複雑・ファジー小説
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- 小説家の苦悩◇苦悩1
- 日時: 2012/02/26 14:33
- 名前: 桐島未来 ◆3LVoLteNYg (ID: 5bYoqzku)
——小説家のための小説家による小説家の苦悩の物語——
*挨拶
初めまして。
桐島未来です。小説初心者ですが、どうぞよろしく。
*るーる
荒らし、中傷を目的とした方はお引き取りください。迷惑です。
桐島は怖い人じゃありません。優しい人です、これ本当←
コメントやアドバイス、批評など頂ければ喜んで舞います。
更新は一週間に2回か1回程度。調子よければ2日に1回。
*目次
苦悩1【世界観・劣等感】
「>>001」
*お知らせ
*更新の足跡
2月25日 スレッド作成
——
□佐々木雄大 男 25歳 ペンネーム「宮野 浩」
新米作家。二作目の作品が行き成り直木賞を受賞。
ベテラン作家からも一目置かれる存在になっているスーパールーキー。
□佐々木みおか 女 17歳 ペンネーム「セピア」
携帯小説作家。総コメント数が2500を超えている超人気作家。
執筆している日常系恋愛小説はアニメ化やドラマ化。実写映画化にもなっている。
主な支持者は女子中高生。
□佐々木黒 男 14歳
小説化育成サイトで日々能力物異世界小説を書いている。『異世界』や『能力』などを考えるのが好きな常識人。
兄である雄大、姉のみおかを凄く尊敬している。
※佐々木一家備考
・近所からは「小説家一家」と呼ばれている。
・両親は仕事の関係で国外に飛んでいる。生活は印税と両親からの仕送り。
・黒は親友をライバルとして日々切磋琢磨している。
・基本雄大は書斎に篭っていることが多い。
- Re: 小説家の苦悩 ( No.1 )
- 日時: 2012/02/26 14:40
- 名前: 桐島未来 ◆3LVoLteNYg (ID: 5bYoqzku)
苦悩1【世界観、劣等感】
「そうっしんっ!」
声変わりがまだきていない透き通ったアルトボイスが室内で響く。声の主は、この家の住人である佐々木黒(ささき くろ)。黒が行っていたのはメールでもなくチャットでもなければ、掲示板でのレス残しでもなかった。ただ只管に4500字程度の小説を書いていたのだ。黒は【小説家育成サイト】という名前のサイトで日々小説を書き続けている。
黒が小説に目覚めたのは小学一年生のとき、父親が読んでいた“リアル鬼ごっこ”を兄の雄大(ゆうだい)に読み聞かせてもらったのが始まりだ。ただ小学一年生の頃から小説を書いていたわけではなく、姉のみおかや母親に父親、家族で一番優しかった雄大にほぼ毎日小説を読み聞かせてもらったのが三年後の四年生まで。それから半年程度、黒は同学年の子以上のボキャブラリーを持っていることを『自分を頭よく見せたいだけだろ!』と友人らに冷やかされてから、小説と戯れるのを止めていた。
けれどそこで父親が『最初から“頭よく見せようとしているだけ”などと断言する友人たちは切り捨てればいい。ただ、お前が強くならないと、お前が目指した作家のようになる事は出来ない。それでもいいのなら、黒。お前はこのまま悔やみ続けながら毎日を生きろ』と突き放したからこそ、現在黒はアマチュア作家の一人として小説を書き続けることが出来たのだろう。
父親から言われたその言葉は一見してみるとただ子を突き放すためにし使われた言葉に思われるかもしれない。だが、黒は父の言葉をその様な風にとらえたりはしなかった。ライオンは愛するわが子を谷に突き落とし、自分の力で這い上がれと子供に言う。黒は父親も、ライオンの親のように自分の力で這い上がることを求めていたのだと感じたのだ。
「えーと、直人の小説直人の小説……っとー。あ、あったあった」
サイトの目次ページに帰ってきた黒のパソコン。黒が開いた新しいページは【東雲晃良(しののめ あきら)】と名乗る作家のページだった。東雲の書いているものは裏社会がモチーフとなった小説で、物語の起伏が激しく臨場感あふれる作品だ。黒が書いている異世界能力物の小説とは世界観が異なる。黒が好きなのは勿論【能力物】だ。このサイトで閲覧してる小説はある一つを除いて全て能力物である。そのある一つは、この東雲晃良の作品【一丁の拳銃】という中学生には不釣合いなタイトルの作品だ。
好みのジャンルではないのに黒が読み続けている理由は、初めて同級生で自分を馬鹿にせず且つ自分もそういう趣味があるから仲良くしようと言ってくれた唯一の友達でもあったから。小説初心者ではないと言っていたのは本当で、二人同時に書き始めて約二週間がたった現在、東雲晃良の参照数は10000を軽く超えていた。
友人という立場から見れば黒はとても尊敬し、讃えてすらいただろうが好敵手として競っている今は何処か心に黒いものが生まれていた。
「相変わらずうまいなー……。俺の小説の比じゃないくらい読者さんもコメント数もあるし」
丁度主人公たちが銃撃戦を行っているシーンに来たとき、無意識のうちに言葉が漏れる。音一つしない黒の部屋の中に、その声はむなしく溶け込んでいった。
「くーろー。クッキー焼いたけど食べるっ?」
「みっ、みおか姉ちゃん!? 入ってくるときはノックしてよ! ってか! なんでそんな格好してるの!
ちゃんと服着てからきてよ! 俺これでも思春期なんだぞっ!!」
シスコンでもない黒は当たり前に叫ぶ。みおかはショーツ一枚で両手にチョコチップクッキーとバタークッキーの籠をもった状態で入ってきたのだ。これで叫ばない男子はいないだろう。いや、と黒は顔を赤くさせ俯いた状態で呟く。直人ならこの状況を喜ぶのだろう、と。
「暑いからいーじゃん。それに黒の呟きがビビッと私の頭に届いたんだもーん」
えへっ、とウインクしながらみおかは言う。漫画だったらハートか星が飛んでいるのであろう。そんな冷めたことを考えていると、何時の間にか顔の熱さと赤みは引いていた。一息つき、冷めた視線を姉のみおかに向ける。黒は、超売れっ子携帯小説作家のみおかを尊敬している。女子中高生が支持が圧倒的に多い作品を書いている。しかもそれは、日常を題材にした恋愛小説なのだ。『読んだ女子たちが共感できる』というキャッチフレーズはあながち間違っていないんだろうなぁと黒は思った。
「実は、みおか姉ちゃんに聞いてもらいたいことがあるんだ」
そう小さく言うとテーブルの正面に座っていたみおかにサイトのページを見せた。
- Re: 小説家の苦悩◇苦悩1 ( No.2 )
- 日時: 2012/02/26 15:06
- 名前: 桐島未来 ◆3LVoLteNYg (ID: 5bYoqzku)
今、みおかの目にはパソコン画面に表示された【一丁の拳銃】という小説ページが映し出されていた。みおかがタイトルから連想したのは『殺し』『B級ホラー的展開』『マフィア』『やくざ』などだった。自分の作品とは真逆の世界観なんだけどなーなどと言いながらも確りと小説に目を通すところが作文を添削する教師を思わせる。みおかは一ページ一ページしっかりと目を通しながら読んでいく。何時ものお気楽そうな性格の姉が急に真剣な表情に変わるギャップが、黒は好きであった。
「あのさー、黒ー」
読んでいる途中のみおかが、画面から目を離さずに黒を呼ぶ。
「なに、みおか姉ちゃん?」
黒が返事をすることは当たり前のことだ。名前を呼ばれれば返事をして要件を聞こうとするのが人間なのだから。
黒は内心ドキドキしながらみおかをじっと見る。何を言われるのだろうかと緊張していたのだ。
「黒、あんた馬鹿かもね。もし、この東雲晃良? に対抗しようとしてるなら今はまだ早いよ。参照数の多さも頷けるもの。ただ、私はこの人のコメントの扱いが嫌い。折角つらつらと書いてもらってるのに『どうも、コメント有り難う』とか。
何こいつ、何処のお偉いさんなのよ。イラッとするー……。
んで、私が本当に言いたいのは黒はまだ初心者なんだからこんな中級者と比べるんじゃないの! 書いてれば黒はもっと伸びるんだから!」
傍目に見た東雲晃良の作品は誰もが“上級者”と履き違えるほどの作品をみおかが“中級者”と断言したことが黒には不思議で堪らなかった。作品の進み具合は、どちらも同じくらい。けど参照数には歴然としたさがある。
このサイトに出入りしている人たちは絶対に晃良を上級者だと認めているはずだ。そして俺を初級者だと、感じているはずなのに……そう考えていくと自分で自分が居た堪れなくなって黒は俯く。みおかは、そんな黒の様子を見てもう一度話しはじめる。
「黒が初心者なのは、世界観の設定が確りしてないから。それは絶対に言い切れる。自分でこの世界の隅々を歩き回ってみなさい。これお姉ちゃんからのお願いだからね。
んで、東雲晃良が中級者の理由は簡単だよ。絶対上級者には成れない理由が分かるでしょ。黒も小説家の一人だとしたら。
お姉ちゃんは、この作品もう十分。東雲晃良が上級者になれない理由は、ちゃんと考えて答えを私に教えなさい!
あと、ゲームするから黒の部屋入り浸る!」
話が聞き取りやすいように一息おいたりしてくれたのは有り難かった。多分、あれを一息で言われると成ると頭がショートする。
みおかの発言はもっともであった。それが黒にだけしか正しいと思われなくても、黒はそれで満足だったのだ。自分では分からない点が、今ので大分分かったから。
黒はみおかの方を向いていたパソコンの画面を自分の方に向き合わせる。無意識に「え……」と声が漏れていた。みおかは、全174ページほど書いてある東雲晃良の作品をたったの6ページしか見ていなかったのだ。それだけであんな分析が出来たのか、と黒は再度みおかを尊敬し直した。
ただ、自分の作品と東雲晃良の作品を比べられたのは少し心に刺さった。自分で自覚していながら受け止めたくなかったものを全て受け止めるように言われた気がしたのだ。黒が今まで受け止めたコトの中で一番辛かったことであった。
それから直ぐに黒は一丁の拳銃を読み返し始めた。目の悪い黒はメガネをかけている。電子書籍は目に負担がかかるから出来るだけ読むのは控えるようにと母が父と出て行くときに何日も言われ続けていたことだったが、そんなこと関係がないというように遠視の目をパソコンの画面に近づけて一字一句読み間違える事無く詠み勧めていく。
読み返して改めて黒が気付いたのは、台詞も描写も世界観も全てが秀逸で問題点が一つとしてないというところだった。それを認識するのがまた辛かった。
だが、それ以外でも気付いたことはあった。“キャラクタの台詞が棒読みに感じる”という点だ。
黒は、みおかが言う上級者になれない理由とはこの事だろうと踏み、乙女ゲームをしているみおかに「ねぇ」と話しかけた。
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