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ハイキューBL
日時: 2015/03/04 22:00
名前: 鑑識 (ID: xLaEhu2C)

はじめまして、鑑識と申します。腐男子です。
高1なのでそう大した文は書けないかとは思いますが、リクエストなどは随時募集です。めっちゃ募集です。

ここの利用は初めてなのでなにかおかしいとことかマナー違反とかあったらガンガン言っていただきたいです。思いつきで始めたのでだいぶ緊張してます。

内容としてはハイキュー!!、中でも大地さん受け、ぼくあか、及岩あたりが中心になるかと思います。最近は音駒にも手を出したがってうずうずしています。
更に月島も手を出してます。幅広げすぎてよくわからん。

文章の特徴としては、読んでいただければわかると思いますが無駄にめちゃんこ長くくどい地の文。オチがない。ありがち。そのあたりが上げられると思います。

ガシガシ声かけてください。どうぞよろしく。



11/?すいませんいつかわからないですが閲覧数10000オーバーありがとうございますありがとうございます!!これからもがんばります!


※荒らしは絶対にスルーしてください!

構わず私とのお話または小説に没頭してください。対応は絶対に私がします。みなさんの優しさと正義感を、悪い方向に取られることがないように、対応には気をつけて。
ひとまずの注意喚起、削除依頼等は責任をもって私がします。サイトの説明にも書いてある通り、このサイトには荒らしが来て当然だと私は思っています。ひとつひとつに目くじらを立てず、大人な対応をよろしくお願いします。

みなさんの理解と協力、どうかどうか。



ぼくあか >>01 >>28 >>29 >>40 >>56 >>83 >>84 >>91 >>92 >>93 >>130 >>131 >>144 >>145

月島くん関係 >>34 >>53 >>62 >>140←new(月影)

大地さん受け >>3 >>16 >>18 >>34 >>46 >>94
>>97 >>102 >>108 >>109 >>114 >>117 >>121 >>127 >>141 >>147 >>150 >>151 >>157 >>158 >>167 >>168←NEW!!(牛大フェア開催中)

↑編集がめんどくさウエッホウエッホ諸事情により更新止まってます。この中にないやつもだっぷり存在するので、あくまで参考程度に見てください。

その他

けんくろけん >>12 >>2 




いつだかわかりませんが二万オーバーうれしい!ありがとう!


Re: ハイキューBL ( No.247 )
日時: 2015/08/13 23:25
名前: 鑑識 (ID: iNxht3Nk)

牛大です。久しぶり。牛大感はないけどね。


ベランダに潜む絶対条件

新生活が始まる。イメージカラーは桜色。壁の色は薄いクリーム色。床はフローリングの焦げ茶色。積み上がったダンボールと見慣れない一人の部屋は、引越しの証。一人暮らしデビューの証。これからダンボールを処理して、色々置いて、いろいろ飾る。そんな俺だけのワンエルディーケーである。
さてどこから手をつけようか。そう向きなおった矢先、かさり、物音がして、目の前の窓を見た。カーテンすらかかっていないそこは、真っ暗くらい。はずなのだけれど、ぼんやり白い影が見える。
不審者。ぱっとよぎった可能性が、背筋に汗をもたらす。初日から、勘弁してくれ。さっと立ち上がって周囲を見渡した。撃退の道具を探したが、生憎ダンボールしかない。
生唾を飲んだ。ごくりと大きな音は不審者に存在を示しているようだった。そろり、近づいてみる。曇一つない窓ガラスは近づくだけではっきり奥底を映し出した。少しさびた鉄製の柵がひかれていて、前の住人が置いていったそうな、簡易椅子とガーデニング用品がそれより手前、けして広くないベランダに置かれている。その奥だ。鉢を越して如雨露を越して、鉄柵さえ越した先に、それはいた。
目を疑った、疑ったが、本能が確信を持って、あれは違うと言っていた。足元に床が存在しないことを確認するまでもなく、認識することはかなった。そして同時にそれは振り向いた。しっとり、は振り向く擬音として正しいのかはさておき、見蕩れるままに合った瞳は琥珀色。それが人間じゃないとわかって連想した、ホラー映画とは似ても似つかない、綺麗ないろだ。色ってより、彩。吸い込まれてしまいそうって、こういうこと。
それは男だった。黒いストレートはきっとシャンプーにこだわりを持っていない。いや、持っていなかった、か。かすかによれたシャツと質のいいズボンから生活感が伺えた。おかしなことに。
男は近づいてくる。柵をすり抜け、如雨露を乗り越え、足元に何もいらないくせして、右足と左足を交互に動かしてやってくる。表情を変えずにやってくる。あれはきっと無表情じゃあない。
男は窓の前で立ち止まった。しかし入ってこない。仕方がないからこっちから近づいて、窓の鍵を開けた。ついでに、右にスライドして開けてやった。不用心かな、と思ったけれど、幽霊に窓も何も関係ないのだった。警戒心なんてなんの意味も持たないのだった。しかし入ってこない。

「ここから出られないんだ」

男は口を開いた。幽霊って、喋れるんだ。こんないかした声が出せんだね。いや、そうじゃなくて。そこはもう、出ているって言えるんじゃないのか。
男は首を振る。いや、おれはここにしかいられないのだ、と。
そうか、ならばと自分も外に出た。春の夜はまだ少し肌寒い。男は目を見開いたから、俺まで驚いた。彼いはく、そんなふうに近づいてきたのは初めて也。と。

「だって悪いヤツじゃないだろう。目がそう言ってんだ、わかっちゃったんだ」

言えばまた驚かれた。これまで八人は見てきたが、お前は異端だ。と、言われたものの、だってわかっちゃったんだもの。と言えば口をつぐんだ。
琥珀色が、揺れた。

「八人って、いつからここにいるんだ」
「もう10年になるか、多分」
「いまいくつ?」
「生きていれば28といったところだろうな」

28、の十年前は18だ。今の俺と同じ年から、10年、10年も男はここで。ベランダというちっぽけな世界で、恐れられながら、ひとりで。
身勝手なことに、彼を捨て置いた八人の男女に怒りを覚えた。そりゃ赤の他人のしかも幽霊なのだから、当然といえば当然なのだと、わかってもなお。彼の瞳を見なかったのだろうか。見なかったのだろうな。

「さみしかったろ」
「そうでもない」
「そうなの」
「慣れてしまった」
「そうか。それは、なぁ、かなしい話だ」
「そうだろうか」
「そうだろうよ」

あぁ決めた、今決めた。どうせ他にアテもないんだ。こんな優良物件見逃せないし、というか、ここは所謂ワケあり物件だったのね。通りで安い。今更気づいた。

「名前教えてよ」
「なぜ」
「教えてくれないのか」
「だから、なぜ」
「なぜって、これからお世話になるんだから、あたりまえのことだろ」

他にアテがないのは本当。ここが駅から近くて安すぎるくらいなのも本当。だけど本当の本当の理由は別にある。
男の瞳が気に入った。あのときなんの躊躇いもなく窓を開けたのは、瞳のせいだった。琥珀にきらめくあの瞳を置き捨てる人間の精神がわからなかった。奥底まで見え透いてしまいそうなこの瞳をもってして、幽霊を名乗るのが信じられなかった。瞳の持ち主たる男のことをもっと知りたくなった。できるなら、過去も教えて欲しい。
それに、ひとりよりふたりのほうが心強い。一人暮らしは初めてだから。
言えば男はほろりと微笑んだ。瞳は溶けるように、頬は落ちるように、笑い方を忘れてしまったように、ほころんだ。あぁ、彼はかわいいひとだ。

「ウシジマワカトシ、だ」
「なんて呼んで欲しい?」
「なんでも構わん」
「じゃあ、そうだな。名前で呼ぼうかな。ワカトシ」
「あぁ」

呼べば目を閉じて噛み締めているようだった。名前を呼ばれるのは久しいらしい。そりゃあ、10年もいるんだものな。
さて、目を閉じてしまっては握手もかなわない。手を叩くと琥珀が覗いた。

「俺は澤村大地」
「俺も、ダイチと呼んでも構わないか」
「そりゃもちろん!」

かくして、ベランダの幽霊との同居が始まった。あぁ、握手はかなわなかった。だって彼があんまり人間らしいから!

Re: ハイキューBL ( No.248 )
日時: 2015/08/13 23:29
名前: 鑑識 (ID: iNxht3Nk)

つづき




一年経ってこなれてきた、ベランダ幽霊はなにかとうるさい。
朝起きて朝ごはんにケチをつける。彼は寝ないから俺が起きて作るとケチをつける。
お湯を沸かしてご飯をよそって、袋をさいてさらさらかけて、とぽとぽとすればできあがり。早い安い旨い、三拍子揃ったこの鮭茶漬けに、しかし彼はケチをつける。なぜなら栄養価が偏っているから。そのくせお供えのようにぽつりと置いた白米と漬物には、頬を緩めるのだから都合の良い。もう作ってしまったものは仕方ないからとかきこんだ。

大学に行かなければならないから、適当な私服に着替えた。今日は朝から友人と同じ講義なのだった。するとベランダ幽霊は襟が正しくなっていないと言う。やかましいといえばやかましいのだけれど、彼はいたって真面目だから従ってしまう。ワカトシはいつだって真面目だ。真面目すぎるくらい、真面目だ。だからほら、触れられもしないくせにポロシャツの襟を直したがる。こういうとき、ちょっと俺は悲しくなる。ワカトシはあまり気にしていないようだけれど。

家に帰るとお帰りをいう。前に一度、隣人から「一人暮らしですよね?」と目を細められたことを思い出して、ベランダの窓を開けて小声でただいまを言った。一人暮らしデビューはひとりがさみしくならないかってそれが一番不安だったけれど、その心配もなくなった。琥珀が色を隠す。結構幸せなんだ、これが。でも、欲を言えば真っ暗なのが嫌なんだ。だって彼は本当はいないから、家を出る時は電気を消すし、彼もそうしろと言う。だから夜に帰れば真っ暗なのだ。それに、ただいまもおかえりも、玄関で堂々としたいなって、わがままなのさ。欲張りなのさ。

それから晩御飯を作る。これもはじめ小言を言われたから、少しでもと野菜炒めくらいは作るようにしている。肉はレシピの二割増だ。色とりどりの野菜は大皿と小皿に分けて、小皿の方はベランダの前に置く。白米も、同じように。我が家のテーブル椅子の配置はワカトシのおかげで、一般的なものとはかけ離れた。だって彼と向き合って食べたいのだ。
ベランダの椅子に腰掛けた、人間より人間らしいワカトシはきまって野菜炒めを褒める。うまそうだって。だからさ、かなしいよ。

寝るときは、備え付けのベッドで寝る。頭は窓側に向く。そうすると微かにワカトシの背中が見えるのだ。窓を締めるとワカトシの声は聞こえなくなる。
夜、ワカトシはベランダの柵を乗り越えて、空を眺めている。彼の可動域は狭いらしく、柵を乗り越えてすぐそこだ。ワカトシが何を思っているのか、俺にはわからない。まだ聞けていない。きっと過去が関係しているのだと思う。だって10年も、いやこれで11年、ここにいるのだ。なにか名残があるのには違いなかった。でも、彼から彼自身のことを話すことはなかった。それはちょっと、悲しいことだった。


今度の朝はケチをつけられなかった。なぜならサラダと味噌汁を用意したからだ。味付けには失敗したが、どうせワカトシにはわからない。調子に乗って彼の分までよそったのは失敗だった。うまそうだって言わないでくれ。冷めた料理を片付けるときに、悲しい顔をするのはやめてくれ。表情が薄いように見えて、案外わかりやすいんだ、お前。悲しいのは俺だけじゃなかった、むしろ彼のが悲しいのさ。俺は残酷なことをしている。

今日は休みだからベランダに出た。簡易椅子に座るワカトシは、若干浮いているから座る意味が無いと思うのだけど。
少し、話をしよう。言えば彼は首を縦に振った。これは無表情じゃあない。
「お前の過去を教えちゃくれないか。何が名残で10年もいるのか。俺はお前が知りたい」
言ってから、ほろりと好奇心よりも、後悔がどっと首をもたげた。そんな顔をさせたかったんじゃないのに。
「ごめん、話したくなければ、いいんだ」
「いや、話す。ダイチには話しておかなければ、俺は一生このままだ」
このままじゃないって、どういうことだ。このままだっていいのに。でも彼はこのままじゃダメなんだ。あいもかわらず琥珀色も好きだけど、おれは一年過ごしてきみの好きなところをいくつもみつけてしまったから、離したくないのに、彼を尊重したいんだ。わがままなのさ。欲張りなのさ。
ワカトシは話す。流暢に話す。とある男の話だと、前置きをする。

10年前のことだ。男はバレーボールをしていた。傲慢で不遜で、バレーボール以外に興味の無いような、そんな男だ。幼い頃からバレーばかりしていた男は段々と上手になって、中学の頃にはバレーが中心の世界が、男の周りにまとわりついていた。それでよかった。男はバレーが上手かった。体格にもセンスにも恵まれていた。なによりバレーが好きだった。
男は高校のバレー部を引退した。次に見据えるのは大学の実業団、やはりバレーだった。しかしその頃、男は考えていた。男からバレーを取った時、そこには何が残るのかと。そんな自分は誰かに必要とされるのかと。そんな自分を自分だと思えるのかと。愚問だった、バレーから離れるはずのない自分には関係の無い話でしかないのだ。しかし頭を離れない。男は勉強はできるものの、なにぶん不器用だった。
男は苦悩した。これまで目を背けていたことが、バレーという世界から一時期離れたことで、明白に見えてしまった。普通なら中学二年の頃に思い悩んで、結局のところ格好つけて諦めるところを、男はそうしなかった。なぜなら男は真面目だから。真面目すぎるくらい真面目だから。
男は家を出た。家族に愛されていることを知りながら、贅沢なことにも、誰も知らない土地で、バレーをせずとも、誰かに必要とされるのかと確認の意味を込めて。馬鹿な男だ。ひとつのことに執着したあまり、そのほかが疎かに過ぎた。地元から新幹線で1時間、実業団なんてもってのほか、バレ−愛好会の存在すら怪しいくらいの大学に、男はやってきた。
男にとってその世界はあまりに新鮮で、知らないことだらけで、そして男を必要とするものはなかった。バレーを失った心に塩を塗られた心地だった。自分で塗られに行ったくせに。心に空虚を抱いたまま、男はあるものを見つける。一人暮らしを始めた、その部屋に置かれていた植物だ。久しく世話をされず、枯れかけていた植物が生きるには、男が必要だった。
男は義務感とも呼べる愛情のもとに、植物の世話を始める。ようやく見つけた存在が心を埋めていくようで、それから男は家に帰るとベランダに居座った。居座って世話をし続けた。来る日も来る日も世話をして、ついに生気を取り戻した植物に、初めての感動さえ覚えた。それが男の生きる意味だとさえ感じた。男の世界は狭かった。
まもなくのこと、男は事故に遭う。何トンだったか、巨大なトラックに身体をぶつけて、即座に死亡した。何も思い残すことすらできないまま死んだ男は、目が覚めるとかつてのベランダにいた。植物は水を浴びたばかりで、まだ元気だった。
男はすぐに自分が死んでいることに気がついた。同時に、ベランダから出られないことにも。しかしどうでもよかった、どうせ男はベランダにいるのだ。かすかに埋まらない心を抱えて、ベランダにいるのだ。

話をしながら、いつの間にかワカトシは柵の向こうにいた。空を見つめる姿が泣いているようで、きっと彼は泣けないのだ。
ありがとう、と、それだけで精一杯だった。シャワーも浴びずにベッドに入った。彼の背中が見ていられなくて、壁を向いて眠りについた。

Re: ハイキューBL ( No.249 )
日時: 2015/08/13 23:32
名前: 鑑識 (ID: iNxht3Nk)


終わり




翌朝、ベランダの男はいつも通りに挨拶をする。おはよう、今日もいい天気だ。きっと引きつった顔で、かろうじて声は絞り出せた。
ベランダに出る。陽射しが煌々と照りつけるなかに、乾いた土ばかりの鉢植えが嫌に目に付いた。傍らに横たわるプラスチック製で緑色のじょうろにはカビが生えている。11年も使われなかったんだものな。男はきっとこれを使っていたのだ。ワカトシは俺を見た。琥珀色は影を帯びてくすんでいた。
今日は大学を休もう。


「なぁ、俺が思うに、お前はベランダに、いや、植物に取り憑いてんじゃないかって思うんだ。植物に必要とされたいあまりに、お前が植物を必要としてるんじゃないかって。あくまで推測だ。お前はどう思う?」
「…妥当な話だろうな。だからといって今更どうしようもできない。俺には物も触れない。精神的に離れろと言われても、半ば無意識なのだから」
「そうだよな。そうなんだよな。だからさ、俺がなんとかしてやりたいって、思うよ」

鉢植えに手をかけた。ずっと目に付いていた一つだけの鉢植えだ。これにはどんな植物が息づいていたのか、今となっては面影もない乾いた土が底から漏れる。目をそらしたワカトシの視線の先には、土埃が舞っていた。

「こいつがお前を縛ってんだ。多分」
「そうかも、しれない」
「こいつを割れば、自由になれるんじゃないか。多分」
「…そう、だろうな」

こいつがお前を縛ってんだけど、こいつのおかげでお前と話ができてんだ、とは言わない。
こいつを割れば自由になれるんだろうけど、自由になるってつまり成仏することで、もうお前と会えないんだ、とは言えない。
お前だってわかってんだろって、11年もいて気づかないはずもないんだ。この1年ずっと、言わないのには理由があったに違いないんだ。いつもはっきり物事を言う彼が、「かもしれない」って言ったのも同じ理由なんだ。それはきっと自惚れてもいいものさ。

「このままでいたらいいのに」
「このままじゃ、ダメだ」
「お前がいうならきっとそうなんだろうな」
「そうだ」
「10歳歳上なんだもんな」
「あぁ」
「好き嫌いなくて、子供みたいにハヤシライス好きなくせに」
「何か悪いか」
「クソ真面目で小うるさくて、10歳どころか爺さんみたいだ」
「失礼なやつだな」
「でも俺、そんなお前が結構好きでさ」
「あぁ」
「だからさぁ、」
「うん」
「離れたくないんだよなぁ」

ぐっと目元が熱くなった。なんだか悔しかった。最後の最後に弱みを見せたことが、最後の最後だって思ってしまったことが、悔しい。ワカトシは泣けないのに俺は自分勝手に泣いていて、ワカトシは泣いていたのに俺はなにもできなかった、それが悔しい。心残りばっかりなんだ。でも自分の心残りと彼の信念をはかりにかけたら、心残りなんて勢いつけて飛んでっちゃうんだ。だからやらなきゃならない。自惚れながら、後悔しながら、抱きしめようとする彼を通り抜けて、あぁ、もう。

「好きだ、好きだった」
「あぁ」
「お前にご飯食べて欲しかった。玄関に迎えに来て欲しかった。おはようってお休みって、同じ部屋で迎えたかった。生きてる前に出会いたかった。泣いてるお前を抱きしめてやりたかった。泣いてる俺を抱きしめて欲しかった!」
「すまない、本当に」

鼻と目を伝う液体を拭う布は目の前にあるはずなのに触れなくて、感じたかった体温は春の陽射しで、力を込めた腕はすり抜けて帰ってきた。今更になって彼が人間でないことがこんなにも悲しいんだ。彼は幽霊なんだって、現実から逃れることを許さないんだ。
ワカトシは傍らの鉢植えに手をかけた。少しすり抜けて、人差し指の第一関節が見えなかった。それは割ってくれと、一緒に割るのだと告げていた。彼はとことん優しいヤツだった。こんな状況にもなって惚れ直してしまった。
俺も手をかけた。彼の手に重なって、持ち上げた鉢植えの重さはさっきと変わっちゃいない。

あぁ決心がつかない。俺から話を切り出しておいて、このザマだ。ワカトシは俺を見ている。無表情じゃあないんだよ、これは。

「俺もダイチが好きだった」
「え、」
「ダイチの飯を食いたかった。日に日に上手くなっていく料理が目の前で冷めていくのがあまりに残酷で、しかし幸せだった。
ダイチを迎えに出たかった。ダイチがいない時間はひたすらさみしいんだ、つい一年前まではそんな事考えたこともなかったのに、恋しくて仕方がなかった。
ベランダから出たかった。一緒の部屋で飯を食ってテレビを見て話をして、寝て、起きて、幸せをかみしめたかった。
生きているうちに出会いたかった。きっとバレーを教えてやれた。きっと仲良くなれた。きっと一緒に植物を育てることだって出来た。
今だってダイチを抱きしめられないのが悲しい。お前が抱きしめられなかったのはもう仕方が無いんだ、だが、俺は今ダイチを抱きしめられないことが、初めて霊体が恨めしい
なぜだろうな。いや、今となってはわかる気がしている。きっと俺もダイチが好きだったからだ」

矢継ぎ早に告げられるいかした声のあとに、唇を何かがかすめた。ワカトシの顔が離れていく。今のは風だろうか、確かに質量持っていたあれは、一体。

「指を離してくれないだろうか。俺にはできない。お前にしかできないことだ。頼む」

言葉と共に指先の力が失われていく。失わせているのは間違いなく自分の意思だった。呼吸の音がうるさい。
するりと指をすり抜けた陶器は、178cmの俺の胸元160cmから零れて、コンクリートに着地した。甲高い悲鳴とともに散り散りになった。乾いた土が俺の足元だけ汚した。

ワカトシを見る。まだいる、まだいた。口が動いた。声が聞こえない。もう1回、ってお願いしても、同じ口の動きはしなかった。でも今度はわかった、ありがとうって言った。次もわかった、好きだって言った。
ワカトシの琥珀色がぐるぐる揺れる。あぁ、こぼれた。なんだよ、できるんじゃないか。

「ごめん、ごめんワカトシ、ごめん」

次第に薄れていくワカトシをかき抱いた。感覚のない体を、それでも力を込めて抱き締めた。ワカトシも背中に腕を回した。今度はどこの指もめり込んじゃいなかった。まるで恋人みたいだ。どこからどうみたって抱きしめ合う恋人同士だ。

ワカトシは笑った。頬を溶かして、瞼を落として、眉間にしわを寄せて、笑い方を忘れてしまったみたいに、くしゃりと笑った。



かくして、ベランダの幽霊は消えてしまったのだ。







ガーデニングを始めたんだ。お前を思い起こさせる無骨でがさついた陶器の鉢植えを1つ買って、それからベランダに落ちていた如雨露を綺麗に洗って。なかなか楽しいよ。お前がハマっちゃったのちょっとわかるかな、俺にはお前がいるから化けて出てくるこた無いと思うけど。
白いガーベラにした。初心者にはあまりおすすめしないよって言うわりに、髪が白くて眉毛の太い友人はいやに勧めててさ。そろそろ綺麗に咲きそうなんだ。蕾が可愛くて、結構愛着持ってる。

Re: ハイキューBL ( No.250 )
日時: 2015/08/13 23:36
名前: 鑑識 (ID: iNxht3Nk)


くくるさん

いつも本当にありがとうございます!
またまたお久しぶりとなってしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。
LINEで書いている私に優しい機能、keepというものが追加されました!なんと下書きを保存できる!うれしい!しかもそれをしっかり編集できる!うれしい!どうでもいい話でした!元気出していきましょう!

Re: ハイキューBL ( No.251 )
日時: 2015/08/14 09:45
名前: くるる (ID: L0JcGsyJ)

鑑識様

牛大ですね....!!!
毎度毎度素敵な設定で本当に癖になります!ありがとうございます!
lineで書かれているんですね。そんな機能があるんですか何ですかそれヤヴァイ((
白いガーベラの花言葉を調べました。
「希望」「律儀」「純潔」
合っていますでしょうか。なんだかこれを見た瞬間妙に今回の話と納得してしまいまして...!胸ん中があったかくなるような、そんな感じ

スレの方にも、顔を出して頂いてありがとうございます。もうさっきからありがとうしか言ってなくてちょっとなんか

貴方様の小説は胸焦がれるものがあって本当になんか読んでいると不思議になります。中毒です絶対。普通に売っている小説読んでも「こんなの鑑識様に比べたら...ふっ」とか思って私何様だよとか思います。それくらい鑑識様の小説に魅了されています。これからも頑張ってください!


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