複雑・ファジー小説
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- 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover-
- 日時: 2012/04/18 00:10
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
——「見上げた空の美しさを、どうやって人に伝えたらいい」
瞳に移した景色の前に、言葉とは無力なものである。
——「旅人の謡う唄の感動を、どうやって人に伝えたらいい」
耳に聞いた音の前に、言葉とは無力なものである。
——「耳の聞こえぬ恋人に、己の想いをどう伝えたらいい?」
心内の感情の前に、言葉とは、弱く脆いものである。
出来うれば逢いたい。逢えば話さずのうちに人は人を知る。
だが、それが叶わぬときがある。そしてそれは意外に多い。
そんな人の為に、僕等は今日も行く。
届けます。
貴方の言葉、貴女の想いを、
遥か遠くで一人待つ、愛しき人の所へと。
—————————————————————————————————————
【まえがき】
いろいろひっくるめて、アロハー。
SHAKUSYA(作者)と申します。
……なんか奇妙な始まりかたで申し訳ないです。
旧シリダク掲示板にて別HNでの掲載をしていたものですが、謎のスランプに全く書けなくなって閉鎖している間に板のほうのデータ量が一杯で使えなくなっちゃったっつーことで、こちらの方に移転してきました。
知ってる人が居たら光栄の限り(´・ω・)<もちろん知らなくても読めるよ
【この小説を読むに当たって】
①荒らし・中傷・喧嘩・(過度の)雑談・宣伝など、迷惑行為は厳禁。ネチケット守りましょう。
②グロ描写・冗談程度のごく軽い下ネタ登場の可能性大。イヤな人はバック・トゥ・ザ・インデックス。
③これはジャンル「ファンタジー」の「一人称」小説です。ご了承を。
④更新頻度はナメクジにも負けてます。時折あげてくださる方募集中(((
⑤スレ主は文章を詰めて書きます。主人公の語り口は軽いですが文章はギュウギュウです。ご了承を。
⑥コメント・アドバイスは両手を広げて大歓迎。是非コメントしてやってください。
スレ主からは以上です。ごゆっくりどうぞー。
WRITTEN BY SHAKUSYA(2012/03/23 16:56)
【目次】
Kapitel 1
零. >>3
一.①>>4 ②>>5 ③>>8 ④>>9
二.①>>12 ②>>13 ③>>14 ④>>15 ⑤>>18 ⑥>>19
三.①>>20 ②>>21 ③>>22 ④>>23 ⑤>>24 ⑥>>25 ⑦>>26
【お知らせ】
・参照100を突破!(4/11)
・第一章第三篇③を加筆しました(4/12)
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.22 )
- 日時: 2012/04/12 21:29
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: キリア君崩壊の巻。
「わたしと王妃がそちらへ赴く、と言うのはありな話かね」
ななななななな、ななな、な、なん……だと……。
そろそろ僕の心臓がハレツしてしまいそう。ついでに脳味噌も粉々に爆発しそう。僕はついに掠れたうめき声も出せなくなって、ひたすらニコニコし続ける王様と王妃様と、ひたすらイヤな顔と驚いた顔を交互に出し続ける側近の方々の顔を順ぐりに眺めた。
自分自身が酔うほどぎょろぎょろとさ迷う視界の中に、丁度よく親方の姿が映りこんだ。重臣王族の皆様に取り囲まれ、きっと頭の上にヒヨコがピヨピヨと舞い踊っていたであろう僕を見咎めて、親方が苦い顔をしてズカズカとこちらに近寄ってくる。その足音を耳ざとく聞きつけ、王様がようやく顔を離してくだすった。
そう言えば、王様に対して僕すっごいズケズケとモノを語ったような気がする。
……うわああああああぼぼぼ僕なんてことをををおおぉぃぅぉぉぉぁぁぁあああぇぇぇああぃぃぅううっ!?
「おお、フルーヴゲル軍医中将。丁度君の養子と話をしていた所だよ」
僕の荒れ狂う嵐の心境をさっぱり無視して、王様は煮すぎてばらばらになりかけたミートボール状態の家臣をてくてくと回りこんできた親方と親しげに話しこんでいる。王様のフレンドリーさ加減に対して家臣が何も咎めないのが不思議すぎる。こ、これが常態? 王様の? 僕の中の常識がどんどんぶっ壊れていくぞ。
「また龍と逢いたいとでも言ったんですか? 多分養い主が理詰めで返してきたでしょうに」
おおお親方口調がちょっとキツいよ。でも王様何も言わないし。それどころか何か楽しそうにニコニコしていらっしゃるし! なんちゅー破天荒な王様なんだもう。家臣たちの白い目線も相まってか、頭がくらくらする。
「確かに、私の提案は全てが完膚なきまでに叩きのめされた。キリア君は確か学校へは行っていないのだろう? この理論的思考と、その思考をあんなにも筋立てて話す家臣も顔負けの話術は、彼の独学かね」
当事者たる僕を置き去りにして、二人だけで勝手に話が進んでいる。
まだちっちゃい子どもをつれた二組の親子が、子供のことをなおざりにして自分達の世間話に没頭していく、それをぼーっと見上げてるあの置き去り感と思うと分かりやすい、かな?
「独学ですね。それを身に付けるために基礎的な読み書きと計算は教えましたが、それ以上の学問はアレ自身が本を読み漁って身に付けたものです」
「ふぅん。学術的素養はあると見る」
「あるでしょう。ですが、アレは窮屈な、いわゆる勉強は嫌いですから。学校に入れて勉強させても恐らくは伸びません。アレが勝手に本を読んで勝手に伸びていく分には良いでしょうがね」
だから親方口調がキツいってば。しかも僕のこと「アレ」って。何で代名詞なんだよ親方のバカッ!
と、ここで王様が不意に話題を元に戻した。
「それで、王宮の方に龍を来させるのは家臣の心中的な意味と気候風土的な意味の両要因により無理だということは分かった。して、わたしと王妃がそちらへ赴くという手を考え、キリア君に提案したところで君が来たのだが、君はどう思うかね?」
流石に親方もびっくりしたようで、目を見開いて王様の安穏極まりない笑顔をにらみつけた。それでもすぐに普段のぶすっとした顔に戻って、手を顎に当てて思案。十数秒沈黙して、答え。
「出来ないことはありませんが、キリアは何しろ長距離専門の配達屋でしてね。私は私でまた別に色々と遣ることがありますし、二人とも朝はとても早いですよ。そう——始砲(ウェイクコール)が鳴る三十分ほど前に来られますか? そうすれば見ることは可能です」
王様苦笑。少し背後にいた王妃様も苦笑。
「始砲の三十分前とはまた、随分な早起きだ。だがわたしも王妃もそれは構わないのだよ、王族の公務は時に徹夜沙汰だ。特に書類のサインには一晩どころか二晩も三晩も徹夜するときすらある。きっぱり言ってしまえば、二日三日の徹夜などわたしも王妃も苦痛ではない。なあ?」
「ええ、確かに。ただ、夜を明かすとお肌の美容には悪いですわ。うふふ」
「えー……お話に水を差すようですが。来られますね?」
「嗚呼、都合の良い日時を教えてくれれば」
……ああ、すっげぇ……。
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.23 )
- 日時: 2012/04/12 21:34
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: キリア君活躍の巻。王様は水を差すのが大好き。
僕がぽけらーっとして王様と王妃様の優雅ですさまじき会話を拝聴していたら、演習場の方で、化鳥みたいな声が轟いた。僕も親方も、王族家臣の皆様方も、皆が一斉にそちらを向く。
高く高く、空に渦を巻くもの——
紅蓮の火柱。
親方は悪魔の形相を一瞬浮かべて、唇を噛み、無言のままそちらに駆け出す。僕は土に刺さっていた隊長さんの短剣を引っこ抜き、保持の印を手早く彫り直して、親方の後について走った。で、何故か王様まで走ってついてくる! ぬぇえいワケが分からんっ! しかも何ちゃ足速いぞこの王様!
真っ先に現場にたどり着いた親方は、腰からあの年季の入った戦場刀を抜いて“水霊(ヴェッセラ)”を集める万象式をものすごく大雑把に地面に書き、それを臆面もなく踵で踏んづけて「集合(ヴェーザメィラ)!」と一声叫び、そのまま恐ろしい勢いで燃え盛っている炎の中に突っ込んで、中で半狂乱になっている軍人さんを思いっきり突き飛ばして自分も炎の渦の中から飛び出す。ヴェッセラのご加護のお陰で親方は無事だ。
で、一方の僕は消火活動。土に短剣を半ばまで刺し、そのまま土にミゾを刻むかたちで、エルデンを集合させる万象式とエルデンに土の動きを僕の意志にそって操作させる万象式を組み合わせて書いて、その上に手を置く。この際汚れることなんかは気にしてない。
「集合と操作(ヴェーザメィラ・ウント・ベディナーグ)」
僕の声から少し遅れて、火柱の周りの土が円形にちょっとばかし盛り上がる。
そして。
僕の意図していない現象が目の前で起きた。
盛り上がった土が一点に集まったかと思ったら一気に高く伸び上がって、いきなりぶっとい蛇みたいになりやがったのだ。そしてソレは根元からトグロを巻いて火を取り囲んだかと思えば、ぎゅっと巻いたトグロを搾って火の渦を消し飛ばし、そのあとはモグラが土にもぐり込むみたいにして土に還ってしまった。
僕ポカーン。軍人さんもポカーン。家臣もポカーン。親方までポカーン。王様だけがひたすらニコニコ。
って、まさか王様……。
「あああ、あの……さっきのは、あの?」
「そうだよ。わたしがやった」
……「そうだよ」じゃねぇぇぇぇぇぇえええええええっ! あっさり言ってのけるなぁぁぁぁぁああああああっ!
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.24 )
- 日時: 2012/04/15 04:59
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: 更新する文章が短い? その分回数が多いとです(相対値)
ちょうど良いから、万象式について追記。
人が書いて今まさに発動している万象式にチャチャを入れるなぞと言う芸当は、そーとー技量がないと出来ないということを頭にインしてほしい。
何せ「力の塊」っちゅーのは単純な奴で、一つの命令から二つ以上の行動を起こすことが出来ないし、二つ以上の命令を一気にこなすことも出来ない。もしそれを無理矢理させると、「力の塊」が混乱を起こして、命令に対する行動がハチャメチャなことになってしまう。
発動中の万象式の中に他人が命令を滑り込ませるには、間断なく下される命令の隙間にねじ込むしかない。でもそれがどんなに難しいことか。たとえようもないほど、と本当は言いたいところだけど、強いてたとえるなら、固定していないまち針にノミとタガネで穴を開けるよりも難しい。
そんな神経が擦り切れるほどの集中力と気の遠くなる技術が要る芸当を、この王様は、まあ涼しい涼しいお顔であっさりとしてのけたのだ。しかも僕の意志とぜんぜん違う。ポカーンするのも無理ない。
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.25 )
- 日時: 2012/04/17 02:34
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
王様はほけらーっとしている皆のことを一回ぐるりと見渡して、それから苦笑した。
「王は誰よりも強くあれ……先代王のその言葉を信じてひたすら鍛錬を積んでいたら、結果本当に誰よりも強くなってしまった。流石に体力は落ちてしまったが、万象式を使うにかけては軍医中将、君にも勝る自信はあるよ。まあ、普段これをひけらかすようなことはしないから、軍部は軍部の方で任務をこなすこと」
ああ、足が速いわけだ。きっとあのゆったり衣装の下に思いもよらないようなとんでもない逆三角形ボディが隠れてるんだろうなあ……あんまし見たくないけど。優しそうな王様には平常のボディで十分だよ、うん。
「えー、アコナイテ大尉?」
「は……」
王様への返事とも吐息ともつかない声を肺の奥から搾り出したのは、真っ青な顔をした部隊の隊長さん、アコナイテ大尉。そりゃー、自分が今まで仕えて来た王様が実は軍医中将たる親方顔負けの実力者だなんて聞いたらボーゼンもするわな。どうりで軍の入隊試験がめちゃめちゃに難しくなるわけだ。
「どうも先程から顔色が悪いようだが?」
「己の無力と向き合っていたところであります」
なかなか哲学的なお返事。ただ、もっと単純に言えば王様との実力差に愕然としてるってだけのこと。
王様はそれに気付いているのかいないのか、浮かべた苦笑にもっと苦味を混ぜた。徐に空を仰ぐ。
「王が持っていたところで無意味な力さ。わたしは戦好きで自らも戦地に立ちたがった先代王とは違って、血なまぐさい戦争は出来うれば見たくない。確かに王は誰よりも強くなければならないが、この平和国家での王の強さとは、即ち武力でなく為政力だ。……して、軍医中将。そちらの首尾は?」
静かな声は、あっさりと静けさを解く。
静まり返るアコナイテ大尉以下部隊の皆様方を差し置いて、親方は口を一文字に引き結んだまま、がっぱりと口を開けた鞄からハサミを出して包帯を切った。そして大雑把に広げ散らした道具をていねいに鞄の中に納め、ふーっと一つ溜息をついて、それからやっと顔を上げて王様の質問に答える。
あいかわらず淡々とした、でも何処かほっとしたものも含めた口調だった。
「火が触れていた所にのみごく軽い火傷。それから髪の毛は残念ながらほぼ全滅。火傷は二日、髪の毛も二ヶ月でどうにかなります。まあ、恐らく己の居る環境と正反対の環境で力を行使されられ、ファラーメー達の心象が少し悪くなっただけでしょう。当人の管理は良いですから、彼等も本気じゃあありませんよ」
「ふむ。本気でないにしては随分と燃えたが」
「彼等は少々度の過ぎた目立ちたがりなんです。本気だったらあんな程度で火は消えません」
刹那、漂う暗い雰囲気。
僕も親方の言う「ファラーメーの本気」をよく知っている。
一年くらい前の話になるけど、別の部隊の演習真っ最中のことだった。今まで整備されずに酷使され続けてきたファラーメーたちがいきなり不満を大爆発させたのだ。それはさっきの火柱とは比べ物にならないほど太く、高く、鮮やかに紅く、より大きく渦を巻いた。銃の持ち主はその一瞬でケシズミに成り果てて、周りの半径三メートル以内にいた人までも巻きぞえになって、何人かは軍人として再起不能になってしまった。
その時僕は全力で演習場にいたほぼ全てのエルデンを動かし、親方は天候が変わってしまうほどのヴェッセラを動員して、それでもすぐには消えずに、火柱は悪夢のようにずっとそびえ続けた。
あの時の炎の赫さは、あの蛇のように蠢く渦は、あの火の粉を散らす熱い風は、今も記憶の片隅で強固に恐怖を煽り続ける。焚き火の火勢を風で煽るように。
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.26 )
- 日時: 2012/04/18 00:09
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: あとちょっと、あとちょっとで一章が終わる!
暗い沈黙が漂う中で、僕はそっと人波を掻き分けてちょっと遠巻きに見ていた王妃様のところに行って、あら、と上品なお声を挙げて僕を見た王妃様に向かって、思い切って声を挙げる。
さっきまでの暗い話とは、まあ全然関係ない話だけど、さ。僕自身はあんまり暗い話が好きじゃないから。
「あの、龍を見に来ても僕は全然構わないんですが……子どもの龍は結構顔見知りが激しいし怯えがちなので、背後からは絶対に近づかないで下さいね。飛びかかられて押し倒される時がありますから。一応僕も一緒にはいますけど、押さえきれる自信はそんなにないので……」
「もちろん、分かっています。龍と相対したときの礼儀作法に関しては、図書館に研究文献がありますからね。子の龍の目の前で両手を広げるのは駄目ですし、むやみに撫でるのも失礼なのでしょう?」
知ってたんですか、と素直に驚く僕に、うふふ、と王妃様はまたまた上品に笑ってみせる。
それにしても、僕が図書館で借りて読んだ本の中の王様とは印象が全然違う。何かこう、色んな意味で庶民気質あふれるというか、野生に満ちてるというか……喜んでクワだのスキだのを握りたがりそうと言うのか。
それに王妃様も王妃様で、容姿物腰は貴族らしく上品だけど、知的好奇心旺盛でしかも自分で調べちゃう所が何とも庶民くさい。このままお二人に庶民の服を着せて町に出しても、違和感なく収まってしまいそうだ。
頭がまたくらくらとして、僕は思わず頭を押さえた。