BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

浪漫なんぞ無くても良い
日時: 2019/06/09 13:17
名前: 千葉サトエ

 こつん。
 窓に何かがぶつかる音がした。
 ベッドから体を起こし、窓を開けて外を見るが、誰もいない。
「おい、こっちだ。下だよ、下」
 声に従って窓の桟の下を覗くとうずくまる様にした人影がひとつあった。
 「勇次郎。何してるんですか、そんな所で」
 そう声を掛けると、人影はもぞもぞと動いて立ち上がった。
 学生帽に学生服。
 少し汚れた黒髪を手で払う顔立ちはまだ幼い。
「何って、あんたに会いに来たんだ。相変わらず、別嬪だよなぁ」
 そう口にするのは何時もの事で、勇次郎は週に二、三回必ずこの屋敷を訪れる。
 どうやら私に惚れている様なのだが、私はこの子と付き合えない。
 まず、体が弱すぎる。その次に、私はー
「今日はな、綺麗な石を見つけたんだ。ほら、綺麗だろ。あんたが何時も手首に巻いてる飾り紐と同じ色だ。」
 そう言いながら綺麗な淡い緑の石を手渡してくる。
「まぁ、確かに綺麗ですね。でも、私はこんな物で貴方になびいたりしませんよ。貴方も懲りませんねぇ。毎回言ってるじゃないですか」
 もっと価値が無くちゃ、と言うと勇次郎は笑いながら「まだ学生なんだ、仕方ないだろ。それに何時か価値のあるもん持ってくるからな」と言ってくる。
 勇次郎の言葉に調子を狂わされていると、不意に勇次郎が懐から時計を取り出して慌てた。
「まずい、学校に行かねぇと」
 じゃあな、と言って彼は鞄を掴むと走っていってしまった。

 彼がくれた石ころを机の上の箱に仕舞っていると、ドアがとんとんと叩かれた。
 たぶん兄だろう
「清志、入るよ」
 兄はそう言うとドアを開けて入ってきた。
 短髪で細身の兄は、常に優しげな微笑みを湛えている。
 だが、机に乗った箱を見た途端笑みが消えた。
「清志、これは何だい?こんながらくたは捨てなさい。体に障るだろう」
 そう言うやいなや箱を掴んで塵箱に棄てようとした。
「待って、待って兄さん。捨てないでください。必ず、後で自分で捨てますから」
 そう頼むと兄はきつい視線を向けた後「そうかい。きっとだよ。約束を破るんじゃないよ」と優しく声を掛けてきた。
 「ああ、そうだ。健診の時間だから先生がいらしたよ。ちゃんと診てもらいなさい」
 そう言うと兄は部屋を後にした。
 その兄と入れ替わりで医師が入ってきた。
 中年の小肥りな医師で、幼少の頃から世話になっている。
 「うん、うん。ああ、これはもうオペラチオンしかないね。悪いところを切りはなそうね」
 と、左上半身にある痣を見ながら言ってきた。歳を重ねるに連れて大きくなった痣。
 それを、切りはなす?オペラチオン?
 「そんな、嫌です。皮膚を切り取るということでしょう。嫌です、そんなの。他の方法は無いのですか」
 医師は少し考える素振りを見せた後に、無いねぇ、と返してきた。

 健診が終わり、医師が出ていった。
 廊下で兄と話しているのが切れ切れだが聞こえる。
 オペ、早めに、後遺症、日時
 そんな単語が聞こえてきた
 ベッドの中で会話に耳を傾けているとドアがいきなり開いた。
「兄様、大丈夫?」
 妹だった。可愛らしいワンピースに身を包んでいる。
「ええ、兄様は平気ですよ。しのも心配しなくていいですからね」
 そう笑い掛けると、妹は笑顔になった。
「兄様、オペラチオンをすればすぐに良くなるって。廊下で哲志兄様と医師が言ってたよ」
 よかったねぇ、と笑いかける顔は暖かい気持ちにさせてくれる。
「そうですね。早く良くなって、しのと遊びたいです」
 そう言うと嬉しそうに妹は部屋から出ていった。

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Re: 浪漫なんぞ無くても良い ( No.1 )
日時: 2019/06/15 14:38
名前: 千葉サトエ

 オペラチオンの日程が決まった。
 再来週に行われるのだが、入院のために明日には病院へ行かなければいけない。

 そしたら、当分此方には戻ってこられない。居ないうちに、あの子は、あの学生は自分ではなく、本当の女の子に惚れてしまうかも知れない。
 それは嫌だった。
 何故かはわからない、別に勇次郎が誰に惚れようが関係は無いのに、何故か嫌な気持ちになるのだ。
 ならば最後に勇次郎と過ごした思い出を作ろう、と思った。
 箪笥を開けて袴とモスリンの着物を取り出して身に付ける。
 髪には神様が宿る、と言われて伸ばし続けていた長い髪には櫛を通し、リボンを飾る。
 用意を終えて待っていると、何時ものように窓がこつん、と鳴った。
 来た、と思った。
 窓をそうっと開けると勇次郎がいつもの学生服で立っていた。
 そして、呆然としていた。
 やはり似合わないだろうか、と思い
「少女趣味過ぎましたかね」
 と訊くと、勇次郎は首を大きく横に振った。
 「そんなことねぇよ、あんまりにもあんたが綺麗だから驚いちまって」
 と言うと照れ臭そうに笑った。
「あの、勇次郎。この後何か用事はありますか?」
「ん?この後は何もねぇけど。どうしてだ?」
「あの……………それなら、少し出掛けませんか?」
 そう声を掛けると勇次郎は先程よりも驚いた様で、切れ長の瞳が真ん丸に見開かれていた。
「嫌………ですか?」
 そう訊ねる声は小さく弱くなっていた。
「そんな訳ねぇだろ!」
 すると、勇次郎が大声をあげた。
「嫌じゃ……ねぇよ。だけど、あんた何時も屋敷で寝てるじゃんかよ。何処か病気してるんだろ?外に出て良いのかよ!そりゃ、俺だってあんたと出掛けたいさ…………だけど」
 あんたが具合悪くなっちまったら嫌なんだよ、と言うと少年は目を伏せた。
 長い睫が細かく震えている。
 それを見て、何か暖かい思いが込み上げてきた。こんな風に、心から心配されたのは久し振りかもしれない。
「有り難う、勇次郎。だけど大丈夫ですよ。それよりも、実は明日大学病院に行くんです。そうしたら暫く此処に戻れない」
 だから思い出作りをしたいんです 、と言うと伏せられていた目がゆっくりと上がった。
「思い出………作り?」
「はい、思い出作り。私、あまり外に出たことが無いんです。街をゆっくりと歩いた事さえない。だから、貴方に案内してもらいたいんです」
 そう笑いかけると、勇次郎は暫く迷うと意を決した様に頷いた。
「いいよ。あんたに俺が、街の面白い物沢山見せてやるよ!」

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