二次創作小説(紙ほか)

※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
日時: 2017/09/14 07:28
名前: ぴろん
参照: https://twitter.com/oBBSbseRFp5mxXb

初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。

初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。


コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
あ、タイトル少し変えました。(因みに“現世”は“うつしよ”と読みます)



※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。

・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。

・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からなくなった時はコメントで質問等をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。

・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。


2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!

2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!

2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!

2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!

2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!

2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!

2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!

2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!

2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!

2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!

2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!

2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!

2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います



何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!


2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。

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Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.126 )
日時: 2017/08/31 16:18
名前: ぴろん

真珠様!!
お久し振りで御座います。

自己満足小説に切り替わってしまってからも読んで下さっていたなんて本当に嬉しいです…!

はい、本編では書けなかった格好良さを前面に押し出して、黒髪ならばついでに着物まで着せてしまおうという自らの密かな欲望も叶えております。

少々一線を超えてしまっているような微妙な距離感のボディガードのような主従関係なども出来るだけハッキリ分かるようにしております。
どんどんニヤけて下さいませ。
正直言ってこのような文章でニヤけて下さるなんて思ってもいませんでした。

ギルドレ読んでいますよ!!
《Guilty》の単語はそこで知り、とても格好良いなぁと思ったのでついつい盛り込んでしまいました。
…主人公の名前と式部さんの偽名が被っているのは全くの偶然で御座います。
いやはや、頁をめくってその単語が目に飛び込んできた時の衝撃と言ったら…
はっ、あまり語っていると既に長いのに文字数が足りなくなってしまいそうです。


さて、最後になってしまいましたが、此度もお読み頂き本当に有難う御座いました。
真珠様のコメントで本当に元気とやる気とその他諸々が溢れ出ております!
今後ともこの拙い文章と勝手に動き回る個性豊かな登場人物達を宜しくお願い致します。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.127 )
日時: 2017/08/31 16:22
名前: ぴろん

12頁目



向かったのは昔の懐かしい建物だった。

自分が出る時に貼った貼り紙もそのままの状態で残っており、その直ぐ横に違う貼り紙が貼ってあった。

〈依頼アリ。○○地区ノ△△川ニテ待ツ〉

紙やインクの感じからして大体2日程前に貼られたものだろう。記されている川も此処からそう遠くない。

依頼があるなら向かうしかないか…

一旦店の中に入って燕尾服を脱ぐ。

容姿を女性の姿に変え、それらしい洋服を着た上からフードの付いた黒いコートを着る。

特に何も持たずに店を出て貼り紙を剥がす。

「○○地区△△川…」

意味も無く復唱してフードを深く被り、店に背を向けて歩き始めた。

目的地の近くに着いてから、先程は特に見ていなかった街並みを見渡す。

空襲や争い事で家屋も治安も殆ど壊滅状態だった。

「そこの黒服のお姉さん」

声をかけられて立ち止まる。

「このご時世に良いもん着てるじゃねぇか。分けてくれねぇか?」

「……」

答えるのも面倒臭いので無視して歩き出す。

「おいおい、聞こえてるのに無視ってのはあんまりだぜ」

ガッと腕を掴まれて立ち止まる。

「ちょいと分けてくれるだけで構わねぇんだ。俺はそこらの追い剥ぎとは違うんでね」

「変わりません」

即答して振り向く。

「あぁ?今何て言った」

「そこらの追い剥ぎと変わらないと言っているんです。さっさとこの手を離して下さい」

フードの隙間からチラリと顔を見る。

無法者の怒り顔は何時見ても醜いな。

「てめぇこっちが優しくしてるからって良い気になりやがって!分かったぞ、お前は良い身分なんだなぁ?それなら一層服の奪いがいがあるってもんだ!」

バッとフードをとられ、男と目が合う。

その瞬間、俺は顔を見られないように男の首元に抱きついた。

「何をっ…」

「すみません、どうかコレでお許しを…」

抱きついたまま作り物の涙声で言う。

「服はお父様に貰った大事な物なのです。お渡しする事は出来ません。どうかご慈悲を…」

此方が下に出ればつけ上がるのが無法者の習性だ。男は俺を引き剥がそうともせずに逆に抱きしめてくる。

「そうか、すまなかったな。じゃあその服を盗られたくなかったら俺に付いて来」

ザクッ

男が言い終わる前に喉元にナイフを突き立てる。

「っ…ぁ…!」

「安らかに」

ナイフを引き抜き、持ち替えた鎌で首を切り落とす。

断末魔も聞こえぬまま切り口から血が吹き出ていく。

「みーつけた」

ふと、後ろから子供の声が聞こえた。

返り血を浴びたまま振り向くと、4歳ほどの小さな少年が立っていた。

少年の周りには何か違和感があった。

「おにいさん、依頼だよ」

妙にハッキリとした言葉使いで言ってくる。

この姿で性別も見分けられている。唯の子供では無いな。

「依頼人はお前か」

鎌をしまってフードを被り直す。

「うん、ちゃんと紙に書いた。お金も用意したよ」

少年は無表情のまま袋を差し出してくる。

やっと違和感の正体に気づく。

この少年の周りには人ならざるもの…妖が大量にまとわりついていたのだ。

「少年、周りの奴らはどうした。何処で拾ってきた」

袋を受け取りながら問う。

「見えるの?」

「あぁ」

少年は暫く首を傾げた後、くつくつと笑い出す。

「大人は見えないのに。おにいさんもしかして子供なの?可笑しいな」

しまった。そういえばこいつらは常人には見えないのだったか。

昔からこいつらをも引き付ける体質だったからか、見えることに違和感を感じなくなっていた。

だがこの量が取り憑いているのなら少年はとっくに死んでいる筈。どうなっているのか…

色々と考えていると、少年はそれを読んだかのように話し始める。

「こいつらはね、僕の駒だ。おにいさんも知っているだろう?異能力って」

少年の頭の上には、猿のような妖怪が乗っていた。

「あぁ、知ってる。それより依頼はなんだ」

「そこの川に駒を落とした。取ってくれない?」

少年が指差した先の川は、汚れているわけではないがドス黒く淀んだようになっている。所々渦を巻いているのは、川の形状が不自然に凹んでいるからだろう。

川のほとりに立ってよくよく目を凝らすと、少し下流側の底に将棋の銀将が落ちていた。川底の小石にかろうじて引っかかっているようだ。

「自分で取りに行きたいけど生憎泳げないんだ。おにいさんにお願いしていい?」

「…構わないが、他の者では駄目なのか」

「僕は嫌われ者だから。それに、普通の人だと取れないし」

そう言った瞬間川の水が急に増え、流れに逆らうように“此方側”に波打ってきた。

嫌な予感がして俺は一歩後ろに下がる。

ザバァッ!

横に打っていた波がいきなり高さを増し、先程まで俺が立っていた所を地形ごと飲み込んでいた。

「川に憑いてるんだ。溺死体好きの妖怪がね」

少年は俺の横に立って川を眺めながら言う。

川は不自然な波を打っていたが、暫くすると元の流れに戻っていく。

「今までも通りがかりの親切な人が取ろうとしてくれたんだけどね。皆飲み込まれて死んでしまった」

淡々と述べる少年には恐怖や哀れみは感じられない。

俺はもう一度川底を確認する。

今の不可解な横波によって駒は小石から離れ、流れに逆らわずカラカラと下流の方へ転がっていく。

取るなら早い方が良いか…

コートを脱いで重りになるような物を外し、もう一度川のほとりに立つ。

すると、川はまた横に波打ち始めた。

ザバァッ!

高くなった波に逆らわずに飲み込まれる。

川はすぐに元の流れに戻り、滝のように流れが速くなる。

確かに常人なら死んでるな。

川底に手をついて速度を抑えながら駒を目で追う。

駒は途中でできていた渦に巻き込まれ、その中心で止まっていた。

川底の手を離し、流れながら駒の方に手を伸ばす。

指先に触れたのを確認するとすぐに駒を掴み、川底に手をついた。

駒は掴んだが、川の流れはますます速くなっていく。上を見上げるといつの間にか水位が増えていたのか、水面が大分遠くになっていた。

川底を這うように移動して側面に手をつき、上へと上がっていく。

水面付近の水流は出鱈目に入り組んでいたが、なんとか手を出して地面を掴んだ。

「へぇ。おにいさん、凄いね。本当に取って来ちゃった」

川から出るとすぐ横に少年が座っていた。

「依頼されたんだ。当たり前だろ」

銀将を渡しながら言う。

「取れるまで、2ヶ月も待ったの。それだけ将棋をしなかった」

そう言いながら俺の方をチラッと見上げる。

「おにいさん、僕の家で将棋やらない?」

その目は期待に満ち溢れていた。

「お前、家あったのか」

「失敬だな。家もあるし親もいるよ。あ、でも今言った家は違う場所」

「へぇ」

少年は話しながら歩いては振り返る。付いて来いという意味だろう。

少年の話に短い相槌を打ちながら付いていった。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.128 )
日時: 2017/09/06 18:32
名前: ぴろん

13頁目



少年は足を止め、クルリと振り返る。

「着いたよ」

目の前には壊れかけの防空壕…もとい、洞穴があった。

「将棋のルールは知ってるよね?」

洞穴の中に入りながら問われる。

「多分」

随分昔にやった事がある…ような気がする。

「変な答え方するなぁ」

「気にするな」

適当に誤魔化して洞穴の入り口をくぐる。

中は思っていたよりも広く、7畳ほどの空間が広がっていた。

「今用意するから。そこ座ってて」

促されるままに端の破れた座布団に座る。

「おにいさん服濡れてるけど気持ち悪くないの?」

「嵐の中傘もささずに三日三晩人を待ち続けるよりは全然マシだ」

実際やった事がある。

「へぇ、そんな事もするんだ」

少年は猿のような妖怪を頭に乗せたまま安っぽい板を置く。

「これがおにいさんの分ね」

「あぁ」

駒を並べながら少年の手元を見る。

良かった、やり方は覚えているな。

「覚えてるって、もしかしてやるのは久し振りなの?」

少年の突然な問いに一瞬驚いたが、すぐに気づいた。

「…その頭のはサトリか。どうりで会話がおかしいと思った」

猿の妖怪、サトリは人の心を読む。大方俺の事を疑っていたのだろう。

「あ、バレたか。将棋の時は使わないから安心して」

「別にそのままで良い」

「えー?そしたら詰まんないでしょ。相手が次何処に指すか分かっちゃうんだから」

「遊戯の進行よりも自分の脳味噌の心配をしろ」

駒を並べ終え、最初の手を考える。

「なんか普通だね。やっぱ外そうかな」

少年も駒を並べ終えて顔を上げる。

「どっちが先攻?」

「どっちでも良い」

「じゃあ僕から」

パチリと音を立てて歩を動かす。

俺はチラッと少年を見る。

「サトリは外すか?」

「いいや、そのままで」

「分かった」

次の手を少し考える。

「わっ!」

少年の驚いた声を聞いてからパチリと歩を進めた。

「えぇ…何これ」

少年は頭を抑える。

「置く前に物凄い考えて、置いた後は空っぽってどういうこと?しかも置くまで何するかわからないし。おにいさんの脳味噌変だよ」

「お前のような子供が将棋を指している時点でおかしいだろう」

「あぁ、それもそうか」

少年はそっと猿の妖怪を下ろす。

「やっぱり読まない方がやりやすいかも」

そう言ってパチリと歩を進めた。

〜20分後〜

「王手」

「うぁあっ!」

少年の盤は詰み、悔しそうに頭を下げる。

「参りました…」

「そうか」

俺は直ぐに駒を片付ける。

「おにいさん凄いね。僕大人にも負けたこと無かったのに」

「中々手強かったな」

「勝った人に言われてもなぁ」

頬を掻きながら笑う。

「まぁ、また今度来て相手してよ。もう少し勉強しておくから」

「そうか」

「じゃあね」

少年に見送られて洞穴を出る。

懐から懐中時計を取り出すと、もう午後4時を回っていた。

「夕飯の支度か…」

帰りに市場で適当な食料を買い込んでから館へ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この少年とはこれきり会うことは無かった。少し経ってから一度訪ねたが、洞穴には誰も居なかったのだ。

この日から俺は、納言の執事と依頼とを掛け持ちして働き始めた。

そうして何事もなく十数年が経ち、納言も既に嫁いだ頃に変化は起きた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ある日、納言の旦那も居らず館中に使用人の声が飛び交っている時、納言が台所に来た。

納言は嫁ぎはしたが、婿をこの家の当主として迎え入れることで此処にとどまって居た。

「神代、お話があるの」

もう人前ではあの愛称を使う事も無くなっている。

「何でしょうか、お嬢様」

「此処では何ですし、貴方の部屋でお話しさせて」

納言が緊張した面持ちで言う。

俺はそれを見て幾つかの心当たりが浮かんだ。

相談、出張、解雇…

色々とあるが、俺の部屋に納言を入れるのは初めてだった。

少し考えた後に1つだけ思い当たる節があったので、俺は恭しく頭を下げる。

「了解致しました」

最近納言が好んで飲んでいるレモンティーの用意をして盆に乗せる。

無言で部屋を出て廊下を歩いていった。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.129 )
日時: 2017/09/14 07:29
名前: ぴろん

14頁目



「ねぇ、貴方の部屋って何処にあるの?」

何気なく問われた問いに疑問を感じる。

「御存知ありませんでしたか」

「他の人に聞いても知らないって言うんだもの。わざわざ館の図面を引っ張り出す程の事ではないでしょうし」

「そうですか」

寧ろ知られていなくて好都合だったが…

暫く歩き、壁と同じ薄い色の扉の前に立つ。

「こんな所にあったの?知らなかった。随分見つけにくい色ね」

「そういう構造ですから」

ドアノブを回して引くと、薄暗い筒のような道の先に階段があった。

俺は平然と灯りのない道を歩いていくが、納言は中々目が慣れずに時々立ち止まったりしながら慎重に下っていく。

「こんな所に部屋なんてあったのね…」

「“部屋”と言いますと少し違いますが」

階段の先に錆び付いた扉が取り付けてある。

「お嬢様、少しの間目を閉じて下さい」

「どうして?」

「中は明るいので、急な光は目を悪くします」

「あら、お気遣いどうも」

冗談っぽく笑って目を閉じる。

ギィイ…

扉を押すと隙間から真っ白い光が漏れ出てきた。

何時も通り中に入って納言の手を引く。

「どうぞ、こちらに」

「もう目を開けていい?瞼越しでも充分眩しいような気がするけれど」

「大丈夫です」

そう言うと納言は恐る恐る目を開ける。

コンクリートで固められた箱のような空間。壁の上の方に小さな小窓が空いており、そこから空気の入れ替えをしている。

そして何より目を引くのは、両脇にある鉄格子だった。

「何…これ…」

俺は見慣れているが、納言にとっては衝撃的な場所なのだろう。大きく目を見開いて固まっている。

「椅子は1つしかありませんのでご容赦下さい」

1人がけの柔らかいソファを指して言う。

「こんな…こんな所に今まで…」

「勘違いされる前に申しておきますが」

納言の顔に不安と怒りの感情が浮かぶのをを感じ、遮るように話す。

「この部屋は私自らが選び、住みやすいよう手を加えたものです。主に両脇の鉄格子を」

鍵の無い格子扉を開けてみせる。

「何かを閉じ込める訳ではありませんが、鍵がつけば牢獄に早変わりですね」

カップに紅茶を注ぎ、レモンの輪切りを浮かべる。

「どうぞ」

「…ありがとう」

ソファに腰掛けて優雅にレモンティーを飲む。

暫くして納言が落ち着いた頃合いを図って話しかける。

「今日は何のご用ですか?」

「まずその敬語をやめて」

ピシリと言われる。

「偽らないで欲しいの。此処には誰も来ないでしょう?」

「…あぁ、来ないよ」

入口の扉に鍵をかける。

「此の部屋は本当に来ようとしても安易には見つからない。図面にも載っていないし、扉を見つけようにもそこだけ意識が削がれる」

「それがしー兄の力?」

「そのごく一部。応用すれば何だって出来る。まぁ、殆どの事は常人だと出来ないな」

指の先にゴム毬程度の水の玉を浮かべて見せると、納言は幼子のような無邪気な瞳でそれを見つめる。

「綺麗…」

「これをするのも結構体力を使う。何せ本当は出来るはずの無い事だからな」

「どういうこと?」

「面倒なこと」

納言が飲み終わったカップに新しく紅茶を注ぐ。

「…今日ね、此処に来る前に忍さんに話したの。十何年も前の貴方との会話」

忍というのは、納言の婿…今の霧原家の当主だ。

「貴方に付ける名前を決めて、貴方の事を受け入れる覚悟が出来たら部屋に来いって言ったよね。だから私、忍さんに相談したの。貴方をずっと側に置いても良いかって」

「それで、許可を貰ってきたんだな」

「うん」

納言は俺を真剣な表情で真っ直ぐに見つめ、息を吸った。

「決めたのは名だけ。姓は貴方の持っている一文字を名乗って欲しい」

「…随分変わった名前になりそうだな」

「下の名前も変わってるわよ」

ふふっと笑って言う。

「貴方の姓を教えて」

俺は少し迷ったが、納言に促されるようにそれを口に出す。

「…紫、それだけだ」

「むらさき?」

俺の言葉を繰り返してから何かボソボソと呟く。

「うん、思ったよりしっくりくる組み合わせになったみたい」

「そうか」

「えぇ、そうよ」

ニコニコ笑いながら懐から紙を取り出す。

「どうせだしちゃんと名前を書こうかな。筆ある?」

「太筆なら」

「あら、硬派ですこと」

態と違和感のある女言葉でからかわれる。

「実はね、しー兄の名前は随分前からぼんやりと決めてたの。でも忍さんが来たから少し変わっちゃった」

筆先をトプンと浸す。

墨汁をつけすぎたのか、硯の淵でちょいちょいと落として紙に筆を乗せる。

「そういえば字の書き方もしー兄に習ったんだっけ。筆の置き方とか進め方とか…あと、草書とかの字体も。あの時は嫌だったけど今となっては好きな本がたくさん読めるし、習ってて正解だったな」

少し癖のある線を引いていく。

角の所をキチッと止め、払う所は流すように速く筆を進める。俺の癖と納言の性格が混ざった字体だ。

「よし。1発にしては良い感じじゃないかな?」

少し皺の寄った紙を持ち上げる。

「…昔の役職名だな。それも女官の」

「じゃあ私とお揃いだ。納言だってそうでしょ?」

「まぁ確かに」

半紙には、大きく整った字体で〈式部〉と書かれていた。

「しー兄の“し”とお爺ちゃん…清嗣の“き”、最後に忍さんの“ぶ”で“しきぶ”ね。苗字と合わせて“紫 式部”ってこと。中々しっくりくる名前になったかな」

「…忍が入らなかったら俺は式になってたのか」

「そういうこと」

忍に感謝だ。“式”と聞くと陰陽師が頭を掠める。名前を聞くたびに昔の嫌な職業を思い出すなんて御免だ。

「さて、今日から貴方を紫 式部と命名します。普段は偽名で呼ぶけど、私と忍さんだけの時は本名ね」

「其処でなんで忍が出てくる」

「え?だって全部話しちゃったし、そろそろ私達引っ越そうかなーとか考えてるし」

「は?」

命名された事を噛み締める暇もなく新たな情報が頭に入る。

「何となくね、私最近調子悪いって言ったでしょ?」

「あぁ、それは聞いてる」

というか言われる前に気付いていた。

「だから田舎か何処かで療養しようかなって思って。空襲とか色々で空気も治安も悪いでしょう?この建物は奇跡的に助かったけど」

「まぁ確かに…」

実はこっそり焼夷弾の軌道をずらして建物を守っていたが…

「だから、少し静かな所に行こうかなって。幸い忍さんには頼れる弟さんがいるし」

確かに信用できる者ではあるが、世間一般的に次男坊に家を任せて良いものなのだろうか。

「女中さんは此処に全員置いて、お給金は弟さんに任せる。で、私達は式部を連れて田舎へ療養。良い案でしょ?」

「ん?…あぁ、そうか」

自然に使われた自分の名に気づかなかった。

「あ、檸檬まだある?少し食べたいの」

「ある。最近好きだな」

「まぁね。酸っぱいものを食べたい感じがあるの。あとどんなに運動しても痩せないのは何でだろ?食べ過ぎかなぁ」

納言の言葉に少し違和感…というか、何処かで同じような会話をした事があるような気がした。

大分前…恐らく前世よりも前に、同じように仕えている者がいた気がする。その時に似たような会話をして、その後に…

「どうしたの?」

暫く記憶を探っているといると、納言が檸檬を食べながら心配そうに覗き込んだ。

「いや、確か昔に…」

心当たりがあった。

記憶の片隅にあったものを何とか引っ張り出す。

「納言、少し良いか」

「ん、何が?別に何でも良いひゃっ!」

俺は納言の下腹部に手を当てた。

「な、な…!」

顔を真っ赤にしている納言を無視して抵抗する腕を抑え、そのまま確かめるように軽く押す。

「ひぅ!くす、ぐった…やめっ」

涙目になって身をよじらせる。

「…これか?」

「へ?な、何が?」

「いや、もう少し耐えてくれ」

「は?ちょっ、まって、ひぃっ!」

先程より少し強めに押すと、また意味の分からない悲鳴をあげる。

「し、しー兄!なにを、ひゃぅっ!」

「確信が持てるまで待て。すぐ終わる」

手の位置を少しずらしながら言う。

「まっ!そこ、くすぐった、いぃっ!」

「…多分これだな。見つけた」

「だから何を?!」

手を離すと納言が顔を真っ赤にして怒鳴る。

「いや、確証は持てないが」

「此処までやって何も無いとかしー兄変態だよ!馬鹿!ど助平!」

貧困な語彙で罵られる。

「あー、まぁ、いきなり済まなかった」

「本当だよ!言い訳するなら今!後から言っても意味無いよ!直ぐに言いなさい!」

よく分からない説教をされる。

「俺の専門知識では無いからな。信用出来るかどうか…」

「良いから言って!」

物凄い大声で怒鳴られたので、取り敢えず真実を伝える。

「お前の子宮の中に恐らく2…いや、3ヶ月位の胎児がいた」

納言の動きがピタリと止まる。

暫く固まった後に顔の色が失せていき、困惑の表情に変わる。

「…え?しー兄今なんて…」

「だから、胎児を見つけた。恐らく妊娠してるんだろ」

特に言葉を選ぶでもなく、其の儘のことを告げる。

「え?しー兄ってお医者さん?あれ?でもあり得るけど、え?3ヶ月やそこらって、お腹大きくないし、あれ?でも確かに最近来てない?あれ?」

何が起こったのか状況が把握できていないらしく、頭上に大量の疑問符を浮かべている。

「まぁ、産むとなると人手もいるし3人だけで何処かに行く訳にもいかないな。だが此処だと療養も出来ないか」

「え?待って?しー兄ちょっと…」

「普通は先代が居た場所で産むのが孝行にもなるがこの辺りも悪くなったし…いっそのこと家ごと引っ越させるか。それなら仕事も踏まえて港に近い方が良いな。彼処は被害が少ないだろう」

「あの、何言ってるのか全然…」

困惑する納言を無視して小さな紙に先程の残った墨汁で走り書きをする。

〈行先 港湾、本日中帰宅〉

「少し探して良いところが無かったら適当に作るか」

そう呟きながら紙を納言に渡し、鞄を持つ。

「少し出かけて参ります。先程の事は忍様にだけお伝え下さい。あまり大事にはなさいませんよう、お願い致します。それでは」

堅苦しい口調でそう言って部屋を出ていった。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.130 )
日時: 2017/09/18 18:58
名前: ぴろん

15頁目



館を出て適当に歩く。

「御影さんじゃないの。今日もお買い物?」

顔馴染みの女店主が声をかけてきた。

「いえ、少し港の方に」

「あらまぁ大変ねぇ。お気をつけて」

「有り難う御座います」

丁寧に礼を言って別れる。

無駄に金を浪費したく無いのもあり、人気の無い路地に入って異能を使う。

どの辺に出れば良いか…出来るだけ開発の進んでいないところが好ましいな。

頭の中で地図を探っていると、丁度良い場所を見つけた。

小高い丘で周りにも自然があり、そこそこの土地の広さも確保された場所。

俺は目を閉じてその付近の路地に移動した。

特に問題なく辿り着き、路地から出る。

戦争の被害は少ないが、矢張り戦前と比べると活気が無いか…

燕尾服のお陰で大分目立ってしまっているが今更服を変える気にもならず、取り敢えず目的地のある林の方へ歩く。

「そこの兄さん、ちょいと来てくれないか」

呼び止められて振り向く。

「あんた賢そうだな。お役人か何かか?」

「いえ、違いますが」

「まぁ細かい事はどうでも良い。少し手伝っちゃくれないか?」

断る理由も見つからなかったので素直に受ける。

「何かあったのですか」

「いやぁ、俺ァ土地の売買やらをしてるんだがね。一寸計算をしくじっちまって」

そう言って俺に紙を見せる。

土地の名前と大きさ、値段等が記入された帳簿のようなものだった。

「どうも帳尻が合わないんだよ。担当の奴が休み取った所為で店ん中にゃ賢い奴もおらんし、どうしたもんかなぁって事で手当たり次第に声掛けてるって訳」

「他人に見せても大丈夫なんですか?」

一応気になったので問う。

「平気平気。別にこっちが損する訳じゃ無いから。で、計算とか出来るか?」

「まぁ少しは」

「じゃあ丁度良い。計算し直しておくれ」

放るように紙と筆、計算用の裏紙を渡される。

ざっと目を通した限り、単純な計算間違いがあっただけのようだ。暗算で書き直して渡す。

「もう出来たのかい?!うちのより速いな!」

「簡単な間違いでしたから。では急ぎますので」

踵を返して歩こうとすると、腕を掴まれて引き止められる。

「一寸待て!礼くらいはさせてくれ」

「結構です」

「じゃあ名前だけ!な?良いだろ」

値切りでもするかの様な口調で言ってくる。

取り敢えず相手をするのも面倒だったので愛想笑いを浮かべたまま名前を告げる。

「…神代 御影です」

「おぉ!立派な名前だな!俺ァ岡野だ。覚えといて損は無いぜ」

「そうですか。では」

「おう!じゃあな!」

一応軽く頭を下げてから歩き出す。

あぁ、面倒臭かった…笑うのも疲れるんだから話しかけないで欲しい。

そんな事を考えながら丘を登る。

丘というよりは小さな山の様な感じの坂を登り、開けたところに出る。

館よりも空気は良いし、一応海も見える。土地の大きさも充分だった。

此処まで好条件だと誰も買わないのが不思議だな…何がいけないのだろうか。

周りを見てみるが、特に変わったものがある訳でもない。

まぁ一応聞いてみるか。

丘を降りて手当たり次第に聞き込みを始める。

「あぁ、そこの丘の上?何か曰く付きみたいだな」

「丘の上に妖怪が出るんだそうよ」

「実際に夜に行った子供達が持ち物取られたんだって!」

「いや、身包み剥がされたんじゃなかったか?」

「違うわよ。獣の爪みたいな引っ掻き傷がついてのよ!」

「そもそも子供じゃなくて大人の男じゃなかったか?」

「いや、老夫婦だろ」

「犬か猫じゃなかった?」

情報はまちまちで中々纏まらない。取り敢えず“曰く付き”という意見は皆同じな様で、妖やら亡霊やら人ならざるモノの仕業だと言われていた。

何とまぁ下らない噂だ。それなら俺の方が怪奇現象ではないか。

結局余り変わらない話を訊いて回っていると何時の間にか日は沈み、時刻は午後9時を回っていた。

「しくじったか…」

夕飯も何も用意していないが、有力な情報も無いまま帰ることは出来ない。

そのまま夜道を歩いていると、子供達が並んで路地から出て来た。

「わっ!見かけない兄ちゃんだ!」

「もしかして妖怪か?」

「でも妖怪は獣の形だろ?」

「馬鹿!人間に化けてるんだよ!」

10人程の子供達が一度に喋り出し、路地は一気に騒がしくなる。

「…私は妖怪などではありませんよ」

「そうなの?旅人さん?」

「まぁそのような感じですね」

子供に警戒心を持たれない様にするには…

俺は子供達に見えるように手を振ってから握る。

「さて、何が入っているでしょう」

「えー?なになに?」

顔を近づけた瞬間にパッと手を開く。

「飴だ!すごーい!」

取り敢えず手品師のフリでもしておくか。

「このような生業で御座います。どうぞ」

「やった!」

「兄ちゃん凄いな!」

少し大人しくなった頃に出来るだけ優しい笑顔で質問する。

「こんな夜遅くに何処へ行くんですか?」

「妖怪退治。そこの丘の上に出るの」

飴を舐めているお陰で口数が少なく、話がしやすい。

「狙われるのはお金を持った子供達なんだって。だからオトリになるの」

「鳥さん可愛い」

どうやら誰かに仕込まれているようだ。

「私も一緒に行って良いかな」

「うーん…大人がいても出るっけ?」

「大丈夫だろ。大人も襲われるって母ちゃんが言ってたし」

「じゃあ良いよ!」

随分あっさりと同行が決まり、子供達と一緒に丘を登って行く。

昼に一度登ったが、夜になると木や茂みで光が隠されて真っ暗になっている。

「このへん出るっけ?」

「いや、頂上の場所だけに出るはず」

「そっかぁ、じゃあ安心だね」

子供らしい気の抜けた会話を聞きながら歩いていると、何時の間にか頂上に着いていた。

「よし!じゃあオトリ作戦開始!」

「で、オトリって何するの?」

「鳥の真似するんだろ。ピヨピヨーって」

「チーチーとかじゃないの?」

誰だ、こんな中途半端な知識を教えたのは。子供を利用しようにも何も出来ないだろ。ただ集めただけなら纏めて襲われるだけ…

襲われるだけ?

ふと、近くの茂みから視線を感じる。

「…少し固まっていてくれませんか?」

「何で?」

「鳥さんの真似でしょう?雛に餌を持って来るんですから固まっていて貰わないと」

「あ、そっか!」

子供達は素直に固まる。

「では餌を持って来ますね」

「うん!待ってるよ!」

「ピヨピヨ!」

笑顔で手を振って茂みの中へ入る。

中は軽い空洞になっていた。

「…いるんだろ。妖怪さん」

少し低い声で煽るように言うと、奥で小さな囁き声が聞こえた。

声の方を見ると、刃物を持った男が数人座っていた。

「おい馬鹿!声出すなよ!」

「だ、大丈夫だろ。こっちが見えるわけないし…」

「でもこっち見てねぇか?」

3人か。持っている物を見る限り金目当ての湿気た奴らだな。

俺は一旦茂みを通り抜けて外へ出る。

特に躊躇うこともなく、徐ろに腕だけ突っ込んだ。

「うわっ!」

当たりだ。そのまま男の首を掴んで引きずり出す。

「初めまして。私はオトリですが、釣られるのは貴方達でお間違いありませんね?」

笑顔で不自然な日本語を並べる。

「だ、誰だ!」

「静かに。子供達にバレてしまいますよ」

喉仏に万年筆の先を突き立てる。

「ひぃっ」

「金目的でしょう?それならほら」

財布を取り出して中身を見せる。

「す、すげぇ…」

「こう見えて良いところに住んでいますから」

財布を閉じてしまう。

「取引をしませんか?」

小声のままそう言うと男は両手を上げて降参の意を示す。

俺は万年筆を放し、条件を告げる。

「この中身を全て渡します。その代わり子供達を逃がし、今後一切此処に立ち寄らないで下さい」

「全部か…」

茂みの中から2人が様子を伺っているのが分かった。背後からも…

バキンッ!

頭部に衝撃が走る。背後から殴られたようだ。

折れた角材が音を立てて転がり、地面にボタボタと赤い液体が落ちる。

「ハッ、そんな交渉に釣られるかよ。おい手前ら、こいつと子供から財布盗って…」

「交渉決裂、ですね」

「っ?!」

どうやらこの程度で気絶させたと思っていたらしい。

取り敢えず角材の折れた部分を背後にいた男の顔面に投げつける。

「ぅぐっ」

「静かに」

叫ぶ口を押さえ、そのまま後頭部を地面に叩きつける。

男は声も出さずに気絶した。

「さてと、私は別に続けても良いのですが…」

チラリと横を見ると、3人の男が固まって震えていた。

「あぁ、駄目ですよそんな顔しちゃ」

1人の男の太腿に万年筆を突き刺す。

「殺したくなる」

そう呟いて引き抜くと、刺された男は悲鳴をあげて血塗れの太腿を押さえる。

「別に此処で殺しても良いのですが、依頼も命令もありませんからねぇ」

血のついた万年筆を拭って懐にしまう。

「今まで盗ったお金をそっくりそのまま返してもらいましょうか」

「それは…」

「何ですか?」

「お、俺達もう大分使っちまって…」

俺は怯えている男達に笑顔のまま言った。

「働け。死んでも返せよ」

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