二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.215 )
- 日時: 2014/05/21 18:50
- 名前: せな (ID: MW3WsllJ)
お久しぶりですー!!!全部読ませていただきました…!
新選組のみんながすごく優しくて泣きそうになりました(/ _ ; )
慎司くんや真弘先輩は作中にもあったように自分一人で抱えてしまうところはやっぱり治ってないのですね…
そして風間が珠紀ちゃんに付けた痣!!!拓磨の反応とかすごくすごく気になります!!!!
ではでは続き楽しみにしてます!更新がんばってください!!
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.216 )
- 日時: 2014/05/25 20:16
- 名前: さくら (ID: Rebn9tUA)
お久しぶりです^^
いつもコメントありがとうございます
信司君と真弘にはちょっとお外に出てもらって波乱を呼んできたり、こなかったり…??
この二人は動かしやすいキャラなのでついつい無理をさせてしまいますww
拓磨と風間は鬼なんで
鬼同士何か起こればいいなーみたいにふわっと思っています☆
拓磨の反応はどうなんでしょう!?
作者にもわかりません!←
さくらは気分屋なので更新が遅いこともありますが、気長に待っていただけたら嬉しいです
コメントいつも嬉しく思ってます
更新していきますね^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.217 )
- 日時: 2014/05/25 20:23
- 名前: さくら (ID: Rebn9tUA)
そうやって納得したはずなのに、珠紀はまた暗い顔していた。
昼間のちょっとした騒動が彼女の不安をかき立ててしまったのかもしれない。
「山南さんの考えてることがわからねぇな…何で皆がいるあの場であんなこと…」
「昔から嫌味とか悪口は言ってたけどそれはちゃんと相手を想ってのことだった気がする…最近はただ人を傷つける言葉を並べてるように感じるなぁ」
急に風が冷たくなる。見上げれば空は厚い雲に覆われ、一雨降りそうな気配がした。
空気も次第に湿度を増していく。
「降りそうだね…」
「あぁ…」
曇天が嘲笑うかのように太陽を隠した。
春の陽気から一転、風は冷たく、消えた太陽のせいであたりは薄暗くなっていった。
「…」
「…」
黙ったままゆっくりと川沿いに歩く。
川のせせらぎがなければこの沈黙には耐えられなかっただろう、と拓磨は内心ぼやいた。
横に並んで歩く珠紀は相変わらず俯き加減で地面を睨みながら口を引き噤んでいた。そんな彼女の横顔を盗み見ながらどう言葉を切り出すか悩む。
珠紀が何か悩んでいるとすれば昼間の山南の言葉だろうか。
だが、それは原田と沖田に気にするなと言われていた。それに珠紀も納得していたはずだった。
では彼女の悩みの種は他に何があるのか。
「…降りそうだな…」
空を仰ぎ見て拓磨は呟いた。さっきまで晴れ渡っていた空は嘘だったかのように、黒い雲が立ち込めている。
「珠紀…」
拓磨は漸う珠紀の手を引いた。風は冷たくなり、湿気を運んできた。
これはどこかでもう雨が降り始めている。
拓磨は促されるまま歩く珠紀の手を引いて橋の下に入った。大きな端ではないが、雨宿りするには十分だ。
橋の下に入るとすぐに雨が降り出す。はじめは小さな雨粒で次第にその雨足は強くなっていった。
「…参ったな…これじゃ原田さんたちと合流できるのか…」
通り雨かと思ったがしばらく止みそうにない空模様を睨んで、拓磨はふっと溜め息をついた。
後ろで突っ立っている珠紀に、座るように促す。
「…雨、しばらく止みそうにないからここで雨宿りするからな」
「うん…」
「…寒くないか?」
「…うん」
「…無理すんなよ」
「…うん」
拓磨の声に珠紀はただ頷くだけで、それ以外の言葉を発しない。
依然重い空気が二人に流れている。
「………拓磨…」
雨音にかき消されてしまいそうなほど小さな声で呼ばれた。拓磨は顔を上げて珠紀を見る前に、自分の裾に目をやる。
隊服の袖を珠紀にぎゅっと握られていた。
どうしたのかと顔を上げて珠紀を見て驚いた。
「…わたし、どうしたらいいの……」
「た、珠紀?」
声こそ上げないが顔を歪めて泣いている彼女に拓磨は慌てた。何か悪いことをしたのだろうか。
だが、珠紀はしゃくり上げながら言葉を紡いだ。
「信司君が…いなくなったの…っ」
「うん」
「私、き、昨日、の夜…っ彼に、会った…の…っ」
「え?」
「傷も、まだ、治ってない、のに…っ…探さなくちゃいけない人が、いるからって…旅に出るって…っ」
「うん…」
「私、止めようと、思ったのに…体が、う、動かなくて…!!」
「うん…」
「あんな体で…ど、どこ行っちゃったのかな、とか…どうして、止められなかったのかな、とか…わ、私…」
「うん」
「どうし、たら…良かったの…!」
言葉が溢れて止まらない。珠紀は我慢していたのか、堰を切ったように言葉とともに涙が溢れた。
そんな珠紀の言葉を真摯に耳を傾け、彼女の手を握ってやる。冷たく握りしめた手を解くかのように、優しく何度も撫でてやる。
信司が失踪する前に珠紀の元を訪れている。それはどういうことなのか。
最後の別れなのか、それとも。
「…私の、せいかな…わ、私が…もっと…しっかりしていたら…あのときだって…わ、私が、信司君を早く…見つけられていたら…っ…信司君が、怪我することも、なかったのに…!!」
「もういい。わかったから。それはお前のせいじゃないって何度も言っただろ…」
珠紀を引き寄せて全身で彼女を包み込む。
ずっと自責の念に駆られていたのだ。色町の一件で信司が負傷したのは自分の責任であると、ずっと自分を責めていたのだ。
そんな彼女にどうして早く気づいてやれなかったのか。昼間の山南の言葉がさらに彼女を追い込んだに違いない。
拓磨は何度も珠紀の頭を撫でてやる。
嗚咽を漏らしていた珠紀だったが、急に拓磨から離れた。
「珠紀?」
「わ、私、こんなこと…拓磨に甘えられる、立場じゃない…!!」
「何言ってんだよ?急にどうした」
拓磨と距離を取ろうとする珠紀は立ち上がり、後退する。橋の下ぎりぎりまで後ずさり、首を横に振った。
「ごめん、拓磨…わ、私、私……拓磨を…」
「え?」
雨音がうるさい。加えて増水しはじめた河川の濁流音で珠紀の言葉が聞き取れない。
拓磨は立ち上がって珠紀に近寄るが、先ほどまでのされるがままの彼女ではなくなった。
その目には拒絶の光。知っている。つい最近まで避けられていたときに向けられていたその視線だ。
「…珠紀?」
「ごめんなさい、拓磨…ごめんなさい…」
珠紀は何度も謝りながら、震える手で首元に巻いていた包帯を解いた。
包帯が地面にはらりと落ちる。
拓磨は珠紀の首もとから目が離せなかった。
「…ごめんなさい、私の、せいなの…っ私が…あの、人に…会ってなかったら…信司君は…!!」
「…誰だよ、あの人って…」
鼓動が早鐘を打つ。嫌な予感がしてならない。大抵自分の嫌な予感というものは当たってしまう。心の中で何度も違う、違うと祈った。
だが。
「風間、さん…」
雨音が世界を支配する。空から大粒の雨が降って地面を打ち付ける音がうるさい。うるさい。
「…ごめんな、さい…」
拓磨の視線の先にあるのは珠紀の白い首にまざまざとつけられた“浅黒い痕”。
それが何を意味しているのか、わかってしまう自分が嫌になる。
雨音がうるさい。静かにして欲しい。冷静に考えられない。
これは、どうして。
「あの人に会うなって…言われてたのに…私、私その約束を…っ…ごめんなさい、拓磨…許してもらえないのは、わかってる…でも…」
謝らないでほしい。悪いのは誰だ。どうして珠紀が頭を下げる。
あの夜、自分はいた。珠紀の近くにいたのだ。だのに。
「ごめんなさい…っ」
これは、どういうことだ。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.218 )
- 日時: 2014/06/03 20:41
- 名前: さくら (ID: Rebn9tUA)
泥の中に沈んだように視界は濁り、全身にまとわりつくものが重くて身動きが取れない。
それでも必死に目を凝らす。視線だけを動かし、何かを叫ぶ。何を叫んでいるかさえ自分でも聞き取れないほど、ここは音がくぐもっている。
何かを探している。何かを見つけなくちゃ。
必死に腕に力を込めてその手を伸ばす。焦燥が胸を焦がし、急き立てるように感情が高ぶる。
私は何を探しているんだろう————…
自分が何を求めているのかさえわからず、ただ腕を伸ばしていた。
汚泥のように悪い視界のなかを、必死にもがく。
待って、お願い。
私は何か大事なことを忘れている。堰き上がってくるこの感情が教えてくれる。忘れた記憶を探し出せ。それは忘れてはいけないもの、手放してはいけないもの。
自分の知らない血が慟哭する。泣いている。
お願い、私から“それ”を奪わないで———————
「お…づ…る……い、おい…千鶴……おいって…おい!!千鶴っ」
「え、えっ」
泥沼にわずかに光がさし、そして急にその視界は晴れた。それとともに誰かの呼ぶ声に意識が戻る。
「こんなとこで寝てたら風邪引くぞ。大丈夫か?あんま顔色良くないみたいだけど…」
「あ…うん…大丈夫…」
心配そうに顔を覗き込んでくる藤堂に千鶴は何とか笑って答える。
「私ったら…洗濯物畳んでる最中に寝ちゃったんだ…」
「最近日差しも温かくなってきたからなー。うたた寝するのは無理ないって」
縁側で洗濯物を畳んでいた千鶴はどうやらうたた寝をしていたらしい。
洗濯物を広げたまま意識が飛んでいたところを藤堂が通り過ぎたのだ。
「千鶴?本当に大丈夫か?」
「え?何が?」
「何がって…顔色良くないし…やっぱり記憶なくしてからちょっと体調良くないみたいだな」
春はもうそこまで来ている。梅の木は蕾を膨らませ、その身を咲かせようと今か今かと待っている。草木も春の日差しに浮き足立って見えた。
だが昼下がりの柔らかな日差しを受けながらも、千鶴の顔色は良くなかった。
これまで体調を崩すことがなかったからか、余計に千鶴の顔色が気になる。
「本当に大丈夫。心配してくれてありがとう、平助君」
「そっか、それならいいけど…無理すんなよ」
平助は軽く千鶴の肩に触れるとそのまま歩いて行こうとする。
だが、急に足を止めて千鶴を振り返った。
「千鶴」
「ん?」
緊張しているのか少々強張った声で名前を呼ばれて、顔を上げる。
前を向いたままの藤堂の表情は見えない。ただ少し広くなった背中があるだけだ。
「俺がいなくなっても…ちゃんと…元気でな…」
「え?」
藤堂の声があまりにも小さくて、千鶴は聞き取れなかった。小首を傾げてもう一度と口にしようとしたとき、その愛くるしい表情が振り返る。
「何でもない!!俺、今から巡察行ってくるわ!!」
「うん、いってらっしゃい」
いつもの笑みを浮かべて颯爽とその場を離れていく。だがどうしてかその背中が寂しく見えたのは気のせいだろうか。
千鶴は平助の背中を見送ったあと、手早く洗濯物を片付け庭に降りて掃除を始める。
広い敷地内だ。手をかけないとすぐに庭は荒れてしまう。
草むしりから始めた千鶴は急に胸を押さえた。
「…っ…?」
苦しい。心臓が異常を来しているわけではないようだ。もっと奥。胸の最奥が疼き、締め付けるような苦しさに襲われる。
この感覚には覚えがある。だが正確には思い出せない。
またも記憶に蓋をされているようで苦しくなる。どうして思い出せないのだろう。どうしてこんなにも歯痒く感じるのか。
千鶴は自分に苛立ちを隠せない。だが、そんなことよりも胸の苦しみの方が勝ってきた。その場に座り込み、その苦しみが去るのを待つ。
だが苦しみは収まるどころか増す一方で、ついに地面に倒れた。
苦しい。胸を締め付けられるようで、呼吸すらままならない。
「だ…れ……っか…」
息を吸えないせいで声が出ない。苦しい。力が、抜けて行く。目の前が暗くなる。
そこで千鶴の意識の糸は完全に切れた。
微動だにしない体。だがわずかに肩が上下している。呼吸は止まっていない。
数分後、千鶴はゆっくり上体を起こした。そして何事もなかったかのように立ち上がり、庭から上がる。
廊下を突き進み、敷地内の隅に位置する道場に足を向けた。
「おう、千鶴ちゃん。こんなところに来てどうしたよ?」
稽古に汗を流していた永倉は千鶴を見つけて声をかけた。
「いえ、ちょっと人探しを…」
微笑を添えながら千鶴は稽古場を一瞥してその場を後にした。
「誰か探してるのか?」
千鶴が視線を投じた稽古場を見渡して、永倉は呟く。今は平隊士が稽古をしていて、千鶴が知っている幹部などは自分くらいだ。
「ま、いっか」
再び稽古場から永倉が打つ軽快な竹刀の音が木霊した。
千鶴はというと稽古場から離れ、広間に向かっていた。廊下を歩いていると前方からどすどすと人柄を表したかのような足音が近づいてくる。
「あぁ、雪村君。洗濯物、片付けて下さってありがとうございました」
見かけによらず大きな体を屈折させて頭を下げる島田に、千鶴は首を横に振る。
彼の足音にかき消されて聞こえなかったが、横には山崎もいた。
「雪村君。ちょうど良かった。これを君に…」
山崎は懐から紙を何枚か取り出し、それを千鶴に渡した。
「新しい薬の処方箋だ。松本先生にお願いして処方箋を教えてもらった。もし薬が足りなくなったときはこれを見てくれ」
「わかりました」
「あぁ、あと。この間頼んだもの、できているかね?」
「この間…?」
「先月の怪我人と病人名簿だ。出来上がったら僕に見せてくれと頼んだはずなんだが…」
「あ、あぁすみません!後で持って行きますね」
千鶴は頭を下げるとその場を後にした。
「珍しいですね。彼女が忘れものなんて…」
「うむ…だが彼女も人間だ。万能ではない。忘れることだってあるだろう」
山崎の言葉に島田も納得して二人は再び歩き始めた。
「雪村」
玄関を通り過ぎようとしていた千鶴を呼び止めたのは斎藤だった。
「これから源さんに頼まれて夕飯の買い出しに行くのだが、何か必要なものはあるか」
夕食の買い出しを任された斎藤は玄関で草鞋を履いて今出発しようとしていたところだった。
「必要な物…?」
「今晩はあんたが当番だろう」
「あ、あぁそうでした!!あたしったらうっかりしちゃって…大丈夫です、特にこれと言って…」
するとそこに慌ただしい足音が近づいて来た。
「あ、一君!!良かった、まだ出かけてなかった。味噌が切れたから味噌も買って来て欲しいんだ」
追いかけて来たのは井上で買い出し係が出発していないことに安堵していた。
「味噌がなかったら今晩はただの白湯になるところだったよ」
「それでは味噌も買ってくるとしよう」
「それじゃ、私はこれで…」
千鶴は会釈すると二人から離れて行く。その背を見送っていた斎藤は小首を傾げた。
「どうしたんだい?」
「いや…完璧な雪村が味噌がないことくらい知っていたはず…」
「あぁ、でも今朝なくなったところだったからね。彼女も気づかなかったんだろう」
それにしてもと思う。準備が良い彼女のことだ。きっと味噌が切れることもわかっていたはず。
だのに今どうして自分に使いを頼まなかったのか。
「それに…」
「ん?」
「雪村はあんな歩き方をしていたか…」
遠ざかる彼女をよく見るとえらく内股だ。女の長着を着ているわけでもないのにちょこちょこと歩幅が狭く、えらく歩きにくそうだった。腕も左右に振らないと歩けないらしい。
「うーん?言われてみると本当だねぇ」
「どこか怪我でもしてるのか」
「変だねぇ。言われてみればあんな歩き方してなかったかなぁ」
二人は首を傾げつつ特に気に留めることは無かった。千鶴の背を見送ってから、斎藤は買い出しに出かけた。
「おぉ、雪村君」
今度は背後から声をかけられ、千鶴はゆっくりと振り返る。
「今からトシの部屋に行くのかね?だったら止めておいた方が良い。今トシは出かけているよ」
「あ、そうなんですか…」
声をかけたのは近藤で、その横には伊東の姿があった。
「ん?トシの部屋に行こうとしていたんじゃないのかね?」
「あの、原田さんは…」
「彼なら巡察だろう。総司と平助も後から行くと言っていたな。確かそう昼食のときに皆が話し合っていたが…雪村君は昼餉のときに広間に居ただろう?」
「あ、そ、そうでしたよね、あたしったら…」
苦笑する千鶴に目を瞬く近藤はすぐに朗らかに笑った。
「巡察に行ったのならまだ当分戻らないだろう。トシもいないんだ。今はゆっくり休んでいてはどうかね?」
「はい、そうします」
そう答えると近藤は笑顔で頷いた。
伊東が横に立っていた近藤を促し、二人はどこかへ出かけるのか玄関へと歩いて行った。
二人を見送ってから、千鶴は踵を返して足を速める。
向かったのは副長室だ。すっと瞳を閉じてしばらく部屋の前から動かない。
何か確認したのか瞼を上げるとすっと障子に手をかけ、部屋に入った。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.219 )
- 日時: 2014/06/10 10:00
- 名前: さくら (ID: Rebn9tUA)
誰もいない副長室はしんと静まり返っている。
きちんと家具が整頓され、部屋の主の性格を連想させる。
千鶴は何かを探しているのか、手際良く部屋を漁り始めた。
「ここ…かな……無いわね…」
文机から箪笥、押し入れへと手を伸ばす。漁られたという疑念を抱かせないため、あったものは元の位置へときっちり戻した。
「ないわねぇ…」
何かを探しているのか千鶴は眉を潜める。その口調も本人のもとは違い、仕草も彼女らしくなかった。
「せっかく潜り込んだのに、収穫なしは嫌よ。んもー…こんなことのためにこの子の体を操ったわけじゃないのに…」
ぶつぶつとぼやきながらもその手は休まない。
次から次へと部屋を漁り、だがきっちりと元の位置に戻して、とその作業を繰り返して行く。
「幹部もいない今が好機なんだからね…全く、どこに隠したのかしら」
千鶴は腰に手をあて頬を膨らませた。そして部屋を再び見渡して思案する。
「ここじゃないとしたら…あっちか…それともあの人が持っているのかしら…」
唇に指を当てて考えをめぐらせる。
眉根を寄せて唸っているとはっと息を飲んだ。視線を入り口に投じる。
足音が一つ近づいて来た。
「やだっもう戻って来たの!?」
千鶴は慌てて周囲を見渡した。
「また近藤さんは伊東さんと出かけたのか…」
部屋の主が姿を現した。
静かに襖を開けてふと部屋を見渡す。だが特に気に留める様子もなく疲れているのか溜め息をこぼしながら羽織を脱いだ。
「もう…戻ってくるのが早いわよ」
千鶴は部屋の上の屋根からなかの様子を窺いながら、頬を膨らませた。
思ったより土方の帰りが早かった。
溜め息をついてふと自分の体を見つめる。
「やだ、もうそろそろ限界かしら。まぁ最初はこんなものよね」
千鶴は空を仰ぎ見て呟いた。
さきほどの春の陽気が嘘かのように曇天が空を覆い始めた。風は湿った空気を運び、寒気を感じる。
「ご苦労様。また次があるかもしれないわ。無理させてごめんなさい」
千鶴は自分に言い聞かせるように呟きながらひらりと屋根から飛び降りた。
庭に降りると頬に手を添えて千鶴は笑みを浮かべた。
「じゃぁね。小さな鬼の娘——————」
そう呟いたときに土方の部屋の襖が開いた。
「千鶴?」
どうして庭に立っているのか。否、先ほどここを通ったとき千鶴はいなかった。それほど時間は経っていないのにいつ彼女がここに来たのか。
それを問おうとした刹那だ。
千鶴は土方を見上げて微笑んだかと思うと膝から崩れていった。
「っおい!!!」
土方は目を丸くして地面に倒れた千鶴にすぐさま駆け寄った。
「おい!!千鶴っ!!どうした、おいっ!!!」
気を失っているのか抱え起こしても反応がない。目を硬く閉じて呼びかけにも答えない。
「一体何だってんだ…っ」
土方は眉根を寄せて千鶴を抱え上げた。
顔色を窺うと青白い。呼吸は安定しているようだが、ぐったりと脱力している。
庭から上がると自分の部屋に彼女を運び、畳の上に寝かせた。
こんなことがいつぞやもあった。
突然顔色を悪くして千鶴は倒れそうになっていた。あのときはまだ意識もはっきりしていたが、今回は突然倒れた。
土方は立ち上がると部屋を後にして足早に誰か人が居ないか探す。
「どうされたのですか、副長」
血相を変えて早足に歩いていた土方を呼び止めたのは庭で薪割りをしていた山崎と島田だった。
「ちょうど良かった…二人に頼みたいことがある」
「はい」
二人は薪割り作業を止めて土方に向き直った。
「すぐに松本先生を呼んでくれ。千鶴が倒れた」
「雪村君が…!?」
「顔色が良くない。すぐに頼む」
「わかりました」
二人は深く頷くとすぐさま玄関へと向かっていった。
土方はそれを見送るとすぐさま自分の部屋に戻った。
襖を閉めることも忘れて、土方は急いで布団を敷いて千鶴をそこに寝かせる。
掛け布団を千鶴に掛けてやろうとしたときだ。微動だにしなかった千鶴が体を丸めた。
「どうした、千鶴…!?」
「ッ…」
目を閉じたままただ自分を抱くように体を丸める彼女をよく見ると小刻みに震えている。
「寒いのか…?」
土方は掛け布団で千鶴を包むとそのまま抱くように彼女を引き寄せた。
「しっかりしろ、千鶴…千鶴…」
「…ひ、じ…さ…?」
瞼が上がりゆるゆると視線を彷徨わせている。彼女の顔を覗き込みもう一度呼びかける。
意識が戻ったのかよくわからない。瞼を上げてこちらを見ているが、焦点が合っていない。
「千鶴…俺がわかるか…?」
「土方…さん…?」
「あぁ、そうだ」
「どこか痛むのか?寒くないか?」
土方は青い顔でぼんやりとしている千鶴に必死に問いかける。
千鶴は土方の声は聞こえているのかゆるゆると首を横に振って訴えた。
「苦しいんです…胸が…何か、怖くて…怖いです…土方さん……」
千鶴は何かに脅えているのか瞳にじわじわと涙を溜めて土方に訴えかける。
何かが原因で千鶴を不安にさせているのか。そう思って土方は彼女を安心させるためにさらに抱きしめて背中をさすってやる。
「大丈夫だ。俺がいる。鬼の副長より怖いものがあるか?」
自嘲的に言うと彼は苦笑して千鶴を見つめる。
千鶴は弱々しい笑みを浮かべるが、大粒の涙を零した。
「私のなかに…何か…いるんです……怖いです…土方さん…怖い…っ」
「千鶴…」
千鶴は何かに脅えているようで、土方に抱きついた。彼女の肩は恐怖に震えている。
「急に…っ胸が…苦しくなって…私、死んじゃったのかなって…目の前が暗くなって…」
「わかった。もういい。すぐに松本先生が来てくれる…大丈夫だ…俺が傍に居る…」
腕に力を込めて彼女を安心させようと何度も何度も大丈夫だと言葉をかける。
するりと千鶴は土方の胸に腕を伸ばし、弱々しくしがみつく。その手がすっと土方の懐に忍んだ。
だが土方はそんなことに気がついていない。乱心している彼女をどう宥めるべきか必死に考えあぐねていた。
そして千鶴のほくそ笑んだことを彼は知らない。その懐から“あるもの”が奪われたことも。
宥めているうちに彼女は再び眠りに落ちた。意識を失ったわけではないことを見届けて布団に寝かせてやると、山崎と島田が松本を連れて来た。
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