二次創作小説(紙ほか)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 血界戦線《来訪者は外からやってくる》
- 日時: 2015/08/21 21:07
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
- プロフ: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=115
ハローミシェーラ。兄ちゃんです。相変わらずここは魑魅魍魎で色々大変だけど、平穏に暮らしています。
今回手紙を送ったのは、突然空からやってきた人がいたから、なんとなく筆をとった。その日は本当によく晴れた日だった。出会った人はなんだか不思議な人だけど、どこかおもしろそうで。
これから話す話はかなり長くなるかもしれない。
けど、最後まで読んで欲しい。
今から話すことは、本当のことだから———。
オリキャラ
ハル=マユズミ(黛 巴瑠)
日本人。高校卒業後彼女の師匠カヲル=ニシキオリ(錦織 郁)から、ヘルサレムズロットの上空から落とされた。そこをランチトリオに助けらる。服装は現在は袴を着用。そのためよく注目の的になっている。黒い髪の三つ編みで、今ではメガネを外し、コンタクトを着けている。袴の袖の中に彼女の武器——ν[NEU]——が二丁隠されており、いざというときはそこから武器を出す。靴は魔改造されておりやれブースターだのやれ冷却装置だのとてんこもり。表情は普通の人並みにコロコロ変わる。最初こそ本当に空っぽのような性格だったものの、次第にヘルサレムズロットに毒されてきたのか、驚かれるくらいに明るくなっていく。とある能力と『特殊体質』、それととある秘密を抱えている。ランチトリオによく突っかかる。
カヲル=ニシキオリ(錦織 郁)
日本人。巴瑠をヘルサレムズロットの上空から落とした張本人であり、彼女の師匠。ちなみに男である。クラウスやスティーブンとは面識があり、巴瑠をライブラに入れたのも郁である。博士号を取得しており、日本にいる間はずっと研究室にこもりっぱなしの毎日だったという。現在はヘルサレムズロットに拠点を置き、また研究をしている。服装は昔ながらの男子の学ラン。手には細身で長い刀を手にしており、居合術を駆使する。おかっぱ頭と真っ黒い服装が特徴的。性格は至ってフレンドリー。見た目の割に43歳のおっさん。
随時更新予定
只今参照URLにてオリキャラ募集中。
一章のみの登場となりますのであしからず。
目次
《来訪者は》>>1-3
《黛巴瑠の》&《番外編そのいち》>>4-6
《八岐大蛇大作戦》>>7-11
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.7 )
- 日時: 2015/08/21 21:08
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
《八岐大蛇大作戦》
いつものように会社に出社して、いつものようにザップさんがクラウスさんに軽くのされて、いつものようにチェインさんが踏みつけていて、いつものようにツェッドさんが水槽の中にいて、いつものようにスティーブンさんがコーヒーを飲んでいて、いつものようにクラウスさんがプロスフェアーに夢中になっていて、いつものようにハルさんが黙々と読書をしていて、いつものようにK・Kさんが仕事でいなくて、いつものようにギルベルトさんがクラウスさんに紅茶を入れていて、いつものようにソニックが僕の頭の上で寝ていて。本当にいつものような日だったんだ。逆にいつもどおり過ぎて、少し怖い気もあった。けれどそれが日常であることは何らかわりはない。本当に静かだ。静かだっていうのはこっち———ヘルサレムズロット基準だけど。とにかく静かだった。そして暇過ぎて何もやることがない。しまった本全部読み終わっちゃったんだよなあ。ハルさんに借りようか。
「ハルさん、いい本とかあります?」
「ん」
そう聞くと、ハルさんは一冊の文庫本のようなものを差し出してきた。表紙を見てみると、『MURDER OF JUKKAKU-KAN』と書かれてあった。最後の部分がとうにも日本語っぽいから、日本の小説なのかな。んでもってmurderって書いてあるからミステリーとかそういう方面なのか。
「具体的にどんな話ですか?」
「『十角館』って呼ばれてる館で起こった殺人事件の話。大体はアガサクリスティの『そして誰も居なくなった』と同じ感じ」
「へえ。面白そうですね」
「面白いよ。暇つぶしに読んでみたら。貸すよ」
「ありがとうございます、読んでみます」
僕はハルさんから本をありがたく借り、暇つぶしに読んでみることにした。ハルさん曰く「わかる人は3人目でわかる」と言うことらしい。その前に1人目が誰なのかを予想つけておくか。
そうやってだんだんと読み進めていくうちに、僕は次第にのめり込んでいった。絶妙すぎる伏線が、物語を一層面白くしている。今はだいたい1人目の被害者が判明する頃だろうか。わくわくしながら次のページに進もうとしたその時。
『やあやあやあ!愚民たち!皆の堕落王フェムトだよ!!』
いきなりテレビがつき、その向こうにはいろいろとやらかしている『堕落王フェムト』がいた。よくみると傍らに『偏執王アリギュラ』もいた。ハインツのケチャップは固いよね……ブルース……
「またアイツか」
「知ってた」
『僕はね、また暇を弄んでいた!退屈なんだよ!!暇過ぎて死にそうなんだよ!これも君たちのせいなんだぞー。というわけで!なんとある生物を生み出したんだ!暇つぶしにね』
またかいい加減にしろよ(被害者)
『今回はね、本当に上手くできたんだ!!なんと!!8つの首を持った巨大竜だよ!!すごいでしょ!?(ガツンッ』
とフェムトがそういった次の瞬間だった。
突如外には、『8つの首を持った巨大竜』が、各地を荒らしながら飛行しているのが見えた。
『見えたかい?そう!あれこそが!!傑作とも呼んでもいい巨大竜——ヤマタノオロチだよ!!』
「……八岐大蛇、だって?」
その言葉に、今まで動じなかったハルさんが、ぴくりと顔を動かした。その顔は疑っているような顔で、外を睨めつけた。八岐大蛇って一体なんなんだ?ハルさんは一度下げた顔をもう一度外へと向ける。そしてふっと顔が緩くなって、大きな溜息をもらす。
『とりあえずアレを倒せるものなら倒してみるといい。倒せたら賛辞を送ろう。けど無理だろうね!じゃあね人類諸君!!』
ぷつりと映像が途切れる。皆はまたかと呆れていたり、ふざけんなと言わんばかりに額に青筋を立てたりしていたが、ハルさんだけまだ外を睨めつけていた。そしてまた大きな溜息をもらす。とりあえずハルさんに、ヤマタノオロチとはなんなのかを問うてみた。
「八岐大蛇———日本神話に出てくる化け物の一種でさ。その名の通り8つの首を持った大蛇なんだ。猛威をふるってはいたけれど、その後日本武尊(ヤマトタケル)によって倒される。悪役みたいなものかな」
「ふうん?で、アレは八岐大蛇かい?」
「全然別物ですよ。だって八岐大蛇は———空を飛ばない」
「成程。ということはアレは、堕落王が作ったまがい物というわけか」
「そう考えていいかと。でもあれ『ヒドラ』も混じってんじゃないかな」
「ヒドラってーと神話に出てきたヒドラか?」
「その通りだよ|SS《シルバーシット》先輩」
「おい犬女。こいつに変な知識吹き込んでねえだろうな」
「知らない」
「で、なんでヒドラも混じってると分かったんだ?」
「首が再生してる。ほらあれ」
外を指さしていうので、つられて見ると確かに撃たれてなくなったんであろう首がみるみるうちに再生されていく。あれを倒せってのか……無茶だ
「とにかく。堕落王があれを八岐大蛇だっていうのなら、倒せるは倒せるはず?」
「へ?」
「八岐大蛇は酒を飲まされて酔ってその後ぶっ殺された。からいけるはず」
「なるほどねえ……なら行けるかもしれないな」
「ただ」
ハルさんは少し一息おいて、こう言った。
「そんな大量でくっそ強い酒どこからもってくるんで?」
その言葉に場が凍りついた。それはまるで、スティーブンさんが技を繰り出した後のように。
「だから普通に殺すしかないよっていう話」
「やっぱりそうなりますか…」
「とりあえず。動向をうかがって作戦を開始しよう。カヲル氏を呼んではくれないか。ハル」
「呼ぶんですか……まあこういう事態には適任でしょうしね。わかりました」
クラウスさんにそう言われ、渋々ながらスマフォを取り出し電話をかける。それにしたって、あんな化物を倒すことなんて本当にできるんだろうか。首は再生するわ頭は8つだわ空を飛ぶわ、どうやって倒せばいいんだ?何か弱点でもあれば行けるんだろうけど……
「あの野郎……」
電話を終えてスマフォをしまうなり、いきなり怒気のこもった声でハルさんは呟いた。
「どうかしたんですか?ハルさん」
「いや、ちょっと殺意が沸いただけ」
その後ハルさんはカヲルさんに鉄山靠を食らわせていた。何があったのかは知らないけど。
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.8 )
- 日時: 2015/08/21 20:55
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「ほんとごめん」
「謝れば済む問題じゃねっつの」
ひたすらに謝るカヲルさんに、ハルさんは容赦なく頭を踏みつける。その状況になったのはいろいろとあって。
—数分前—
とりあえず迎に行こうと言う話になった時、ハルさんが「マッハで迎に行こう」と言い放った。何があったのかはわからないけど、早く行くことにこしたことはないということで、後からK・Kさんも合流してカヲルさんを迎に行くことになった。待ち合わせの場所を伝えてあるため、そこまで行けばいい話だったんだけれども、ハルさんが靴のブースターをMAXにして飛び出していった。スティーブンさんがあらかじめ付けておいたGPSでなんとか追跡できたけど、ついてみればそこには無残にもボコされているカヲルさんと、無表情でカヲルさんに鉄山靠や蹴りを食らわせているハルさんがいて、今に至るというわけで。
—現在—
「どう収集つけてくれんのかなこれは」
「いやほんと不可抗力だったんです」
「その口を開くなこの野郎」
「………スイマセンデシタ」
ぐりぐりと頭を踏みつけられるカヲルさん。どういう状況なんだこれは。いやその前に師匠が弟子に踏みつけられる現場って見たことないんだけど。僕らがそれぞれ八岐大蛇を見てたり、周囲の状況確認とかをしてる今この時に、そんな状況と鉢合わせした。
「何があったのかね」
クラウスさんがハルさんにそう聞くと、ハルさんは苦い虫を噛んだ様な顔をしながら、その口を開いた。
「あの竜の再生能力は、師匠が持ってた薬を奪い取って食べたことにあるんだって。だから厄介になったのはコレのせいっていう」
「本当はそれでおじさんから頼まれてた育毛剤を作るはずだったんだけど……」
「もういい、話すな」
「ぐえっ」
話している途中で頭を強引に踏みつけて無理矢理黙らせるハルさん。カヲルさんよりハルさんのほうが強いということが今良くわかった気がする。でもその薬を奪われて食われて再生能力を手にしたってなると、相当頭がいいのかな、あの竜。フェムトが暇つぶしに作ったとは言ってたけど、暇つぶしで八岐大蛇もどきを作れる方が僕はすごいと思う。
「おい。とりあえず作戦だ。まずはあの竜をどこかに固定させる。そして再生できないぐらいに攻撃してトドメをさす。弱点はカヲル氏からこの紙切れを読め、とのことだ」
「なんて書いてあるんですか?」
「んー………」
スティーブンさんがその紙切れを広げて、見た瞬間に眉をひそめた。
「早くしなさいよスカーフェイス」
「……だ、そうだ」
「?」
スティーブンさんが少し困った笑顔を浮かべて、その紙切れを僕たちに見せてきた。その紙切れに書かれていた内容はというと。
『ミンチ状にすればおけ』
という大雑把極まりないものだった。今ハルさんの気持ちが少しだけわかった気がする。確かにちょっとどういうことなんだこれ。ミンチって。ミンチにすりゃいいのか。つかそれのどこが弱点なんだ。ただの簡単にぶっ殺せる方法じゃないのか。
「……八岐大蛇は……神話の中では……酒を大量に飲んで酔った後に……素戔嗚(スサノオ)っていう神に……切り刻まれて死んでるから……そういう結論にいたっ」
「弱点は?」
「………首、再生させなければ勝てる」
「どうやって?」
「首の断面を凍らせたりとか……再生できないぐらいに燃やすとかして……」
そこまで言うとカヲルさんは気絶した。でもまあこれで有力な情報はゲットできたわけだ。あとはその八岐大蛇にどうやって攻撃するかなんだけど。まさかこのまましたに下ろすわけにも行かないよなあ。人はいっぱいだし建物にも人いるし。万が一そうなったら被害は計り知れないだろう。となると開けた場所におとすって手になる。開けた場所となると、以前のトラック騒動で最後にトラックが突っ込もうとしたあのでかい場所になるだろうか。あすこなら行けるかもしれない。となると……
「あとはどうやって落とすかだな」
「落とすにしたって、そこまで誘導して落とさないといけねえっしょ」
「そうねえ。どうやって誘導して、いかにして落とすか、ねえ……」
「そう考えるとこの作戦を頼めるのは」
クラウスさんがそこまで言うと、みんながみんな僕を注目した。え、まさか
「レオナルド君。君にやってもらいたいことがある」
「ですよねわかってましたよもう」
その場所に誘導できて、なおかついい感じにその場所へ落とせる適任者は、自然に僕になる。多方そうだろうとは思ってたけれど。思ってたけど!!
「その様子だとわかってるようだな、少年」
「ええ。嫌でも想像つきました」
「なら大丈夫だな。では作戦に移ろう。まずは例の場所に向かわせるように方向転換をさせる。その時に少年が誘導しやすいようにその場所へと顔を向けさせるぞ」
「あ、僕もやるよ。つかそれなら僕にやらして」
いつの間にか復活していたカヲルさんがそんなことを言い出す。その時の表情はなにか企んでいる顔で、ニヤッとしていた。少しぞっとした。カヲルさんは刀を握り締めて、さっさと行ってしまった。それを追うように、クラウスさんがツェッドさんに、カヲルさんを手伝うよう言ってツェッドさんもまたその場から去る。
「やれやれ、すばしっこいひとだな」
「あの師匠はそういうところあるから」
「チェイン、あの竜の動きを逐一報告してくれ」
「わかりました」
「よし、いくぞ!!」
その言葉とともに、《八岐大蛇討伐作戦》は開始された。
「全く…飽きないねえあの連中も。ま、それなりに楽しめればいいけどねえ」
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.9 )
- 日時: 2015/08/21 20:57
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「さてと始めようかな。おじさんの恨み果たさせてもらうからね」
遠い地日本にて指をくわえながら待っている毛根が残念な依頼者のおじさんに謝りながら、僕は呟く。腰の左側に携えていた細身で長い刀を握り締めて、竜の真下に立つ。その影は巨大で、ビル2本をまるごとすっぽりとおおっていた。いや2本どころじゃない。下手したら6本はすっぽりと覆っていそうだ。って規模が違いすぎるか。ま、そんなことはどうでもいい。まず今僕がなすべきことなのは、開けた地点にまで誘導させるために、首をそちらへと向けさせることだ。現在の方角より少し右寄りだったかな。
「僕はこれでも、居合術マスターなんだよ?」
次の瞬間、竜の首の1つがぼとりと地に落ちてきた。鳴り響く地響き、揺れる大地、ひび割れる道路。首は瞬く間に切り落とされていた。ちなみに僕がいるのは竜がいるビルの屋上だったりするんだなー。つまり僕自身に被害はないってことなんだよ。
「で、首が再生されると」
竜を見ると、先ほど切った首の断面からまた新しい首が生えてきていた。そして何事もなかったかのように活動を再開する。すごいや僕の薬。食べられたのは勿体無いけど。竜は自分の首を切り落とした相手を見つけると、すぐさま敵意をむき出しにした。ひゅう、8つの首で睨まれると流石にぞっとくるものがあるね。ちょっとだけ怖いって思っちゃったよ。でもね
「目を潰さないとは限らないよね!」
刹那、そいつらの目は的確に潰れていた。大丈夫大丈夫。どうせ再生するからあの少年がする作戦には何ら問題はないさ。これは「その場凌ぎ」に過ぎないから。とはいえ1人じゃきっついものがあるねえ。せめて誰か来てくれると嬉しいんだけど。現に僕、目が再生したやつに食われそうになってるし。
とか思ってた時だった。
「『斗流血法刃身の弐
|空斬糸《くうざんし》』」
突然僕の後ろから赤い糸のようなものが、やつの全ての口を塞ぐ。若干グググと耳障りの音が聞こえる。確かこの術を使えるのってあの2人だったよな。今来てるのはどっちなのかな、と思ってつい後ろを振り向いてみた。するとそこには
「無事ですか?」
斗流血法シナトベの後継者っていったっけ、ツェッド・オブライエンくんだっけか。そんな彼がいた。長いからツェッドくんって呼ぼう。それにしてもさすがは斗流血法。どうやってあんな糸を形成してんだろう。研究者としてはとても気になるところだね。でも今はそれどころじゃないからそれは置いておくとして。
「なーんも怪我なんてないよー」
「よく無事でしたね……もしかしてさっき首が落ちてきたのって」
「僕がやった」
「やはりそうでしたか」
ため息をつきながらツェッドくんは僕を見据える。あきられたかなー、僕だって戦えるんだけどそう見えないかな。だとしたらちょっとショック。
「あまり無理はしないでくださいね?ただでさえハルさんから蹴りだの鉄山靠だのもらってるわけなんですから」
「あーうんそういうことか。大丈夫だよよくあったことだし慣れてる。それよりもほら方向転換させないといけないでしょ?」
「そうですね。今はそちらに専念した方がいい。『斗流血法シナトベ刃身の伍』《突龍槍》」
そう言って糸を解き、こんどはその赤い糸のようなもの——血——でできた槍を出した。どうやったら血からあんなのできるんだろ。でも今はそんなことどうでもいいや。あれをなんとかしないとね。
「『錦織流居合術
紫電一閃』」
次の瞬間にはもう8つの首のうち、3つがぼとりと落ちていた。これが僕の流派、『錦織流居合術』だ。その目には刀の動きすら見えぬ。これこそが錦織流居合術。知らないあいだに相手は切られてるんだよねえ。取得するまではかなり時間かかったけど。
「ツェッドくん、やつの右半分は僕が片付ける。君は左半分を頼むよ」
「真ん中が残りますが、どうします?」
「一緒にやってしまえば問題ないだろう?」
「わかりました」
「だがあくまでもここは最初の作戦。トドメをさしてしまわないようにね。僕たちは方向転換させるだけなんだから」
「心得ていますよ」
「ま、弱体化させるのもいいかな」
とかいいつつ、僕はちよっと離れたところにいる人狼———チェインさんに目配せをした。だってもう方向転換はしてるからね。
—第2作戦場所《少し離れた所にいるスティーブンとレオ》—
『予定方角に向きました』
「了解。じゃ作戦始めようか、少年」
チェインさんからの連絡を受け取ったスティーブンさんが、竜を見たまま僕にそう告げる。ついに来たか。僕はゴーグルを外して顔を上げる。僕の成すべきことは、『やつの視界をジャックして開けた場所に誘導して落とす』こと。失敗は許されない。長いため息を1つ漏らして、くっと空を見上げたその時だった。
『!?……あれは……?』
「チェイン?どうした」
『2人がいる場所へ巨大な何かが接近中です』
「どんなのだ?」
『それが……蟹、のようなもので』
「蟹ぃ?」
「蟹!?」
なんのことだかさっぱり分からないけど、蟹と言う単語が出てきたことにびっくりした。何がどうなって蟹が出てくるんだ?
『とりあえず、邪魔してこないうちに竜を片付けた方がよろしいかと思われます』
「そうだな。うかうかしていられない。少年、やるぞ。奴の視界をジャックしてくれ」
「……はい」
僕は少し混乱している頭をどうにかしながら、竜を見上げた。奴の頭は8つ…目は16…全てをジャックして誘導させる!
『神々の義眼』発動
目を開くとばっと視界が変わる。どうやらジャックに成功したみたいだ。でもこれで終わりじゃない。僕はスティーブンさんにサインを出すと、スティーブンさんはそのまま歩き出した。それに続くように僕も歩き出す。すると竜もつられて動き出す。このまま…視界をジャックして…あの場所に落とす!
でもまさか、この時の僕は知る由もなかった。
『巨大な何か』が僕らの後ろにいることなんて。
—第1作戦場所《カヲルとツェッド》—
突如現れた巨大な蟹を見て、僕は感心と呆れが入り交じったような心情になる。その蟹は先ほど移動を開始した八岐大蛇に目線が行っている。こっちには気づいてもないし、レオくんたちには目もくれない。
でもなあ。
「よりにもよって神話再現とはたまげたなあ」
「神話再現とは?」
「ヒドラっていうやっぱり蛇がいたんだよ。アレみたいに切られても首が再生するやつ。そいつを倒すためにヘラクレスが戦ってたんだけど、そいつを倒させまいとしてヘラって女神が放った大蟹がヘラクレスを挟もうとしたって話」
「その後はどうなったんです?」
「あっけなく踏まれて瞬殺だ」
これもフェムトが楽しみたいがために作ったやつなんだろうけど、流石にここまで巨大だとね、こっちも困っちゃうね。おまけに奴とて甲殻類の一種。当然外側は硬い訳だろう?そうなると刀の刃が通じるかなんだよねえ。槍なら貫けそうだけど、そのまえに貫けるぐらいの力をもってして遠くから投げないとねえ。いやツェッドくんならそれは可能か?でもなああんまりそういう趣旨のものは聞きたくないんだよねえ。失礼に値することもあるから。
「でもこのままほっとくのも気が引けるなあ。邪魔しないとは限らないから」
「となるとここで倒すしかなさそうですね」
「そうだねー。んじゃまずはこっちに気を惹かせますか!」
僕は刀をもう一度握り締めて、奴のハサミへと残激を放った。カインと人を若干バカにしたような音が鳴ると、蟹はそれに気づいたのか僕らを探し出し、見つけるやいなやこちらを睨んできた。「奴の首を切ったのはお前たちだな」と、そんなことを言い出しそうだった。仕方ないじゃないか、あの堕落王が遊びで生み出して、遊びで僕らをぶっ殺しまくってるんだから。倒さないといけないんだよ。あとおじさんの恨みもあるし。蟹は僕たちを睨みつけたあと、ハサミを振りかざした。
「あぶなっ」
「!!」
スローモーションのようにハサミが僕たちのさっきまでいた場所に落ちてくる。ちなみに僕たちはビルの屋上から既に飛び降りていて首が落ちた場所にいたりするので、怪我はひとつもない。そしてその振り下ろされたビルはがらがらと倒壊し始めた。綺麗に落ちるねえ。いやあすごいすごい。
「さてと、こっから本番といこうか?行けるかい、ツェッドくん」
「もちろんです」
「よし、じゃあこの蟹は僕たちが美味しくいただこうか!!焼いてもよし煮てもよしだからね!!」
僕は倒したあとの蟹鍋とか蟹の肉とかを想像して、若干腹をすかせながら蟹の足に飛び込んでいった。
「できることなら、蟹味噌も食べたいなー!!美味しいんだろうなー!!」
とか言ってたら本気で蟹食べたくなってきたんだけど。
この巨大蟹倒したら食べれるか試そうっと。
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.10 )
- 日時: 2015/08/21 21:01
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
誘導して、落とす。
それが僕がやるべきこと。失敗は許されない。そんな思いがどんどん流れ込んてくる。失敗は許されない。失敗は許されない、失敗は許されない、失敗は許されない、失敗は許されない失敗は許されない失敗は許されない失敗は許されない失敗は許されない失敗は許されない失敗は許されない失敗は許されない失敗は
「少年!」
「っ!!」
気がつくと汗が流れていて、動悸も早くなっている。それに加えて息も荒くなっていた。目の方はなんともなかったみたいだけれども。手はかすかに震えていて、なんだか寒い。口元も口を開けたまま震えている。
「……任務を遂行することに集中して我を忘れるな。確かに失敗は許されないが、考え込むと命取りになるぞ」
「……………はい」
「ゆっくり呼吸をしたらどうだ、少年」
と言われたので取り敢えず深呼吸をした。すると自然に呼吸も動悸も落ち着き、ふっとリラックスした。体の震えも少し収まったみたいだ。僕は改めて前を向く。視界は変わらず、ジャックも何事も無い。そのことが僕をさらに安心させた。肩ではソニックがさっきから僕の頬をむにむにつついていた。ありがとうソニック。
「いけるな?」
「はい、このまま予定地まで行きましょう」
「よし。さっきも言ったが、あまり考えすぎるなよ」
僕たちはまた止めた足を動かす。目的地まで、後少しだ。
「ひとぉつ!!」
ズズゥンと脚が1つ落ちる。でかいから地面にめり込み、少し揺れを感じる。ただやつは脚をひとつ失っただけでは止まってはくれない。蟹はハサミをまた僕に振りかざす。大きいからだろうか、それともその巨大さゆえにハサミが重いのだろうか、動きはかなりもったりとしている。これじゃ交わしてくれと言ってるようなものだ。多少余裕を持って僕はそれを軽々とよける。そして間髪入れずにハサミの根元の部分を切りつける。
「『錦織流居合術
晴嵐』」
突然嵐のような風が吹いたかと思うと、その瞬間にハサミは根元から切り落とされていた。至る所に刀でつけられたような傷がついている。中身は今は気にしないでおく。
「ふたつめ!!」
上からツェッドくんのそんな声が聞こえてきた。見ると貫かれたんであろう脚が、ぼとりと落ちてくる。あと何本だっけ、まあいい。とりあえず殺ればいい話のこと!!とか思ってた時だった。
突然脇腹に鋭い痛みが走る。
「ぐっ………!?」
見ると脇腹には蟹の脚が刺さっていて、それをやつは心底楽しそうに僕を見ていた。足が引き抜かれると、僕は口から少なからずの血液を吐き出した。あたりに赤い液体が飛び散る。
ナローよくも右脇腹にさしやがって…
僕は痛みに耐えながら刀を握り締め、さした脚を切る。みっつめえ!!脚は重力によって地に落ちる。落ちた場所は割れ、地面にめり込んだ。いってえ、ちょっと振りすぎた…。それを心配してからか、ツェッドくんが駆け寄ってきた。
「本当に大丈夫ですか!?」
「へーきへーき、この程度ならまだ行ける」
「この程度って……脇腹に刺されてこの程度って!」
「!!ツェッドくん!後ろだ!!」
後ろにはなんとトドメをささんとする蟹がこちらをめがけて脚を出してきていたのだ。
すぐさま後ろを振り返り、ツェッドくんは槍をぶん投げる。見事に的中、脚は根元から貫かれ、無様に落ちていく。
そこで蟹にも痛覚の限界がきたようだ。
やつは脚をたくさんを切られた痛みだからだろうか、そこら中をもうひとつのハサミで壊しまくる。いわゆる暴走をし始めた。あちゃーやっちゃった。次々に壊れていく建物。どんどんハサミのせいで見る目もなくなっていく。
「カヲルさん、脇腹以外は無事ですか?」
「おかげさまでね、脇腹以外は」
「ここまで暴走するとはおもいませんでしたが……このまま細々とやっていては終わりそうにないですね」
「んじゃ、僕の奥義を見せる時か」
「?」
僕はすっくと立ち上がり、刀を握り締める。口元が不意に緩む。ちょっと楽しいが2割、本気にさせたことを後悔させてやるが8割。あと蟹食べたいが少し。こんなに馬鹿でかい蟹を相手するのは、流石に初めてだ。だからこそ燃え上がるもんなのかな。
実はさっき嘘をついた。脇腹以外は傷は負ってないって言ってたのは真っ赤なウソ。本当は擦り傷が至る所にある。気にならない程度だったからあえてスルーしてたわけで。でもちょっと痛いかな。僕はずきりと傷んだ脇腹のあたりを少し押さえる。汗がひとつ流れる。そして口からはふっと息が漏れた。
「『錦織流居合術』」
僕は暴れまくる蟹を見据え、刀を強く握り締めた。ふと、笑がこぼれた。
「『桜花乱舞』」
次の瞬間には、蟹はものすごい音とものすごい地響きをさせながら崩れ落ちていく。そこには、幾万の桜の花びらが舞散っていた。風が少し強くなった気がする、桜は吹雪のように踊っている。これが夜だとかなりいい景色になってたんだけどね。ともかく、これでお仕事は終了したわけだ。あ、まだ脇腹いたい。見るとそこからは赤い液体のようなものがこびりついていた。多分血だろう。そのせいか足元がふらつく。目の前が次第に暗くなってきた。血が口から流れ出す。
「カヲルさん、大丈夫ですか?」
「あー………」
その言葉を聞いたのを最後に、僕の意識は暗闇に落ちていった。
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.11 )
- 日時: 2015/08/21 21:04
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「そろそろだ、少年」
しばらく歩き続けたあと、スティーブンさんがそう言う。目的の場所についたみたいだ。ちらっと見えただけだけどハルさんやクラウスさん、それにK・Kさんやザップさんもいるみたいだ。そして頭上には巨大な8つの首を持った竜。あとは落とすだけだ。その前にスティーブンさんが、技で地面を凍らせる。地面が割れないようにするためだろうか、つるつるすべらせるためだろうか。そういうのってザップさんのあのネットの技の方がいいと思うけど。その前にケリをつけるのかな
「よし、今だ。落とせ少年」
さてと。平眼球ども、俺に従え!!
『|視野混交《シャッフル》』発動
スティーブンさんをきっかけに、竜の視界をシャッフルする!ちょうど8つの頭で16の目を持ってるんだ、ほかの人を巻き込まずにすむ!!さあ落ちろ!!俺に従え!!
ものの数十秒後、竜は目の情報についていけず、たまらず地面に落ちた。凍らせていたおかげだろうか、地面にめり込む程度で済んだ。幸いにも地面が割れたりとかそういう類のものはなかった。それをいいことにハルさんクラウスさんK・Kさんたちが一気に攻撃を仕掛ける!!
「『|74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》
|破壊銃《ウニジダーズィニィ・ピストゥアリエット》』」
「『|954ブラッドバレットアーツ《血弾格闘技》
Erectriggr 1.25GW』」
「『ブレングリード流血闘術11式
|旋回式連突《ヴィルベルシュトゥルム》』」
次々に攻撃を決めて首をブチ抜く。というかもう倒せるんじゃないかってくらいだ。でも首を全部切り落としたりとかしない限りは無理なんだろうなあと勝手に推測したりする。あっという間に首は全部消えて、スティーブンさんとザップさんが待ってましたと言わんばかりに構える。まずスティーブンさんが首のあたりに素早く何かをさしていく。そして
「『エスメラルダ式血凍道
|アグハデルセロアブソルート《絶対零度の小針》』」
次の瞬間にはもう大半の首の断面が凍っていた。不思議なことにそこからは首は生えてこない。なるほど、凍らせて傷口を塞いだのか。違う方をちらりと見るとすでにザップさんが
「『斗流血法
|大蛇薙七獄《おろちなぎしちごく》』」
再生し始めた別の首を切りながら、その断面を見事に焼いていた。すると本当に首は生えてこない。焼くと首って再生しないんだ…細胞燃やされるからかな。ともかくこれで準備は整ったわけだ。
「集団リンチちゃーんす」
ハルさんのその言葉を合図に、一斉に全員が飛びかかった。
「『|74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》
|惨殺弾《カルネージショット》』」
「『|954ブラッドバレットアーツ《血弾格闘技》
Erectrigger 1.25GW』」
「『エスメラルダ式血凍道
|ランサデルセロアブソルート《絶対零度の槍》』」
「『斗流血法
|大蛇薙《おろちなぎ》』」
「『ブレングリード流血闘術111式
|十字殲滅槍《クロイツヴェルニクトランツェ》』」
皆の技がほぼ同時に繰り出された瞬間、大きな爆発音と爆風とともに、僕の意識はそこで途絶えた。
「巨大蟹も殲滅、メインの竜も討伐完了。被害はそれこそ大きかったが、再生技術が見直された。これが大きいかもしれないね。まったくカヲル氏には頭が下がるばかりだ」
「それにしても随分なパーティーと言う名の大惨事、でしたねえ」
「はは、やつの考えそうなことだねえ。まなにはともあれ、生存おめでとう!」
またこのパターンか。
顔まで包帯がグルグル巻にされ、呼吸器を取り付けられていた。つかおめでとうじゃないでしょ。おめでたくないでしょ。一番被害受けたの僕じゃないですかねえ?いろいろな意味で。
「あの爆風から逃げようって気になったのが俺は驚きだ。つかよく逃げられたなおい。って逃げられてねえか」
「それでもあの爆発に巻き込まれて生きていること自体すごいですよ」
「それな」
カーテンの外ではすき放題に言っている。冗談じゃねえぞコレ……
結局あのあと、僕は爆発に巻き込まれて、瀕死の重症を負ったらしい。そのあと駆けつけたツェッドさんは、蟹との戦いで負傷したカヲルさんを抱えて病院に搬送したらしい。ちなみに僕はハルさんにプロレス担ぎのような持ち方で搬送されたという。怪我の程度は、僕の方がカヲルさんより重いという。そりゃなあ。全身やけどと脇腹に刺されたってことを比べるとなるとそうなるよなあ。ちなみにカヲルさんは僕の隣で安静にしているとのこと。
「レオナルド君、君はよくやった。誇り給え」
クラウスさんが外からそう言ってくれる。そう言ってくれるのはクラウスさんだけです…ありがとうございます…
「ああ嫌だ。どこかの冷血漢のせいでレオっちがこんな重症を負うなんて。どうしてくれんのかしらね」
「おいおいK・K、酷くないかい?」
「黙りなさいスカーフェイス」
そんなこんなでいろいろ言い合いをしていたものの、次第に1人2人と帰っていった。気がつくと全員帰っていた。なんか静かだなと思ったら。
「2日くらい様子見て退院ね、おめでと」
「は」
ソニックが肩に乗り、僕はどこへ向かうでもなく病院の庭みたいな場所を歩き始めた。異様に静かで、気味が悪かったけれども、昼間なのでそこはスルーしておく。木漏れ日が少し綺麗だったので写真に写してみる。うん、なかなかいい写真が撮れたんじゃないかな。
なんとなく今まで撮った写真を見返してみる。あれこんなの撮ったっけ…?まあいいや。うわ懐かしいなこの写真。ってそういえばソニックとの写真撮ってなかったな。ソニックに写真撮るかと言うと、ポーズを決めてきたので、僕も映りこんで写真を撮った。
「あは、ブレてら」
そう言って写真を見ていると、ふと後ろから
「っ……ふふ、貴方なんでこんなところで写真撮ってるの?」
と、若い女の子の声だろうか、はっきりとした声が聞こえてきた。声が聞こえたそっちを慌てて見てみる。そこには、白いワンピースか何かを着た、ツインテールの女の子がいた。こんなところ?と思って周りを見回してみると、そこには墓が。墓地…?いつの間にか僕はこんなところに来てたのか。
「え、ああ、いや、なんか散歩してたら…こんな、ところに?」
「ふふふ、散歩してたらくるなんてことあるのね」
「へっ!?え、えっとあの、いや、その…」
「まあ好き好んでこんなところに来る人なんていなさそうだものね。だから私ぐらいしかいないんだわ」
女の子は面白そうに言うと、僕に目を合わせてきた。吸い込まれそうな綺麗な緑の瞳だった。
「君は……誰なんだ?」
そう聞くと、彼女は笑みを浮かべて
「あたしホワイトっていうの!!幽霊なのよ!!」
にひっとそういった。
「友達にならない?レオナルド!」
幽霊が…僕と友達になりたいだって?
《八岐大蛇大作戦》終