二次創作小説(紙ほか)

※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
日時: 2017/11/04 19:21
名前: ぴろん
参照: https://twitter.com/oBBSbseRFp5mxXb

初めまして。カキコ初見のぴろんと申します。

初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります。


コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
あ、タイトル少し変えました。(因みに“現世”は“うつしよ”と読みます)



※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。

・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。

・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からなくなった時はコメントで質問等をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。

・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂けると幸いです。


2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!

2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!

2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!

2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!

2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!

2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!

2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!

2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!

2017/06/21 閲覧数900突破!物凄い感謝です!

2017/07/02 閲覧数1000突破!信じられないです…有難う御座います!!

2017/07/18 閲覧数1100突破!有難う御座います!

2017/08/03 閲覧数1200突破!感謝ですっ!

2017/08/30 閲覧数1300突破!有難う御座います有難う御座います

2017/09/24 閲覧数1400突破!本っ当に有難う御座います!

2017/11/03 閲覧数1500突破!感謝しかないです!



何時の間にか返信数も100突破です。有難う御座います!


2017/06/30 本編完結。今後とも宜しくお願い致します。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27



Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.130 )
日時: 2017/09/18 18:58
名前: ぴろん

15頁目



館を出て適当に歩く。

「御影さんじゃないの。今日もお買い物?」

顔馴染みの女店主が声をかけてきた。

「いえ、少し港の方に」

「あらまぁ大変ねぇ。お気をつけて」

「有り難う御座います」

丁寧に礼を言って別れる。

無駄に金を浪費したく無いのもあり、人気の無い路地に入って異能を使う。

どの辺に出れば良いか…出来るだけ開発の進んでいないところが好ましいな。

頭の中で地図を探っていると、丁度良い場所を見つけた。

小高い丘で周りにも自然があり、そこそこの土地の広さも確保された場所。

俺は目を閉じてその付近の路地に移動した。

特に問題なく辿り着き、路地から出る。

戦争の被害は少ないが、矢張り戦前と比べると活気が無いか…

燕尾服のお陰で大分目立ってしまっているが今更服を変える気にもならず、取り敢えず目的地のある林の方へ歩く。

「そこの兄さん、ちょいと来てくれないか」

呼び止められて振り向く。

「あんた賢そうだな。お役人か何かか?」

「いえ、違いますが」

「まぁ細かい事はどうでも良い。少し手伝っちゃくれないか?」

断る理由も見つからなかったので素直に受ける。

「何かあったのですか」

「いやぁ、俺ァ土地の売買やらをしてるんだがね。一寸計算をしくじっちまって」

そう言って俺に紙を見せる。

土地の名前と大きさ、値段等が記入された帳簿のようなものだった。

「どうも帳尻が合わないんだよ。担当の奴が休み取った所為で店ん中にゃ賢い奴もおらんし、どうしたもんかなぁって事で手当たり次第に声掛けてるって訳」

「他人に見せても大丈夫なんですか?」

一応気になったので問う。

「平気平気。別にこっちが損する訳じゃ無いから。で、計算とか出来るか?」

「まぁ少しは」

「じゃあ丁度良い。計算し直しておくれ」

放るように紙と筆、計算用の裏紙を渡される。

ざっと目を通した限り、単純な計算間違いがあっただけのようだ。暗算で書き直して渡す。

「もう出来たのかい?!うちのより速いな!」

「簡単な間違いでしたから。では急ぎますので」

踵を返して歩こうとすると、腕を掴まれて引き止められる。

「一寸待て!礼くらいはさせてくれ」

「結構です」

「じゃあ名前だけ!な?良いだろ」

値切りでもするかの様な口調で言ってくる。

取り敢えず相手をするのも面倒だったので愛想笑いを浮かべたまま名前を告げる。

「…神代 御影です」

「おぉ!立派な名前だな!俺ァ岡野だ。覚えといて損は無いぜ」

「そうですか。では」

「おう!じゃあな!」

一応軽く頭を下げてから歩き出す。

あぁ、面倒臭かった…笑うのも疲れるんだから話しかけないで欲しい。

そんな事を考えながら丘を登る。

丘というよりは小さな山の様な感じの坂を登り、開けたところに出る。

館よりも空気は良いし、一応海も見える。土地の大きさも充分だった。

此処まで好条件だと誰も買わないのが不思議だな…何がいけないのだろうか。

周りを見てみるが、特に変わったものがある訳でもない。

まぁ一応聞いてみるか。

丘を降りて手当たり次第に聞き込みを始める。

「あぁ、そこの丘の上?何か曰く付きみたいだな」

「丘の上に妖怪が出るんだそうよ」

「実際に夜に行った子供達が持ち物取られたんだって!」

「いや、身包み剥がされたんじゃなかったか?」

「違うわよ。獣の爪みたいな引っ掻き傷がついてのよ!」

「そもそも子供じゃなくて大人の男じゃなかったか?」

「いや、老夫婦だろ」

「犬か猫じゃなかった?」

情報はまちまちで中々纏まらない。取り敢えず“曰く付き”という意見は皆同じな様で、妖やら亡霊やら人ならざるモノの仕業だと言われていた。

何とまぁ下らない噂だ。それなら俺の方が怪奇現象ではないか。

結局余り変わらない話を訊いて回っていると何時の間にか日は沈み、時刻は午後9時を回っていた。

「しくじったか…」

夕飯も何も用意していないが、有力な情報も無いまま帰ることは出来ない。

そのまま夜道を歩いていると、子供達が並んで路地から出て来た。

「わっ!見かけない兄ちゃんだ!」

「もしかして妖怪か?」

「でも妖怪は獣の形だろ?」

「馬鹿!人間に化けてるんだよ!」

10人程の子供達が一度に喋り出し、路地は一気に騒がしくなる。

「…私は妖怪などではありませんよ」

「そうなの?旅人さん?」

「まぁそのような感じですね」

子供に警戒心を持たれない様にするには…

俺は子供達に見えるように手を振ってから握る。

「さて、何が入っているでしょう」

「えー?なになに?」

顔を近づけた瞬間にパッと手を開く。

「飴だ!すごーい!」

取り敢えず手品師のフリでもしておくか。

「このような生業で御座います。どうぞ」

「やった!」

「兄ちゃん凄いな!」

少し大人しくなった頃に出来るだけ優しい笑顔で質問する。

「こんな夜遅くに何処へ行くんですか?」

「妖怪退治。そこの丘の上に出るの」

飴を舐めているお陰で口数が少なく、話がしやすい。

「狙われるのはお金を持った子供達なんだって。だからオトリになるの」

「鳥さん可愛い」

どうやら誰かに仕込まれているようだ。

「私も一緒に行って良いかな」

「うーん…大人がいても出るっけ?」

「大丈夫だろ。大人も襲われるって母ちゃんが言ってたし」

「じゃあ良いよ!」

随分あっさりと同行が決まり、子供達と一緒に丘を登って行く。

昼に一度登ったが、夜になると木や茂みで光が隠されて真っ暗になっている。

「このへん出るっけ?」

「いや、頂上の場所だけに出るはず」

「そっかぁ、じゃあ安心だね」

子供らしい気の抜けた会話を聞きながら歩いていると、何時の間にか頂上に着いていた。

「よし!じゃあオトリ作戦開始!」

「で、オトリって何するの?」

「鳥の真似するんだろ。ピヨピヨーって」

「チーチーとかじゃないの?」

誰だ、こんな中途半端な知識を教えたのは。子供を利用しようにも何も出来ないだろ。ただ集めただけなら纏めて襲われるだけ…

襲われるだけ?

ふと、近くの茂みから視線を感じる。

「…少し固まっていてくれませんか?」

「何で?」

「鳥さんの真似でしょう?雛に餌を持って来るんですから固まっていて貰わないと」

「あ、そっか!」

子供達は素直に固まる。

「では餌を持って来ますね」

「うん!待ってるよ!」

「ピヨピヨ!」

笑顔で手を振って茂みの中へ入る。

中は軽い空洞になっていた。

「…いるんだろ。妖怪さん」

少し低い声で煽るように言うと、奥で小さな囁き声が聞こえた。

声の方を見ると、刃物を持った男が数人座っていた。

「おい馬鹿!声出すなよ!」

「だ、大丈夫だろ。こっちが見えるわけないし…」

「でもこっち見てねぇか?」

3人か。持っている物を見る限り金目当ての湿気た奴らだな。

俺は一旦茂みを通り抜けて外へ出る。

特に躊躇うこともなく、徐ろに腕だけ突っ込んだ。

「うわっ!」

当たりだ。そのまま男の首を掴んで引きずり出す。

「初めまして。私はオトリですが、釣られるのは貴方達でお間違いありませんね?」

笑顔で不自然な日本語を並べる。

「だ、誰だ!」

「静かに。子供達にバレてしまいますよ」

喉仏に万年筆の先を突き立てる。

「ひぃっ」

「金目的でしょう?それならほら」

財布を取り出して中身を見せる。

「す、すげぇ…」

「こう見えて良いところに住んでいますから」

財布を閉じてしまう。

「取引をしませんか?」

小声のままそう言うと男は両手を上げて降参の意を示す。

俺は万年筆を放し、条件を告げる。

「この中身を全て渡します。その代わり子供達を逃がし、今後一切此処に立ち寄らないで下さい」

「全部か…」

茂みの中から2人が様子を伺っているのが分かった。背後からも…

バキンッ!

頭部に衝撃が走る。背後から殴られたようだ。

折れた角材が音を立てて転がり、地面にボタボタと赤い液体が落ちる。

「ハッ、そんな交渉に釣られるかよ。おい手前ら、こいつと子供から財布盗って…」

「交渉決裂、ですね」

「っ?!」

どうやらこの程度で気絶させたと思っていたらしい。

取り敢えず角材の折れた部分を背後にいた男の顔面に投げつける。

「ぅぐっ」

「静かに」

叫ぶ口を押さえ、そのまま後頭部を地面に叩きつける。

男は声も出さずに気絶した。

「さてと、私は別に続けても良いのですが…」

チラリと横を見ると、3人の男が固まって震えていた。

「あぁ、駄目ですよそんな顔しちゃ」

1人の男の太腿に万年筆を突き刺す。

「殺したくなる」

そう呟いて引き抜くと、刺された男は悲鳴をあげて血塗れの太腿を押さえる。

「別に此処で殺しても良いのですが、依頼も命令もありませんからねぇ」

血のついた万年筆を拭って懐にしまう。

「今まで盗ったお金をそっくりそのまま返してもらいましょうか」

「それは…」

「何ですか?」

「お、俺達もう大分使っちまって…」

俺は怯えている男達に笑顔のまま言った。

「働け。死んでも返せよ」

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.131 )
日時: 2017/09/25 07:13
名前: ぴろん

16頁目



一旦館に戻って着替えを済ませ、何時も通りの仕事をする。

「神代、貴方何してたの?」

「土地を探しておりました」

食器を洗いながら答える。

「明らかにそれ以外のこともやっているでしょう。その頭の包帯は何」

「あぁ、これですか。殴られただけですよ」

まだ血が完全に止まった訳ではないので、包帯に赤い染みが滲んでいる。

「殴られたって、そんなに治安が悪いの?」

「いえ、とても良い街でしたよ。明日土地を買いに行きます」

「あのねぇ…」

「まぁまぁ、納言さん。きっと何か事情があるのでしょう」

偶々納言と一緒にいた忍がなだめる。

何時もニコニコとしていて物腰が柔らかいのは元当主、清嗣に似ている。

「忍さんは甘いんですよ。もっと厳しくしないと」

「そりゃあ急にいなくなって帰ってきたら包帯巻いてるなんて驚きますけど、怒ることではないでしょ?」

「そうですけど…」

納言は忍には強く反抗出来ない。一応亭主には偉そうにするものではないという常識は知っている。

「ところで神代君、あとでお酒でも飲まないかい?」

「私で良いのなら何時でも結構ですよ」

「では10時過ぎに来て下さいね。あ、お酒は用意しますから」

「では何か作って行きましょうか」

チラッと納言を見るとあからさまに不機嫌な顔をしていた。

納言は酒が苦手だ。単に弱いのもあるが、味が馴染めないのだという。話に置いていかれるのが悔しいのだろう。

「…実は今日外出した際に良いお酒を見つけたのですが、少し量が多過ぎたみたいで」

そう言って何本か瓶を並べていく。

「うわぁ、上等なものばかりですね!」

「今日はそういう気分でしたので。自費で買いましたからご安心を」

そう言いながら並べていく中で納言が1つを手に取る。

「如何されました?」

「これ味醂よね!このお酒大好きよ、私」

無論知っていた。度数が低く味も甘いので納言はこの酒だけを好む。酒と言っても、もう最近は飲むものではなく調味料となり始めているが…

「私も飲んで良い?」

「良いですよ。まとめて買うとお得だったのですが、私は余り好きでは無いので」

「やった!じゃあ私も2人と一緒に飲むからね。10時に忍さんの部屋集合!」

子供の様にはしゃいで走り去って行く。

「わざとですよね、味醂」

「お嬢様の要望を叶えるのが仕事ですから。それと、敬語は使わないで結構ですよ」

「あー、中々慣れないもので」

ヘラッと笑って言う。

「では10時過ぎに僕の部屋で。僕も飛びっきりのお酒を用意してますから」

そう言って去っていった。

「神代さん、後の片付けは私達が致しましょうか?」

皿洗いをしていた女中達が言う。

「いえ、おつまみも作りますし…」

「それならお皿洗いはお任せ下さい。ささ、どうぞ厨房に」

半ば強引に追いやられてしまう。

恐らく普段からの礼をしたいのだろう。好意は素直に受け取るか。

俺は酒の肴を作るべく、材料を取り出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

約束の通り10時過ぎに部屋の前に着く。

両手一杯の酒瓶と肴で扉を叩くこともままならない。

「忍様、いらっしゃいますか」

部屋の中まで聞こえる様に大き目の声で言う。

「あ、神代君。今開けますよ」

ガチャッと音を立てて扉が開く。

「おぉ、豪華ですねぇ」

「凄っ!流石し…じゃなくて、神代!」

先に中にいた納言も肴やら酒瓶やらを受け取る。

「来る時人いなかった?今もいない?」

「えぇ、いませんでしたよ」

外に人の気配が無いことを確かめてから答える。

「んじゃ、今から無礼講!式部もそこ座って忍さんと隣!」

チラリと忍を見ると、満面の笑みでこちらを見つめていた。小型犬の様な目が「良いよね?」とでも言いたげに輝いている。

俺は小さく溜息を吐いて忍の横に胡座をかいた。

「…これで良いだろ」

「うん!」

横を見ると忍も嬉しそうに頷いている。

この“無礼講飲み会”は、納言が俺と忍を仲良くさせたいという願望の為だけにお嬢様権限で作られたもの。幾つかの決まりを守って行われる会合だ。

主に敬語禁止やら嘘吐き禁止やら子供の様なものばかりだが、これらを全て守るのは俺には大分難しい。

「えぇと、式部君になったんだよね」

忍が俺に酒を注ぎながら問う。

「まぁそうなったな」

「私のお陰でね!良い名前でしょ?」

「…そんな事は無い」

ふいっと顔を背ける。

「あ!嘘吐きだなぁ?じゃあ今日は嘘吐きちゃんの秘密暴露会にしようか!」

味醂だけでよくここまで上機嫌になるものだ。

「良いねぇ。じゃあ式部君の副業は?」

「何でも屋」

「あ、ちょっと誤魔化してるね」

納言が俺を肘で突っつく。

「別に私達しかいないんだし、言っても平気でしょ?」

「嘘は吐いてない」

「だーめ!ちゃんと言って!」

「僕も聞きたいな」

こうなると逃れられない。

俺は取り敢えず手元の酒を飲んで酔って饒舌になったフリをして通すことにした。

「大抵の依頼は人殺し。他にも色々とやるけど、1番簡単で楽な仕事はそれだな」

「へー、まぁ知ってたけど」

「そうなんだねぇ。この前納言さんから聞いたけど」

やはり知っていた。

「じゃあ商売道具はどんなの?」

「最近は万年筆」

懐からそれを取り出して見せる。

「物書きをやってる訳じゃ無いよね」

「まぁこれは仕込み刀だからな。このまま刺したりもするけど」

ペン先を抜くと、中から小さな刃物が顔を出す。

「でもそんなので人殺せるの?もっと大きいの持ってるよね」

「流石忍さん!鋭い!頭良い!」

納言が全力で忍を褒めちぎる。

「確かに他のはあるが…」

「見せて!」

「見てみたいな」

2人の笑顔に押されて溜息を吐く。

「じゃあずっと愛用してるやつなら」

手元に使い慣れた大きな鎌を出す。

「おぉー!」

「凄い!まさに死神って感じ!」

「褒めてないだろ」

「うん。正直怖いもん」

笑顔のままサラリと言われる。

「そりゃあ殺人鬼が鎌を何処からともなく出したら怖いよね。僕等は式部君を信頼してるから大丈夫だけど」

「というか、これ何でできてるの?」

納言が刃を触ろうとしたのでサッと鎌を退ける。

「触るな」

「ケチ!別に切れても指の先くらいでしょ」

「切れないよ。これは」

忍が刃を見ながら言う。

「刃がないから。これだと人は勿論野菜も切れないんじゃないかな」

「そんな事は無い。コツを掴めば誰でも使える」

俺は刃を自分の腕に立てる。

「これだと押しても引いても切れない。やってみろ」

「えっ?!本当に…?」

「ほら」

納言は恐る恐る刃の背を押す。

が、跡がつくだけで少しの切り傷も出来なかった。

「本当だ…」

「これだけだと切れないが、少し角度を調節して軽く殺気を込めると…」

刃は俺の腕にスッと入っていく。

「な、何してるの!えぇと、布と包帯と…」

「あんまり切ってないから平気。ほら」

赤く線の入った腕を見せる。

切れてはいたが、血は流れていなかった。

「良かった…」

「それにしてもこれで切れるのかぁ。不思議なこともあるものだね」

忍の…霧原家の仕事は貿易で手に入れたものを売る、所謂商人だ。職業柄この手のものにも詳しい。

「随分手間暇かけて作られてるみたいだけど、誰が作ったのかな。何十年もかけて作られたものだよ」

「手製だ。丁度良い形のものが無かったからな」

「えぇ?!式部君何でも出来るんだね!あ、何でも屋さんか」

えへへっと笑って頭をかく。

「ちょっと持ってみて良い?どんな感じ?」

「良いけど結構重いぞ」

「誰かさんの所為で鍛えられてるから平気」

納言は笑いながら持ち手を握る。

「手放して良いよ〜」

「気をつけろよ」

そう言ってパッと手を離す。

ズンッ!!

「ひゃっ!何これ?!すっごい重い…!」

全力で持ち上げようとしているが、持ち手部分が浮いただけで刃の部分を引きずっている。

俺はヒョイっと持ち上げて忍に差し出す。

「お前なら持てるだろ」

「納言さんが持てないなら僕も無理だよ」

「この前忍さんに腕相撲で負けた」

嫌味に聞こえたのか、ブスッとした顔で言う。

「それなら、ほら」

「えぇ…」

戸惑いながら受け取る。

「うわっ!おっも…!」

そう言いつつも何とか持ち上げた。

「こんなの…よく…持てるね…!」

途切れ途切れにそう言ってズシンと下ろす。

「忍さん凄い!やっぱり力持ちね」

「いやいや、持ち上げるのだけで精一杯だよ」

額の汗を拭いながら言う。

「やっぱり重いよな。少し大きく作り過ぎたんだよ」

鎌を拾って自分の横に立てる。大きさは納言の身長より少し低い位なので、小さな子供では1番上に手が届かないだろう。

「こういうの何時も持ってたら僕も筋肉つくのかなぁ」

「忍さんはその前に腰が折れちゃうでしょ」

そう言って腰の辺りをグリグリと突く。

「…仲良いな。お前ら」

「へ?」

ふと出てきた言葉に気づき、手で口元を隠す。

「いや、何でもない。気にするな」

「なになに?もしかして妬いてるの?」

やっぱりこうなった。

「そういう訳じゃない」

「式部君がそんな事言うの珍しいね。何かあったの?」

忍も加勢してきた。

何かあったのか、と問われて思い出した話題を出す。

「納言が妊娠しただろ」

「…へ?」

忍は間抜けな声を出して固まり、困惑し、赤面する。

「ななななっ!妊娠?!え?!何それ!え?嘘?嘘にしてもそれは無理が…」

その横で納言がしまったといった顔で赤面していた。

「言ってなかったのか」

「だ、だって…恥ずかしいし…」

真っ赤な顔のまま視線を逸らす。

「な、納言さん!今のって本当?!」

「その、えぇと…」

「多分妊娠してる。大きさ的に3ヶ月くらいだろ」

何故か口をモゴモゴさせている納言の代わりに告げる。

「3ヶ月?!なんでそんな早い時期に…」

「最近の納言の体温と睡眠時間の変化。あとは最近来てなかったんだよな。せい」

「あー!と、取り敢えず調子悪かったみたいな?!ね!式部!」

無理矢理言葉を遮られる。

「え?じゃあ本当に?」

「性別は分からないが、取り敢えずいるのは確認した」

「確認ってどうやって…」

「触った。中にいれば何となく分かる」

納言が更に顔を赤く染める。

「ささ、触ったって何処を…」

「この辺」

「ひゃっ!」

軽く触ると、また奇妙な声をあげる。

「…式部って本当に羞恥心が欠けてるよね」

「そうなのか。納言が子供の頃はよくくすぐってたけどな」

「アレは本当に死ぬかと思ってたよ…」

腕を抱えてブルブルっと震える。

「ていうか、式部って触るっていうか撫でるって感じなんだもん。くすぐったさ倍増だよ」

「お前らだって宝石とか遺品とか扱う時こんな感じだろ」

「宝石と遺品って共通点が…」

忍はそこまで言ってからハッとして、少し俯く。

納言も直ぐに顔を赤くする。

「今日はやけに顔が赤いな。飲み過ぎか?」

「そ、そうかもね!」

「そうだよきっと!えぇと、妊娠祝いで乾杯しようか!」

焦り気味に器を持ち上げる。

俺と納言もそれぞれで酒を注ぎ、持ち上げる。

「じゃあ、乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯」

カチンっと小気味好い音を立てて盃が揺れた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.132 )
日時: 2017/10/05 07:34
名前: ぴろん

17頁目



丘の上の土地は簡単に手に入った。

というのも、あの岡野とかいう商人が丁度そこの持ち主だった為に交渉が難なく進んだというだけの偶然だが…

結局納言は館の中で子を産み、その後新しく出来た家に移った。

何事もない年月が過ぎ、俺の副業もそろそろ足を洗おうというところで悲劇は起きた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「買い物に行きたいんです。1人で」

もう歳も30の後半になる納言が突然言い出す。

「洋服屋とか行ってみたいんです。1人で」

大袈裟に語尾を強調する。

「ですがお嬢様、貴方は身分が…」

「身分も格式も関係ない世の中になっているでしょう?祥子も10歳になりました。手のかからない年頃です」

「1人は危険です。私も着いて行きます」

「嫌です。私は1人で行きます」

今までにも何度か同じような会話をしていたが、今回は本当に本気のようだ。身支度も荷物も準備出来ている。

「お嬢様、私と行くのが嫌なのでしたら他の者を数人お付けになって下さい。今は忍様もご出張中ですので、何かあっても…」

「1人で行くのです。私はもうお嬢様なんて歳ではありませんし、買う物は決まってます。お店の方にも連絡済みです」

そう言いながら便箋を見せる。

店の名前も覚えがある。俺がよく行く手芸屋だ。

「先週からやり取りをしていたんです。商品も発行されています。あとはお金を払って受け取りに行くだけです」

今までよりも用意周到な様だ。如何するべきか…

「命令です。1人で行ってきますので、使いの者なんて寄越さないで下さい」

澄ました顔でそう言って出て行く。

1人では危険だ。かと言って着いて行くことも出来ない。

となると、方法は唯1つ。あの姿になるしか無いのである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お買い物〜♪お一人様〜♪」

やけに澄んだ歌声でよくわからない歌を口ずさむ。

納言は人生初の1人で買い物という快挙を成し遂げようとしているのだ。

そう思う程足取りも軽くなっていく。

「お姉さん、落としたよ」

「はい?」

クルリと振り向くと、少年がシルクのハンカチを持って此方に差し出していた。

「あら、私のだわ。有難う御座います」

「いいよ。ところでお姉さん何処行くの?」

「手芸屋さんよ。毛糸を買いに行くの」

ニコニコ顔で答える。

「僕も行くんだ。お母さんに頼まれたの!」

そう言って折り畳まれた紙を開いて見せる。

紙には子供らしい崩れた字で〈けいと→あか、こん、しろ〉と書かれていた。

「でも場所が分かんなくってさ。一緒に行ってくれない?」

「良いわよ。2人でお買い物頑張りましょうね」

うふふっと笑って手を繋ぐ。

少年は少し恥ずかしそうに俯いて握り返す。

2人はくすぐったそうに笑いながら歩いて行った。

街の中心部に着いた頃、少年は話していた口をつぐみ、キョロキョロと辺りを見回し始める。

「どうしたの?」

「えっと、僕、その…」

足を閉じてモジモジとする。

「あら、お手洗いに行きたいの?」

納言の問いにこくんと頷く。

「その場所は覚えてるんだ。着いてきてくれる?」

「良いわよ」

悪びれるような表情もせずに着いて行く。

少年は繋いで手を引くように小走りで路地へ入る。

「にゃあお」

ふと、後ろから猫の鳴き声が聞こえて足を止めた。

振り返ると黒猫が納言を見つめていた。

「ごめんね黒猫ちゃん。急いでいるの」

納言はそう囁いて少年を追いかける。

暫くすると路地は壁に突き当たり、それらしきものは何処にも見当たらない。

「ねぇ、何でこんな所に…」

納言が問おうとした瞬間、背後から誰かに口を塞がれる。

「んー!んー!」

「へへ、悪いな嬢ちゃん。ちょいとばかり寝てもらうぜ」

物陰から男がゾロゾロと出てくる。

「小僧、報酬だ。良くやったな」

「はい」

チャリンと音を立てて何かを握りしめ、走り去って行く。

「にゃあお」

少年とすれ違うように先程の黒猫が来た。

どうやら納言について来ていたようだ。

「なんだこいつ」

「蹴り飛ばしておけ」

「はいはい」

小さな猫は壁に当たって呆気なく目を閉じる。

「んー!」

「何だよ、こんな猫が欲しいのか?」

男達は乱暴に猫を摘まみ上げ、納言の目の前にぶら下げる。

納言は必死にもがいていたが、やがて力を無くしてぐったりと項垂れた。

「さてと、身代金は幾らにするかな」

黒猫を投げ捨てながら言う。

「決めてなかったんスか?」

「単位は決めてあるさ。何千万にすれば良いかって事だよ」

「うへぇ、山分けしても一生遊んで暮らせるぞ」

男達は暫くヒソヒソと話し合った後、気を失っている納言を簀巻きにして麻袋に入れ、何事も無かったかの様に路地を出て行った。

…行ったか。

息を潜めていた俺は周りを確認しながらそっと立ち上がる。

しかし、猫の姿になるのは何十年振りか…面倒なことになったな。

路地を出て辺りを見回す。

建物、人、荷物、全てのものが普段よりも大きく見える。

飲食店の前を避けながら館へ帰る。

新しい館は俺の部屋に行く為にわざわざ中を通らないでも良い構造にしてあり、隠し通路から地下へ入れば辿り着く。

部屋の中で元の姿に戻り、何食わぬ顔で書斎へ向かった。

「あっ!いらっしゃったわ!」

「御影さん!大変です!」

廊下で女中に呼び止められる。

「如何しました?」

「玄関にこんな手紙が…」

かなり急いで来たらしく、肩で息をしながら便箋を渡す。

封は既に開けられていた。

「これが玄関に落ちていたので、新聞を受け取った時に挟まっていたのが落ちていたのかと思いまして…宛名も書いていなかったので私が拝見致しました」

それを聞きながら中身を出して読む。

〈お宅の娘は預かった。返して欲しければ身代金4000万円を用意して指定場所に1人で来い〉

文章の後に手書きの地図が書いてある。

随分下手だが、何とか読み取れた。

「確か軍の武器庫跡地ですね。私が行って来ましょうか」

「だ、大丈夫なんですか?それに4000万円なんて大金…」

「大丈夫です。お金は私の貯金で足りますから、取り敢えずそれを持っていきます。便箋は貰いますね」

そう告げて自分の部屋に戻る。

部屋の奥の壁の中に隠してある金庫を開けると、昔から貯めていた金が溢れ出る。

その中からピッタリ4000万円を取り出して鞄に詰め、一応の身支度を済ませてから館を出た。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.133 )
日時: 2017/11/04 18:57
名前: ぴろん

18頁目



武器庫跡地に着いたのは日も暮れた頃だった。

夕陽で茜色に染まった倉庫内から幾つかの物音が聞こえる。

「失礼します。使いの者ですが」

無遠慮に大き目な声を出して呼びかけると、奥で何かコソコソしていた男達が出てくる。

「使いのぉ?あぁ、身代金か。遅かったな」

「おいおい、随分若いじゃねえか。本当に4000万も持って来たのか?」

「えぇ、勿論。ご確認下さい」

提げていた鞄を置き、中身を見せる。

男が数人群がって勘定しているのを横目に、辺りを見回す。

「それで、お嬢様は?」

「あの女ならどっかの物置に転がしてあるよ。それより金だ」

札束を鷲掴んで並べる。

「4000万だから1人400万だ」

「あ、俺まだ370万」

「430万取ってた。30万やるよ」

笑いながら分け合っているのを見て少し苛ついてくる。

「そのお金と交換条件としてお嬢様を引き取りに来たのですが」

「分かってるっつーの。もう少し待ってろ」

此方と目も合わせずにそう言う。

簀巻きにされて倉庫に放り込まれているなら昔のトラウマが蘇っているはず。そう安定した精神状態では無いだろう。

「私は前払いしたつもりはありません。早くお嬢様を」

「お嬢様お嬢様五月蝿えな!元々引き渡すつもりはねぇんだよ!」

「…どういうことですか」

「その辺で売った。上物だったから今頃良い値で買われたんじゃねぇか?」

俺の中で何かがプチンと切れた。



…気がつくと、辺りは真っ赤に染まっていた。赤い模様はまばらだったから、恐らく夕陽では無いのだろう。

所々に肉片が転がっていたが、何だったのかは良く分からない。

取り敢えず地面に落ちていた紙切れを鞄に詰め、武器庫を後にした。

長年側に居たんだ。場所くらい気配で分かる。

昔愛用していた真っ黒い羽織を着てフードを深く被り、顔を隠す。

思えば怒りに任せて人を斬ったのは初めてだったかもしれない。手に残った微かな感触が遅れて脳に快楽を伝える。

何時の間にか納言の気配が近くなっていた。無意識に異能を使ったのかもしれない。

怪しげな建物の扉を開ける。

「あら、いらっしゃい。見かけない顔ね」

派手な衣装を身に纏った女が出迎える。

「オークション会場だっていうのは分かっているわよね。入場料は2万円よ」

俺は鞄から20万円を取り出して渡し、微笑む。

その瞬間顔色が変わり、横に立っていた男に耳打ちをする。

女は駆けていき、営業用の笑顔を浮かべた女が残って俺の腕に抱きつく。

「お客様、お名前は?」

「Violet」

「まぁ、素敵」

こういう店での身の振る舞い方は分かっていた。入場料を高めに支払って横文字の偽名を告げる。それだけで待遇は良くなる。

数人の男女に連れられて会場へ入る。

既に競りは始まっており、ステージを中心にして扇型に広がる席から立ち上がる人も見えた。

後からの参加なので1番後ろの席に座り、ステージを見下ろす。

「かの有名な絵描きの描いた風景画!さぁ幾らだ!」

「160万!」

「372万!」

「426万!」

3人目で声は無くなり、司会者が確認する。

「さぁ、もういませんか?426万!」

会場は騒めいているが、手を挙げる者はいない。

「確定!426万!」

そう言って先程手を挙げた者に絵を渡す。

「今日は大物が入ったらしいわよ」

「えぇ、つい数十分前に入ったみたいね」

「成人女性でしょ?容姿で値段は決まるわね」

女達の囁きが聞こえる。恐らく納言のことだろう。

暫く掘出し物や骨董品、奴隷や娼婦の競りをして人数も大分減った頃、ステージに布を被せた檻が運ばれる。

「さぁさぁ!本日の目玉商品!つい先程手に入った成人女性!少々歳はいっているが上物だぞ!」

そう言って勢いよく布を剥がす。

中には、目隠しをされて座り込んだ納言が入っていた。傷付けられた様子もなく、服はそのままだ。

客達はどよめき、次々と値段が飛び交う。

「625万!」

「749万!」

「770万!」

「852万!」

その中で如何にも高級そうな衣服を身に纏った男が手を挙げる。

「2000万!」

会場は静まり返った。

「2000万!とんでもない数字が出たぞ!さぁさぁ、超える者はいないのか!」

司会者が大声で呼びかける。

部屋にはまだ数10億は残っている。此処で消費しても支障はないか。正攻法で取り戻すことにしよう。

そんな事を考えながら手を挙げる。

「おおっ!いたぞ!さぁさぁ2000と何万だ!」

会場がまたどよめく中、俺は値段を言う。

「3900万」

どよめきが一瞬で静まり返る。

司会者も呆然とした顔で俺を見上げていた。

「…さ、3900万!どうだ!超えるか!」

ハッとして金額を繰り返し始めるが、当然ながら手を挙げる者はいない。

「確定!3900万!3900万!」

俺は立ち上がってステージに降り、錠を開けてもらう。

目隠しをしたまま小刻みに震えている納言を抱きかかえ、出口へ向かう。

「バイオレットさん、もうお帰りですか?もう少し遊びましょうよぉ」

先程の女が艶かしい目付きで俺を見上げながら言ってくる。

俺は一旦納言を下ろし、鞄ごと金を渡す。

「私が此処に居たのはご内密に。呉々も他言しないようお願い致します」

「えぇ〜そんなぁ」

どうやら女はこういうことに慣れているようで、縋るように俺に抱き着く。

「それなら私と2人で遊びましょうよ。ね?それなら良いで」

五月蝿い女の口を唇で塞ぐ。

女は目を見開いて硬直していたが、少しすると目はとろんと微睡み、頬は紅潮する。

それを確認してから唇を離し、再び納言を抱きかかえる。

「どうか、ご内密に」

片目を閉じて微笑み、人差し指を立てる。

女はぼうっとした顔のまま俺を見送った。

…気持ち悪い。

出来るだけ振動を与えないように運びながら納言の目隠しを取る。

納言はギュッと目を閉じていたが、暫くして恐る恐る目を開け始める。

「…しき…ぶ…?」

怯えた表情で俺を見上げる。

普通の人間ならここで心配していたとでも言うのか。

それはよく分からないが、この時俺の口から出たのは、余りにも下らない言葉だった。

「…買い物は明日にするか」

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.134 )
日時: 2017/11/17 13:26
名前: ぴろん

19頁目



この日を境に、納言は外出を控えるようになった。

仕事の会議にも参加せず、只々部屋に篭って本を読んだり絵を描いたり掃除をしたり…部屋から出るのは食事の時くらいだ。

俺は納言の様子が落ち着いてから、例の手芸屋へ商品を受け取りに行った。

約束の時間を守れなかったことを詫びたが、人の良い店主は何も言わずに許してくれた。

商品は特注の毛糸だった。俺も久し振りに編み物をする気になったので、目についた瑠璃色の毛糸を幾つか買っていく。

取り敢えず納言の部屋の戸を叩く。

コンコン

「お嬢様、入っても宜しいですか」

「えぇ、良いわよ」

「失礼します」

何時も通りの会話を交わして中へ入る。

納言はベッドの上に座って本を読んでいた。

「毛糸を受け取って来ました。此処に置いておきますね」

「一寸待って」

パタンと本を閉じる。

「何でしょうか」

「神代、貴方編み物って出来る?」

唐突な質問に一瞬答えが遅れる。

「出来ますよ。嗜む程度ですが」

「そう、そうなのね」

そう呟いてチラチラと様子を伺ってくる。

教えろ、という意味なのだろう。だが、今までに納言が編み物をしているのはよく見ているし、現に誕生日祝いとして忍に膝掛けを渡していたのも知っている。

「あのね、お願いがあるの」

「何でしょうか」

余程難しいものなのだろうか。

「…マフラーの編み方、教えてくれない?」

「マフラー?」

予想と大きく外れた言葉に少し驚く。

「マフラーでしたらとても簡単ですし、お嬢様お一人でも宜しいのでは?」

「ううん、違うの。私が作りたいのは模様無しのマフラーで、どの本にも載ってなくて」

良く見ると納言の持っている本は編み物の本だった。

「模様無しなら編めますが、膝掛け等に少し手を加えてみたら如何ですか?そうすればお一人でも…」

「使うのはその毛糸だから、失敗したくないの」

あぁ、成る程。それで教えろということか。

「分かりました。丁度私も毛糸を買っていましたから、2人で編みましょうか」

「本当?」

「えぇ、その方が教えやすいですし。時間がかかりますから紅茶を淹れてきますね」

自分の毛糸の入った籠を置き、一旦部屋を出る。

調子を取り戻したのは幸いだが、無地のマフラーなんて誰に渡すのか…忍はもう持っているし、祥子に渡すなら模様付きの方が良いだろうし…大体それを作るための毛糸を1人で買いに行った程なのだから、余程の理由があったのか。

マフラーを渡す相手が気になったが、取り敢えず言い付けられたのは編み方を教える事。余り詮索しない方が良いだろう。

そう結論付けて紅茶を淹れた。

「神代さん、如何でした?お嬢様の容態は」

通りがかった女中に問われる。

「もう随分回復していましたよ。これから編み物をされるそうです」

「そうですか…良かった…」

その会話を聞いていた女中達もほっと胸を撫で下ろす。

女中達には納言は誘拐された、とだけ話してある。もしも競りで売られかけたと言ったらどんな反応をするのだろうか。

そんな事を考えながら納言の部屋の前に立つ。

最近無駄なことを考える事が多い。昔は特に何も考える事など無かったが、俺も随分周囲に影響を受けているようだ。

コンコン

「お嬢様、入っても宜しいですか」

「えぇ、良いわよ」

これはもう合言葉のようなもので、口調も内容も一切変えない。

扉を開けると、納言は籐椅子を2つ出していた。1つはお気に入りの揺り椅子だ。

「貴方、なんでこの色にしたの?」

椅子の横の机に紅茶を置いていると、突然尋ねてきた。

納言の手には俺の買った毛糸が収まっている。

「何となく目についたからです。それと、お嬢様に似ていたからですね」

何故かは知らないが、霧原の血筋は代々瑠璃色の瞳を持っている。

だからこの毛糸を見た時に納言の瞳が連想された。それだけである。

「お嬢様はどうしてその色に?」

納言が買ったのは紫色の毛糸。その色が好きだというのは知らなかった。いや、好きな色なんて元々聞いたことも無かったか。

納言は少し俯いて呟く。

「綺麗、だったから」

顔は見えないが、何故か耳まで赤くなっている。

そんなに恥ずかしい事では無いと思うが…

「それより!早く作りましょう?作り終わるまでどのくらい時間がかかるの?」

「長さによります。どのくらいにしましょうか」

「え、えーと…じゃあ、貴方が巻くならどれくらいの長さが良い?」

渡す相手の身長は俺と同じくらいなのか。

「200cmくらいが好ましいですね。その長さだと手編みなら大体2日程かかります。睡眠と食事を除きますが」

「除かなかったらどれくらいなの?」

「遅めに見て一週間、早ければ5日です」

「そう、それなら問題無いわね」

ほっとしたようにそう言って毛糸の入った籠を俺に渡す。

「知ってると思うけど、この部屋は防音機能も付いているから普通に話しても平気よ」

「存じております」

編み棒を持って毛糸をかける。

「始めは普通のマフラー編みと変わりませんよ。できるだけ模様がつかないようにするなら目は細かい方が良いですが」

スルスルと棒を動かして毛糸を編む。

納言は始めは苦心していたが、10分も経つと慣れた手つきで編み進めていく。

「…ねぇ式部」

“本名”を呼ばれて一瞬躊躇うが、それに応じた返事をする。

「なに」

「私が拐われた時、私のこと買ってくれたでしょ?」

「あぁ」

その時の金額でも聞かれるのだろうか。

「その帰りのことなんだけど…」

納言は少し言いにくそうに先を続ける。

「あの女の人、どうやって黙らせたの?」

マフラーを編む手が止まる。

真逆そのことを聞かれるとは思っていなかったが、特に隠すことも無いので隠さずに答える。

「適当に金を渡して黙らせた」

「その後。急に声がしなくなった時のこと」

「口を塞いだ」

「…嘘吐いてない?」

しつこく聞いてくるが、嘘も吐いてないし隠していることも見当たらない。

「吐いてない。何かあったのか?」

「ううん、なんとなく変な感じがしたから。ああいう人ってお金だけじゃ帰してくれないでしょ。だから直ぐに帰らせたのはおかしいなって思って」

確かにそうだが、金を渡して口を塞いだくらいしか覚えがない。あぁ、その後にした目配せのことか?いや、それは違うか…

「口を塞いだって、何で塞いだの」

その質問でやっと気づいた。

路地の奴らも売人の奴らも良くやっていた事だったのだが、納言たちにとっては異常な行為。

「…口、だった気がする」

少し遠慮がちに言う。

「く、くちでくち…!」

納言は自分の口を両手で押さえて顔を真っ赤にする。

「変態!破廉恥!助平ぇ!」

あぁ、思った通りの返事がきた。

「そんな事言われても俺の中では常識だ。娼婦に絡まれたらそう言う対処をするしかないんだよ」

「しし、娼婦?!今まで絡まれた事が…!」

ますます顔を赤く染めて自分の事のように恥ずかしがる。

「あのなぁ、路地裏なんかではそういう奴らは珍しく無いんだよ」

「そ、そうなの…?」

「そうだから。分かったら手を動かせ。そんな調子だと終わらないぞ」

無理矢理話を逸らして編み物を続けた。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。