複雑・ファジー小説

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*Tarot-Labyrinth*  コメ募集中><
日時: 2011/10/15 15:23
名前: 奏 (ID: mtBKxXTx)

はじめましての方ははじめまして。
二次小説で「悪ノ物語」というものを書かせていただいていた奏(かなで)です^^
そっちが完結したので、今度はオリジナルで書かせていただきます。

ちなみに、複雑・ファジーということなのですが、
80%がコメディ・ライトです。
あまり重い話はないですので、ご安心を´ω`*

■読む前に注意■
・奏のことが嫌いな方は回れ右
・荒らし、中傷目的の方も回れ右
・複雑・ファジーなのに重い展開少ねぇじゃん!ヤダ!って人も回れ右
・更新が休日だけだったりとかが嫌なかたは回れ右
・厨二的なものが受け入れられない方は回れ右
 (↑実は一番重要)


基本金曜・土曜・日曜のいずれかの更新になるかもですが、
気長に待っていただけると嬉しいです。


キャラは多いのでここには書きません^^;

>>1 【主人公級キャラ】
>>2 【敵級キャラ】
>>3 【その他キャラ】

>>6 【用語説明】

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.140 )
日時: 2011/11/23 18:55
名前: 奏 (ID: ftwAaUAm)

第64話 依頼

* ちとせside

もうすぐ楓藍祭。

学園全体が活気付いてくる季節だ。

この学園はイベントへ力を注いでいるから、準備も早めに開始する。

その準備に生徒が追われている、そんなとある日のことだった。

「ちとせ。」

不意に名前を呼ばれ、振り返った先に、

A組の委員長であり元隠者の使いである南由がいた。

「どうしたの?」

「・・・あの、私じゃないんだけど、お願いがあって。

 あ、水名月さんもいいかな?

 2人なら引き受けてくれそうだと思って声をかけたんだけど・・・。」

南由は近くにいた怜菜にも声をかけると、

私たちをとある場所へと連れて行った。

南由が『服飾部』の扉をノックする。

「沖野さん、私だけど。」

「あ、委員長?入っていいよ。」

ドアの向こうから、聞き慣れた女子生徒の声がした。

扉が開かれ、そこにいたのは服飾部の部員と見られる生徒何人かと、

同じクラスの『沖野ゆりあ』がいた。

沖野さんは、どちらかといえば怜菜と仲がいい。

そういえば、服飾部って楓藍祭は何か出し物をするんじゃないのかな?

でも机の上には、作りかけのものも何も見当たらなかった。

「ゆりあ、どうしたの?」

「あ、怜菜、ごめんね。ちとせちゃんも・・・いきなりお願いしちゃって。」

沖野さんの変わりに、南由が説明する。

「服飾部、今回ファッションショーをするつもりだったらしいんだけどね、

 なんでも服を着てステージに立つモデルが不足しているらしいの。」

「え?で、でも、部員のみんなが着れば・・・。」

今度はゆりあがおどおどした口調で答える。

「それが・・・先輩たちは本番当日、クラスのほうの担当になってるみたいで・・・

 出れるの、私含めて4人なんだけど・・・ステージに立ちたくないって子もいて・・・。」

「それで私たちに?」

「うん・・・。2人は、部活も入ってないし・・・こういうこと引き受けてくれるかなって・・・。

 どうかな・・・?」

ゆりあが困り顔で怜菜を見た。

怜菜はしばらく考え、チラッと私と南由を見る。

「委員長は、出れないの?」

「・・・うーん・・・私も、役員の仕事があるからね・・・悪いけど・・・。」

怜菜はそれを聞き、またうーんと悩むと、

突然納得したようににこっと笑った。

「うん!私はいいよ!」

「ほ、本当っ!?」

怜菜はもう一度うんと言うと、私を振り返った。

まるで「ちとせは?」とでも言うかのような眼差しだ。

正直ステージに立つとか恥ずかしいんだけど。

「・・・・・・う・・・でも、ちょっと恥ずかしいんだけど。」

私がそう言うと、突如怜菜が手を伸ばし、私の眼鏡を奪うように外した。

「・・・うんっ!眼鏡とっちゃえばちとせだってわかんないよ。」

「え、え?で、でも・・・。」

「だって、ちとせ学校で眼鏡外さないもん。大丈夫大丈夫!」

怜菜がそう言って、太陽みたいに眩しい笑顔でそう告げた。

これはもう、引き受けるしかないか。

私は黙ったまま眼鏡を受け取り、頷いた。

「あ・・・ありがとう怜菜!ちとせちゃん!」

沖野さんは必死に私たちの手を握っていた。

「そういえば・・・ゆりあは将来服飾関係に進むの?」

「・・・え?・・・あ、えっと・・・ファッションデザイナーになりたいの。

 両親には・・・反対されてるけどね。」

「え、な、なんで?」

「分からないけど、普通に公務員になって欲しいんだって。

 お兄ちゃんたちも、みんなそうだったからね。」

沖野さんは怜菜の質問に、いつもと変わらない笑顔で答えた。

「両親は、楓藍祭に来るの?」

「うん。たぶん来てくれるとは思うよ。」

「・・・じゃあ、ファッションショー見てもらって、納得してもらおう!

 デザインは、ゆりあがやってるの?」

机の上の紙の束を取り、パラパラと捲ると、

「そうだね、大方デザインは私がやってるかな。

 先輩はクラスのほうも忙しいから、みんな作るほうに回ってるの。

 そっちのほうが人数多いからね。」

「よし・・・私もゆりあの夢応援してるよ。

 両親にも・・・ちゃんとゆりあが考えた服だって分かってもらえるようにしなくちゃ!」

「怜菜・・・・・・。ありがとう!

 ・・・それと・・・もうちょっとお願いがあるんだ。」

沖野さんが言うお願いと言うのは、

もう少しモデルとなりそうな人を探してきて欲しいということだった。

「あとどれくらい必要なの?」

「えっと・・・女の子の服が多いから・・・女の子は5,6人かな。

 最低4人・・・多いにこしたことはないんだけど・・・。

 男の子は2,3人いればいいかなぁ。」

それを聞いた怜菜は、両手を使い、指折数えていた。

自分の知り合いの数でも確認しているのだろう。

「うーんと・・・初等部の子でもいい?」

「え?うん。まだ採寸とかしてないし・・・。

 ・・・そうだね、見てる人も、そっちのほうが楽しめるかも。」

「・・・うん!任せて!」

「あ、そうだ。あの・・・モデルを見て、どれを着せるかとか、
 
 デザインに手直ししたりするから、一度連れてきてもらえるかな?」

「うん、分かった!じゃあ、また後でね。」




「怜菜、誰を連れてくるつもりでいるの?」

「んー?男子は冬弥、要・・・あと大和くん。」

「大和って?」

「初等部の子だよ。戦車の使いで、この間知り合ったんだ。

 都和に恋する男の子だよー。」

怜菜がくすくすと面白そうに笑っていた。

というか都和のことが好きな男の子か・・・。

難易度高いよ、都和は。

「で、女子は私とちとせ、そんで蘭と舞姫と都和かな。

 あ、有花ちゃんもいいかな。」

怜菜はなんだか楽しそうだった。

まぁ人数は多いほうがいいって言われてたしね。

そのままいつもの幼馴染グループを捕まえた私たちは事情を説明した。

最初は嫌々だった要も、どうやら了承してくれたようだ。

冬弥に至っては、「女子から逃げる手間が省ける」という理由らしい。

・・・なんというか、流石だ。

でもファッションショーを見に来るファンクラブの子だっているだろうし・・・

大変なことにならなきゃいいけど。

準備期間中は、いつでも自由に他の校舎へ移動していいことになっているので

その後初等部へと足を運んだ私たちは、すぐさま都和の教室に入った。

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.141 )
日時: 2011/11/27 22:31
名前: 奏 (ID: ZvRr1aJX)

* ちとせside

「あ、ねぇねぇそこの君!」

怜菜が近くにいた男の子に声をかける。

男の子は中等部のリボンの形を確認するように見ると、慌てたように視線を移した。

「都和と大和くんってこのクラスだよね?

 『中等部』の水名月が呼んでるって言ってくれないかなぁ?」

男の子ははいっと返事をすると、教室を見渡し、逃げるように廊下へ飛び出した。

ということは、2人は今教室にはいないのか。

ていうか・・・

「あんた、中等部って強調したかっただけでしょ。」

「えー?えへへ、そんなことないよ!」

誤魔化すように怜菜が笑った。

そうこうしているうちに、廊下の向こうから目当ての2人が並んで歩いてくる。

「・・・怜菜にちとせ・・・どうしたのですか?」

都和が不思議そうな顔で聞いてきたので、

怜菜は手短に今まであったことを説明した。

「・・・なるほど・・・服飾部のファッションショーに出てほしいと・・・。」

「でも、なんで俺も?」

「男の子が足りないんだって。

 大和くんなら出てくれるかなーって思ってさ。」

「・・・は、はぁ。」

「で、どうかな?」

怜菜がにこにこ笑いながら2人に尋ねる。

都和はほんの数秒悩むような仕草をすると、

制服のポケットから紙を取り出し、クラスの出し物と時間が被らないか確認し

私たちに向き直った。

「いいですよ、その時間はちょうど暇なので・・・。」

「大和くんは?」

「・・・う・・・ま、まぁ・・・柏葉がやるんならやってもいいけど・・・。」

これは軽く告白してるようなもんじゃないのか・・・。

相当都和のことを信用しているようだ。

何はともあれ2人の返事を受け取った私たちは、1階下の3年生の教室へと足を向けた。


それから数分後。

沖野さんに言われたように、声をかけた全員を服飾部部室へ連れていった。

ちなみに、最後に声をかけた要の妹は、その時間にクラスでの仕事があるらしく不参加となった。

沖野さんいわく、「それでも十分足りる」らしいが。

「ありがとう2人とも!助かったよ!!

 みんなも・・・ごめんね、いきなりこんなことお願いして・・・。」

「いいっていいって。どうせ暇だしね、舞姫。」

そう言う蘭に、舞姫はうん、と短く返事をした。

沖野さんは再びありがとうと言うと、人手を集める前にも捲っていた冊子を手に取った。

ぺらぺらと捲っては、集められた人材を眺めている。

かと思いきや、「誰がどの服着るか考えなくちゃいけないから、写真撮っていい?」と聞き、

カメラを取り出して一人ひとりの顔にレンズを向けていた。

「・・・よし・・・これで手直しと選択はできるとして・・・

 あとは・・・採寸かぁ。よし、みんなも手伝って!」

沖野さんがそう言うと、

近くにいた同学年の部員2人と1年生部員2人が一気に動き出した。

そして、慣れた手つきで全員の丈をメジャーで計ってはメモをとっていた。

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.142 )
日時: 2011/11/28 22:35
名前: 奏 (ID: TaF97fNV)

* 怜菜side

「じゃあ怜菜、腕伸ばして。」

ゆりあがメジャーを私の腕にぴったりくっつけ、

難しい顔をして目盛りを読み取り、ささっとメモをとる。

そんな単調な作業だったが、私はとあることに気づいた。

都和の方を見ると、都和も不思議と疑いの混じった表情で小さく首を傾げている。

ゆりあがメモをとりに私から離れている間、私はささっと都和の隣に移動する。

「・・・都和・・・もしかして・・・。」

「気づいてましたか。ここに来たとき変だと思ったんです・・・。

 カードの気の数が合ってないから・・・。」

「じゃあ、ゆりあが・・・?」

「確証は持てませんが恐らくは。怜菜、探り入れられますか?」

「わ・・・わかんない。

 でも、ゆりあが私に触れたとき、カードがうっすら頭の中に浮かんだの。」

都和はほんの一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、

「・・・なんのカードか分かりますか?」

「えっと・・・『star』って文字が見えた気がするんだけど・・・。」

「『星』のカードですね。・・・あの人で間違いないと思います。」

「回収したほうがいいの?」

「それは——・・・。」

「怜菜、まだ測り終わってないよ。」

都和が言いかけたとき、ゆりあが私を呼んだ。

短く返事をし、再び都和に目を移すと、“行って”というような目を向けてきた。

しばらくして採寸は一通り終わり、私たちは楓藍祭を待つばかりとなった。



* 都和side

また新しいカードが出てきたって・・・一体どうなってるんだろう。

別にカードが出てくることが不思議ってわけじゃない。

どうして同じような場所に散らばっているのかが気になるのだ。

今までは、こんなことなかった、と魔術師は言っていた。

そして、私にはもう一つ、誰にも言っていない秘密、というか不思議なことがある。

それは式乃にさえ話していない。

私の錯覚かもしれないのだが、時折自分の体が透けているように見えるのだ。

もちろん、ただ疲れが溜まっているだけかもしれないが、

日に日にそれが見える回数が増えている。

突如気分を悪くしたときなんかは特にだ。

このまま「柏葉都和」という1人の人間が、消えてしまいそうな感覚に陥ることもある。

私は何事もない平穏な日々を望んでいるのに、

事態はどんどん悪い方向へ進んでいる気がしてならない。

そんなことが頭の中を駆け巡っているせいなのか、

私はまた目眩とだるさが私に襲い掛かってきた。




* リーダーside

或斗と璃雨を買出しに行かせ、ソファでぼーっと本を眺めていた俺の元へ

ソイツは突然やってきた。

さっきまで布団に潜って寝ていたはずだが、気分がよくなったのだろうか。

「どうした?喉でも渇いたのか?」

尋ねると、ソイツ——琥乎——は、無言のまま否定した。

琥乎が取り出したのは、1枚のポスターだった。

こいつ、俺の知らない間に出掛けてたのか。

読むと『楓藍祭』と書かれてある。

一通り目を通し終えたのと同じタイミングで、琥乎がぼそっと呟いた。

「・・・これ、行きたいです。」

「・・・・・・行きたいって・・・なんで?」

「・・・楽しそうですから・・・あと、人探し。」

途切れそうな声で琥乎はそう言った。

よくよく考えたら、こいつが願望を口にするなんて初めてかもしれない。

「うん、体調がよければ行ってもいいぜ。

 ・・・あ、でも、マリアか誰か一緒に行かせようか?」

琥乎はまた無言の後やんわりと断った。

そういや楓藍ってカードが密集してるところだよな。

使いも大勢いるって真里亞が言ってたような・・・。

「うーん、心配だから、一応カードは置いて行けよ?

 いつ誰が狙ってるか分からないからな。」

「はい。」

琥乎は小さく笑った。

こいつはこいつなりに、楽しみを見つけることができているらしい。

以前より体調を崩すことも激減しているし、いい傾向だ。



そして琥乎は、楓藍祭前日にも関わらず、

なぜか楓藍学園に出掛けていた・・・らしい。

帰宅した琥乎は余計なことを何も話さず、ただ一言、

「『星』がいた。」とだけ呟いて自室に戻っていった。

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.143 )
日時: 2011/12/04 12:19
名前: 奏 (ID: uwZWw1uD)

第65話 前日

* 怜菜side

楓藍祭も明日に迫った。

クラスでの係は交代制だからそれほど時間もかからないし、

それより今はファッションショーについてが不安だ。

ゆりあ曰く、まだ衣装が間に合わないらしい。

ファッションショーは明日の午後だ。

楓藍祭は3日に亘って行われるが、全て一般公開される。

だから明日もゆりあの両親は見に来るだろう。

それまでに間に合えばいいけど・・・。

私は今蘭と2人で帰り道を歩いていた。

ちなみに、ちとせと都和はそれぞれ仕事があり、冬弥もクラスの仕事に借り出されている。

要は、正式部員ではなくてもバスケ部メンバーの出し物の準備をしていて、

なぜか舞姫もそれに加わっていた。

要曰く、転校初日に2人でバスケをしていたあの一件以来、バスケ部メンバーに気に入られたらしい。

部員にはなれなくても、「仮マネージャー」扱いされているようだ。

そんなわけで、

部活にも入っていなければクラスで特にやることもない私たちは

こうして並んで歩いている、というわけだ。

「・・・ん?あれ?」

不意に蘭が呟いた。

「どうしたの?」

「あれ・・・。」

蘭が細い路地に指を指した。

そこにいたのは黒い布・・・というか、ぶかぶかの黒い服のように見える。

蘭が駆け出し、私も後に続いて駆け出す。

倒れている“それ”はどこかで見た人間の形をしていた。

手元に猫の耳のような形の帽子が落ちていて、

帽子を被っていない頭は、老人のように、それでも綺麗で真直ぐな白髪だった。

「・・・か、カノンくん・・・?」

蘭が恐る恐る手を伸ばし、仰向けにさせる。

それは蘭の言うとおり、真里亞と一緒にいる禾音だった。

ひっそりと目を閉じてはいるが、安らかに眠りについているわけではない。

「気絶・・・してるの?」

「たぶん・・・。」

蘭は私に鞄を預けると、禾音を背負い、帽子を手に取った。

「ちょ、どうする気なの?」

「家に連れて行く。だって、こんな所に置いていくわけにもいかないでしょ?」

「でも、これがもし作戦だったら・・・。」

私がいつまでも納得しないでいると、

蘭はむっとした表情で、そんなことない、と呟いた。

「もう・・・どうなっても知らないからね。」

結局折れ、しぶしぶ背負われた禾音の後ろについて歩き出した。



しばらく経った後、

「・・・・・・・・・ぅ・・・。」

禾音の目がうっすらと開き、小さく唸った。

かと思うと、すぐに状況を理解したのか目を見開いた。

「・・・あ、カノンくん、起きた?大丈夫?」

「え・・・あ・・・はい。

 あの、なんで僕背負われているんでしょうか。しかも敵に。」

「敵も何も関係ないでしょ?

 あんなところに倒れてるんだから・・・心配したよ。」

「はぁ・・・。」

そうだった、とでも言うように禾音は蘭の背中に額をくっつけ、ため息を漏らした。

なんだかこの光景、不思議に見える。

禾音が敵であることに間違いはないけれど、

どうしてこんなに素直に会話しているんだろう。

カードを奪おうと思えばすぐにできることなのに。

「あの・・・正義さん、もう大丈夫なので降ろしてください。」

「正義じゃなくて蘭って呼んでくれたらいいよ。」

蘭は悪戯っぽい笑顔でそう言った。

さすがにこれには、禾音にも一瞬戸惑いの表情が伺える。

「・・・ら、蘭さん、降ろしてください。」

蘭はにっこりと笑って、禾音を降ろした。

帽子を禾音の頭に乗せる。

「あの・・・助けてくれてありがとうございました。

 それから、早めにここを離れたほうがいいですよ。」

「?どうして?」

私がそう尋ねたのと同時に、遠くから真里亞の声が聞こえる。

禾音の名を呼ぶ声だった。

「僕のこと、探してくれてるみたいですから。」

淡々と禾音は言う。

逃がしてくれるようだが・・・。

なんだろう、この違和感は。

「それでは、失礼します。」

禾音は真里亞の声の聞こえるほうへ駆けて行った。



その後姿が見えなくなったあたりで、蘭がぽつりと呟く。

「・・・カノンくん・・・。」

「ねぇ蘭。どうしてカノンは攻撃してこないんだろう。」

「・・・元々、カノンくんはそういうことしない。」

蘭はまたむっとした表情を浮かべた。

「・・・・・・・・怜菜、私、それより気になることがあるんだけど。」

「何?」

「あのね、カノンくん、背負ってるときは気にしなかったんだけど、降ろした時に気づいたの。

 ・・・勘違いかもしれないけど。」

「だから何?」

蘭は言いにくそうに言葉を濁らせ、

最終的にはっきりと言った。

「カノンくん、初めて会ったときよりも、小さくなってる気がする。」

と。

「それ、どういうこと?」

「わかんないけど・・・でもなんかそう思ったの。

 最初はね、マリアより少し背が高いくらいだったの。

 でも何回か会うたびにね・・・。」

私の中の記憶を巡らせる。

そういえば、確かにそうかもしれない。

「今じゃ、マリアのほうが高いね。

 ・・・でも、マリアが成長してるだけかもよ?」

蘭は首を振った。

「違うよ。だってマリアの身長、そんなに変わってないもん。」

蘭は会うたびに身長に目が行ってるのかとか

少し考えたけど今はそんなことどうでもよかった。

「カノンに・・・なにか秘密があるのかな・・・?」

「わ・・・わかんない・・・。」




楓藍祭前日のこの出来事は、

後々、禾音の存在自体に関わる問題となる。

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.144 )
日時: 2011/12/07 21:02
名前: 奏 (ID: vWMSVdbP)

第66話 楓藍祭

* 怜菜side

「・・・っで・・・できた!!」

服飾部部室に、ゆりあの大きな声が響いた。

今は楓藍祭当日、午前11時をまわろうとしていた。

ゆりあが机の上に突っ伏す。

よっぽど疲れているようで、周りの部員たちも椅子にもたれたり背伸びしたりしていた。

「すっごいね・・・よくこんなに作ったよ・・・。」

私は思わず感心するような発言を漏らす。

ゆりあは突っ伏したまま笑った。

「ま、まぁね・・・年に一度の楓藍祭だし・・・両親も来るし・・・。」

そう、今回の目的はそれだ。

両親に将来の夢を認めてもらうこと。

「こんだけ頑張ったんだもん!ゆりあなら大丈夫だよ!」

「そう言ってもらえると・・・自信もちょっとは湧いてくるかな。

 そうだ、本番は午後だけど、一回みんな着てみてもらえるかな?

 手直し必要ならすぐにするから・・・。」

ゆりあがそう言い、それぞれにそれぞれの服を手渡した。

ぞろぞろと、私が声をかけたメンバーと、ゆりあ以外の部員がその場を後にする。

部室に私とゆりあだけが残ったとき、不意にゆりあが言った。

「あの、怜菜。今回は本当にありがとう・・・。

 私、親に認めてもらえるように頑張るね!!」

「・・・ゆりあ・・・・・・うんっ!それでこそゆりあだよ!」

私がそう言うと、ゆりあは満面の笑みで自分用の衣装を抱えた。

その途端、

『ユリア』

部室内に小さな可愛らしい声が響く。

もう流石に慣れたようで、私はさほど驚きもしなかった。

それがゆりあの持っているカードの精霊だと、直感的に悟ったからだ。

「・・・・・・ゆりあ、カードは?」

「う・・・ぇ?カードって・・・。」

そう言えばゆりあにカードのことを言うの忘れていた。

私はタロットカードのことだよ、とだけ説明した。

「あぁ、それなら——・・・。」

ゆりあは制服のポケットに手を伸ばし、星の模様が描かれたカードを取り出す。

その上には、一人の精霊が佇んでいた。

『・・・初めまして、ユリア。』

ゆりあも大して驚いてはいなかった。

どうやらカードを得たときに、それなりに驚くことが起こったらしく、

今じゃなんとも思わないらしい。

「・・・あなたが・・・星?」

『うん。あなたのこと見守ってきたわ、この数日間。』

「・・・・・・私の・・・ことを?」

星の精霊は頷いた。

『あなたの夢、私も応援してあげる。

 ・・・いや、頑張れば叶えることもできるけど・・・。』

「そ、それは駄目!私は私の力で叶えるの!

 そうじゃないと意味がない!!」

『・・・ま、ユリアならそう言うと思ったわ。

 じゃあせめて、貴女の両親が確実にファッションショーを見に来るようにしてあげるわ。』

星はクスクスと笑った。

「あ、あの・・・。」

『あら、貴女は節制・・・かな?初めまして。』

「あ・・・ど、どうも・・・。」

星は私にも頭を下げた。

ゆりあは、怜菜も!?というような顔で私に目を移す。

無理もないかな。




中断


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