複雑・ファジー小説
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- 倉田兄妹
- 日時: 2011/09/20 20:27
- 名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)
初めて小説を投稿します、中野という者です。
未熟な文章の表現力、初めてのミステリー小説ですが、
温かく目を通して頂けると嬉しいです。
この作品には過激ではないですが、グロ表現(死体、血など)があり、
そのような表現が苦手な方には読まれることを、お勧めできません。
尚、この作品に出てくる住所、人物等はフィクションです。
以上をご理解頂いた上で、よろしくお願いします。
:あらすじ
ローテンションな双子の高校生、妹のハズサと兄のアズサ。
2人は、登校中に死体を発見し、第一目撃者となる。
事件の捜査は困難する中、双子は言い出す。
「「犯人が分かりました」」
果たして、2人は事件を解決できるのか?
——無気力な双子が繰り広げる、ミステリー小説。
- 倉田兄妹 ( No.35 )
- 日時: 2011/12/03 18:53
- 名前: 中野 (ID: PlCYIOtu)
31:紛らわす
先輩に連れられて来たラーメン店は、新しくオープンされたばかりのようだ。
店内はカウンター席のみで狭いが、全体を赤や白を基調として洒落た雰囲気である。
ラーメン店というよりは、イタリアンの方が似合いそうだ。ラーメンよりは、ピザやパスタを出してきそうだな。
壁には芸能人のサイン色紙がいくつか飾ってあり、黄ばんでおらず真新しい。
「塩ラーメン二つで」
「塩ラーメンお二つですね、かしこまりました」店員が愛想よく笑う。
塩ラーメン二つ入りましたー!と厨房に向かって叫ぶと、ちらりと先輩の顔を二度見した。
軽く一礼をすると笑顔を浮かべ、厨房へと去っていった。
「大学生かなー、あの子」とにやつく先輩。俺はおしぼりで手を拭きながら呆れた。
「何人狙う気ですか、先輩」
「二十歳から四十歳までかなあ」
「数えきれないってことですね、分かりました」
「斉藤はないのー?浮ついたことはさあ」目の前の男は、さくっと話題を切り替えた。
緩やかに微笑む先輩に客の女性達が視線を送っている。
女性の目というものは怖いものだねえ、ひたむきというか、鋭敏というか。
その視線を気にも留めない先輩も怖いけれど。
「ないですねえ、つまらない程」
「だって斉藤って普通に顔は良いじゃん?だから普通の女なら引っ掛けられるだろー」
「僕だから怒りませんけど、他の人に言ったら殴られますよ」
もちろんグーで、と胸元で拳をつくり先輩に届かない所まで拳を突き出す。
先輩は「わーってるって」と僕の拳を受け止めるように手のひらで受け返す。
ぱし、と軽く音が鳴った。
「何なら紹介しようか?お前が好きそうな人」
「人妻とかやめて下さいよ?というか、まず紹介いりません」
「つれねえなあーさーいーとーお」つまらなさそうに呟く。
「お待たせしました」とさっきの店員が塩ラーメンを目の前に置いた。
美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。見た目がシンプルだが、味に自信があるということだろう。薬味らしき小皿も置かれた。
「こちらの薬味を加えて頂くことで、味がお変わりします。
では、ごゆっくり」白ネギと柚胡椒が使われているのが見た目で分かる。
多分、柚胡椒以外に他の調味料も混ざっているのだろう。香ばしい匂いもする。
ぱちんと割り箸を割り、いただきますと手を合わせた。
「俺さ、あんまり薬味とか好きじゃないんだよねー」
「味のコンセプトが台無しじゃないっすか」
「だからグルメ系の担当がこないのかもねえ、俺」
「その理由が大方だと思いますよ」ラーメンを一口啜る。魚介系のスープが細麺と絡まって美味しい。後味もさっぱりしてて食べやすい。
「ん、美味いなあー。
だってさ、こんなに美味いのに味を変える必要ないだろー?
薬味は美味い味を紛らわすようにしか思えないねえ」
「料理を引き立てるするんですよ薬味は。
紛らわすって言い方・・」ふと、紛らわすという言葉が頭の中で引っかかった。
何で引っかかるのか分からないが、勘だろうか。気になってもやもやする。
- 倉田兄妹 ( No.36 )
- 日時: 2011/12/06 18:14
- 名前: 中野 (ID: PlCYIOtu)
32:通りすがり
「どうした?斉藤」
「何か引っかかるんです。こう、もやもやして」
「ラーメンの湯気で眼鏡が曇っているからじゃねえのー?」
「そういう意味のもやもやじゃないですって」それに眼鏡は取っているじゃないですか、とツッコミを入れると先輩は「冗談だよ」と肩をすくめた。
「事件のことだろ?瀬羽川付近で起きた殺人事件」
「そうです」
「殺人事件なんて、よく起こることじゃないかよー。何が引っかかるんだ?」
「相良和成のことです。通行人の証言で、容疑者として確定されつつありますよね。
その通行人の証言は本当のことなんでしょうか?」はしを置き、先輩を見る。
先輩は水を飲むと神妙な顔をして口を開いた。
「・・まあ、確かに怪しいよなあ。
でも、それは本当かもしれないんだよー」
「でも、嘘かもしれない。ですよね」
「その言い方だと斉藤和成を犯人にしたくないみたいな言い方だねえ。
お友達なわけ?」
「赤の他人です」と言うと、先輩は訳が分からないという表情を浮かべた。
「斉藤がこの事件にこだわる理由が分からないー」
「僕は真実を伝えたいんです。
今まで謝った情報でテレビに取り上げられて喜ぶ、上司や同僚をたくさん見てきました。
・・記者ってそんな仕事じゃない」
だから、と斉藤は言葉を続ける。「僕は本当のことを知って、世間に伝えたいんです」と。
「それが記者だと思うからです」
別に善人面をしたいわけではない。
ただ、嘘をついたり適当なことを言って評価をもらいたくないんだ。
どうせなら誰もやらないことを貫きたいだけ。
一つの真実を突き止めること程、難しいことは大抵の人間はやりたがらない。それは何故か。
面倒で困難なことだからだ。
「ま、斉藤が好きにやることだしねー俺がとやかく言う事じゃないしい?」
「先輩」
「協力するよー斉藤のそういうポリシー嫌いじゃないしねえ。ところで」
先輩は少し身を乗り出して、俺の目を覗き込む様に見つめ首を傾げた。
変に色気のある仕草で、思わず顔が引きつる。「何ですか」
「ハズサちゃんってどんな子?」
「犯罪者になりますよ先輩」
- 倉田兄妹 ( No.37 )
- 日時: 2011/12/18 18:28
- 名前: 中野 (ID: GDBnxw2w)
33:誘拐事件
「そういえばさ、お前知ってるか」
「何を?」
「最近さ、誘拐事件が3件起こってるんだとよ。この周辺で」
そりゃあ物騒だ、と男は答える。聞いた話は、自分の担当の事件捜査で忙しくて耳に入ってこなかったことだ。
「女子中高生を狙った誘拐事件なんだが、まだ犯人が捕まってないんだ」
「早く事件が解決するといいんだがなあ。被害者が少ない方が良いし・・」
「全く、とんだ犯人だな」
「きっと犯人はロリコンだろ」
「勘が鋭い」にやりと男は笑った。そして手持ちのカードを見せるように得意げに相手を見据えた。
「誘拐された子達って顔が良い子ばかりだって」
「うわあ、マジかよ」
ハズサはふと思い出して、立ち止まった。
立ち止まった妹に気づき、アズサは振り返る。そして首を傾げた。
「どうしたの?」
「卵ってまだ冷蔵庫にあったっけ」
「あー、なかった」
「じゃあ買う」買い物かごを持つハズサの隣に並び、アズサはハズサの手に触れる。
「持つよ、かご」
「ありがとー」とアズサにかごを手渡す姿は何とも微笑ましい光景だ。
通りすがる人がちらっと見て恋人同士だと勘違いするが、顔がよく似ているので兄弟だと気づく。
そんな表情をして傍を通っていく人たちを気にせず、二人は買い物を続ける。
「今日の夕飯何がいい?」
「卵買うなら・・オムライスがいい」
「アズサがオムライスって可愛いね」
「いいじゃん、別に」少し眉を寄せるアズサに、ハズサは小さく笑う。
昔からハズサは料理が上手だった。本人は面倒臭いから料理は好きじゃないらしいが。
何を作っても美味く、その中でオムライスがアズサは好きだ。
なぜなら、母親がよく作ってくれた料理だから。たまに焦げていたり、ケチャップが切れていたらバターライスになっていて、雑な作り方だったなあ。
それでも母の作ってくれたオムライスは美味しかった。・・気がする。
「じゃあ特別にはなまるマークを描いてあげるよーケチャップでさ」
「俺、高校生なんだけど」
「アズサも描いていいよ?」
「何で上から目線なんだよ」
ハズサが卵のパックを2つかごにいれる。お一人様1パックと表示があり、それを見たハズサは「アズサを連れて来てよかった」と言った。
- 倉田兄妹 ( No.38 )
- 日時: 2015/06/17 01:53
- 名前: 中野 (ID: .HkLA/wn)
34:深まる謎
ハズサは自室のパソコンで斉藤からのメールを見て、眉をひそめた。
江原が毒薬と注射器を購入していたこと、警察がまだ毒薬と注射器を見つけていないことが分かった、という内容だったからだ。
「あの瓶の中身、毒薬だったんだ」
ぽつりとハズサは呟いた。
何故、毒薬と注射器を江原は購入していたのだろうか。自殺するためか、誰かを殺すためか。
それとも、と考えたとき、扉の向こうからアズサの声が聞こえた。
「ハズサ、お風呂」
「入ってきて、アズサ」
アズサは片割れの声音で何かあったことを察した。部屋に入ると、ハズサは振り向くこともせずパソコンの画面へと視線を向けている。
とりあえず見ろ、ということだな。少し背を屈めてアズサはパソコンへと目を向けた。
「あれの中身、毒薬だったのか」
「そうみたい」
「とりあえず及川刑事に手渡そう。ややこしいことになりそうだし」
「ん、あとは」
何で江原が毒薬と注射器を購入していたのか。
ハズサが言わなくとも、考えていることをアズサは理解する。自殺のためか、他殺をしようとしていたのか、あるいは。
「誰かに購入させられた、偽名として使われた、とかも有り得る」
「テレビで言ってたけど江原さんって、数日前から会社行かなくなったんでしょ。
だとしたら、自殺用にかなあって思う」
ハズサの言葉に、アズサは眉をひそめた。
「普通、クッションに隠すか?引き出しに入れとけばいいじゃん。同居人もいなかったし」
「用心深かったんだよ、きっと」
「じゃあ注射器はどこにいったんだよ、なかったじゃんか。
用心深いのに何でなくなってんの。違う場所か、同じ場所に隠すだろ」
「あーそっか」
椅子の上で体操座りをしていたハズサは片足を伸ばし、つま先で床を軽く蹴ってくるりと椅子を回す。
ふわりと髪の毛が翻り、毛先がアズサの腕にあたりかけたが、それを予想していたのかアズサはすい、と身体を傾けて避けた。
「あ、避けられた」
つま先で床に触れて椅子の回転を止めると、ハズサは「何で引っかかってくれなかったの」という目でアズサを見上げる。
「髪の毛ビンタは地味に痛い」
「だから受け止めて欲しかった」
「そういうこと、他の人にやってないだろうな」
「やらないよ。アズサにだけ」
へら、と小さな子供のように笑うハズサに、アズサはため息をするものの苛立った様子を見せなかった。
こんなことは十数年の付き合いだ、慣れっこである。ちら、とハズサはアズサを見上げた。
言おうとしていることが伝わり、アズサは代弁するかのように口を開く。
「…今度は噂について調べたいんだろ。俺たちが登下校に使ってる道の」
「そ、だから明日は聞きにいきたいの」
「誰に?1人しか思い浮かばないけど」
「合ってるよ、アズサ。麗子先輩だよ」
「マジか、あの人かあ」
ハズサは椅子の上で体操座りをしながら、ゆらゆらと身体を揺らす。
口元を微かにゆるめて「アズサはちょっと苦手だよね」と言い、アズサを見上げた。
- 倉田兄妹 ( No.39 )
- 日時: 2015/06/17 01:54
- 名前: 中野 (ID: .HkLA/wn)
34:深まる謎
ハズサは自室のパソコンで斉藤からのメールを見て、眉をひそめた。
江原が毒薬と注射器を購入していたこと、警察がまだ毒薬と注射器を見つけていないことが分かった、という内容だったからだ。
「あの瓶の中身、毒薬だったんだ」
ぽつりとハズサは呟いた。
何故、毒薬と注射器を江原は購入していたのだろうか。自殺するためか、誰かを殺すためか。
それとも、と考えたとき、扉の向こうからアズサの声が聞こえた。
「ハズサ、お風呂」
「入ってきて、アズサ」
アズサは片割れの声音で何かあったことを察した。部屋に入ると、ハズサは振り向くこともせずパソコンの画面へと視線を向けている。
とりあえず見ろ、ということだな。少し背を屈めてアズサはパソコンへと目を向けた。
「あれの中身、毒薬だったのか」
「そうみたい」
「とりあえず及川刑事に手渡そう。ややこしいことになりそうだし」
「ん、あとは」
何で江原が毒薬と注射器を購入していたのか。
ハズサが言わなくとも、考えていることをアズサは理解する。自殺のためか、他殺をしようとしていたのか、あるいは。
「誰かに購入させられた、偽名として使われた、とかも有り得る」
「テレビで言ってたけど江原さんって、数日前から会社行かなくなったんでしょ。
だとしたら、自殺用にかなあって思う」
ハズサの言葉に、アズサは眉をひそめた。
「普通、クッションに隠すか?引き出しに入れとけばいいじゃん。同居人もいなかったし」
「用心深かったんだよ、きっと」
「じゃあ注射器はどこにいったんだよ、なかったじゃんか。
用心深いのに何でなくなってんの。違う場所か、同じ場所に隠すだろ」
「あーそっか」
椅子の上で体操座りをしていたハズサは片足を伸ばし、つま先で床を軽く蹴ってくるりと椅子を回す。
ふわりと髪の毛が翻り、毛先がアズサの腕にあたりかけたが、それを予想していたのかアズサはすい、と身体を傾けて避けた。
「あ、避けられた」
つま先で床に触れて椅子の回転を止めると、ハズサは「何で引っかかってくれなかったの」という目でアズサを見上げる。
「髪の毛ビンタは地味に痛い」
「だから受け止めて欲しかった」
「そういうこと、他の人にやってないだろうな」
「やらないよ。アズサにだけ」
へら、と小さな子供のように笑うハズサに、アズサはため息をするものの苛立った様子を見せなかった。
こんなことは十数年の付き合いだ、慣れっこである。ちら、とハズサはアズサを見上げた。
言おうとしていることが伝わり、アズサは代弁するかのように口を開く。
「…今度は噂について調べたいんだろ。俺たちが登下校に使ってる道の」
「そ、だから明日は聞きにいきたいの」
「誰に?1人しか思い浮かばないけど」
「合ってるよ、アズサ。麗子先輩だよ」
「マジか、あの人かあ」
ハズサは椅子の上で体操座りをしながら、ゆらゆらと身体を揺らす。
口元を微かにゆるめて「アズサはちょっと苦手だよね」と言い、アズサを見上げた。