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- サイダーと君と。(百合)
- 日時: 2025/05/30 16:46
- 名前: ゆーとぴあ。 (ID: y4uzOL0F)
「本当に、君はサイダーみたいだね。」
違う。私なんかより。
____________君のほうが、ずっとずっと、サイダーが似合ってるよ。
「塁、お疲れ様」
後ろから響いてきた声に、私はあわてて振り返る。
女子にしては低くて落ち着いた声。そして…目を奪われそうなほどに、きれいな黒髪。
「…冷夏。」
憎らしいほどに夏が似合う彼女は、今日も制服を身にまとって、立っていた。
一緒に帰ろう、その一言がなくても。
何も言わなくても、彼女と私は歩き出す。
「今日も部活?大変だね。大会近いんだっけ。」
「そうなんだよね。出れるかもわからないのに。」
大して得意でもないバスケを、ずっと続けているのには訳がある。
「でも、きっといつか出れるよ。塁なら。」
冷夏の言う”いつか”が来るまで、私はあきらめられない。
「ふふ、そうだといいな。」
これは希望なのか、それとも呪いなのか。私の世界は冷夏中心に回っている。
「私もバスケとかできたらなー」
「無理でしょ、冷夏は。」
「言ったなー、塁、ひどいぞー。」
そう言ってけらけらと笑う彼女を私はじっと見つめる。
細い腕に白い肌。風が吹いたら消えてしまいそうに儚い。
「塁?おーい。」
彼女の言葉にはっと我にかえる。
「ごめん、ぼーっとしてて。」
「もう、塁ったら。まあ、そういうところもかわいいけどね。
……あ。」
急に彼女が立ち止まる。その視線の先には、自動販売機があった。
「塁、ジュース、買お」
そう言って嬉しそうに自動販売機に近寄る冷夏。
迷わずサイダーのボタンを押していた。
「またサイダー、買うんだ」
「うん、塁は?」
ゆっくりと自動販売機に近づき、冷夏と同じサイダーを買う。
「めずらしいね、塁もサイダーなんて。」
「…今日はそういう気分だからさ」
私たちは示し合わせたかのようにまったく同じタイミングでサイダーを開ける。
”プシュッ!”
軽快な音があたりに響く。
嗚呼、この音だ。
私が夏を一番感じる瞬間。
「…塁は、本当にサイダーが似合うね。」
冷夏の視線が私のほうを向いていた。
「そう、かな。」
私なんかよりも、ずっと。
冷夏がサイダーを口にする姿はきれいだった。
まるで映画の中に入ったような。
このまま彼女だけが夏に取り残されてしまうのではないか、
そんな不安さえ感じられてしまうほど。
彼女と夏の相性は、とてもよかった。
私はこの瞬間が、好きだった。
「美味しいね。塁」
「…そうだね。すごく、美味しい。」
甘くて、しゅわしゅわとしたサイダーは、
きれいで、きらきらと輝いていて。
私の恋も、輝けばいいのに。
そう願うのは…我儘だろうか。
「私、塁と飲むサイダーが一番好きだな」
そう言ってほほ笑む彼女は、どんな男性を好きになるのだろうか。
「だって、塁と私は”親友”だからね。」
「そうだね。私と冷夏は親友。大事な友達。」
分かっていた。彼女と私の『好き』が違うことも。
私の恋が、サイダーのように輝くことはないことも。
だから、私の気持ちは、サイダーとともに流し込んでしまおう。
そう、思っていたのに。
もう少しだけ、あともう少しだけ、この気持ちを大事にしてみたい。
そんな心が、私の決意を邪魔してくる。
「…塁?どうしたの」
心配そうな顔をした冷夏が、前に立っていた。
「…ごめん。」
しょっぱくて、輝きとは程遠い液体が、目からとめどなく溢れる。
口の中でサイダーと混ざって、何とも言えない味を生み出していた。
分かっている。私は涙、冷夏はサイダー。
この二人が混ざりあうことは許されないのだ。
こんな不味い味になるくらいなら、私は。
…親友のままでいい。
涙が止まらなくても、笑顔を作る。
冷夏をまっすぐ見る。
「________ずっと、親友でいようね、冷夏。」
- Re: サイダーと君と。(百合) ( No.1 )
- 日時: 2025/05/30 21:49
- 名前: ゆーとぴあ。 (ID: y4uzOL0F)
2.サイダーを飲む君は。(冷夏視点)
塁と二人で、サイダーを飲んだ。
驚いた。まさか彼女がサイダーを選ぶなんて。
____________期待して、いいんだろうか。
私は単純な女であった。
しばらく飲んでいると、彼女が泣き出した。
「________ずっと、親友でいようね、冷夏。」
その言葉に、私は胸を刺された感覚がした。
彼女の意中の相手は、私ではない。
それに気づいた途端、彼女の顔が見られなくなった。
うつむいて手に握ったサイダーを見る。
泡がしゅわしゅわと爽やかな音を立てている。
泡が消えていく様子は。
まるで私の恋を暗示しているみたいだ。
…そのさわやかな音から、どうしても目を離せなかった。
いつの間にか塁は泣き止んでいた。
涙の理由は話さなかったし、私も聞かなかった。
「これ、本当においしいよね」
さっきの涙とは打って変わって、
サイダーのように輝く塁の目がこちらに向けられる。
私はいつからこんなに彼女を好きになったんだろう。
「うん、すごくおいしい。」
そう言いながら、彼女の顔をちらりと見る。
彼女の笑顔はきれいだった。
私にとって、彼女はサイダーそのものだった。
甘すぎるけれど、飲みすぎると少しだけ苦くて、終わったあとの余韻が心に残る。
その余韻が、私の胸を痛くさせる。
「ねえ、夏休みの花火大会、どうしようか?」
彼女の顔は、夏への期待で、きらめいていた。
相変わらずサイダーをぎゅっとつかむ手は、
何故だか、震えている気がした。
「うーん、どうしようかな。」
心の奥ではわかっていた。
きっと誘おうとしてくれていることが。
嗚呼、どこですれ違ったんだろう。
彼女は私を親友として大事にしているのに。私は不純だ。
「一緒に行く?」
塁の声はひどく落ち着いていた。
それが、どうしようもなく私を苦しめた。
「うん、行こう。」
サイダーを口にする。
その味は、やっぱり甘くて、少しだけ苦い。
しゅわしゅわと心の中で泡立つ感情が、すぐに消えていくのを感じながら、私は空を見上げた。
嗚呼、やっぱり、夏が好きだ。
そして…彼女が好きだ。
「ねえ、冷夏、また今度、一緒に飲もうね。」
彼女の言葉を何度も反芻する。
私を親友だと思ってくれているうちは、
その笑顔を壊さないように。
彼女の日に焼けた肌、口角の上がった口から覗いている八重歯を見る。
本当に、君は夏が、…サイダーが似合うね。
そう心でつぶやきながら、笑顔で頷く。
「うん。」
____________心に秘めた、醜い感情は隠して。
- Re: サイダーと君と。(百合) ( No.2 )
- 日時: 2025/05/30 22:29
- 名前: ゆーとぴあ。 (ID: y4uzOL0F)
3.コーヒーの香りと君と。
夕暮れの中、冷夏といつものように並んで歩いていた。
空はオレンジ色に染まり、風がひんやりと肌を撫でる。
二人の足音が静かに響く中、冷夏が口を開く。
「塁、今日はコーヒーでも飲みに行こうか?」
冷夏がコーヒーを提案するなんて、珍しい。
いつもはサイダーなのに。
…彼女の変化を、少し寂しく思う。
「うん、いいね。」
冷夏との時間は、いつだって心地よい。
心の底の気持ちをかき消して、静かにうなずく。
冷夏に案内され、カフェに入る。
落ち着いた雰囲気の店内は、なぜか冷夏にあっていた。
静かに席に座り、メニューを見ながら言った。
「私、ブラックのコーヒーにしようかな。」
冷夏がブラックを選ぶなんて。
甘いものを好む冷夏が、今日はどうしてこんな選択をしたのだろう。
「冷夏、ブラックにするんだね。」
「たまには、ね。こういう時に、自分を見つめ直すのがいいんだ。」
彼女のおどけたような笑みに、チクリと胸が痛んだ。
どこか深い意味が込められているような気がした。
その意味は分からなくても、
…なんだか、悪い予感がした。
コーヒーが運ばれてきて、口にする。
砂糖とミルクが入ったコーヒー。
甘くて、柔らかな味わいが口の中に広がる。
「塁は、いつも甘いものが好きだね。」
冷夏のつぶやきに、私は少しだけ顔を上げる。
「うん、甘いものがないと、どうしても物足りなくて。」
冷夏のせいだった。彼女を思ってサイダーを口にしていると、
甘いものが好きになっていた。
冷夏は静かにその言葉を受け止め、コーヒーのカップを見つめた。
黒い液体の中に、ゆっくりと小さな泡が浮かんでいる。
「塁、どうしてそんなに優しいんだろうね。」
驚いた。優しい?自分がそんな風に見られているなんて、思いもしなかった。
冷夏が求める「優しさ」が、私に足りているのかどうかもわからなかった。
「私は…ただ、冷夏と一緒にいるだけで、落ち着くから。」
冷夏は少し目を見開いた。
彼女は何かを感じ取ったような顔をして、再びコーヒーに口をつけた。
「そうなんだ。」
冷夏の静かな返事が、私を戸惑わせた。
何かが彼女の中で少しだけ動いた気がした。冷夏の心に響いたのだろうか。
外の世界はすっかり暗くなり、店内の明かりがますます暖かく感じられる。
このまま時間が止まればいいのに。
そんなこと、フィクションの世界でしかありえない。
現実は、甘くない。このコーヒーのように。
「塁。」
「うん?」
冷夏は少しだけ躊躇った後、ぽつりと言った。
「私は…塁の優しさが、少し苦く感じる時があるんだ。」
その言葉がすぐには理解できなかった。冷
夏の中で、何かが変わろうとしているのだろうか。
もしくは、
___________ずっと前から思っていたのか。
「でも、塁の優しさがなかったら、私はきっとここまで来れなかった。」
胸の奥で何かが温かさが広がった。
しかし同時に、ほろ苦さも感じた。
まるでコーヒーを飲むように、その言葉を反芻した。
私は彼女の一部であり、すべてではないことに、気づいていた。
しばらくして、冷夏がコーヒーを飲み終えた。
私はあわてて自分のコーヒーを飲み干す。
苦味の中に甘さが潜んでいて、それがまるで二人の関係のようだった。
「ねえ、塁。」
彼女の言葉に、コーヒーを飲む手を止め、顔を上げる。
「私達、いつまで一緒なんだろうね。」
…私は、永遠に一緒にいたいよ。
その言葉は、口から出なかった。代わりに出た言葉は。
「冷夏が望む時まで、かな。」
自分の本音を伝えるには、まだ苦すぎた。
もし伝える時が来たら、その時は。
____________また、コーヒーが飲めたらいいな。
- Re: サイダーと君と。(百合) ( No.3 )
- 日時: 2025/05/31 17:47
- 名前: ゆーとぴあ。 (ID: y4uzOL0F)
4.その苦さは、優しさか。(冷夏視点)
「塁は、いつも甘いものが好きだね。」
昔は違ったはずなのに。
いつから塁は変わってしまったのか。
「うん、甘いものがないと、どうしても物足りなくて。」
ブラックコーヒーを一口飲む。
…苦い。正直好きではない。
でも、これを飲まなければいけない気がした。
大人にならなければいけない気がした。
飲み干さないと、塁との距離は永遠に縮まらない気がした。
「塁、どうしてそんなに優しいんだろうね。」
無意識に口から出てしまっていた。
あわてて口を閉じたが、
塁の顔には驚きの表情が浮かんでいた。
「私は…ただ、冷夏と一緒にいるだけで、落ち着くから。」
どう答えればいいのか、分からなかった。
彼女の中で、私の言葉がどう消化されたのか、読み取れない。
「そうなんだ。」
そっけない返事が出てしまった。
黙って二人でコーヒーを飲み続ける。
いつの間にか窓の外は暗くなっていた。
このまま時間が止まればいいと思った。
でも、そんなのかなわない。
きっと優しい塁は、何度だって一緒に来てくれるだろう。
でも、その優しさがつらかった。
期待してみても、結局は苦い結末。
このコーヒーみたいに、私の恋は真っ暗だ。
「私は…塁の優しさが、少し苦く感じる時があるんだ。」
つい言ってしまった。
塁は怒るだろうか、傷つくだろうか。
恐る恐る彼女の顔を見る。
しかし、どちらでもなかった。
まるで私の言葉をゆっくりかみしめているかのような、
落ち着いた表情を浮かべていた。
「でも、塁の優しさがなかったら、私はきっとここまで来れなかった。」
フォローするために言ったつもりだった。
でも、彼女はなんだか苦しそうな顔をしていた。
苦い苦いコーヒーを一気に飲み干したような顔。
私はその顔を見ながら、コーヒーを飲み干した。
あと何回、彼女とこうしてコーヒーを飲めるだろうか。
塁がブラックを飲めるようになるのは、私が隣にいる時がいい。
我儘かもしれないけれど、塁は笑ってこういうだろう。
「私も、冷夏と一緒にブラックを飲みたい。」と。
「ねえ、塁。」
私の言葉に、塁がこちらを向く。
躊躇いながらも、その言葉を口にする。
「私達、いつまで一緒なんだろうね。」
ずっと一緒にいたい、と願うのは我儘だろうか。
塁が「ずっと」と言ってくれるだけで、
その一言を述べてくれるだけで、どれだけ救われるか。
「冷夏が望む時まで、かな。」
彼女の心がわからなかった。
それでも私は、この言葉を前向きにとらえてしまう。
「それじゃあ…」
永遠を、望んでしまう。
隣にいさせて。笑顔を見せて。
せめて、
「塁がブラックを飲めるようになるまでは、一緒かな」
____________貴方が、大人になるまでは。
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