複雑・ファジー小説

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肖像画と少女
日時: 2011/09/16 21:48
名前: 奈々夢 (ID: foi8YFR4)


名前は、ななむ、と読みます。



登場人物

▲チェシル

    空想が好きな少女。 孤児。
    年齢は十代半ばほど。


△ノラド

    絵描きの少年。 左半分の顔が醜く爛れている。
    年齢は十代後半ほど。


▲エルシィ=ノーバルド

    ノラドが描いた、肖像画の少年。 金髪碧眼の美青年。
    貴族な服を着て、蒼い薔薇を持っている絵。

Re: 肖像画と少女 ( No.1 )
日時: 2011/09/16 22:04
名前: 奈々夢 (ID: foi8YFR4)

序章
『廃墟と少女』


月の光だけで、ここまで来た。

あんな処にはもう、居たくはなかったから。

森を抜けた、その向こう。

今はもう誰も住んでいない、無人の都市。

(ああ、あそこ。 あそこなら休める)

腰まで伸びた黒髪は、一度もクシで梳かしていないのかと思うほどボサボサ。

足も裸足で擦り切れて。 爪は削れて、血が滲んでいる。

顔も泥だらけの少女は、廃墟と化した無人都市に逃げ込んできた。

(月がすごくよく見える。 キレイ、キレイね)

荒んだ街並みをヨロヨロと歩く。

月がキレイ。 それだけで彼女は幸せだった。

夜空をぼんやりと見ながら彷徨っていた彼女は、ふと足を止める。

「あれ……あれれ?」

目に映ったのは、ひとりの少年だった。

「人だ……人がいる……なんでえ?」

もう、人間になんて会いたくはないと思っていたのに。

泣きそうな顔になり、少女はその場に倒れた。

月の光を浴びながら、少女は眠るように倒れていた。


Re: 肖像画と少女 ( No.2 )
日時: 2011/09/17 22:51
名前: 奈々夢 (ID: mGOQ1xar)

第1章
『絵描きの少年』


寒い。
とても、寒い。

体を丸めて、ぎゅっと、誰にも気づかれないように。
そうやって寒さを凌ごうとしたけれど、けっきょくは無駄だった。

「……?」

ゆっくりと目を覚まして、辺りを見渡す。

薄暗い、埃っぽい部屋。 もとは白かっただろう壁は灰色で、床も崩れた小石で白くなっていた。

自分が倒れた場所と違う。
それに気づき、怯える表情をみせた。

「気がついたか?」

その声に、ひどく驚く。

振り返ると、ひとりの少年が立っていた。
倒れる時、廃墟で見た人間だった。

「に、人間……人間だ……」
「そりゃそうだろ。 オレは人間だ。 アンタもだろうが」

ひどく口の悪い少年に、ますます怯える。

「ほら、寒いんだろう。 オレのを貸すから、我慢しろ」
「ふえ……?」

そんな彼は、持っていた毛布をこちらに投げつけてくる。
先ほどまで使っていたのか、ほんのりと温かかった。

「オレはノラド。 アンタは誰なわけ」
「わたしは……チェシルっていうよ」

チェシルはそこまで言って、そっとノラドの顔を見た。

彼の顔は、左半分が焼け爛れ、目も潰れてしまっていた。
だけど、残されている右目は、背筋は凍るほど美しい、月の光の色だった。

「醜い……だろう?」

チェシルの視線に気づいたノラドが、俯いて言う。

「ガキの時に、父親だった人間につけられた。 もう何とも思っちゃいねぇよ」

そうは言うけれど。

鳶色の髪を伸ばして、顔を隠している。

(どうしてだろう。 人間なんて、キライなのに)
(どうして、こんなにも抱きしめたいのかな)

初対面の少年に抱く感情の意味が分からず、チェシルは戸惑っていた。
しばらく時間をあけて、

「わたしは、そうは思わないな」

そんなことが言えるくらい。

だけど、決して嘘をついたわけじゃない。 本当に、容姿の醜さなんて、チェシルにとってはどうでもいいことだった。

「なんかアンタ、変わった奴だな。 いままでの人間とは違う」
「そうかな。 そうかも」

なんだか照れくさい。
貸してもらった毛布に顔をうずめ、彼の匂いを嗅ぐ。 安心する。 前に居た処とは、大きく違っていた。

「ノラドは、寒くならないの? 風邪とか、ひかない?」
「オレはいい。 もう少し絵を描いていたいから。 先に寝とけ」
「絵?」

チェシルの目が輝き、ノラドにずいっと顔を近づける。

「ノラド、絵を描いているの?」
「だからなんだよ」
「見たい! わたし、絵本とか物語とか大好きなんだよ」

前に居た処では、絵本なんてものはなかった。

ずっと大昔に見た、母親が作ってくれた絵本が、最初で最後。

「いいけど……ここより寒くなるぞ」
「それでもいいよ。 わたし、ノラドの絵が見たい」

Re: 肖像画と少女 ( No.3 )
日時: 2011/10/15 14:15
名前: 奈々夢 (ID: QHlX.g1E)


廃墟の奥へ行くと、また一段と寒くなる。
けれど、隣にノラドがいるからか、心は温かいままだった。
ノラドに案内されたのは、月の光で白く映る、埃っぽい部屋だった。 家具はあるけれど、三面鏡は割れていて、ソファも破れて使い物にならない。

「わあ………」

その部屋の中央に置いてあるものに、チェシルは息をのんだ。
すべての思考が、停止する。

そこにあったのは、ノラドが描いた少年の肖像画だった。

金髪碧眼の美少年で、年はチェシルと同じくらい。 見るからに裕福な容姿をしており、蒼い薔薇を持って佇んでいる。

(キレイ。 とても、キレイ)
(すごく胸がドキドキする)

ゆっくりと肖像画に近づき、手を伸ばして触れようとする。
しかし、その手をノラドによって止められた。

「触るなよ。 まだ絵の具が乾いていないんだ」
「この絵は、ノラドが描いたの?」

うっとりとした表情でチェシルが尋ねる。

「ああ。 彼の名前はエルシィ=ノーバルド。 綺麗な姿だろう」
「エルシィ……。 エルシィというのね。 すてき。 すてきね」

エルシィ。
彼の名を頭の中で反響させながら、チェシルはじっと肖像画を見つめる。
心臓の音は大きくて、息をするのもつらい。 こんな想いになることは初めてで、この感情の意味すら知らない。

「ノラド、彼のことをもっと聞かせて。 もっといっぱい。 いっぱいよ」

ノラドはそっと彼女を見る。
肖像画の少年に本気で恋に堕ちている彼女を。

「教えてやるよ、エルシィのこと」

嬉しい、と。
チェシルは微笑んで、またエルシィを見る。
彼女の目にはエルシィという肖像画の少年しか映っていなかった。


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