複雑・ファジー小説

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未来への脱出
日時: 2011/07/07 18:04
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /fPmgxgE)

物凄い短いと思います。

7〜10話で終わる予定です。

一部非現実的な物が入ります

いきなり話に行こうと思います




〜一話目〜



目の前には、ただ闇だけが広がっている。
体には、浮遊感だけが取り巻いている。
ここがどこかは分からない。
だからこの場所がどういうところか見当をつけようとしたその時、
ふと、地面にたどり着いた。
さっきまでは自分の体に触れる物は服だけだったのに
今では、胸や腹、脚や腕など体の前面側に
まんべんなく何かが当たっている。
どうやら、地面に着いたようだ。
寝起きなのかどうかは分からないが、重たい瞼を開けようとする。
その時、日常には無いはずの異変に気が付いた。

鼻の奥にツンと入ってくる硝煙の残り香。
陸上の試合で使われるような雷管よりはるかに強い嫌な匂い。
もし、夏だとしてもこれは暑すぎるだろうと、
異変を感じるほどの周囲の熱。
はるか彼方から、ほんの少しだけ、ギリギリだけ聞こえる爆音。
一瞬、目を開きたくなくなったが、かといってこの妙な雰囲気の中
倒れているだけも何だか嫌な気分になる。
意を決して目を開いた瞬間、その行動をいきなり後悔することになる。

目の前に広がっていたのは正に地獄絵図だった。
初めに瞳に飛び込んできたのは紅い光。
それが燃え盛る炎だと気づくのに一秒ともかからなかった。
ゴウゴウとすさまじいうなり声を上げて、
天までも焼きつくす勢いで、炎はその場で揺らいでいた。
さっきから感じていた熱の源がこれだったのかと気付くと
さっきよりも強く汗が出始めた。
ふと視点を落とし、炎の出所の辺りを見る。
そこには、ついさっきまで家だったであろう、
倒壊した木の塊があった。
コンクリートの部品など、欠片ほどもなく
全体が木で出来ていたであろう小さな一軒家。
砕けた瓦が足元に広がっている。
見る見るうちに家の残骸は炎に飲み込まれていく。
そして、さらに良くそれを観察してみると
もう一つ絶望を発見した。

初めにこれを見た時、田舎の家が火事にあったのだと勘違いしていた。
いや、そう思いこみたかった。
倒れている木にはとてつもない量の弾痕があったのだ。
まだ火に包まれていないのに、円形に黒く焦げ付いている部位。
その中心は小さい穴が開いていた。

間違いない、ここは戦争直下の日本。
だけどなんで・・・

「なんで俺がこんなところにいるんだよ」

俺は、平成二年である1990年の六月三十日生まれ。
二十一歳になった俺は2011年に住んでいるはずだ。
だがこの光景は何だ?
この光景は戦時のときとしか言いようが無い。

その時、燃えている家の影に小さな一つの姿を捕えた。
それは、物陰に隠れるようにして、こっちの様子をコソコソとうかがっていた。
それがばれたことに気が付いたのかおどおどとその姿を現した。
出てきたのは、十歳ぐらいの男の子。

「ねえ?お兄ちゃん誰?」

観念して出てきたのかと思いきや、
最初に発したその言葉からは他所者に対する敵意と、
知らない人に対する素っ気なさの方が
恐れなんかよりも強く漂っていた。

「え・・・俺?俺は・・・」



—————待てよ



おかしいおかしいおかしい!!
なんで、なんでだ!?
記憶の棚が開かないんじゃない、見つからない!
どういうことだ・・・

「俺は・・・誰だ?」

記憶喪失?
そんなバカな・・・
知識だけは異常なほどに鮮明に残っている。
ただ、自分としての記憶だけが無いのだ。
家というものがどんなものか、
東京がどこにあるのか、
そんなことは簡単に分かる。
だが、自分はどのような家に住んでいたのか、
どこに住んでいたのかさっぱり思い出せない。
なぜ、このような状況に陥っているのかすら分からない。
一体何が起こったのだろうか。







ビィ—————っ!ビィ—————っ!ビィ—————っ!


突如すぐ傍に立っているスピーカーから警戒音が鳴った。
キィイ—————ンと空をつんざく音が聞こえたので
弾けるように空を見上げた。
天空を駆けるのは三台の戦闘機。
どうやら空襲が始まったようだ。

「自分が誰とか悩んでる暇は無しか」

やってやる。無くした記憶も思い出して
この戦争を生き抜いて絶対に自分の時代に変える。

そう決めた時に視点をまた炎に戻した。
だが、なんだか火を見るだけで感傷的な気分になってしまうのですぐに視界から外した。

「おい、坊主」

目の前の男子にいきなり大声で呼びかけた。
にも関わらずその子は、空襲にだけ恐れを感じている。

「とりあえず、あれから逃げるぞ」

戦闘機を指差してそう言うと、
当然、といった顔つきになり揃って戦闘機の反対側へと駆けだした。








                              続く


↑一話目・異変

二話目・断片 >>1

三話目・脅威 >>2

四話目・回帰 >>3

五話目・感謝 >>4

Re: 未来への脱出 ( No.1 )
日時: 2011/07/02 12:18
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: arQenQl7)

〜二話目〜



前回の話

突如現れた戦闘機。記憶を取り戻すためにも逃走を図るみたいな?


               ・・・・・・・・・・



「オイ、そこの奴。どっか良い隠れ場所知らねえか?」

走りながら横にいる少年に話しかける。
そいつは、まだ俺のことを信用しきれないようで、
下を向いて黙ったままだ。

「地元の奴なら防空壕ぐらい知ってるだろ?
 そこに連れて行って欲しい。安心しろ、
 お前を裏切ることはしない。俺は今記憶が一切無いから
 誰かの助けが必要なんだ」

記憶が無いと言ってもそんなこといきなり信じる人間は
中々いない、多分体張って守るぐらいしないと信用なんて得ることは・・・

「分かった。付いてきて」

・・・予想外にあっさり出来た。
まあいい、道案内してくれるんなら全力でサポートするだけだ。
チラと空の兵器に目を向ける。
その前に一つ確認しとくか。

「今、何時か分かるか?」
「兄ちゃんそんなこと聞いて意味あんの?」
「いいから言ってくれ」
「十二時はとっくに回ってるよ。太陽が南より西側にある」
「そうか、ありがとよ」

どうやら最悪の事態は免れている。
三機もあれが飛んでる時点でその心配は無いのだが
もし本当にあいつが来たら逃げても無駄だからな。


ズンッ!!

突然自分の影が前面に照らし出されたかと思うと
地面が真っ赤な光に包まれた。
そこは本当に光に包まれているだけだったが
後ろはそれどころではなかった。
後ろは、初めに目を覚ました時に見た
民家のような状態になっていた。
唯一違う点は、うっすらチロチロと見える
紅炎が、もうもうと立ち上る黒煙に覆い隠されていることだ。

「もう追いつかれちまったか」

言うまでもなくそれは爆弾が爆発した後だった。
もう追いつかれたと危機感を感じたその時だった。
すぐに戦闘機から逃げる方法を思いついたのは。

「坊主、引き返すぞ」

俺がそう言うと少年は不審そうな顔をした。

「いいの?もうそこまで迫ってるんだよ」
「大丈夫だ。向こうからこっちは見えてても点見たいなもんだ。
 いてもいなくてもあんまし変わらん。
 あいつらは家を次々と倒してるだけなんだから。それに・・・」
「それに何なの?」
「あのスピードだ、俺達がくっちゃべってる間に多分もう追い抜かれた。
 あんな超高速で飛んでたら俺達に気付いてもそうすぐにターンできない。
 一旦引き返して向こうに逃げた方があいつらいなくなって安全」
「兄ちゃん賢いね」

そう言うや否や少年はスピードを落とすことなくターンする。
それに合わせて俺も方向を変える。
さっき確認した爆発物を避けて俺たちは走りだした。

「あっち側なら僕らの集落がある。逃げる手伝いをしてくれたお礼に案内するよ」

そうして、その後その集落に着くまで一機も戦闘機は見かけなかった。







三十分後、集落の入り口にて。

「着いたよ」

少年と共に民家の立ち並ぶ集落に到着すると、
大人たちが一斉に出てきた。

「無事だったかい?勇次」

最初にその子に話しかけたのはお母さんらしい女性だった。
そして、この子の名前は勇次と言うらしい。

「うん、この人に助けてもらったんだ」

勇次は、これまでの経緯をみんなに話した。
それを聞くと、そこにいた者は全員頭を下げた。

「うちの者を助けていただいた者よ、礼を言う」

その場を代表して、一人の老人が俺の前に現れた。
そして、長たる雰囲気を放ち、厳かに礼を言った。

「お主、名は何と申す?」

そう聞かれても俺は名前なんか覚えていない。
記憶が無いのだからそれも当然だ。

「そんなのいいじゃん、とりあえず兄ちゃんありがとな」




—————ありがとう、優しいお兄ちゃん




「つっ!」

いきなり頭に激痛が走る。
何がどうなっているかさっぱり分からないまま、頭を抱えて
そこにしゃがみこんだ。
何だ、今の声は・・・

聞いた記憶は無くしているが、明らかに聞いたことのある声。
しかし、どこの誰の言葉で、いつ聞いたかがさっぱりだ。

しかも何よりも、ありがとうと言われたのに
なんだか胸を抉られるような不快感を覚える。
すぐに分かった。
これは俺の、記憶の断片。

ようやく記憶が戻る兆候が見えたというのに、気分は複雑だ。
果たしてこの記憶は思い出すのが吉なのだろうか・・・

「どうした、若者よ?」
「ええ、すみません。俺、記憶喪失で、自分についての何もかもが分からないんです」
「そんなことがあるものなんじゃな」

長老と思われるその翁は、ゆっくりと頷いた。

「ところで、今は何年の何月何日で、ここはどこですか?」

さっき勇次にした質問をもっと細かいところまで聞いてみる。
もしかしたら、ここは危ないかもしれない。

「ここは広島。昭和二十年の八月五日だよ」

一番恐れていた答えに近いものが帰って来た。





                                  続く

Re: 未来への脱出 ( No.2 )
日時: 2011/07/02 22:15
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: arQenQl7)

〜第三話〜




「・・・ヤバい」

俺がそう言うと、一斉にみんなが振り向いた。
ただ、自分が思っていたのと若干違う意味で反応したのだが。

「ヤバいってどういう意味?」
「大変だってこと」

知識だけが残っていて良かった。
そうじゃなければ記憶を取り戻すなんて到底不可能。
明日、何も知らないまま文字通り消し墨と化していただろう。

「・・とる・・・ーイが来る」
「えっ?何って?」
「原子爆弾が、アメリカの最終兵器が、『リトルボーイ』が来る!!」

原子爆弾、あの悪魔の兵器は二十万という人間を
吹き飛ばし、町一つ粉砕する威力を持っている。
今すぐにでも逃げないと・・・

「何じゃ、原子爆弾とは?それに神の子孫たる天皇の統治する我が国は
 多少の兵器には屈せん」

多少じゃないから問題なんだ。
しかもこの時代は天皇や軍隊を崇拝している。
敗戦のことは告げずに、危ないということだけ
伝えておくといいだろう。

「原爆は・・・人間の作った、人間に対して使った兵器の中で、
 一番強力で、悲惨な兵器です。早く京都にでも逃げないと、
 みんな・・・」

そこまで言った時、そこにいた者の目に、
ほんの少しの不信感が現れ出た。
自分は確かに少年の命の恩人だから、信じてもらっているようだが、
記憶喪失者の話す、全く信憑性の無い話は
妄言としか聞こえていないだろう。

「そう言われてものう・・・」

案の定、自分が言ったことを信じていいのかどうか決めあぐねるような表情になる。
いきなり現れた他所者のいうことばなのだから、尚更だ。

「京都が一番戦火が穏やかだったらしいです。重要な歴史的建築物が多く、
 連合国軍もあまり攻撃しませんでした」

連合国軍、そう言った瞬間、また頭に激痛が走った。
今度はさっきほど強くなかったのと、二回目だったのとで、
顔をしかめる程度で終わった。




—————OH MY GOD!一般人ヲ巻キ込ンデシマッタ!




外国人のカタコトが闇の中で大きく響くだけの
ビジョン(記憶)が見えた。
一体あの声は誰の・・・

「何にせよ、俺は今から京都に行きます。みなさんも後から追い付いて下さい」
「分かった。みなと話し合って決める」

そして俺は、その場を去り、東へ東へと進んだ。












その日の夜、その集落で話しあいが行われていた。

「あの者の言うとおりこの場を離れるべきだと儂は思うのだが、みなはどうじゃ?」
「得体が知れないから止めた方がいいと思います」
「確かに。勇次を救ったとはいえ、他所者。あまり信用しない方が」
「そうじゃのう。それに奴の言い方は少し引っかかるしのう・・・」
「どのあたりが可笑しいのですか?」
「あやつ、まるで過去に起きた人ごとのようにこの戦争を述べおる。
 信じられんが、未来から来たような感じじゃ」
「そうでしたね、言うこと全てが過去形でしたし」
「二人とも、絵空事を言っている場合か!あいつに汚染されているぞ!」
「フム・・・どうしたものかのう?」

そのように、議論が白熱していく中、
ヒタヒタと、その場に近付いて行く一つの姿があった。








                            続く

Re: 未来への脱出 ( No.3 )
日時: 2011/07/03 09:53
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: arQenQl7)

〜四話目〜



前回の話



えっ?原爆投下寸前!?ヤバいって!逃げようよ!
でも集落の人達は動こうとせず・・・



                 ・・・・・・・




「兵庫か・・・」

あの後、夕方からずっと東へと歩き続けていた俺は
ようやく兵庫の明石までたどりついていた。
海のはるか彼方に淡路島と思われる大きな一つの島が見える。
もうすぐ丑三つ時にでもなりそうな時間帯で、
周囲の者が寝静まり、明りが漏れている窓が一切無い闇の中で、
いくら疲れていようとも彼は一人歩き続けていた。
途中足が棒のように感じたが、無理を押して歩き続けると
ランナーズハイのように辛さは無くなっていった。
今自分の頭にあることは、夜明けの空襲前に
少しでも安全な場所へ避難しようとしているだけ。
ところどころ走ったりしていたので、
とりあえず一日目は広島から逃げるだけで
三日ぐらいで京都に着いたらいいやと思っていたが
この調子なら二日で着けそうだ。
かといって、今さら宿を取ろうにも、旅館なんて
ほとんど爆撃で潰されている上、
こんな夜更けに予約を取ることも出来ないだろう。
それよりも一番の問題点として、この時代の金を
もちろんのごとく一銭たりとも持っていないこともあるのだが。

「腹減ったな」

タイムスリップしてから十五時間近く、
何も口にしていない彼の体は、耐えがたい飢えに襲われていた。
幸い水程度なら水道がギリギリ通っている家に
家が焼かれたとか適当なことを言ったりして
恵んでもらったり、一度だけ通った
小川の清流で、衛生面を欠片ほども気にせずに口にしたから
大丈夫なのだが、食料はそう言う訳にはいかない。
この時代は国家総動員法という物があり、
食べ物を含む物資のほとんどは配給制だったから
裕福であろうとなかろうと、余っているところなんて
そうそう見つからない。

しかも、できればここの人達とはなるべく関わりたくなかった。
下手に軍人に見つかると、年齢と性別上、徴兵させられる
可能性が大いにある。
はっきり言ってそれは嫌だ。
もうあと十日もせずに終戦とはいえ、
見知らぬ時代で散ってしまうリスクが高すぎる。

「あいつら、どうしたんだろうな」

ふと勇次たちのことを思い出す。
今になって考えると、無理やりにでも説得して連れてきた方が
良かったのかもしれない。

「きっと、大丈夫だろ」

そうして、ただ時は過ぎていった。












八月六日、原爆が落ちた。
これによる被害は甚大だっとたいう・・・・・








八月七日、俺が歩いていると、新聞売りが
大変だと叫びながら必死に商品たる新聞をなぜか
無料で配っていた。
どうせ、ただ単に広島の悲惨な現状を一刻でも早く、
一人でも多くに伝えるためのものなのだろうが。
そいつが配っている物と全く同じ新聞が地面に落ちていたから拾い上げる。
見出しは、容易に予想出来ていた、キノコ雲の写真だった。
それはいいからと思い、真ん中の方を開く。
そこには、驚愕の光景が映っていた。

それはどこかの集落だった。
正確には、『どこかの集落だった』ものが映っていた。
かといって、その写真をパッと見ただけでは
それがどこの集落かなんて分からない。
別に自分が唯一知っているあれじゃない可能性の方が明らかに高い。
建物はただ、燃え尽きるかがれきになっているかなので、
そんなのどれを見ても同じだ。
だが、彼はすぐに、それが自分が知っているあそこだと分かった。
背景に映っている山が、木が焦げつきているとはいえ、
残った部分を見るとあの集落のバックにそびえていた緑の山の
面影があったからだ。

そこには、住民と思われる人々も横たわっていたという。

「結局、あいつら逃げなかったのか」

また俺は人を救えなかったのか・・・・・












———————また?




「あ!!」



『また』人を救えなかった?
ということは、過去にも誰か人を救おうと・・・・・


目を覚ました時のことを思い出す。
炎を見るのが辛かったこと。
集落に着いたときのことを思い出す。
ありがとうの一言で心が痛くなったことを。

集落で感じた二回の激痛とは、比べ物にならないほど
強い頭痛が一挙に頭を襲う。
頭の裏側に隠されていた記憶を見つけるために
拒絶の壁を無理に崩壊させるような耐えがたい鈍痛。
そういう鈍痛のはずなのに、意識はしかと保たれ、
脳内はよりクリアになっていく。
そして全てを思い出した。

「俺は、1990年、六月三十日生まれ」

これだけは、自分についてに記憶喪失なのに、
唯一覚えていた自分についての知識。
そもそもこれが無かったら自分はこの時代の者かもしれないと
自分でも思っていたことだろう。

「名前は、伊島渉(いしま しょう)」

次々と、記憶はサルベージされていく。

「あの日俺は二十一歳の誕生日だった」

そこでだ、変な外国人に会ったのは。
なんだか、歴史上の偉人に似ていた。

「その四年前、俺は人を救えなかった・・・・・」

次に現れ出たのは、忌まわしき記憶・・・・・










                                  続く




Re: 未来への脱出 ( No.4 )
日時: 2011/07/07 18:03
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /fPmgxgE)

〜五話目〜



「俺の名前は、伊島渉」

1990年、六月三十日生まれ。
現役の大学三年生。
そして、高校時代、俺は、俺は人を・・・・・






—————俺は人を救えなかった




俺が、高校二年のときのことだ。
俺は、父親と母親と三人で暮らしていた。
小さいながらも、都心に立つ一軒家に、近所と仲良く
付き合って暮らしていた。
今でも、その家には家族三人で住んでいる。

そして、その年の冬のことだ。
自分の家の斜め向かいの家が、火事になった。
火事の原因は、元々冬という乾燥した季節の中で
晩御飯に天ぷらでも作ろうとして、
衣を付けてあげているときに、油がはねてしまった。
ただ、はねただけだったら到底火事には結びつかないだろう。
だが、運悪くそのはねた油は少々大きめで、
しかもガスコンロの火の部分に一直線に飛んでいった。
そこでだ、油に火が付き、いきなり火が一瞬だけ強くなった。
いきなりのその出来事に、その家の母親は驚いてしまい、
誤って尻もちをついてしまった。
それが良くなかった。
その尻もちの振動で、油がパチパチと高温を保っている
鍋がひっくり返ってしまった。
そして、今度はその大量の油に火がついて
一気に火が大きくなった。
瞬く間に、台所を包み込むほどに。
これは、後の警察の調査で明らかになっている。

母親は、すんでのところで気がついて、
なんとか台所から逃げ出すことが出来た。
そして、リビングでくつろいでいる夫と
その家にいた五歳ぐらいの息子にそのことを伝えるために
急いでそのリビングまで行った。
だがそこには、子供しかいなかったらしい。
それは後になってその子から聞いた。
母親は、その子に先に家から出るよう指示をした。
物凄い剣幕で言ったのか、必死そうに言ったのかは分からないが、
危険だということは幼いながらその子も感じ取ったのであろう。
父親には母が伝えてくれると信じて、すぐに二人も
逃げだしてくると信じてすぐに家を出ようとした。

だが、出ることは出来なかった。
その家は、玄関を入ってすぐにトイレがあり、
そのすぐ隣が風呂。
そして、風呂の向かい側が台所で
さらに奥にリビングがあり、そのさらに向こう側に
二階に上がるための階段があった。
そして、親は二人とも二階にいた。
それは今は関係無い。
なっぜ、子供が家から出られなかったかと言うと、
リビングから外に脱出するには台所の前を通らなければならず、
その台所からは凄まじい熱気が、豪炎が溢れ出てきて
行く手を阻んでいたのである。
そうして、そこで子供は、恐怖からか泣きだしてしまった。

俺が異変に気付いたのはそんな時だ。
向かい側から子供の泣き声が聞こえてきたので窓を開けてみた。
すると、部屋の窓の一つからはえげつないほどの煙が出ているではないか。
俺はすぐさま、そこに向かっていった。

外に出た時には、もっとすごいことになっていた。
まだ外壁や庭の部分は大丈夫だったが、
ドアが燃え盛っているのである。
窓という窓からは煙が噴き出している。
俺はすぐさま、燃えていないのを確認してから、
ドアの横を素通りし、庭の方に行った。
まだそこには炎は一切来ておらず、
なんとか窓を破って入ることが出来た。
そして、いきなり俺が現れたことに対して
驚いている子供の言うことも聞かずに
俺はすぐに今来た道を引き返し、庭に戻った。

戻った時、ついに火は庭にも浸食していた。
ヤバいと思った俺は、多少の火傷を恐れずに、
一直線に駆け抜けた。
そして、俺がそこから脱出したとき、間一髪のところで家が倒壊した。

「危なかったなー坊主、でもこれであんし・・」
「お母さんが・・・お父さんが・・・」
「何だって!?」

ここで話を聞いてようやく分かった。
この子の親は、まだ中にいたのだと。

そんなことも知らずにこの子だけを見つけて
すぐさま喜んで抜けだした自分を思い出す。
あの時、もう少しちゃんと話を聞いていたら・・・

「ありがとう、優しいお兄ちゃん」

そうして、自虐的な態度で、後悔の念に
さいなまれていた時、男の子はいきなり口を開いた。

この言葉に、どういう意味があったのかは分からない。
普通に感謝しているのかもしれないし、
自分しか助けなかったという、皮肉のような意味で
言ったのかもしれない。
だって、ありがとうと言うには、悲しい顔をしていたから。




そこで、回想は終わった。
そうして、現実に戻る。
だが、今思うことが二つある。
なぜ、タイムスリップしたかについての記憶が戻っていないことと
またしても、助けることが出来なった人達についてだ。
知らず知らずの間に、涙を流していたその時、声が聞こえた。

「あの時の兄ちゃん、なんで泣いてるの?」

その言葉に反応した俺は、顔を上げた。
そこには、勇次の顔があった。
なんで?あいつらは逃げなかったはず・・・そうとしたら、

「幻覚見るなんて結構凄いとこまで来たな、こりゃ」
「大丈夫、頭?何か変だよ」

えらく現実的な言葉が返ってくるが、
そんなの関係無い。だってあいつらはもう・・・

「せっかく逃げてきたのになんて顔してんの?」
「・・・・・えっ?」

逃げ・・てきた?ってことは・・・

「本物?」
「そうだよ」

呆れたような顔つきで、こっちを睨んでくる。
でもなんで・・・・・

「この子のおかげじゃよ」

集落の長老を筆頭にあそこにいた人達が次々と出てくる。
しかし、勇次は一体何をしたのだろうか?

「お前の言うことを聞かん奴らが多くてな。
 その話し合いを聞いていたこの子がみんなを説得したんじゃよ。
 自分を助けてくれたから、信じるに値するって」

驚愕の表情を浮かべて、勇次の顔を見る。
すると、してやったりと言う風な顔つきで
晴れやかに笑った。

「ありがとう、優しいお兄ちゃん」

どこかで聞いたことのあるような言葉が耳に入る。
すると、別の疑問が沸いてきた。

「あの集落で倒れてたの誰?」
「通りかかった人だよ。たまたまね」

なんだ、そう思うと、今度は安堵からか涙が出てきた。
暖かい雫が頬を伝う。

「なんで泣いてるの?」
「昔のことを思い出してさ」

そうして、過去のことを洗いざらい全て言った。
すると、勇次はほんの少しだけ考えて、
すぐに自分なりの答えを出した。

「別に五歳児がそんな皮肉は言わないよ。
 多分、悲しそうな理由は、兄ちゃんが辛そうだったからだと思う。
 助けてくれた人が悲しそうにしてたら、自分の言った言葉のせいって
 思ったんじゃないかな?」

この言葉を聞いた時だ、本当に心が晴れやかになったのは。








                              続く

Re: 未来への脱出 ( No.6 )
日時: 2011/07/25 20:57
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: MCbMbFoh)

六話目





こうして、原爆は広島に落ち、
その三日後長崎にも落ち、八月十四日に日本政府は
ポツダム宣言を受諾、八月十五日戦争の終勅を発表した。





そして、八月三十日。
この日、ある人物の登場でこの国の未来、
そして俺の運命も大きく変わることになる。









「兄ちゃん、新聞だよ」

終戦し、連合国の支配下に置かれていても、
(少なくともこの作中では)民間はほとんど自由で、
新聞社はそういうのを配っていた。
そこには、でかでかとこんな見出しがあった。

『日来部令司軍国合連』

読みやすくすると、連合国軍総司令部来日、だ。
ようするにアメリカとかからお偉い方がやってきた。
これに対し、あまり日本人はいい印象を持たなかった。

そうすると、いきなり今自分たちが間借りしている部屋のドアを
ノックする音が聞こえた。
一体誰だ?そう思いながらドアを開けると、そこには
外人の、しかも老人がいた。

「えーと、どちら様でしょ・・って・・・ああっ!!」

瞬時にお久しぶりのあの頭痛が脳天を襲う。
久々の、突然すぎるその来訪は一気に俺の膝を折らせた。
脳の奥底を鋭い針で抉られるような鈍痛。
だけど、以前同様に、過去の記憶は鮮明に蘇り、
頭の中は驚くほどクリアになっていく。
そして俺は失っていた最後の記憶を手に入れた。
でもそこには何か意味が分からないことが・・・・・

「あんたは・・・この時代の人間だな」
「ソウデス」

どこかで聞いた外国語なまりしたカタカナ言葉が響く。
奇妙な色彩が轟く空間で、自分のミスを思いっきり叫ぶビジョンの声と
そっくりそのまま同じだった。
しかも、その風貌は現代と過去である今とのタイミングで
全くと言っていいほど一致していた。
まるで、歳の差を感じさせないような・・・

「なんでだ、あんた・・・歴史上の存在がなんで現代に・・・」

この人間を最初に見たのは、中学校の時の話だ。
歴史の教科書に、白黒でこの人間の写真が載っていた。
横に映っていたのは、昭和天皇。

「もしかしてあんたの名前は・・・」
「ワタシノナマエハ・・・」






——————連合国軍総司令部の長、マッカーサー





「どういうことだ、説明しろよ!」

なんだ?タイムスリップでもこいつは出来るのか?
いや、そんなことはあるはずがない。
どこの方をどうやったらタイムスリップなんて出来るんだよ?
こいつは確かに、俺の生きている時代で俺と出会い、
そのまま何か二言三言喋った。
その後の話だ、こいつが歩き出したのは。
マッカーサーは助かったとだけ言って俺の、
質問に対する答えに感謝して歩いていこうとした。
そのまま俺も帰ろうと思った時だ。
こいつが角をまがった時にハンカチを落とした。
それを渡そうと走っていった時のことだ。
いきなり、世界は極彩色で包まれた。
そうかと思った次の瞬間にはそれは毒々しい色に変わっていた。
そうして、次々と俺の意識と記憶は薄れていった。
何もかもを忘れ、眠りに落ちそうになった時に
この人の叫び声が聞こえたのだ。

「キミハキオクガモドッタノカイ?」
「おかげさまでね」

俺は、皮肉をこめてそう言ったが、
そうそう日本語を理解していない外国人は顔をしかめた。
それよりも、もっと詳しいところの説明を・・・

「単刀直入に言う。私にはタイムスリップの能力がある」

いきなり、彼の顔が真剣になる。
それに合わせて変な日本語も普通に日本人が使うように
流暢なものになった。

「いい年こいて夢見るなよ。何を言って・・」
「じゃあ君は、なぜこんなところにいるんだい?」
「なんでって・・・逃げて来たんだよ!」
「場所じゃない。時代の事さ」

その言葉は、重く鋭く心に突き刺さった。
確かに、こんなことでも言いださない限り説明なんて出来る訳・・・

「私も初めてタイムスリップしたときは記憶を失った。
 だが、皮肉なことに知識と出身の国と生年月日だけは覚えていた。
 そうして、事件から生き延びた時には記憶は全て戻っていた」

今の自分と全く同じだ。
でも、今の話を聞いて思ったことがある。
今この人はそんなことが出来る。
じゃあ昔はどうだったのだろうか?

「記憶が戻ったならさっさと帰れば良かったじゃないか」
「それは無理だ。時の回廊を二回通りぬけないとこれは身に着かない。
 逆に言うと、何かの手違いでタイムスリップすると、
 元いた時代に帰ると同時に力を手に入れてしまうのだ」

と、いうことはだ。
俺はこの時代に残るか、帰ってその変な力を手に入れるかの二択だ。

「これも良いことばかりではない。自分の死期を知ったら
 何もかもが恐ろしくなる。私も見てしまった。
 えーと、いつだったかな?」
「・・・・・(馬鹿だ)・・・・・」

いや、それはいいことなのかもな、そう思って目を閉じた。
































—————決めた、俺は未来に帰る。








                           続きます






残すところあと一、二話です


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