二次創作小説(紙ほか)

※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜
日時: 2017/05/28 20:43
名前: ぴろん

初めまして!カキコ初見のぴろんと申します!

初投稿ですので何かと至らぬ点も御座いますが、生温かい目で見守って下さると助かります!

コメントや物語に関する質問などは何時でも受け付けておりますので遠慮なくコメントしていって下さい!
あ、タイトル少し変えました。


※注意
・この小説は作者の完全なる二次創作です。御本家様とは全く関係がありませんのでご了承下さい。

・登場人物の異能など説明不足の部分が多々あります。その場合は御本家様、文豪ストレイドッグスの漫画1〜10巻、小説1〜4巻を全て読んで頂けるとより分かりやすく楽しめると思われます。

・作者の勝手な解釈で作っておりますので、良く分からなくなった時はコメントで質問等をして下さい。読者の皆様方が分かりやすく楽しめる小説作りをする為の参考にさせて頂きます。

・此処では二次創作小説の連載を行なっております。リクエスト等にはお答えできませんのでご理解頂きたく存じます。


2016/12/30 閲覧数100突破!本当に感謝です!

2017/01/14 閲覧数200突破!有難う御座います!

2017/02/09 閲覧数300突破!唯々感謝です!

2017/03/01 閲覧数400突破!感謝感激雨霰です!

2017/03/24 閲覧数500突破!有難う御座います!

2017/04/23 閲覧数600突破!泣くほど感謝です!

2017/05/13 閲覧数700突破!感謝しすぎで死にそうです!

2017/05/28 閲覧数800突破!本当に有難う御座います!

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Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.84 )
日時: 2017/05/14 09:13
名前: ぴろん

51間目


無機質なコンクリートに囲まれた地下室。

そこにコポコポと気泡の音が響いていた。

部屋には大量の容器やチューブ、中には様々な色の液体が入っている。

「…よし」

部屋にいた男はそれを1つ取り、満足そうに部屋を出て行く。

プルルルルルルル

地下から出て電波が届くようになったのか、持っていた携帯電話が鳴る。

嫌そうに電話を取り、ボタンを押した。

「もしもし」

『班長!お仕事です!』

「僕、まだご飯食べてないんだけど」

『食べ終わってからでも構いません』

「…行かなきゃ駄目?」

『尾崎幹部からの御命令です』

「えー」

『お願いします!』

「…分かった。ご飯食べてからそっちに向かうから30分くらい待っててね」

『はい!ありがとうございます!』

通話を切って携帯を放り投げる。

「鞠ちゃん、ご飯まだ?」

「そろそろ届く頃ですよ」

部屋を掃除しながら答えたのは鞠。納言の力によって動いている日本人形だ。

「折口さんは自炊出来ないんですか?」

「出来るけどしないよ」

長いボサボサの頭をかきながら欠伸をしてソファに座る。

「今日作った薬品は何ですか?」

「取り敢えず飲んだら駄目なもの。」

栓をしてある試験管を振る。

中の緑色の液体がチャプンと音を立てた。

「貧血剤はありますか?」

「勿論、そっちが本業だからね」

ほら、と近くの箱を指差す。

「わざわざ全部注射器に入れてあげてるよ。コレの所為で残りの注射器は後5個しかないけど、まぁ困らないし良いか」

「駄目です。ちゃんと回収してますから殺菌消毒をお願いします」

空の注射器が入った箱を置く。

「後でやる。それよりご飯は?」

「今届きました」

机の上に並んでいるものを指差す。

おにぎり2つとほうれん草の白和えに味噌汁。何とも健康的な食事だ。

鞠がそっと淹れたてのお茶を置く。

「いただきまーす」

パクリとおにぎりを食べる。

「あ、シャケだ。僕の好み知ってるね」

「当たり前でしょう。貴方が育てたんですから」

「そうだったかな、途中から家出しちゃったけど」

味噌汁を飲む。

「これも合わせ味噌。本当に僕の好みに合わせてくるね」

「味噌汁は万人受けするから。おにぎりの具は1人ずつ変えているそうですよ」

ヒラリと落ちたメモを拾って言う。

「あ、そっか。今は他の人達にも作ってるんだっけ?」

「はい。お仕事の一環だそうです」

忙しそうに洗濯物を干している。

「僕もそっちに行こうかな」

「捕まっておしまいですね」

鞠の冷たい受け答えに苦笑いを浮かべる。

「式部ちゃんとは仲悪くないよ?」

「知ってます」

鞠はガラスの目で折口を睨む。

「それより早くご飯食べて仕事に行って下さい。私は貴方の身の回りの世話を仕事にしていますけど、貴方の話し相手はやっていないんです」

「酷いね。君には血も涙も無いのかな」

「生憎人形ですから」

折口は最後の一口を食べ終え、お茶を飲む。

「ごちそうさま。行ってくるね」

エナメルの鞄を持ち、和服に白衣、洋風の革靴といった奇妙な格好で玄関へ向かう。

「行ってらっしゃい。お気をつけて」

台詞を読み上げるような棒読み口調で言う。

「行ってきます」

折口はそんな事を気にしていないかのように少し微笑みながら家を出て行った。

少し歩くと紙切れが落ちてくる。

頭の上に乗った紙切れを取って見る。

〈送るか〉

達筆な字で書かれたメモ書き。

「後10分で着かなきゃいけないんだ。よろしくね」

そう言った直後、折口はポートマフィアの建物の前に立っていた。

「ありがと」

小さく呟いてテクテクと歩く。

「おはよう。元気?」

立っている黒服の男に無造作に話しかける。

「おはようございます」

「元気か聞いてるの」

「え?あ、はい。元気です」

「良かったね。僕は眠いよ」

いまいち噛み合っていない会話を交わして歩く。

また見つけた黒服の男に話しかける。

「おはよう。元気?」

「はい、好調です」

「そっか、元気そうで何よりだよ。僕を読んだのは君だね」

そう言って黒服の男のから鍵を受け取る。

「この合言葉気に入ってるけどさ、他の人にやっても不自然じゃ無いのが良いな」

「では、新しいものを考案して…」

「変えないで良いよ。覚えるの面倒」

「は、はぁ」

よく分からないと言った顔で折口を見る。

「何時もの場所で良いんだね」

「はい。中々の強者でして…」

「そういうのは僕に言わないで良いよ。鍵ありがとね」

そう言ってスタスタと歩いて行く。

廊下の途中の扉の前で立ち止まり、鍵を差し込む。

カチャリと音が鳴り、その上の電子版に電気がつく。

〈名前・職業・地位〉

表示された文字に相当する物を打ち込んで回答する。

〈折口 信夫・薬剤師・拷問班班長〉

ピピッと電信音が鳴り、扉が開く。

「はぁ…」

溜息を吐きながら血やら臓物やらの混ざった異臭の充満する部屋に入って行く。

「お疲れ様です。班長」

「お疲れ様です」

ズラリと並んだ黒服の男達が言う。

「お疲れ。調子どう?」

「いつも通りやっております。それで、今回お呼びしたのは…」

「あの人かな」

黒服達を無視して真っ直ぐ歩いて行く。

目の前には金属製の椅子に座った大男。手足を縛り付けてあり、こちらには一切手を出せない。舌も噛めないように細工してあるが、喋れるようにはなっている。

「うわっ、また爪剥いだの?痛そう…」

折口はブルッと身震いをして言う。

「あ、まずは挨拶だよね。初めまして、調子どう?」

まぁまぁな高身長の折口は、少し屈んで目線を合わせる。

大男は何も答えない。

「痛かったよね、それ。もう少し加減すれば良いのに…」

爪を剥がれた指先を見て、心底同情した口調で言う。

大男は折口を睨んだまま何も喋らない。

「喋らないように訓練されてるのかな。もしかしてくすぐられても笑わないの?凄いね」

ふふっと笑って言う。

「班長、これを…」

後ろに立っていた男が一枚の紙を渡す。

「あ、言ってもらう内容か。忘れてた。えーっと…所属組織名とその場所、手掛かりが掴めること全て…曖昧じゃない?」

「す、すみません!」

男はビクッと肩を震わせる。

「君が指定したんじゃないでしょ、姐さんとかその辺り。取り敢えずお話すれば良いんだよね。何時も通り」

そう言って椅子の下をいじってタイヤを出す。

「手伝ってくれる?」

「了解です」

黒服の男達はタイヤが出て移動可能になった椅子を押し、別の部屋に移動させる。

タイヤをしまい、もう一度椅子を固定させてから男達は部屋から出て行く。

「待っててね」

全員が出たのを確認してから、折口は扉を閉めて鍵を回した。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.85 )
日時: 2017/05/14 20:43
名前: ぴろん

52間目


持っていたエナメルの鞄を置き、その横にしゃがみ込んでチャックを開ける。

「えーっと…確かこの辺に…あったあった」

鞄の中から飴を取り出し、袋から出す。

「うぇ…いただきます…」

嫌そうな顔をしながらポイッと口に放り込んで転がす。

暫くして、ガリッと飴を噛み砕く音が聞こえた。

「……ふふ…ふふふふふふ…」

折口の肩が震え、奇妙な笑い声が口から漏れる。

これまで反応を示さなかった大男も、流石に眉をひそめる。

「ふふふふふ」

振り返った折口の口は、奇妙にニィッと笑っていた。

「良いねぇ、最高だねぇ?」

不自然に語尾が上がった口調で呟く。

「…お前は…?」

今まで一言も話さなかった大男が口を開く。

「余は折口。ポートマフィアの拷問班班長だ。よろしくねぇ」

言葉の端々にヒヒッという笑いが入る。

「さてと、今から拷問をする訳だけど…」

鞄の中から液体の入った試験管を取り出す。

と、折口の陰からゆらりと黒い人が出てくる。

「例えばこの薬品Aをこいつにかけるとねぇ」

そう言った直後、後ろにいる人の左頬がジュワッと音を立てて沸騰する。

そしてそれが流れていき、左肩、腕、脇腹の辺りまで沸騰する。

音をたてながら沸騰は広がっていき、既に左の目玉は萎んで小さくなっている。

「どう?これ、最っ高じゃない?ねぇ」

ボコボコと音を立て、喉から声にならない断末魔を鳴らしながら崩れ落ちていく“モノ”を見ながら、うっとりとした声で言う。

「でもこれは失敗。“僕”曰く殺したら駄目なんだとさ。筋肉まで溶けちゃ駄目って、酷くない?」

長い髪の間から狂人のような目が覗く。

折口は持っていた試験管をしまい、新しいものを出す。

「で、次に薬品Bがあるからぁ」

折口の陰から新しく人が出てくる。

「コレをかけるとねぇ」

そう言うと、皮膚が蒸気を出しながら焼けただれたように剥がれ、ボトリと落ちる。

火傷のようなものは全身に広がっていき、次から次へと皮膚だったものが剥がれ落ちていく。

皮膚が剥がれ落ちた箇所から筋肉が剥き出しになっていく。

「コレも良いでしょぉ?解剖する時に楽なんだよねぇ」

笑いながら言う。

「でもコレも失敗。火傷に似せた症状にしたんだけど、範囲が広いと死んじゃうんだってさぁ。それに痛みもさっきのに比べたらそこまでじゃないんだよねぇ」

残念そうに言い、大袈裟に溜息を吐く。

「そこで余は考えた。この薬品AとBの良いトコだけを取り出す事は出来ないかと!」

大分熱のこもった声で言う。

「“僕”にはそれが可能だった。だから、“余”のために作らせたのがコレなんだよぉ?」

懐から栓をした試験管を取り出す。

「コレ、かけても良いよねぇ?」

大男は怯えきった目で折口を見る。

「ねぇ、実験させてくれない?」

先程の人“だったモノ”が転がっているのを見て、首を激しくふる。

「余に口答えかい?許されないねぇ。余に反対して良いのは僕より地位の高い人か…」

ジロリと大男を見る。

「余に情報を提供してくれる人じゃないと」

試験管の栓をキュポンと抜く。

「因みに、この薬品は君にかけても死なないよぉ?自分の皮膚が沸騰して剥がれていく様子をよぉく見るんだねぇ」

「ま、待て…」

「なに?情報提供かぃ?」

試験管を傾けていた手を止める。

「何故死なないとわかる…俺は死ぬぞ。死んで情報を絶対に…」

「死なないよぉ?」

折口の笑みが一層深くなる。

「余の異能力を教えてあげよう」

そう言って懐からナイフを取り出す。

「異能力名は【死者の書】自分が今持っているもので出来る殺人方法を幻覚にして見る事が出来るのさぁ」

折口の後ろから人が出て来る。

すると、その人の左胸の部分にナイフで刺されたような傷が出来る。少し間があってから鮮血が吹き出し、傷口は刺していたナイフが捻られたように広がり、血飛沫は更に激しくなる。

喉からグェっという音が出て、人だったモノはその場に倒れこむ。

「ほらねぇ?凄いリアルで良いでしょ?」

うふふっと笑う。

「で、この薬品を持っても何も見えない。って事は人を殺す程の威力は無いんだよ。これを飲ませたら死んじゃうかもだけど、見る?ねぇねぇ?」

折口は楽しそうに言う。

「いや…だ…」

「でも情報提供してくれないと拒否権は無いしねぇ…かけちゃおうかぁ」

「ひっ…や、やめて…」

そーっと試験管を傾けていく。

「ギャアァァァアアアアアア!!!」

〜10分後〜

折口と大男の入っている部屋、一部から班長専用特別拷問室なんて呼ばれている部屋の扉が開く。

「班長、お疲れ様でした」

「うぇえ…気持ち悪い…僕がじゃないからってやり過ぎだよ…」

ヨロヨロとした足取りで折口が出て来る。

「あの人が話してくれた内容は全部ココに書いてあるから。薬品も中和済み。安心してお掃除してね」

そう言って小さめのメモ用紙を渡す。

「真逆あんな効果だったなんて…もう少し僕に詳しく話してくれても良いと思うんだけどなぁ…」

大きな溜息を吐きながら地下室を出て行った。

因みに特別拷問室の中の様子は、皮膚が沸騰して焼けただれたようになって原型を留めておらず、床にドロッとした“ソレ”がこびりついている。大男は辛うじて生きているがうわ言のように所属組織名を言っている。

〈霧雨〉

メモ用紙にも書かれた組織名。

残っていた背中の皮膚に波紋のような刺青が施されていた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.86 )
日時: 2017/05/16 18:55
名前: ぴろん

53間目


何度か吐き気をぶり返しながらも廊下を歩く。

「おや、もう終わったのかえ?」

折口は声のする方に顔を上げる。

「なんだ、姐さんか…」

「なんだとはなんじゃ。上司に向かって」

紅葉は不快そうに眉間に皺を寄せる。

「そんなに皺寄せたら老けますよ」

「なんじゃと?!巫山戯おって…私の部下で1番態度の悪い奴じゃ」

そう言いながら大袈裟に溜息を吐く。

「仕事は出来るのにそういう所を直さんから何時まで経っても昇進しないんじゃ。分かっとるのか?」

「さっきの人情報吐いたので後で確認しておいて下さい。それと僕は仕事は出来ません。今だって吐き気がします」

会話を全く無視して言う。

紅葉は何か言いたげな表情で折口を睨むが、代わりにもう一度大きな溜息を吐く。

「お主の体質には同情しておる。じゃが、結果的にそれが組織の役に立っておることも少しは自覚せい」

「その体質が嫌なんです。拷問する時はあっちの方が良いのは分かってるんですけど、発動条件が嫌いで…」

「発動条件?あぁ、そんなのもあったのう」

そう言って口元を隠しながら笑う。

「確か嫌いな物を食べるのが条件…」

「僕の嫌いな物はあいつの好きな物なんです。だから実際はあいつの好物を食べてあげると出て来る。前も言ったでしょう?呆けたんですか」

「あんまり軽口叩いてると斬るぞい」

睨みながら言う。

「じゃあ帰ります。あ、前に渡してくれた布、結構喜んでましたよ」

「あぁ、式部か。この間初めて会ったんじゃが、お前に聞いていたイメージと全く違ったのう。繊細で寂しがりの心優しい女の子と言っておったから楽しみにしておったのに…あれじゃあ猛獣じゃ」

「人見知りですから」

折口はそう言って小さく微笑み、廊下を歩いて行った。

ポートマフィアの拠点の外に出て、小さく呟く。

「式部ちゃん送って」

そう言った直後、何時もの路地裏の中心部より少し外よりの所に移動する。

「…嫌がらせかな。まぁ良いや」

一歩踏み出した所で違和感に気付く。

式部は普段路地裏に人が入らないように異能で結界のようなものを張っている。範囲は限られるがそれをすり抜けるのは不可能で、買い物に行く時やちょっとした来客が来た時などの一瞬だけ1部の結界を解除する。

この路地裏に侵入者がいるとすればその時に入れ替わるように入るしか方法は無い。そして、内部を傷つける時も…

「なに…これ…」

路地裏の中の建物が1棟崩壊している。

確かこの建物には何人か子供が…

周りを見渡すと、瓦礫に混じって何か黒い液体が飛び散っているのに気付く。

少し気になり、近くにしゃがみ込んで触ってみる。

「墨汁?それにしてはドロッとしてるような…」

パァンッ!

建物の中から聞こえてきた銃声で思考がかき消される。

「空砲の音…」

目の前の瓦礫が一瞬で消える。

「けほっ…」

中から2人子供が出て来る。

「大丈夫?」

折口は駆け寄って2人の手を取る。

「あ、お医者さん…今ね、急にドカンってなったの」

路地裏の子供は式部に言われて偶に診てやっているので顔見知りだ。折口を見て少し安心したように片方の女の子が話す。

「その前から変な音が聞こえてて…」

「そう!ピッピッてなんか…電子音っていうの?」

男の子も大きな声で言う。

「リーダーがさ、前に教えてくれたんだ!こういうのには気をつけろって。じげんばくだんっていうやつかもしれないから」

「だからその音に気付いて急いで出口に向かったら…」

クルッと振り返る。

瓦礫は(恐らく式部によって)すぐに無くなっていたが、壊れなかった石壁が一部だけ残っている。

「…そっか、怖かったよね」

2人は涙目になって頷く。

「一旦僕の家においで。お菓子食べよう」

折口は2人を連れて路地裏の中心部へ向かう。

「空砲打ったのはどっち?」

「お兄ちゃん。いっつもポケットに入れて持ち歩いてたの」

「そう、偉いね」

「へへっ!まぁな!」

少し照れ臭そうに笑う。

「他に近くにいた人とかはいない?」

「うん、何分か前に周りの人達は買い物に出掛けてた」

その時に爆弾を仕掛けたのか…式部ちゃんが居ないのを狙って?それともたまたま…

「お医者さん、そういえば何処にお出掛けしてたの?」

「ん?うーん…ちょっとだけお散歩かな」

少し濁して言う。

「その鞄は?」

「お医者さんの道具。お薬とか」

「へぇ、嫌な鞄。血の匂いがする」

「治療の時に血を採ったりするからね」

流石は路地裏の子供、血の匂いに敏感だ。

今子供達が精神を病まずに過ごせているのは式部ちゃんの適切な配慮があるからだけど、やっぱり喧嘩とかは他の場所よりもずっと多い。そのおかげで結構たくましく育ってるんだけど。

「この辺久し振りに来たな〜」

「この間みつぎもので綺麗な石を持って行ったのが最後だから…2週間位じゃない?」

この間磨いてストラップに加工してたのって貢物の石だったんだ…

「あとお花もね。綺麗なのが咲いてたの」

押し花をラミネート加工して栞にしてたのは貢物の…

「風邪気味だって噂があったから林檎も!」

デザートにアップルパイが出たのは…

「ふふっ」

やっぱり心優しい唯の女の子だ。

「お医者さんどうしたの?」

「いきなり笑って…はっ!もしかして面白い物でも見つけた?!ズルいぞ!」

「見つけてないよ。気にしないで」

2人の子供と微笑ましい会話をして先程の事などもう忘れてしまいそうになっていた頃、やっと家に着いた。

「ただいま〜」

家に入ってから少し大きめの声で言う。

「お帰りなさい。うるさいです」

奥から鞠の声が聞こえる。どうやら洗濯物を取り入れている所らしい。

「お客さんだよ、子供2人」

「兄妹ですか?」

「あ、はい。双子です」

折口に代わって扉の外で女の子が答える。

「未来ちゃんと悠人君ですね。どうぞ〜」

「お邪魔します」

「お、お邪魔します!」

2人が少し緊張した顔で入ってくる。

「そこ座っていいよ」

「あ、うん」

キョロキョロと辺りを見回しながら座る。

「本、すごいいっぱいだね」

「読書好きな人がいるから。これ全部読んだんだってさ」

「全部?!すげー…」

壁一面の本棚を見ながら言う。

と、鞠が奥から出て来る。

「あ、看護師さん!久し振り〜」

悠人が笑顔で言う。

折口が診察する時に一緒にいることが多い鞠は、路地裏の者達からは看護婦という風に見られている。

「お医者さんと一緒に住んでるの?」

「不本意ながら…まぁ、2人とも元気そうでなにより!怪我とかしてない?」

2人の前にジュースを置きながら言う。

「大丈夫!でもお家が…」

「リーダーから話は聞いたよ。新しく違うお家に引っ越す事になるけど大丈夫?」

「おう!未来は俺が守るぜ!」

一際大きな声で言う。

「ふふっ、頼もしいね!流石お兄ちゃん!」

「へへっ!」

照れ臭そうに笑う。

「もう路地裏の人達全員に注意はしたから二次被害はないと思う。でも暫く此処にいてね」

「おじちゃん達は?」

「買い出しに行った人も全員戻って来てるみたいだよ。何時もより遠目の入り口から入ったから大丈夫だったみたい」

「良かったぁ」

ホッと溜息を吐いてジュースを飲む。

「鞠ちゃん、僕寝てくるね」

大きな欠伸をしながら言う。

「待って下さい。そこの注射器の消毒が先です」

「はーい…」

面倒臭そうに水槽を取り、消毒液を入れる。

「洗いもの?」

女の子がヒョコッと除く。

「うん、危ないから触らないでね」

注射器を分解したものを入れて浸す。

その時、扉が物凄い音を立てて開いた。

「鞠ちゃんっ!!」

入って来たのは納言。急いで走って来たようで肩で呼吸をしている。

「納言ちゃん!どうしたの?」

「爆発!見えたから…」

「あ!納言おねーちゃん!」

2人は駆け寄って抱きつく。

「みーちゃん!ゆーくん!久し振りー!」

それを笑顔で受け止める。

コンコン

ノックの音が響いた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.87 )
日時: 2017/05/17 21:00
名前: ぴろん

54間目



「すいませーん。今此処に白いコートに青いマフラーの女の子来ませんでしたか?」

ノックの音に続いて扉の外から声が聞こえる。

その声を聞いて折口はそーっと地下室への扉へ向かう。

「折口さん!今日は起きてるの?」

納言が駆け寄る。

その間に鞠は玄関で受け答えをする。

「どちら様ですか?」

「その声はもしかして鞠さんですか?前に一度来た事があるんですが…」

「太宰さん?」

折口がビクッと肩を震わせる。

「えぇ。納言ちゃん来ませんでした?仕事中に急に走り出したから追いかけて来たんですが」

「どうぞ、中に居ますよ」

鞠は扉を開けて太宰を中に入れる。

「注射器の消毒?針刺さらないように気をつけてね」

「う、うん」

未来に受け答えしながら顔を隠すようにして地下室の扉を開け…

「おや、そこの人は?」

「折口さんです。薬剤師で、納言ちゃんと式部さんの育ての親みたいな感じです」

「へぇ〜、折口さんですか」

折口は目線を合わせずに小さく会釈をする。

「あと太宰さん、タメ口で良いですよ。今は納言ちゃんの職場の上司なのでしょう?」

「情報が早いね」

苦笑しながら言う。

「じゃあ納言ちゃんの育ての親だっていう折口君にもタメで良いのかな?」

「はい。そうなりますね」

「オッケー。で、納言ちゃん。なんで急に走り出したの?」

ニコニコ顔で言う。

「路地裏で爆発したのが見えたので皆が心配になったんです。急に走り出してすいませんでした」

納言はぺこりと頭を下げて謝る。

「良いよ良いよ。故郷が気になるのは誰だって同じさ。私も懐かしい人に会えたし」

チラッと折口を見る。

「お知り合いですか?」

「うん、昔ちょっとね」

スタスタと歩み寄って目の前に座る。

「久し振り〜、元気してた?」

「え、あ、はい…吐き気はありますが」

「おや、さっき仕事があったのかな?大変だねぇ」

笑顔を崩さずに言う。

「今は両者とも協力関係を結んでいるし、こうして話しているのは偶々だから何もする気は無いよ。まぁ誰かさんに意図されてるのかも知れないけど」

「まぁ…確実にそうですね」

折口はビクビクして目を合わせない。

それを見て太宰は溜息を吐く。

「昔っから弱気だねぇ。仕事中のテンションでずっといるのは出来ないの?」

「無理です。アイツ、直ぐに引っ込みますから」

「仮にも自分なんだしコントロールしようとかは思わないの?」

「昔やろうとしましたけど、そのお陰で1ヶ月ほど仕事が出来なくなりました」

太宰の質問に折口が怖がりながら答える。端から見れば唯の尋問である。

「君から何か質問は?」

「え…いや、特に無い、です」

元々の猫背が更に丸くなる。

「本当に?」

「…少しは、あります」

「言ってみて」

折口は躊躇いながらもポツポツと質問を始める。

「今はどんなお仕事を?」

「人を救う仕事」

「幾つでしたっけ」

「今は22歳だよ」

「ご、ご趣味は…」

「自殺」

何故かお見合いのような会話が続く。

同じような会話が暫く続いてから、折口は決心したように太宰と目を合わせる。

「…式部ちゃんの事、調べてるんですよね」

「うふふ、やっとその質問か」

待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

「調べてるよ。それで君にも聞き込みをしよう。鞠ちゃんと納言ちゃん、そこの可愛い子2人にも聞きたいな」

クッキーを齧っていた子供2人を見ながら言う。

2人はお互いに目を合わせてから太宰の方を向く。

「お兄さんだれ?」

「納言ちゃんのお友達だよ」

「なんかピエロみたい」

男の子の方、悠人が言う。

「ピエロ?」

「リーダーが言ってたんだ。ピエロはいっつもニコニコしてる。でもそれは仮面だから見つけたら剥がしてやれって。でもお兄さん仮面付けてないし剥がせないな」

そう言って笑う。

「ピエロは例えで、どうけしとかも言ってたよ?」

女の子、未来が付け足す。

「似たようなもんだって言ってたし、問題無いんじゃねーの?」

「良くわかんない」

そう言って顔を見合わせてクスクスっと笑う。

「ココ路地裏は式部ちゃんの管理」

折口が呟く。

「理解してるかしてないかとか関係なく子供達に色々教えてる。言葉も文字も計算も道徳も体術も家庭科も…この路地裏の人達が人並みの教養を持っているのは半分以上式部ちゃんのお陰」

「へぇ、そんな人が急に居なくなって大丈夫なの?」

「平気ですよ。どこからでも見てますから」

鞠が無言で2人の前に珈琲を置く。

「ありがと」

一言お礼を言って珈琲を飲む。

「この珈琲も鞠が淹れたのじゃないんです」

「そうなの?」

鞠の方を見て尋ねる。

「式部さんが淹れて下さいました。ここの会話も様子も全部筒抜けですから」

そう言って1枚の紙切れを置く。

紙切れには、もう見慣れた達筆な字体で、〈折口が情報屋。さっき拷問で吐かせた内容を話せ〉と書かれていた。

「情報屋…?」

折口は首を傾げながらそう言い、少し間を空けてそうか。と納得したように呟いた。

「太宰さん、今日は此処に用があったんでしょう?式部ちゃんからの指示で」

「情報屋が此処にいるって聞いてね。まさか君だったとは」

「折口さんが情報屋?私達が調べているのは異能力犯罪集団ですよね」

バッグから小さな手帳を取り出してページをめくる。

「その人達に共通するのは身体の何処かに刻まれた波紋のようなマークの刺青。今のところ捕まえても自殺しちゃって中々情報が得られない状態…あ、もしかして…」

そこまで読み上げてハッと顔を上げ、少し考えてから子供達を見る。

「みーちゃん、ゆーくん。お外で鞠ちゃんと遊んでてくれる?」

「まりちゃん?看護師さんのこと?」

「うん、今から危ないお話をするから聞いちゃダメだよ」

何も隠さずにそういう。

「うん、わかった!」

「大丈夫、聞かないよ」

2人はニコッと笑って鞠にくっつく。

「さて、2人とも遊びましょ〜」

扉を開けて外へ出て行った。

家の中には3人だけ。

少しの沈黙の後、折口が口を開く。

「さっき拷問した人、背中に変な刺青があったんだ。波紋みたいな」

「やっぱりね」

太宰はふふっと笑う。

「確かあれは…」

「ちょ、ちょっと待って下さい!情報屋さんとの取引なら報酬とかの相談が先です!」

話し始めようとする折口をビシッと止める。

「あ、そっか。じゃあ話せない、です」

「もう私は上司じゃ無いんだからタメ口で良いよ」

「あ、太宰さん元マフィア幹部でしたね。そういえば。16歳から飲酒してた」

「なんでそれ知ってるの?」

驚いて言う。

「おにーちゃんから何でも筒抜けです。因みに昔からポートマフィアに近づくなって言われてたのは森さんがどうやら小さい女の子が好きなようで危ないから、だそうです」

そう言って太宰を見る。

「ですからこの前おにーちゃんが怒っていたのも知ってます。でも本気で怒った時はもっと怖いですから気をつけて下さい」

真剣な顔で言う。

「え、あれで本気じゃないの?」

「はい。本気で怒った時は…」

「ストップ、やめて」

折口が被せて言う。

「その話は僕の方が良く知ってるでしょ」

「あ、折口さん被害者でしたね」

そう言って苦笑する。

「へー、式部ちゃんって納言ちゃん関係でしか怒らない感じするからなぁ…何したの?」

「ちょっと調べ物して、その結果を納言ちゃんにも教えようとしたんです。そしたらもう…なんか大変で」

「私その時は確か2歳位だったので記憶は曖昧ですけど、折口さんが私に話しかけようとした瞬間消えたっていうのは覚えてます」

納言と折口がその時の様子を交互に語る。

「太宰さんはもう見ました?あの鎌。どっか飛ばされたと思ったら首に突きつけられて、どこまで知ったって言ってきて…あの時の殺気はヤバかったですね。気絶しちゃったし」

「私は遠くから見てたんですけど…あ、場所は少し向こうの港あたりです。急に赤い球体が出てきてその中に入れなくなったんです」

「赤い球体…なんかチラッと見たかも」

顎に手を当てて記憶を探る。

「それで僕は色々聞かれて終わりって感じですけど、その詳しい内容はまだ言えません」

「まぁ話せないならそこは良いや。取り敢えず犯罪集団の情報頂戴?」

コロッと表情が変わる。

「それなりの報酬を下さい。一応情報屋だそうなので」

「うーん…じゃあまた後日持ってこようか」

「あ、そういえばおにーちゃんが折口さんで困った時にこれって…」

鞄の中から1枚の小さな紙片を取り出す。

「何これ、地図?」

紙片にはこの周辺の地図が書かれており、そこに赤い線や丸が書き込まれている。

「どうぞ」

納言が半ば押し付けるような形で折口に渡す。

「え、なに、なんか書いて…」

「えいっ!」

折口の口の中に何かが放り込まれる。

しばらくそれを口の中でコロコロと転がしてから、ふいにガリッと噛み砕く音が鳴る。

口はニィッと薄気味悪く笑い、目は狂気に満ちている。

「おや、久しぶりに見るなぁ」

太宰がニヤリと笑った。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.88 )
日時: 2017/05/19 20:57
名前: ぴろん

55間目



折口の顔が上がる。

「ふふっ、1日に2度も出られるなんて今日は本当に素敵だねぇ?」

そう言ってギョロリと太宰を見る。

「懐かしいなぁ、太宰さん」

「見てたでしょ?」

「バレてたぁ?ひひひっ」

机に置いてある紙片をとって見る。

「あぁ、これは猫のルートかぁ…僕が喜びそうな感じだねぇ。余は犬派だけど」

「報酬になる?」

納言は少し心配そうに言う。

「勿論だよぉ、それにしても余を出すとは考えたねぇ」

「偶々持ってたから、梅キャンディー」

そう言って赤い飴玉を見せる。

「これの美味しさが分からないなんて僕は馬鹿だなぁ。そう思うよねぇ、納言ちゃん」

「好みは人それぞれって事なのかな?でも同じ人だし…」

「まぁ良いや。じゃあ情報だよぉ」

懐からメモ帳を取り出してめくり、ページを1枚千切って渡す。

「意外と喋らなくってねぇ…組織の名前と場所、おおよその人数位しか知らないみたい」

太宰は無言で紙片をとって読む。

「充分だよ!ありがとう!」

黙っている太宰の代わりに納言が礼を言う。

「納言ちゃんは余にとっても僕にとっても家族みたいな感じだから遠慮しないでねぇ。本当はタダで教えても良いんだけどなぁ」

「一応お仕事だからね」

えへへっと笑う。

「あ、そうだ。太宰さん、私久し振りに路地裏の人達に挨拶してきます!爆発した所も少し見に行きたいんですけど、良いですか?」

太宰は顎に手を当てたまま動かない。

それを肯定の意と受け取った納言は足早に部屋を出て行く。

バタンッ

扉が閉まる音がしてから数秒後、太宰がポツポツと呟く。

「そうか。なら6年前の…うん、それなら確かに辻褄もあうな…」

顔を上げて折口を見る。

「折口君は式部ちゃんの過去についてどの位知ってるの?」

「えぇ?どうしたの急に」

「どこまで私に教えられる?」

いつになく真剣な顔で問う。

「…そういう真剣なの嫌だなぁ、それについては僕の方が知ってるよぉ。じゃあね」

カクンッと首が垂れる。

すぐに顔が上がり、太宰を見る。

「はぁ…また僕に面倒事を…」

その顔に先程までの笑みは無く、最初に会った時の折口に戻っていた。

「うーん…話せる事って少ないからなぁ…ほとんど口止めされてるし。やんわりとしか言えませんよ?」

「それでも良いよ。無いよりはマシだ」

太宰はニコリと笑う。

「まず、式部ちゃんの異能はどこまで知ってるの?」

「いきなりそれですか…多分マフィアに書いてあるのに加えて少しって位。だから太宰さんより少しだけ知ってると思います」

「そこは話せるラインかな?」

「少しなら」

折口は慎重に考えながら話す。

「式部ちゃんは空間を操る能力。その空間には種類があるのは知ってますよね」

「それは知人からも聞いたよ」

「で、太宰さんが知っている空間に追加して細かい事を教えられてないのも含めると多分2つの空間があります」

指を折りながら言う。

「異能の空間と魂の空間。この2つは特殊なものでこの世の理に反するものだと聞いています」

「魂の空間なら聞いたよ。概要はあまり分かってないとの事だったけどあれは嘘かな」

「はい」

頷いて答える。

「まず異能の空間から。取り敢えず簡単にまとめるとすると、相手の持つ異能力の概要、メリットやデメリット、更には突破方まで見るだけで分かるそうです。太宰さんの異能の突破方も分かっているそうですが」

「へぇ、それは興味深いねぇ」

ニヤリと笑う。

「次に魂の空間。これは実際に確認しないと分からないんですけど、取り敢えず聞いたのは式部ちゃんはこの空間の所為で死ねないって言ってました」

「死ねない?」

「式部ちゃん曰く、何度も死んだ事があるそうです。矛盾してますけど」

「うーん…難しいね。死んだ事があるのに死ねない…」

ふたたび顎に手を当ててブツブツと呟く。

「死なないじゃなくて死ねない…って事は不死の…いや、死んだ事があるなら…でも…」

そこで言葉は途切れ、黙考する。

折口は少し冷めた珈琲を飲んで小さく溜息を吐く。

「…折口君」

「はい?」

「君、魂の空間って言ったよね」

「はぁ、言いましたけど」

それを聞き、太宰は納得したように顔を上げる。

「成程ね…じゃ、情報ありがと」

ニコッと笑って机に小さな封筒を置く。

「何これ?」

「報酬。納言ちゃんに怒られちゃうから」

そう言って肩をすくめる。

「お互い子供に頭が上がらないですね」

「全くだよ。式部ちゃんは子供判定して良いのかな?」

「どうでしょう?一応10歳ですよ」

「ギリギリ子供だね」

ヘラヘラと笑いながらそんな会話を交わし、太宰は玄関に立つ。

「珈琲ご馳走様でした。今度会う時は敬語じゃ無い方が良いなぁ。もう上司じゃないし」

「練習しておきます」

折口もふふっと笑って言う。

「では、お邪魔しました」

「さようなら」

扉を開けて部屋を出る。

折口はそーっと立ち上がり、本棚の中から1冊の本を取り出す。

「これ、読ませた方が良かったかな…」

「必要ない」

「えっ?」

いきなりした声に振り返る。

「し、式部ちゃん…」

台所で式部が洗い物をしていた。

「これ位自分でしろ。鞠は水に触れられないんだから」

食器を洗い流し、拭き上げて棚に入れる。

「何時から…」

「ついさっき。それにしても太宰も綾辻も勘付いたか。少し簡単過ぎた」

「勘付いたって…式部ちゃんの異能?」

「半分正解。まぁ2人にはヒントをやってるからそろそろだとは思っていた。別に驚くことは無い」

最後の皿を棚に戻して布巾をしまう。

「折口、そろそろ俺は死んでくる」

「は?」

急に言われた言葉にポカンと口が開く。

「少し帰りが遅くなるから路地裏は任せた」

「いや、死ぬって死ねないんじゃないの?」

頭の上に無数のクエスチョンマークを浮かべて言う。

「言っただろ。何度も死んだ事があるって」

「僕も意味はわかってないよ。それに太宰さんに話した内容位しか鮮明に覚えてるのは無いし…」

最後の方はボソボソとした声で言う。

「まぁ、取り敢えず探偵社を動かすか、その前にポートマフィアを動かすか…特務科もありだな」

そう呟いてから俯いている折口を見る。

「…折口」

「な、なに?」

少しビクビクした様子で返事をする。

「手、見せてみろ」

「手?」

恐る恐るといった感じに両手を見せる。

「これは何だ」

「え…?」

折口は自分の手を見る。右手の人差し指が黒くなっていた。

「さっき瓦礫のところに黒い液体みたいなのが飛び散ってたから触った時のかな?」

「少し見せろ」

「あ、はい」

子供らしい小さな手で折口の手をとる。

と、折口の指に小さな注射器を突き刺した。

「いたっ…く、ない?」

注射器の刺さった指を不思議そうに見る。

「少し待て」

注射器で体内に入っていた黒い液体を血液ごと取る。

折口の指の色は先程の黒色から通常の肌の色に戻っていた。

「何?その黒いの」

指に絆創膏を貼られながら尋ねる。

「水だな」

「水?」

「俺の知っている異能者に水を操る奴がいた。そいつの仕業だ」

黒ずんでいた血液が徐々に元の赤い色に戻っていく。

「量が少ないから影響は無かったが、もしもこれが大量に体内に侵入していたとしたら身体に含まれている水分と混ざり合って動きを支配される」

「じゃあこっちの会話とか聞かれてる?」

「安心しろ、操っている本人はこっちの状況が見えないし聞こえないから盗聴には使えないが、無差別に人を襲わせるくらいは…」

式部の動きが止まる。

「さっきの爆発か」

そう言った直後、式部の姿が消える。

「え?式部ちゃん?」

困惑する折口の前に一枚の紙切れが落ちる。

右手の人差し指に少し痛みを感じながらもそれを拾う。

〈外に出るな〉

何時も通りの筆跡で書かれた文字。

少し不思議に思いながらも折口は玄関と窓の鍵を閉め、本棚から一冊の本を取り出した。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.89 )
日時: 2017/05/20 20:55
名前: ぴろん

56間目


子供のはしゃぐ声、それに答える親の声。

風船を配る着ぐるみ、八百屋で大声を出して客を呼ぶ店主。

なんら変わりのない何時もの街。その直ぐ近くの騒ぎにも人は気付く事もなく、ただ幸せに過ごしている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

路地裏の中では乱闘が起こっていた。

しかし、別に統治に問題があった訳でも、暮らしが不充分だった訳でもない。

暴れる者達の身体に浮かび上がる黒い染み。

住人達は、操られていた。

「住人は58人、暴れているのは31人…」

式部は、屋根の上に座って呟く。

見下ろす先には住人達が暴れている。

「鞠の連絡で避難は出来ているか。とするとここにいるのは…」

暴れている者達の中に、必死に抵抗する人影を見つける。

「納言」

屋根から飛び降り、納言の前に降りる。

「おにーちゃん?!なんで…」

フードは脱げ、紅茶色の髪が風になびく。

「爆発したビル付近の奴らだな。暴走を止めるから手伝え」

「う、うん!」

返事をしながら白い手袋を外す。

「全員の身体の何処かに黒い染みがある。これで抜き取る」

ジャラリと音を立てて大量の注射器を出す。

「1度使った注射器は捨てろ。2度は使うな」

「わかった!」

納言は注射器に触れる。

「黒いのを取るよ!頑張って!」

納言の触れた注射器は、暴れる住人達に突き刺さって身体にある黒い染みを正確に抜いていく。

式部はそれが終わったのを確認して別の場所へ走る。

「太宰」

「おや、式部ちゃん?今は特務科にいるんじゃ…」

「廃屋に行く。死体は頼んだ」

そう言って走り去る。

「死体?廃屋に向かうって…」

「だーざいさーん!」

足元に子供2人がガシッとくっつく。

「捕まえた!」

「ありゃりゃ、捕まっちゃった」

苦笑いしながら2人を撫でる。

「鞠ちゃんは?」

「鞠お姉ちゃんは向こうだよ!お話しするの?」

「うん、まぁね」

2人と手を繋ぎながら歩く。

「あ、太宰さん。捕まったんですね」

「ちょっと話してる間にね」

ヘラヘラ笑いながら言う。

「ちょこっと用事ができたから帰るね」

「えー!まだ遊びたい!」

「行かないで!」

両手を2人がギュッと握りしめる。

「ごめんね、お仕事だから」

「お仕事…」

シュンと下を向く。

「また遊ぼうね」

「うん、分かった!」

「絶対だよ!」

2人はそれぞれ握っている手と小指を絡ませる。

「ゆびきりげんまん」

「嘘ついたらはりせんぼんのーます」

「「ゆびきった!」」

絡ませていた小指をピッと解く。

「またね!」

「ばいばい!」

2人はそう言ってニコッと笑った。

「太宰さん、お気をつけて」

「うん、鞠ちゃん達も早めに避難した方が良いんじゃない?」

そう言うと鞠は驚いた顔をする。

「知ってたんですか?」

「ただの勘だよ」

うふふっと笑って手を振る。

「またね」

そう言って立ち去っていった。

先程暴走があった場所は既に収まり、住人達は全員避難していた。

「よし!おにーちゃん、これで…」

クルッと振り返ろうとした納言の首が止まる。

「どうした」

「え、なにこれ…」

身体ごと別の方向を向き、テクテクと歩いて行く。

ふと、前の方から風が吹いて納言の髪がなびいた。

その隙間から黒い染みがついたうなじが…

「納言、動かせる場所はあるか」

早足で追いかけながら問う。

「口と目は平気。呼吸も異常なしだけど…」

「分かった。着いて行くから安心しろ」

これだけの広範囲だと摘出はほぼ不可能。出来たとしても大量の血も抜き取ってしまう。

式部は歩幅と速さを合わせ、並んで歩く。

「ねぇ…何処行くの?これ…」

怯え、青ざめた顔で言う。

今納言は自分の意思ではないもので歩いている。そんな状況で怖がるなという方が無理だろう。

「路地裏の奥の方に進んでるな。この方向だと廃屋か…」

「廃屋?」

「言葉の通り廃れた館だ。人が住んでる気配はあるから近づかないようにしていた」

予想だとそこに異能者が…

考えながら歩いて行くと、路地裏を抜けて少し開けた所に出た。

その奥にはつい最近見たばかりの瓦礫の山があった。

「廃屋ってあれ?」

「あぁ、何処から人が来るか分からないようになっているな」

瓦礫は以前よりも増えており、至る所に死角がある。

大抵のものは式部が異能で防ぐことが出来るためあまり警戒せずに歩く。

と、納言がいきなり早足になった。

式部もそれに合わせて早足になる。

「え?なんで?」

「慌てるな。特に問題は…」

一瞬違和感を感じる。

違和感の正体は直ぐにわかった。四方に張っていた空間の断裂の左側が途切れたのだ。

すぐ左は瓦礫が積み上がっており、その曲がり角が死角になっている。

「おわっ!」

曲がり角から飛び出してきた男とぶつかる。

その瞬間、納言は逆方向に走り出す。

「いたた…」

男は腰をさすりながら立ち上がる。

「おや、式部ちゃん?奇遇だね」

太宰だった。

「しまっ…」

式部が離れる前に足元の瓦礫からワイヤーが出て2人の足を固定する。

すると、納言が走って行った方の瓦礫から人影が現れる。

「上手くいきましたね!」

「まだ安心するな」

大柄な男と高級そうな洋服に身を包んだ中年。式部にはその2人に見覚えがあった。

「井伏…」

「私を知っているのか。まぁ良い」

中年…井伏はポケットから拳銃を出す。

「貴様にはここで死んでもらう。本当は生け捕りにして我が組織に入れたいのだが、死体を高値で買い取ってくれる者がいる。さっさと殺して死体だけ持って帰るか。そうすれば路地裏も我々の物だ」

そう言って銃を納言に持たせる。

「さぁ、貴様の兄を撃つのだ。その後は私達が引き取ってやろう」

納言の腕が意思に反して動く。

銃を両手で構え、安全装置を外す。

「逃げようなんて思うなよ?そうすればこいつの頭ごと吹き飛ばす」

納言の頭をコツンと叩く。

「納言を解放しろ」

低くよく通る声で言う。

「おや、死刑宣告をされたものの遺言か。お前が死んでから叶えてやろうか」

納言の指が引き金に掛かる。

「…太宰」

相手に聞こえないよう小さな声で言う。

「なに?」

「俺の足に出来るだけ近づけ。あいつらの狙いは俺の頭と首と心臓。そうすればお前には流れ弾は当たらない」

太宰は少し沈黙してから答える。

「…わかったよ。死体を頼むって事はあいつらに渡さなければ良いのかい?」

「あぁ、ついでに納言の救出も頼む。どうせ呼んであるんだろ」

「何でもお見通しって訳か。じゃあ依頼は君の遺体と納言ちゃんの捕獲、探偵社に連れて帰るで良いね」

「そうだな」

そう言って式部は前を向く。

「納言、目を閉じろ。安全な場所に着いて危険がないと判断し、お前の信頼できる奴が側にいる時に目を開けろ。良いな」

「…うん、分かった」

ギュッと目を閉じる。

それを見て式部も静かに目を閉じる。

「ふん、無駄なお喋りは終わりだ」

納言の手が式部の心臓に向く。

「撃て」

3発の銃声が響き渡る。

銃弾はそれぞれ心臓、首、脳を正確に撃ち抜いて内臓や重要機関を掻き回してから後ろに抜けた。

血と脳漿を後方に撒き散らし、式部は悲鳴をあげる事なく力を失って太宰にもたれかかるように倒れた。

納言の口から黒い液体がゴボリと溢れる。

「コレがこいつを操っていた物だ。と言ってももう死んだから意味は無いか」

「ゲホッゲホッ…」

納言は膝をつき、激しく咳き込む。

「まぁ最期の願いも叶えてやった。後は死体を回収して…」

「【独歩吟客】閃光弾!」

辺りが眩い光に包まれ、轟音が鳴り響く。

予想していた太宰は耳を押さえて目を閉じる。

「行きますよー!」

明るい声が聞こえ、太宰と式部の身体が宙に浮く。

「賢治君、ナイスだよ」

「ありがとうございます!納言さんは敦さんが運ぶので安心して下さいね!」

閃光と煙に紛れて撤退する。

「この唐変木!依頼があったなら直ぐに言え!お陰でギリギリになった」

「うふふ、流石国木田くんだねぇ。タイミングピッタリだよ」

国木田は2人を担いだ賢治と並走する。

「太宰さん、その黒いコートの人は?」

敦も納言を背負って並走する。

「死体だよ。来るちょっと前に撃たれた」

「えぇ?!し、死体…」

「死体を運ぶのも依頼のうちだからね。あいつらはこの死体が目当てだ」

死体の体温は徐々に失われていく。脈も呼吸も感じられず、完全に死んでいるのがわかる。

「依頼人の死体を運ぶ日が来るとはな…」

「おにーちゃん…」

「おや、納言ちゃん。起きたかい?」

敦の背中の上で納言がピクッと動く。

「太宰さん?ここは何処ですか?」

目を閉じたままに問う。

「残念ながらまだ安全な場所では無い。探偵社についたら降ろしてあげるからね」

「太宰さんも担がれてますけどね」

苦笑いを浮かべながら敦が言った。

「細かい事は気にしない!鉄則だよ?」

「そうですか」

「なら死体も自殺マニアも大して変わらんな。賢治、探偵社の開いている窓に投げ込んでおけ」

「窓は全部閉まってます!」

国木田の物騒な言葉に賢治は明るく答え、国木田は何故か悔しそうな顔をした。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.90 )
日時: 2017/05/22 16:10
名前: ぴろん

57間目


国木田達は裏口からビルに入り、4階の探偵社に駆け込む。

「ただいま戻りましたー!」

賢治が大声でそう言って医務室に太宰達を投げ込む。

「おや、早かったじゃないか。怪我人は?」

医務室で道具…鉈やノコギリの手入れをしていた与謝野が言う。

「死体1つだけです」

太宰が足に巻き付いたワイヤーを解きながら言う。

「死体の回収はデマじゃないんだね。よこしな」

ワイヤーを解き、死体になった式部を渡す。

「国木田君だけ残って」

そう言って他の者達を外に追いやる。

「納言ちゃん、この扉が閉まったら目を開けて良いからね」

「はい」

尚も目を閉じたまま答える。

太宰は何時もよりも大きな音をたてながら扉を閉めた。

「見事なもんだねェ…胸と首と頭に1発ずつ。脳味噌も内臓も血管も掻き回されてるよ」

与謝野は死体を机の上に寝かせ、撃たれた跡を念入りに見ている。

「3発とも撃たれた時に後ろに抜けてます。あまり手掛かりは得られないかと」

「おい太宰、俺がここにいる理由はなんだ」

「万が一の時の保険だよ」

うふふっと笑って言う。

「与謝野先生、傷口の縫合は出来ますか?」

「妾を誰だと思ってるんだィ?医者が縫合を出来なくてどうすんのさ」

近くの棚から細い糸と針を取り出す。

「中身は?」

「恐らくそのままでも平気かと」

「了解」

慣れた手つきで傷口を縫う。

「死体の縫合?何をする気だ」

「実験だよ」

太宰は死体から数歩離れた所に立つ。

数分後、与謝野がプツンと糸を切る音が鳴った。

「よっ…と。コレで良いのかィ?」

「えぇ、ありがとうございます」

丁寧にお礼を言う。

「さて、国木田君。死体の脈と体温を確認してくれ給え」

「はぁ?何故わざわざ死体の確認をしなければならんのだ」

「良いから良いから!」

ぐいぐいと国木田を死体の方に押す。

それに促されるように渋々死体の手首をとる。

「…脈拍、体温共に無し。これで満足か」

太宰の方を振り返って言う。

「うんうん!実に不思議だねぇ」

ニヤニヤした顔で言う。

その隣で、与謝野は驚いた表情を浮かべていた。

「おい太宰、コレになんの意味が…」

その瞬間、国木田の右手に微かな振動が伝わる。

国木田の右手は脈をとるために式部の死体の手首に置かれていた。その手に振動が伝わったという事は…

国木田は恐る恐る後ろを振り返る。

式部の死体“だったもの”の目は、静かに開かれていた。その赤い瞳は国木田の方を向き…

「うわああああっ!!」

驚きのあまり大声を出して後ずさる。

「お、おい太宰!あれはどういう…」

「うるさいな…」

式部は起き上がり、身体についていた埃を払う。

「やぁ式部ちゃん、おはよう」

「死体を頼むとは言ったがコレは必要ない」

そう言いながら頭の縫い跡を触る。

「驚いたよ。本当に生き返るとはねェ」

与謝野は小さく笑いながら言う。

「問題無いのかい?どこか痛むとか」

「残念な事に通常通りだ」

コキリと首を鳴らす。

「なっ…つい先刻まで死んでいたはず…」

国木田は状況を掴めずに目を見開いている。

「これが俺の異能だ。世の理を覆す」

解けた包帯とマフラーを巻き直して言う。

「これの所為で特一級危険異能者になったって訳かな?」

「いや、特一級の方は山での大量虐殺。コレをやるのは7年ぶりだ」

フードを深く被り直す。

「7年って事は虐待中?」

「あぁ、もう少し加減をしてくれなきゃ困るお陰で傷は増えるし体力も血液も減るし…」

注射器を取り出して首筋に刺し、液体を入れていく。

「なんの薬だい?物によっては一応止めなきゃならないけど」

与謝野が興味深そうに言う。

「唯の貧血対策。どう頑張っても血液だけはどうにもならないからな」

「ふぅん、血液型は?」

「不明」

「なるほど」

納得したように頷いて壁に掛かっている医療器具(?)の手入れを再開する。

「それにしても凄〜く良い反応だったねぇ、国木田君。生き返った時用に居てもらって正解だったよ」

うふふと笑う太宰の頭を殴る。

「生き返るなら事前に言っておけ!この唐変木が!」

「そんな事言われたって私だって驚いてるよ?生き返るかどうかも分からなかったし」

チラリと式部を見る。

「どうやったの?」

「死ぬ寸前に魂と身体が自動で分離した。太宰が離れてから直ぐ戻って重要機関の蘇生。その後心臓を動かして今に至る感じだな」

「死ぬ寸前だと?太宰の足が繋がれているなら異能は使えないだろう」

式部は少し考えてから答える。

「異能無効化は簡単に解除できる。普段は体力を削るから余り使わない」

「その方法も知りたいねぇ、私の異能無効化に例外は無い。どうやるの?」

「さっきから質問攻めなんだが」

「聞きだせる事は全部聞いておかないと」

うふふと笑って言う。

「なら条件を出そう。与謝野に治療を依頼する」

「ほぅ?」

与謝野がニヤリと笑う。

「俺の異能は使う程体力を消費する。今は脳と心臓と肺、あとは重要な血管に蘇生を集中させているから内臓は素敵な事になってる」

「なるほど、じゃあその治療をタダで行う代わりに此方の質問に答えると」

「そういう事だ。因みに何度解体されても構わない」

国木田はそっと医務室を立ち去る。

「良いねェ、そういう依頼を待っていたんだよ」

持っていた鉈を肩に置く。

「死ななそうな奴だし、特別コースでいこう。ふふっ、腕がなるよ」

「でらごゆっくり〜」

太宰はヒラヒラと手を振って外に出る。

ガチャンと音を鳴らし重い扉が閉ざされた。

「さてと、どれにしようか…」

壁に掛かった物を見て悩み始める。

「どうせ全部試すんだろ?まぁ最初は肝心か」

マフラーを解いて畳みながら言う。

「服ごと解体するのは止めて欲しいな」

「じゃあ勝手に脱ぎな。隣の部屋に置いてくれば血飛沫もかからないよ」

「生憎だが歩ける程回復はしていない」

「じゃあ貸しな」

与謝野は几帳面に畳まれたコートとマフラーを受け取り、隣の部屋に置いた。

その数分後、部屋にはチェーンソーの派手な音が鳴り響いた。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.91 )
日時: 2017/05/25 18:10
名前: ぴろん

58間目


「それで、私の異能無効化の解除方法は?」

治療が終わって回復した式部を応接間に座らせてから太宰が問う。

その横で国木田と谷崎が信じられないと言った顔で立っていた。

治療中、式部は1度も悲鳴を上げなかった。痛みを訴える事もなくただ解体されただけ。

途中から与謝野は式部を実験対象とみなし、自分の解体の腕に磨きをかける為に治療をし続けたらしい。

お陰で今の時刻は午後6時。外はもう夜の気配が漂っていた。

「普段から魂を一部分離してある。俺以外が実際に見る事は不可能だが、その魂は身体が無効化されていても異能を使える」

式部は太宰の手を取る。

「こんな感じに」

近くの観葉植物が真っ二つになった。植木鉢が倒れ、中に入った土が流れる。

直ぐ後にそれは逆再生のように巻き戻り、元の風景に戻る。

「異能は魂に宿る。身体はオマケだ」

「なるほど…で、今のに凄い体力を使うんだね?」

「まぁな。普段は身体を媒介に異能を発動するのを直接魂から持ってくる。その時の媒介は俺の体力と精神力だ」

手を離して腕を組む。

「元々分離した魂は結合しようとする力が強い。外に出すのは簡単だ」

「へぇ、じゃあ今私の魂を抜き取るのは?」

「無理、お前の魂には異能無効化が宿っている。他の奴なら幾らでも出来る」

そう言いながら部屋の1番隅っこでビクビクしている敦を見る。

敦はビクッと肩を震わせ、視線を逸らす。

「一応依頼人なんだが」

「す、すいません。もう少し納言ちゃんに似ているのかと思っていたので…」

「血は繋がっていない。それに納言は俺に似ないように育てた」

「そうですか…」

警戒しながら少しだけ式部の方に近寄る。

「臆病な猫だな」

「…人間です」

ムッとした顔で言う。

「式部ちゃん、敦君を虐めないでくれる?」

太宰はニコニコと笑ったまま言う。

「式部ちゃんさ、実年齢は幾つなの?」

「今は10歳」

「“今は”って事は前があったんだね」

「まぁな」

適当に相槌を打つ。

その会話を聞いていた谷崎が躊躇いながら問う。

「その、前ってどういう事ですか?」

「そのままの意味だ。分かりやすく言うと生まれ変わり」

「生まれ変わり?」

話す度に自分の住んでいる世界と懸け離れた話になっていく。

「俺の異能は生への執着が異様に強い。そのお陰で肉体が死んでも魂だけは残っている」

「でも今回は肉体も生き返らせたよね」

「今回みたいに撃たれる位なら蘇生も可能だが、真っ二つにされるとその身体は使えなくなる」

「…魂だけ分離するって事ですか?」

敦も興味深そうに聞く。

「そんなトコだ。それで次の媒介が見つかるまで彷徨って、見つけたらそこに入る」

「それをずっと続けてるんだね」

太宰が納得したように頷く。

「それで、式部ちゃんの意識が生まれた時…異能が現れたのは何時頃?」

「それは良く覚えていない。取り敢えず紀元前なのは確かなんだが…」

「紀元前?!」

今まで黙って聞いていた国木田が声を上げる。

「お前、ちゃんと意味を分かって言っているのか?2000年以上の記憶を持つ者など…」

「この世に居てはいけない」

太宰が静かに言葉を継ぐ。

国木田が落ち着くのを見てから笑顔で質問を続ける。

「式部ちゃんこの身体になる前は何年生きてたの?」

「幕末頃に死んだから…150年位か」

「150歳?!凄いお年寄りじゃないですか!」

敦が大声で言う。

「見た目は異能で幾らでもいじれるから生活に特に支障は無かった。その前は200年生きていたからそこまで驚く歳じゃない。1番長い時は5、600だったか?」

「ろ、600…」

もう目を回す寸前だ。

「って事は江戸時代真っ盛りだね!気に入ってたの?」

「政権が移るまでは生きていようと思ったんだ。大分長引いたが」

太宰は動揺する事なく、楽しそうに話す。

「貴様何処のペテン師だ?精神病院でも紹介してやろうか」

「残念だが嘘偽りのない真実だ。昔の奴らは直ぐ神だとか妖怪だとか言って信じたのに最近の奴らは面倒だな」

ナオミがそっと机にお茶を置く。

「国木田君、こういう時は順応性が大事だよ?もっと自由に生きなきゃ!」

「お前ほどになると加減も必要だろう」

睨みながら言う。

「あ、そうだ。式部ちゃんってどんなお仕事してたの?学者とか?」

「色々やったからな。学者も勿論だが医者、音楽家、大工、作家、水商売、料理人、役者、絵描き、警察、脚本家、用心棒、あとは…」

「す、凄い量ですね」

職業名をつらつらと並べていく式部を見て敦がボソッと呟く。

「数千年も生きていればな。因みに生まれ変わりの時に5回に1回位の割合で女になる」

「じゃあ今の姿はレアなの?」

「そういう事になるな。男の姿に慣れ過ぎてまだ落ち着かない」

自分の手を見ながら言う。

「1番長くやった職業って何ですか?」

谷崎が問う。

「…その話なら名探偵が良く知っている。会った事があるから」

「乱歩さんが?」

乱歩は何時も通り気怠そうに椅子にもたれて足を組み、欠伸をしている。

「乱歩さん、会った事あるんですか?」

「あるんじゃないかなぁ」

駄菓子を手に取っていじる。

「お願い出来ますか?」

太宰が丁寧に言う。

「良いよ。僕今機嫌良いし」

ヒョイっと立ち上がって式部に近寄る。

「性別も年齢も変わると確信は持てないよ?」

「大丈夫です」

「ふぅん…」

乱歩は暫く式部を観察してからあぁ、と納得したような声を上げる。

「そこの棚の1番上、右から4番目」

「はい」

国木田が指定された所のファイルを取ってくる。

「32ページ」

ページをめくる。

「会った事あるみたいだね。君の死体と」

そこに書かれていたのは、無残に切り刻まれて原型をとどめていない何かの死体だった。

「うっ…」

敦と谷崎が後ずさる。

「おやおや、これまた随分と派手ですねぇ」

挟まれていた写真を見る。

「殺人だとか騒いでたけど、唯の自殺だったよ。僕も手足と胴体、あと首まで斬った自殺なんて初めて見たけど」

「これで自殺なんですか…?」

写真に写っている死体は、身体をくまなく斬りつけられて更に腕、足、胴体、首が切り離されている。

「これ、途中で死んだりしないんですか?」

「致命傷になったのは首の両断。その他の部位を切ってる時は生きているみたいだよ」

乱歩はファイルを取って適当にめくる。

「指紋もグチャグチャでさ、歯型で身元を調べたらびっくり仰天」

めくったページを見せる。

「殺し屋さんだった」

そのページには被害者の身元が書かれていた。

「本名不明、偽名は神代 御影。通り名は朧。腕の立つ殺し屋で監視カメラなどにも一切姿が映っていない。彼を見たものも全員始末されてしまう為目撃者もいない」

太宰が声に出して読み上げる。

「コレが式部ちゃん?」

全員が式部を見る。

「別に隠す意味も無い。俺が1番長くやっていた職業は殺し屋だ」

部屋が静まり返る。

目の前にいる少女が元殺し屋?なら今でも危険なのではないか。異能力も持っている。すぐに離れるべきだ。

そんな言葉が脳裏をよぎった。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.92 )
日時: 2017/05/28 13:31
名前: ぴろん

59間目



その沈黙を1番に破ったのは太宰だった。

「式部ちゃん、この自殺どうやったの?」

「は?」

国木田が眉間に皺を寄せる。

「貴様、話を聞いていたのか。目の前にいるやつは元殺し屋だぞ」

「殺し屋がどうとかじゃなくってさ、こんな素敵な死に方思いついても出来ないよ!まず痛いし苦しいし」

「ならお前は尚更だろう!」

声を荒げる国木田を見て小さく笑う。

「じゃあ何でこんな死に方したのか聞かないの?」

「死に方…?」

もう一度写真を見る。

身体には無数の傷、周りにも大量の血が飛び散っている。切断された手足と胴体に首は無理矢理捻り切られたような切断面だ。首だけが鋭利な刃物で切られたかのように綺麗な切り口になっている。

「この物凄ーく痛そうな死に方。思いついても実行しないでしょ」

「言われてみれば…」

与謝野が考え込む国木田の手から写真を取る。

「専門家の意見を述べるとすれば、この切り口は肉を半分と骨を切ってから自分で捻り切った形だ。妾の解体の方が痛くないね」

「あ、あれより痛いってどんな死に方ですか…」

そう言った敦の横で谷崎が想像上の痛みに苦しそうな表情を浮かべる。

「で、何でこんな死に方を?もっと楽な方法あったでしょ」

「…理由は幾つかある」

机に置かれたお茶を手に取り、眺める。

「1つは西暦2000年だったから死んで区切りをつけようと思った。1000年の時も同じ理由で自分の首をはねた」

「へぇ、楽な死に方だねぇ」

少し皮肉っぽく言ったその言葉も無視して続ける。

「もう1つは、その時やっていた殺し屋から完全に足を洗おうと思った。きっかけは数十年前に会った1人の女性の死。納言の親戚だ」

「納言ちゃんの…」

敦は事務室の扉を見る。

納言は今、鏡花と事務室で残った仕事をこなしている最中でこの話は聞いていない。

「どうせだから今まで殺した人数分自分に傷をつけようと思った。そいつらの首をはねた鎌で」

太宰は前に見た持ち手に大量の血がついた大きな鎌を思い出す。

「まぁそれだけだと死ねないのは知ってたから、斧で手足と胴体を半分切ってから捻り切った。順番は足、胴体、腕の順で最後の腕は扉に挟んで引き千切ったって方が正しいな」

写真の中で右腕と見られる部分が扉からはみ出ている。

「それでも死ねないから流石に呆れたな。最後は異能で首を斬って終わり。結構痛かった記憶はある。今まで殺した奴等に比べればそこまで痛い訳じゃないかもしれないが」

「充分痛いと思うよ。それで、その身体中の傷は今までの分の償いだったって事?」

「簡単に言えばな。深さは全て4センチで統一してある」

「変な所正確だね」

太宰と乱歩以外はもう誰も笑っていない。

「乱歩さん、これってどうやって自殺と判断したんですか?首を切るのに能力使ってますけど」

「前からこの殺し屋の事は知ってたからね。異能の事も把握してたよ」

「成る程。流石乱歩さんです」

「当たり前だろ?僕は名探偵なんだから!」

そう言ってニッと笑う。

「あ、あの…」

「なんだい?敦君」

「この写真だと顔が分からないんですけど、生きていた頃の写真とかって残ってないんですか?」

「確かに…例えば車に乗るなら免許取る時に証明写真も撮るはず。それならデータとして残っているかもしれませんね」

谷崎が頷きながら言う。

その言葉には式部が答えた。

「残ってない」

「え?」

「写真は1度も撮らなかった。車なんかは死体から免許証を奪ってそれに化ければ良かったし、何より移動手段は徒歩か異能だ。海外もパスポート無しで行ってた」

敦と谷崎がポカンと口を開ける。

「流石腕利きの殺し屋。徹底してるね」

「ここまでしてるのは俺くらいかもしれないな。元々写真が好きじゃないのもあるし」

「好きじゃないの?」

「出来るだけ後世に俺の姿を残したくない」

お茶を一口飲んで机に置く。

「本当に生まれ変わるとしたら、お前はどうやって産まれているんだ?親がいない事にはならないのか」

「おや?国木田君生まれ変わるって認めたの?」

「でないと話が進まんだろう」

少し面倒臭そうに言う。

「生まれ変わる時の身体はそいつの未来を見て決める」

「未来?」

「幸せな未来を奪うのは気がひけるからな。出来るだけ可哀想な奴を選んでいる」

ポケットから小さな紙を2枚取り出して太宰に渡す。

「俺が今使ってるこの身体は子供を産んで1歳まで育ててから売るとかいう人身売買の手口を使う者から産まれ、その後虐待に合う未来があった。俺が入るには丁度良い」

「悪趣味だねぇ」

「そんな訳あるか。生まれ変わってから6歳頃までは前の記憶が曖昧になるように調節してあったからあの時は本当に怖がってたからな。1歳の頃に暴走するようにもしておいたが、その所為で今も残ってる」

式部は静かに立ち上がる。

「気が向いたらまた来る。ナオミに茶の礼を言っておいてくれ」

「待って」

立ち去ろうとする式部の服を太宰が掴む。

「なんだ、まだ質問か?」

「最後に1つだけ。どうして殺し屋をやっていたの?」

真剣な目で見つめる。

式部は少し間を空けてから無表情で答えた。

「好きだったから。人殺しが」

そう言ってから手を軽く振り払って消える。

太宰は行き場の無くなった手を見つめて動かない。

「太宰さん…?」

敦が心配そうに呼びかける。

「大丈夫、私散歩してくるね」

ニコッと笑って机に何かを置き、探偵社を出て行く。

全員が少しの間扉の方を眺める。

「ねぇ国木田ー」

「は、はい。なんでしょう」

急に乱歩に名前を呼ばれ、反応が遅れる。

「駄菓子の備蓄切れちゃった」

空になった菓子箱を振りながらそう言った。

Re: ※文スト二次創作※ 〜紫眼に惹かれて現世を〜 ( No.93 )
日時: 2017/05/28 20:42
名前: ぴろん

60間目


カン…カン…

階段を上がる音が小さく鳴っている。

「〜♪」

足音に合わせて口笛も混じり、音が大きくなっていく。

カンッ

足音が止まり、鍵を回す音が鳴る。

扉を開けると中はこじんまりとした1LDKの部屋。黒を基調とした家具や装飾でシックにまとまっている。

男は壁にコートと帽子を掛け、大きなソファに腰掛けて持っていた缶コーヒーを開ける。

「はぁ…」

小さな溜息と共に缶コーヒーを飲み干した。

空になった缶を軽く潰してゴミ箱へ放り投げ、小さな窓から灰色の景色を眺める。

「路地裏の統治…ねぇ」

黒ずくめの男…中也は、その景色を見ながらもう一度小さく溜息を吐いた。

中也は首領から1つの命を受けていた。

そろそろ路地裏もマフィアの監視下に取り込みたい為、まずは様子を探ってくれとの事。

その命を果たす為にまずは路地裏の1番端にあるこのアパートの一室に住み込む事になったのだ。

「俺が外部から、折口が内部から。それで路地裏を徹底的に監視する…」

首領の命令を確認するように呟き、また溜息を吐く。

中也はこの作戦に乗り気ではなかった。

路地裏の統治を完全にする為には人数すら把握できていない住民の承諾、そして土地を管理する為にこの薄暗い灰色の場所に部下を数人入れなければならない。

ここの立地はお世辞にも戦闘に向いているとは言えない最悪な場所だ。何故首領は此処を手に入れたがるのかも理解出来ていない。

そして何より…式部がいる。

異能無しであの戦闘力。異能があっても暴走時には海が割れる程の危険な物。もしも力尽くで奪うとしたらこちら側にも甚大な被害が出るのは目に見えている。

「非合理的では無いんですか。この作戦は」

先程も首領に対して言った言葉をもう一度呟きながら、窓の外を眺めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「国木田さん、これって太宰さんの書き置きですよね」

敦は机に置かれたメモを手に取る。

「なんと書いてある」

「えーっと、あれ?この字って太宰さんの字じゃない…」

「なに?」

敦が持っているメモを受け取る。

そこに書かれた文字は何時もの上手いのか下手なのかわからない太宰の字ではなく、最近良く見かけているあの達筆な字だった。

「依頼人の字か…」

「それにしても〈この範囲を封鎖しろ〉ってどういう事でしょう?」

「裏を見ろ」

クルッとメモを返すと、そこには簡潔に書かれた地図と赤い丸が書かれていた。

「この範囲か…何をするつもりだ?」

「結構広いですね。この地図って何処のでしょう?」

「恐らく先程通った路地裏付近だろう。東側に海が見える。灯台も建っているからそれを目印に見れば良い」

「え?どれが灯台ですか?」

地図記号の読めない敦は頭の上にハテナマークを浮かべる。

「これだ。場所は分かるが目的が…」

「どーせそこが危険なんでしょ」

乱歩が詰まらなそうに言う。

「乱歩さん。危険とはどういう事ですか?」

「そんなん知らないに決まってんじゃん。まぁやるなら早めにした方が良いと思うよ」

「分かりました」

サッと礼をして振り返る。

「敦、谷崎、地図の場所へ急ぐぞ」

「はい!」

「分かりました」

3人は少しの荷物を持って出掛ける。

「本当に知らないんですか?」

3人が出て行った後に賢治が問う。

「知らないよ」

ラムネを飲みながらキッパリと答える。

「もしも知ってても、1番よく知ってる人が現場にいるから僕が言う必要は無いね」

そう言って1枚の紙と大きめの財布を渡す。

「駄菓子買ってきて」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

路地裏の港近くで太宰は辺りを見渡しながら歩く。

手に持っているのは先程式部に渡されたメモの1枚。片方は探偵社に置いて任せてきた。

太宰が持っているメモに書かれているのは時刻の書かれた簡単なメモ書き。

〈19時頃に暴走が起きる。太宰以外は近づけるな〉

時計の針は18時50分を指している。

先日手に入れたポートマフィアの資料にも書いてあったその言葉。

もしもそれが本当ならば先程の地図に書かれた赤い丸の規模では足りない筈。なのに式部は範囲を指定した。

その理由を聞く為に地図の赤い丸の中心へ向かっていた。

「式部ちゃーん。いないのー?」

周りの灰色の壁に太宰の声が吸い込まれていく。

「しーきーぶーちゃーん」

殆どやる気の無い声で呼びかける。

ガスッ

太宰の足に何かが当たった。

「あ、いた」

あぐらをかいた式部が片目だけ開けて太宰を見る。

瞳はもう既に茜色に染まっていた。

「そんな怖い顔しないでよ。何してるの?」

「…1つ思い付いた。異空間に飛ぶ」

「異空間?」

安吾に聞いた話を思い出す。

異空間は主に物の収納に使っている、それ以外の使い道は聞いた事がないと言っていたが人間も入れる事が出来るのか。

太宰の考えを察したのか、何時もより小さな声で話す。

「何時もなら人の移動なんて余裕なんだが、暴走直前だと異能のコントロールが出来ない。面倒だからこの辺りごと移動する」

「それで、赤い丸の所に近寄るなと」

「分かりやすい目印も付くからまぁ近寄らないだろう。お前だけは運べないからいても平気だ。安全は保証しないが」

太宰は納得したように頷いて続ける。

「成る程ね。因みに此処には誰でも入れるの?」

「中から出るのは困難だが、外から入るのは虫でも出来る。お前なら出るのも楽だろう」

そこまで言ってからまた静かに目を閉じる。

それを黙って見つめていると、周囲に変化が現れた。

「空が…赤い?」

空だけではない。遠くの建物や景色、海も全てが赤く染まっている。

すぐに分かった。半透明の赤いドームで囲われていたのだ。いや、海の底の方の状態から見ると赤い球体と思われる。

「コレが目印か。分かりやすいね」

ふと、5、6年前の記憶が蘇る。

同じように路地裏の方に赤い球体が浮かんでいた。それは周りの建物にもかかっているように見えたが、中身は何も無かった。

あれが今出ている球体と同じものだとしたらこの中身が全て異空間に移動する。

残るのは太宰のみ。つまり、地面が移動することによって太宰の立っている場所には地面がなくなる。

時計を見る。18時58分。

「またね、式部ちゃん」

半分祈る様な気持ちで別れを告げ、足早に球体を出て行く。

太宰が球体を出た数秒後、その中身は一瞬にして消失した。

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