二次創作小説(紙ほか)

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東京喰種:re 黒山羊とアゲハ蝶
日時: 2015/10/16 19:33
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)

*


「あなたはまるで黒山羊ね」



※本作品は集英社『東京喰種』『東京喰種:re』(原作:石田スイ)の二次創作です。
※この作品には流血やグロ等R-15に相当する描写が含まれています。

□Introduction(挨拶)>>2

■The main story(本編)>>1 >>3 >>4

□Twitter(面識ある方のみ) @viridis_fluvius

1 ( No.1 )
日時: 2015/10/10 20:30
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 私……『黒山羊の卵』で、とっても好きなシーンがあるんです。
(「東京喰種 第1巻 #001『悲劇』」)



「喰種(グール)にも性癖ってあるのかな」

 オレンジ色の斜陽が射し込む教室で、宇佐美は僕に怪訝な視線を向けた。
 長いまつげに挟まれた黒目がちの大きな瞳で、夕陽が揺らめいている。
 いきなり彼は何を言っているんだろう、とも言いたげな——ある種の嫌悪と侮蔑を含めた表情を見て、僕はあわてて弁解しようとする。

「喰種って、ヒトに紛れて生活しているわけだろ? つまり……人並みの感情や、欲求や、思考を持っていることになる」
「そうね」

 彼女は適当な相槌を打ちながら、手元の本に視線を戻した。
 彼女が読んでいるのは、高槻泉の『黒山羊の卵』だった。昨日、彼女が読んでみたいというから貸してみたら、授業が終わってからほとんどずっとこの調子だ。

「だから、人並みの性癖や異常性癖があってもおかしくないよなと」
「例えば?」

 いつにも増して彼女の返事は素っ気ない。ただ時折、ページをめくる手だけが動く。よほど目の前の僕より手元の小説にご執心だと見えて、僕はつまらないなと思った。
 活字に嫉妬しながら、喰種が持っていそうな性癖を考える。

「例えば脚フェチ、首フェチとかみたいに、特定の部位に対して興奮するとか。ネクロフィリアなんていうのもあるみたいだし、血を見ると異常に興奮するような性癖もあるらしい。他にも、リョナ界隈は喰種の方が進んでそうだよね」

 また、汚らしいものを見るような目を向けられた。
 彼女の椅子が若干後ろへ離れたように見えたのはわざとだろうか。

「真面目な話さ、そういう性癖が喰種にもあるとしたら、喰種にとってそれはどういうことになるんだろうって」
「要領を得ないわね、つまり?」
「つまり——ヒトはハンバーグに欲情したりしないだろう?」

 食べ物に欲情するとしたら、それはとても面白いと思わないかい。
 僕がそう言うと彼女は、目を細めて首をかしげた。
 ここは東京。平和に見えるこの街の闇には、ある化け物が跋扈している。それは、ヒトの姿を持ち、ヒトに紛れながら、ヒトを喰らう存在。
 人々は彼らを——喰種と呼ぶ。

「私には分からないわね」

 宇佐美の声だけが、他に誰もいない教室で、静かに響いて消えた。
 またページをめくり、活字を追う瞳が動き出す。
 黒いタイツで包まれたゆるやかな脚線、華奢な腰つき、しなやかな指先、手折ってしまえそうな細い首、丹念にくしけずった黒髪と、うばたまの闇に映える、白く整った顔立ち。
 文字通り人形のような、この美しい少女——宇佐美織葉(うさみオルハ)も、喰種である。
 僕たちのクラスには喰種がいる。これだけ近くにいながら、僕以外の誰もそれに気付かなかった。
 喰種の彼女なら喰種の性癖について知っているかもと思ったが、そうもいかなかったようだ。あわよくば彼女の性癖について問い質せるかもだとか、そんなことは断じて考えていない、考えていないとも。
 ごめんなさい、考えていました。
 彼女が匂いフェチとかだったら妄想が捗るなとか思っていました。

「そろそろ帰ろう、宇佐美」

 僕の心中を見透かしたのか、じとりとこちらを睨み付ける彼女の視線から逃げるように、僕はカバンを掴んで立ち上がる。廊下にも既に人の気配はなく、遠くから運動部の威勢良い声が聞こえるばかりだった。
 このままでいたら彼女は、日が暮れてもここで小説を読んでいそうだと思った。宇佐美は不承不承といった様子で読みかけのページにしおりを挟み、カバンに小説をしまう。
 この東京には『喰種対策局(CCG)』というものがあり、ここから一番近いその支局にでも通報を入れれば、彼女はたちまち『喰種捜査官』の標的になるだろう。
 けれど僕は彼女を通報したりなどは決してしないし、彼女も僕を喰おうとはしない。喰ってしまえば口封じにもなると分かっているのに、だ。
 それには理由があった。


aisatsu ( No.2 )
日時: 2015/10/11 19:09
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)

Hi.
Viridisという者です。

今回は集英社『東京喰種』及び『東京喰種:re』の二次創作を書きます。
小説を書くのは久しぶりという事で、
リハビリも兼ねてあまり肩に力を入れず書ければと思っています。

また、本作品はプロットを作らずアドリブで書いています。
そのため更新速度が遅かったり、最悪エタることも考えられます。
ご容赦ください。

Re: 東京喰種:re 黒山羊とアゲハ蝶 ( No.3 )
日時: 2015/10/14 00:35
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 『黒山羊の卵』とは、新進気鋭のミステリー作家・高槻泉の第7作目にあたる小説だ。
 黒山羊と呼ばれるシリアルキラー(快楽殺人犯)の女と、黒山羊の一人息子が主人公。黒山羊の息子は母親の異常性に嫌悪しながら、自分もまた同じ残虐性が眠っていることに気付き、葛藤していく——という、複雑で繊細な心理描写を、過激で残酷な表現によって彩った名作である。
 宇佐美が高槻泉の小説に興味を持ったらしいので、試しに貸してみたところ——彼女はあっという間に読破して、早く次の作品を読ませろと無言のうちにせがんできた。高槻泉のデビュー作である『拝啓カフカ』に始まり『虹のモノクロ』『なつにっき』と次々に読み……今はこの『黒山羊の卵』を読み進めている。

「流石に一番好きだと言っていただけあって、面白いわね」
「まあね」

 下駄箱の靴を取り出しながら会話する。ラブレターは……残念ながら今日も、僕の靴箱にそんなものは添えられておらず、大げさに落胆する。

「あら……二人とも今から帰り?」

 不意に声がしたので廊下の方を見てみると、そこには栗色の髪を腰まで伸ばした女性が立っていた。秋山早美(あきやまハヤミ)——僕たちが居る2−Bの担任だ。もうとっくに帰りのHRが終わったのに、今帰る僕たちを見て不思議に思ったのだろう。
 ぱたぱたと職員用のスリッパを鳴らしながらこちらへ向かってくる。

「はい、先生。宇佐美に本を貸したら、彼女が読み耽っちゃって。暗く前に帰ろう、ってさっき声をかけたんです」
「あらあら、仲が良いのね」

 宇佐美は「なんで私のせいみたいな言い方をするんだ」とばかりに抗議の視線を向けてくるが、気付いていないふりをする。そもそも実際そうでしょうに——いや違う、これは仲が良いと言われたことに対する、露骨な否定と嫌悪の視線だ。流石にちょっと傷つく。

「出来るだけ早く帰るようにするのよ。最近はこの辺りでも喰種が出るって話だから」
「気を付けます」

 先生はその喰種が、まさかいま目の前にいるとは予想もせず言っているのだと考えたら、思わず吹き出しそうになる。意図して浮かべている微笑みの、頬が吊り上がらないように必死でこらえる。
 しかし宇佐美は、いきなりかかとで勢いよく僕のつま先を踏みつけた。痛い。
 激痛の左足を押さえようとしゃがんだら、今度は襟首を掴まれる。カエルが轢き潰されたような声を洩らす。

「では失礼します、先生」
「え、ええ。気を付けるのよ」

 ずるずると宇佐美に引きずられるまま、僕は昇降口を後にした。

「いきなり踏みつけた挙句に引きずり回すなんて酷いなあ。そういうの嫌いじゃないけど」

 パッと手を離された上に汚物を見るような視線を差し向けられた。やめてくれ宇佐美、ゾクゾクしちゃうじゃないか。
 学校へ通わず、人間社会とのコミュニティを持たず、日陰で暮らす喰種も多い。宇佐美もこの高校へ入る前まではそうだった。宇佐美が保護者である喰種を——兄を失ったのは、5年前の話になる。
 彼の兄は残虐な喰種だったという。ヒトも喰種も無差別に殺しては、ヒトを殺すことを躊躇う宇佐美に——もとい、オルハに無理やり喰わせていたらしい。それでもオルハは、何とか兄のお陰で生き永らえ、食い繋いでいた。
 しかし、周りの喰種から『厄介者とヒトを狩れない出来損ない』として疎まれ、流れるまま13区へたどり着いた彼らに、目を付けた更なる厄介者がいた。
 ——『金曜日の死神』または『13区のジェイソン』。
 趣味は拷問。喰種の中でも禁忌とされる『共喰い』までをも犯し、更には巨大な喰種の組織とも繋がりをもっていると噂される——13区きっての厄災らしい。通り名の由来は正体を隠す為のホッケーマスクと、13区出身であるということから。
 宇佐美の兄もまた共喰いを繰り返しており、特殊な力を身に付けた喰種だった。しかし、13区のジェイソンの前には及ばず、兄は自らの身体を張って、オルハを逃がした。
 その後オルハは一度も兄と出会っていない。その場で殺されたか、拷問の末喰われたか。いずれにしても生きてはいないだろうと、オルハはなんとなく分かっていた。
 兄という居場所を失い、行く当てもなくさまよった彼女は20区の喫茶『あんていく』へと辿りついた。そこは喰種が集い、喰種が営む喫茶店だったという。店長自身が喰種の中でもかなりの変わり者で、自らヒトを狩れない者たちのために、ヒトの死肉を提供していたりしたらしい。
 あんていくは、身寄りのない『厄介者の妹』をごく自然に受け入れた。
 高校へ行くという話も、そこで考えたようだ。店員の一人に、あんていくで働きながら高校へ通っている喰種の少女がおり、相談に乗ってもらったりもしていたらしい。他にもいつも眼帯をしていた喰種の青年や、メガネをかけてた茶髪の喰種も大学に通っており、高校を受験するにあたってかなりの恩を受けたようだ。
 食事の問題は改善され、学費の為バイトに励みながら(あんていくで働いていた訳でもない彼女が、当時の年齢で雇って貰えるのかと疑問はあったが、そこにはいわゆる普通のヒトが知り得ない喰種の裏事情があるとかいう話だ……)、勉学に励む日々。
 その時点で彼女の生活は充分に満たされていた、ハズだった。

Re: 東京喰種:re 黒山羊とアゲハ蝶 ( No.4 )
日時: 2015/10/16 19:33
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 2年前の事件は、普段喰種に関わりのない普通のヒト達であっても、強く印象に残っているだろう。
 『喰種対策局(CCG)』通称『白鳩(ハト)』の総力による、20区・喫茶あんていく掃討戦。1区から23区までの喰種捜査官が集結し、喰種の巣窟であるとの調べがついた、20区の喫茶あんていくに対して総攻撃を仕掛けたのだ。
 いわく店長以下その従業員数名——並びに、従業員の手下である喰種多数との全面戦争は凄惨の限りを極めた。そして、血で血を洗う対決は——白鳩側の勝利で幕を下ろした。
 後日、取り分け立場の弱い喰種にとってオアシスとも呼べたあんていくは取り壊された。宇佐美オルハもまた、再び居場所を失った。
 今まで従事したバイト先は無事で、志望していた高校にも受かることは出来た。だが、手放しに喜ぶことが出来ないのは当然だった。
 横暴ではあるが何よりも妹の身を案じた兄も、彼女を温かく受け入れたあんていくも、彼女を守るものはもう何もない。そして、彼女は喰種の世界で生きることが出来ない——自分で人間を狩ることが出来ないからだ。
 だから彼女はヒトの世界に紛れて生きながらも、ヒトと触れ合うことを極端に避ける。
 先ほどの担任は教室で食事をしないオルハに対して、わずかながら疑念を抱いている。だから僕に喰種の力で攻撃を与えてまで(オルハは比較的弱いと言えど、基本的に喰種の筋力や身体能力はヒトの数倍以上と言われている)あの担任から離れようとしたのだ。
 もっとも、それをすれば更に怪しまれるだろうに。彼女の社会性がいかに低いか窺える。

「それも含めてカワイイんだけどね、オルハちゅわんは」

 またも産業廃棄物を見るような目で見られた。君の瞳に乾杯だぜ。
 さて——なぜ僕がここまで彼女の詳しい事情を知っているかというと、それは僕も喰種だから——ではない。そして、ちゃんとした理由がある。
 しかし、その前に自慢させていただきたい。

「ただいま」

 都内某マンションの4階にある僕の部屋。扉を開けて靴を脱ぎながら、疲れたサラリーマンのようにつぶやく。そして廊下に上がると、僕に続いて宇佐美も入ってきた。
 そう、同棲である。宇佐美オルハと僕は一つ屋根の下で暮らしている。
 しかも宇佐美は贔屓目や誇張無しに言ってもずいぶんな美少女である。美少女と二人で暮らす学園生活——まさしく、日本の、いや世界の全人類男子の夢。これを自慢せずしてナニを自慢するか。これで興奮しない男はきっとナニが不能なカワイソウ状態に違いない。ごめんなさい言い過ぎました。
 ひとつ残念なのは、性的な意味で手を出そうものなら間違いなく縊り殺されるだろう。なんて殺生な現実だとは思うが、最近この焦らされてる感も悪くないなと思い始めている自分がいることを否めない。
 僕と宇佐美はお互いに背を向けて着替える。別々の部屋で着替えないのは、もうひとつの部屋はワケあって今は入れないのと、僕がそちらへ行って着替えようにも、気を付けて着替えないと制服を汚しかねないからだ。
 白いきめ細やかな宇佐美の肌がそこにあるというのに、振り返ることすら許されない。なるほどこの感覚もなかなかどうして……などと考えられていたら背後から頭部に蹴りをいれられた。なぜだ。

「なんか不快なことを考えられてる気がした」

 こいつ見抜いてやがる。
 僕が高校に入ってしばらくした頃から、僕たちは二人で暮らすようになった。周りには、僕と宇佐美は公認のカップル——という設定になっている。当の宇佐美自身も、その話を持ち出すと、まるで「誕生日プレゼントだよ」とのたまい腐った犬の死骸を差し出されたかのごとく、これ以上ないほど嫌悪の表情を示すが、一応は僕に倣っている。その方が、彼女にとっても何かと都合が良いからだ。
 まず、住む場所というのが大きい。学生がバイトをしながら、ひとりで家賃諸々を補うには限界がある。奨学金やらを頼りにしようにも、彼女の身分は偽造だからそう簡単にはいかないし、そういった世話をしてくれるであろうあんていくの店長はもういない。二人で家賃・光熱費・水道代諸々を分割するのは彼女にとっても悪い話ではなかった。
 そして——。

「……面倒だけど片付けなきゃなあ」

 汚れてもいい服に着替えた僕は、リビングとは別の部屋に入る。
 部屋に入ると死臭がした。床に敷いた青いビニールシートは赤く汚れて、肉とも骨ともつかない何かが散乱している。それは間違いなく、先日まで生きたヒトとして形を成していたモノであった。

 ——そして自分でヒトを狩れない宇佐美に死肉を提供し、僕は僕が殺した人間の後始末を宇佐美に任せることが出来る。それも、お互いにとって悪い関係ではなかった。



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