二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター アルカディアス・デストピア
日時: 2014/01/02 00:09
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 はじめましての方ははじめまして、そうでない方は……お久しぶり? ともあれこんにちは、白黒です。
 遂にやってしまいました、白黒のポケットモンスター四作目、一作目と二作目は繋がっているので、個人的には三作目ですけどね。まだ完結していない作品もあるという中、とんだ暴挙に出てしまいました。
 一応言い訳をしておくと、XYが発売されてポケモン熱が戻ってくれば執筆に励むだろうと思ったのですが案外そうでもなく、そうだったとしてもXYのポケモンを動かしたくなってしまったのです。その上、もう大丈夫ですが、少し前にパソコンがウイルスに感染するという大失敗を犯してしまい、今までちまちま書き溜めていたデータがすべて吹き飛び、意気消沈。今もなんとか少しずつ書いていますが、ショックが大きすぎて『七つの星と罪』は少しお休みな感じです。ちょっと話を大きくしすぎて進めにくくなった、というのもありますけど。

 さて、白黒を知っている方は何度も聞いている言葉ですが、前置きが長くなってしまいました。要するに新作を書き始めました、ってことです。
 今作は初めての片仮名タイトルですね。『アルカディアス・デストピア』、略してA・D、でしょうか。意味は、アルカディアが理想郷、ユートピアという意味で、デストピアがその逆、理性で統制された社会、ですね。内容に触れますと、地方やキャラクターもオリジナルですが、生息ポケモンなどのベースはXYです。なのでメガシンカもありますよ。
 ストーリーの進行はゲームのように地方を旅していく形ですね。ただゲームに準じた一作目、オリジナル要素の強い二作目、トリップっぽくなった三作目と来て、今回はアニメ要素がちょっと強いですかね。白黒にしては、ですけど。

 さてさて、前置きが長いと言ってからも長くなってしまったので、ここいらでやめておきましょう。
 それでは白黒の新しい物語です。どうぞ、お楽しみください——



登場人物一覧
>>68

目次

プロローグ
>>1
テイフタウン編
>>2 >>5 >>8 >>11
カンウシティ編
>>24 >>27 >>40 >>59 >>60 >>66 >>67
ソンサクシティ編
>>72 >>73 >>74 >>80 >>86 >>87 >>88 >>91 >>107 >>110 >>113
バタイシティ編
>>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131

34話 バタイジム再終戦・砂塵のサンドパン ( No.128 )
日時: 2013/12/26 08:40
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「最後はお前だ! チュリネ!」
 レストの最後のポケモンは、新参のチュリネ。
「……はんっ、ちっとは期待してたが、ただの草タイプか。弱点を突けるってだけで、俺に勝てると思ってんのか?」
「思ってませんよ、言ったでしょう、秘密兵器だって。ま、こいつのバトルを見ればすぐに分かります」
「……ちっ、まあいい。ワルビル、炎の牙!」
 ワルビルは牙に炎を灯し、チュリネへと突っ込んでいくが、
「チュリネ、マジカルリーフ!」
 チュリネも念力を帯びた葉っぱを無数に飛ばし、向かい来るワルビルを切り刻む。
 その攻撃で、ワルビルは戦闘不能となった。
「っ……!」
 効果抜群ではあったが、まさか一撃で戦闘不能になるとは思っていなかったのだろう。ネロは少しだけ目を見開く。
「意外とパワーあるじゃねぇか、そのチュリネ。戻れワルビル」
 少しは見直した、と言うようにチュリネを評価し、ネロはワルビルをボールに戻す。これでネロのポケモンも、残り一体だ。
「砂嵐はねぇが……チュリネが相手なら問題なしか。覚悟しとけよ、砂かきが発動しなくとも、サンドパンは俺のエース、俺の手持ちでは最強だ」
 本当のことだが、レストを脅す意味もある発言だろう。しかし今のレストは、ネロに何を言われようと臆すことはない。
「でしょうね。そうでないと、面白くないっすよ」
「ちっ……後悔すんなよ。行って来い、サンドパン!」
 ネロの舌打ちと共に飛び出すのは、予告通りサンドパンだ。
「サンドパン、辻斬り!」
 両手の爪を構え、サンドパンはチュリネへと特攻。砂かきが発動していないため、やはりそのスピードは以前戦った時よりも格段に落ちている。
 そしてその程度の速さなら、チュリネでも対応できる。
「チュリネ、マジカルリーフで迎え撃て!」
 突っ込んで来るサンドパンに、チュリネは念力を帯びた葉っぱを射出する。
「何度も言ってるが、んな単調な攻撃なんざ当たらねぇよ! 穴を掘る!」
 サンドパンは辻斬りを中断し、地面にダイブするように穴を掘り始めると、瞬く間に地中へと逃げてしまった。
「来るぞチュリネ! ジャンプだ!」
 チュリネはネロのポケモンと戦ったことがないので、穴を掘るのパターンが読めない。そのため、サンドパンが穴を掘ったとほぼ同時に跳躍し、サンドパンの一撃を回避する。
「だが、跳んだな? 空中に逃げ場はねぇぞ! サンドパン、辻斬り!」
 ネロの言う通り、空中に身を投じてしまえば、身動きはできない。地中から出て来たサンドパンは、爪を構えてチュリネへと突っ込でいく。

 しかし、その爪がチュリネに届く前に、無数の葉っぱがサンドパンを切り刻んだ。

「っ!」
 またしても目を見開くネロ。どこからともなく飛来した葉っぱの奇襲を受け、サンドパンは為す術もなく落下する。
「そこだチュリネ! 居合切り!」
 そしてチュリネは、隙のできたサンドパンに接近し、頭部の葉っぱで切り裂いて追い打ちをかける。
「ちっ、振り払え! 岩雪崩!」
 まだ体勢を立て直せていないものの、サンドパンは虚空より無数の岩石を降り注ぎ、チュリネを引き剥がした。
「今のは……マジカルリーフか」
「正解です」
 サンドパンを奇襲したのは、チュリネが最初に放ったマジカルリーフ。
 何度も言うが、ネロのポケモンで厄介なのは穴を掘るだ。ヒポポタスもワルビルも、こちらの攻撃を躱しつつ攻撃を仕掛けてくる穴を掘るを使用し、レストを苦しめたが、サンドパンも例外ではない。
 そんな穴を掘るの対策になるのが、マジカルリーフ。後からリコリスに聞いて知ったのだが、ネロのポケモンの穴を掘るは、通常のポケモンより穴を掘っている時間が極端に短い。だから攻撃を躱されてから、反撃を受けやすいのだ。しかしマジカルリーフなら、一度攻撃を躱されても、自動で相手を追尾してくれるため、打ち消されない限り最終的には攻撃がヒットする。しかも地面タイプには効果抜群だ。
「成程な、秘密兵器の名は伊達じゃねぇってか。だが、それだけで勝てると思ってんな、最終的に攻撃が当たっても、サンドパンの攻撃を躱せなきゃ意味はねぇ。サンドパン、辻斬り!」
「チュリネ、マジカルリーフ!」
 またしても特攻するサンドパン。対するチュリネも同じようにマジカルリーフで迎え撃つが、
「躱せ! 穴を掘る!」
 サンドパンは地中に潜って穴を掘るを回避する。
「すぐに攻撃が来るぞ! ジャンプだ!」
 ネロのポケモンの中で最も穴を掘るの攻撃間隔が短いサンドパン。穴を掘るのとほぼ同時に、チュリネは跳躍する。
 サンドパンは地面から這い出るが、そこにチュリネはいない。代わりに正面から、折り返してきたマジカルリーフがやって来る。
「相殺しかねぇだろうな……岩雪崩!」
 サンドパンは正面に無数の岩石を落とし、迫ってくる葉っぱをすべて押し潰す。だが、
「マジカルリーフだ!」
 今度は上空から、新たなマジカルリーフが襲い掛かる。
「ちっ、面倒くせぇ。下がれサンドパン!」
 サンドパンは一度、バックステップで距離を取り、
「岩雪崩だ!」
 すぐさま岩石を落として葉っぱを押し潰す。辻斬りで切り裂く手もあるがリスキーすぎるため、この方法で相殺するしかないようだ。
「チュリネ、成長だ!」
 サンドパンとの距離ができたことをいいことに、チュリネは自身を成長させ、攻撃能力を高める。しかも日本晴れでその効力は二倍、一気に攻撃と特攻が膨れ上がった。
「自然の力!」
 そしてチュリネは、周囲の自然地形の力を借りて攻撃を仕掛ける。ここは建物の中だが、フィールドは砂漠のような砂。その大地の力を借り、大量の土砂を噴射する。
「大地の力か……躱して辻斬り!」
 地面から噴射される土砂を躱しながら、サンドパンは爪を構えて駆ける。地中での生活にも慣れているサンドパンなら、地中からの攻撃を察知するのも容易い。
「だったらマジカルリーフだ!」
「横に跳べ! 岩雪崩!」
 チュリネはまたしても念力を帯びた葉っぱを発射する。しかしこう何度も攻撃されれば、流石にそのパターンも読めてくる。サンドパンは左に大きく横っ飛びすると、地面を転がりながら虚空より岩を降り注ぎ、葉っぱをすべて押し潰してしまった。
「そこだ! 居合切り!」
 だがその隙に、チュリネもサンドパンに接近しており、頭部の葉っぱで切り裂く。チュリネの攻撃力は低いが、成長で強化されているので決して弱い一撃ではない。
「ちっ、辻斬りだ!」
「避けろ! サンドパンから距離を取れ!」
 サンドパンも爪を振るって反撃に出るが、チュリネのややオーバーな回避動作で避けられてしまう。
 隙を突く攻撃ならともかく、チュリネが接近戦でサンドパンに勝てるとは思っていない。深追いはせず、基本的には遠距離攻撃をメインに据えたスタイルで戦っていく。
「ちっ、このままじゃ埒が明かねぇ……!」
 そんなチュリネの戦い方に苛立っているのはネロだ。攻撃はことごとく躱され、逆に相手の攻撃を必死に躱さなければならない。ただの殴り合いならともかく、この一方的な状況は面白くない。
「しゃーねぇ、ここは根性見せる時だ。気合い入れろよ、サンドパンッ!」
 ネロは怒声染みた発破をかけ、サンドパンに指示を出す。
「辻斬り!」
 サンドパンは爪を構え、チュリネへと駆ける。その動きは、心なしか勢いを増しているように感じた。
「来るぞ、自然の力だ!」
 対するチュリネは、自然の力を借りて地中から土砂を噴射しサンドパンを止めようとするが、すべて躱されしまう。
「やっぱダメか……なら、マジカルリーフ!」
「穴を掘るだ!」
 チュリネが放つマジカルリーフを、サンドパンは地中へと潜って回避。
「跳べ、チュリネ!」
 サンドパンの反撃が来る前に、チュリネはジャンプ。直後、サンドパンが地面から這い出て来るが、そのサンドパン目掛けて念力を帯びた葉っぱが折り返してくる。
「知ったことかよ! サンドパン、お前も跳べ!」
 岩雪崩でマジカルリーフを相殺すると読んでいたレストだが、ネロの指示は違った。サンドパンはマジカルリーフが追ってくることも厭わず、一直線にチュリネ目掛けて跳躍する。
「っ、マジカルリーフだ!」
 それでもチュリネはマジカルリーフを繰り出す。真正面から無数の葉っぱに巻き込まれるサンドパン。さらに前に放っていた葉っぱも追いつき、二重にサンドパンを切り刻む。
 しかし、サンドパンは止まらない。そして、

「サンドパン、毒突き!」

 サンドパンは爪の先端を、チュリネへと突き刺した。
「!? チュリネ!」
 真正面から攻撃を喰らったのは、チュリネもだ。効果抜群の一撃を至近距離から叩き込まれ、チュリネは吹っ飛ばされ、落下する。肺z馬手の一撃、たった一撃だが、その一撃でチュリネは戦闘不能寸前だ。
「まさか毒技を持ってたとは……!」
 完全に盲点だった。サンドパンの四つ目の技については気をつけていたが、ここまでまったく見せる素振りがなかったので、この状況では使えない技だと思い込んでいた。
「先週のジム戦は単純に出し損ねただけだが、てめぇの三体目がチュリネだと分かった時点で、この技は温存するつもりだった。あとはどのタイミングで叩き込めるかを探っていたが……無理やり突破するだけで十分だったか。ちっ、面白くねぇな」
 つまらなそうに舌打ちするネロ。その真意は分からないが、ともかくレストとしてはまずい状況だ。
 チュリネはあと一撃でも攻撃を喰らえば戦闘不能になってしまうだろう。マジカルリーフなどでサンドパンを攪乱しつつ、地道に攻撃を当てていく手も取れるが、サンドパンは無理をすれば、チュリネの攻撃を正面から受け切った上で攻撃を仕掛けてくる。
 素の実力は高いものの、戦闘経験の浅いチュリネが、自らを省みなくなったサンドパンの猛攻を躱しつつ、サンドパンの体力を削り切れるほど攻撃を繰り出せるとは思えない。恐らく、避けるだけで精一杯だろう。
 ——ならば、
「とにかく攻撃しまくる! チュリネ、マジカルリーフだ!」
 チュリネは念力を帯びた葉っぱを無数に射出する。それも絶え間なく、連続で何度も何度も葉っぱを撃ち出し、サンドパンに襲い掛からせる。
「最後の最後で賭けに出たか……ちっとは面白ぇことしやがるじゃねぇか。受けて立つ! サンドパン、毒突き!」
 突風の如き勢いで押し寄せる大量のマジカルリーフに、サンドパンは真正面から突っ込んでいく。爪の先端から毒素が滲み出しており、その毒素で多少の葉っぱは削り取られるが、そんなものは焼け石に水。あってもなくても同じ。
 チュリネのマジカルリーフがサンドパンを削り切るか、それともサンドパンがチュリネの猛撃を耐えきってとどめを刺すか。最後の最後で底力の試される競争となった。
 ひたすら葉っぱを撃ち続けるチュリネと、葉っぱの嵐を掻き分けて進むサンドパン。どちらがこの競争に打ち勝つのか。
 体感的に、長い時間が流れた気がする。そして、

 サンドパンが、無数のマジカルリーフのから抜け出した。

「サンドパン、毒突き!」
 あの嵐の中から抜け出しさえすれば、あとはとどめを刺すだけだ。チュリネは攻撃の疲れもあり、もう動くことはできない。サンドパンは爪を振り上げると、その先端をチュリネ目掛けて——振り下ろす。
「チュリネ!」

 ——ザスッ

 そんな、手応えのない音がジムの中に響き渡った。
「……ちっ、耐え切れなかったか」
 サンドパンの爪はチュリネ——の脇の地面を突き刺しており、サンドパンは前のめりに倒れる。
 サンドパンは、戦闘不能となっていた。



「俺の負けだ。最後のチキンレースで根性負けするとは、情けねぇ。自分が恥ずかしいったらありゃしねぇな」
 サンドパンをボールに戻すと、ネロは砂地のフィールドを踏みしめながらレストの元へと歩み寄る。
「負けた以上、俺はてめぇを認めざるを得ねぇ。ジムを出てった時は、また腰抜けが来たもんだと思ったが、そうでもなかったな」
「う、それを思い出させないでくださいよ……」
「気にすんなよ、んなこと。あんまうじうじしてんな、ムカつくだろうが」
「は、はぁ……」
 言葉は粗雑で、荒っぽく、喧嘩腰ではあるが、その声はどこか落ち着いており、温かみすら感じた。
「さて、御託はもういいだろ。ほらよ」
 ネロは懐から小さな箱を取り出し、蓋を開ける。そこには、材質は違うだろうが、縮小した砂の城のようなバッジが収められていた。
「バタイジムを制覇した証、デザートバッジだ」
「……ありがとうございます!」

 かくして、レストはネロへのリベンジを果たし、三つ目のジムバッジを手に入れたのだった。



はい、予告通り今回でバタイジム戦は終わりです。五千文字を超える長文となってしまいました。バトルの内容に関しては特に言うことはないですね。最初のジム戦では二番手で出たサンドパンですが、このサンドパンがネロのエースです。初戦では砂嵐が消える前に砂かきを発動させたかったので、二番手で出したという設定です。あと、グロウパンチで攻撃力が最大になったテールナーにワルビルは相性が悪いと判断した、というのもありますが。デザートバッジについてですが、まあ大抵の人は分かると思いますが、デザートとは砂漠という意味です。決して食後に出て来る食べ物ではありません。地割れを意味するクラックバッジ、という案もあったのですが、直前のダンジョンが砂丘で、フィールドも砂地だったので、砂漠を意味するデザートバッジにしました。さて、次回ですが、特に決めていません。ただ、白黒のプランではバタイシティ編はかなり長くなりそうです。まだバッジ三つなのにね。では、次回もお楽しみに。

35話 リベンジ2・レストvsトイロ ( No.129 )
日時: 2013/12/26 18:27
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 バタイジムでの再戦も終わり、レストとリコリスはジムから出る。
 そこでレストは、懐かしい顔を見た。
「っ」
「あ……」
 ちょうどジムを出たところにいたのは、一人の少女。
「トイロ……!」
「レスト君。ひさし、ぶり?」
 相変わらずの疑問形で小首を傾げるのは、リョフシティ直前で別れたトイロだった。
「お前も、ジム戦か?」
「うん、そう、かな?」
「バッジは?」
「二つだよ」
 胸中でガッツポーズを取るレスト。まだ一つの差だが、バッジの数ではあのトイロを追い越していたようだ。
「ねえレスト君、この子は?」
 レストの服の裾を引っ張りるリコリス。そう言えば、リコリスはトイロとは初対面だった。
「こいつはトイロ、俺と同じ日にポケモン貰って、旅に出た奴なんだ」
「へぇー、そうなんだ。あたしはリコリス、よろしくねトイロちゃん」
「うん、よろしく」
 テンション高めなリコリスと、淡々としているトイロ。そういう点では対照的な二人だ。
「……そうだ。トイロ、ジム戦前にいいか?」
「?」
 レストはこの機会に、あることを申し出る。いや、申し込むと言うべきか。
 それは、
「俺とバトルしてくれ」



 以前、レストはトイロに負けている。それはトイロが強かったというのもあるが、それ以上に自分が未熟すぎた。レストは、自分が今バッジを三つも持っているのは、その時の悔しさが糧となっていると思っている。
(あの時は負けたが、俺だって強くなってるはず。ネロさんへのリベンジの後だ、トイロにもリベンジを果たしてやる)
 そんな思いを胸に、レストはトイロに勝負を挑む。
 ジム戦の直前にこの申し出、普通の神経を持ったトレーナーなら断るところだろうが、トイロは二つ返事で承諾した。
「お前、今ポケモン何体持ってるんだ?」
「三体、だよ」
「そうか。じゃあ、三対三のバトルだ。リコリス、審判頼む」
「あ、うん。分かったよ」
 人が少ない適当な広い場所を見つけ、レストとトイロは距離を取って向かい合う。
(トイロはケロマツがエースだろうな。ラクライとチュリネなら弱点を突けるから、初っ端からテールナーを出してもいいが……とりあえず、こっちもエースは温存しておくか)
 しばらく思案し、レストはボールを取り出す。
 意気込むレストと、ぼんやり虚空を見つめるトイロ。こちらもこちらで対照的な二人は、共にボールを構えた。
「行くぞ! 出て来い、チュリネ!」
「でてきて、ポリゴン」
 レストの先発はチュリネ。対するトイロのポケモンは、薄い赤と青の体色、角ばった積み木を組み合わせたような姿をしている。
 バーチャルポケモン、ポリゴン。
「へぇ、ポリゴンかぁ……珍しいポケモン持ってるね」
 審判役のリコリスが呟く。審判と言っても公式戦ではなく、不正をするような二人ではないので、ほとんど突っ立っているだけだ。
「先攻は貰うぜ。チュリネ、マジカルリーフ!」
 チュリネは先手を取って念力を帯びた葉っぱを撃ち出す。葉っぱは一直線にポリゴンへと向かっていくが、
「ポリゴン、電撃波」
 ポリゴンも波状の電撃を放ち、相殺を試みる。
 しかしタイプ一致のマジカルリーフの方が強かったようで、ポリゴンは電撃を突き破られて切り刻まれる。
「サイケ光線」
 とは言え威力は減衰されたので、ポリゴンはのけ反らずにそのまま念力の光線を発射して反撃に出る。
「躱して成長だ!」
 ただ、一直線の単調な攻撃は、ネロのサンドパンとやりあったチュリネには当たらない。サッと横に逸れると、体を成長させ、決定力を高める。
「マジカルリーフ!」
「電撃波」
 再びチュリネの葉っぱとポリゴンの電撃がぶつかり合うが、成長で威力の高まったマジカルリーフだ、容易く電撃を突破し、ポリゴンを攻撃。しかも今度はすぐに反撃できない。
「自然の力!」
 続けてチュリネは自然の力を借りて攻撃を仕掛ける。ここは岩場、チュリネの周囲に地中から飛び出した煌めく宝石が浮かび上がり、ポリゴンへと飛ばされる。
「パワージェム……ポリゴン、電撃波」
 岩場で使用する自然の力は、岩技のパワージェムとなる。襲い掛かる宝石に、ポリゴンは波状の電撃をぶつけるが、これも相殺しきれずに攻撃を喰らってしまう。
「チュリネ、もう一度自然の力!」
 再び自然の力を借り、パワージェムを放つチュリネ。しかし、いつまでも攻撃を喰らい続けるトイロではなかった。
「ポリゴン、高速移動」
 刹那、ポリゴンは目で追うことが難しくなるほどのスピードで動き回り、次々と宝石の乱打を回避していく。
「躱された……!」
 しかもただ躱されたのではなく、素早さまで上げられてしまった。
「だが、いくら素早くてもチュリネなら問題ない。マジカルリーフ!」
 そうだ、いくらトイロのポケモンが速くとも、必中技の前には無意味。
 と、思われたが、
「高速移動」
 ポリゴンは再び超高速で動き回り、大きく迂回するようにマジカルリーフを躱す。背後からはそのマジカルリーフが追ってくるが、
「ポリゴン、サイケ光線」
 チュリネに接近していたポリゴンは、念力の光線を発射する。
「っ! 躱せ!」
 咄嗟にバックステップで後ろへと逃げ、なんとか光線を躱すチュリネ。
「電撃波」
 しかしそこに、二撃目が放たれる。波状の電撃がチュリネを襲ったのだ。
 とは言え、直後にはポリゴンも追いついてきたマジカルリーフに切り裂かれた。しかも電気技はチュリネには効果いまひとつ。ダメージではまだまだチュリネが圧倒的に有利だ。
「じゃあ、これかな? ポリゴン、テクスチャー」
 そんなトイロは、手を打ってくる。
 トイロの指示を受け、ポリゴンはその体色をピコピコと目まぐるしく変えていく。最後に黄色に染まった、かと思いきや、またすぐに同じ色に戻ってしまった。
「何だ、あの技……? まあいいか。チュリネ、自然の力!」
「ポリゴン、電撃波」
 自然の力でパワージェムを放つチュリネ。ポリゴンは波状の電撃を放って対抗する。
 対抗する、と言っても、ポリゴンの火力ではタイプ不一致のパワージェムですら相殺しきれない。と、思われたが、

 ポリゴンの電撃は、パワージェムをすべて撃ち落とした。

「!?」
 その光景に驚きを隠せないレスト。加減したつもりはない、いつも通りの威力が出ていたはずだ。だが、完全に相殺されてしまっていた。
「もう一度、電撃波」
 驚愕するレストをよそに、ポリゴンは連続で電撃波を放つ。必中技ゆえにチュリネはこの攻撃を避けられず、直撃を喰らってしまう。効果いまひとつなのは変わらないが、ダメージ量が最初より多くなっているように感じられた。
「な、なんだ……ポリゴンの火力が上がっている? さっきの技は、火力を上げる技なのか?」
「違うよ?」
 見たことのない技を考察するレスト。そんなレストの考えを、トイロは否定する。
「テクスチャーはね、自分のポケモンのタイプを、そのポケモンが覚えている技のタイプにランダムで変更する技、なの。だからポリゴンの、今のタイプは電気タイプ。電気技が、タイプ一致で撃てるよ」
 トイロにしては長く饒舌に語ったが、それよりもレストは、トイロのテクスチャーの使い方に感心していた。
 テクスチャー、変わった効果の技だが、その使い方は、基本的には相手の攻撃を半減するためだろう。ノーマルタイプは攻撃を受ける時、半減するタイプがないのが欠点だが、テクスチャーはそれを補える。様々なタイプの技を覚えられるポリゴンなら、その機会も多いだろう。
 しかしトイロのポリゴンでは、覚えている技からチュリネの技を半減することはできない。
 そこでトイロが取ったのが、防御ではなく攻撃に転用したテクスチャーだ。自分の覚えている技のタイプに変わるということは、攻撃技のタイプに変われば、その技をタイプ一致で撃てるということになる。ポケモンは、自分のタイプと同じタイプの技を繰り出せば威力が上がる。つまりトイロは、ポリゴンの火力を上げるためにテクスチャーを使った。
「流石だな、俺にはその発想はなかった……」
 トイロらしい、柔軟な発想だ。バッジの数こそレストの方が上だが、恐らく知識の経験も、トイロが上回っている。
 しかし、
「……つっても、それだけだろ」
「?」
 レストは気付いていた。トイロの発想力は確かに評価できるが、それでも自分の活路が消えていないことに。
「そんなんじゃ、俺のチュリネは倒せない。見てろよトイロ、今度は俺が、きっちり勝ってやる!」
 雪辱を誓ったあの日のことを思い返しながらレストは、声高にそう、宣言するのだった。



ジム戦が終わり、また再戦です。今度の相手はトイロ、最後に登場したのはリョフシティ直前ですね。そう考えると、凄く久しぶりな気がします。バトルについてですが……最近、少しスランプ気味というか、自分の満足できる文章が書けないんですよね。どうも長いだけで盛り上がりに欠ける文章になっているような……白黒は作品を書くごとに定期的にスランプに陥りますが、今作でもなりましたね、やっぱり。まあスランプは自力でなんとかするので、お気になさらず。それより次回ですが、言うまでもないです。トイロ戦その二です。お楽しみに。

36話 レスト対トイロ・優位 ( No.130 )
日時: 2013/12/31 23:00
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「チュリネ、マジカルリーフ!」
「ポリゴン、電撃波」
 チュリネは念力を帯びた葉っぱを飛ばし、ポリゴンも波状の電撃を放って相殺を試みる。
 しかし成長で強化されているマジカルリーフは、いくらタイプ一致になったとはいえ、ポリゴンの火力では相殺しきれない。残った葉っぱがポリゴンを切り裂く。
「もう一発! マジカルリーフ!」
「……高速移動」
 再びマジカルリーフを射出するチュリネ。それに対しポリゴンは、超高速で動き回るが、勿論マジカルリーフはポリゴンを追跡する。
「サイケ光線、だよ」
「当たるか! 躱して成長!」
 高速でチュリネに接近したポリゴンだが、直線軌道のサイケ光線はチュリネには当たらず、むしろ成長させる隙を与えてしまった。
「自然の力!」
 チュリネは自然の力を借り、煌めく宝石を無数に浮かべ、それらをポリゴンへと放つ。
「ポリゴン……電撃波」
 少し悩んで、ポリゴンは波状の電撃で目の前の宝石を相殺しようとするが、成長で火力が上がってしまったため突き破られてしまう。さらにその直後、ポリゴンを追跡していた葉っぱがポリゴンに襲い掛かる。
「テクスチャーで火力を上げて来るなんて驚いたが、所詮はタイプ一致になっただけだ。能力が変化したわけじゃない」
 レストの言う通り、ポリゴンの火力が上がったのは、あくまでも疑似的にだ。タイプ一致で威力が高くなっただけで、決して火力が増強されたわけではない。そのため、チュリネに特攻を上げられて対抗されると、それ以上技の威力が上がらないポリゴンは不利になってしまうのだ。
「チュリネ、マジカルリーフ!」
「ポリゴン、高速移動」
 チュリネのマジカルリーフを、ポリゴンは高速移動で回避。そしてそのままチュリネへと接近。
「サイケ光線」
「させるか! 居合切り!」
 ポリゴンが念力を凝縮した光線を発射しようとするその瞬間に、チュリネはポリゴンへと突っ込み、頭部の葉っぱで切り裂いた。
「あ……」
 まさか突っ込んで来るとは思わなかったのだろう。ポリゴンはチュリネの動きに対応できず、切り裂かれて戦闘不能となった。
「……戻って、ポリゴン」
 表情なくポリゴンをボールに戻すトイロ。先勝できたレストは胸中でガッツポーズを取るが、表情で彼の心情はばればれだ。
「……じゃあ、次はこのポケモン、だよ。オンバット」
 少し思案してからトイロが繰り出すのは、スピーカーのように大きな耳を持つ、蝙蝠に似たポケモンだ。
 音波ポケモン、オンバット。
(オンバット……飛行とドラゴンタイプか。タイプ的に草タイプのチュリネは不利。だが自然の力はパワージェムだし、成長で火力も上がってるからこのままでもいいが……)
 レストはボールを二つ取り出した、
「戻れ、チュリネ」
 そしてチュリネをボールに戻し、もう片方のボールを構える。
「バタイジムではお前の出番はなかったしな。折角だ、ここで特訓の成果を披露するぞ! ラクライ!」
 チュリネと交代させるのはラクライだ。オンバットはドラゴンと複合しているので電気技は等倍になってしまうが、しかしネロ対策に覚えさせた技が非常に有効だ。
「行くぞ、まずは電光石火!」
 ラクライは地面を蹴り、超高速でオンバットへと突っ込む。
「オンバット、龍の息吹」
 突っ込んで来るラクライに、オンバットは龍の力が込められた息吹を吹き付ける。しかしラクライの動きはそんな単調ではない。軽く跳躍して躱され、そのまま頭突きを受ける。
「電撃波だ!」
 さらにラクライは波状の電撃を放ち、オンバットを追撃。等倍だが、直撃なのでダメージはそれなりに大きいだろう。
「オンバット、エアカッター」
「当たらねえよ! 電光石火!」
 オンバットが放つ空気の刃を電光石火で躱し、ラクライは側面からオンバットに突撃し、吹っ飛ばす。
「追撃だ! 弾ける炎!」
 ラクライは口腔より、やっとものになった弾ける炎を撃ち出してオンバットに追撃をかける。効果はいまひとつだが、それでも追撃としては十分だ。
「龍の息吹」
「躱して弾ける炎!」
 空中で体勢を立て直し、龍の息吹を吹き付けるオンバットだが、技の出が遅い。ラクライは横に逸れて息吹を躱すと、すぐさま火炎弾を放ってオンバットを狙い撃つ。
 もっとすばしっこいかと思っていたが、このオンバット、ドラゴンタイプの割に能力が低い。これならばラクライの敵ではない。
「このまま突っ切らせてもらうぜ! 電光石火!」
「なら、これはどう、かな? オンバット、超音波」
 真正面から突っ込むラクライに、オンバットは人間の聴覚では聞き取ることの難しい超音波を発する。
「っ、ラクライ、横に逸れろ!」
 咄嗟に危険を感じたレストの指示で、ラクライは横へと逸れる。耳の内側でキーンと鳴っていた音は消え、ラクライに異常もない。
 だが、
「オンバット、鋼の翼」
 直後、ラクライに接近していたオンバットが鋼のように硬化した翼を叩き込む。
「しまった……ラクライ!」
 効果いまひとつだが、完全に虚を突かれた。派手に吹っ飛ばされ、楽リアは地面を転がる。
「続けて。龍の息吹、だよ」
 そこにオンバットは、龍の息吹を吹き付ける。そのまま地面を転がって躱そうとするラクライだが、簡単に先を読まれ、龍の息吹を喰らってしまう。
「電気タイプだから、麻痺状態にならないのが、ちょっと残念、かな……? オンバット、エアカッター」
 今度は空気の刃を飛ばし、ラクライを切り裂く。
「龍の息吹」
「いつまでも攻撃してられると思うなよ! ラクライ、跳べ!」
 連続で繰り出されるオンバットの攻撃から抜け出すべく、ラクライは大きく真上に跳躍した。
「電撃波だ!」
 そして波状の電撃を放つ。
「……龍の息吹」
 オンバットは襲い掛かる電撃に息吹をぶつけ、相殺を試みる。
 しかしどちらもタイプ一致だとしても、ラクライの方が特攻は高い。電撃が息吹を打ち破り、そのままオンバットに襲い掛かる。
「そこだ! 弾ける炎!」
 さらにラクライは、火の粉を散らす炎を発射し、オンバットを攻撃。のけ反るオンバットに、さらなる追撃をかけようとするが、
「オンバット、超音波」
 オンバットも黙っていない。オンバットはスピーカーのような耳から超高音の音波を放つ。
「やばっ……避けろ!」
 超音波は、喰らえば混乱状態にされてしまう技。混乱状態になると指示が通らなくなり、動きも滅茶苦茶、自分自身を傷つけてしまうことすらあるため、絶対に避けたい。
 しかしそこに、オンバットの追撃が繰り出される。
「鋼の翼」
 オンバットは小さな翼を鋼の如く硬化させ、ラクライへと突っ込む。回避行動を取った直後のラクライでは、またすぐに回避行動に移ることはできない。かといって、電撃波では溜めの時間がかかり、電光石火も追いつかない。地に足をつけて止まったまま、迎え撃てるような技でなければオンバットを止められないだろう。絶妙すぎるタイミングだ。
 だが、ラクライはその絶妙なタイミングに割り込むことが、できないわけではなかった。

「今だラクライ! 氷の牙!」

 突っ込んで来るオンバットに、ラクライは氷結した牙を突き立てる。オンバットは甲高い悲鳴を上げると、その一撃でぐったりとしてしまった。
「え、あ……オンバット……」
 驚いているのか、上手く言葉が紡げないでいるトイロ。
 この氷の牙はネロにリベンジするために一週間特訓した結果として、ラクライが習得した技だ。ネロ戦では吠えるでラクライに強制交代させられたら、ネロが罵るのを見越して氷の牙で反撃し、鼻を明かす予定だったが、残念ながらそれは達成できなかった。
 しかしその氷の牙は、オンバットにも通用する。飛行とドラゴンを併せ持つオンバットに、氷技は四倍のダメージを与える。割と粘っていたオンバットだが、最後に痛烈な一撃を喰らってしまい、あえなく戦闘不能となってしまった。
「……戻って、オンバット」
 これでトイロのポケモンは残り一体。対するレストはまだ三体、しかもうち一体はノーダメージだ。
 この非常に優位な状態に、レストもほぼ勝利を確信していた。
 しかしレストはまだ知らなかったのだ、トイロの本当の力を。
「……これで、最後」
 ぽつりと呟きながら、トイロは次のボールを構える。
 そして、

「出て来て——ゲコガシラ」



お久しぶりです、もうあと一時間ちょっとで新年を迎えますね。久々の更新になりましたが、トイロとのバトルは現在レストが非常に有利です。しかし相手はトイロ、一筋縄ではいかないでしょう。次回はトイロ戦、恐らく決着です。みなさん、よいお年を、そして次回もお楽しみに。

37話 レスト対トイロ・ゲコガシラ ( No.131 )
日時: 2014/01/02 00:00
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 泡蛙ポケモン、ゲコガシラ。
 それが、トイロの最後のポケモンだった。
「ケロマツの進化形か……トイロもケロマツを進化させてたんだな」
 ケロマツの時よりも目つきがキリッとし、体格も大きくなっている。純粋にパワーアップしたと見てよさそうだ。
「だけど、こっちにはラクライとチュリネ、どっちも残ってるんだ。早々やられたりはしねえよ。行くぞラクライ、電撃——」

「ゲコガシラ、電光石火」

 刹那。
 ラクライが吹っ飛ばされた。
「……っ! はやっ……!?」
 まったく動きが見えなかった。不意を突くような一撃を喰らって吹っ飛ばされたラクライ。ダメージもそこそこ通っているだろう。
「くそっ、油断したか。でも次はこうはいかねえ。ラクライ、こっちも電光石火!」
「ゲコガシラ、もう一度、電光石火」
 ラクライが地面を蹴って駆ける。だがゲコガシラのそれは、残像が残るほどの超高速だ。ラクライのスピードを遥かに凌駕し、側面からぶつかって吹っ飛ばす。
「……! だったら、電撃波!」
 スピードで勝てないと見たレストは、作戦を変更する。ラクライは波状の電撃を放ち、ゲコガシラへと攻撃を仕掛けた。
「飛び跳ねる」
 対するゲコガシラは、強く地面を蹴りつけ、一瞬で空高くまで飛び上がってしまう。それで電撃波を躱したつもりだろうか。確かに一時的に逃げることはできるが、電撃波はゲコガシラを追いかける。
 だが、
「っ、ラクライ!」
 直後、凄まじいスピードで落下してきたゲコガシラに、ラクライが撥ね飛ばされた。効果いまひとつだが、威力が高い。
 しかしそんなゲコガシラの背後には電撃波が迫っている。スピードはあってもゲコガシラはたいきゅは低そうだ。効果抜群の攻撃なら致命傷を与えられるはず。
 その考えは正しい。だが、
「身代わり」
 次の瞬間、ゲコガシラに電撃波が直撃した。
「電光石火」
 だが同時に、ラクライがゲコガシラに吹っ飛ばされた。
「なっ……なんだ!?」
 見れば、電撃波が直撃したゲコガシラが消えていく。何事かと図鑑で調べると、
「身代わり……攻撃を肩代わりする分身を作り出す技か……!」
 代わりに体力を削るようだが、これでは必中技がまるで意味をなさない。この身代わり一つで、一気にレストは苦しくなってしまった。
「戻れ、ラクライ」
 レストはラクライをボールに戻す。今の電光石火で体力が尽きてしまったのだ。
「スピードだけだと思ったら、意外とパワーもあるのな……次はお前だ、チュリネ!」
 レストの二番手はチュリネ。草タイプなので、ゲコガシラには有利だが、
「チュリネ、マジカルリーフ!」
 チュリネは、まず、念力を帯びた葉っぱを放つ。葉っぱはゲコガシラに迫り、切り刻まんとするが、
「身代わり」
 ゲコガシラがマジカルリーフに切り刻まれた——が、そこにゲコガシラの姿は見えない。
 代わりに、チュリネの真正面で片手を振り上げていた。
「しまっ……!」
「ゲコガシラ、水の波動」
 手中に作り出した水球を、ゲコガシラはチュリネに叩きつけるようにして放つ。効果いまひとつだが、こんな直撃を当てられてしまえば、ダメージも大きい。ただでさえチュリネは耐久力で劣っているのだから、なおさらだ。
「くっ、チュリネ、居合切りだ!」
「電光石火、だよ」
 チュリネは頭部の葉っぱを振るうが、ゲコガシラには当たらない。どころかゲコガシラに背後を取られてしまい、吹っ飛ばされてしまう。
「くっそ……自然の力!」
「飛び跳ねる」
 なんとか自然の力を借り、パワージェムで反撃するチュリネだが、やはりゲコガシラ、一挙一動が速く、次の瞬間には空中に身を投じていた。
「! 間に合え、マジカルリーフだ!」
 ゲコガシラの存在を確認すると、チュリネは上空へと念力を帯びた葉っぱを放つ——ことは、できなかった。
 それより速くゲコガシラが落下し、チュリネを吹っ飛ばしたのだ。
「チュリネ!」
 効果抜群の飛び跳ねるを喰らってチュリネが耐えられるはずもない。これでチュリネも戦闘不能になってしまった。
(速い……まだゲコガシラが出てから五分も経ってねえのに、ラクライとチュリネがあっという間に……!)
 相性が良いはずの二体なのだが、全く歯が立たない。必中技があるにもかかわらず一撃も攻撃を入れられず、ダメージと言えるダメージは身代わりで削った体力くらいだろう。
「だけど……俺にはまだこいつがいる! 頼んだ、テールナー!」
 レストの最後のポケモンは、テールナー。ゲコガシラには相性が悪いため、前の二体よりも苦戦しそうではある。
「あ……テールナー。レストくんのフォッコも、進化、したんだ?」
「……まあな」
 今はそんな呑気なことを言っていられる場合でもないのだが、優位な立場にいるトイロは余裕があるようだ。元々の性格かもしれないが。
(いや、優位っつっても、俺もあいつも残りポケモンは一体なんだよな……確かに相性はテールナーが悪いが、そこまで優位じゃない)
 実際、レストは相性をひっくり返すバトルは何度も見ている。だからこの場合、レストが自分が不利だと思い込むほど、心理的にも追い詰められていると見るべきだろう。
「……くそっ。テールナー、炎の渦!」
 テールナー対ゲコガシラ、先手を取ったのはテールナーだ。
 まずテールナーは、素早いゲコガシラの動きを止めようと、炎の渦を放つが、
「身代わり、だよ」
 ゲコガシラが作る分身で防御されてしまい、攻撃が透かされる。
「電光石火」
「っ、来るぞ! グロウパンチ!」
 指示は出したが、かなり遅い。テールナーが拳を握った瞬間にゲコガシラが突撃し、テールナーの身体はぐらついた。
「水の波動」
「っ、それはまずい……躱せ!」
 さらに片手を振り上げ、波動を込めた水球を生成するゲコガシラ。それを叩きつけるようにテールナーへと放つが、テールナーもその攻撃がまずいのは分かっているようで、身を捻ってギリギリ回避する。
 さらに、
(ゲコガシラの隙……!)
 水の波動を躱され、ゲコガシラに隙ができている。その隙を、レストは見逃さなかった。
「テールナー、サイケ光線!」
 テールナーは木の枝をゲコガシラに押し付け、先端に念力を集中させる。そしてすぐさま、そこから光線を発射、したのだが、
「飛び跳ねる」
 吹っ飛ばされたゲコガシラは、ボロボロと崩れるように消え去った。いつの間にか身代わりを作っていたようだ。
 そしてその隙に飛び跳ねたゲコガシラ。こちらもいつの間にか、もうテールナー目掛けて落下してきている。
「やばい……躱すんだ!」
 ほぼ反射的にバックステップを踏み、ゲコガシラの落下を回避するテールナー。だが、ここでまた追撃されても敵わない。なので、
「ニトロチャージだ!」
 スピードの高いゲコガシラに対抗するためには、こちらもある程度のスピードが必要と考えるレスト。テールナーは炎を身に纏い、それを推進力にしてゲコガシラへと突っ込む。
「ゲコガシラ、身代わり」
 だが、その突撃は身代わりによって攻撃を肩代わりされてしまう。しかし攻撃自体はヒットしているため、素早さは上がっている。
 さらにテールナーは、追撃をかけた。
「グロウパンチだ!」
「身代わり」
 上がった素早さのまま、今度は攻撃力を上げるべく拳を突き出すが、これも分身で防がれてしまう。
 まったく攻撃の当たらないテールナーだが、ゲコガシラは身代わりを多用している。それはつまり、その分だけゲコガシラの体力が削れているということであり、同時にテールナーの攻撃は身代わりを使わなければ避けきれないという証明にもなった。
(相性が悪いとか、経験が違うとか、そんなことは関係ねえ……とか、自分を奮い立たせてたが、なんだよ、意外と戦えるじゃねえか)
 攻撃は当たらないが、体力の面ではこちらが有利のはずだ。予想外に善戦できているテールナーも手応えを感じているのか、少しだけ笑みを浮かべていた。
「これなら行けるか……テールナー、ニトロチャージ!」
「ゲコガシラ、電光石火」
 炎を纏って突っ込むテールナーを、ゲコガシラは電光石火のスピードで回避。そしてそのまま背後に回り込む——
「っ、テールナー、グロウパンチ!」
 ——が、テールナーの拳で吹っ飛ばされてしまった。しかしその吹っ飛ばされたゲコガシラの姿がボロボロと崩れていくので、また身代わりで防がれてしまったのだろう。
 だが、今のゲコガシラの動きに、レストは違和感を感じていた。
(なんだ今の、さっきまでのゲコガシラのスピードなら、反撃を喰らう前に攻撃できたんじゃないのか……?)
 咄嗟に技を指示したものの、今のゲコガシラ動きは明らかに不自然だった。まるで、わざとテールナーに攻撃を繰り出させていたような、そんな感じだ。
「……テールナー、炎の渦!」
 強いだけでなく、底も見えないゲコガシラに少々の恐怖を覚えつつ、テールナーは渦状の炎を放つ。
 この時も、レストの敗因は無知だった。いや、それだけというわけではないが、彼が無知でなかっただけで、彼はもっと善戦できていただろう。
 なぜなら、

「ゲコガシラ、水の波動」

 迫り来る炎の渦に対し、まるで砲弾のような巨大な水球が、ゲコガシラの手中で生成され、解き放たれた。今までの水の波動とは比べ物にならない大きさだ。
 その水の波動は容易に炎の渦を突き破り——テールナーへと、直撃する。
「テールナー——!」
 その一撃でテールナーは吹っ飛ばされ、岸壁に叩きつけられる。
 そしてテールナーは——戦闘不能となっていた。



はい、あけましておめでとうございます。新年初の更新です。しかしレストは、新年早々トイロに敗北してしまいましたが。文字数もかなりきついので、あとがきはこの辺で終わらせていただきます。次回はなにをするか未定ですが、とりあえず今回のゲコガシラの戦法の種明かしをしようかと。それではみなさん、今年もよろしくお願いします。次回もお楽しみに。

38話 敗北・激流 ( No.132 )
日時: 2017/01/02 00:00
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「負けたな……戻れ、テールナー」
「……やっちゃった」
 倒れたテールナーをボールに戻すレスト。トイロも、ゲコガシラを戻す。
 バトルが終わり、リコリスが小走りでやって来た。
「強いね、トイロちゃん」
「あぁ。また勝てなかった」
「そりゃあね。レスト君以上に、ゲコガシラの性質、特性をうまく生かしてた」
「どういうことだ?」
「ゲコガシラは身軽で、素早い動きとトリッキーな技で攪乱する戦い方が得意なポケモンなの。だけどそのぶん、攻撃力がちょっと控え目なんだけどね。でもトイロちゃんは、身代わりとゲコガシラの特性のコンボで、それを補ってたの」
「ゲコガシラの特性って……」
「激流だよ」
 トイロが答えた。
 特性、激流。テールナーの猛火のように、体力が少なくなると、特定のタイプの技の威力が上がる特性。激流の場合は、水タイプの技がパワーアップする。
「身代わりは自分の体力を消費する代わりに、攻撃を代わりに受ける身代わりを生み出す技。これ以上は言わなくても分かるよね」
「……自分からわざと体力を減らして、激流発動を狙ったってのか」
 それも、火力の上がったテールナーに倒されず、体力を調整するために。
 それを聞いて、レストは大きく息を吐く。トイロは、そんなにも考えてバトルをしていたのか、と。
 自分の視野の狭さを、思い知らされたような気がした。
 そんな折、ふとトイロが、呟く。
「レストくんとの勝負には勝てたけど……自分には勝てなかった、かな?」
「自分には……?」
「うん」
 コクリと頷くトイロは、言葉を続けた。
「本当はね。私、ポリゴンとオンバットだけで勝つつもりだった」
「な……っ!?」
 一瞬、それほどに自分は舐められていたのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
「でもレストくん強くて。ダメだった。結局ゲコガシラに頼っちゃった」
「なんでそんなこと……」
「自分を超えるため」
 はっきりと、トイロは言った。
「ゲコガシラは私のポケモンで一番強い。だけど、その強さに甘えちゃいけない。ポケモンの力に甘えてたら、自分を超えられない」
「自分を、超える……?」
 わかるような、わからないような。
 その言葉は、レストの中で反復し、響く。
 彼女の言う「自分を超える」とは、いったいどういう意味なのか。
「バトル、ありがとう」
「あぁ、いや……こっちこそ、ありがとな」
「私、もういくね。ばいばい。また会おう?」
「おぅ……」
 そう言うと、トイロはそそくさと立ち去ってしまった。ぼんやりしているように見えて、案外行動は早い。
「……変わった子だね、トイロちゃんって」
「そうだな。よく考えたら俺も、あいつのこと全然知らないし」
 同じ研究所で、同じようにポケモンをもらい、同時に旅立った仲間だが、彼女と一緒にいた時間は本当に短い。
 いったい、彼女はなにを思い、なにを考えて、旅に出たのか。
 ふと、そんなことを思った。



明けましておめでとうございます。お久し振りです。白黒です。色々あって、また本作の更新を再開することにしました。読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしましたことをお詫びすると同時に、今後ともによろしくお願いします。また、オリキャラに関しては、募集をかけたものは使用します。データはまだ残っているので。そのため、もしも変更、削除などの要請がありましたらお受けいたします。また、連絡等がない場合、オリキャラに関してはこちらで少々ポケモンの技などを弄ることがございます。ご了承ください。前話の最終更新日が、2014年の1月2日、0時0分。そしてこれが投稿されているのが、2017年の1月2日、0時0分だと思われます。ピッタリ三年の空白が空いてしまいました。他にも放置している作品の更新を再開する予定だったりするので、これまでのような更新速度は保てないと思われますが、どうにか書き切りたいと思っています。それでは改めまして、よろしくお願いします。


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