複雑・ファジー小説
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- DARK GAME=邪悪なゲーム=
- 日時: 2012/09/14 21:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)
えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。
今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・
まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?
基本的には普通ですので・・・
アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください
よろしくお願いします
下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで
一気に一話目打ちます。
そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。
一話目 招待状
「暗いなぁ・・・」
夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。
「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」
それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。
「普通科は大変だね」
重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。
「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」
そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?
「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」
このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。
真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。
まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。
「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」
これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。
『You are invited』
これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。
「後ろにも変なことが書いてあるのよね」
そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。
『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』
背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・
十二の文字にかかろうとする瞬間だった。
秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。
刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。
続きます
第一章 鬼ごっこ編
>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60
第二章 日常—————編 募集キャラ>>70
>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80
第三章 楓秀也編 プロローグ>>81
>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112
第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124
コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)
ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= ( No.127 )
- 日時: 2012/11/30 14:08
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 58y6MThT)
四章十一話
「一旦この話は区切りましょうか、お茶を持ってくるわ」
そう言って沈黙を破ったのは家の主である氷室だった。
一応他の飲み物もあることにはあるけれどと言ったが、四人ともそこまで構わなくても大丈夫だと断った。
分かったと小さく呟いた氷室は台所の方へと向かっていく。
その時に、斎藤が楓の方に詰め寄った。
「ねえ、楓君のお父さんって一体何があったの? 家に帰る様子が無いからてっきりあの年で独身だとずっと思ってたんだけど」
「そう言えば、掴みかかったという話は聞いたが何でお前は父親に対して襲いかかったんだ?」
斎藤の質問に、楠城も便乗し、楓は断るに断れなくなる。
しかし、事情を口にしようとするとこの前の時のように泣きだしかねないので、楓は返答に詰まった。
それを見越した竹永が助け船をよこす。
「あんたは冷河の方手伝っておいで。私から言っとくから」
「えっ、いや、話せますよ……」
「はいそこ、嘘つかない。どうせ聞くのも無理だろうからとりあえず避難しとけ」
固辞しようとする楓を強制的にドアの方へと追いやり、外に出す。
どの道五人分お茶持ってくるのは面倒なんだから手伝ってこいという指示に従って楓は氷室の方へと向かった。
そして竹永は、なぜこの話から楓が逃げないといけないのか、それを含めたところから、話しださなくてはならなかった。
「うーん……どうしたものか」
一方台所では、氷室が頭を悩ませていた。
普段この家には自分一人しかいないため、お盆というものが不必要なので家には無い。
辛うじてコップの類は数が足りたものの、一斉に持って行くのは無理そうだ。
かといって何度も行き来するのは面倒くさい。
不意に後ろから足音がしたので、彼女は振り返った。
そこには、竹永によって部屋から逃がされた楓が立っていた。
やや沈んだような表情をしているのは、先程の父親の話だろうと氷室は感づいていた。
ただし、それ以外にも何か理由があるのではないだろうかとも分かったのだが、その理由には達しなかった。
「手伝ってこいって言われたんだ、先輩から」
手伝いたいからじゃない、とでも言いたいのだろうか。
しかし、楓がそんなに冷たい人間じゃないのは氷室だったらもうとっくに知っている事だ。
きっと、あそこから逃げてきたと思われたくないから、そう言っているのだろうな。
これもすぐに分かった。
「丁度いいわ、じゃあ二つコップ持って行ってくれない?」
「良いよ。俺が三つ持って行くから」
言いつつ、楓は両手に一つずつコップを持ち、そしてもう一つを両手で包む込むようにして持ち上げた。
こぼす前に急ぐと言って、楓は逃げてきたはずの場所からも、逃げるように戻って行った。
なぜここから逃げる必要があるのだろうかと氷室は首を傾げたが、その理由はすぐにわかることとなる。
氷室が部屋に戻ると、竹永が楓に何かを押しつけているのが見えた。
みると、さっき楓が持って行ったはずのコップのうちの一つであるのだが、中身は既に空になっている。
「頼む、喉乾いたから入れてきて。まださっきの話も終わってないから」
ああ、こういう風にさっきもここから外に出したのかと、納得半分無理やり差に対する呆れ半分で氷室も腰を下ろす。
本来なら自分が取りにいくところなのだが、名目が楓にここでの話を聞かせないためなのだから仕方ない。
嫌々行くように見せかけて楓が逃亡した瞬間に、竹永と斎藤はここぞとばかりに氷室に詰め寄った。
楠城はというと、苦笑い混じりの哀れそうな目で氷室の方を見ていた。
「さてと、楓の父親トークは終わってんのよね、実は」
「という訳で次は氷室ちゃんの掘り下げにいきましょうか」
逃げられないようにと、二人がかりで両側から氷室を捕まえる。
その目には中々意地の悪い好奇の色が浮かんでいる。
「今度はさっきよりも楓はゆっくり戻ってくるだろうから、きっちり掘り下げるわよ」
「今度は一人だもんね」
なぜ今度は楓が戻るのはさっきよりも遅いのか、それも気になったのだが氷室にとってはそれどころではない。
なぜ自分がこのような目に逢っているのかがそもそも分からないのだ。
掘り下げる、と言われても何を訊かれるのか分からない。
「さて、ぶっちゃけた話、氷室ちゃんは楓くんのことはどう思っているのでしょうか?」
「はい?」
自分の声が裏返ったのが自分自身でも感じられた。
まさかこんな突拍子もない話題を吹っかけられるとは思ってもいなかったからだ。
どう思っていると訊かれても、前から答えは一つのはずだ。
「どうもこうも……クラスメイトですよ?」
「違うな。お前が分かってるのか置いといてそれは違うな」
「いや……前は大っ嫌いでしたけど……もうそういうのは無くなって……」
「それも違うな。自分のことなのにあんた全然分かってないでしょ」
氷室の返答をことごとく竹永はそれは違うと切り捨てる。
しかし、ただ違うと言われても一体何が違うと言うのか氷室には分からない。
それに、昔自分が楓のことを嫌っていたというのも否定し始めたのだ。
「冷河は怒っていただけだ。何で自分が怒っていたのか、その理由を訊いているんだ」
「だから、嫌いだったんですって」
これでは終わりのない堂々巡りだろうなあ、そう見越して竹永は一度質問攻めを止めた。
無理やり訊きだそうとすると、強情な氷室にとっては逆効果だろうし、本当に本人は本音に気付いていないからだ。
ならば誘導してみせようと、斎藤の方が口を開いた。
「じゃあさ、氷室ちゃん。その昔告白をされた時、どう感じた?」
「……された時ですよね? そりゃ、人並みに嬉しかったですよ」
「オッケーオッケー。じゃ、次はそれが嘘だって分かった時はどう思ったの……」
「それは……何だか弄ばれたみたいな気がして……」
それだ! といって斎藤は氷室の目を強く見つめた。
少し気圧された氷室は、さっきから二人を振りほどこうとしていた腕の力が抜けた。
「弄ばれたと思った……っていうのはどういうこと? まんざらでもなかったんじゃないかな。別に何とも思ってない相手だったらそれすらも感じないだろうから。でも、氷室ちゃんは後後それが嘘だったと知ったら腸煮えくり返るぐらいには喜んだ、そういう事じゃないの?」
「それにね、冷河。あんた分かりやす過ぎ。私と話してる時より楓と話してる時の方が生き生きしてんのよね。私達が何を言いたいのか、そろそろ分かってきたわよね?」
竹永の言葉通り、氷室はこの二人の誘導に乗っかったせいでようやく本音へとたどり着いていた。
そのためか、今まで過ごしてきた夏のどの日と比べても、今この瞬間ほど暑く感じた瞬間はないだろうと思えるほどに、暑くなった気がした。
そうそうそれそれ、それも分かりやすいと竹永にさらに茶化される。
しかし、斎藤はと言うと、今度はやけに神妙そうな表情になり、もう一度話を続けた。
「……でもね、氷室ちゃん。残念ながらそこには障害があるのよね……」
非常に言いにくそうな顔をしていたのだが、等の氷室本人にはまったくその理由が分からなかった。
じゃあ、もう少ししたら本人に訊こうか、と言い残して二人は氷室を解放したのだった。
続きます。
ってかひっさしぶりの更新ですねー。
きっと忘れ去られていることでしょう。
今回は……ストーリー上いるのだかいらないのだか、という感じでしたがそこはスルーで……。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= ( No.128 )
- 日時: 2012/12/15 19:34
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: KFOyGSF/)
四章十一話
「障害……ですか?」
「うん、そう。とりあえず楓君読んでみようか」
斎藤がそう言うと、目配せされた竹永が頷いて、楓の方に向かってどれだけ時間がかかっているんだと呼びかける。
勿論、本来のお茶を入れると言う用件はとっくに満たしているのであろうが、ちょっとした避難のためにわざわざ時間をかけているだけだ。
しかし、この時氷室の頭に一つの疑問が思い浮かんだ。
それなのにどうして、一回目の給湯の補助の時はすぐに戻ってしまったのか。
それがまだ分からない彼女は、竹永に向かってその質問を素直にぶつけてみる。
すると竹永は、難しい顔をした。
「それなんだよ、問題は。原因はあんたにある?」
「えっ……私、ですか?」
その時、ノックと共に、楓が部屋の中へと戻ってくる。
その手には竹永用のお茶が入った湯飲みがある。
それを丁寧に先輩の方に渡すと、もう大丈夫だろうかと竹永に目配せし、それに頷いたのを目にしてから座ろうとした。
その時に、座り込もうとする彼を、竹永は呼びとめた。
突然の呼び掛けに楓はキョトンとする。
楠城はというと、先程と同様に憐れむような目を、今度は楓に向けている。
「楓、ちょっとこっち来い」
「俺ですか?」
「そうだよ。ついでに冷河も」
呼び出された二人はおずおずと、呼びだしてきた彼女の前に正座した。
しかし二人とも呼ばれる理由が分からないために、怪訝そうな表情をしている。
なぜ今、こんな事をしているのだろうと、しきりに首をかしげている。
「二人ともちょっと手ぇ出して」
「えっ?」
「早く!」
唖然とする二人をさておき、竹永はさsっさとしろと二人をせきたてる。
両者まったく納得がいかないのにも関わらず、竹永一人がいそいそと張り切ってその場をリードしていた。
しかし、斎藤はそれを止めに入ろうとはしないし、楠城も達観を決め込んでいる。
何事だろうかと二人が手を突きだしたその瞬間、竹永はその二つの手を握った。
突然手を掴まれた二人は驚いたが、それ以外には特に顔色に変化はなかった。
しかし、次の瞬間である。
竹永が不意に、その二つの手を触れ合わせた。
変化が起こったのは、その瞬間だった。
楓と氷室が慌ててその手をひっこめた。
反射のように、彼らの意思とは無関係に起こったであろうその反応は、竹永の予想通りで、掴む手を無理やり引きはがすような力があった。
そして、先程言おうとしていた事が確証に変わった今、それを実証した彼女の眼は相当に険しくなっていた。
「ちょっ……何するんですか竹永先輩!」
まず最初に、反射的にそう叫んだのは氷室だった。
頬は上気し、朱に染まっており、声を荒げるなどかなり狼狽している。
ただ、どことなく嬉しそうな気配がするのは竹永の気のせいではないだろう。
そのように、熱帯のような反応をとった氷室と、対照的な反応を取っている彼の方を皆は注目した。
言わずもがな、この場合は楓のことである。
楓はというと、まるで南極に来てしまったかのように冷え切り、青ざめてしまっていた。
凍ってしまったかのように固まり、顔からは戦慄だけが迸っている。
口を開くのを待っていても、何も喋れないだろうことは誰もが悟った。
「楓、大丈夫か?」
最初にそのように問いただしたのは、竹永だった。
多少はこうなることを予測している彼女の口調は非常に淡々としたもので、気遣いなどは欠片も感じられない。
むしろ、現実を氷室に突きつけるためにわざわざより平坦な声に努めている。
「大丈夫って……ちょっと大げさ……」
「大げさなんかじゃない」
何も答えない楓よりも先に、未だ顔が紅いままの氷室が先に口を開いた。
たかだか手が触れただけでその言葉はひどく大仰ではないかと思ったのだが、その言葉も手厳しく竹永に切り捨てられた。
事実、楓の硬直状態は未だにかなり激しいままだ。
「もう一度訊くぞ、大丈夫か?」
「……いえ、その…………」
再度質問してみせる際、竹永はその語調を強くして見せる。
その迫力に気圧された楓は、おずおずと口を開いたが、その返答はやはり曖昧としたものだった。
しかし、何となく否定していると言う雰囲気だけは氷室にもひしひしと伝わってきた。
「じゃあ、どうなんだ……」
「どうって……」
一瞬楓が言葉をつまらせるが、すぐにその口は再度開かれた。
強い語調で、堰を切ったかのように。
「良い訳がないでしょう! 確かに俺は別に良いですよ。別に多少誰かと手が触れ合ったって……。でも、氷室が、相手が俺だったら絶対に良い気はしないに決まってます! 逆に俺が嫌がる理由はあっちゃダメなんです。氷室が俺を避けるのは当たり前で、気分を少しは害するのも当然です。何だかんだ言って、氷室は……優しいんで許しているんでしょうけど……多分それでも俺は、嫌悪されていないといけないんです、きっと」
途中、ぶつ切りになりながら、言葉に詰まりながら、訥々と彼はそう答えた。
語気を強めたり、弱めたり、感情の抑揚が分かりやすい話し方だった。
無意識のうちにそうなってしまっていたのだろう。
ただ、竹永はいまだに鋭い眼を緩めていなかった。
それよりも、鋭く切り込んだ。
「楓、本当にそんだけか?」
「いえ……」
そう言ってちらりと、楓は氷室の方の様子を窺う。
不意に視線を寄せられた氷室はまたしても心拍数が上がる。
「その……正直、氷室といるのは苦手なんです。嫌いじゃないんですし、というか、本人が嫌な訳ではないんです。でも、氷室を見たらちょっと委縮してしまって……」
「それは何で?」
「……空港での、話です」
空港と言われて、斎藤は一体何のことなのだろうかと首を傾げた。
それも当然の事で、その出来事は斎藤と知り合うよりも前に起きた事件だからだ。
竹永、楠城、そして氷室の順番で楓の言おうとしているのが何なのか思い当たった。
最初のげえむ、『鬼ごっこ』の序盤に楠城の怪我を診るために立ち寄ったあの空港だ。
そこで楓は再開、竹永と楠城は初対面を氷室と果たした。
「その……あの時、おもいっきり氷室に罵られて、気付いたんです。自分がどれだけ酷い事をしてしまったのかを。そう思ったら……話すのが、近寄るのが、接するのが凄く申し訳なくて……。氷室の本音が分からないんです。許してくれているのか、我慢しているのか。そうやって考えれば考えるほど怖くなってきて……」
それを聞き届けた竹永と斎藤の二人は、やはりそうかと目で合図を交わして頷いた。
楠城も、仏頂面を浮かべてはいるが、大して驚いてはいない。
おそらく、三十代後半とはいえこの中では最も長い人生経験で察していたのだろう。
「多分、俺のしたことは多少の償いで拭いきれるほど綺麗じゃないです。でも、俺はそれから逃げ続けるしかできてないんです」
すいません、先に帰ります。
そう言い残して楓は、先にその席を立った。
ようやく氷室はさっきの楓の態度が分かった。
逃げてきたはずの台所から、逃げるように元居た部屋に帰ったのは、氷室と顔を合わせるのが辛かったからだ。
一人減ったその部屋には、気まずい空気が流れたが、それをいち早く消し去ろうとしたのは楠城だ。
一応は年長者の自覚があるのだから、そろそろ事態は収束すべきだと思ったのだろう。
楠城は少し皺の寄った手を、氷室の方に置いた。
「結局、お前はどう思っているんだ?」
氷室はまたしても、すぐにそれに正しく答えられない。
竹永の判断で、この日の集会はお開きになった。
続きます。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= ( No.129 )
- 日時: 2012/12/15 21:19
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: YPUHrXXk)
- 参照: 好きな小説が更新再開して舞い上がり中。
あげです
>>128完成しました。
それでは次回もよろしくです。
- ミュウミュウ バッグ ( No.130 )
- 日時: 2013/07/25 05:03
- 名前: ミュウミュウ バッグ (ID: BPHIOAr6)
- 参照: http://miumiubag.ladhw.com/
また、価格も、個々の作品のリヒター以前2200万ドルオークションレコードを越えて行く。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= ( No.131 )
- 日時: 2013/12/16 22:07
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: BB67RT0Y)
書きなおしのために上げさせていただきます。
すぐにロックするんですけど。
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