複雑・ファジー小説

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吉原異聞伝綺談 *参照1000突破感謝!
日時: 2011/09/19 17:28
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/

はじめましてorおはこんばんちは。
朔(モト)と申します。シリダクの方でも【Veronica】ってのを書かせて頂いている者でございます。

完結してから書くのが一番良いと思うのですが、なんせ終わるまでの道のりを考えてみたら一年以上かかるんじゃね!!?と思ったので、構想が消えうせる前に書こう!ということで、書きます(断定)

多分此方の方が早く終わるんじゃないのかなあ(
刀語(知ってる人いますかね)みたいな感じで、全十二話!なものです。今 の と こ ろ は(←ここ重要だよ。テストに出ます)


さてさて、まずは注意事項から。

※1 / 荒らしとか誹謗中傷はダメデスヨ。止めてください。
※2 / 掛け持ちの為、更新が亀よりも遅いです。ゴキブリ並の更新速度は無理です(ゴキブリって速いんだよ!)
※3 / 誤字脱字・文章オカシイ。Not 神文。アド・ツッコミ大歓迎。どぉーんとこーい!!(Ue田教授)
※4 / 宣伝は良いですけど、見に行くのが遅いです。
※5 / 最初はシリダクに書く予定だった半端者です。色々注意してくださいな。
※6 / 完結まで突っ走っていけるか不安です。途中で止めたりするのは覚悟の上でお願いします。

と、まあこんな所かな。



題名が漢字ばっかりで訳わかんねーよ!と言う方が殆どだと思うので、補足。(参照・広辞苑)
【吉原】江戸の遊郭。地名。
【異聞】常と変った風聞、珍しい話。
【伝】伝える事。言い伝え、語り伝える物語。
【綺談】面白く仕組まれた話。

っちゅー事です。あ、でもそんなに期待しないでね。本当期待して損な事って多いから!(何

じゃあ、取り敢えず・・・・・・始めようか。

※掲示板の(十二歳以上)に甘えます。表現に注意。
読むときに注意すべき点↓
ο主役級の奴が恐ろしいほど変態。キャラクターがサディスト(根はまともだと信じたい)
ο戦闘シーンの迫力があんまりないと思うけど多分グロイと思われる。
οエロ・グロ・ナンセンス。

○人物録 >>4

○話
序 - >>1
一月目、卯月 - >>100【了】
二月目、皐月 - >>101【了】    
三月目、水無月 - >>103【了】
四月目、文月 - >>100
五月目、葉月 - 
六月目、長月 - 
七月目、神無月 - 
八月目、霜月 - 
九月目、師走 - 
十月目、睦月 - 
十一月目、如月 - 
十二月目、弥生 -

呟き>>18
初期設定あったから晒してみる>>79

漸く折り返し地点到達の予感。
アンケとか取ろうかなあと思ってたり。

Re: 吉原異聞伝綺談 *[皐月]終了、水無月開始 ( No.99 )
日時: 2011/09/11 18:33
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: 糸色 イ本 糸色 命




 此処最近、妙な気まずさが漂流している。琳邑も、チェンもまともに嗣と会話をして居なかった。彼は何処かをぼんやりと眺めたまま、静止しているのだ。そんな嗣は誰も近づけない雰囲気を纏っている。宿に居ても、道を歩いていても、戦闘中でも変わらない。

 彼は、あの妖魔と接触してから変なのだ。

「ねえ、嗣。"なだ"って誰?」


気まずい空気を突き破るように、透明な声がピンと伸びた。嗣を貫く。彼は、顔をひきつらせて振り向いた。眉間には深い皺が刻まれている。
「ああ?」
怪訝な低音が、琳邑を気圧した。が、少女は引くこと無く、凛と立っている。軈て、怖じ気つくすらも払いきっていた。
「だって、変だから。嗣、"なだ"って聞いてから変です。誰、"なだ"って」

————あー……。

一番訊きづらい、しかし一番の疑問をとして君臨している質問にチェンは頭痛がした。琳邑は素直に訊ねた。が、それは先程言った通り、一番訊きたくても訊けない質問なのだ。————彼のプライバシーに関わる。そしてそのプライバシーに触れても良い程、溶け合ってはいない。
「何でもねぇよ」
嗣はふい、と逸らした。が、彼の腕を細い手が掴む。
「違う」いつもより少しだけ声を張り上げた。「嘘吐いてる、何かある」
琳邑の紫紺が潤んだ。それでも嗣はそっぽを向いたままだ。
「無えって!!」
嗣は罵り声を上げ、琳邑を振り切った。少女が地べたに這いつく。堪らなくなったチェンが怒鳴った。
「何キレてんだよ!」
「餓鬼にはわかんねえんだよ」
二人して唾を飛ばしながら怒鳴りあう。一歩も引かず、二人はギリギリと睨み合った。琳邑は何をして良いか分からず、呆然と見つめている。場は遊郭の立ち並ぶ大通り、多くの人目が集まっていた。

 その中で一声が響く。
「"なだ"だって?」
その音を耳にした嗣がピクリと動いた。直ぐ様に口論から離れ、彼は声を発した初老の男に詰め寄った。グラサン越しの黒目が逃げられない光を放っている。
「オッサン、何か知ってんのか!?」
「ああ、まあ……ちょいと前に抜けた遊女らしいのが先に居て——。確か名前が"なだ"だったなあと」
男は僅かに残っている薄い頭髪をかきむしりながら目線を横にやった。嗣は直ぐにそこへ躰を向ける。チェンが声を飛ばした。
「おいっっっ!」
嗣は無視だ。二人になど気を配らずに、彼は走り出した。
「嗣っ!嗣 !! 」
琳邑も叫び、彼を呼んだ。しかし、やはり嗣は応えない。そのまま走り、姿を消した。


 二人だけが残る。白髪の男の姿はもう無い。琳邑はその場にペタリと座り込んだ。チェンも緑の双眸にぼんやりと虚空を映して立っている。


 子供二人には理解できなかった。
 彼の行動も、何もかも。
 これからも、何もかも————。





「やっぱ、嗣変だったよ」
「まだ言ってんの?もう忘れろよ、あんな奴」
「でも……」
紫紺の水晶を沈ませ、琳邑は顔を膝に埋めた。隣に座るチェンが立ち上がる。
「これで、討幕派も敵に回ったし…………俺らに居場所は無くなったな」
臀部に付いた砂埃を払う。今後など一切考えていなかった。琳邑を連れ、妖魔をどの程度祓えるか——幕府から、討幕勢から逃げれるか————考えると肩が重くなった。


 だが、敵は二人に考える暇など与えてくれなかった。

 地面から青黒い皮膚が生える。角を生やした妖魔が涎を撒き散らせながら琳邑に覆い被さってきた。彼女の躰が発光し、妖魔を溶かす。チェンはブーツでその痕を踏みつけた。
 団子を口に頬張ったまま、琳邑の折れそうなくらい繊細な手を引く。
「行こう」
少年の言葉に少女は顎を小さく引いた。走った軌跡から次々に醜態を晒した妖魔が現れる。空いている右手に持ったナイフを的確に投げ、斬りつける。まず最初に目を潰していた。琳邑も理を使って破壊したり、再生を阻止する。だが、消耗が激しい。かれこれもう、一週間程休み無しに戦っているのだ。


 琳邑が荒い呼吸を散らす。背中に現れている光の羽が消えかかっていた。————力を使いすぎたため、限界に達してきているのだ。これ以上は無理だと察したチェンは琳邑を抱え、薄暗い路地に転がり込んだ。同時に腰に巻いていた布を遠くに放り投げる。視力を失った化物は迷わず嗅覚が捉えた方へと向かっていった。知能の低さに有り難みを感じ、チェンは身を潜める。気付くと琳邑は寝息を立てていた。理の操作による消耗は、睡眠を要するのだ。汗を滲ませ、苦しそうな寝顔の少女の額をそっと撫でる。こうしてみると、やはり彼女は人間にしか見えなかった。


————岩倉峰一も彼女を人として見ていたのかな。


対妖魔用人形兵器開発計画——通称、殲浄計画——の中心的人物だった岩倉は人一倍に琳邑に愛情を注いでいるように見えた。まるで父娘のように。
 やはり琳邑にはただ兵器としてだけは生きて欲しくは無い気がする。敵うならば、彼女の力を自分が全て受けとりたい。でも無理だ。だから、妖魔が居なくなったら、仙翁を倒したら、普通の少女としての生活を送らせてやりたい。不思議とチェンもそう感じられるようになっていた。


 周囲を見回し、人気がないのを確認する。安全だと思えたので、そっと琳邑を降ろし、壁に背中をつけて置いてやった。再度額を撫でて、今度は優しい囁きを渡した。
「ちょっと待ってて。俺、周囲見てくるから」
眠り姫は起きて返事はしなかった。だが、代わりにか、彼女は寝顔を少しだけ安らかにさせていた。チェンは安心し、彼女からそっと離れた。近くだけ確認できれば戻ってくる。

 路地からひょこりと頭を出した。警戒しながら、次に全身を現す。懐に入れてあった拳銃に手を伸ばし、安全装置を外した。両手で押さえながら、ゆっくりと足を踏み出す。人気の少なくなった通りを一望。よし、妖魔は去ったなと確信し、琳邑を連れ戻しに後ろを向いた瞬間だった。


 額に冷たい砲の感触————。

「Don't move(動くな)!」
中性的なテノールが、滑らかな英語で罵った。眼前で銃を向けるのは紅毛碧眼の青年。まだ二十歳を越えていないように見える、若い男だ。西洋に向いた顔立ちは彼が日本人で無いことを示している。
「And...You Listen to me(言うことを聞け)」
「————Ok,I see(ああ、分かった)」
チェンはこくりと頷いた。動くなと言われていたのだが、つい動いてしまったのに気づく。しかし、相手は優しいのか撃ちはしなかった。

 青年に言われるがまま、チェンは通りに出た。先に、長髪の男に抱えられている琳邑が見えた。理性が飛びそうになるが、抑える。
「入江殿、なんとか捕まえれましたね」
青年は片言な日本語で男に言った。長髪の男は微笑みながら頷く。目は閉じたままだ。
「[RIN-YOU]をこの手に押さえられましたからね。これで幕府に対抗できるでしょう」

————やっぱり、か!

 幕府に対抗できると言った。
 こいつらは、討幕派に間違いない。そして琳邑を利用するんだ————。感情が理性の錠を壊した。感情が溢れだし、少年を突き動かした。

 押さえていた両腕を振り払い、青年を押し倒す。
「キャッ!」
青年が驚きの声を上げた彼の腹部に肘を打ち付ける。しかし、チェンにばかり攻撃はさせない。青年が発砲する。鉛玉がチェンの右肩を傷付けた。

 しかし、少年の勢いは止まらない。チェンは青年を振り払って前へ突き進む。長髪の男目掛けて走った。
「時雨さん」
男の優しく芯の通った声色に、表情を歪ませた青年が返事した。
「は、ハィ!」
「彼女を頼みますよ」
そう言って背負いあげていた琳邑を投げる。時雨と呼ばれた青年は両腕で受け止めた。手ぶらになった男は刀を抜く。


————目を開く様子はない。
————この男、盲目だな!

長髪の男の目は全く開かれない。感情に身を任せながらも、チェンは感じ取っていた。先程から彼は男が聴覚を頼りにしていると見えた。

 だが、それに対する方法など考えてはいなかった。
 ただ猪突猛進。手にしていた銃の引き金を引いた。発射された弾丸が男に向かう。

 その一瞬がチェンにはスローモーションに見えた。枯草の長髪を靡かせながら、男は刀を振った。空中で横に斬られた弾丸が一瞬で速度を失い、地面に堕ちた。
「なあっ」
驚愕したが、余裕の無さを見せないためにチェンはナイフを手にし、斬りつけに走る。しかし、男は子供を相手にするように遊び半分で受け流していた。
「まるで、嗣のようですねえ」
男はにこにこと笑う。和服の袖と長髪をひらひらとさせながら、舞い、避ける。
「同じにすんな!!」
怒鳴ったと同時に腹部に衝撃が走った。次に頭部に痛み。脳震盪を起こした。チェンの視界が何重にも重なり、歪む。よろめいた躰が吹き飛ばされた。

 壁に激突し、ずるずると落ちる。長髪の男がその前に立った。チェンは僅かに残る意識で彼を見上げる。端麗な顔が、歪んだ笑みを生んでいるように見えた。哄笑を浮かべた唇が言葉を紡ぐ。
「幕府の狗には消えて貰わなくては、ですね————」
彼は凛と光る刃をチェンに突き付ける。

————こんなときに、何で嗣が居ないんだよ!

今までは邪魔に感じていた存在が、今は不思議なくらい必要としていた。彼の力が欠けるだけで、琳邑を守ることさえ出来ない。爪が食い込むまで、手を強く握り締めた。血が滲む。
「何で、何で何で何で」
少年が自分の無力感に慟哭する。叫びが轟いた。男はうんざりした顔を作った。
「何であの馬鹿、こんなときに居ないんだよぉッッ!! 」
叫んだ少年の腹部に何かが撃ち込まれた。朧になった意識を先に集中させると、紅毛碧眼の青年が拳銃をチェンに向けて整然と立っているのが見えた。銀の砲からは白煙が宙を畝って、出ている。銃弾が当たった腹部からは少し遅れてから出血が始まった。穿たれた孔から蘇芳の液体が溢れ出る。激痛と同時進行で意識が遠退いて行く————。


「…………チェン?」

青年の腕の中で、微睡みに浸る少女の虚ろな紫水晶が、倒れた少年を見据えていた。





【水無月、了】

Re: 吉原異聞伝綺談 *水無月了 ( No.100 )
日時: 2011/09/19 17:17
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: 「彳丁」は高校生クイズより学びました。




 ————あれ……?

 目を醒ました途端、視界に入ってきたのは見覚えの無い天井。そして井草の香り。
 そしていつの間にか、中華服から桜色の浴衣になっているのに気付く。琳邑は布団を矧いで、起き上がった。四畳一間の質素な和室の中央に立つ。きょろきょろと見回し、陽の光が射し込む障子を見つけ、何と無く向かった。両手でゆっくりと開き、顔を出す。朝の匂いが鼻をついた。朝露が光を反射させ、きらきらと輝いているのが綺麗だ。少女は裸足のまま、縁側を降りた。枯山水に足跡を付けながら、ぺたぺたと散策を開始する。

広い庭には、いくつもの鉢が置いてあった。自分のいた部屋から相当遠ざかった場所で琳邑はふと足を止め、その場でしゃがんだ。前に見えた鉢に惹かれた。鉢にあるのは、蔓と喇叭らっぱ形の紫の大きな花だ。手で触れてみる。朝露が、掌に付いた。
「なんて花だろう……」琳邑には見覚えの無い花だった。しかし、彼女の知っている花の名は一つしかない。その一つを、呟きに出した。
「————仙翁?」
だが、名前しか知らない。花の形も、匂いも知らないのだ。


「違う、朝顔だ」


ははは、と言う女声の笑い声と同時に引き戸が開く音がした。ハッとし、振り向く。草履の音を鳴らしながら、桔梗色の着物を着た女性が向かってくるのが見えた。左目に眼帯をかけた、濃紺の髪の凛とした女性だ。彼女は琳邑の隣にしゃがみこんだ。彼女と目線を合わせ、柔和な顔で説明をする。
「昔は薬用に栽培されていたんだ。朝に咲く」
「はあ……」
「因みに、お前が言った仙翁は濃い紅色の五弁花をつける花だ」
女性はぼんやりと朝顔を眺め始めた琳邑の頭を優しく撫でた。見知らぬ人間に声を掛けられ、頭も撫でられたのだが、琳邑は警戒しなかった。彼女からは、敵意は感じられなかったのだ。


「巴殿————っ!」


邸の内部から、若者の声がした。女性はゆっくりと立ち上がり、琳邑に手を差し伸べる。
「さあ、朝食だ。腹も減ってるだろう」
うん、と少女は頷いた。それから女性の手を取った。


【吉原異聞伝綺談 四月目……望】


「起きましたか」

ハッと目を醒ましたチェンの眼前に碧眼。彼が起きたのを確認した碧眼の相手は、すっと離れた。背中を向け、喋る。
「朝食の支度が出来たので————well...取り合えず起きてくれますか?」
紅毛碧眼の青年が黒い上着を羽織る。チェンは急いで起き上がった。布団を矧ぎ、莱姆緑ライムグリーンの寝間着のまま青年の後を追った。その最中に、今までの記憶を探った。


 すぐに最近の記憶が見つかったので、今の状態になるまでの過程を更にまさぐった。

 嗣が一人何処かに行った。それから琳邑と一緒にいた。そのあとに討幕派の人間に襲撃され————。

————と言うことは、此処は敵陣じゃないか!

 ——今更と遅い。敵陣のど真ん中、琳邑と二人きりで逃げられるのは不可能に近かった。

————いや、でも。

ハッとし、嗣の顔を思い出させた。もしかしたら、討幕派である彼がいるかもしれない。そんな淡い希望が脳内を駆け巡った。


 暫く進み、広い広間に到着。中には幾つものお膳が立ててあった。お膳と一緒に並ぶ人の中に琳邑の姿があった。チェンは思わず先走りそうになった、が止める。それから青年に席へ案内され、座った。生憎琳邑からは遠い。隣には、ここへ連れ去ってきた(と思われる)長髪の男が座っている。仏のような表情で居る。一斉に食べるのかと思いきや、そうでもなかった。既に何人かが食事を始めている————琳邑もだ。しかし、その中に希望を抱いた男の姿は無い。
「食べないんですか?」
青年に訊ねられ、チェンはハッとする。急いで銀しゃりを口に頬張った。

 全員が食事に入ったのを確認したのか、長髪の男はチェンと琳邑を交互に見た。
「昨晩はよく眠れましたか?」
「まあまあ」
男の質問をチェンは適当に返す。琳邑は食事に集中して、耳に入っていないようだ。
「取り合えず、自己紹介はしなくては————ですね」男はほんわかとした気を纏って、濃紺の髪の女性を見た。「では、まず巴さんから頼みますか」

 巴と呼ばれた濃紺の髪の、眼帯をした女性は箸を置いた。
「私は桂巴という。取り合えず、討幕派を纏めている」
巴は名乗るだけなのってから、ふたたび箸を取り、食事を始めた。次に言葉を始めたのは紅毛碧眼の青年だ。
「僕は織田時雨、色々事情があって此方に身を寄せています」
彼が日本人では無いのは何と無く分かった。チェンが思うに、彼は欧米の人間だ。見掛けと、言葉遣いからしてそう察知出来る。
「私は入江蕀と言います」
時雨に続いたのは長髪の男。チェンの隣で微笑んでいる。

 黒いキャスケットを深く被った片腕の女性は山縣韵やまがたひびきと名乗った。枯草色の短髪に片目を隠した女性は井上珊瑚、黒髪で無精髭を生やした男は前原那桜音なおとと名乗る。チェンも名だけは名乗ろうかとしたが、その前に入江が口を開いていた。
「チェン・フェルビースト君に、琳邑さん————あれ、嗣はどうしました?」
入江は名乗る前にピタリと二人の名を当てていた。ついついあんぐりとしてしまったが、首を振って振り払った。それから答える。
「————さあ」
「"なだ"って聞いてから、どっか行っちゃっいました」
チェンの返答に足りなかった言葉を付け足しながら、琳邑は視線を落とした。ある単語を聞き、時雨以外の人間の肩がピクリと動く。顔付きも変わっていた。

 反応に質問——嗣は此処にも居ないことは普遍的事実に違いない。二人の少年少女の表情が曇る。
 入江は落胆する二人の気を和らげようとしたのか、時雨に新しい話を振った。
「暫くは時雨さんに二人の面倒でも見て貰いましょう」
「え?僕?」
時雨は挙動不審になる。ふわりとした赤毛を揺らしながら、入江と巴を交互に見た。入江は微笑んでいる。巴はそっぽを向いた。
「いいじゃない」山縣韵が満面の笑みで時雨に語りかけた。「日本語の勉強になるしっ♪」
「でも……」
怪訝な表情の時雨は恐る恐る巴を見た。しかし巴は目を合わせようとしなかった。挙げ句、「じゃあ、暫くの間面倒を頼む」と小さく呟かれた。時雨が落胆する。————やはり周囲は時雨を気遣う様子は無かった。
「朝食を食べ終えたら、一先ず時雨に従って、大久保邸まで行ってください」
と、箸を置いた入江蕀は少年少女に笑いかけた。








 虚空を虚ろに眺めながら、琳邑が彳丁てきちょくしている。先程まで降っていた驟雨が去っても、外を望む窓際から離れることはなかった。嗣の部屋だと言われた場所で、ずっと窓際に佇んだままの琳邑をチェンは横目で見る。彼女はぼんやりしていた。
「俄か雨で良かったですね」
襖を開けて部屋に入ってきた時雨が言う。
「あ————うん」
まだまだ相手を許す気にはなっていない。取り合えず用意された服に着替え終わったので、横目で時雨を見た。準備は出来ている、という意味合いを孕んだつもりの合図はなんとか伝わったらしく、青年は微笑みを返してきた。
「然程離れていませんから、————本当、すぐですよ」
そう言葉を残した時雨が銃を確認、仕舞い、一足先に部屋を出、二人を待つ。

「りん」と声をかける前に彼女は気付いたらしく、はっとし、続いた。部屋を最後にしたのはチェンだった。全員が出たのを確認した時雨を先頭に、檜の廊下を歩み進む。

「なあ、こういうの訊くのはどうかって思うんだけど」躊躇いながら、チェンは時雨に訊ねた。「日本のヒト——じゃないよな?」
「Yes,生粋の米国人ですよ」
時雨は凛とした横顔で、何事も無く答えた。西洋の顔立ちは実に中性的な美を醸し出し、男であるチェンも何か不思議な気がしてくる。顔を激しく左右に振り、その感情を吹き飛ばした。
「そういう貴方も、日本人では無さそうです」
今度は時雨が訊ねる。確かにチェンの容姿は金髪に緑眼と西洋に近い色合いだ。ただ、顔立ちはどちらかというと亜細亜の方だ。背もそれほど高くはなく、小柄だ。チェンは時雨が素直に答えたように、返した。
「母親が中国、父親が白耳義ベルギー人のハーフ。父親は耶蘇会イエズスかい宣教師で基督キリスト教布教に来てたんだよ」
「それは、それは——」時雨が曖昧な顔を作る。「基督教の宣教師なんですか」

 確かに、教会に属する人間が布教先で結婚などあまり考えられなかったのだろうとチェンは心の内で思う。残念ながら、父親は然程信仰心の高い人間ではなく——寧ろ低いので——ただ単に各国へ赴きたかったという理由で教会にいたのだ。本人曰く、「亜細亜の女性は美しい」。だから、母と知り合い、情愛を重ねたのだ。……あまり信じられない行為である、が。
「でも俺は、どちらかというと無神論者で」
チェンが苦笑する。はっきり言って、生まれて間も無く日本に来たので精神は日本寄りなのだ。今までずっと、日本の靉靆とした宗教感で生きてきたので信じる唯一の神は居ない。
「良いと思いますよ。僕もあまり宗教寄りではありませんから」
青年も苦笑した。碧眼が閉じられ、長い睫毛が笑みを作っている。やはり中性的だ。何処か仕草が女性的で、怪しい。だがそういう人もいるよな、とチェンは割り切った。世の中は十人十色なのだ。

 そうこう話している内に玄関につき、靴を履く。最初から履いていた靴のままなので支障は無かった。邸から出たところで、またチェンが訊ねた。
「時雨は米国から来たのに、何で討幕に荷担してんの?」
「ああ、ちょっと謀(たばか)られまして」
時雨が苦悶の顔になる。が、直ぐに顔つきを豹変、大輪の花を咲き散らせ
「ま。その話はいつかしますよ」
とチェンに言った。一瞬見せた表情に、「どうせ嗣辺りが巻きこんだんだろうな」と思いながらチェンは彼女に続く。少しだけスピードが落ちている琳邑の手を引きながら。

>>

目次① ( No.101 )
日時: 2011/09/19 17:22
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)

‡一月目、卯月□

>>2 
>>3 
>>7 
>>13 
>>20 
>>27 
>>34 
>>42 
>>48 
>>53 
>>67【了】

‡卯月登場人物一覧

□高杉嗣…討幕派の男性。変態。
□チェン・フェルビースト…幕府に属するハーフの少年。純情。
□琳邑…吉原に舞い降りた対妖魔用人形兵器の少女。
□仙翁…琳邑に優しく接してきた女郎。突如姿を眩ます。
□桂巴…討幕派を纏める女性。嗣の幼馴染み。
□織田時雨…訳有り米国人の青年。
□伊藤熾織…討幕派。ドS大和撫子。
□久坂扈雹…討幕派。熾織らの後輩。

目次② ( No.102 )
日時: 2011/09/19 17:28
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)

‡二月目、皐月
>>74 
>>78 
>>85 
>>89 
>>91 
>>92 
>>95【了】

‡間
>>81

‡皐月登場人物一覧
□高杉嗣…討幕派の男性。変態。左目は義眼。
□チェン・フェルビースト…幕府に属するハーフの少年。純情。
□琳邑…吉原に舞い降りた対妖魔用人形兵器の少女。
□仙翁…琳邑の力を一部奪った妖魔。嗣らに倒されかけ、逃走。
□桂巴…討幕派を纏める女性。嗣の幼馴染み。肺結核を病む。
□織田時雨…訳有り米国人の青年。
□伊藤熾織…討幕派。ドS大和撫子。
□久坂扈雹…討幕派。熾織らの後輩。
□鄙子…両親とはぐれた少女。
□沖田総爾郎…新撰組一番隊隊長。
□吉田江…二重人格者。主人格。気弱な眼鏡っ娘。
□吉田茶々…江の副人格。戦闘担当で好戦的。
□山縣韵…討幕派。諜報担当。片腕を無くす。

‡間登場人物一覧
□大久保紅羽…討幕派。巴と協定を結んだ男。
□西郷重兵衛…討幕派。紅羽の幼馴染み。
□彩希爍…紅羽の拾った少女。失語症。
□黎靉…彩希爍の拾った少年。顔の左半分に包帯。

目次③ ( No.103 )
日時: 2011/09/19 17:27
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)

‡三月目、水無月
>>96
>>97
>>98
>>99

【了】

‡水無月登場人物一覧
□高杉嗣…討幕派の男性。変態。左目は義眼。
□チェン・フェルビースト…幕府に属するハーフの少年。純情。
□琳邑…吉原に舞い降りた対妖魔用人形兵器の少女。
□仙翁…琳邑の力を一部奪った妖魔。嗣らに倒されかけ、逃走。
□桂巴…討幕派を纏める女性。嗣の幼馴染み。肺結核を病む。
□織田時雨…訳有り米国人の青年。
□伊藤熾織…討幕派。ドS大和撫子。仙翁に妖魔の種子を埋め込まれる。
□久坂扈雹…討幕派。熾織らの後輩。仙翁に妖魔の種子を埋め込まれる。
□近藤鄙子…新撰組局長。年齢不詳の少女。
□土方空華…新撰組副長。
□沖田総爾郎…新撰組一番隊隊長。
□山縣韵…討幕派。諜報担当。片腕を無くす。
□入江蕀…討幕派。盲目。嗣らの先輩にあたる。
□"なだ"…詳細不明。嗣と何らかの関係有り?


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