二次創作小説(紙ほか)
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- 十六夜九衛門物語〜風林火山〜
- 日時: 2015/09/02 21:59
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
この小説で、手裏剣戦隊ニンニンジャーに登場する敵幹部、十六夜九衛門の魅力を伝えられると嬉しいです!
- Re: 十六夜九衛門の日常 ( No.1 )
- 日時: 2015/07/06 13:38
- 名前: モンブラン博士 (ID: CMSJHimU)
ある晴れた土曜日のことです。
狐のお面に虎模様の和服を着た牙鬼軍団の幹部のひとり、十六夜九衛門(いざよいきゅうえもん)は、上司である晦正影(つごもりまさかげ)から都会に買い物に行ってくるように頼まれました。
いつも自分の名前を「八衛門」だの「十衛門」だのと正しく言って貰えない彼は少々不満でしたが、言う事を聞かないわけにはいきません。仕方なく、マイバックを持ってアジトの近くにあるスーパーへと向かいました。
「えっと、ジャガイモを3個にニンジンを2個、それからカレールー……」
メモ帳に書いてある食料品を見る限り、晦は今夜はカレーを食べたがっていることがわかります。彼はカレーに必要な最後の材料であるカレールーを取ろうとして、はたと考えました。
『僕はカレーよりシチューの方が好きだ。あの狸爺に好物を料理するなんて癪に障る。それならば、品切れだと言ってシチュー用のルーを買えば僕の好物を食べる事ができるはずだ。少なくとも正影様は買い物に行っていないのだから、気づかれることはないし、文句を言われる筋合いもない』
そう考えた九衛門は、悪戯っぽく微笑みを浮かべ、シチュールーを買い物かごに入れました。
さて、買い物帰りのこと。
彼は帰り道の途中で、以前から入ってみたかったゲームセンターによってみることにしました。幸いなことに、買い物をした後に出たおつりは好きに使っていいと上司から言われていたのです。
それを思い出した彼は、さっそくゲームセンターの自動ドアをくぐります。明らかに異形の姿をした九衛門ですが、従業員や客達は、特に疑うことはありません。ばれたらどうしようかと内心ヒヤヒヤだった彼は、ほっと息を吐き出しました。
さて、数多くあるゲーム機の中で彼が選んだのはパチンコ……ではなく、もぐら叩きゲームでした。
「妖術、肥大蕃息(ひだいばんそく)の術!」
味方の妖怪を巨大化させるときに呟くセリフを吐きながら、彼は初心者とは思えない卓越した動きで、萌袖でありながらそれをものともせずに、見事すべてのもぐらを叩いてしまいました。
手持ちのお金をすべて使い果たした彼は、上機嫌で帰り道を急ぎます。けれど、そんな彼の前に立ち塞がる者が現れました。
体格のいい黒い西洋風の軍服を着た強そうな男です。
軍服の胸のあたりに真っ赤なバラの刺繍が施されています。
「君は誰だい?」
突然現れた相手に対し、萌袖を揺らし首を傾げながら訊ねる九衛門。
すると相手は黄色い目を怪しく光らせ、腰に携えた鞘から長剣を引き抜き、闇のエネルギ波を彼めがけて発射します。ですが、九衛門の正体はラストニンジャと謳われ数多くの伝説を残している伊賀崎好天の元弟子。そう簡単に相手の攻撃を食らうはずもなく、変わり身の術で避けます。敵と背中合わせになると、その中性的な声で言いました。
「予告もなく攻撃するなんて、なかなか荒っぽい事するじゃないか。
まあ、そのぐらいの攻撃、僕に当たるはずもないけどね」
「フフフフ……さすがは腐っても牙鬼軍団幹部だけのことはある」
「へぇ、僕が何者か知っているの?」
「無論、十六夜九衛門であろう。私の名はシャドーラインの黒鉄将軍シュバルツ!貴様の命を奪いに来た!」
- Re: 十六夜九衛門の日常 ( No.2 )
- 日時: 2015/07/06 19:45
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
「シャドーライン? ああ、思い出したよ。確か去年の戦隊の敵組織だったねぇ。でも、去年にお役御免なはずの君がどうして僕の命を狙うのかな」
「ほう……我らの事を知っているようだな、ではグリッタ嬢の事は知っているか」
「グリッタ嬢ね、分かるよ。君を一途に慕っていた女の子だよね。でも、彼女と僕と何の関係があるのかな」
「大ありだ!」
将軍は振り向き彼を斬りつけますが、相手は瞬間移動で回避していました。
「ウフフッ、無駄だよ。君は軍人としては強いけど、忍者と闘うのは無謀だよ」
「黙れ、九衛門。私は貴様が憎くてしょうがない……!」
黄色い目に殺気を宿し、拳を音が鳴るほど握りしめるシュバルツ。
一体彼はどうしてそこまで九衛門に敵意を向けるのでしょうか。
「楽しみの密偵ラッキューロ、グリッタ嬢に次ぐ第三のマスコット的立ち位置の敵幹部だ。つまりそれが何を意味しているか……我がグリッタ嬢の人気低迷に直結しているという事だ!!」
闇の斬撃を二発も炸裂させる将軍に、九衛門は武器である小槌を長刀に変形させそれを受け止め左右に弾き返します。そして彼の懐に入ろうと急接近します。ですが闘いのプロである将軍は、彼の剣を捌いて隙を与えようとしません。
忍術においては有利な九衛門ですが、そこは小姓という役割上、剣術に関しては常に前線、それも単独で修羅場を潜り抜けてきた将軍には及びません。
「どうやら僕は、君をみくびっていたようだね。少なくとも剣の腕だけは牙鬼軍団一番槍、蛾眉雷蔵(がびらいぞう)殿と同等の実力があると言えるね……」
「シャドーライン屈指の武道派である私の実力の程が分かったようだな。ならばそのままくたばるがいいっ」
ここで九衛門は後ろに飛び退いて間合いを取ると、静かに笑います。
「何がおかしい!?」
「君は僕を倒したい。でも残念だったね、僕はこれから晦正影様のいるアジトへ帰って夕飯の支度をしなくちゃならないんだ。だから、この勝負の続きはまた次にしよう」
「よかろう、九衛門。だが、試合時刻と場所はこちらが指定させてもらうぞ」
「その方が面白いだろうからねぇ。じゃあ、君から決闘状が来るのを楽しみにしているよ」
彼は踵を返し、煙のように消えてしまいました。
それを見た将軍は、ニヤリと策士的な笑みを浮かべます。
「十六夜九衛門、残り少ない日々を精々楽しむがいい。フハハハハハ……」
- Re: 十六夜九衛門物語〜風林火山〜 ( No.3 )
- 日時: 2015/07/07 17:36
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
牙鬼軍団のアジトでは、晦正影が十六夜九衛門を呼び出して何やら話をしています。どんな話をしているのでしょう。
「これ、八衛門」
「九衛門でございまする!」
「そうだったの、八兵衛」
「誰が水戸黄門ですか!」
「フォフォフォ……」
憤慨する九衛門に対し、穏やかな微笑む正影。
ですが次の瞬間、彼は得物である杖と槍が一体化したものを彼の喉元に向けます。
「正影様、何をするのですか」
「フォフォフォ……十衛門。蛾眉は騙せても、このワシは騙されんぞ」
「私があなた様を騙すなんて滅相もござまいません」
「ではこれは何だというんじゃ!!」
九衛門の目の前に彼が見せつけたのは、シチューの入った大鍋です。
「わしは買い物前にお主に忠告しておったはずじゃ。今夜はカレーが食べたいと。じゃが、これはシチューではないか?」
「左様でございまする」
「さて、お主はこの現状をどう説明するつもりじゃ」
九衛門は袖を口元にあててコホンとわざとらしいせきをした後、口を開きます。
「カレールーが売り切れていたのでございまする」
「……それなら仕方あるまい。許してやるとするかのぉ」
上司に許された九衛門は密かに腹黒い笑みを浮かべ、好物をお腹いっぱい食べました。
- Re: 十六夜九衛門物語〜風林火山〜 ( No.4 )
- 日時: 2015/07/07 18:03
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
快晴の土曜日、シュバルツ将軍から十六夜九衛門宛てに決闘状が届きました。
「やっと来たか。それで、場所はどこを指定したのかな……?」
どこか嬉しそうに封筒を開け中身を確認した彼は、驚きのあまり目を見開きました。
「こ、コレは……!」
翌日。
九衛門とシュバルツ将軍の二名は、国立競技場に来ていました。
競技場の人工芝の中心部には白いプロレスのリングが設置されています。
「いやぁ、流石の僕も驚いてしまったよ。まさかプロレスで雌雄を決するなんて考えてもいなかった」
「フフフフ、私は手裏剣戦隊ニンニンジャーを毎回録画し、貴様の僅かな戦闘シーンから打倒策を考えた。このリングの上ではあらゆる武器の使用が禁止されている。
私の剣も貴様の小槌もな」
そうなのです。
九衛門にとって小槌は大事な武器。
これがないと雷召喚の術や肥大蕃息の術、がじゃろくろ召喚の術が使用できなくなるのですから、苦戦するのは必死です。
しかしながら彼はそれはそれで面白いと考え、潔く小槌を放り投げリングへ上がります。
続いて将軍も剣を下に置き、ひらりとロープを飛び越えリングインしました。
カーン!
どこから鳴らされているか分からないゴングが鳴り響き、因縁の対決の幕が切って落とされました。
「うおおおおおっ」
「はあっ」
両者共に突進していき、肩をぶつかり合わせます。
ですが体格的に有利な将軍がタックル対決は制し、九衛門をビックブーツで蹴ってロープへ跳ね飛ばします。跳ね返ってきた彼を受け止め、パワーにモノをいわせて再度スープレックスで放り投げ、堅いマットに叩き付けてしまいました。
「どうした九衛門。小槌がなければ貴様の実力はそれだけしかないというのか!?」
彼を煽りつつその顔面を踏みつけようとしますが、狐面の物の怪はそうはいかないと足を受け止め彼を転倒させますと、素早く起き上がってコーナーポスト最上段へ大きくジャンプ。
「ウフフフ、アハハハハハハハハハハハハハ!!」
ムーンサルトプレスを敢行しますが、体重が軽いため将軍が待ってましたとばかりに担ぎ上げてしまいました。
「十六夜九衛門、我がグリッタ嬢におとなしく人気を譲るがいいっ!」
激しくカナディアンバックブリーカーで背骨を攻めますが、彼は笑ってばかり。
「小癪な! ならばこれはどうだ?」
空高く相手を打ち上げ、それを追いかけ背中合わせになると両腕で頭をクラッチし、両足で相手の両足もロックして、そのまま落下していきました。
「マッキンリー颪(おろし)〜っ!」
- Re: 十六夜九衛門物語〜風林火山〜 ( No.5 )
- 日時: 2015/07/07 18:24
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
将軍が繰り出した必殺技は元はポーラマンというキン肉マンに登場する超人の技ですが、悪役である彼には些細なことでしかありません。
ともかく、マッキンリー颪をまともに食らった九衛門はこの試合初のダウンをしてしまいました。けれども彼は幽霊のように平然として起き上がります。
「貴様、まともに受けてダメージを感じないのか!?」
「生憎僕はそんな玉じゃないんだよ」
「バカな……」
動揺する将軍を彼は捉え、回転しながら上空に投げます。
華奢な容姿にみえて意外と腕力はあるようです。
「疾きこと風の如く!」
それを追いかけローリングクレイドルをかけつつ更に上昇し、
「静かなること林の如く!」
続けざまにパイルドライバーで敵の脳天をキャンバスに串刺しにして、
「侵略すること火の如く!」
止めに上空でパロスペシャルを炸裂させました。
「動かざるごと山の如しーっ!」
「ゲホッ……」
九衛門の風林火山の威力に、口から血を吐きキャンバスに倒れ伏すシュバルツ。
この瞬間、十六夜九衛門の勝利が決まりました。
試合後、敵であった将軍が健闘の握手を求め、こんなことを言ったのです。
「見事な技だった。私の完敗だ……どうやら、今年のマスコットキャラは貴様に決まりのようだな」
「わかってくれて、僕も嬉しいよ」
こうして、ふたりは作品を超えた友情を結びました。
おわり。
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