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GL 『宿縁』(完結)
日時: 2013/07/20 16:35
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

参照してくれてありがとうございます。あるまです。

タイトルは「シュクエン」と読みます。
主人公のナナミ視点で、女子中学生どうしの、清らかな恋愛を描いていきます。

着想から完成まで半年ほどかかり、途中でしばらく中断し、前半と後半で雰囲気もだいぶ変わりましたが、なんとか完結までアップできました。

参照数を見る限り、何人かは読んでくれたと思います。
本当にありがとうございました!



______あらすじ______

ナナミは真面目な優等生で、いつもカエの面倒ばかり見ていた。しかしそれが幸せだった。
ところが学校の制度はどんどん厳しくなり、受験を意識して、成績優秀な者とそうでない者を分けたクラス編成にすることが、検討されていた。
冬のテストでナナミは成績上位に入ったが、カエは圏外だった。
ナナミは将来もカエとずっと一緒に居たいと思い、カエに勉強を教えようとするが……。



______プロローグ______

「きっと何かの因縁だよね、あたしたちが惹かれ合ったこと」

カエの表情が弾けるように明るくなった。
一瞬、わたしの背筋に電流が走る。

因縁。
おそらくそれは、生まれる前から、わたしたちが結ばれると決まっていたってことだろう。

屋上の空気はいっそう冷えて、昼間だというのに、やたらと静まり返っていた。

Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.37 )
日時: 2013/04/10 17:43
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   十八

僕は就職活動もろくにしないで、昼間から酒を飲んでは、だるい身体を横たえ、天井を眺めながら時間を過ごしている。

傍から見れば、何もしてないように見えるだろう。

だがそんな時でも、世の中に対する申し訳なさとか、後ろめたさを忘れたことはない。

同期の友達は今ごろ汗を流して働いているのに、自分は何をしているんだ。
世間のひとは、こんな僕をどうしようもないクズだと思うだろう。

でも僕だって、人生から目をそらしてきたわけじゃない。
いや、そらすことができればどんなに楽だろう。
でもそれができなかった。この先どうやって生きていけばいいのか、そんな迷いがずっと頭を離れなかった。

多くのひとは僕を能天気な怠け者と思うかもしれない。でも僕は人生を真剣に考えてきた。思い悩んで苦しんできた。その点では誰にも負けないつもりだ。

僕は、他のみんなと対等でいられた中学、高校時代を懐かしく思い出す。
僕は大切なもののすべてを、あの少年時代に置いてきたんじゃないか。

ああ、男は孤独だ! って今では思うよ。
大人になると、どんなに仲の良かった友達にでも、上とか下とか、ランクが付くものだから。

自分はこいつより上なのか下なのか。

そんなこと、考えないでなんていられない。

表向きは旧友たちが仲良さそうに集まってたって、内心ではそういういがみ合いとか、競争意識があるのだ。

もう昔のように、一緒でなんか居られない。
例え集まったところで、それは個人と個人の寄せ集めに過ぎない。
一つに解け合うことなく、反発作用をし合っている。

この先、どうしていけばいいんだろう。
自分にはとうてい希望などない。おそらくこの社会に僕の居場所なんかない。

いや、辛抱して生きていればいい、生きていることに価値がある、なんて言うひとが、もしかしたらあるかもしれない。
そういうこと言うひとは、命の尊さを口先だけで主張しておきながら、その実、命の尊さなんか知らないひとなんだろう。

仕事が順調にいけば、こんなくすぶった悩みなんか忘れてしまうかもしれない。
でも僕には仕事の中に生きがいを見つけることなんか、おそらくできない。
自分に合わないことを無理にやるわけだから、すぐ失敗する。そしてひとに迷惑をかける。

頑張ってできるようになって、周りに誉められても、もともとやりたくもないことを無理にやらされているわけだから、充実感など得られるはずもない。
欲しくもない物のために頑張り、欲しくもない物をもらって喜べなんて、僕にはできないことだ。

いっそのこと、こんな社会とは縁を切って、人目など気にせず、自分の思うように生きられたら、どんなに清々しい気分だろう。

でも僕はダメだ。僕は弱い。人目を気にせず生きるなんてことはできない。

死ぬのは怖い。でも生きるのはもっと辛い。

自殺者の多くは、死ぬ時に酒を飲んでいたという。
できれば酒の力を借りたい。
でも僕は本気だから、素面で死にたい。

自殺する者は命を粗末にしている。
そう思ったら大間違いだ。この世に絶望して死んでいったひとは、きっと命の重みを分かっていたと確信する。

僕は、世間に対する下らない虚栄心やプライドを捨て切れずに今まで生きてきたことを、後悔している。
そして、下らないものを大切なものと思い込ませ、大切なものを捨てるよう叩き込んできた大人社会を憎んでいる。

Re: GL 『宿縁』(あと1回で完結) ( No.38 )
日時: 2013/04/11 17:43
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   十九

学校前の横断歩道。

わたしはその信号が青から赤に変わるのをさっきから何度も見ていた。
その度に、黒い制服の群れが一斉に横断歩道を渡る。

でもわたしはずっと立ち止まっていた。

空に向かって吐いた息が白く立ちのぼって消えていった。

今日の空は灰色だ。冷たい空気が鼻をくすぐる。
そんな小さな感覚さえ、今のわたしに生きていることを実感させた。


「おはようございます、土谷さん」

声のする方を向くと柿沼さんが居た。
わたしは「おはよう。今朝も寒いね」と簡単に答えて笑う。

「午後から雪になるらしいですね。土谷さんはここで、誰か待ってるんですか? 成瀬君?」

「うんん。違うよ」

「そうですか。実は私、今日、成瀬君に気持ちを伝えようかと思ってるんです。今日は特別な日じゃないですかぁ? チョコ、作って持って来ちゃいました」

柿沼さんはいつもの頑張った笑顔を浮かべながら「バレンタインは、小六の時に玉砕して以来トラウマだったんすけどねぇ」と頬をぽりぽり掻いた。

「あははは。頑張ってね柿沼さん。成瀬君は真面目で、いいひとだと思うから」

ふと視界の先に、見慣れた男子生徒が歩いてくるのをとらえた。

向こうもわたしに気づいたが、まだ距離があるから、声はかけないで待ってみる。

「土谷さん」

近くまで来たところで、成瀬君が先に言った。

柿沼さんは成瀬君に気づくと、ビクンと背筋が跳ね上がった。
見るからに緊張していた。
ギクシャクした動きのまま、意を決したように息を吸い込むと、

「お、おはよっ! 成瀬君!」

と言った。声のトーンがぶれまくりだった。

「土谷さん、今日こそ返事聞かせてくれるよね?」

勇気をふりしぼった柿沼さんには目もくれず、成瀬君がわたしに言った。

成瀬君の視線がわたしには重たく感じた。

それでもわたしは思いを言葉にして伝えようと、彼の方を向き、

「ごめんなさい。もう一緒に帰ったりはできない。ごめんなさい」

軽く頭を下げた。申し訳ない気持ちはあった。

「返事遅いよ……ダメならダメって、早く言ってくれればよかったのに」

「ごめんなさい」

がっくりした成瀬君が、わたしを責めるような目で見ているのが分かった。
カバンをにぎる手がこわばり、悔しさに顔をしかめていた。

反対側の道路に、赤い軽自動車が止まった。
ハザードランプが光って、ドアが開く。
茶色の長い髪の子が、危なっかしく、大きな松葉杖を両脇にはさんで、車から出てきた。

「早く言ってくれれば、俺も他の女の子を探したのに。今日はバレンタイン当日なんだ。今から慌てたって、他のやつらに乗り遅れちゃうじゃないか」

成瀬君は「だー、俺の計画が!」と両手で頭を抱え、地面を二回ほど強く踏みつけた。柿沼さんが一歩引いた。

赤い軽自動車は、信号が変わるとそのまま直進して行った。

車から降りた子は小さく手を振り、車が遠ざかると、向こう側からこちらを見た。

「カエ……」

柿沼さんや成瀬君も、カエの存在に気づいたらしい。
三人の視点が、カエへ集中した。

カエの口が動いて、何かをつぶやいた。
「おはよ」と言ったように見えたが、車の音や、通学する生徒たちの声にまぎれて何も聞こえなかった。

信号が青に変わった。わたしは走り出した。


「ナーナーミー。あんたほんとに見舞いに来てくんないであたしのことなんか忘れちゃってウワッ!」

からかうように喋るカエの口を、わたしの口がふさいでいた。

これまで一度もなかったくらいに、カエの顔が近くにあった。

「ちょっ……ナナ……ん……んふぅ」

怯えるように小刻みにふるわしていたカエの肩をわたしがきつく抱きしめてあげると、カエは任せ切ったように抵抗をやめ、目を閉じた。

カエの鼻息がわたしの顔に吹きかかり、目にしみると涙が出そうなくらい温かく感じた。

横断歩道を渡るひとたちが、じろじろ見ながら、二人を避けるように通り過ぎて、その好奇な視線と、くっついてたたずむ二人の間に、微妙な距離を生んだ。


「土谷さんすごーい。尊敬するー!」

柿沼さんの声が遠くに聞こえた。

「女どうしでこんなこと……変態じゃねぇか!」

成瀬君はそれだけ叫ぶと、青信号をそそくさと渡っていった。

「ん……んく…………んん」

二人の口の中で、舌の先端部分が邂逅した。
空いてしまった隙間を一気に埋めるように、言葉もなしに、互いが互いを求め合う。

わたしはカエと一つになれた。
これは運命に対する悪あがきかもしれなかった。
でも今は嬉しくて、お腹の下あたりがキュンキュンうずいている。
満たされた気分だった。心に潤いがもたらされた。


「ぷはっ!」

二人の顔がやっと離れた。
わたしとカエ、どちらのものとも分からない雫が口からこぼれ、アスファルトに滴り落ちた。

「バカだよナナミ……こんなことして、みんなからのけ者にされちゃうぞ」

カエの白い真冬の肌は、頬がほんのり赤く色づいている。
わたしの方は、湯気がたちそうなほど、頭のてっぺんから太もものあたりまでが熱くなっていた。

「誰にも理解されなくてもいい。わたし、もう人目なんか気にしない。カエと一緒に居られれば」

「あたしたち、ずっと一緒になんか居られないんだよ」

「居る! ぜったい居る! ねえ、どこでもいいから二人で女子高に行こ? そして大人になったら一緒に暮らそ。共働きでもなんでもして」


冷たい空気が肺に入り、むせびそうだった。

わたしがしゃっくりまでして、言葉に詰まったのを見ると、カエは「分かったよ」と、ニッコリ微笑んでくれた。

青信号が点滅し始めた。
松葉杖を突いたカエが、ゆっくり歩き出す。

わたしはしばらくしゃっくりが止まらなくて、二人は教室に入るまで何も喋らなかった。

Re: GL 『宿縁』(終) ( No.39 )
日時: 2013/04/12 18:58
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   二十

「見舞い、ずっと行かなくてごめんね」

「いいよ。あたしの言い方も悪かったんだし。にしても成瀬君は、ちょっとかわいそうな役柄だったかなー?」

カエが言うので、わたしは「そだね」とだけ頷いた。

昼休みには、わたしの気分も落ち着いて、カエと二人、屋上の手すりにもたれながらお喋りすることができた。

「あたしの入院しているほんの少しの間だけが、ナナミの春だったかもしれないね。今後はますます男は寄ってこらんないよ。あんなことがあったんじゃ」

カエは白い歯を見せて意地悪そうに笑った。

「あんなこと」というのは、もちろん今朝のことだ。
噂はあっという間に広がり、二年生の中で知らないひとは居ないだろう。

わたしはみんなに後ろ指をさされても構わないと思っていた。
そして実際、嫌悪感を露わにするひとも居た。

だけれど、決してそういうひとだけではなかった。
柿沼さんもその中の一人で、わたしたちの仲を「憧れちゃいますぅー」とか言っていた。

意味がよく分からないけれど、周りの全員が敵っていうわけではないのだろう。
みんな無難に、良い子として生きたいだけなのだ。
普段は黙っていても、中には理解者だってきっと居る。


「実はさー、ナナミに会っても黙ってるつもりだったんだけど、入院している間に、お母さんからびっくりなこと聞かされたんだ」

たった今まで笑っていたカエの顔が、急にすまし顔へと変わった。
真面目モードに入ったように、遠くの景色を眺めた。わたしはその横顔を見る。

「うちのお母さんがね、あたしの友達がナナミって名前だって聞いた時から、あの子と同じ名前だなーって思ってたんだって。それでこの前、病院で初めて会ったでしょ? 赤ちゃんの時以来で見る顔だけど、やっぱりどことなく、あの子に似てるって」

「あの子って……」

「お母さんは、生まれたばかりの頃のナナミに会ってるんだってさ」

カエの視線が、遠くの景色から、隣のわたしへと移された。

「そうなの? 一体どこで?」

「病院だよ。ナナミのお母さんも、うちのお母さんも、その頃同じ病院に入院してたんだ。つまりあたしたちは、同じ日に同じ病院で生まれたんだよ!」

こう言い放った後で、カエはきゅっと口を閉じ、黙ったままわたしの顔をじーっと見上げてくる。
わたしの反応をうかがっているみたいに。

「そうか……だからカエのお母さん、わたしにあんなこと聞いてきたんだ」

病院で会った時、カエのお母さんは、なぜかわたしの誕生日と、生まれた病院を聞いてきた。
誕生日はカエと同じ九月十日だ。
生まれた病院は、この町だってことは確かだけど、名前までは知らなかった。

「何かの因縁だよね、って、うちのお母さん言ってたよ」

カエの表情が弾けるように明るくなった。一瞬、わたしの背筋に電流が走る。


因縁——おそらくそれは、生まれる前から、二人は結ばれると決まっていたってことだろう。

生まれた後で、大人社会が勝手に二人の間に境界線を引こうとしているだけなのだ。


「わたしね……成瀬君が隣に居ても、何か違うって思ってたよ。成瀬君が隣に居るのに、唇が乾くと、カエのこと思い出すの。今朝のキスでも分かったよ。わたしは間違っていなかったって」

本当にめぐり会うべき相手はカエだった。
カエだけが、わたしの唇に、心に潤いを与えてくれた。
唇も、舌も、喋ることはできないけれど、きっと寂しいって訴えていたんだ。
切なげに相手を求めるわたしの口を、カエが充たしてくれた。

「初めてのキスは、何がなんだか分からなかったよ。あっという間に奪われちゃった。ナナミ、あたしの前歯を左から右へと舐めまわしてくるし」

カエは照れながら言うと、今朝の感触を思い出すように、唇を手でさすった。

「ごめんなさい。カエの前歯のギザギザがわたしの舌にこすれて気持ちよくて……って、いちいち解説させないで! 恥ずかしいよ!」

わたしは口を押さえて、カエの方を見る。
カエも気分が高ぶってしまったらしく、首すじのあたりまで桃色に色づいていた。
きっとわたしも同じくらい紅くなっているだろう。

「もう一回、してみよっか?」

カエの問いかけに、わたしの胸はドキドキした。
お腹の下がうずうずし、その熱が頭のてっぺんまでのぼると、脳内が幸福感で満たされる。

「うんん。今したら、もうどうなっちゃうか分からないから、やめておく」

わたしは自分の冷えた手を頬に当てた。ほてった顔が冷やされていく。
横ではカエが「どうなっちゃうって、どうなるんだよー。ナナミは真面目だねー」と笑っていた。

わたしは真面目なんかじゃない。
ちょっと前まで真面目だったかもしれないけど、もうやめた。

ただ、生きていればカエといつでもしたいことできると思うから。

ふと、兄さんのことを思い出した。
兄さんはわたしを押し倒した時に、わたしがやめて欲しいって言ったら、やめてくれたよね。
兄さんは真面目だったんだろう。きっと、兄さんは自分に合わない生き方を無理してやってきたから幸せになれなかったんだ。

わたしはもう、人目なんか気にしないから。

屋上の空気がいっそう冷えて、昼間だというのに、やたらと静まり返っていた。

「雪、降ってきたみたいだよ」

カエが手の平をかざして空を見上げた。
ゆっくり舞い落ちる白い雪が、周りの音を消していたのだ。

わたしも手の平をかざして空を見上げる。

来年も再来年も、こうして空を見ていたい。



   (おわり)

Re: GL 『宿縁』(完結) ( No.40 )
日時: 2013/04/15 22:54
名前: 千早 (ID: Nw3d6NCO)

凄いです、こんな小説がかけるなんて尊敬します
感動しました
次回作も楽しみにしていますね

Re: GL 『宿縁』(完結) ( No.41 )
日時: 2013/04/17 18:48
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

コメント、ありがとうございます。

そう言ってもらえて、本当にうれしいです!
最後まで書いたかいがあります。

また目に止まるようなことがあれば、よろしくお願いします。

本当にありがとうございました。


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