社会問題小説・評論板
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 泡沫ノ友情—裏切り、いじめ、復讐—
- 日時: 2010/07/19 23:53
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0ymtCtKT)
桜風中学校2年1組。
そのクラスには、ある仲良しグループが存在していた。
誰からともなく声を掛け合い、
気がついたら、いつも一緒にいる。
そんな仲良しグループに、
誰もが羨望や憧れのまなざしを向けていた。
しかしある日、グループ内のひとりのある行動により
グループ内の人間関係は少しずつ歪み始めて……。
*********************************************
第1話 『幸せな日常』>>1
第2話 『夕闇の中で』>>2
第3話 『凛の警告』 >>3
第4話 『拭えぬ不安』>>4
第5話 『圧迫されて』>>5
第6話 『裏切りの序章曲』>>6
- 第2話 『夕闇の中で』 ( No.2 )
- 日時: 2010/07/18 17:55
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0pAzrPg3)
——午後6時——
輝く夕日はとうの昔に沈んでいるし、
美しい茜色さえももうほとんど残っていない。
茜色を追いやったのは、濃い瑠璃色。
その上に、細い月が光っていた。
この時間が、生徒たちの下校時刻だ。
「こんな時間まで部活なんて」などと
愚痴をこぼしながら、生徒たちは校門を抜けてゆく。
「じゃあねー!」
「ばいばい♪」
「また明日ね〜」
多くの生徒でにぎわう校門に、
あの5人の声が響き渡っていた。
5人はそれぞれと別れのあいさつを交わしてから、
それぞれの自宅へと向かって歩き出す。
『今日も楽しかったな』
そう思っているのが4人。
月歌に美優、それから美春と凛だ。
となると、異なる思考をしているのは——
残る一人、【美鈴】ということになる。
美鈴は4人と別れると、
さっきまでの笑顔はどこへやら、
恐ろしいまでの無表情になった。
「はぁ、退屈」
——そう、美鈴は4人のことを
それほど大切には思っていなかったのである。
だからこそ、退屈だったのだ。
ただの知人と過ごす日常など、退屈以外の何物でもない。
かつん、かつん、かつん。
通学用の靴が、どこか間の抜けた音を立てる。
「……あ」
突然、美鈴はぴたりと立ち止った。
冷たい風が吹いて、木々がざわめく。
美鈴はしばらく考えるそぶりを見せて——
にんまりと嫌な笑みを浮かべた。
形の整った唇と、大きくて可愛らしい瞳が不気味に歪む。
美鈴は恐ろしいことを思いついてしまった。
それは……『いじめ』である。
人間誰しも、「自分より弱い者をいじめたい」という
残虐な心を持ち合わせているのが現実だ。
しかし普通の人間ならば、それを理性で抑え込み、
なんとか普通の生活をおくることであろう。
だが——中にははじめからそれをしようとしない人間がいる。
美鈴も、そのうちのひとりだった。
月歌も、美優も、美春も、凛も。
誰一人として知らない。
自らの親友が、恐ろしいことを考えているだなんて。
その考えによって、幸せな日常が崩壊するだなんて。
……知る由も、なかった。
美鈴は先刻とは打って変わって、
闇色に染まりかけた道を楽しそうに駆け出す。
ポニーテールに束ねた髪が、
ふわりふわりとリズミカルに揺れていた。
- 第3話 『凛の警告』 ( No.3 )
- 日時: 2010/07/19 17:04
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0ymtCtKT)
美鈴が帰宅した頃、
月歌は自室で携帯電話を操作していた。
画像ファイルの整理をしていたのである。
(あ、これ……
ちゃんと専用ファイルに入れてなかった)
ある画像を見たところで、月歌は手を止めた。
その画像は——今の仲良しグループで
初めて撮影したプリクラだ。
ちょうど一番前の真ん中に美鈴、
その右側に美春が、左側に凛が立ち、
可愛らしく笑っている。
そして後ろの位置には、仲良く手をつないで写る
月歌と美優の姿があった。
「やっぱり私、美優のこと
一番信頼しているんだよね……」
念のために言っておくが、
月歌は決して美鈴や美春、凛を
信用していないわけではない。
ただ、付き合いの長さゆえに、
無意識のうちに美優のことを
一番に考えてしまうだけなのだ。
そう、それだけだから——
美優以外の3人のことも、
本当に、心から大好きだった。
(本当に、みんなと親友でよかったよ)
瞳を閉じる。
記憶がよみがえる。
——舞い散る美しい桜の木。
——立派に飾られた、『桜風中学校 入学式』という看板。
——ねえ、なんか不安だよ。
そう言って、少し大きめに作られた
制服のスカートを握りしめる月歌。
——大丈夫だって。
緊張を完全には隠せないながらも、
そう言って元気づける美優。
それから、ふと向けた視線の先に、
2人の少女と一緒に、とても可愛らしく笑う美鈴を見つけた。
なんとなく惹かれて、なんとなく声をかけたら、
偶然同じクラスで、自然と付き合いも深くなり、
『大親友同士』となって、今に至る。
自然と笑みがこぼれる。
思い出に浸りきっていた、まさにその瞬間——
月歌の携帯電話のメロディーが、着信を告げた。
ディスプレイには、『凛』と表示されている。
ピッ。
「もしもし。どうしたの、凛?」
『あ、ごめん……突然』
なにやら、不穏な空気が伝わってくる。
浮かない顔の凛を想像して、
月歌は何となく不安になった。
『あの、さ。美鈴のことなんだけど』
「……うん」
『なんかさ、美鈴、最近……その、変だと思わない?』
そう言われて、ここ最近の美鈴の行動を思い出してみる。
だが月歌には、変だと思うような場面は
思い浮かばなかった。
「うーん、私はわかんないや。なんかあったの?」
『……なんていうかさ、退屈そうなんだよね』
「へ?」
『うちらといても、たまにこう……
ものすごく退屈そうで、無表情なときあるの。
それが、怖いんだ』
「まさかぁ。凛の考えすぎじゃないの?」
『……まだ、あるよ』
月歌の問いかけに、凛は答えない。
それは、自身の出した答えに
絶対の自信があるからだろう。
それに気づいて、月歌はさらに不安になった。
『月歌ってさ、美優と仲いいでしょ』
「まあね。小学校時代からの付き合いだし」
『それ、美鈴は気に入ってないよ。きっと』
「へ……?」
月歌には、凛のいうことが理解できていない。
それゆえに、何も言い返すことはできなかった。
ただただ、黙って凛の言葉を待つのみとなっている。
『美鈴が、2人のことを嫌な目で見てるの、見たことあるから』
——月歌は考える。
それがわかるのかどうかは定かではないが、
凛はもうなにも言わずに月歌の返答を待っている。
(美鈴がなんでそんなこと……。
っていうか、美鈴はそんな人じゃない。
いつも明るくて優しくて……人気者で……)
(だけど、凛だってこんな嘘をつくような人じゃない。
正直だし、精神的にも大人だし。)
(どっちかが嘘をついてるって言うの……?
そんなはずない。でも、そうじゃないなら一体……)
月歌の返事がないことで気まずさを感じたのだろう、
凛は口を開くと、小さく言った。
『急に変な話してごめん。
まあ、その……気をつけて、ね』
凛は、月歌の返事を待たずに、
じゃあね、とだけ言って電話を切った。
ツー、ツー、という、どこか間の抜けた音が響く。
通話を終了してからも、
その音は月歌の耳にいつまでもこだましていた。
- 第4話 『拭えぬ不安』 ( No.4 )
- 日時: 2010/07/19 22:43
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0ymtCtKT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel4/index.cgi?mode
「……ん……」
翌朝。
携帯電話の着信音が、月歌を起こした。
重い瞼をこすりながら、
愛用している目覚まし時計に視線を移す。
お洒落な装飾が施された針は、
午前6時ちょうどを指していた。
(誰だろう、こんな時間に……)
怪訝に思いながら、携帯電話を手に取る。
ディスプレイに表示されているのは、
『新着メール1件』という文字だった。
しんとした部屋に、カチカチという
ボタン操作音だけが響く。
メールの送信者は……美鈴だった。
月歌の心臓が、どくんと大きな音を立てる。
昨日の凛の言葉を思い出したためだ。
また、美鈴の知らないところで、
悪い噂話をしてしまった罪悪感もあったのかもしれない。
浮かない気持ちで、月歌はメールを表示した。
******************************************
From:美鈴
sub. no title
本文:おはょッ★
朝早くからゴメンね(>人<)
今日、みんなに大事な話があるンだ↑↑
7:30に学校に集まッてくださぃ♪
一斉送信してぁるカラ、
回さなくて大丈夫だゅ(*´ω`*)
ぢゃあね!!待ってるょぉw
******************************************
……なんてことはない、普通のメールだった。
月歌はほっと息をつく。
(でも、大事な話って……なんだろう?)
小さな疑問がわいてきて、
月歌はふたたび不安になった。
けれども、なぜ不安なのかがわからない。
月歌はぶんぶんと首を横に振ると、
逃避をするかのように身支度を始めた。
………………………………………………………………
「行ってきまーす」
身支度を終え、朝食を食べて、
時間はあっという間に過ぎてしまった。
携帯電話のディスプレイで、時計を確認する。
——7時ちょうど……
のんびり歩いても、十分間に合う時間だった。
にもかかわらず、月歌は走っていた。
一刻も早く、美鈴の話を聞きたかったのである。
そして、心を巣食う妙な不安を消し去りたかったのだ。
——それは、叶わない。
そんなことを知る由もなく、月歌は息を切らして走り続けていた。
- 第5話 『圧迫されて』 ( No.5 )
- 日時: 2010/07/19 22:44
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0ymtCtKT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel4/index.cgi?mode
——20分ほど走り続けて、
月歌はようやく教室前に到着した。
こんなに走ったのは
小学生時代のマラソン大会以来だな、と
ひとり苦笑しながら、ガラリとドアを開ける。
まだ集合時間まで10分あるにもかかわらず、
そこにはいつものメンバーが集合していた。
「みんなごめんね、走ってきたんだけど……」
少々驚いた様子の月歌に、
皆は「いいっていいって」と
軽い調子で返事を返した。
「よし、それじゃあみんな揃ったね!」
中心の席に居る美鈴が、楽しそうに笑う。
彼女の言葉に疑問を感じて、月歌は言った。
「え……美優がいないよ?」
「あはは、ゆうちゃんは今日、呼んでないんだよ」
「あ……そ、そっか……」
どこか邪悪なものを宿した目で
そう言いきった美春を見て、
背筋に悪寒が走った月歌は、
その答えに対する疑問をぶつけることができなかった。
「あ、月歌も座りなよ、こっちこっち」
そう言って手招きをしたのは、凛。
昨日の浮かない様子はどこへやら、
あっけらかんとした顔で笑っていた。
恐怖を感じながらも、月歌は促されるがままに
凛の隣の椅子に腰を下ろす。
「今日はね、美優のことで愚痴言いたかったんだ」
嫌な笑みを浮かべた美鈴が言う。
この場にいる全員、ある程度は予想できていただろう。
だが、戸惑いは捨て切れないようだった。
「え……」
「だってさぁ、いっつもいっつも
月歌にベッタリって感じじゃん。
月歌もさ、迷惑じゃない?」
突然話を振られて、月歌は硬直する。
口が、まるで言葉を忘れてしまったかのように動かない。
呆然とする月歌に、凛がちらりと目くばせをした。
——空気を読んで——
なぜかそう言われているような気がして、
月歌はとっさにうなづいた。
ふわり。
涼しい風が、月歌の顔にあたる。
そこではじめて、月歌は自身が
うっすらと汗をかいていることに気づいた。
……気まずい沈黙が流れる。
それを打ち破ったのは、美春の声だった。
「大変だよね、月歌も。
ゆうちゃんってさ、わたし達のことは
友達だと思ってるのかなあ?」
「まー、その気持ちはわかるよ。
月歌以外、眼中にないって感じだしね」
そう言って、くすくす、と凛が笑う。
ぶるぶると震えだす体を必死に抑え込みながら、
月歌は、「そうかも」とだけつぶやいた。
「ねえ、じゃあさぁ」
美鈴の表情がぐにゃりと歪む。
「美優のやつ、その月歌が裏切ったら、
……どんな反応するのかな」
しん、と教室が静まり返る。
可愛らしい雀の声が、何処からか聞こえてきた。
「え、それは……」
「うん、面白いかも。ちょっとやってみたい」
まずいんじゃない、とは言えなかった。
凛の言葉に遮られてしまったからである。
うろたえる月歌を、美鈴は面白そうに見つめた。
「わたしも、ゆうちゃんのせいで
月歌と話せなかったからさ、
正直、ゆうちゃんのこと嫌いだったんだよね」
「うちもだよ」
「そうだよね。あたしもさ、
ほんとは月歌ともっと親しくしたいのに、
美優がいるから入って行きづらくって。
……だからさ、ちょっとだけ。
そういうの、試してみたいな、って」
美鈴の言葉に、月歌の全身がぶわりと総毛立つ。
周囲がぐるぐると回っているような不快感をおぼえて、
月歌はふらふらと倒れそうになった。
——けれど、ここで倒れるわけにはいかない。
漠然とそう思って、月歌は改めて顔を上げる。
皆の目が、ぎらぎらと——
まるで獲物を狙う肉食獣のように光っていた。
(断ったら、きっと、みんな——私を嫌う)
どくん。
どくん。
月歌の心臓が波打つ。
いやだいやだ、ともう一人の自分が必死に訴える。
けれど……断ることなど、できない。
「あはは、いいよ!
私もさ、ちょっと、美優のこと迷惑って思ってたし♪」
思ってもいない言葉を口にした月歌を見て、
3人はどこか満足げに微笑んだ。
なんとなくほっとして、月歌の体の力が抜ける。
「じゃあ、美優のことシカトしちゃお。
まあでも、『どうしてもあたしたちと友達でいたい』っていう
意思が見えれば、やめてあげてもいいけど」
邪悪に微笑む美鈴に、凛と美春が相槌を打つ。
月歌が『3人に対する協力の意思』を見せたことで、
彼女に対する『注目』の目は消えた。
(……友達でいたい、そう、思ってるよ。
ただ、私も美優も付き合いが長いから、
みんなより、ほんのちょっとだけ関係が深かった。
でも、みんなのことをないがしろになんてしてない。
みんなのこと、ちゃんと大切だと思ってる。
私も美優も、それは同じなのに……)
月歌に、それを口に出す勇気はない。
月歌は、ただただ皆の笑い声を聞きながら、
ぼんやりと虚空を見つめていた。
- 第6話 『裏切りの序章曲』 ( No.6 )
- 日時: 2010/07/19 23:51
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0ymtCtKT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel4/index.cgi?mode
教室内の生徒の数が増え始め、
騒がしくなってきた7時40分頃。
美鈴は別の友人と会話を楽しみ、
美春は手鏡を見ながら髪を整えていた。
美優は——まだ登校して来ていない。
「月歌」
相変わらずぼんやりとしている月歌に、
凛が声をかけてきた。
月歌は、浮かない顔をして凛を見つめる。
凛はその様子を見て苦笑すると、
多少強引に腕を引いて、屋上へと続く階段へと向かった。
「ちょ、ちょっと、凛!?」
「いいから、来て」
この学校の屋上は、立ち入り禁止になっている。
そのため、屋上へ続く階段に立ち寄るものはない。
つまり、ひとけのない場所を求める者には
とても好都合なのだ。
「よくわかったね、うちの目くばせの意味」
目的の場所に着くなり、凛はそう言った。
月歌は「まあね」とだけ返答し、手すりによりかかる。
「あと、もうひとつ。
うちの態度に、なんで、って思ってたでしょ」
「……当然だよ。電話であんなこと言ってたのに。
今日は完全に美鈴の味方なんだもん」
「はは、しょうがないって。
うちの目くばせの意味がわかった月歌なら
本当はわかってるんじゃないの?
……美鈴に合わせなきゃいけないってこと」
——ずばり、その通りだった。
結局月歌は、それを認めたくなかったのだ。
それを認めてしまえば、美鈴には逆らえないと、
つまり美鈴を『怖い人間』と認識してしまうことになるからである。
「ま、認めたくないよね。
うちはこういう人間だからさ、別だけど。
あーあ、それにしても……
うちがもっと早く忠告してればよかったんだよね。
『美優との付き合いはほどほどに』ってさ。
ほんっとごめん。こう見えてさ、一応反省はしてるんだよ」
「……いいよ。凛は悪くない。
私も、あんな態度とって……ごめんね。
それと、聞きたいんだけどさ……」
「なに?」
「美鈴はどうして、私じゃなくて、
美優の方に目をつけたのかな?」
「ああ、それは、ただの気まぐれでしょ。
美鈴って、そういうヤツだから。」
月歌は唖然とした。
……気まぐれだというのなら、
自分が美優の立場になっていても
おかしくなかったのである。
それを考えて、少しほっとしながらも——
自分の保身を第一に考えている自身に気づいて
すぐに自己嫌悪に陥った。
「まあ、とにかく気を付けなよ。
うちだって、本当はいじめなんてしたくないし。
こうなった以上、せめて月歌だけは
被害者になってほしくないから。
シカト以外は普段通りに、ね」
凛も、月歌と同じだった。それを理解したのだろう、
月歌はもう、凛に対して怒りも憎悪も向けていない。
ただ、憂鬱そうにうなだれるているだけだ。
「じゃあ、行こう」
そう言いながら、凛が歩き出す。
月歌も手すりから体を離して、凛の後に続いた。
と、その途中。
「あれ、月歌と凛じゃん。おはよ☆
こんなところでどうしたの?」
——振り向かずともわかる。
後ろにいるのは……美優だ。
美優は今朝あったことなどつゆ知らず、屈託のない笑顔を向けている。
月歌と凛が、同時に振り向く。
2人の表情は、凍りついていた。
「……行こ、月歌」
「う、うん」
2人は冷たい目で美優を見つめてから、すぐにまた歩き出す。
何が何だかわからないといった様子で、
美優は月歌の腕をつかんだ。
「ちょっ……な、どうしたの?ねえ?」
「……」
無言のまま、月歌はその手を振り払った。
何か言ったら、泣きだしてしまいそうだったからだ。
事情を知らない美優は、今度は凛の肩に手を置く。
「凛っ!」
「……美鈴に、聞いてみなよ。わかるから」
それだけ言って、凛は教室へと駆けて行く。
月歌もそれを追っていた。
2人はもう、振り返らない。
ぽかんとして立ち尽くしたまま、
美優は必死に自分の頭を整理していた。
Page:1 2