複雑・ファジー小説
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- 獣妖過伝録(7過完結)
- 日時: 2012/09/08 14:53
- 名前: コーダ (ID: hF19FRKd)
どうも〜!私、コーダと申します!
初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!
え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。
只今、超ゆっくり更新中……。
コメントもどしどし待っています。
では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。
※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!
————————————————————————
「お腹すいたなぁ……」
輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。
「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
ただひとつ。
狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。
100本の蝋燭。
大量の青い紙。
そして、青い光に二本の角。
————青の光と狐火
恵み豊かな海。
手漕ぎ船。
蛇のような大きな体と、重い油。
————船上の油狐
それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
星空の下、男女の狐が出会う。
————霊術狐と体術狐
そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」
獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
不思議な放浪記が幕をあげる。
【獣妖記伝録】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
竿が反れる。
妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」
————————————————————————
・参照突記伝録
「1800突破しましたね。嬉しいことです」
・読者様記伝録
ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
狒牙さん(IFを執筆している方です。)
木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)
・感鑑文記伝録
水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)
・宣伝文記伝録
秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)
・絵描様記伝録
王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>20 >>48 >>99
・作成人記伝録
講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)
・異作出記伝録
ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)
・妖出現記伝録
青行燈(あおあんどん)
小豆洗い(あずきあらい)
アヤカシ(”イクチ”とも言う)
磯撫(いそなで)
一本ダタラ(いっぽんダタラ)
犬神(いぬがみ)
茨木童子(いばらぎどうじ)
後神(うしろがみ)
産女(うぶめ)
雲外鏡(うんがいきょう)
煙々羅(えんえんら)
大蝦蟇(おおがま)
大天狗(おおてんぐ)
骸骨(がいこつ)
貝児(かいちご)
烏天狗(からすてんぐ)
九尾の狐(きゅうびのきつね)
葛の葉(くずのは)
管狐(くだぎつね)
懸衣翁(けんえおう)
牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
酒呑童子(しゅてんどうじ)
女郎蜘蛛(じょろうぐも)
ダイダラボッチ
奪衣婆(だつえば)
土蜘蛛(つちぐも)
鵺(ぬえ)
猫又(ねこまた)
野鎚(のづち)
波山(ばさん)
雪女(ゆきおんな)
雪ん子(ゆきんこ)
妖刀村正(ようとうむらまさ)
雷獣(らいじゅう)
笑般若(わらいはんにゃ)
・獣妖記伝録
1記:青の光と狐火 >>1
2記:船上の油狐 >>5
例1記:逢魔が時 >>10
3記:霊術狐と体術狐 >>11
4記:蝦蟇と狐と笑般若 >>15
例2記:貝児 >>27
5記:牛馬と犬狼 >>30
6記:産女と雌狐 >>34
例3記:ダイダラボッチ >>38
7記:蜘蛛と獣たち 前 >>43
8記:蜘蛛と獣たち 後 >>51
例4記:小豆洗い >>52
9記:雪の美女と白狐 >>53
10記:墓場の鳥兎 >>55
例5記:葛の葉 >>58
11記:天狗と犬狼 >>64
12記:狐狸と憑依妖 >>74
例6記:日の出 >>75
13記:雷鳥兎犬 >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐 >>84
例7記:煙々羅 >>87
15記:櫻月と村汰 >>93
16記:神麗 琶狐 >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁 >>100
17記:天狗と鳥獣 前 >>104
18記:天狗と鳥獣 中 >>105
19記:天狗と鳥獣 後 >>112
例9記:九尾の狐 狐編 >>106
20記:温泉と鼠狐 >>113
21記:犬神 琥市 >>121
例10記:九尾の狐 犬編 >>120
22記:天鳥船 楠崎 >>128
例11記:九尾の狐 鳥編 >>133
23記:鬼と鳥獣 前 >>136
24記:鬼と鳥獣 後 >>140
例最終記:九尾の狐 獣編 >>141
25記:鳥獣と真実 >>151
・獣妖過伝録
1過:8人の鳥獣 >>159
例1現:不埒な者たち >>164
2過:2人の狐 >>163
例2現:禁断の境界線 >>166
3過:修行する者 >>165
例3現:帰りと歴史 >>167
4過:戦闘狼と冷血兎 >>168
例4現:過去の過ち >>169
5過:鳥の監視 前 >>170
例5現:起源、始原、発祥 >>171
6過:鳥の監視 中 >>172
例6現:探し物 >>173
7過:鳥の監視 後 >>174
例7現:箒に掃かれる思い >>175
・獣妖画伝録
>>76
>>119
- Re: 獣妖過伝録 ( No.171 )
- 日時: 2011/12/04 01:38
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: izFlvzlp)
〜起源、始原、発祥〜
とある古い神社。
空は周りの森林によって見えにくかったが、太陽の光線が森の隙間から入ってきているので晴れていると判断できる。
風も吹いておらず、かなり静かであった。
「あぁ〜……だるいなぁ……」
神社から聞こえてきたのは、思わずこちらも脱力しそうな声。
縁側に座る1人の女性。左足を地面につけていたが、右足は縁側にのせていたので正面から見ると、見事にはしたない姿。
彼女の周りには大量の巻物が散らかっており、正直に言うと扱いは悪かった。
頭には灰色の2つの耳が生えており、とても細い1本の尻尾も生えている。
黒色の髪の毛は、肩までかかるくらいの長さで、前髪は右目を隠すくらい長い。
だが、左目の輝く灰色の瞳はとても力強い印象を与える。
やや暗い赤色の着物を着用していて、右手には十手(じって)を持っている。
そして、どこか争いごとを何度も経験している雰囲気を漂わせる。
「やっぱり、あたいに書物をあさることは向いてないねぇ……」
自分の周りに散らかっている巻物を見つめて、思わず言葉を呟く鼠女。
書物をあさることが嫌いな彼女が、こんなに大量の巻物を読む理由——————
「あたいが望む資料を探せばそれだけで良いのに……多すぎるんだよねぇ」
どうやら、ある資料を探していた彼女。
しかし、その資料の所在が明確に知らされていないのか、巻物を全て調べているように見える。
右手に持っていた十手をそこら辺に投げて、右手に1巻、左手に1巻の巻物を持ち器用に2つ読む鼠女。
だが、ものの5秒くらいで巻物をそこら辺に投げ捨て、自分の頭を両手で掻きまわす。
「あ——!面倒だぁ——!」
昼間の縁側で叫ぶ彼女。
その声はあまりにも大きかったのか、森で休んでいた烏か何かは一斉に飛び上がる。
鼠女は乱暴に、周りに置いてある巻物をどけて仰向けになる。
細い尻尾を動かし、一応何かを考える彼女——————
「——————さん……あまり書物を乱暴に扱わないでください……」
不意に、誰かから声をかけられる鼠女。
仰向けの態勢か一気に起き上がり、また縁側に座る彼女。
「あまりその名前は言わないで欲しいねぇ……自分で言うのもけっこう面倒な名前だし……」
妙に真剣な顔つきで、傍に居た誰かに言葉を飛ばす鼠女。
「そう……ですか。では、なんて呼べばよろしいのですか?」
傍に居たのは自分より、少し年下な女性。いや、少女と言った方が良いだろう。
背中に灰色の大きな翼をつけて、巫女服を着ている。
黒色の髪の毛は、腰にかかるくらい長く、可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿をしていた。
前髪もけっこう目にかかっており、その瞳は藍色に輝いている。
おしとやかな雰囲気とどこか清らからで、安心する雰囲気も同時に漂わせている。
巫女服を着用にするにはとても良い体つきで、無駄な胸は一切ない。正に巫女の中の巫女である。
「そうだねぇ……——————でよろしく」
口元を上げて、明るく言葉を呟く鼠女。
「分かりました。——————さん……所で、お目当ての物は……?」
鳥巫女が鼠女に尋ねる。
すると、彼女は辟易(へきえき)した表情を浮かべ、
「全く見つからないよ。良かったら手伝ってくれないかい?」
「……どういう資料を探しているのですか?」
「……武士と刀の起源、始原、発祥かな」
ほぼ同じ意味の言葉を3つ呟く鼠女。
鳥巫女は艶やかな黒髪を揺らして、くすくす笑う。
「同じ言葉を繰り返さなくても分かります」
「ん?そうなのかい?」
「そうですよ……では、お茶を飲みながら一緒に探しましょう」
少女はお茶の用意をするために、ひとまずこの場を後にする。
鼠女は大量の巻物を縁側から、部屋へ運び鳥巫女が来るのを待つ。
「……まだまだ、——————は続きそうだねぇ」
- Re: 獣妖過伝録 ( No.172 )
- 日時: 2011/12/11 18:55
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: DvB6/ADf)
〜鳥の監視 中〜
道端に倒れる猫。
右頬には平手打ちされたかのような跡がついていた。
猫の傍には9本の尻尾を、激しく動かす狐が居た。
その表情はとても険しく、どこか人とは思えない雰囲気を出している。
だが、猫も2本の尻尾を動かして狐を睨みつける。
憎しみ、怒り、絶望——————そう瞳が訴えていた。
狐は眉を動かして、拱手をする。
猫の瞳に若干辟易(へきえき)していたのだ。
すると、狐はゆっくり口を開く。
——————“汝、なにがあったのじゃ”。
○
「神楽(かぐら)!東花(とうか)!何をしているのです!はやく、その狼を連れてくるのです!」
朝から森の中で声が響く。
その声で、木の枝に止まって寝ていたのか休んでいたのか分からない鳥たちが、一斉に飛び立つ。
「うむむ……」
森の中で声を出したのは、1人の女性だった。
頭には灰色の2つの耳ととても細い1本の尻尾を生やしている。
灰色の髪の毛は二の腕につくくらいの長さで、前髪は目にかかっていない。
目が悪いのか四角いメガネをかけていて、その瞳は灰色に輝いている。
これといった特徴がない和服を着ているが、右手にはなぜか巻物を持っているのが印象的である。
「佳鼠(かそ)は本当にわがままですね」
森の奥から1人の女性が、溜息をしながら言葉を呟く。
頭にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾を持つ。
灰色の髪の毛は腰まで長かったが、紐かなんかで総髪(そうがみ)にしている。
前髪は目にかかっておらず、瞳は灰色に輝いている。
和服を着て、さらにそのうえに羽織を着用するというかなり動きにくそうな姿。
極めつけに、腰には1本の刀をつけている。
「乱暴な狼を扱うなら、犬か狼に決まっているのです!鼠が出る時ではないのです!」
メガネを右手で上げながら、東花という犬の女性へ言葉を飛ばす。
「まぁ、それはそうですけど……私と神楽お姉さまより先に歩かないでください」
立派な総髪を揺らしながら、冷静に台詞を言う。
佳鼠は不機嫌な顔つきで、東花を睨みつける。
「……いつまで、拙者をこのままにしておく?」
2人の背後から聞こえてくる男の声。
さっぱりするくらい短い灰色の髪の毛。当然、前髪は目にかかっていない。
頭にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、青緑色の瞳はとても恐ろしい眼光を飛ばしている。
男性用の和服を乱雑に着用して、普段から暴れることが好きなことを伺わせる。
腰には立派な刀をつけており、数々の者を斬り殺した雰囲気を漂わせる。
東花と佳鼠の瞳に映っていたのは狼男である。
「しばらくはこのままだねぇ〜……お前さんの行った行為は、ちょっと見離せないからさ」
その狼男の背後から、また1人の女性が現れる。
頭にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾を持っている。
灰色の髪の毛は首くらいまでの長さで、前髪は目にかかる程度の長さ。
上半身は羽織だけを着用しているだけで、あとは胸にサラシというかなり露出の激しい姿。
下半身は巫女が履きそうな赤い袴を着ている。
極めつけに、その鋭い眼光は正に獲物を狙う狼を連想させる。
「拙者の邪魔をするな……これ以上邪魔をしたら、そなたの首が飛ぶぞ……!」
「へぇ〜……1度あたいに負けているのに、まだそんな口が聞けるんだねぇ」
狼同士睨み合い、言葉を飛ばす。
そのようすは、非常に緊張感があり他人が入れるような状況ではなかった。
現に、佳鼠は細い尻尾を挙動不審に動かして雰囲気を感じ取っていた。
「と、東花!この男の腕を紐かなにかで、縛った方が良いのです!」
「いえ、その必要はありません。何かあったら神楽お姉さまが対処してくれます」
東花は神楽のことを完全に信用しているような言葉を呟くが、よく考えると他力本願(たりきほんがん)な所がある。
「あんまりあたいに期待しないでおくれ。万が一の可能性もあるんだよ?」
「神楽お姉さまがやられるところを、私は見た事がありません。だから、大丈夫です」
東花の強い押しに、神楽は何を言ってもだめだと判断して、無言になる。
実際、神楽の力は未知数なところがある。
——————傍に居る狼男を止めた時の刀捌き。とても、初めて触れたような動きではなかった。
だが、彼女は自分の爪を武器にしている。
「さて、そろそろ来ると思うのです」
佳鼠は巻物を見つめながら、神楽と東花へ台詞を飛ばす。
「誰が来るんだ?」
狼男は眉間にしわを寄せながら、言葉を呟く。
しかし、それに答える者は誰も居なかった。
——————遠くの方から、草が揺れる音が聞こえる。
明らかに、誰かが歩いて生まれた音。4人は耳をピクリと動かして、その方向を見つめる。
「やっと来ましたね」
先に声を出したのは東花。その表情は若干柔和(にゅうわ)である。
4人の目に映ったのは、巻物を持った男性。
肩までかかるくらい長い黒い髪の毛で、前髪は目にかかっており、ぱっと見た感じ女性に見える顔立ち。
左目には片メガネのモノクルをつけていて、少々知的な感じを受ける。
背中には灰色の大きな翼をつけていて、今にでも大空へ羽ばたくような雰囲気を漂わせる。
右目の瞳は深海みたいに青色で、左目は血を連想させるように赤かった。
男性用の和服の上に羽織を着ていて、その姿は思わず拝みたくなってしまうくらい。
極めつけに錫杖(しゃくじょう)を持ち、遊環(ゆかん)を鳴らして妙な雰囲気を漂わせる。
「須崎(すざき)!遅いのです!」
佳鼠の口から出てきた名前。
そう、4人の目に映っていた鳥男は天鳥船 須崎(あめのとりふね すざき)だった。
「おや?こちらは、予定より早めに到着したのですけど……」
「女は気が早いのです!到着時間より早めの来るのが普通なのです!」
「なるほど、それはすみませんでした」
優しい表情を浮かべながら、佳鼠と会話をする須崎。
何を言われても表情を変えない鳥男。将来良い夫になれそうだった。
「そして、今回の件は……こちらの狼男さんですね?」
「あぁ、たまたまあたいが見つけてとっちめてやったよ」
須崎は大きな翼を動かして、狼男を興味深く見つめる。
その視線に嫌気がさしたのか、狼男は鋭い眼光で見つめ返す。
「なんだ……?」
「紹介が遅れました。こちらは天鳥船 須崎と言います」
呑気に自己紹介をする須崎。それほど、余裕なのだろう。
「ふんっ……良く分からん鳥だ」
「良く言われます」
薄く笑う須崎。
佳鼠、神楽、東花はこのようすをただただ見つめるだけだった。
「それにしても、刀を持っているなんて珍しいですね」
「これは拙者の刀……村汰(むらた)だ」
この言葉に、神楽と東花の耳と尻尾がピクリと動く。
「へぇ〜……自分の刀を持っているのかい?お前さん」
「意外ですね」
この2人が言葉を漏らした理由——————それは、2人も自分の刀を持っているからである。
犬浪 東花(けんろう とうか)の刀は打刀(うちかたな)で、その名前は長智(ながさと)。
そして、狼討 神楽(ろうとう かぐら)も刀を持っており、野太刀(のだち)を使う。その名前は牙狼(がろう)。
余談だが、狼男の刀は長さ的に太刀(たち)くらいである。
「刀は誰かを守る物……そう、言い伝えられていますが……そちらは、誰かを守りたいから持っているのでしょうか?」
「誰かを守る?馬鹿馬鹿しい……そんな物の為に刀を使っている奴は分かっていない。刀は……人を斬るための物だ」
刀は人を斬るための物——————
本来、刀は人を守るために作られている。だが、この狼男はそんな思いは一切ない。
神楽の牙狼は全ての獣人を守るために使っており、東花は神楽を守るために使っている。
「この男が言っていることは本当みたいだねぇ。現に、あたいはそれを目撃したからさ」
腕組をしながら、言葉を飛ばす神楽。
「なぜ、そんな思いで刀を持っているのでしょうか?」
「血を見たいからだ……人間ならいくら殺しても良いだろう?ただ、拙者は血を見ると意識が薄くなり獣人も斬るがな……」
「人間を殺すのはありがたいけど、自分を制御できないんじゃねぇ……」
神楽は浮かない表情をしながら、狼男に言葉を飛ばす。
「精神面で鍛えられていないということですか?神楽お姉さま」
「まず、この男は誰かを守るために刀を持っていないのが危ないのです!」
散々な言われようである。だが、そんな言葉に聞く耳を持たなかった狼男である。
「……例え助けを求めている少女が居ても、その刀で助けることはしないと?」
「当然だ。拙者の刀をなんだと思っている……」
須崎の例えが、なぜ少女限定なのかということに疑問を抱く佳鼠。
だが、今聞いても仕方ないので軽く流す。
「前にあった兎の女性と近い雰囲気を感じますね……これは、参りましたね」
持っている錫杖を鳴らし、須崎は少々厳しそうな表情を浮かべる。
それを察した佳鼠は、須崎に一言言葉をかける。
「どうするのです?佳鼠たちはこの男と行動はしたくないのです」
「……それは堪狸(たんり)たちもそうでしょう。だから、参っているのです。誰か暇な人が面倒を見てくれれば……おや?」
須崎はモノクルを光らせて、あることを思い浮かべる。
「どうしたのです?須崎」
「九狐(きゅうこ)が居るじゃないですか。丁度彼女は暇ですよ?」
そう、須崎の脳内には神々しい尻尾が9本もある九尾の狐。宮神 九狐(ぐうじん きゅうこ)が再生された。
「では、九狐にこの男を任せるのです!」
「ついでに、須崎が言っていた兎の女性も九狐の所へ移動させましょう」
佳鼠と東花の言葉が同時に飛ぶ。
須崎は2人の言葉を一言一句聞き逃さなかった。
「貧乏くじをひかせてすみませんね。九狐」
「今謝罪しても意味ないと思うよ?それに、須崎はこれから九狐の所へ向かうんでしょ?丁度良いじゃないか」
神楽は羽織を翻(ひるがえ)しながら、言葉を飛ばす。
その姿は、とても凛々しかった。
「では、そうと決まったらこのことを九狐へ報告しておきましょう……」
「道中は気をつけるのです」
佳鼠の忠告に須崎は薄く笑う。
そして、鳥男はこの場を後にする。
「これでなんとかなりますね」
「そうだねぇ……」
東花の言葉を浮かない表情で返す神楽。
そして、自分の傍に居る狼男を見つめ、
「そういえば、お前さんの名前を聞いていなかったねぇ……」
「なぜ聞く?」
「いやぁ、別に〜」
両手を頭の裏に持っていき、神楽は深い意味はないことを主張する。
佳鼠と東花は彼女の行動に疑問符を浮かべる。
「(神楽お姉さま……一体何を……?)」
「(佳鼠に言われても仕方ないのです!)」
2人でぶつぶつ会話をする。狼男はそれを耳に入れながら、神楽へ台詞を言う。
「……拙者は正狼 村潟(せいろう むらかた)だ」
「へぇ〜……まぁ、どうせあたいたちとはもう行動しないし関係ないけどねぇ」
神楽は笑いながら、佳鼠と東花の肩に手を乗せる。
「じゃ、あたいも用事を思い出したからしばらく任せるよ?」
この言葉を言った直後、神楽の姿はなかった。
「な……佳鼠は許可を出していないのです!」
「……神楽お姉さまは一体どこへ?」
大声で騒ぐ佳鼠と冷静な東花。
狼男の村潟は、左手で刀の根元を持ちどこか落ち着きがなかった——————
- Re: 獣妖過伝録 ( No.173 )
- 日時: 2011/12/20 00:14
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: SEcNJIKa)
〜探し物〜
今回の件は全く役に立ちませんでした。しかし、私は——————の言葉を信用したいと思います。
だが、この決断はとても覚悟のいる行為……私は、貫き通せるのでしょうか?
まぁ、ここでこんなことを書いても仕方ありませんね。今は考えましょう。
「違うねぇ……」
今日は面白い人に出会いました。その人の名前は——————と言います。
普通の狼と違って、本能に忠実と言いますか……なんと説明していいのか分かりませんね。
ですが、あの狼には隠された実力があると思います。あの刀がそう言っています。
「これは……ちょっと違うねぇ」
——————の案内で、私は兎の——————と出会いました。
あの冷たい瞳……一体、どういう出来事があったのでしょうか?
そして、大きな弓……下手したら私の翼が射抜かれていたでしょう。
っと、変な終わり方ですね。
「あぁ〜!違う、違う!」
——————が面倒を見る狐……それにしても、どうしてあんな状態になったのでしょうか?
まぁ、考えられる要素は1つしかないのですがね……人間でしょう。
あの狐は、人間に何をやったのでしょうか?少し、問いただしてみましょうか……
「次のない?」
刀を持つという事は、正義の心があるということ……つまり、正義の心は犬と狼が1番ある……
そう、言ったのは——————と——————でした。
間違っているようで、どこか納得してしまう一言ですね。私は、誰が持っても変わらないと思うのですが……
ですが、刀を持っているのは犬か狼ばかり……まさか、本能で刀を持っているのでしょうか?
何を伝えたいのかが分かりませんが、あくまでこれは私の執筆物だから問題ないでしょう。
「へぇ……」
今日、武士という役職が出来上がりました。その条件は犬と狼……なぜ犬と狼かというと——————
「なんだい!?破れていて読めないじゃない!」
- Re: 獣妖過伝録 ( No.174 )
- 日時: 2012/01/09 14:25
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: ZdG3mpMH)
〜鳥の監視 後〜
九尾の狐は拱手(きゅうしゅ)をしながら、絶句する。
2本の尻尾を持つ猫の話が、予想外に重たい思い出だったからである。
9本の尻尾を揺らしていたが、それはどこか挙動不審という言葉を表すかのように揺れていた。
喉を鳴らしながら、唸る九尾の狐。
軽く話を聞いて、無視しようと思ったらとても無視できない内容。
人間たちの非情な一面が垣間見える。そう九尾の狐は感じた。
だが、ここから自分はどうすれば良いのかが分からなかった。
——————猫の少年に手を差し伸べる?
——————やはり、猫を無視しておく?
妙な葛藤が、九尾の狐に襲ってくる。
しかし、猫はずっとこっちを睨む。
それはまるで、獲物を狙うかのような眼差し。
そして、九尾の狐はゆっくり口を開く。
——————「わらわは、妖怪じゃ。それでも、良いのじゃな?」
○
「ようやく到着しましたね」
1人の男が、目の前の古い建物を見つめ安堵の表情を浮かべる。
肩までかかるくらい長い黒い髪の毛で、前髪は目にかかっており、ぱっと見た感じ女性に見える顔立ち。
左目には片メガネのモノクルをつけていて、少々知的な感じを受ける。
背中には灰色の大きな翼をつけていて、今にでも大空へ羽ばたくような雰囲気を漂わせる。
右目の瞳は深海みたいに青色で、左目は血を連想させるように赤かった。
男性用の和服の上に羽織を着ていて、その姿は思わず拝みたくなってしまうくらい。
極めつけに錫杖(しゃくじょう)を持ち、遊環(ゆかん)を鳴らして妙な雰囲気を漂わせる。
鳥男は、建物の中へ入るためゆっくり足を進める。
「しばらく会っていなかったですが、元気にしているのでしょうか?」
翼をゆっくり動かし、どこか微笑ましい表情を浮かべる。
辺りを見回し、改めて建物が立っている場所を再確認する。
深い森に覆われており、太陽の光を遮断するくらいの深さ。
雑草も膝丈くらい生えており、隠れようと思えば隠れられる。
建物は鳥居のない神社のような作り。実際、大昔は神社だったのかもしれない。
——————ところどころ、地面には焼き焦げたような後がある。
鳥男はその地面を見つめる。
「これは……」
焼き焦げた地面から不思議な力を感じ取る。
明らかに、木を集めて着火したようなものではなかった——————
そして、何かを察したのか鳥男はモノクルを輝かせて、
「九狐(きゅうこ)ですね」
誰かの名前を呟く。
そして、何事もなかったかのように建物へ向かう。
○
「お待ちしていました。天鳥船 須崎(あめのとりふね すざき)さん。九狐様がお待ちしております」
建物に入った瞬間、鳥男は1人の白狐の女性と出会う。
腰まで長い灰色の髪の毛で、頭の上にはふさふさした2つの耳と1本の白い尻尾。
前髪は目にかかっており、その瞳で見つめられると思わず胸が躍ってしまう。
普通の和服を着ているだけなのに、その姿はとても艶めかしい。
正直、大和撫子という言葉が似合っている。
「毎回出迎えありがとうございます。葛の葉(くずのは)」
「いえ、私は当たり前のことをやっているだけです。九狐様のお役に立つ数少ない仕事ですから」
2つの耳をピクピク動かしながら、微笑む葛の葉。
「あなたは、将来良い妻になりそうですね」
「お世辞でも、嬉しい言葉です」
須崎の言うとおり、葛の葉は妻になっても問題ないと思う。
むしろ、彼女と婚約できた男性は贅沢すぎるだろう。
「では、九狐の所へ案内してください」
「はい、分かりました」
2人は縁側を歩き、九狐と呼ばれる者が居る場所へ向かう。
その際、須崎は葛の葉の後ろ姿を薄く笑いながら見つめていた——————
○
「九狐様。須崎さんがお見えになりました」
若干開けにくい襖を開けて、葛の葉は部屋の中に居た2人程の狐へ言葉を飛ばす。
「ようやく来たようじゃな。須崎」
部屋の中で拱手をして言葉を呟くのは、妖艶な狐の女性。
頭には、ふさふさした2つの耳があり、なんと、黄金に輝く金色の尻尾が9本もあった。
髪の毛も、黄金に輝く金色で、腰くらいまである長さだった。
巫女服に包んだ体は、とても神々しくて、思わず頭を下げたくなる。
さらにその姿は、非常に女々しく、おしとやかで、艶めかしかった。
「むっ、あの鳥は誰だ?九狐」
同じく部屋の中で頭に疑問符を浮かべるのは、普通の狐の少年。
首くらいまで長い黒い髪は、とても艶やかで前髪は目にけっこうかかっている。
頭にはふさふさした2つの耳と1本の神々しい金色の尻尾が揺れていた。
凛々しい表情から見える黒紫色の瞳は、どこか怪しさと不思議な威圧感を持っていた。
男性用の和服をきっちりと着用して、普段から神経質なところが伺える。
だが、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「あれは……まぁ、わらわの知り合いじゃ」
どこかぼやかしたような説明をする九尾の女性。
深く知られてはまずいことがあるのだろう。
だが、狐の少年はそんな説明をただただ鵜のみしているだけだった。
「こうやってお話するのは初めてですね。こちらは天鳥船 須崎と言います」
須崎は慇懃(いんぎん)に自己紹介をする。
どこか不思議な雰囲気に飲まれる狐の少年。
彼は少し硬直してしまう。
「ほれ、何を固まっておるのじゃ?妖天(ようてん)」
九尾の女性に背中を叩かれる。
妖天と呼ばれた少年は、気を取り戻し慌てながら、
「わ、われは詐狐 妖天(さぎつね ようてん)……きゅ、九狐の世話になっている」
どこかぎこちない挨拶。この場に居た皆は声をあげながら笑う。
「何をそこまで緊張しているのじゃ?わらわの時は、馴れ馴れしく名前を呼んだのにのぉ〜」
「おや、そうなのですか?」
「九狐様。それ私初耳です」
しばらく、4人は楽しい雑談をする。
妖天もすぐに須崎の雰囲気に馴染んだのか、いつも通りの口調で言葉を交わすようになる。
そんな狐の少年を、九尾の女性——————九狐はどこか羨ましそうに見つめる。
「さて、なぜ須崎がわらわの元へやってきたのじゃ?」
ようやく、本題へ移る九狐。
鳥男は、モノクルを輝かせ薄く笑う。
「いえ、少し様子を見に来ただけですよ。深い意味は、本当にありません」
「ほう……まぁ、元々汝はその仕事だしのぉ〜」
右手でこめかみを触りながら、頬を上げて笑う九狐。
彼女のそんな微笑みに、妖天はどこか胸が落ち着かない。
妖艶(ようえん)で美しい九尾の狐。少し、躍ってしまうのは仕方がないことだ。
葛の葉にはない、どこか余裕そうな雰囲気もまたたまらなかった。
「(やはり、九狐は美しい……我の胸が躍ってしまう……)」
尻尾を挙動不審に動かし、気持ちを押さえる。
——————ふと、須崎は狐少年の尻尾に気がつく。
「おや、どうしました?尻尾が揺れていますよ?」
咄嗟に、妖天の2つの耳がピクリと動く。
心の気持ちが隠せていても、尻尾の気持ちを隠すことができない。それが獣人。
ある意味、鳥人だけはそこら辺便利である。
「い、いや……我は別に……」
「ん〜?どうしたのじゃ?」
九狐は顔を妖天に近づける。
整った顔立ち、どこか魅了されそうになる狐目。
狐少年の尻尾は、先程と同じような動きになる。
「はは、もしかすると君は九狐に胸が躍っているのでしょうか?」
須崎が冗談でそう呟くが、妖天は黙ってしまう。
図星だったようである。
「よ、よさんか……わらわはそれなりに歳を取っている……汝には、葛の葉が1番お似合いじゃ」
九狐は頬を赤く染めて、葛の葉の背中を押す。
妖天の目の前には、若くて美しい白狐の女性。
だが、少年狐の尻尾は途端に動きを止める。
「あら……」
あまりの気持ちの切り替えの早さに、葛の葉は右手を口へ持っていき驚く。
どうやら、若い娘よりも少し経験が豊富な女性が好みな妖天である。
「なぜ止まるのじゃ……汝は、わらわに魅力を感じているのか?」
「はは、そのようですよ九狐」
遊環を鳴らしながら、須崎は九尾の女性へ言葉を飛ばす。
「我は……その、九狐の雰囲気が好きだ……」
「わらわの雰囲気じゃと……?」
どこか人獣とは思えない不思議な雰囲気。
妖天はそこに惹かれたようである。
「九狐様は、他の狐よりも少し異端ですからね」
葛の葉は微笑みながら、言葉を漏らす。
「こりゃ、葛の葉……!」
九尾の女性は、口を滑らせる葛の葉へ飛ばす。
須崎も一瞬戸惑うが、妖天が特に反応していないことを確かめるとすぐに落ち着きを取り戻す。
「こほん……妖天、こめかみを触ってよ〜く考えてみるのじゃ……わらわよりも葛の葉の方がずっとずっと良いと思うぞ?」
一応、忠告みたいな言葉を呟く九狐。
妖天は自分のこめかみを触り、深く考える——————やはり、葛の葉よりも九狐の方が魅力的で自然と目がそっちへ行ってしまう。
「な、なぜじゃ……」
「はは、これは参りましたね。九狐」
「なんでしょうか……少し、悔しいです」
須崎と葛の葉は一言呟く。
しばらく4人で雑談をするが、九狐はずっと妙な気持ちだった。
自分がそこまで魅力があるのか、ずっと頭に疑問符を浮かべる。
いくら九狐でも、こういう時はすぐに解決できなかった。
「さて、こちらはそろそろ席を外しましょうか……」
「むっ?行くのか須崎?」
遊環を鳴らし、須崎は九狐へ言う。
すると、2人は少し妖天と葛の葉から距離を置き、
「(九狐、あなたにはもうしばらくこの役目を担っていただきますね)」
「(どういうことじゃ?)」
「(そのうち分かりますよ。後、この状態がもっと大変になるということだけは言っておきます)」
「(……?)」
須崎の言葉に九狐は少し嫌な予感を感じる。
だが、あえて理由は聞かなかった。どうせ、これからそうなるのだから。
妖天と葛の葉はそんな2人を見つめながら、尻尾を動かす。
「では、失礼しました」
薄く笑い、須崎はこの場を後にする。
九狐は特に見送らず、妖天と葛の葉が居る方向へ振り向き、
「須崎は不思議な奴じゃが、嫌わないでくれ。あいつは少し考え方が異端じゃからな」
「そうなのか……」
妖天は納得する。尻尾の動きから、嘘はついていなかった。
葛の葉はにっこり微笑み、立ち上がる。
「それでは、妖天さんと九狐様は修行の続行ですね」
葛の葉はこの場を後にする、九狐は苦笑しながら彼女の背中を見つめる。
「(なぜそこで、いらん気遣いをするのじゃ!)」
全くもってその通りである。九狐は9本の尻尾を動かしながら気持ちを露わにする。
「さぁ、妖天。修行の続きをしようじゃないか」
普段通りの口調で妖天へ言葉を飛ばす。
しかし、彼は尻尾を動かしているだけで顔はこちらへ向いていなかった。
「どうしたのじゃ?妖天」
少し心配する九狐。耳とピクピク動かしながら、彼の傍へ寄る。
「——我は、1人ではないのか……?」
突然の言葉で、よく分からない一言。
何か、深い意味がありそうだな。とも感じ取れる。
九狐はこめかみを触りながら、
「そうじゃ、わらわが居る限り、汝は1人ではないぞ」
妖天は、この言葉に耳をピクリと動かす。
そして、体ごと九狐の方向へ向く。
「な、なんじゃ?」
思わず、尻尾をびくっとさせる九狐。
妖天は、凛々しい表情で真っすぐと、自分を見つめていたからだ。
いつもとは違う雰囲気——————
不意に、九狐の右手が握られる。
「よ、妖天……」
当然、慌てる九狐。
すると、妖天はそのまま右手を引っ張って歩きだす。
「では、行こうか」
何がなんだかよく分からない。
九狐は、とりあえず妖天の勢いに任せるだけだった。
- Re: 獣妖過伝録(7過完結) ( No.175 )
- 日時: 2012/05/31 16:38
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: KUO6N0SI)
〜箒に掃かれる思い〜
山の中にポツンとある神社。
険しい道を歩いて、ようやくたどり着けるところにある。正直、参拝するには不便な場所。
朱色の鳥居も、どこか色剥げている。大昔から建っているのだろう。
——————その下に、1人の少女が箒を持って周りを掃除していた。
背中に灰色の大きな翼をつけて、巫女服を着ている。
黒色の髪の毛は、腰にかかるくらい長く、可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿をしていた。
前髪もけっこう目にかかっており、その瞳は藍色に輝いている。
おしとやかな雰囲気とどこか清らからで、安心する雰囲気も同時に漂わせている。
巫女服を着用にするにはとても良い体つきで、無駄な胸は一切ない。正に巫女の中の巫女である。
「私も……力があれば……」
翼を小さく動かしながら、ぶつぶつと呟く巫女。
考えごとをしているのか、先から箒は同じところを掃いている。
「——の馬鹿ぁ……」
おそらく、誰かの名前を言ったのだろう。しかし、あまりにも声が小さくて詳しくは分からなかった。
少女が考えごとをしている原因と関係あるのだろうか。
「でも……信じないと……私は——の帰りを待たないと……」
箒を持つ手をぎゅっと握り、力強く辺りを掃く。
巫女なのに、巫女らしい力を持てない自分。
だから、待つことしかできない。そんな自分に困憊(こんぱい)していた。
「帰ってきたら……抱きしめても……良いよね?」
顔を少し赤面させながら、鳥巫女は無言で掃除をする。
「あたいと違うけど、お互い悩んでるんだねぇ〜」
そんな少女を、神社の縁側か見つめる1人の女性。
両手に書物を持ち、尻尾を動かしながら共感していた。
「——ときには、大胆な行動もありかもね」
薄く笑いながら、女性はじっと巫女少女の姿を見つめる。
箒が動くたびに、土埃や葉っぱが掃かれる。
だが、掃かれている物はもっとあるような気がした。
「——のいろいろな思いも、なんとなく見える気がする。悲しみ、怒り、憎しみ……だけど、それは完全にはなくならない。本当、これだけは簡単にはいかないかぁ〜」
逆に、その思いが掃除をしただけでなくなるのは、いささか問題である。
「さぁ〜て、あたいもそんな気持ちを嘆き飛ばしながら探し物をするかぁ」
彼女の場合は、ただ単に面倒という思いしかなさそうだ。
——————掃ききれなかった思い、少女はそれをどう処理するか非常に興味深い。
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