複雑・ファジー小説

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この世界で
日時: 2011/09/12 00:00
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)

初めまして。「きなこうどん」という者です。
小説をネット上で書くのは初めてのことなので、多少矛盾があるかもしれないです。でも、多くの方に読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。


この物語は、ある家族の物語です。
この世界のどこかに、こんな家族が存在しているのではないでしょうか。
どうぞ、最後までお楽しみください。

Re: この世界で ( No.44 )
日時: 2011/10/02 23:54
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

それでも、いつかはむっくりと起き上がる。そして、それが、朝でも、昼でも、夜であっても、朝か、と思う。

ゆうたは、最近よく泣くようになった。

ご飯をしっかり食べていないのと、みかがいないのと……他にもいろいろあるだろう。

「だめだな」

ぼくはため息をついた。このままではぼくらは死ぬかもしれない。ぼくだけならいいけど、ゆうたはだめだ。

「どうしようか……」

ぼくはめっきりやる気を失っていた。生きることも、呼吸をすることもめんどくさい。そのくせ、死のうとしても死ねないのだ。

ばかなやつ。

ばかなやつ。

自分でも笑ってしまうのに、空しい気持ちだけしか感じない。いっそ、感情なんか失ってしまえば、もっと楽になれるのに。

そんなことを考えてしまえば、時間なんかすぐに経ってしまう。


不思議だ。



少し前まではその逆だったのに。

きっと神様が痺れを切らして、ぼくに逆らってしまったんだろう。





——そうやって、みかさえも奪ってしまったんですか?




ぼくは目を閉じて空の向こうへと問うた。返事は返ってこない。遠すぎて、時間がかかるのか、神様でも答えられないのか。

適当にテレビをつけた。







——あ。






今日は……元旦なんだ。

「ゆうた?」

ぼくはゆうたを呼び寄せた。膝の間に座らせると、素直に従った。

「ねえ、ゆうた」

「なに?」

お気に入りのミニカーをいじりながらぼくの言葉の続きを待っている。




「海に……行こうか」

ぼくは唐突に言った。ゆうたはそれがお決まりのことだとでも言うように、喜んだ。その姿をぼくはいつぶりに見ただろう。


とにかく、久し振りで、懐かしかった。

あの頃はみかも隣にいたんだっけ?

Re: この世界で ( No.45 )
日時: 2011/10/03 00:31
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


ぼくたち2人は仕事で使うトラックを勝手に拝借して、懐かしの海へと急いでいた。

景色が少しずつ変わっていく。潮のにおいが香ってくるようだった。

「ねえ、おなかすいた」

ゆうたはシートベルトをきつくに感じているようで、ときどき座る位置を変えている。ぼくは、もうちょっと、とゆうたを待たせる。

何度もみてきた道を突っ切って、ようやく海についた。ゆうたを抱き上げながら降りる。寒い風が通り過ぎる。



——海には何も、なかった。

人はいた。風も波もある。空には雲が浮かんでいる。



でも、ぼくが求めていた、何か、はどこにも見当たらなかった。


途方に暮れた。

「おなかすいた」

ゆうたは僕の腕の中で唐突に言った。ぼくははっとした。

確かにぼくたちは何も食べていない。今は10時を回ったところ。ぼくもお腹が空いていた。

「何か、食べに行こうか」

ここにいても、仕方ない、と直感で思った。あっけない。

ため息をつく。すぐに消えてしまった。

あっけない。ぼくは何をしに、ここまで来たんだっけ。何かを探しに来たはずだった。

何だ?

何だ?

何だ?

何だ?

何だ?

何だ?

何だ?

何だ?

考えれば考えるほど、その答えはどこかに埋もれてしまった。頭が痛くなる。

「ねえ、はやく」

ゆうたの高い声が、ぼくをせかす。

「……そうだな、行こうか」

ゆうたに微笑みかけて、あきらめをつけた。もやもやはすっと消えたようだった。

——よし、行ける。

ぼくは地図をトラックの収納ボックスから出した。


——地図は新しいものに変わっている。







ぼくはその地図に見覚えのあるような気がした。

『なんで、売り物にあとなんか付けてるんだ?』

『決まってるじゃない。……わたしが塗ったものだって、すぐにわかるようによ』


——あ。

ぼくの目の前に、景色が広がった。



——そうだ、これは。




みかが内職で作った地図なのだ。みかが塗っていた地図と同じ。

『売り物なのに、爪のあとなんか付けたら、ボツにされちゃうんじゃないか?』

『そこら辺は上手くやるわよ。……ほら、見える?』

みかは自分の塗った地図には目印をつけていた。爪を立てて、上手く、わかりにくいように、あとを残すのだ。自分が作った証として。

ぼくは背筋がこおる感覚にとらわれた。

次の瞬間には、みかの爪あとを探し出していた。

どこだ?

どこだ?

どこだ?

どこだ?




探した。目で見た。



でもわからない。



次に指で念入りにチェックしてみた。





心臓がバクバク高鳴る。見つかるか? わからない。


どこだ?




目をつぶって感覚を研ぎ澄ませた。


どこだ?








唐突にそれは現れた。確かに、へこみを感じた。


『本当だ、わかりにくいな。これなら……』

『ね? ばれないよ』














——そこに、みかがいた。








正確には……みかがいた証があった。



ぼくは何度も爪あとを触って間違いじゃないことを確かめた。夢じゃなかった。現実だった。






「いる」




「いる?」


ゆうたが、こちらを見て、聞いてきた。



「そうだよ、いたんだよ」

ぼくの声は震えていたが、ゆうたは、笑顔になった。だれが、どこに。ゆうたはわかるのかい?

心の中で聞いてみた。伝わるはずのない質問を繰り返した。



君のママなんだよ。


血のつながらないママ。もういないママ。

でも、永遠に君のママ。




みかはね、いたんだよ。ここにずっと。


その瞬間にぼくは涙をこぼしていた。


——あ。









ぼくはね、みかがどうしていなくなってしまったのか、やっとわかったんだよ。




















——みかは自殺したんだ。


そのはっきりした理由はいまだにわからないけれど、ぼくは大体の見当をつけている。


やっぱり、娘のことで責任を感じていたんだろうね。

天国で寂しがっているって、責任を感じていたんだよね。




だからベランダで泣いていたんでしょ?

死ぬことを決めていたから、爪あとを残したんでしょ?

ぼくに、それを知らせるために、この地図をこのトラックに忍ばせたんだよね?




ぼくは全てわかってしまったんだ。




みかの生前の行動全てに、意味があった。計画と計算があった。


そのすべてに愛が詰まっている気がする。



こじ開けた箱の中に、ぼくの求めていたものが眠っていた。


みかはちゃんとそこにいた。ぼくと、ゆうたがたどり着くまで、長々と待っていてくれた。






——君はやっぱり優しい人なんだね。みか。
















だから——

























——いじめられている高校生のぼくに、手を差し伸べてくれたんでしょう?


                        (完)

Re: この世界で ( No.46 )
日時: 2011/10/03 09:36
名前: 春野花 ◆tZ.06F0pSY (ID: 7BFkVMAM)

 あぁあぁあああぁああ!!!なんて悲しい、でも美しく素敵な話なんでしょう。最後のほう鳥肌立ちまくりデスヨもう。

 全部が計算・・・。みかちゃん凄い・・・。たけし君、やっと泣けたんですね!!(泣)良かった、良かったよぅっ。ゆうたくんも案外、事を理解してるんですね。

 そして空白の部分がまたいい味出してますよ・・・。こんな風に書けるなんて羨ましい・・・。

 次作も書いてくださるんでしょうか??だとすれば楽しみにしてます!!きっと見つけて見せますよ♪

Re: この世界で ( No.47 )
日時: 2011/10/03 23:47
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)

こんばんは。きなこうどんです。

いよいよこの作品が終わりました。
本当に皆さんのおかげで無事終えることが出来ました。
本当に、本当に、見てくださってありがとうございます。



さっそく、新たに作品を作ろうと思っています。きなこうどんに飽きていない方がいれば、またよろしくお願いします。


本当に感謝しています。これからもがんばりますね。

では、新たな作品にてお会いしましょう。

Re: この世界で ( No.48 )
日時: 2011/10/12 19:59
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8TfzicNZ)

すいません、完結後で申し訳ありませんが感想書かせて頂きます。



1、展開速度

終盤がとてもぴったりで凄く良かったです。

2、ストーリー

前半にある家族の温かさのような話も、後半の切なくて哀しい話もとても面白かったです。
とても落ちついた話で、こういうサイトでは珍しそうな題材なのに文章もとてもお綺麗ですばらしかったです。
家族の形が良く出てきて、何だか深く考えないといけなくなるようにも感じました。
見返してみると重たい話なのにとても暖かみが入っていました。

3、キャラクター

母が苦手な主人公、優しさが神や仏のようなみか、
里子のゆうたと、とても普通の人物なのですが、この作品だとそれはとても良い方向に働いている気がします。
と言うより、それが最良なのですね、何だかとても文学的作品のような内容に、より強く見えました。

4、情景描写

見返してみると回想なようなものなので、それほど多くは無かったと思います。
海に行った辺りはもう少し書いてみてはどうでしょうか。
広大な青、という表現は良いですが、やはり海ならば波の音なども書いてみてはどうかと思います。

5、心情描写

これは本当に素晴らしいものでした。
直接書いてはいないところでも、主人公の感情がとても分かりやすく伝わってきました。
特にラストに近付く妻の死の後は揺れ動く感情がとても伝わってきました。
哀しさや喪失感、絶望などや、最後の最後の嬉しさなど。


普通に市販している本でもこのような内容のものはほとんど読んだことは無いのですが、とても面白かったです。

次回作も頑張ってください。
では、御遅れして申しわけございませんでした。


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