社会問題小説・評論板
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- 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話
- 日時: 2009/10/28 20:47
- 名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)
前の分が消えてしまったので、一話〜十七話まで書きます。
コメント禁止です。
- Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.14 )
- 日時: 2009/11/15 21:45
- 名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)
第十三話
正面玄関から入ると、早速陽子達と直面した。陽子たちは何やらひそひそと話し合っていたようだったが、私の姿を捉えた瞬間、さっと近づけていた顔を離した。
その様子が、私の決心を鈍らせる。
——言わなきゃ——
私はうつむいた顔を前に突き出した。両拳は、じっとりと汗ばんでいる。
「あの……」
「あのさー」
私が切り出すのを見計らっていたように、陽子が先手を打った。
「やめたかったらやめてもいいよ。三好への懲らしめ」
私が言いたかった言葉を、陽子はいとも簡単に言った。
「や、やめても……いいの?」
私の声は震えていた。ほっとしたのか、悔しいのか、よく分からない感情が胸中を渦巻いている。
「やっぱり、やめたかったんだぁ。別にいいよ、足手まといだし」
今度ははっきりと分かる。ただ、悲しかった。怒りはない、悲しかった。
「但し、条件がある」
「条件?」
「うちらが三好に何しても、口出さないこと」
陽子たちは、何をするつもりなのだろうか。見ると、不可解な笑みを浮かべている。でも、私は反射的に答えた。
「分かった……」
陽子たちは満足そうだった。廊下に向かって歩き出そうとしている。
「陽子っ! やめても、私達友達、だよね?」
自分の言葉に自己嫌悪する。でも、止める事が出来なかった。
「当たり前じゃん」
陽子たちは、振り向いて笑った。私も、引きつった笑を浮かべた。
これでいいのだ。私の分だけ、三好さんは楽になるのだ。そう自分に言い聞かせた。
卑怯だ。私は卑怯なのだ。三好さんの言う通り、私はどうしようもなくダメで、馬鹿みたいに情け無くて、果てしなく卑怯だ。
そんな事は、ずっと前から分かっていた。三好さんと出会う前から、ずっと。
中休み、早速陽子達の行動が開始した。
「三好さん、ちょっと」
陽子が廊下から呼んでいる。その後ろで、優子とミヤちゃんが忍び笑いをしている。
三好さんはいつものイヤホンを外し、陽子をちらりと見た。
「そっちが用事あるんやろ。そっちが来るのがふつうやん」
「なっ……」
陽子は、三好さんの態度に絶句した。三好さんはまた、イヤホンを手に取った。
「ちょっとー、頼んでるんだから来なよ」
後ろからミヤちゃんが顔を覗かせる。三好さんは無視して、イヤホンを耳にはめた。
「だったら、連れてくから」
陽子は三好さんの車イスを掴み、廊下側に向かせた。
「ちょっと、やめえや!」
三好さんは抵抗するが、敵わなかった。
私は下を向き、本を読む。内容は、全く頭に入っていなかった。
——助けなきゃ——
そんな声が、心の隅から出てきた。いつものどす黒い声ではなく、純粋で真摯な声だった。幸いその声は、一回きりしか聞こえなかった。
廊下で、大きな音が聞こえた。何かが床にぶつかる、鈍い音。
廊下に出て、私はその場から動けなくなった。他のクラスメイトも同様だ。
そこには、顔面蒼白の陽子達と、車イスごと倒れ、ピクリとも動かない——三好さんがいた。
- Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.15 )
- 日時: 2009/11/14 18:03
- 名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)
第十五話
「陽子っ……」
私の声はかすれた。
「私が悪いんじゃない……こいつが、抵抗するから……!」
陽子は血の気の引いた顔で言った。ミヤちゃんと優子は、泣きそうな顔をしている。
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ! 早く……」
私の声は途切れた。陽子達の視線の先を見たからだ。そこには、薄茶色の床を染め上げる——鮮やかな血があった。出所は見なくても分かる。
「ああ……」
私は尻持ちをついた。腰が抜けてしまったのだ。足が震え、立ち上がれない。
「こら、何やってるんだ」
体育の菊田先生が、こっちに向かってきた。すると、さっきまで蒼い顔をし、立ち尽くしていた陽子が
「三好さんが倒れたんです。廊下を見たら、血が出てて……」
スラスラとそのセリフを口に出した。まるで、台本でもあるみたいだ。
その後のことは、よく覚えていない。
「ってかさー、あいつドジだよね」
陽子が自転車を漕ぎながら笑った。三好さんの事を言っているのだ。
「ほんとほんと! 逆らわなかったら良かったのに、バカだよね」
ミヤちゃんが同意する。銀色のハンドルが、ミヤちゃんの白い息で曇った。
「友里も思うでしょ?」
優子がマフラーの中からくぐもった声を出した。
「えっと……」
私は曖昧な笑みを返した。ハンドルに付属しているミラーに、何とも情けない顔が写っている。
「何いい子ちゃんぶってんの。思うでしょ?」
陽子が少し尖った声を出す。
「まぁ、そうだね……」
体の中で、何かが暴れだした。私はそれを必死で押し込める。
「ほんと、バーカ」
その声が、少しだけトーンが変ったと感じたのは、気のせいだろうか。陽子を見ると、コスモス畑を眺めて反対側を向いていたから、表情は分からなかった。
体が熱い——。
——死ね——
目の前が、鮮烈な赤に染まった。トマトの赤、大好きなイチゴの赤、ポストの赤。本当は分かっている。分かっているけど、何の赤なのか口に出せない。
——血の赤だよ。こんな血に、あいつらも染まればいいのに——
やめてくれ。お願いだ、神様——。
目の前が、不意に青くなる。何て悲しい青だろう。
——助けてください。出して、出してよ。あなたしか、私を救えない——
「はぁっはぁっ」
私はベッドから跳ね起きた。全身に汗をかいている。自分が惨めに思えて、泣けてきた。
この頃、こんな夢ばかりだ。懇願の声も聞こえるようになった。直らないのだ。親にだって言えない。
闇に私の嗚咽が響いていた。
- Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.16 )
- 日時: 2009/11/14 22:10
- 名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)
第十六話
「はよー……」
今朝は驚くほど寒かった。教室も、外の温度と差ほど変らない。
「おはよー、寒いね」
陽子が白い息を吐きながら、笑った。自分の席に行くと、椅子が冷たくて座るのに勇気がいった。
「今日体育とかマジムリ」
「やっば、宿題忘れた」
「テストいつ?」
皆、いつも通りだ。笑ってしまうほど普通。クラスメイトが一人、いなくなったって、このクラスは一つも変らない。それに安心して、ぞっともした。
私がいなくなったって、陽子たちはいつも通りなのだろうか。入院したって——この世から消えてしまっても。
馬鹿げた考えだ。自分でもそう思う。でも、この考えは、なかなか消えなかった。
一時間目、読書タイムが終わり、先生が教室に入ってきた。教団に立ち、皆を見回した。
「えー、三好の事だが、三好は入院した。命に別状はないそうだ」
良かった——。
そう思う事も、無責任だ。分かっていても、そう思った。
「そこで、だ。誰か、三好のお見舞いに行かないか?」
クラスが沈黙する。
皆三好さんと仲が良かったわけでもなく、むしろクラスの大半が嫌っていた。あの素っ気無い態度で、泣いてしまった女子もいた。
私は下を向いた。こんなフインキは嫌だった。
クラスの沈黙も、外の車の排気音も、随分と遠く聞こえた。
三好さん。
三好さん、どうして抵抗したの? 賢い三好さんなら、倒れる事は予想出来なくても、抵抗すればもっと酷い事をされるって分かっていたんじゃないの?
分からない。三好さんが分からない。
三好さんの言葉だって、全く分からない。意味を聞いても教えてくれない。
三好さんは、私なんかに分かってもらおうと思っていないんだろう。でも、私は三好さんを知りたい。知りたいと思う自分が不思議だ。
私は三好さんに憧れている。格好いい。でも、好きじゃない。あんな風になりたいとは思わない。だって、私には"親友"がいる。一人は嫌だ。
自分の頭の中の親友が、すごく薄っぺらく見えた。
——助けて、三好さん——
あの声だ。また。頭にキンキンと響く、懇願。
私は驚いた。三好さんに助けを求めている。何故だろう。どうして三好さんに。何故か、あの素っ気無さが恋しくなった。
「じゃあ、佐々木、いいか?」
「はいっ」
先生に不意に声をかけられ、反射的に返事をしていた。
「三好のお見舞い、頼んだぞ」
先生は満足そうに言った。
思考が止まった。
- Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.17 )
- 日時: 2009/11/15 21:16
- 名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)
第十七話
「え……?」
私は思わず聞き返した。
「三好のお見舞いだよ。萩元たちが佐々木を推薦しただろ、仲良いからって」
先生は笑顔で言った。私は目で陽子達を探した。肩が震えている。笑いを押し殺しているようにも見えた。
断れないフインキが作りあがっていて、嫌だとはいえなかった。
「陽子っ!」
私が陽子を呼び止めると、陽子は振り向きざまに爆笑した。こらえきれなくなったらしい。
「何で私なんだよー」
私は陽子の肩を小突いた。もちろん冗談だ。
「……っ、だって、あのフインキ……メンドイしっ、さぁ!」
笑いすぎて、声が途切れて聞こえにくい。優子とミヤちゃんも、お腹を抱えて笑っていた。
「ま、そういう事だから、よろしくー」
陽子が私の肩に手を置いた。
その途端、私の脳が何かに支配されたように止まった。
私の手は、陽子の手を振り払っていた。顔も歪んでいる。
「ちょっと、友里! 何すんのよ」
陽子が信じられないという顔をした。私にだって、私が信じられなかった。気まずい空気が流れる。
「……なんちゃってー」
私は無理におどけた顔を作った。ちゃんと笑えているか心配だ。
「もーっ、びっくりさせないでよ」
陽子たちも笑いながら、私の頭をバンバン叩いた。
昼休み、私は女子トイレの個室で、和式の便器の中に吐いていた。できるだけ音はさせないように配慮した。
「おえっ……」
白い便器に、薄橙の嘔吐がぶちまけられる。もう、何度も流していた。
今は、胃液が殆どだ。頭がクラクラしている。
原因は——分からない。ただただ、吐き気だけが私を支配した。
「はあ……はあ……」
私はまた吐いた。見るのも嫌ですぐに流した。
吐き気が少しマシになったので、鍵を開け出た。幸い、だれもトイレには来ていなかったようだ。
私は頭痛のする頭を押さえ、トイレを出た。保健室に行こう。
私があと一段というところで、後ろから呼びとめられた。
「あれ、友里じゃん。どこ行くの?」
振り返ると、陽子たちがいた。私はかすかに微笑んだ。
「保健室……。ちょっと熱っぽいし、頭も痛いの」
そう答えた瞬間、グラッと視界がゆれ、慌てて手すりを掴んだ。
「へぇ、じゃあ、英語の授業さぼるんだぁ。今日小テストなのに、何かずるい」
ミヤちゃんの声は、ねちっこかった。
「いいねぇ、病弱な人は」
陽子は、昔から私と一緒にいたから、私がよく体調を崩していた事を知っていた。昔は事あるたびに心配してくれていた。
次の瞬間、私は3人に向かって嘔吐をぶちまけていた。
- Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.18 )
- 日時: 2009/11/15 21:19
- 名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)
終わったー!
上げときます^^