複雑・ファジー小説
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- 祈りの中で
- 日時: 2011/12/18 19:55
- 名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)
今日も、朝が始まる。
みんなで十字架の前にひざまずく。
その中で、私はもっと特別なおいのりをするんだ。
みんながおんなじように両手を握っているけれど。
私は違う。
こっそり、こっそり片手をグーにして、中指を立てる。そして、十字架を見つめ、私はこう言う。
「FUCK YOU!」
この世に神様なんかいない。それを証拠に、ほら。
私に天誅を下す者なんて、どこにもいないわ。
登場人物
リコリス・ヴェント 愛称リース
戦争で両親をなくした戦災孤児。
行き倒れている所を町外れの教会にある孤児院に助けられ、それ以来信じてもいない神を毎朝拝むことになる。
とても活発で、やりたい放題。毎日の日課は、朝の祈りの時間に十字架に向かって中指を立てること。
エミル・マーニャ 愛称エミル
赤ん坊の頃に孤児院の前に置き去りにされた過去がある。
いつでも行動的なリコリスを慕っていて、リコリスの語る世界にほれ込んでいる。
アニー・オルガ
リコリスのお目付けシスター。熱心なキリスト教徒で、神を嬲るリコリスに腹を立てている。
真実を突きつけられる事に弱く、リコリスの発言で心が乱れることも。
- Re: 祈りの中で ( No.1 )
- 日時: 2011/12/18 20:36
- 名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)
「リース!いい加減にしなさい!」
親しくもないのに私をリースと呼ぶ口やかましいシスター・アニーは、いつも私を怒鳴りつける。
まぁ、私が悪いんだけどね。
三十分もくだらない祈りの時間をやって、やっと朝食にありつけると思ったのに。
「フォークで遊ぶんじゃありません!!そんなお行儀の悪い子は神のもとへと行くことはできませんよ!?」
へいへい、神様神様、貴方にも神以上に愛するものは無いの?
もしこの世に神様がいても、祈ってばかりじゃお腹が空いて死んじゃうわ。
「アニーこそ、怒鳴ってばかりじゃ神様とやらに五月蝿いって怒られるんじゃないの?」
私が平然とスープを飲みながら口答えをすると、アニーは顔を真っ赤にして私へ顔をずいと近づけた。
「口答えするんじゃありません!貴方がこの孤児院に来られたのも、今生きているのも、今スープを飲めるのも!
全て主のお導きによるものなんですよ?!
こんな尊い事はないわ!神に仕える者ならば、そのようなお行儀の悪い事はしてはなりません!」
ああもう、耳元で怒鳴らないでよ。
あんまりアニーがうるさいから、私はパンをアニーの口に押し込んだ。
「もがっ?!」と口を詰まらせたアニー、面白くってしょうがない。
「私はこの孤児院に拾われただけよ、神に仕えてるわけじゃないし、神を信じてもいないわ。
だから神に仕えていない者がお行儀悪い事しても別にいいんじゃない!」
アニーは、パンを口にくわえたまま、私に向かって一瞬険しい顔をして、つんとした態度で食堂から去っていった。
良い気味よ!そのまま死んじゃえ!
アニーの背に向かって、私はパンをかじりながら手をグーにして中指を立てた。
いっつも怒られてばかりの私、だけど、口じゃアニーには負けないわ。
もちろん、かけっこだって私は早いの。
「ねぇ、リース、大丈夫?」
いつも私を気にかけてくれるエミル。
だけど、この子も神の子としてこの孤児院で育っているから、私の話も苦笑いを浮かべて聞いている。
神様が何よ。神様が。
「大丈夫よ、エミル、私はあんなおばーさんに負けるほどヤワじゃないわ」
「だけど、あんまりシスターを怒らせたら、孤児院から追い出されちゃうわ」
エミルは心配性で、いっつもネガティブな事しか言わないの。
私までそういう気になっちゃってちょっと困る。
「大丈夫よ!私、何度外に追い出されたことがあるか知ってる?自分でも数え切れないもの!
だけど、迎えが来なかった事は無いわ。
あの慈悲深い神父様ったら、子供一人殺せないとっても優しい方だからね。
アニーは神父様に文句を言えないわ、神父様に諦めがつかない限り、アニーはずっと私を迎えに来るわ」
そうよ、神父様はいっつもそうだわ。命一つ見捨てない慈悲深い性格をしている。
そんな周りから見たら迷惑でしかない性格のせいで、孤児院は子供でぎゅうぎゅう詰めよ。
「リース、あんまり変なことしないでね?絶対よ?」
エミルったら分かってない。その言葉何回目か自分で分かってる?
「リース待ちなさい!リース!リース!」
私は今、教会の中庭をつっきって、土足で孤児院と教会の渡り廊下を全速力で走っている。
ちょっとおふざけが過ぎちゃったみたい。
弱虫泣き虫のメリーが強がりだけどいっつもだらしないいばりんぼのシェリッグにお菓子を奪われてたの。
私はお菓子をメリーに返してあげようとして、ポケットに入ってた唐辛子をシェリッグの鼻の穴に突っ込んだの!
あのときのシェリッグの莫迦みたいな顔といったらない!
今まで見たどんな不細工な豚よりも鼻を赤くして爆笑ものよ!
泣いているメリーをよそに一人で芋虫みたいなシェリッグを見て大笑いしてたら、そこにシスターが来て…・・・
なんか知らないけど、私がメリーを苛めてたって事になっちゃったらしいの。
莫迦みたいじゃない?勝手に勘違いして勝手に決め付けて勝手に怒る大人たちのあのザマ!
牛の糞みたいに長いスカートを履いてたんじゃ、私の足に勝てっこないわ。
残念ねシスターさん!!
渡り廊下にてんてんとつく足跡、これじゃあ、私がどこに行ってもバレちゃう。
何とかしようと思って、私はシスターに追いつかれる前にトイレに入った。
靴を便器の中に捨てて、自分用につけた小窓から裸足で外に出る。
あとからこっそりトイレを見ると、シスターが私の靴を便器から取り出そうとして、そのまま顔から落っこちてた。
笑いをこらえるのに必死で、気づかれちゃうかと思ったわ!
切ります。
- Re: 祈りの中で ( No.2 )
- 日時: 2011/12/19 17:04
- 名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)
「私はメリーを助けてあげようとしたのよ」
「お菓子を奪ってメリーを泣かせていたのはシェリッグよ」
「私は悪くないわ」
何をいってものれんに腕押し。私の言いたい事なんて聞こうともせず、アニーは私に説教をする。
何が本当かも分からないくせに。さも知ったような口を利かないでよ。
メリーはさっきからべそをかいてぐずぐずしてるから私が余計疑われるの。
シェリッグは「俺はやってない」の一点張り。唐辛子を詰め込んだ大きな鼻は赤くなっている。
シェリッグはいばりんぼのいじめっこで有名なのをシスター達は知らないみたい。
そのせいで、鬼っ子悪魔っ子で孤児院に名を轟かせる私はシェリッグより疑われやすいの。
「よく問題をおこすから」「いつもお行儀悪いから」
いっつも私を型にはめて説教するんだわ。いやになっちゃう。
メリーもメリーで、「シェリッグがお菓子を盗った」ってさっさと言ってくれればいいのに。
ハッキリしてないから友達いないんだわ。可哀想。
私は、やってもいない事で一時間怒られるはめになり、今日のお夕飯は抜きになった。
シェリッグはこっちを向いて得意気な顔をしている。
ああ、そうね、貴方からみたらとてもいい展開でしょうね。いつか地獄を見せてやる。ただの強がりなんかすぐに蹴っ飛ばせるんだから。
私は、自分の部屋に閉じこもって、勉強をする事にした。夕飯が無くたって平気。
運が良い時は、エミルがパンとリンゴを一つバスケットからくすねて持ってきてくれるの。
蝋燭を照らして、私は汚れたノートを取り出す。
孤児院で貰ったペンを使って、私は取り組むことにした。
全く分からない。だいたい、算数の授業なんか意味が分からなくて聞いてないの。
時計は、一秒進むごとにカチカチと音をたてている。私は、ばんと頭を机に伏せて少し考えた。
私は、ふと、とある事を考えた。
「神様なんかいない」
これは私がいつも考えていたこと。
「足萎えの男に主が宣言をなさると、男の足は即座に癒された」
これは、アニーが私に説教する時、イエスの偉大さを語る聖書の中の話の一つ。
今の医療では十分に足萎えの男を救う事ができる。
私達人間は、神の定めではなく、自らでものを創り出してきた。
それは人間の偉大さ、尊さ。空から黙って事を見る神のおかげではないわ。
真水は葡萄酒には変わらない。人は蘇らない。だって、その瞬間を見た事がないんだもの。
見た事のないものを崇める?見たことの無い神を崇める?
聖書の中の話は、とても、とても、とてもとてもよくできた御伽噺。
御伽噺を信じて一生を終える?私には無理。
神様なんかいないわ。天使なんかいないわ。もちろん悪魔も。
全部全部、私達が作り上げた御伽噺。
気づいたら、私のノートは、四、五ページ程びっしりと私の持論で埋まっていた。
そうだ、これだ。「無神論」だ。今日、エミルが夕飯から戻ってきたらこのノートを見せて、エミルを仲間にするんだ。
この孤児院の中で、私は新しい組織を作ろうじゃない。
「神なんかいない。人間が支えあう世の中に神は必要ない。
主の奇跡の御業にも及ばぬ人々やその他の生き物の力は、とても強大である。」
私は、ページの最後にこう記して、ノートを閉じた。
- Re: 祈りの中で ( No.3 )
- 日時: 2011/12/22 17:59
- 名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)
私のノートを見ているエミルは、目を大きく見開いて阿保みたいに口をあけていた。
私は、そんなエミルの隣で、エミルが持ってきてくれたパンをかじっていた。
私は、いつまでもノートを持ち離さないエミルの手を自らの手で優しく握って言った。
「ねえ、エミル、あなたはテストでいつも良い点をとるわ。だけど、それは誰のおかげ?
アニーが言うように、神のおかげかしら?
それとも、いつも遊んでいる私と違って勉学に励む事のできる貴方自身の力なのかしら?」
大人たちはいつも言う。よくできる子に対して、「神の子だ」「神のおかげだ」と。
神に対して全てを過信し、崇める子供たちがまっとうに育つと能天気に信じている大人たち—。
こんな孤児院にいたんじゃ、みんなみんな不幸になってしまう。
私が、全てを変えるんだ。
「リース、これは……」
「そうよ、私は、この腐った孤児院の中で神を崇めるのはもう嫌なの。
いもしない神を崇め信じ、一生を終えるの?エミル、真水をワインに変える救世主なんか、この世にいないわ。
私にはとある計画があるの、エミル、力を貸してちょうだい」
私はエミルが好き。だけど、朝、真面目に十字架の前で祈りを奉げるエミルは嫌い。
「……、分かった」
エミルは、私の顔をじっと見つめて言った。
「ありがとう、エミル」
私は、にっこりと笑って、エミルを見た。
エミルは、それに応えて、また、にっこりと笑った。
- Re: 祈りの中で ( No.4 )
- 日時: 2011/12/22 19:28
- 名前: 間宮 慎一 (ID: n2LUyceb)
なんか長かったんで最初のレスだけ見させてもらいました!
他のレスも時間のある日に見てみます。どうやってストーリー構成とかってしてるんですか?もし良かったら、僕のレス『ああ無情』もぜひよんでください
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