複雑・ファジー小説
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- 魔術と人造人間の一日。【コメ求む!!】
- 日時: 2012/04/03 14:51
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
魔術と人造人間の一日。
はじめましての方ははじめまして。こんにちはの方はこんにちは。
刹那です。
同じこのファジー板で全く毛色の違う話を書いています。
*注意*
・荒し厳禁。
・更新スペースは遅いです
§零話§ 前兆(1)>>01
前兆(2)>>03
§一話§ 始動(1)>>04
始動(2)>>05
始動(3)>>06
§二話§ >>07
- Re: 魔術と人造人間の一日。 ( No.3 )
- 日時: 2012/03/12 12:10
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
§零話(2)§
『〈ProjectⅠ〉15体脱走しました』
『何?』
吹雪の中。黒い無機質な塔に、カツカツと大きな速めの足音が響く。
『脱走経路は』
『未だ未確認』
そう冷静に状況を伝えようとしている声にも、いくらか焦りがあるように見える。
脱走した彼等がどうなっているか。
それは、目蓋を閉じるだけで容易に想像できた。
§
何メートルもの雪が降り積もる雪原の中走りゆく人々がいた。
その人々の瞳は、血に塗れたように揃って紅く。
『殺ス……殺ス殺ス……』
ぽつぽつと唇から紡がれる言葉は余りにも物騒で、身も毛もよだつよう。
そして、人家を見つけると、しばらく考え込んだ後、にたありと歪んだ笑みを口元に浮かべて。
『人……殺ス』
人々は、一瞬にしてその場から消えた。
否。移動したのだ。
50メートル近く離れた距離を、一瞬で。
『まずいな……アレが世に知られることは』
ギリ、と爪を噛む音は、悔しさを帯びていた。
祈るように瞳が伏せられる。
だが、ふと口元に企んだような笑みが浮かぶ。
『いや……あれを実験体にして、国を襲うこともおもしかろう』
未だ参戦してこない、百年前は猛威を奮っていた日和見を貫くあの国を。
『……おい』
『はい』
声に、誰かが応答する。
『おまえに頼みがある……』
世界最北の大陸であるの白雪に隠された鉄壁の要塞は今、静かに崩れ始めていた。
§
「あーあ……また戦争かよ……大人共懲りねーなー」
七月三日。
澄み渡るように青い、ソーダアイス色の空。
科学魔術の第一人者を担う、京浜地区のとあるエリアに佇むアニメなどによくありがちな悪の組織が住居としているビルのように無駄に高いガラス張りタワーの30階にある自宅にて、液晶パネル(勉強道具)をいじりながら裕貴は大きな溜息をついた。
パネルには『米及び欧連合軍対、ロシア及び旧ソ連連合軍、山脈麓の峠にて交戦状態』と簡潔に出来事が記されていた。
「ちょっとー!!裕貴!!」
すると、部屋の一角からバタバタと怒りを含んだ声が聞こえた。
裕貴にはその声の主が誰か分かっていた。やれやれと肩を竦め、リビングへ入ってくる先程叫んだ人物を見やった。
「ンだよ、姉貴」
まるで数十年振りに因縁ある相手と再会した時のように裕貴の一歳上の姉、速水(はやみ)は裕貴を睨みつけてきた。
淡い茶色をしたシャギーの入ったロングヘアの前髪をパステルカラーのピンで止め、裕貴らが通う奈木高等学院のブレザーに髪と同じ茶色とピンクのチェックのネクタイがはえる女子制服に身を包んだ速水は、凄まじい剣幕で裕貴に怒る。
「ンだよ、じゃないわよ!!何で起こしてくんなかったのこの馬鹿ボケ茄子糞ったれ!!あんたなんて爆薬無限連射ミサイルに撃たれて死ねばいいのよ!!」
ハッ、と速水の言葉に気付いて裕貴がパネルの隅でちまちまと刻まれている時刻を見やると。
7時55分。
「嘘だろぉぉぉぉぉぉ!?」
無慈悲にも時は、速水と裕貴に遅刻を知らせていた。
- Re: 魔術と人造人間の一日。 ( No.4 )
- 日時: 2012/02/26 12:13
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
柚子様 コメントありがとうございます!
再びのろまに更新していきます←
§一話 始動(1)§
奈木高等学院。
それは、皇居や日本一の業績を誇るアミューズメントパークなどよりも大きいのではないかと噂される程の膨大な面積を持つ、京浜地区のド真ん中に建つ言わば魔術の専門学校だ。
だがそこは、街並みと同じく申し訳ないように通る狭い道しかない。間違いなく面積の九十九%を建物が占めている。
昇降口から始まり、授業棟、実技棟、果てには研究所のある研究棟まで。
そこはまさに、魔術の学校を形容するに相応しい学校だ。
昇降口を抜けると、様々な生徒がゲートの奥で魔法陣を描きながら瞬間移動魔術の術式を詠唱していた。
ここが学校内の移動拠点だ。教室から教室へ、という移動はできるが家から教室へ一度に移動することはできない。
不審者対策の為、ここで学生証のIDカードを専用機械へタッチしなければ、校内へのゲートが開かれないからだ。もし、家から教室へ飛ぼうとしてもこのゲートで弾かれ、昇降口に着いてしまう仕組みなのだ。
淡く緑色に光る、様々な記号や意味を成さないアルファベットがくるくると回るゲート。
そこへ裕貴がIDカードをタッチすると、すんなりとゲートは真っ二つに割れた。
だが、裕貴がゲートを潜り抜けるとすぐ閉まり、再びくるくると回りだした。
(ッたく姉貴は……)
『やっば急がなきゃ!』
遅刻寸前になった速水は、しばらく酸欠状態の魚のように口をぱくぱくさせた後、
『私、瞬間移動魔術で行くから!あんた頑張って走りなさいよ!!』
と自分だけ魔術を使って移動してしまったのだ。
お陰で裕貴は全力疾走をする羽目になってしまった。
(送ってくれればよかったのによ……)
気が利かないな、いや自分もか。姉弟だもんな、そんなとこ似ても困るけど……とぶつぶつ呟きながら裕貴は隅っこの階段を上る。
階段を上がり、教室へ向かう道で毎度毎度裕貴へ向けられるのは、あからさまに好奇に満ちた視線だった。
ここに来る者は、皆何かしら魔力を持っている者だ。
微弱な魔力しかなく、研究段階とは言え初歩の初歩である瞬間移動魔術も使えずいざ魔力がなく魔術が使えない時用に設けられた非常階段を使用する裕貴は、文字通り“部外者”なのだろう。空気の様に扱われていないだけまだいくらかマシなのだろうか。
研究により出されたと言う見解によると、魔術は光と闇から派生していったらしい。
やがて光から炎が。闇から水とが。炎と水が混ざり合い風と地が生まれた。
そして、全てが混ざり合い花を咲かせたり瞬間移動ができる、などという“無色”と呼ばれる魔術が出来上がった。
だから、魔術師と呼ばれる者には皆、光、闇、炎、水、風、地のどれかの力かそれに派生した雷や言霊、精霊召還などの魔術、そして“無色”の力を持っている筈なのだ。
だが裕貴はほんの僅かな“無色”の力しか持っていない。それはこの世界の常識では“おかしい”ことなのだ。
おそらく、皆の視線には好奇と、さらに厳密に言えば侮蔑も混じっているのだろう。
そんなことを思いながら、裕貴は教室の扉を開けた。
教室に入ると、
「はよっ、裕貴!!」
と勢いのいい声と共に、ガシッと手を掴まれた。
「颯人」
裕貴の腕を掴んだのは、颯人だった。
“異質”な裕貴に話しかけてくれる数少ない存在だ。
クラスで裕貴を“クラスメート”として認識してくれるのは颯人と剣くらいのものだ。
後の者は皆裕貴を空気の様に思っている。教師がまるで汚れた屑虫を見るような視線を向けてくることもしばしばだ。
「あ、そうそう。聞いたか?またアメリカとロシアで戦争だってよ」
「そうそう。どこも懲りねーよなー」
魔術が発展してゆくようになると、どこの国も領土拡大を目論んで戦争を起こすようになった。
日本は、昔定められた日本憲法第九条で戦争放棄を謳っている為、自衛隊が戦争を仕掛けられた際にアメリカなどと連合軍を組み防御をするだけに留まっている。
その自衛隊は能力のない人間達が魔力の込められた武器を扱う陸海空軍と魔術精鋭部隊で構成され、日本防衛と安保条約を結んだアメリカと他国で戦争が起こった際に戦う役目を担っている。
アメリカとロシアでの戦でもいくらかの自衛隊が出動している筈だ。
だが戦況は五分五分。長引く予感しかしないのが現状である。
「まぁ、オレらが魔術に関係してても、自衛隊で戦うことはないからな」
蚊帳の外って訳よ、と颯人は言う。
そこで始業の鐘が鳴った。
「おっと。やべ。授業だ」
颯人が慌てて席に戻った。
「ねぇ、裕貴」
剣が声をかけてくる。
「ん?」
「空が、暗い……」
剣の呟きで窓の方を見ると確かに空は暗く、まるで恐ろしいことの起こる前兆の様だった。
- Re: 魔術と人造人間の一日。 ( No.5 )
- 日時: 2012/03/01 21:35
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
- 参照: 期末なうwww
§一話 前兆(2)§
日本、皇居付近にそびえる一際高いタワー。
窓がひとつもない、羊羹を立たせたような形状のその黒い建物は、とてつもない威圧感を周囲に放っていた。
その名は日本総司令部。
日本が戦う際に采配を仕切る、言うなれば日本の心臓だ。
そんな心臓の司令室にあるモニター画面が、一気に砂嵐に襲われた。
ザザザザザ……ザーザー
「な、何だ!?」
司令員が騒然となったのは言うまでもない。
砂嵐はどのモニターでもしばらく止むことはなく、数十秒後に収まった時には。
「なっ……!?」
そこには、いかつい老人の顔が映し出されていた。
白髪に豊かな白い髭。彫りの深い顔。紳士然とした風貌には安堵感を覚える。だが、顔の中央より上の辺りの銀色の双眸だけは、剣呑に輝いていた。
『日本総司令部の皆さん、ごきげんよう』
画面から伝わってくる声は至って柔らかだが、裏には今にも噛み付かれそうな殺気が見え隠れしている。
『自己紹介がまだでしたか。私はロシア総司令部のグレゴリウス。これでお分かりいただけるとありがたいのですが』
「まさか、〈死の蛇〉……!?」
司令員の誰かが、そう呟く。
ロシア。それは、現在日本がアメリカと共に戦っている敵だ。
そしてその総司令部を取り仕切るのがグレゴリウス、別名〈死の蛇〉。その物事を冷静に見極めロシアを幾度となく勝利に導いた天賦の頭脳と、大胆かつ合理的な手腕で他国から恐れられる、他国を破滅と死へ導く人物だ。
グレゴリウスは鷹揚に頷き、
『左様。日本の皆さんは大変頭がよろしいことだ。戦には参戦せぬと言いながら攻撃魔術や武器の研究などと』
グレゴリウスからの一言に、その場にいる全員が黙る。
極秘事項の筈なのに何故、どこからその情報が漏れたのだろう。
『さらに奈木高等学院……でしたか。そこには〈魔術師【マグヌス】〉がいるのだとか。しかも何人も』
グレゴリウスは知っていて当然のことと顔で語りながら、薄笑いを浮かべていた。
魔術の発達した今でも、魔術を操る者はただの〈人〉だ。微弱な魔力を魔術学院などに通い磨いていくことでそれなりの魔術師になるのだ。
だが、生まれながら人の身には余る程の魔術を持つ者が二千五百万分の一の確率程度でいるのだ。その者を〈魔術師【マグヌス】〉と呼ぶ。
例をあげるならば藤堂剣。そして−−−−−。
『その〈魔術師【マグヌス】〉の一人、瀬名裕貴に私は、大変興味があるのです。無論、もうひとりの藤堂剣にもですが』
無色魔術しか持たない〈異質〉な瀬名裕貴が実は〈魔術師【マグヌス】〉。それは本人にも極秘の件だ。
どこまでグレゴリウスは知っているのだろう。
研究員は恐れにかられた。
『そんな〈魔術師【マグヌス】〉と奈木高等学院に、私は挑戦してみたいのですよ』
本題が切り出された。
『そちらに、殺人人造人間ver.βを送り込みました。まあ後はそれを操るいくらかの殺し屋を少々』
今日何で遊んだかを親に話す幼稚園児のように無邪気な口調で、グレゴリウスは告げた。
殺人人造人間ver.β。それはまだ試験段階の武器ということを意味している。ロシアはそのような兵器を作っていたのか。それが戦場に現れたら。そう考えると、恐れがこみあげてくる。
『殺人人造人間も、殺し屋も。全て我が国の実験体です。あなた方日本は、これに勝てますか?さあ。戦いはもう始まってますよ』
そうグレゴリウスが言うと、画面はいつもと同じプログラミングの画面になっていた。
だが、もうグレゴリウスの挑戦状の前後ではすっかり状況が変わってしまった。
『奈木高等学院に告ぐ−−−−−』
司令員は急ぎ、そんな意志電波を流した。
- Re: 魔術と人造人間の一日。【コメ求む!!】 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/12 12:50
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
§一話 前兆(3)§
それは、ようやく昼飯という四時間目の時に起こった。
ドゴォォン!!
という鼓膜が破れそうになる程の、爆発音に似た音がどこからか響いた。
途端、クラスの空気がざわつき出す。
「何だ?」
「爆発か?」
「みなさん、落ちついて!!」
教師はそう叫ぶが、みなにその声が届くことはない。
『−−−−−奈木高等学院の生徒及び教師に告ぐ』
スピーカーから外部の音声デバイスを通じて声が響く。
そんな尊大な口調で連絡をしてくる場所は、裕貴が知る限り一つしかない。
「−−−−−日本総司令部」
誰ともなく、そう呟いた。
だが、なぜ日本総司令部が切羽詰まった様な声音で連絡を入れるのだろう。
先程の爆発のようなものと関係があるのだろうか。
『ロシア総司令部より、刺客を日本陸土に放ったとの報告があった。標的は奈木高等学院だ。今すぐ戦の準備をせよ』
—————ロシア。
それは、今日本がアメリカと共に戦っている北の大国だ。
だが、それはあくまで大人達の戦いで、まさか自分達の通うここが標的となるとは思わなかった。
(でも、本来戦場以外に魔術戦を仕掛けるのは国際魔術刑法上禁止じゃ……?)
国際魔術刑法。それは魔術が戦争に使用されるようになった際に国連が定めた掟だ。戦争を行っている際、敵国の国土を魔術戦で攻めることは第何条かは忘れたが禁じられている。
これを破った国には国連が世界に溢れる魔術のエネルギーを集めた国連秘伝の魔術により破滅に導く裁きが下されるのだ。
「つまり、ロシアは国連を敵に回してもオレらを殺そうってノリなんだろーなー」
颯斗が頭をかきながらそう言う。
危機は、すぐそこまで迫っていた。
「—————全員、魔術実習の際のチームに分かれて出動」
担任がそう言った。
週三時間の実践。そのチームは能力別に分けられる。万が一戦争が起こった際のチーム編成だ。
皆戦争とかありえねーと気楽に実践を行っていたのだが、それが冗談ではすまされなくなってしまったのだ。
戦場をここだけにしなければ、京浜地区の親や親族、名も知らない何千万人の命が危険に晒されるやもしれない。
—————戦わなければ。
「—————了解」
§
「あーあ、つまらないの」
カーテンに閉ざされた薄暗がりの中。
無邪気にくすくすと笑う幼女の声がする。
幼女の手が弄るのは—————人骨。
分断されたいくつもの人骨だった。
頭蓋骨を肘置きの様にしながら幼女は淡く微笑んだ。
「ねえ、まだ足りないの。もっと甘美な力が、肉が。欲しいの、頂戴」
それを見ていた青年が大きく嘆息する。
「—————落ち着け」
「えー」
幼女は可愛らしく唇を尖らせる。青年は幼女に言い聞かせるように言う。
「もうすぐ力も肉も【喰える】から我慢しろ」
「はーい。楽しみー」
リボンのついた白いカチューシャをつけたプラチナブロンドのボブヘアがサラリ、と揺れた。
- Re: 魔術と人造人間の一日。【コメ求む!!】 ( No.7 )
- 日時: 2012/04/03 14:33
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
二話(1)
裕貴達は戦闘命令を受け、敵が既に襲来したのか確認しようと窓に駆け寄る。
すると窓の向こうの校庭では、ちょうど教師達が学校の敷地の端で魔法陣を描いているところだった。
「多分、ここを世界から孤立させようとしているんだろうな。戦場(フィールド)がここだけになるように」
と裕貴の左隣にいた颯斗が呟く。
あの魔法陣が完成したら、術者が解くまでは世界が学校の敷地に干渉することはできない。例え宅配便が来ても、PTAの五月蝿いおばさんが来ようともバリアで跳ね返されるだろう。
「—————ってことは」
この場所は隔離された場所。期限付きの新世界なのだ。
現在ロシアの魔術師がこの敷地内にいない場合、それは守りを意味する。だが、それをすれば『旧世界』の民である七十億近い人物は間違いなく死へ直行だ。
それを阻止するべく、戦うのだから—————。
すると、今度は右隣の剣が力強く確信を持ったように頷き、
「間違いない。もうこの学校に、ロシアの魔術師はいる」
†
ロシアは、厳密に言えば昔のロシアではない。
魔術が武器として使われるようになった頃に帝政国家に戻ったのだ。
皇帝は総司令部の司令部長。すなわち現在はグレゴリウスだ。
「……」
グレゴリウスは司令部長の室の中、革の玉座とも言える椅子に腰掛けながら思案に耽っていた。
(それにしても……。あれはどこに消えたのだろうか)
偵察に一月前位に向かわせた者。
その者が、いつまで経っても戻らない。
(気配はある……。だがどこに行ったものやら)
気配で確かな場所を掴もうと瞑目しても、後少しというところで魔術に弾かれる。
(……ッ!!)
苛立ちを抑えるようにグレゴリウスは爪を音がする程に噛んだ。
(この私を弾くとは……)
先程の魔法陣には見たことのない文字も並んでいた。あれは恐らく『科学文字』と呼ばれる科学魔術に使われる古代語だ。
ロシアは科学魔術が浸透していない。まだ研究段階のものが多いそれは、日本やアメリカ、ヨーロッパなどかつて文明を先進した国が開発しているのだから。グレゴリウスが知らないのも道理だろう。
(お前は……私を裏切ったのだな)
所詮は駒。されど駒。
「私を愚弄した罪は大きいぞ?クハハハハハ……」
怒りに満ちた笑いが、不気味な空気を伴い間を震わせた。
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