出鼻を挫けば、如何にレジェンドと言えども、その力を発揮することはできない。
詠の残る一枚の手札が公開される。
「っ!?」
それを見た途端、亜実は目を見開いた。
その、詠の最後のカードとは、
「私の最後の手札は、《左神人類 ヨミ》です!」
「無色カード……!」
色を持たない、ゼロ文明のカード。
《アパッチ・ウララー》が効力を発揮するのは、文明のあるカードを捲った場合。文明を持たないゼロ文明のカードを捲っても、文明がないのだから文明を選べず、サイキック・クリーチャーも出てこない。
「《テラネスク》をチャージして《ゾロスター》を出したのは、手札に無色の《ヨミ》を残したかったからか。《ウララー》の能力を不発させるために」
「くっ、攻撃は止まらない……《ドギラゴン剣》でTブレイク!」
《アパッチ・ウララー》の能力を透かされてしまい、増援を呼べずにワンショットの打点を揃えられない亜実。
そのまま、《ドギラゴン剣》の刃がシールドを切り裂く。
「S・トリガーは……一枚目、ありました。《支配のオラクルジュエル》! 《ウララー》を破壊します!」
「一枚目で破壊か……その手札は《ヨミ》だから、破壊時の能力も不発だな」
偶然とはいえ、綺麗に《アパッチ・ウララー》を処理されてしまった。
返しのターンではゴッド・リンクもある。これでは、《ドギラゴン剣》は置物も同然だ。
「二枚目はなし……三枚目は《ダママ団の聖護Go!》です! シールドを追加しますね」
「……ターン終了だ」
シールドを三枚割ったものの、亜実の場は《ドギラゴン剣》一体。手札も一枚と、はっきり言って苦しい状況だ。
詠の豊富なマナと、増えた手札で、盤面を制圧されてしまう。
「では、私のターン! 8マナタップ——」
返す詠のターン。先ほど公開された神の半神——左腕が、降臨する。
「——《左神人類 ヨミ》を召喚!」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.644 )
- 日時: 2017/02/13 20:34
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「《左神人類 ヨミ》を召喚! 《右神のイザナイ ゾロスター》とゴッド・リンク!」
返すターン。詠は当然の如く、手札に抱えていた《ヨミ》を召喚し、《ゾロスター》とリンクする。
合計パワーは21000。《ドギラゴン剣》でも、この巨大な神には太刀打ちできない。
「《ヨミ&ゾロスター》で《ドギラゴン剣》を攻撃!」
問答無用で神に叩き潰される《ドギラゴン剣》。
しかも、それだけでは終わらない。
「ターン終了時、《ゾロスター》と《ヨミ》の光臨発動! まずは《ゾロスター》からです」
ターンの終わりに《ゾロスター》と《ヨミ》がタップしているということは、それぞれの光臨が発動するということ。
詠は先に、《ゾロスター》の光臨能力から解決する。
「山札から《神聖麒 シューゲイザー》をバトルゾーンへ! マナゾーンから《腐敗聖者ベガ》をバトルゾーンに出しますね」
「やはり手芸も入ってるか……」
《ゾロスター》が呼び出すオラクリオンは《シューゲイザー》。《トリプルマウス》や《ベガ》など、汎用性の高い5コスト以下のクリーチャーが散見されたので、《ゾロスター》を見た時点で採用されているとは思っていた。
思っていたところで、止められはしなかったが。
「次に《ヨミ》の能力です。山札から《神の子 イズモ》をバトルゾーンに出して、《ヨミ&ゾロスター》とゴッド・リンク!」
「っ、《イズモ》までいるのか!」
《左神人類 ヨミ》が光臨で呼び出すのは、コスト7以下のゴッド・ノヴァ。
単体でパワフルなスペックなだけに、光臨の範囲は広いとは言えないが、そこから愛弟子である《イズモ》が現れ、三神合体する。
しかも呼び出されたのは《神の子 イズモ》。亜実からすれば、絶望的に厄介なクリーチャーだ。
右神のイザナイ ゾロスター 光/闇文明 (7)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァOMG/オラクル 9000+
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
W・ブレイカー
光臨—自分のターンの終わりに、このクリーチャーがタップされていれば、自分の山札を見る。その中からコスト7以下のオラクリオンを1体、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。
右G・リンク
左神人類 ヨミ 無色 (8)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァ/オラクル 12000+
T・ブレイカー
光臨—自分のターンの終わりに、このクリーチャーがタップされていれば、自分の山札を見る。その中からコスト7以下のゴッド・ノヴァを1体、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。
左G・リンク
神の子 イズモ 光文明 (6)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァOMG/オラクル 5000+
中央G・リンク
このクリーチャーがカード3枚でリンクしていれば、リンクしているゴッドは「Q・ブレイカー」を得、相手がクリーチャーを選ぶ時、選ばれない。
「パワー26000、Qブレイカーのアンタッチャブルで、ゴッド特有の除去耐性あり。一体外しても、《ヨミ》がいる限り光臨で補填できるし、無視しても増えるだけ……亜実さんでもこれは無理かなぁ」
「最後に《ベガ》の能力を解決しますね。シールドを追加、一枚ハンデス!」
一気に三体もクリーチャーを増やされ、手札もなくなった。
逆転の芽が見えないほどに、絶望的な場だ。
光臨の処理がすべて終わり、亜実のターン。
「もはやトップを投げるだけか。《奇天烈 シャッフ》召喚! 指定コストは……21だ!」
「っ、止められた……!」
ゴッドはリンクしていれば、一体のクリーチャーとなり、合計コストがそのクリーチャーのコストとなる。
《ゾロスター》で7、《ヨミ》で8、《イズモ》で6。合計21コストとなり、《シャッフ》の能力で止められてしまう。
フリーズなどではなく、単に攻撃を止めるだけなら、光臨も発動しない。長くは持たないが、かなり有効な時間稼ぎだ。
と、思っていたが、
「でも、《シャッフ》ではこのゴッドは止まりませんよ! 私のターン。《イズモ》をマナに置いて、《無頼聖者スカイソード》を召喚して、マナとシールドをそれぞれ追加。さらに4マナで《霊騎左神ロラパルーザ》を召喚です!」
その拘束は、すぐに解かれることとなる。
「まずは《ロラパルーザ》の能力で《シャッフ》をフリーズ! 次に《イズモ》の中央G・リンク能力で、《ヨミ》を切り離します!」
「!」
「なくなった左リンクは、《ロラパルーザ》と付け替えて、ゴッド・リンク!」
詠は《イズモ》の中央G・リンク能力を使い、三体神の左腕を付け替える。
一見すると、《ヨミ》を独立させ、打点を増やしただけに見えるが、真意はそこにはない。
「これで合計コストは7+6+4=17……《シャッフ》の拘束を解いたね」
《シャッフ》の能力は、進化などでコストが変われば拘束が解かれる。ゴッド・リンクで合計コストが変わった場合も同じだ。
ゴッドを付け替えることで、リンクした合計コストを変え、《シャッフ》で指定した拘束範囲から逃れる三体神。これでゴッドは攻撃可能となった。
打点も、Qブレイカーの三体神、Tブレイカーの《ヨミ》、Wブレイカーの《シューゲイザー》に、《トリプルマウス》と《ベガ》。オーバーキルになるほど揃っている。
この戦力は、一枚や二枚程度のS・トリガーでは、到底防ぎきれないだろう。
「では、攻めます! 《ロラパルーザ&イズモ&ゾロスター》でQブレイク!」
打点を揃え、殴りかかってくる詠。
亜実の一枚目のシールドを、粉砕する。
「S・トリガー、《勇愛の天秤》! 《トリプルマウス》を破壊だ!」
一枚目のシールドからは、S・トリガー《勇愛の天秤》が飛び出した。
いつもなら初動の手札交換として使用するのだが、今回は珍しく火力を放り、《トリプルマウス》を焼く。
とはいえ、この程度では焼け石に水にしかならない。詠のアタッカーは、まだ三体残っているのだ。
あと二体を除去しなければ、攻撃は止められない。
「二枚目はトリガーなし。三枚目は……S・トリガーだ! 《ドンドン吸い込むナウ》!」
三枚目のシールドブレイクで、亜実はさらにトリガーを引く。
《ドンドン吸い込むナウ》の効果で山札の上から五枚を捲る。ここで火か自然のカードを手に入れれば、もう一体のアタッカーを減らし、残るアタッカーが二体になる。
このターンの追撃を止めるには、もう一枚トリガーを引くことが条件になるが、それでも生存にグッと近づくことは確かだ。
「…………」
しかし、亜実は捲った五枚を見て、そこから固まっている。
ピクリとも動かず、五枚のカードをジッと見つめているだけだ。
しばらくして、不意に詠に視線を向けると、意を決したように五枚の内の一枚を抜き取った。
「《リバイヴ・ホール》を手札に加える」
「? バウンスできないカード……? えと、四枚目もブレイクです」
「ノートリガーだ」
亜実がバウンス効果が発動しないカードを手札に加えたことを不思議に思いつつ、亜実の四枚目のシールドを割る詠。ここにもトリガーはない。
「じゃあ、次は《ヨミ》で攻撃します! シールドをブレイク!」
《ヨミ》が亜実の最後のシールドを叩き割る。
この時点で詠のアタッカーは残り二体。一体除去するだけでは、防ぎきれないが、
「……封印にもならず、なんとか一枚は埋まってたか」
最後にブレイクされたそのカードを、戦場へと送り出す。
船上に流れる時を、自軍へと引き寄せるために。
「S・トリガー! 《終末の時計 ザ・クロック》!」
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.645 )
- 日時: 2017/02/15 14:58
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「S・トリガー、《クロック》だ。これでお前のターンは終了だな」
「あぁー、もしかしたらと思ってましたけど、本当に埋まってたんですね……」
最後の最後で、《クロック》がすべてを止める。
詠のターンを強制終了させ、強引に自分のターンへと引き寄せることで、攻撃を停止させる。ターンスキップなので、光臨も発動しない。
とはいえ、亜実が苦しいことには変わりない。ブロッカーこそいないが、詠のシールドは五枚もあり、引き寄せたターンで勝たなくては後がないのだ。
しかし、亜実のデッキはそれができるデッキだ。
そのための布石も、しっかりと握っておいたのだから。
「あたしのターン。呪文《超次元リバイヴ・ホール》! 《ドギラゴン剣》を回収し、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンへ! 火のコマンドが出たため、封印を一つ解放する」
「このいつでもワンショット仕掛けてくるのがドギバスの強いところですよね……」
もっとも、亜実は前のターン、S・トリガーで出た《ドンドン吸い込むナウ》で、バウンスできない《リバイヴ・ホール》を引き寄せたからこその動きなのだが。
しかしその反撃すらも、詠は想定していた。
「でも、それは対策済みですよ」
そう言って詠は、“なにも持っていない両手”を開いて見せる。
「私の手札はゼロです。手札がなければ、《ウララー》の能力も使えませんよね」
最初は無色カードで透かしたが、《アパッチ・ウララー》の能力を不発させるには、手札を持たないという方法もある。
手札がなくては選ぶこともできない。選ぶことができなければサイキック・クリーチャーも出てこない。
「多色が落ちる可能性があるのに、8マナの状態で《ロラパルーザ》からじゃなくて《スカイソード》から出したのは、そういうことだったんだねぇ。結構、細かいところ見てるなぁ」
《クロック》で止められる可能性は、詠も考慮していた。なので、反撃のワンショットキルを防ぐためにも、あえて手札を切らしたのだ。
手札を使い切った詠に、《アパッチ・ウララー》は通用しない。《アパッチ・ウララー》が使えなければ、亜実は打点を揃えられない。
ただし、新たに手札が増えなければ、だが。
「手札を使い切ったなら、お前に手札をくれてやる」
「え?」
そう宣言してから、亜実はクリーチャーを横向けに倒す。
《勝利のガイアール・カイザー》——その隣に立つ、《クロック》を。
「《クロック》でシールドブレイク」
「あ……」
とんだ見落としだった。
前のターン、S・トリガーで出た《クロック》はこのターンに攻撃できる。
シールドを割れば、それが手札となる。そして手札が増えれば、
「《ウララー》の能力が使える……!」
亜実のマナにはもう一枚の《アパッチ・ウララー》。手札には《ドギラゴン剣》もいる。
「亜実さんのデッキで、殴れるトリガークリーチャーは《クロック》のみっぽい。《クロック》が出ないと、そもそも《ドギラゴン剣》でワンショットもできない……《吸い込む》で《リバイヴ・ホール》を回収したのは、《クロック》に頼るしかなかったからか」
こうなってしまうと、詠はもう安心できない。
《クロック》で手札を増やされれば、《アパッチ・ウララー》でサイキック・クリーチャーの追加打点が来る。《レティーシャ》なども考えられるが、この状況で《クロック》から殴ったということは、それはない。
そうなると、S・トリガーで止めるか、はたまた手札を消費するか。もしくは《ヨミ》などの無色カードを引いて、再び《アパッチ・ウララー》の能力を躱すしかない。
「……トリガーはありません」
しかし、《クロック》のシールドブレイクでは、トリガーはなかった。
亜実はこれで第一の関門を突破したことになる。次は第二の関門だ。
ブレイクしたシールドが無色でないと信じて、突撃する。
「《勝利のガイアール・カイザー》で攻撃! その時に革命チェンジ発動! 《ドギラゴン剣》!」
革命チェンジによって、封印を解き放ちつつ、《ドギラゴン剣》が現れる。このターン中はじめてのレジェンドによる革命チェンジ。それによって、ファイナル革命が発動する。
亜実はマナゾーンの《アパッチ・ウララー》を場に叩きつけた。
「マナの《ウララー》を場へ! 能力発動!」
次の関門。詠の最後の手札が明かされる時だ。
ここで無色カードを引いてしまえば、攻めきれずに負けるしかない。
表情を消した詠が捲る、最後の手札。それは——
——《右神のイザナイ ゾロスター》
「無色カードじゃない……!」
「光と闇のカードなら、こいつだ! 《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに! 五つ目の封印を解放!」
これで亜実の場には《ドギラゴン剣》《アパッチ・ウララー》《勝利のリュウセイ》の三体で、合計六打点。
ここまで来れば、あとはほぼトリガー勝負。今まさに攻撃途中の《ドギラゴン剣》が、詠のシールドを三枚、薙ぎ払っていく。
「《ドギラゴン剣》でTブレイク!」
「トリガーは……《フェアリー・ライフ》だけかぁ。一応、唱えます」
「《勝利のリュウセイ》で最後のシールドをブレイク!」
詠の残ったシールドを撃ち砕く。
その最後のシールドは、
「S・トリガー! 《支配のオラクルジュエル》! 《ウララー》を破壊!」
《支配のオラクルジュエル》の効果で、《アパッチ・ウララー》を破壊。タップ対象はいないため、破壊だけだ。
ここからが、二度目の賭け。
破壊された《アパッチ・ウララー》の能力が再び発動し、詠の手札からカードを選択する。それが無色カードでなければ、亜実は追加打点を用意できるので、とどめを刺せる。
逆に、ここまでブレイクしたシールドに無色カードがあり、それを選んでしまった場合、《アパッチ・ウララー》の能力は不発となり、追加打点も用意できず、亜実が負ける。
ここが勝負の分水嶺。なにを引くか。そこにすべてが委ねられている。
「《ウララー》の能力で、手札を一枚、選ばせてもらうぞ」
「……どうぞ」
手札を軽く混ぜてから、残った四枚を差し出す詠。亜実はその四枚をジッと見据え、そして、引いた。
「さぁ、ここが勝負の分かれ道。なにが出るかな……?」
亜実がランダムに選んだ一枚。そのカードが、ゆっくりと表に返される。
そして、
「……あたしの勝ちだな」
選ばれたのは、先ほどと同じカード——《右神のイザナイ ゾロスター》だった。
「光と闇のカードなら、光を含む《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》をバトルゾーンへ!」
《ドギラゴン剣》はまだ生きているため、《BAGOOON・パンツァー》もスピードアタッカーだ。
シールドのない詠に、これを防ぐ手段はない。
(手札に《オルタナティブ》《シューゲイザー》《ヨミ》の三枚あったんだけどなぁ……いいところで躱されちゃった)
詠は手札のカードに目を落とすと、それらを机の上に伏せる。
これで、勝負は決した。
「《BGOOON・パンツァー》でダイレクトアタック!」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129