複雑・ファジー小説

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Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜
日時: 2012/04/20 01:11
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

 注意!このお話は人が死ぬ場面が度々登場します。    苦手な方は閲覧をしないことをおすすめします。
 
 

 その日、彼の人生は一変した。彼の意思とは無関係に。
 日本人で、傭兵の神宮寺昴(すばる)は、仕事中のアフガニスタンでテロリストの襲撃に遭い、彼の小隊は壊滅。彼自身も負傷し、視界がブラックアウトする。だが、次に目を開けた時、先ほどまで広がっていた阿鼻叫喚の地獄絵図は消え去り、代わりにあったのはファンタジーな田園風景だった。そして傍らには犬耳の少女がいる。彼女は告げた「ここはもう一つの世界だ」と……
 
 異世界、獣耳、魔法にガンアクション!?ドラゴンも!?
不器用な傭兵と犬耳魔法少女が織り成す異世界放浪記、ここに開幕!!



 はじめましてアンゲルといいます。今回はじめて小説を書き始めました。至らぬ点だらけと思いますが、よろしかったら読んでください。

第1話 >>01
第2話 >>02
第3話 >>05
第3.5話 >>07
第4話 >>08
第5話 >>09
第6話 >>10
番外編 >>11
第7話 >>12
第8話 >>13
第9話 >>14
第10話 >>15
第11話 >>16

     登場人物紹介

・神宮寺昴 男 22歳
 傭兵業を本職とする日本人青年。黒髪に同色の切れ長の瞳。銃器を用いた戦闘をメインとするが、ナイフや刀剣を使っての白兵戦もこなす。膨大な魔力を持っており、魔導弾という戦闘スキルを使う事が出来る。日本人的な律儀で素直な性格。


・エイミア・マギット 女 17歳
 愛称はエミ。昴が出会った獣人の少女。人狼の血族で、犬耳と尻尾をもつ。透き通るような白い肌に茶色い髪の毛をしていて、耳や尻尾も同じ色をしている。瞳の色は金色。杖の代わりに短剣を振るって魔法を放つ。家事全般から魔導戦闘までこなすが、やや天然で恥ずかしがりや。


・ヘンリー・アイゼンブルク 女 20歳
 アーク帝国騎士団第一大隊に所属する女騎士。セミロングの赤髪に紅い瞳。男性社会である騎士団の中でもかなりの実力派であり、ロングソードと戦闘魔法を併用して戦う。クラウスとはバディであり、恋人同士。しばしば周囲にいじられる。


・クラウス・ホロディン 男 20歳
 アーク帝国騎士団第一大隊所属。エルフ。金髪碧眼で整った顔立ちの美男子。口数が少ない。銃剣一体型のガンランスで近接戦から魔眼を用いた狙撃までこなす。ヘンリーとは入団前からの付き合い。


・グレン・クルセイド 男 53歳
 アーク帝国騎士団第一大隊の指揮官。現場主義の熱血漢で、部下からの人望も厚い。身長190以上の大男で、背丈程あるバスターソードを使用する。皇帝とは旧知の間柄。


・ギレル・アルマーシ 男 56歳
 アーク帝国皇帝。式典やイベント以外ではラフな話し方を好む。帝国史では珍しく、妻はエレーナだけで、側室も持っていない。グレンとは同級生同士。


・エレーナ・アルマーシ 女 41歳
 アーク帝国第一王妃。夫のギレルとは恋愛結婚した。名門貴族の出であり、柔らかな物腰の女性。ギレル同様形式ぶった話し方は好まない。ヘンリーとクラウスの恋仲について話が盛り上がるなど、お茶目な一面も。


・カーサス 男 67歳
 エノ村の村長でエミの祖父。昴のことを気遣い、旅の案内にエミを付けた。昔は傭兵もやっていたらしい。


・アリシア・マギット 女 34歳
 エミの母。エミとは血が繋がっていないため、人間である。柔らかな笑顔が特徴的で、かなりの美人である。


・テイラー・マギット 男 36歳
 エミの父。アリシアと同じく人間である。温厚な性格で、アリシアの意見に逆らえない事もしばしば。

Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.14 )
日時: 2012/04/14 00:39
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

  第9話 入国と道中


 翌日の早朝、昴は部屋をこっそり抜け出し、宿の中庭で鍛錬をしていた。使うのは銃ではなくナイフである。弾薬がいつ補充できるか分からないため、節約のために近接戦闘も交えて戦う事に決めたのだ。

「フゥッ!」

ナイフを振り、相手の喉元を搔き切る様をイメージする。短く切って呼吸をし、斬撃はなるべくコンパクトに収まるように心がける。最小限の動作で、相手の息の根を止めることを意識する。
 気が付けば、日が昇り始めていた。昴はナイフをシースに収め、手拭いで汗を拭く。

「最悪、こちらの銃を使う事も考えなければな…」

昴は小声で自分に言い聞かせるように呟いた。ナイフをしまい、昴は部屋へと戻った。
 洗面所で顔を洗い、気分を入れ替える。すると、エミが起きてきた。

「おはようスバル」

「お、おう。おはよう…」

昴はエミを見て少し顔が赤くなる。頬にキスされた、それが昴の記憶だ。

「き、昨日は突然どうしたんだ?」

昴はそこと無く尋ねてみる。

「え?何が?昨日は疲れてすぐ寝ちゃったよ。」

「・・・・・・」

何故かエミは本当に分からないという顔をしている。地球にも挨拶でキスをする国も多くあった。そういうものの一種なのだろうと昴は自分を納得させようと必死に考える。

「私寝ぼけてた?」

「い、いや大丈夫だ。何でもない。」

「そう?変なスバル…」

まるで自分の方がおかしいような言われぶりに昴はため息をついたのだった。

(なんか、これじゃあ、俺が意識し過ぎてるみたいだな…)

みたいではなく、そのまんまなのだが、昴は認めようとはしない。

「ねえ、スバル。とりあえずご飯食べ行こ?」

「そうだな。行くか。」

昴は思考を中断し、朝食を取りに一階へと向かった。

 同日の昼頃。昴とエミはウルクの町を後にし、アーク帝国国境へと差し掛かった。街道を道なりに進んで歩いていると、検問所が見えた。

「あれが入国管理所よ。関所のような物ね。」

エミが説明を入れる。武装した警備員が複数人で護衛している。入国の手続きをする場所だけあって警備は厳重だ。

「身分証の提示と入国の目的を。」

管理官が簡潔に尋ねてくる。

「神宮寺昴。観光に来た。」

「エイミア・マギット。この人と一緒です。」

昴とエミは身分証を管理官に見せながら言った。管理官は身分証の後ろのページにスタンプを押して、はい次、と言って仕事を続行した。

「ついに国境を越えたわね、スバル。」

「あぁ、そうだな。気を引き締めよう。」

国境を越えたといっても、まだしばらくは街道が続く。昴たちは歩いて首都メリュウスまで向かうつもりでいた。時折、傍らを物流のトラックが通り過ぎてゆく。

「あれは何だ?」

 昴は何かを見つける。街道脇の茂みからのそのそと出てきたのは、少々大型の熊に似た人外だった。昴は小銃を構える。さすがにナイフで対処できる相手ではなさそうだ。だが、次の瞬間…

「ギャオォォォ!!」

「っ!?」

こちらへ向かってきた熊は飛来した黒い影に遮られる。昴は視線で影を追った。だが、そこに居たのは想像の遥か上をいくものだった。

「ワイバーン級…そんな……!」

エミが呟く。恐怖に声がかすれていた。
 エミがワイバーンと呼んだそれは、全長7メートル程の蜥蜴のような生き物だ。前足には翼膜が付いていて、完全に翼の役割りをしている。獰猛そうな顔には、食いちぎった獲物の鮮血がベッタリと付着して、紅い甲殻をさらに深紅に染めていた。鋭い眼光が二人を捕らえる。エミは尻尾の毛を逆立てていた。昴も、目の前にいる今までとは桁違いの人外に足がすくんでいた。

「ギャオォォォォォ!!」

深紅のワイバーンが咆哮する。こちらを睨み付け、一気に飛び掛って来そうな勢いだ。

「よりにもよってこんなデカブツを相手する事になるとはな。エミ、下がって。」

「私も戦う!」

「駄目だ。飛竜種の甲殻は硬いんだろ?なら魔導弾を使うしかない。」

「でもっ…!」

エミが縋るように見つめてくる。

「…分かった。一瞬でいい。奴の注意を引き付けてくれ。」

「分かったわ。大丈夫、それ位なら私だって!」

エミは言うなり魔法でワイバーンを攻撃し始めた。
 エミは、魔法の誘導に杖ではなく短剣を使っていた。短く攻撃呪文を唱え、短剣の切っ先をワイバーンに向ける。ワイバーンは鬱陶しそうにエミの方を見ると翼を広げて舞い上がった。
 昴は銃を手に持ちながら走り、ワイバーンの死角へ回り込む。斜め後ろに回り、道中学んだ魔導弾を放つ。基本は他の魔法と同じく、意識を集中させて、イメージを具現化させるだけだ。貫通力強化を念じた魔導弾をワイバーンのわき腹へ打ち込む。数発は角度が悪く弾かれたが、それでも何発もの弾丸がワイバーンに突き刺さった。

「ギャァァオォン!」

ワイバーンが咆える。耳を覆いたくなるような大音量だ。ワイバーンは舞い上がり、エミの方へと滑空した。

「エミっ!!」

昴が叫ぶ。エミは横に走って逃げる。だがワイバーンはすぐに迫ってくる。

「っ!」

ワイバーンがあと少しと迫った時、遠方から飛来した弾丸がワイバーンの頭部で炸裂した。同時にスモークが展開され、辺りは煙に覆われる。

「ゴホッ、ゴホッ」

鼻の利くエミはスモークにむせて咳き込む。

「エミっ!!」

駆けつけた昴は、自分が首に巻いていたストールを取り、それでエミの口元を塞いでやる。そこへ重いエンジン音と共に人影が近づいてきた。

「貴方たち、下がって!!」

よく通る女声が響き渡った。かくして戦いの火蓋は気って落とされた。

Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.15 )
日時: 2012/04/25 00:16
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

     第10話 飛竜と騎士団


「貴方たち、下がって!!」

 近づいて来た女性はロングソードを振りかざして叫ぶ。次いでスモークの煙幕の中から装甲車が出現し、後部のハッチが開いて、人が吐き出される。

「怯むな!いけ、いけ、いけ!!」

大柄な男が叫んでいる。恐らく集団の指揮官なのだろう。

「大丈夫かエミ!?」

昴は、言われたとおりに一旦後退し、エミの様子を確認する。

「コホッ、ケホッ…大丈夫…」

エミはスモークが相当きつかったのか、まだ少しむせ込んでいる。

「一小隊、左翼に展開!二、三小隊はバックアップだ!!」

指揮の怒声が飛び、兵員は指示を確実に実行していた。装甲車の砲塔が火を噴き、兵員達は銃撃や剣撃を繰り返している。だが、ワイバーンも負けてはいない。体制を立て直したワイバーンは、翼を羽ばたかせ、砂埃を舞い上げる。その間にワイバーンは体内の器官から排出される灼熱のブレスを吐き出した。炎にやられた者はいないが、火の勢いで近づけなくなってしまう。

「クラウス!魔導弾をお見舞いしろ!!」

リーダーの男に指示された青年は銃を構え、短く提唱すると発砲した。狙ったのはワイバーンの口元、つまりブレスの発生元だ。着弾すると、水の球体が出現、破裂し、ワイバーンは口から煙を吹かせながら仰け反る。

「今だ!総員かかれ!!」

「おおぉ!!!」

号令に兵員全員が応え、一斉に攻撃を再開する。ワイバーンは翼を振り回して抵抗するが、降り続く鉄の雨に成す術も無い。

「ヘッドクウォーター。エリアC地点、座標23.2、10.5に砲撃を要請!」

「ヘッドクウォーター了解。着弾まで15秒」

「総員退却!砲撃が来るぞ!」

合図を受けて、兵員達は後退する。直後、ワイバーンは爆煙に包まれた。煙が晴れるとそこにはワイバーンが力無く横たわっていた。

「ヘンリー、確認してこい。」

「了解。」

ヘンリーと呼ばれた女性は、昴達に最初に声を掛けた人物だった。ヘンリーは、ワイバーンに近づく。だがその時、ワイバーンは最後の抵抗とばかりに火を吹いた。

「グギャ…ァァァオンッ!」

「!!」

生物の見せる弱弱しい最後の抵抗。しかし、それでも人間を焼き殺すくらいは容易い火力のブレス。刹那、灼熱の業火がヘンリーに迫る。

「危ない!!」

昴は叫ぶより先に魔導弾計4発を撃った。先ほどクラウスが放った魔導弾をイメージし、水属性を3発、貫通力強化を強く念じた物を1発だ。3発の水属性弾が火を打ち消し、次いで貫通属性弾がワイバーンの頭部を貫く。さすがのワイバーンも今度は完全に沈黙した。

「ありがとう。助かったわ。貴方も魔導弾が使えるのね。」

「いえ、体が勝手に動いたもので。」

ヘンリーという女性がお礼を述べる。周囲から他の兵員も集まってきた。

「部下の危機を救って貰った事、感謝する。私はアーク帝国騎士団第一大隊、隊長のグレン・クルセイド少佐だ。」

「神宮寺と言います。スバルが名前です。」

名乗りを受けた昴は、自分も失礼の無いよう名乗り返す。

「ふむ。変わった名前だな。ところで、そちらのお嬢さんは大丈夫かな?」

そういってグレンが指差したのは、昴の胸に顔を埋めているエミである。昴も言われてから、エミの状態を確認した。

「うん…もう大丈夫…」

そう言うとエミは昴から離れた。

「その子、人狼か?スモークはちときつかったか…スマン。」

グレンはエミの犬耳をちらりと見て誤ってきた。

「いえ、おかげで命は助かりました。誤る必要はありません。」

「そうか。して、君たちはツーリスト(旅行者)かな?」

グレンが質問してきた。昴は銃を持ったままなのに気付き、背中に回してから答える。

「そんなところです。この子はエイミア・マギット…エミっていいます。道案内をしてもらってます。」

「にしては、ワイバーン相手によく戦っていたな。常人の身のこなしではないが…」

「本職は傭兵です。」

昴は真実を告げた。しかし、グレンはそうかとだけ言うと部下を呼ぶ。

「ここは危険だ。我々がメリュウスまで送り届けよう。」

「それは助かります。ありがとうございます。」

なんと、目的地まで送ってくれるそうだ。騎士団と一緒であればかなり心強い。

「ヘンリー、お連れしろ。第三車両だ。」

「了解しました。二人ともこっちよ。」

ヘンリーが二人に手招きをする。昴とエミはヘンリーに付いて装甲車の後部に乗り込んだ。中には半分近くに弾薬ケースやその他の物資が積まれていた。多分物資の輸送車なのだろう。席に座ると、ヘンリーと青年が一人乗り込んできた。するとハッチが閉まり、車内は赤ランプの薄明かりだけで照らされる。

「自己紹介がまだだったね。私はヘンリー・アイゼンブルクよ。ヘンリーでいいわ。」

ヘンリーは20歳位で肩まである赤髪が印象的な活発な感じの美人だ。もう一人の男の方も美形で、耳は穂先のように尖っている。

「こっちは私のバディのクラウス・ホロディン。見ての通りエルフよ。無口だけどいい奴なのよ。」

「…ヘンリー、僕は別にいい奴なんかじゃない。」

クラウスといった青年はエルフだそうだ。人間と似た外見で一際目立つのが特徴的な耳だ。彼らエルフは弓が得意で、魔力も高い。視力も良く、さらには美形揃いだ。人間より寿命が長いのも特徴のひとつである。

「いいじゃない。今日も魔導弾で活躍したんだし。」

「…ヘンリーはやっぱり油断してたね。」

「ち、ちょっと気が抜けちゃっただけよ!別に油断したわけじゃ…」

「…それが油断って言うんだよヘンリー。」

ヘンリーとクラウスは二人で話し始めた。こうしてみていると夫婦に見えなくも無い…気がする。すると、無線から声が聞こえた。

「おい、お前ら。夫婦漫才が無線から駄々漏れだぞ。やるなら無線オフにしてやってくれ。」

「そうだリア充ども!独身騎士の敵め!」

「もうさっさと結婚しちゃえよお前ら。」

畳み掛けるように無線からは次々と声がする。ヘンリーは真っ赤になって口をパクパクしているが言葉が出ない。

「あ、あんたたち!好き放題言ってくれるわね!!」

「ヘンリー、三分の一位は事実だと思うぞ。」

「隊長まで!?」

無線からはグレンの声も聞こえる。クラウスはため息をついていた。
 一方昴は、そんなやり取りを聞き流しながら、横にある弾薬を眺めていた。なんと、5.56ミリNATO弾に形や大きさがそっくりな物も混ざっていた。

「ここにある弾薬はメリュウスでも買える物かな?」

「…うん。市販しているよ。」

「そうか!良かった。これで弾薬が補充できる。」

昴は、これを聞いて安堵した。昴が今まで戦ってこれたのは、このM4があったからだ。PMCOは仕事柄、マガジンを大量に携行する。VIPの護衛中等に襲撃を受けた場合、標的に雨のように銃弾を浴びせ、釘付けにするためだ。昴も例に漏れず、マガジンは大量に持っていた。空弾倉も捨てずに持っていたため、弾切れを起こさずに済んでいたのだ。だが、それも限界がある。弾薬の補充が出来るのは喜ばしい事だった。

「…ところで魔導弾つかえるんだね。提唱無しは珍しい。」

クラウスが話題を変えた。いつの間にか無線を切ったヘンリーも興味ありげにこっちを見ていた。

「スバルは自然型なんだと思う。初めてのときも提唱なしに無意識にやったんだもの。」

「へえ。才能…なのかしらね?」

「…魔導弾は魔力の有無とイメージ力が重要。」

口々に語り始まる面々。昴もクラウスに質問する。

「クラウスも使ってたな。俺のとは威力が桁違いだったが?」

「…僕はエルフだし、訓練もしたからね。」

クラウスはM14ライフルに似た銃を使用していた。銃身部分は銃剣と一体構造になっていて、銃に槍が付いているような感じだ。

「…気になる?これはガンランス。騎士団で使ってるのは僕位かな。」

クラウスは昴の視線に気付いて説明した。

「へぇ。この世界では剣を使う者も多いのか?」

「ちょ、スバル!?」

エミが慌てて口を挟む。

「この世界って?」 「…この世界?」

昴はしまったと口を押さえた。昴の背中を冷たい汗が一筋伝った。

Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.16 )
日時: 2012/04/20 22:29
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

   第11話 皇帝と審問

「どういうことだ。今の話は?」

 装甲車の車内が静まり返る。昴はどう誤魔化そうか頭をフル回転させた。

「えっと、その…」

「…はっきり答えて欲しい。事と次第によっては、僕らは君を拘束しなければいけない。」

しどろもどろになる昴にクラウスが追い討ちを掛ける。つい口を突いて喋ってしまった。無意識とはいえ、かなり迂闊だった。

「正直に答えて。貴方たちは何者?」

「待て。エミは関係ないんだ。」

「…話してくれる?」

「…分かった。話そう。」

昴は抵抗を諦め、経緯の説明を始めた。

「異世界から来たって…確かに都市伝説では聞いたけど…」

「…信じがたいね。何か証明できる物は?」

説明を聞いたヘンリーとクラウスはそれぞれのリアクションをする。

「特にないな。気が付いたら俺は倒れていて、エミに保護された。それ以前の記憶は前の世界の最後だけ…」

「そう…」

ヘンリーが沈んだ顔をする。

「この事はグレン隊長にも報告するわ。」

「ああ。構わない。それに拒否権も無いんだろう?」

「ごめんなさい。貴方はイレギュラーだけど、罪人ではない。拘束はしないわ。約束する。」

「…帝都に着いたらしばらく待機してもらうことになるだろうけどね。」

「・・・・・・」

ボロが出てしまった以上仕方ない。昴は騎士団に一時的に身を預ける事を了承する。

「スバル…」

隣に座るエミが昴を見上げてくる。瞳は僅かに潤んでいた。

「心配するなエミ。ちょっと時間はかかるかもしんないけど…」

そう言ってエミを納得させる。旅は始まったばかりだというのにこの様だ。昴はため息をついた。
 ヘンリーは、携帯端末を取り出し、シークレットコードでグレンにメッセージを送った。しばらくすると、グレンから「現状待機」の文面が送られてきた。ヘンリーは、指示通り帝都まで監視を続けることにする。気が付くと装甲車の揺れはかなり小さくなっていた。

「…揺れが収まったから、帝都付近に入った。」

クラウスが解説する。どうやら舗装された道に入ったようだ。装甲車内には運転席にしか窓が無いため、こういう細かな変化で外の様子を察知する。

「そろそろ着くわ。それとスバル。貴方がいない間のエミちゃんの面倒は騎士団が責任を持って見るので安心して。」

「ああ。頼む。」

どうやら軟禁されるのは回避できそうにない。最悪、事情聴取や監禁状態になるかもしれない。しかしエミの生活は保障してくれるそうなので、悪い事ではないが。
 そんな事を考えていると、装甲車の速度がゆっくりになって行き、停車した。ハッチがアラーム音と共に開放され、日が差してくる。昴は眩しさに目を細めるが、すぐに目の前の光景に再び目を見開く。

「ようこそ帝都メリュウスへ。」

ヘンリーが両手を広げて言った。広がっていたのは無数の居住施設、それも三階、四階建て以上の物ばかりだ。中心地点には高層ビルが密集していてその真ん中に大きな城があった。某夢の国にあるような城ではなく、どちらかと言えば神殿おのような造りだ。また、町の全方位は巨大な壁で囲われている。整備された道路や信号機に昴は懐かしさを覚えた。

「さて、悪いけどスバルは連れてくわ。2日位で戻れると思うから心配しないで。」

「分かりました。スバル、待ってるからね!」

「うん。すぐに戻るよ。」

「…じゃあ、こっち。」

ヘンリーとクラウスに連れられて、昴は軍用高機動車に乗り込む。助手席にはグレンの姿もあった。

「話は聞いた。悪いが、デブリーフィングがてら皇帝陛下にも報告させて貰うぞ。」

「はい。」

グレンは威厳のある低い声で語りかけてきた。車は先ほどの城へと向かう。やがて到着すると、昴達は入り口から内部へと入っていく。エントランスはサッカーコート二面分程の広さがあり、天井もかなり高い。シャンデリアなんかもあって、装飾で溢れていた。エントランスを抜け、廊下を真っ直ぐ歩く。しばらくして多数の衛兵が守る部屋の前へと到着した。衛兵はグレンを見るとすばやく敬礼し、近寄ってきた。

「いかが致しましたかグレン少佐。」

「皇帝陛下にご報告がある。お目通り願いたい。」

「了解しました。直ちに。」

衛兵は言うが早いか、もう一度敬礼して部屋に入っていった。

「スバル君とヘンリーは一旦ここにいてくれ。」

グレンはクラウスを連れて部屋に消えた。

 護衛で固められた部屋の内部、皇帝の間でグレンとクラウスは肩膝を付き、頭を下げていた。

「面を上げよ。報告を聞こう。」

「はっ。炎天山より涌き出たワイバーン級飛竜種の討伐は無事完了致しました。死者0名、損害軽微であります。」

「良くやった。さすがは精鋭たる騎士団。」

「はっ、ありがたきお言葉。」

ワイバーンというのは、飛竜の名前ではなく総称だ。前足が翼で、腕の無い小型の飛竜は総じてワイバーン級と呼ばれる。ワイバーン級は飛竜種の中でも最下級であり、上位にドラゴン級、最上位にサラマンダー級が存在する。ワイバーンとドラゴンの明確な区別は、腕の有無、全長、鱗の硬度などがある。サラマンダー級とは数百年生きたドラゴンで、桁外れの全長と能力を持つ。小国の軍隊程度なら壊滅させる化け物だ。だが、個体数は圧倒的に少なく、近年はあまり被害報告も出なくなっていた。

「それともう一つ、報告が御座います。」

「何だ。」

「俄かに信じがたい事ですが、異世界からやって来たという者を保護しました。」

「ほう?して、その者は今いるのか?」

「はい。入室をお許し願います。」

「許可する。」

「はっ。ヘンリー!!」

グレンが大声で呼ぶとヘンリーが昴を連れて入ってきた。グレンの後ろに肩膝を付き、敬意を示す。昴はどうして良いか分からず、とりあえず深くお辞儀をする。

「その方が異世界から参ったという者か?名を名乗れ。」

「はい。神宮寺昴と申します。神宮寺が姓、スバルが名前です。」

「そうか。で…あー…」

皇帝が言葉に詰まった。かと思うと…

「あー、硬っ苦しいのはもういい。楽にせい。」

などと言ってくつろぎ始めた。なんとも驚きの展開に緊張していた昴は呆気に取られる。回りを見るが、誰も驚いた様子は無いため、いつものことなのだろうか?

「は、はあ…」

「グレン、お前はどう思う?」

「なんとも言えんな。事例としては聞いた事くらいはあるが。」

「そうだな。アカデミーの連中にでも洗わせるとしよう。」

ちなみにアカデミーと言うのはこの国の学会の事である。

「今後の扱いについては?」

「それは後で伝えよう。それより今はスバルとやらと話がしたい。」

それから昴は数十分かけて、今までの経緯を再度話した。

「うーむ、なんとも信じ難いが、今こうしてスバルが存在してるしの。」

「自分でも未だに信じ切れません。」

「まあ、悪いようにはせん。身体検査と軽い審問だけ受けて貰う。そしたら帰っていいぞ。」

「はい。助かります。」

なんとも皇帝らしからぬ物言いだが、不思議と威厳や風格が無いわけではなかった。

「…それで話を大きく変えるが、ヘンリー、クラウス。お前ら進展は無いのか?」

「まさかここに来て陛下にまでいじられるとは…」

「…陛下、いい加減にして欲しい。」

ニヤニヤしながら聞いてくる皇帝にヘンリーとクラウスは反論する。

「いや、なに。年を取ると若いもんの恋路なんかが気になってな。手近にいたものでつい…」

「まったく、お前という奴は。」

悪戯を咎められた子供のように白状する皇帝。なんだか上下関係もあやふやになってきた気がする。するとそこへ高らかな声が響いた。

「おや、良いではありませんかグレン。若者を見守る事も大人の仕事でしてよ。」

「おお、お前か。どうしたのだ?」

現れたのは、格好から推察すると王妃であろう。歳もそれなりに行っていそうだが、そんな事は微塵も感じさせない魅力的な女性だった。

「異世界からの客人が来てるそうじゃないあなた。私も挨拶しておきたくて。」

鈴を転がすような綺麗な声で話す王妃。昴はとりあえず会釈する。

「おお、そういえば名乗らせておいて、こちらが名乗っていなかったな。我が名はギレル・アルマーシ。こっちは妻のエレーナだ。」

「神宮寺昴です。神宮寺が姓、スバルが名前です。」

昴は先ほど皇帝にしたような自己紹介をエレーナにもした。

「よろしくねスバルさん。」

エレーナはニコリと微笑んでスバルに挨拶した。
 結局、その後はギレルとグレンが昔話や武勇伝に花を咲かせたり、ヘンリーとクラウスをエレーナが質問攻めにしたり、昴に地球の事を聞いたりしていた。不安は消え去り、皇帝との面会は幕を閉じた。

Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.17 )
日時: 2012/04/23 23:44
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

    第12話 夜と日陰

 とある日の夜。アーク帝国首都メリュウス某所。爆発事故で荒廃した廃工場の一角に二人の男が佇んでいた。

「第6次接続実験は成功致しました。」

痩せ細った背の低い男そう告げる。

「…良くやった。引き続き実験は継続せよ。」

背の高い男が低い声で受け答える。

「はっ。しかし、一つ気になることが…」

「なんだ。さっさと言え。」

「はい。接続の際、鼠が一匹紛れ込んだようです。」

痩せた男は手元の資料をサイリューム(折り曲げると化学反応を起こして発光するペンライト)で照らしながら報告する。

「それは本当か?生きているのか?」

背の高い男は声のトーンを更に低くして問いかける。

「はい。生きております。それも今、このメリュウス市内に滞在している模様です。」

「で、そいつの名前は分かっているのか?」

「監視係の報告によれば、彼の者の名は、神宮寺昴というそうです。」

「では引き続き衛星による監視を行え。」

「了解しました。我が主。」

それだけ言い残すと、報告係の小男は闇に消えた。一人残された男は、焼けて黒くなった壁に寄りかった。

「くくっ…まさか、生きて時空を越えられる者が存在するとはな…」

男は期待に目をギラリと輝かせる。その笑みは邪悪に染まっていた。

「神宮寺昴…興味深い…くく、ハハハハハッ!!」

夜の帝都に男の高笑いが響き渡った。

 皇帝との面会から数時間後、昴は審問及び事情聴取、メディカルチェックを受けた。全て終わった頃には、日は完全に落ちており、結局この日は皇城に泊まることとなったのだった。

「何かあったらこの呼び鈴を鳴らして。すぐにメイドが来るから。」

「分かった。」

「それじゃあ、また。多分明日も会うだろうから。おやすみなさい。」

「…今は旅の疲れを休めて。」

「ああ。二人ともありがとう。おやすみ。」

宿泊する部屋に案内してくれたヘンリーとクラウスに挨拶し、扉を閉める。ちなみにエミは、騎士団兵舎のヘンリーの部屋に泊まるそうだ。
 昴はこれからの事を考える。現在武器であるM4とサブウェポンのM1911は一時的に帝騎士団に預けている。これは単純に、皇城内での部外者の武装は前面禁止されているからだ。尚、預ける際にグレン少佐に聞いたところ、5.56ミリ弾と同規格の物がメリュウスにある武具商で売られている事も分かった。明日はこれも買いに行こうと思う。

「それにしても、面倒な事になったなぁ…」

昴は一人、ため息をつく。確かに、明日には開放すると言われていた。最初は少し疑いつつも、皇帝の計らいなのだろうと思っていた。しかし、後から聞かされた事項に『監視係二名の同行』というのがあったのだ。

「上記の項目を了承する条件として、帝国側の監視員二名の同行を承諾する…ね」

昴は契約を読み返す。予想外の増員に戸惑いは隠せない。昴は契約書を机に放ると、ソファーから立ち上がり、窓を開けてテラスに出た。
 外の景色は、高層ビル群の眩い明かりと、その向こうに広がる居住区の夜景が絶妙なコントラストを醸し出していた。星は光量があり過ぎて殆ど見えないが、幻想的な輝きを放つ三日月だけははっきり見えた。

「この世界にも月はあるんだな…」

昴は地球に思いを馳せた。日本で、外国で、戦場で見上げた夜空の月。それと同じ物かは分からないが、この世界の空にも月は輝いている。つい数日前、昴はアフガンでいつもと変わらずに仕事をしていた。一体誰がこのような事態を予想できようか。

「…解らないな。運命って奴は…」

昴は一人呟いた。

 一方、騎士団兵舎ヘンリーの部屋では…

「わぁ、エミちゃんのここって柔らか〜い!」

ヘンリーがエミの弱点を鷲づかみにしていた。

「ひゃうっ!も、もうダメ!これ以上は無理っ!!」

「え〜、だっていい毛質してて、手触りがすごくいいんだもん。」

「だ、駄目ですっ!!離して下さい!!」

ヘンリーはエミの尻尾からしぶしぶ手を離した。

「ちぇ〜」

「ちぇ〜じゃないですよ、もう!」

エミがヘンリーに講義する。エミの喜怒哀楽を表現する尻尾は同時に弱点でもあるのだ。触ったヘンリーの方は、小動物をモフモフするのと同じような感覚だっただけなのだが。

「でも、いい声出してたじゃない?」

しかし、ヘンリーは追撃とばかりに両手をワキワキさせてエミに迫る。その顔は悪に染まっており、エミは身の危険を感じて後ずさった。

「ちょ、ヘンリー…さん?目が怖いっ!」

「ただのスキンシップよ。楽にして。」

「そ、それ以上こっちに来ないで!」

エミは冷や汗が背筋を伝うのを感じた。だが、無情にもエミの叫びは受理される事はなく、ヘンリーはエミに襲い掛かる。

「さあ、黙ってお姉さんの言う事を聞くんだ!」

「いぃやぁぁ!!!」

帝都の夜に響いた狼の遠吠えは、誰にも気付かれることは無かったのだった。

 兵舎近くのシューティングレンジ。そこに一つの影。

「・・・・・・」

人影は、ただ静かに的を睨み付ける。一瞬だけ目を細め、引き金を引き絞る。防音魔法で、銃声は自分の半径3メートル以内に留まる。弾頭は的の中心から左に5ミリずれた位置に着弾した。

「練習か?」

不意に背後からした声にクラウス・ホロディンは振り向いた。

「…隊長」

「ほれ、冷えてるぞ。」

声の主、グレンは片手に持っていた缶コーヒーをクラウスに放り投げる。

「…ありがとうございます。」

クラウスは、銃を持っていないほうの手で缶をキャッチする。クラウスは防音魔法を解き、銃をカウンターに置いた。缶のプルトップを引き起こすと、プシュッという小気味のいい音が鳴る。

「で、こんな時間に秘密の特訓ってわけか。」

「…そんな大層な物じゃないです。明日もこの感覚を維持できるように…それだけです。」

「いや、立派だ。他の団員にも見習わせたい。」

グレンはしみじみと語る。クラウスはコーヒーを一口飲む。彼好みの無糖コーヒーだ。

「…隊長。良く考えれば、夜にコーヒーの差し入れってどうなんですか?」

「がっはっは。そんなんで眠れなくなる性質でもあるまいし!」

グレンは豪快に笑う。夜中だろうとお構いなしだ。

「…今日はもう寝ます。隊長、差し入れ、ありがとうございました。」

「おう。ゆっくり休め!」

クラウスは空になった缶を持ち、射撃場を去った。
 
 この時、このあと待ち受ける世界の危機を、彼らは知る由も無かった。それぞれの思いを胸に、華やかな帝都の夜は更けていくのだった。

Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.18 )
日時: 2012/05/12 00:12
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

大変申し訳ありませんが、サイトを移設します。

【AnotherErath〜魔法と銃と世界と君と〜】は、小説投稿サイト『小説家になろう』に掲載します。

引き続き読みたい方はそちらでご覧下さい。


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