BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

不器用な私の日常
日時: 2019/02/14 16:56
名前: 喜田之

不器用な私 の続編でございます。
まだ見てない方は前回のシリーズを見てからの方がはるかに分かります。
別のシリーズとも並行してやると思いますのでそちらもよかったら是非。
不器用な私 は完結処理いたしましたのでそちらで探すと見つけやすいです。
引き続きよろしくお願いします。
目次>>01

注意
・人外要素アリ(うっすら)
・書き込みOK
・リクエスト、感想書き込みOK

Page:1 2



Re: 不器用な私の日常 ( No.6 )
日時: 2019/03/08 18:25
名前: 喜田之

第5話 人の温もり
2月1日 夕方 土曜日

「だから、何故貴様がついてくる!」
「俺、旦那様に、ついてきてるだけ。黒づくしに関係、無い」
林を抜け、一面に広がる大きく美しい湖、【ワンガリ湖】
雲に隠れていた太陽が顔を出し、ワンガリ湖の水がゆらゆら、キラキラと波打っている。
とても素晴らしい景色、日差し良好。
「その旦那様って言うのも控えろ。この方をどなたと心得る!」
「だ・か・ら、俺の旦那様、なの」
「お前ら・・・」
ルキはうっすらとこめかみに青筋を浮かべる。
それに気づいているにも関わらず言い合いを続ける二人。
ルキは、はぁ・・・とため息をつき説得するのを諦めた。
言い合いをしながら進む二人の五歩遅れでついていくルキ。
「ん?」
目の前にこじんまりとした建物があった。
青の瓦の屋根で、石造りの建物。
建物には木造の看板が飾ってあり、墨で[大野書店]と整った字で書いてあった。
ルキは頭がグルグルと回っているような錯覚に陥った。
「ここ・・・知ってるような気が、する」
ルキは静かに立ち止まり、言い合いしていた二人も立ち止まる。
ふわっと風が吹き、ルキの髪がなびく。
ルキの瞳は湖の周りに生い茂る、深緑の大木達に釘付けだ。
「あれ、ルキ君?」
爽やかな声に呼び掛けられ、ハッとして視線を戻す。
建物の木造のドアを開けこちらを見ている一人の男がいた。
クルミ色の猫っ毛ショートヘアに銀縁眼鏡。
すみれ色の瞳は大きく開かれている。
黒いトレーナーにクルミ色のチノパン
、緑のエプロンを着ている。
首に名札が下がってて、大野 細田(おおの ほそだ)と可愛いフォントの黒字で書いてある。
「誰?俺の旦那様に、御用」
角刈りの男は、大野に向かって静かに歩いていく。
「えーと・・・どなた?」
大野は困ったように眉を曲げている。
「・・・そういえば、名を聞いていなかったな。なんと言う?」
永月もあっ、と思い出したように反応する。
「名・・・時雨ハギ(しぐれ はぎ)」
「いい名だな。時雨」
角刈りの男、否、時雨はニコニコと笑っている。
「それで貴方、大野様は我が主に何か?」
「・・・我が、違う。俺の旦那様」
「いえ、我がです。我が」
キィーキィーと言い合いを再開する二人に構わず、大野は話始める。
「ご、ごめんなさい!久しぶりでつい」
目を伏せ、悲しそうに落ち込む大野に心が痛む。
久しぶりというのは、きっと前に会っているということだ。
どういった関係、相手の性格すら分からない。
覚えられていないのが、一番悲しいはずなのだ。
「申し訳ない、私は貴方、大野のことはよく覚えていなくてな・・・」
「当たり前ですね。十何年も会っていないのだから、覚えていなくて当然ですよね」
痛々しそうに笑い、目を擦る。
指先が濡れていて、きっと涙が出たのだと感じる。
「申し訳ない。本当に申し訳ない・・・」
「い、いえ!僕が声をかけたのは気をつけてほしいことがあって」
「気をつけてほしいこと?」
ルキの声に言い合いから取っ組み合いにエスカレートしていた永月と時雨も、ピタリと動きを止めた。
「は、はい!ここから先を進む時に急激に気温が下がる、ば、場所があります」
話によるとここ近年、温度の変化が急激に激しくなっているらしい。
このワンガリ湖周辺も例外ではなく、ワンガリ湖が一番被害が大きいという話。
「僕は奥田組から直接、通行人に注意換気するよう命じられました」
「これが証拠です」とエプロンのポケットから、封筒を取り出した。
奥田組組長 奥田 秋 と癖のある字で書いてある。
「本当ですね・・・奥田の字だ」
永月が封筒に穴が空きそうな位まじまじと見つめる。
時雨も、うんうんと頷いている。
「あ、あのっ!これ、どうぞ!!」
ぷるぷると震えている腕で差し出されたのは、火薬のようなものが入っている白い布。
「これは?」
「こ、この世で使われている寒さ対策の道具、カイロです!」
大野は、シャカシャカとカイロを振り、ルキの手の甲に当てた。
「ぬるいな」
「時間が経てばあったかくなりますよ」
ルキは大野からカイロを受け取り、両手で擦る。
「ありがとうな、大野」
「いえいえ!今度はお客様として来てください。待っています」
ルキは骨の髄まで暖まった気がしたように感じた。
「ご親切にありがとうございます。では、失礼致します」
「シツレイ致します」
永月に習って時雨も挨拶をする。
その様子が微笑ましくて、自然と頬が緩む。
「時雨!お前は今から私の従者だ!」
時雨は目玉がこぼれ落ちそうな位真ん丸と見開き、永月は信じられない、という顔で時雨を見つめている。
「またな、大野!」
ルキが高らかに腕を振る。
「またな、です!」
おどおどしつつも、笑顔で小さく手を振る大野。
ルキは先を進む二人の従者に追い付くため、駆け出した。
ーー迷子なの・・・?僕が一緒にいてあげるからねーー
胸に懐かしい温もりを秘めながら。

Re: 不器用な私の日常 ( No.7 )
日時: 2019/03/09 11:19
名前: 喜田之

第5,5話 不穏な執事
2月1日 土曜日 夕方

「っくしょい!・・・いー」
熟しすぎたトマトのように真っ赤な鼻の頭を擦る。
ルキは半分涙目で前を進む時雨に、半歩遅れでついて行く。
ワンガリ湖を通り過ぎ、記憶に残っている道に出た。
覚えているのは、季節関係無く日当たりのいい小道に、よもぎ色の草が生い茂っている、はずだった。
今通っている道は、日が全然当たらず見通しが悪い小道。
草は枯れており、通る度にクシャと音を立てる。
そして何よりーー
「寒い・・・こんな所だったか?」
「どうやら、大野殿が言っていた通りですね」
永月も賛成し、辺りを見渡している。
不意に、時雨が立ち止まりこちらを振り返る。
涙の溜まったルキの瞳をじっと見つめ、藍色の束帯を脱ぎ出した。
「おい、どうした角刈り」
永月が時雨に冷えきった目を向ける。
半ば呆れも混ざっているだろう。
永月は、まだ時雨のことを認めていないらしい。
時雨も同じらしく、口を開けば言い合いか嫌味合戦、無視の三択だ。
だが、まだ殺し合いには発展していない。
新しく来た人を認めたくない気持ちは分からなくもないが、自分の主であるルキが従者として認めた事実があり、乱暴に扱えない。
常識として、乱暴は全面的にいけない。
時雨は永月を無視し、ルキに歩み寄る。
脱いだ束帯を差し出してる。
「ドウゾ、旦那様」
「え、でもお前が・・・」
心なしか、頬が赤いような気がする。
永月が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「お前、よくそんな不浄なものをルキ殿に渡せるな」
「不浄、違う、暖かい、かも・・くしゅん!」
口元に笑みを浮かべながら、時雨は無理矢理ルキに束帯を押し付けた。
「くしゃみしてるじゃないか、お前が着てろ」
「旦那様、凍え死ぬ、それは、ダメ」
ルキに押し付けた束帯を取り、羽織らせる。
パーカーだけよりずっと暖かった。直接的な暖かさだけではなく、時雨の優しさも詰まっていた。
時雨はルキより身長が10も違うので、束帯はブカブカ、地面に着かないギリギリを保ってある。
「ありがとうな、時雨」
「エヘヘ、旦那様に、褒められた!」
時雨は緩みきった笑顔を無防備に見せた。
「・・・り・・・か」
「ん?どうしたの、黒づくし」
ボソボソと呟く永月に気づき、時雨が声を掛ける。
永月は声を掛けられたことに驚き眉を動かすが、すぐにいつもの冷ややかな顔に戻った。
「先を急ぎましょうと言いました」
淡々と発言する永月の顔には、感情が見えない。
その時、フッとルキの視界が揺らいだ。
「あ、れ」
ルキは傾いた体を抑え込むが、しゃがみこむ形になった。
「旦那様!?」
時雨が気づき、ルキの背中に手を乗せさする。
永月も少し遅れて気づき、ルキの手首に手を乗せ、脈を計る。
「脈拍は正常ですが、何が・・・?」
「旦那様、頑張って、逝かないで!」
「逝くなんて、縁起の悪いことを言うな!」
また言い合いが始まるかと思ったが、時雨は乗らずにどうするか思案している。
永月は二人に聞こえるように、舌打ちをする。
いつもよりカリカリしているように思えた。
時雨は考えるのをやめ、ルキを背中におぶさった。
「んん・・・」
「身、預けさせて、もらう」
時雨はそのまま立ち上がり、とぼとぼと歩き進む。
(きっと、寒い、ダメ)
顔を引き締め、早くルキを暖かい所へと考えている時雨。
永月もそれについて行く。
「ね、むい」
ルキの意識が泥沼に沈む時と同時に時雨の声が聞こえた。
「オツカレサマデス」
そこで意識が完全に沈んだ。

Re: 不器用な私の日常 ( No.8 )
日時: 2019/03/09 19:43
名前: 喜田之

第6話 久しぶりの二人
2月2日 日曜日 朝

目元に柔らかい日差しが当たる。
部屋は冷えきっていたが、布団の上に横になっているルキは静かに目を開けた。
木でできた天井、畳独特の匂いで床は畳だと分かる。
それと、自分と似ている霊気が漂っている。
(私の部屋になるのか?)
重い体に鞭を打ち、上体を起こす。
ごそっと布の乾いた音がする。
自分の体を確認しようと布団を捲る。
昨日の黄色のパーカー、紺のジーンズから黄色と白のタータンチェックの長袖長ズボンのパジャマ。
それと念のため・・・
(わああ!?)
下着もきっちり変わってあった。
枕元には、桶が置いてあった。
「熱っ・・・」
中にはお湯と浸してあったタオル。
空気が乾燥していないのはこのお陰かと理解する。
「ここは・・・夏目家?」
その時、スパーンッと勢いよく襖が開かれた。
「ルーキぃー!!大丈夫大丈夫!?」
と言い、ルキに抱きつく。
見覚えあるサファリジャケットにサファリズボン、りんご色の三つ編みと言えば。
「犬町?」
「大丈夫!?永月から意識がないって聞いて飛んで来たんだよ!!」
大声で捲し立てる犬町。
その声は鼓膜に響き、鼓膜と頭両方がキンキンカンカン音が鳴る。
ルキが耐えきれず両耳を手で抑えるのと同時で、誰かがひょいっと犬町の首根っこを掴みルキからひっぺ剥がす。
「いでででぇ!!何すんのさ!?」
犬町を座らせる銀髪の男。
「仮にも医者である貴方が、体調を気遣わずに飛び込むなんて、医者失格ですね。本、書けそうです」
「それさ、作者は太宰治?」
「人間失格じゃないです。そこまでは言ってないですよ」
ひっぺ剥がしたのは、犬町の相棒の潮内。
丁寧な口調で咎めるも、本気で怒ってはいないようだ。
小さなミニコントを見ているようだ。
「どうしてここにって、私自身ここがどこか分からないんだがな」
困ったように目を伏せるルキ。
犬町は一瞬真顔になって、いつものヘラヘラした笑顔に戻った。
潮内は犬町の表情の変化に気づいてはいたものの、深堀せず流した。
「ここはね、ルキの家の離れ。その離れのルキの部屋」
そう言われて納得する。
必要最低限の家具だけが置かれているのと、もうひとつ奥に部屋があり、そこに通じるドアがあるのがルキの部屋の特徴。
「でね、俺らがいるのは主治医と担当薬剤師だからだよ。ね?カスミ」
「ヒラの言う通りですよ、不本意ながら」
「ムキー!不本意ってなんだよ不本意って!!」
ブンブングルグルと腕を振り回す犬町の額を抑えながら、「はいはい」と潮対応の潮内。
きっといつもこうで慣れているのだろう。
「私はどこが悪いんだ?」
と聞くと犬町はキラリンと瞳を光らせ、患者の情報が書いてある紙、カルテを見て読み上げる。
「診察結果、脈拍良好、臓器及び骨にも損傷異常無し、感染症の確認無し。特に病気って訳じゃない」
「精神的に疲れていたと判断しました。薬は出してませんよ」
とカルテを淡々と読み上げる。
それに安堵したルキは、ハァーと息を吐く。
その様子を見た犬町は、更にニコニコと笑いながら頷く。
「うんうん、元気でよかったよ」
と言い、立ち上がる。
「ヒラ、どこへ?」
「ん?診療所に戻るよ。いくらルキの主治医でも他の患者待たせるのは善くないからね」
服についたほんの少しの埃を払い、襖に手をかける。
潮内は犬町と場所を交換し、犬町は先に廊下に出た。
「そいじゃ、今日は無理しちゃ駄目だからね」
「失礼します、お大事に」
と言い部屋を出ていった。
辺りが急激に静かになった。
「嵐のような人達だよな、本当に」
しかし、ものの20秒足らずで遠くから物凄い足音が聞こえてくる。
戻ってきたのか、と頭を抱えていると・・・

Re: 不器用な私の日常 ( No.9 )
日時: 2019/03/10 18:01
名前: 喜田之

第7話 デジャヴな先代と不思議な従者
2月2日 日曜日 朝

その時、スパーンッと勢いよく襖が開かれた。
「るーっちゃん!!大丈夫大丈夫!?」
と言い、ルキに抱きつく。
(あれ、これなんかデジャヴ)
と思いながらも、抱きついてきた人を確認する。
抱きついてきたのは女性で、カーブのかかった毛先が特徴の金髪ロングヘア。
ルキと同じ紫の瞳は、ぱっちり開いている。
背丈は、この状態でも分かる小さい。160あるかないか。
清潔そうな白いワイシャツの上に、ワインレッドのポレロ。
バラ柄ワインレッドのミモレ丈スカート、という上品な服装は育ちの良さが伺える。
というかこの人はーー
「母う、先代!?」
「そうよ!ながっちゃんから聞いて物理的に飛んで来たんだから!!」
と捲し立て、更に抱きしめられた。
彼女、夏目万葉はルキの母親。
夏目家2代目当主で、今は引退し様々なプロジェクトを成功させるバリバリ現役キャリアウーマンになったのだ。
母親といっても、沢山思い出があるわけじゃない。
会うのは、年に3〜5回位。
仕事が忙しくて、連絡してもほとんど繋がらない。
メールを打って送っても返信が来ず、その二年後位に返信が来るというルーズっぷり。
きっと出たくても、返信したくてもできないとは思うけど。
元々、当主時代の万葉は時間にルーズで、会食や会合にも必ず10分は遅れるというずさんな性格。
だから、素で忘れてるだけかもしれないと考えたこともあった。
しかし、仕事の腕は確かなので辞めさせようとはしない。
とりあえず万葉をひっぺ剥がし、質問する。
「それより先代、どうしてここに・・・!?」
「あら、愛しの息子に会っちゃいけない訳ぇ?・・・まぁ、ずっと仕事に構っていたのは謝るけどさぁ・・・」
ルキから目を背け、しゅんと落ち込んでいる。
それが素か演技か分からず、どう声を掛ければいいか迷っていると。
「あっ、旦那様、元気だ」
と、通りかかった時雨が部屋に入ってきた。
束帯ではなく、白の着物を身に付け金のイヤリングを着けている。
時雨は襖を閉め、ルキの向かいに座った。
「時雨、昨日はありがとう。助かった」
「聞きマシタカ、お母様。旦那様が褒めマシタ!」
と万葉にハツラツとした笑顔を向ける。
そこでルキはハッとなった。
「あっ、先代!こいつはーええと・・・」
慌てるルキを見かねてか、万葉が言葉を遮った。
「話は聞いたわ。あっ、契約書は私が書いておきましたからね」
パチンとウインクする。
今更だがお母様って・・・なんなんだよ。
「じゃあ、この桶とかタオルを用意したのは時雨?」
「あ、違う。それはーー」
時雨が振り返るのと同時で襖が静かに開かれた。
そこにいたのは、ライム色のショートヘアの男の子。
ライム色の瞳はたれ目で、おっとりした子だと分かる。
「子供?」
「ちちちち違いますよ!ボクはちゃんとした大人、成人男性ですよ!ってボク、ご主人様になんて口の聞き方!なんと無礼なあああ」
一人でボケて一人でツッコム様子にみんな吹き出した。
「っくくくく・・・」
とルキはなんとか笑いを堪える。
「フフフフッフフ」
万葉は口元を隠して笑う。
「アッハハハハハ!!」
時雨は、隠しもせずに目尻に涙を溜める。
それを見た男の・・・男は顔を真っ赤にする。
「る〜・・・」
と唸っている。
「っところで、どちら様?」
と聞くと、今度は青い顔をする。
「永月さんから聞いたけど、ホントに忘れてるんですね・・・」
少し顔をうつむかせるが、すぐに微笑みを浮かべる。
「ボクは、岸本湖兎といいます。まだまだ未熟な従者ですが、これからもよろしくお願い致します!!」
勢いよくお辞儀をする。
その姿が、ある人物と重なり合う。
(あれ、長谷川に似てるよな・・・?)
彼、長谷川春兎も初対面の時、こんな風に挨拶をしていたな、と思い出す。
長谷川と岸本はどこか似ている所がある。
「ボク、体が弱くてお屋敷にいない時もあるんですが、よろしくお願い致します!」
困ったように笑う岸本と記憶の中の長谷川が重なり合った。

Re: 不器用な私の日常 ( No.10 )
日時: 2019/03/22 12:24
名前: 喜田之

第8話 一方その頃
2月2日 日曜日 昼

「ちょっと瀬名ぁ!昼から飲んでていいのぉ?」
金髪の長い髪、黒くて凛々しい瞳、ガタイのいい体、この人はいわゆるオネエ。
名前は 中山 岬(なかやま みさき)この飲み屋の店長だ。
同じ界隈に身を置いている為、交流はある。
「もう、久しぶりに来たと思ったらヤケ酒!?店はどうしたのよぉ?」
怒りながらも追い返しはしない所が、人柄がいいと分かる。
店内には瀬名以外に客はいない。
ので大声を出しても平気なのだろう。
「んぅ・・・べっつにぃ、今日は定休日」
瀬名は泣き腫らした顔で答える。
それを見た中山は、気づかれないようにため息をつく。
「瀬名が傷つくなんて相当よね・・・あの時はケロッとしてたのにぃ」
「あの時はあの時。過去は過去。今は今」
へりくつを言う瀬名は中山の目には幼く見えた。
瀬名は、いつもヘラヘラしてて人懐っこく、でも根は正直で命を無下にしない。
無下にしない、いや、できないと言った方が正しいかも知れない。
(正当防衛も知らない子羊、ねぇ・・・)
中山は、意味ありげな視線を瀬名に向ける。
しかし、瀬名は気づかないままジョッキを飲み干す。
「おかわりぃ!」
「ダーメ!これで何杯めなの!?明日のことと、自分のことを考えなさいよぉ!」
「・・・飲まないーとやってれれないんだよ」
ふいっと体ごと背ける瀬名。
中山は、少々呆れながらも普通のグラスから小さいグラスに変え、注ぐ。
コポコポと言う音に瀬名が反応する。
「あっ、やっさしぇ〜何のおしゃけ?」
「酔っぱらいは静かにね。アタシ特製の梅酒、アルコールが少ないわよん!」
瀬名はちびちびと飲み始める。
が、二、三口で動きが止まった。
「どうしたのん?」
「匂いが・・・」
中山は、くんくんと匂いを嗅ぐ。
そして小さく首を傾ける。
「特に匂いはしないわよ?アンタ梅苦手だっけぇ?」
「・・・ルキしゃの匂いがする」
うっとりとした顔でグラスを見つめる視線は、どこか儚げだった。
「・・・そのルキさんって誰なの?」
すぐに返事はされず、いつの間にか沈黙が訪れた。
どれぐらい時間が経ったのだろう。
最初に沈黙を破ったのは、瀬名だ。
「蜃気楼ですよ。俺にとっての」
「はぁ?何言って−−」
その時、ガチャンとドアが開く音がした。
「あー!いたー!」
と大声を出すのは、長谷川。
「少し静かにしましょうね・・・って瀬名さん」
長谷川をなだめる加藤。
「ここってどこですー?」
といつものマイペースな青人。
ずんずん歩いて瀬名の襟首を掴む木香。
「っス中山さん。ちょっと借りますんで・・・お代は」
「別にいいわよん!墨矢クンに免じて特別にツケといてあげるわぁ!」
中山は木香を瀬名から引き離し、頬擦りをする。
木香は複雑そうな顔で受けている。

「んじゃ、色々あざーす」
「いいのいいのよん、コイツのお守りは任せたわよん!」
五人と中山は一度外に出た。
長谷川と加藤と青人は、瀬名を連れて先に おうさま に帰り、木香は中山にお礼を言い、その場を後にしようとする。
「あっ、ねぇ聞きたいことがあるの」
が、中山に呼び止められ振り返る。
「なんスか?」
「その、瀬名が言ってるルキさんって誰なの?」
木香は少し目を見開き、戸惑う。
しかし、すぐに表情を繕う。
「1月の始め位に、店の前で倒れてて居候になった人っス。だけど、最近行方不明らしくて」
「行方不明?なんて物騒なのよ」
「俺は 家に帰ったんじゃないスか? って言っても店を開く前とか閉めたあととか、ずっと探し回ってて・・・」
ここまで話すと木香は咄嗟に口元を押さえる。
「この話は他言無用って言われてたんス。どうか内密にお願いします」
「わかったわ!男に二言はないわよ!」
と言い、ドーンっと胸を叩いた。
木香はホッとした顔で頷き、中山に一礼をしてから帰って行った。

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