複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

『Day Dream』(短編・完結)
日時: 2012/02/21 04:25
名前: Lithics (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=12209

はじめまして、Lithicsといいます。これは元・『死者の錯視』という題で投稿していたものを改稿し、完結させた短編です。特殊な主人公と、最低限の登場人物しか使わないという実験(修行)をしたものです。



登場人物

『矢吹 咲人』…………高校2年生、自殺志願者にして絶対記憶能力者。

『須藤 舞』…………修の幼馴染。

『藤 友人』…………修の親友。読み方は『ゆうと』。






『Day Dream』

2012-12-20

 ——カン、カン——

 赤く錆びついた粗末な鉄階段を、硬い革靴が打つ。12月の夜、雪混じりの凍えるような風が冷やした鉄は、存外に甲高い音をたてるモノだと妙に感心して。

「……ク」

 思わず嗤ってしまう。自分の足音なんて、いつからか妙に規則的になってしまって面白くもないが。それでも、これからの行為にすら慣れてしまったらしい自分が、滑稽だと思
ったのだ。

「……ああ、今日は記録更新だな。こんなに高いのは初めてか」

 最上階で途切れていた階段から、ビルの屋上へとよじ登る。風にかじかんだ手の平で懸垂するのは嫌だったが、やるなら屋上からが良い。高さを稼ぐ意味でも、ちょっと離れた街の灯が見たいという意味でも。

 ——良い夜だった。憧れの空に張り付いて尚、真円には至れない月は俺のようで。地上で輝く聖夜を前にした灯りはとても綺麗で……在るだけで満たされる、羨ましい限りの友人たちのようだ。

「————」

 そして、舞台に立つ。実に公演回数は20に及ぶ、独りきりの劇団員。ポカをやらかした事なんて一度も無いけれど、もう退いてしまえと唆される。参ったことに、俺自身も観客の反応や歯の浮くような台詞を覚えることよりも。最初に自分が出てきたであろう舞台袖、覚えてもいない『虚無』に興味があるのだから仕方が無い。

「———く、クク」

 ほら、嗤いがまだ収まらない。きっと今の俺の姿は滑稽か、狂っているかのどっちかだろう。もし笑ってくれる人がいたなら、俺はその人に恋をするかもしれない。いや、女の子限定だけどさ。

「…………じゃあ、これにて幕。になると良いけど。ご清聴ありがとう、さようなら!」
 
 そうして、今宵も夜に飛び出す。馴れてきた頭から堕ちるやり方ではなく、今回は仰向けに。なに、戯れに月を見ながらも良いかなと思ったから。

 ——月には錯視が付き纏う。

 地平に沈む間際の月は怖いくらい大きく見えるし、魔天楼の上からみる月も大きく見えるモノだ。だけど、それは錯視。どこにある月を切り取っても、それは同じ大きさにすぎ
ない。

「……はは、やっぱりな。高さが変わった所で……」

 風を切って、地面に引き寄せられるその過程。ほんとうに戯れにやった実験は、意外にもその錯視を証明できた。ぐちゃり、と。トマトを潰したような音が、耳に遠い。一息に 数10メートルも低くなった視点で見上げる月は、やはり変わらずに大きくて。

「————」

 嗤ったつもりの声は、唯の息にしかならずに白く闇に溶けていった。でも、これでは駄目だ……きっと、俺はまた『死ねない』。

●○

2011-12-21

 朝の光というのは、いつも残酷なくらい眩しい。それに、この季節だ……布団で光を感じている時点でかなり寝坊気味、もうゆっくりなど出来ないのが辛いところ。でも眠いものは眠い訳で……基本的に自堕落な俺、『矢吹咲人(やぶき さきと)の朝など、いつもこんなモノだ。昨日の夜をぐっすり眠ろうが、徹夜していようが、自殺していようが、それは変わらない。

「ぐ……煩い、な」

 ……何度目だろう、けたたましく鳴る目覚まし時計。突然だが、これが厄介な代物で。ある人物の手によって、親の仇の如く乱打しないと止まらない改造が施されている。

「ふん!」

 だが弱点はある……古式ゆかしいベルが二つ並んだ時計を正面から殴りつけ、その裏にある電池を弾き出せば流石に止まるのだ。まあ、あとで電池を入れ直して、かつ毎日ズレていく時間を合わせるという手間はかかるが。

「……咲人〜、起きてる? って、まだ寝てるし……ほらほら起きて!」

「……?」

「なに、起きないつもり? なら……ふっふっふ」

 今日も的を一撃で沈めて、布団を被り直したのだが。何か不穏な気配を感じて、流石に目を開けてみると。朝日で真白く焼けた視界の中に、酷く見慣れた女の子と、振り上げられた黒いバット。いや、ウェイターの持つ御盆の事でも、ましてや黒いからって蝙蝠でも無い。まさしく、ヒトの頭でホームランを狙いにいく為の鈍器だった。俺はもう終わりですかジーザス。

「……うわぁぁ !? こ、殺す気かよ、舞!」

「あらおはよ、咲人! 大丈夫よ、これ、おもちゃでプラスティック製だから。咲人のでしょ?」

「ああそれか……って、そういう問題違う! いいから下ろしてくれ、もう起きたから」

 ——ごく自然に俺のベット脇に立って(バットを構えて)いる女の子。さて、彼女が何者かと言われれば、名は『須藤舞(すとう まい)。世間で言う幼馴染という奴であるが……学校では『大和撫子』と男子から讃えられる長い黒髪、整った東洋美の顔立ち。そして理系では常にトップの成績。これだけあれば自慢の幼馴染と言って良いはずなのに、それを躊躇わせるに十分な問題がある。

「え? なんだ、久しぶりにガツンと行こうかと……」

「きっと二度と目覚めないな、俺……どSもいい加減にしとけ、学校でボロが出るぞ?」

 こいつに憧れる男子諸兄が、大量に世を儚む大惨事が起こる。または、その接触の対象であろう俺が、嫉妬による槍玉とか血祭りとか、とにかく色々なモノに上げられる。いやその前に、こうして朝起こしにくるなんてバレた時点で……出来れば遠慮したい、痛そうだし。

「うん大丈夫。こういうのは咲人だけよ? ね、嬉しい?」

「……ははぁ、ありがたき幸せ。ほら、着替えるから出てけ」

「は〜い。下で待ってるから、早く来てね」
 
 何が楽しいのか、くすくすと笑いながら出ていく舞。まあとにかくクセは強烈だし、学校ではネコをダースどころか師団クラスで被っているから扱いに困る。だがそれでも、彼女が俺の『日常』の象徴には違いない。

「……あちゃ、ひどい寝癖だ。もしかして舞、これで笑ってやがったのか?」

 爆発事故の挙句、某中華系宇宙人のようになった髪を撫でつける。鏡に映る自分の顔は、写真でだけ見たことのある父親に良く似ている。俺が生まれてすぐに事故で死んだ彼は、俺には特になにも残さなかったが。母親には育児と仕事の多忙をガッツリと残していった訳だ。

「は……こう考えると、俺って最悪なんだな」

 櫛を置き、学ランに袖を通す。身だしなみなんて毎日変わらない、一連の流れ。いつからか規則的になってしまって面白くもない、固定化した日常。新しいモノなんて一つもなく、全ては想定の範囲内……実を言えば先刻のやり取りだって、デジャヴのような感覚が突き纏ってならない。

 ——そこから、逃れたいなんて。本当なら考える資格も無い立場だというのに。

「咲人〜〜! まだなの?」

「ん、今行くって!」

 階下からの声に応えて。さあ今日も始めよう、常なる日々の一片を。


Re: 死者の錯視(コメント募集!) ( No.11 )
日時: 2012/02/07 06:23
名前: Lithics (ID: GyOijjIz)

>ステッドラー様

鑑定のお礼が遅れて、申し訳ありませんでした!
しばらく空けていたものでして……

誤字の指摘、ありがとうございます。直しておきます。

Re: 死者の錯視(コメント募集!) ( No.12 )
日時: 2012/02/16 20:56
名前: Lithics (ID: iYyccJ4w)

『Day Dream』−7

2021-12-25

Side : Yuto Huji

 ——ただ真っ直ぐで、真白い通路を行く。その閉じていて完全な空間は、歩く為の通路でありながら僕という異物を拒むかのようで。どうして『病院』という施設は、何処でもこう排他的な雰囲気なのかといつも思う。特に、この研究棟なる建物はどこか寒々しいほどだ。

「401……相変らず、部屋を点々とする奴だな」

 手にした紙切れを元に、目的の部屋へと急ぐ。来る度に『彼』がいる部屋が変わる理由を訊くと、『彼女』は『少しでも新鮮な環境の為よ』と薄く笑って言った。さて、ここが401……この扉を開ければ、会うのは2年振りになるか、『彼』が居るはずだ。そして、『彼女』も。

「や、久しぶりだね……舞ちゃん」

「……もう『ちゃん』っていう歳でも無いわ。来年には30歳だもの……貴方もでしょう、藤君?」

「ははっ、僕は君づけのままかい? ま、相変らず童顔だとは言われるけど」

 その部屋も、やはり一面の白。その中に白衣を纏って立つ女性は……高校時代の旧友にして、僕の親友の幼馴染だった須藤舞その人。かの当時から男子の目を引き付けてやまなかった美貌は健在で。いや、こうして見る限り、ますます色香を増しているようだ。だが別に彼女に会いに来た訳ではないし、僕は既に妻帯者。

「それで……居るのかい、矢吹は」

「ええ。彼はまだ『生きていて』、今日……やっと終わる」

 ——そう言って、彼女が身を退けた先に。もう見慣れてしまった、その『装置』があった。白く微細な振動を放つ基部に、円筒状のガラスが嵌められた水槽。その高さは50cmも無い小さな装置に……彼を彼たらしめている部位が、泳ぐように漂っている。

「そうか……手紙を貰った時は慌てたけど。本気なんだな」

「……駄目なのよ、もう。咲人の保有する『記憶』がいくら膨大でも、日常を廻し続ければ足りなくなる。彼自身の能力のせいで『忘却』が出来ないから、最近は矛盾だらけで……デジャヴの発生率が15%を越えてたわ」

「ああ……10年は長いさ。だけど察するに、それだけじゃないんだろう?」

 10年前、矢吹咲人は死んだ。遺書らしいモノが残されてはいたけど、なんだか良く分からない、哲学のような理由だったと思う。でも、そうまでして死にたがった彼を周りは惜しんだのだ……否、『彼』ではなく彼の脳の機能を。それは、往時の大天才であった或る脳医学者の仕事であり、現在の大秀才——須藤舞が引き継いだ。眼の前にいる彼女は、淡々と説明をしつつ……割り切れない辛さを押し隠して微笑む。

「そう、ね。でも……それは『私の罪』だから。お願い、聞かないでくれる?」

「……分かったよ。それで、どうやって……」

「……この『DD』は、それ自体が生命維持装置。電源を落とせば、それで済むわ」

「そう。なら、スイッチは二人で押しても? 僕も、あいつには色々と借りを残したままでね」

「ええ……その方が喜ぶわよ、きっと」


 ——その方が喜ぶ、か。その一言で、彼女がこんな終わりを望んだ訳が分かった気がした。捻くれたあいつの事だ、『廻される日常』に反抗して……懲りずに『死』を選んだに違いない。何度も、何度も。それを見ている、見なくてはいけない人がいるのも知らずに。

「こっちよ……狭いけど、電源スイッチは裏にあるの」

「分かった。っと、流石、裏側も掃除が行き届いてる訳だ……」

 二人で機械の裏側に回ると、そこには何の変哲もないスイッチ。こんなモノで、咲人の命に……10年の妄執に区切りが着くと考えれば、どこか可笑しい気もした。見れば、舞ちゃんは矢吹と話す時のような穏やかな笑みを浮かべ、それでも震える指をスイッチに掛けて。僕はその指に重ねるように、すっかり仕事慣れした手を重ねた。

 ——さて、これで最後だ。なにか気の効いた事でも……いや、止めておこう。あんまり印象に残って、今さら化けて出られても困るし。幸い、今日は聖夜だ。相応しい常套句があるじゃないか。


「メリークリスマス、矢吹。おやすみ!」

「メリークリスマス、咲人……おやすみなさい」

 ……期せずして重なった台詞とともに、二人でスイッチを押した。振動音が止まり、水槽に浮いていた『彼』が沈んでいく。その過程の何処の一線が終わりなのかは知らないが……確かに、今度こそ、矢吹は死んだ。


「これで、終わったね……良かったのかい? これ、未完成だったんでしょう?」

「……『DD』は完成しないわ。身体を壊されたヒトが、脳だけで『世界』を構築する夢の機械……これは咲人くらいの『絶対記憶能力者』で、しかももっと豊富な経験がある大人でないと機能しない。それでも、突き詰めていけば再現が出来なくなる……死んだ『有限』で、『無限の可能性』である生を再現なんて出来ないのよ。それが例え、同じ一年を繰り返すだけのモノでも」

「じゃあ駄目だね。あいつ程の脳なんて滅多に無いし……」

「そう。『永遠』に閉じ込められたヒトが何を思うのか……咲人が教えてくれたのよ。もう、繰り返す訳にはいかない」

 
 ——まさしく、『永遠』とは『不変』の言い換えだ。そして、不変の中で人間は生きていけないのだ。彼を失ったことだって、僕らにとっては変化の一つ。それで何かが変わって、酷く生き難くなる訳でも楽になる事もない。だけど、その『死』があったという事は、とても自然で必要な事だったに違いないのだ。だから……

「さて……行こうか。手筈通りにやってくれれば、舞ちゃんには捜査が及ばないように出来ると思うよ」

「ふふ、頼もしいわね、刑事さん。まさか、『足が速い』から警察官に成るなんて」

「……別にそれだけが理由じゃないけどね。今回だって、この立場だから研究棟まで入って来れたんだし」

「ええ……皆、もう立派な社会人だものね。まるで私と咲人だけが——いいえ、でも」

 彼女はそこで言葉を切り……一瞬の後に真っ直ぐ顔を上げて、沈黙した装置を見ながら言葉を続けた。その目には涙も哀しみも無く……ただ、永い約束を果たしたような光。


「咲人——これで、白昼夢は終わりよ」

(了)

Re: 『Day Dream』(元、死者の錯視) ( No.13 )
日時: 2012/02/15 18:04
名前: 紫蝶 (ID: 9rKDLQ3d)

...なんかもう泣きそうです。

(了)の文字を見たらなんか悲しいのか感動しているのかで
泣きそうになりました。

おもしろかった...と言うより凄かった、感激したという感じです。

(了)と言うことはお終いですか!?
だとしたら凄く残念です。
もっと読みたかった...




あと...主人公の名前が「咲人」になったり「修」になったりしている気がするのですが。

Re: 『Day Dream』(元、死者の錯視) ( No.14 )
日時: 2012/02/15 22:52
名前: Lithics (ID: pJ0RzEWL)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11989

>紫蝶様

感想ありがとう御座います!
前に上げたモノから大分、改変したので
読みづらかったかと思いますがw

はい、これで完結です。
少し急展開になってしまいましたが
こんな文で何かを感じて頂けたなら、書いた甲斐がありました。

※主人公の名前は申し訳ありません!直しておきます!

Re: 『Day Dream』(短編・完結) ( No.15 )
日時: 2012/03/02 14:36
名前: lily (ID: J7my8zBR)

☆超☆レア書き込み≪☆≪〜
三年に一度しかない書き込み★☆この書き込みであなたの運命が変わるよ♪♪
1,今片思いしている異性と両思いになれちゃう☆(無視した場合→二度と両思いになれません)
2,うまくいかない恋人と超ラブラブになれちゃう(無視した場合→ラブラブになれないで恋人から別れを告げられちゃいます)
3,苦手な科目が大得意になる☆(無視した場合→苦手な科目じゃなく、全ての科目が苦手になっちゃいます)
4,仲良くなりたい友達と親友になれる☆(無視した場合→仲良くなれずもっと、仲が悪くなります)
5,貧乏な生活が金持ちの生活に変わる(無視した場合→貧乏どころじゃなくホームレスみたいになっちゃいます)
6,今友達と喧嘩中、又はいじめられたりする人はその問題から解放される☆(無視した場合→喧嘩やいじめがもっとひどくなります)→これを14箇所にはってネ♪あなたの願いが叶いま〜す!!
これをやった貴方は夢や学校一のモテ子になりますw
やんなかったら不幸が突撃しますもうココまで読んでしまった人は最低3ヶ所は回さないと絶対不幸が100%激突するでしょう
これをやった人は実際に両思いになれたり、夢が叶ったり欲しい物が手に入ったりキスされたり告られたり一気に幸せが手に入りますだから移せば移すほどお得!
その他にもたっくさん叶った人がいます
だから回してね失敗した人なんていません


Page:1 2 3



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。