複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

不器用な天使【三話目後編UP】
日時: 2012/05/12 07:53
名前: 風弦 (ID: YLB79TML)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html


イラストなど。ちょっとした解説も書く予定。

こんにちは。
以前も書いてましたが一旦ロックしてやり直します。
感想など気軽によろしくお願いします(`・ω・´)



─あらすじ─
平凡な日々を送っていたユナの元に現れたのは天使と名乗る者だった。
天使は彼女の力が必要だと言い始め、徐々に不思議な世界への扉が開きます。
天使と悪魔の戦争に巻き込まれる女の子のお話。



プロローグ  >>1
第一章 天使以外の何者でもない >>2
第二章 天使の力        >>3
第三章 二人目の天使  前編 >>4 後編 >>5

Re: 不器用な天使 ( No.1 )
日時: 2012/05/10 12:55
名前: 風弦 (ID: 1VSk00VJ)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html

─プロローグ─ 

 目の前に広がる光景は直視できないほどのものだった。
 自身の前に立ちはだかるものは、黒く大きな身体をして頭には大きな鋭い角が二本生えている。その姿はまるで鬼のよう──いや、むしろ悪魔のようである。
 ここは、見慣れた公園のはずだった。子供が遊ぶ遊具やベンチ、緑の木々に囲まれた平和な場所のはずだったが、この悪魔のせいなのか辺りは暗くなり、視界が悪い。
 周囲には人が倒れている。身体に穴が空き、真っ赤な血を流して苦しむ者もいれば?に意識がなく微動だにしない者、何が起こっているのか呆然としている者、恐怖に打ち震える者。
 悪魔は赤い目をギラリと輝かせて少女を見下ろした。
 足が竦み、その場から逃げ出すこともできなくなっていた。

(ここで死ぬ?)

 そうとしか思えなかった。恐らく自分はこの悪魔に殺されてしまうのだと。
 悪魔は明らかに悪意を持ってこの場に現れた。現れたその瞬間、鋭い爪を振り下ろし誰かの身体を切り裂き、この光景を作り上げた。
 彼女は目を閉じた。

(こんな所で死ぬなんて)

 もちろん死にたくなどなかった。
 ただ、逃げる術がない。
 悪魔は太い腕を高々と振り上げ、振り下ろす。
 しかし、その攻撃は彼女には届かなかった。
 悪魔の爪を受けたのは銀色に輝く刀である。その刀を構えていたのは、刀と同じ銀色の髪の青年。
 
「やはりか、油断していた」

 彼は悪魔の腕を振り払うと即座に後退し、距離を置いた。
 そして少女の方に目を向ける。

「もう待ってる時間はない、力を貸してくれ!」
「力?」

Re: 不器用な天使 ( No.2 )
日時: 2012/05/10 12:56
名前: 風弦 (ID: 1VSk00VJ)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html

第一幕、天使以外の何者でもない。

 時は夕刻で、空は茜色の染まり輝いている。沈みかけた太陽は山の向こうへとゆったりと移動している。
 鈴原学園でも授業が終了し、生徒達は帰りの支度を済ませて教室から出る者ばかりで、残っているのはわずかだった。
 桜坂ユナも他の生徒と同様に帰りの支度をしていた。黒い鞄に教科書をしまい、席から立ち上がる。
 
「やっと帰れる」

 一つ、ため息を吐く。
 彼女にとって勉強は苦行だった。正直頭の出来は良くないので授業についていけないことがほとんである。
 そういうわけで、学校にいるよりも家にいる方が好きという考えになっている。
 そんなユナの元に一人の少女が駆け寄って来る。 
 淡い金色のふわふわした髪に可愛らしい顔立ち、目はくりくりしてて背は低く、実際の年齢より幼く見える。
 にっこりと愛らしい笑顔を浮かべて口を開く。

「ユナちゃん、一緒に帰っていい?」
「いいけど、真央の家は反対方向じゃなかった?」

 ささやかな疑問を投げつけた。
 
「帰りにケーキ屋でケーキ買って来いってお使い頼まれてるの。ほら、ケーキ屋ってそっちの方向にしかないもん」
「そっか」

 納得して、真央と教室を出た。
 学校を出て帰宅路へ出るとちらほらと同じ学校の制服を着た者達が目についた。
 彼等のなかには、すれ違うとこちらを見てくる者もいた。
 基本的に注目を集めているのはユナではなく、真央だった。真央は学校内ではそこそこ有名人である。
 小さくて可愛らしい容姿が人目を引いているらしく、人気者である。真央のことを幼女と呼ぶ者も多いがユナは流石にそう呼んだことはなかった。
 
(むしろあの呼び方は馬鹿にしてるんじゃ……)

「ねえ、ユナちゃんは天使っていると思う?」

 突然の問いかけに固まってしまった。別に天使の意味が分からないなどということではない。
 天使なら、神話やあるいは小説などでもよく登場していて一般的に知られているのは間違いない。
 しかし、実際にいるかどうかと聞かれれば答えはノーだった。
 ユナは怪訝そうな顔を真央に向けて言葉を発する。

「それは、いないと思うけど、まさか信じてるの?」
「そうだよ。ユナちゃんって夢見ないんだねー。えへへ、いたらいいなって」
「いないよ、流石に」
「でも、幽霊がいるんだからいてもおかしくないんじゃないかな? 私って霊感強いから、たまに幽霊なら見えるし。ああいうのが普通にいるぐらいなんだから、いても不思議じゃないと思うんだけどな。あと鬼とかも!」
「夢見ていいのは小学生までだよ」

 きっぱりと告げると真央はショボンとして俯いた。
 その様子を見てぎょっとする。
 冗談ではなく、結構本気でいると信じていたようだ。どうしようかと迷った挙句、呟いた。

「で、でも、いるかもしれないね。外国なんかだと悪魔祓いのエクソシストなんかも実在してるし、天使もいるんじゃないかな」
「だよねー。良かったぁ! 寝込んで起き上がれないようになるとこだったよー」

 ぱあっと明るい太陽のような笑顔を浮かべて胸をなで下ろしている。
 ユナも内心ほっとしていた。
 まさか自分の発言で登校拒否にでもなられたらどう責任を取らされるのか想像したら何とも言えない気分になった。
 しばらくコンクリートの固い道を歩き続けると小さな木製の建物が見える。正面はガラス張りで、その透明に輝くガラス越しにはいくつものケーキが並べられており、甘い匂いが漂って来る。

「あ、ケーキ屋さんだぁ。じゃあ、ユナちゃんまた明日ね!」

 真央は嬉しそうに手を振ると、ケーキ屋のなかに駆け込んで行った。
 それを見届けると再び歩き出す。

「天使かぁ」



 ◆



 ユナは家の前で思わず立ち止まった。
 家の前には茶色い汚れたダンボール箱が置いてあり、その上には毛布がかけられていた。
 記憶が正しければ、朝はなかったはずだ。
 もしや捨て犬か何かなのではと思い、恐る恐る毛布を取る。
 ダンボールのなかを覗き込むとなかにいたのは小さな人のようなものであった。サイズはユナの手の平と同じぐらいで、銀色の髪に緑色の袴を着込み、頭には丸い天使の輪のようなものが浮かんでいた。
 目を丸くしてそれを凝視した。
 最初はただの人形かと思ったが、それは動いた。
 眠っていたらしく、起き上がると目をごしごしと擦り、こちらを見上げた。

「……ユナ殿」
「へ?」
「俺に力を貸してくれ」

 何が何だか分からなかったが、とりあえず家のなかに持って入った。
 部屋まで行くとベッドの上にそれを置き、まじまじと見つめた。

(小人かな?)

 ユナは木製の椅子に腰掛けてそれに問いかけた。

「何で私の名前知ってるの? 何者?」
「俺は天使」
「俺の天使?」
「俺は天使。名前はセームだ。悪魔を根絶や……人に危害を及ぼす邪悪な悪魔を倒し、地上に平和をもたらすためにここへ来た」

(何で言い直すかな)

 セームはじっとこちらを見上げていた。
 そして一息つくと何かを決意したように言い放つ。

「其方の力が必要なんだ。貸してくれ」
「不思議な力とか持ってないよ。友達なら霊感持ってるけど」
「霊感は関係ない。とにかく力を貸してくれ」

 何が何だか分からず首を傾げる。
 天使の存在など信じていなかったが、今目の前に確かにいる。信じるほかなかった。
 
「その力って何かな」
「基本的に天使は天上世界で、悪魔は地下世界でしか自らの力を発揮できない。この地上で力を発揮できるのは人間だけだ。その人間の力を分けてもらえば天使だろうが悪魔だろうがこの地上で力を発揮できる。ただ、相手の許可が必要だが」
「それなら、悪魔もここで暴れてないんじゃ」
「頭を回転させろポンコツ」
「むっ」

 いきなり罵倒され、ユナはむっとした。
 セームはベッドの上で正座したまま真剣な様子で言う。

「悪魔は、弱った人間につけ込んで許可を得る。それで今はこの地上に大きく干渉している。このままではまずいから、俺たち天使もここに干渉する必要がある」
「……力を貸すと何かあるの?」

 セームはしばらく黙り込み、やがて口を開いた。

「まあ、二度と普通には戻れなくなるな」
「こ、困る」

 ユナはショボンとした。
 平凡でも何だかんだ言って、戦争も何もない今の状態が平和で安全なのが分かっていた。
 そんなユナの様子を見てセームはベッドでころころ転がりながら言う。

「今すぐ決めなくともいいが、できるだけ早く決めてくれ。ダメなら早く次を当たるしかないからな」
「むー」





 ◆



 ユナはセームを家に置いて来て、ぶらぶらと歩いていた。
 暗くなりかけた空にはうっすらと月が見えはじめ、道を歩く人の数は随分減っている。
 肌寒い風が吹き抜け、思わず身震いをした。
 両腕をさすりながらトボトボ歩く。
 突然ことでどうしていいか分からない状態だった。
 本当に人を守りたいとか思う正義感の強い人なら、きっと迷わず受け入れるのだろうと思いつつ、自分はそんなに勇敢ではないと思う。
 
(臆病者なのかな)

 ふと辺りが真っ暗になった。
 気づけば公園の前にいたが、公園のなかから人の悲鳴が聞こえて来る。
 ユナは思わず立ち止まる。
 立ち止まってしまったのが間違いだった。そのまま足が竦んでしまって動けなくなった。 
 もしも、通り魔だったりしたらと思うとぞっとした。
 暗い公園の奥から徐々に足音がゆっくりと近づいて来る。
 それは人ではなかった。
 真っ黒な身体をして、頭には大きな角、そして背中には黒い羽を生やした生き物。
 

「あう……?」

 恐る恐るその生き物を見上げる。
 その姿はまさに悪魔だった────。 

Re: 不器用な天使【一話目+イラスト追加】 ( No.3 )
日時: 2012/05/10 21:23
名前: 風弦 (ID: Y98zbnfN)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html

第二章 天使の力



 悪魔を目の前に成す術もなく、立ち尽くしていた。
 悪魔は真っ赤な目をギラリと輝かせてこちらを見下ろす。
 そしてゆっくりと太い真っ黒な腕を振り上げ、一気に振り下ろす──。
 
「…………っ!」

 思わずぎゅっと目を閉じ、これから襲ってくるであろう衝撃に供えて身を固くした。
 しかし、衝撃が襲ってくることはなく、金属音が鳴り響く。
 ゆっくりと目を開けると目の前にいたのは銀色の髪の青年である。
 彼は銀に輝く刀で悪魔を爪を受け止めており、即座に弾かれたように後退して一定の距離を取る。
 ユナは不思議そうにその姿を見つめていた。
 彼はこちらに顔を向ける。
 
「誰?」
「……何だ気づかんのか」

 不満そうな顔で呟く。
 
「?」

 そう言われ、まじまじと彼の姿を見据える。銀色の髪にこの辺りではまず見かけない袴姿。
 同じような姿を見た覚えがある気がする──。
 ユナは目を見開いた。

「セーム?」
「よく分かったな」
「何で大きいの」

 先ほど見たセームは、手の平くらいの人形くらいのサイズだったはずで、今のように普通の人間と変わらぬサイズではなかったはずだ。
 セームは悪魔の方に気を配りながら簡潔に説明する。
 彼の話では、天使は自在に小さくなったり人間のサイズになることができるらしい。
 何でも人間に力を借りていない状態では悪魔に太刀打ちすることができないため、その間は悪魔に見つからぬよう小さくなって隠れているらしい。
 通常の人間と同じ大きさの場合は、微量ながら天の力が放出されてしまい、悪魔に居場所を知られてしまうらしい。
 
「と、今は話している時間はないんだが」
「む、それ」

 悪魔はじっとこちらの様子を伺っている。
 唸り声を上げ、しびれを切らしたのかこちらへ向かって一気に突進してくる。
 セームはすぐに刀を構え、悪魔を止める。
 重い一撃が刀にのしかかり、わずかに刀身が磨り減ってしまう。
 このままでは刀が折れると思い、一気に悪魔の腕を振り払い再び距離を置く。
 悪魔の動きに警戒しながらセームはユナに声をかける。

「力を貸してくれ! このままではまずい」
「う、うん」

 ユナは迷わずこくりと頷く。
 むしろ頷くほかなかった。この場でもし協力せずにセームが悪魔に負けてしまえば当然自分の身も危うくなるだろう。
 その上、一応知り合いという状態になってしまっているので見捨てて逃げることもできなかった。
 ユナをセームを見上げ、おどおどとした様子で尋ねる。

「どうやるの?」
「手を出してくれ」

 そう言われ、右手を前に出した。
 
「これでいい?」
「ああ」

 セームはユナの手を握る。
 その場に淡い青色の光が出現する。光は二人の周囲を舞い、満ち溢れていく。
 真っ暗だったが、そこだけは明るくなる。
 少しずつ身体が軽くなっていくような感覚を覚える。ゆっくりと何かが出て行ってしまうような感覚で、ユナは戸惑いがちにセームの様子を伺った。
 ユナの様子に気づいたのか、彼はさっと手を離した。

「これで充分だ」
「何か力が抜けたような感じがする……」
「力を分けてもらうのはそういうことだ。あまりやりすぎると相手が死ぬから、加減しろと神様に言われてる」
「む、それ大丈夫? 死にたくない」
「俺はちゃんと加減できるから安心しろ」
「むぅ」
「ともかくその辺に座ってるといい。どうせ動けないんだろ」
「う、うん」

 素直に頷いて地面に座り込んだ。
 セームは刀を持って悪魔の方へと歩み寄る。
 彼の刀は先程はなかったはずの青い光を纏っている。青く輝く刀身は水や氷を連想させる。
 真っ直ぐと悪魔の姿を見据え、刀を正面に突き出す。
 輝きを放つ薄い氷が地面に出現し、目にも止まらぬ速さで悪魔の足元に氷が張り付き、その動きを封じる。
 悪魔は唸りを声を上げて足を動かすが氷のせいで動かず、身動きがとれない状態である。
 セームは悪魔に歩み寄り、鋭い眼光でその姿を捉えながら問いかける。

「力を借りた人間はどうした? 力を吸い尽くしてしまったのか?」

 悪魔は何も答えない。

(まあ、力を吸い尽くされて死んでしまったと考えるのが妥当か……)

 唸り声を上げる悪魔に対して静かに言い放つ。

「下級悪魔ごときが調子に乗るからこんなことになる」

 彼は悪魔の胸に刀を突き立てる。青く輝く刀からは氷の刃が伸び、鋭い氷が悪魔の身体を切り裂く。
 黒色の血がその場に飛散し、まるで華のような形を作り上げる。
 長い断末魔が響き渡り、悪魔の身体は崩れて黒い砂になって飛び散る。
 セームは一息つき、刀を鞘にしまう。
 ユナは呆然とその様子を見ていた。
 彼はユナの元まで来て、ポンと頭に手を置いた。

「終わったぞ」
「む、終わった……?」
「ああ」

 ほっとして気が抜けるとそのまま意識を手放してしまった。




 ◆



 目が覚めると背中にはふわふわした温かい感触があった。
 その目に映ったのは見慣れた白い天井である。窓の方に視線を移すと、薄いカーテン越しに明るい光が見える。
 恐らくもう朝なのだろうが、ユナはぼーっとしたまま考えた。

(夢でも見てたのか……)

「む、起きたのか?」
「む? 何かいる」

 声のした方に視線を移すとセームの姿があった。
 セームはむすっとした表情でユナの額を二回ほど叩く。ユナは額を抑えてじとっと睨み返した。

「お、女の子を叩かない」
「黙れひ弱娘。あの程度で倒れるとは何事だ。さほど力を吸ったわけでもないと言うのに」
「知らない。そんなのコントロールできない」
 
 そう言い放ち、ぷいっとそっぽを向いた。
 
「……元気そうだな」
 
 複雑そうに呟くセーム。

「……うっかり力を吸いすぎてしまったんじゃないかと心配しただけ無駄だった」
「死んでないから大丈夫」

 そう言ってユナはポンポンとセームを頭を叩く。
 ふとユナはベッドの脇に置いてあった時計を手に取り、時刻を確認した。
 時計の針は十時を指しており、既に学校が始まっている時間帯だった。急いで起き上がると支度を始めた。
 鞄に必要なものを詰めてせっせと部屋を出ようとする。
 セームは不思議そうに首を傾げる。

「何だ、どこか行くのか?」
「う、うん。学校行かなきゃお母さんに怒られる……」
「俺も着いて行く。天使に力を借した人間は悪魔に狙われやすいからな」
「でも、セームじゃ入れないと思う」
「では」

 セームが何か呪文のようなものを唱えると、すぐに光がその場を包み込み、初めて会った時と同じ人形のような小さな姿に変化していた。
 小さくなったセームはユナの服にしがみつき、告げる。

「鞄のなかに入れてくれ」
「りょ、了解」

 ユナはセームを鞄のなかに詰め込んで家を出た。





 ◆




「それでね、昨日のテレビとっても面白かったんだよー」

 学校へ到着した途端に真央に捕まってしまい、長話に付き合わされるハメになってしまった。
 真央は上機嫌で昨晩のテレビの話をしているが、ユナは見れなかったので何とも言えない状況だった。
 
「へ? ユナちゃんは昨日のテレビ見てなかったの? 毎週楽しみにしてたのにどうして?」
「……昨日は体調不良で」
「そうだったんだぁ。何で今日は休まなかったの?」
「皆勤賞を目指してる……」
「そうだったんだ。初耳だよー。えへへ、ユナちゃんはすごいなぁ」

 そう言いながら移動しようとした真央がユナの机に足を引っ掛けた。
 彼女は盛大に転び、机の横にかけてあった鞄が落ち、中身がばら蒔ける。
 鞄のなかからセームも見事に飛び出していた。

「いきなり何だ、痛いぞ」
「しゃ、喋らない!」

 ユナは慌ててセームの口を塞いだ。

「え?」

 真央はキラキラした目でこちらを見ている。
 恐らく確実にセームが喋ったのを見ていたのだろう。

「こ、これはただの人形で」

 慌てて鞄のなかにしまおうとすると、真央は愛らしい笑顔を浮かべて弾んだ声で言う。

「隠さなくったって大丈夫だよー。それ、私も持ってるから」
「持ってる?」

 ユナとセームは揃って目を丸くした。
 二人の様子に構わず真央は自分の席まで行って鞄を取って来ると鞄に手を入れてごそごそと何かを探し始める。
 しばらく立って真央はぱあっと明るい顔をする。

「あ、あったあった!」

 真央が取り出したのはセームと同じような人形みたいなものだった。
 金色の髪を後ろで飾り気のないリボンで束ねている。そしてセームと同様の袴である。
 それは目を丸くした後、真央の服にしがみついた。

「主ー! 僕のことは出してはいけませんっていったはずです! な、何か僕と同じのがいるデス……」
「……お前は」
「僕はランダ。見つかってしまったのでよろしくお願いします。」
「…………」




Re: 不器用な天使【二話目+イラスト追加】 ( No.4 )
日時: 2012/05/11 19:49
名前: 風弦 (ID: 8PS445C3)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html

第三章 天使には他のタイプがいた 【前編】

屋上には明るい太陽の光が降り注ぎ、コンクリートを焦がしそうなほどであった。
 暑さもあったが、やわらかな風が気持ち良い。
 ユナはフェンスにもたれかかり、今だ小さくなったままのセームを抱えて目を丸くしていた。
 目の前にいるのは真央とその隣にはセームと同じ天使のランダだった。
 ランダもセームと同じで小さくて人形のようだ。
 しかしセームと同じ天使が他にもいるとは想像していなかったので驚きを隠せずにいた。
 
「…………」

 ユナが目を丸くしたままセームを凝視していると、真央がその場に座り込み、ピンクの布で包んだ弁当箱を置く。
 布を取り、出て来た弁当箱は正直女子高生が食べるものとは思えないほど大きな三段もある重箱のようなものである。
 弁当箱の蓋を開けるとキチンやポテトサラダ、塩おにぎりや卵焼きなど数え切れないほどの食べ物がぎっしりと詰め込まれている。
 真央はにこっと愛らしい笑顔を浮かべている。
 お箸を割りながら明るい声を発する。

「ほら、お弁当食べながら話そうよ!」
「え? でも私はもう食べちゃったし……」
「いっぱいあるから分けてあげるよ。好きなの選んでー」
「う、うん」

 美味しいそうな弁当に惹かれたので頷いてユナもその場に座る。
 フォークを受け取り、卵焼きに突き刺すと口に運んだ。
 その様子をじっと見ていたセームはちょこちょこと歩いて来て服の裾を引っ張ってくる。

「どうしたの?」
「それは、うまいのか?」

 セームが指差したのは卵焼きだった。
 
「うん、美味しいけど食べられるの?」
「どうだった?」

 セームはランダに視線を移した。

「食べられますよ。特に食べても異常はなかったです」

(天使が人間の食べ物食べると異常とか起きる可能性あるのか……)

「む、そうか。ではユナ殿、その卵焼きを」
「大きくなった方がいいんじゃないかな。その姿だと卵焼きが大きすぎだろうし」
「いや、このままでいい」
「へ?」
「このままの方が一つで腹いっぱい食べられる」

 そう呟いて今のセームからしてみれば大きすぎる卵焼きを受け取ると、かじりついた。
 もしゃもしゃと自分といほぼ同じ大きさのそれを食べる光景はシュールだった。
 
「そ、それより、そこのランダさんも天使?」
「悪魔です」
「天使だろ馬鹿め。悪魔と名乗りたいなら黒い羽でも生やしてから言え」
「ランダ君は強いんだよーっ。どかーんって倒してたよ」
「悪魔を?」
「うん、悪魔」

 笑顔のまま頷く真央。
 真央は天使の存在を信じていると言っていたことを思い出した。できるなら会いたいとか。
 それなら一応夢は叶ったことになるんだろうか。
 想像していた天使とは多少違うかもしれないが、真央の嬉しそうな様子を見る限りその辺りは問題なさそうだ。
 ユナはじとっとランダを見つめた。

「ま、真央を危険な目に合わせたらダメだから」
「危険な目に合わせたりしませんから、えへへ」

(……最後のえへへがなければ多少は説得力があるはずなのに)

「にしても小さくなってると可愛いよねーっ! 鞄にぶら下げるといい感じだよ! あとお風呂とかね」

 ランダが真央の鞄にぶら下げられて振り回されて目が回っている姿を想像して流石に同情したが、ふと疑問に思ってセームに視線を移し

て問いかけた。

「ランダの性別は女の子かな」
「いや、男だろう。女に見えないこともないが」
「真央、一緒にお風呂入ったりしちゃダメ!」
「え? 何で? 可愛いから楽しいよ。小さい頃にミホちゃん人形とお風呂入ってたの思い出すんだよ」

 首を傾げながらそう言った後、ミホちゃん人形の思い出を語りだした。

「でもソイツ男」
「でも可愛いよねー」
「いや、だからその……よろしくないと……」
「え? 何で?」
「せ、セーム。うまく説明をお願いしたい……」
「無茶言うな。スッカラカンに何を言っても無駄だ」

 そのまま沈黙した。
 確かにセームの言う通り真央には何を言っても無駄だろう。
 結局問題は解決しないまま放っておくことになってしまう。
 いつかどうにか解決しようと決意はした。
 



 

Re: 不器用な天使【三話目前編】 ( No.5 )
日時: 2012/05/12 07:53
名前: 風弦 (ID: YLB79TML)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html

第三章 後編

家に到着すると迎えてくれたのは兄のユウだった。
 珍しくユナよりも早く家に帰っていたらしく玄関で笑顔で迎えてくれた。
 ほのぼのとした笑顔はどちらかと言えば小さな子供に人気なのでよく近所の子供達に遊んでほしいとせがまれているのを見かける。
 
「ユナお帰りー」
「た、ただいま」

 ぎこちなく返す。

「今日は僕が晩御飯作ってあげるから、ゆっくりしててよ。あ、スカート」
「へ?」

 ユナは思わず首を傾げた。
 
「スカートもっと長くしなよ。膝より下じゃないとダメだよ」
「むぅ」

 長くしろと言われてもほぼ膝あたりの長さで普通より長めの丈である。

「だ、だって、お母さんが今の時期はもっと短くていいって」
「ダメだよ油断しちゃー。そんなんじゃ変な人が寄って来るから長くした方がいいんだよ」
「う、うん」

 とりあえず頷くしかなかった。
 どの道反論したところで何で? と返されるだけなのは目に見えている。
 なぜかユウと母はユナのスカートの丈のことでもめていた。
 その上晩御飯を作るのはユウと母で毎日交代したり一緒に作ったりしているので仲が悪いのか仲が良いのか判断しづらい。
 ユウと結婚したら女の子は家事をしなくても大丈夫だから楽そうだなと思いつつ、ユナは自分もそろそろ家事を手伝ったりした方がいいのかと考えながらオロオロしていた。

「それよりお腹すいたからご飯」
「分かったよ。美味しいの作るから楽しみに待っててねー」

 ユウが奥に入って行くとセームが鞄からひょっこり顔を出した。
 一応セームの存在は母と兄には知られていない状態だから、見つからぬように二人の前では顔を出さないように気遣ってくれていたのだろう。
 流石に人間じゃないとは言え、自分がうっかり顔を出したりすると家族に説明するのに苦労するとは分かっているようだ。
 そしてユナを見上げて呟いた。

「お前の兄は、真央に似ているな」
「そうくると思った。でも、あれ私のお兄ちゃん」

 兄が友達に似ていると言われるのは一般的には不思議なことだったが、否定はしなかった。
 雰囲気が似ているのは確かだった。
 真央と初めて会った時も兄と雰囲気が似ていたためかすぐに打ち解けることができてしまった。
 ちなみに真央が家に遊びに来た時の二人の意気投合っぷりは他人とは思えないほどだった。
 もしかしたら前世とかで関わり合いでもあったのではと思うほどだ。
 
「でも、あんまり私とは似てないんだよ……?」
「似てるんじゃないか」
「へ? どこが」
「可愛いところじゃないのか」
「か、可愛い? 私、可愛くない」

 首を横に振って否定した。
 
「あれ? お兄ちゃんのことも可愛いと思ってる?」
「とにかく多少は似てるんじゃないのか」
「むぅ」

 何かフォローしてくれたつもりなんだろうと思いながら自分の部屋へと向かった。
 部屋に入ると鞄を机の脇に置き、着替えを済ませた。
 
「あ、暑い……。そろそろ夏がくる」

 そう呟き、部屋の隅に置いてある扇風機のスイッチを入れた。
 少しだけ涼しい風が吹き始め、ユナは扇風機の前に座ってぼーっとする。
 鞄から脱出してきたセームがちょこちょこと歩いて来て不思議そうに聞いて来る。

「暑いとは何だ? 人間は暑いとか思うのか?」
「暑くない? いいなそれ」
「?」
「説明とかできない」

 きっぱりと言い放つ。
 暑いの意味を知らない相手に説明するのはよく考えれば非常に難しい。どう説明していいかも分からない。
 セームはむすっとした表情になったが気にしなかった。
 ふと気になったことを尋ねた。

「天使って他にもまだいる?」
「いる。何人いるかは知らん」
「知らんのか」
「知らん」
「ふ、不思議」

 多少は慣れたがやっぱり天使の存在というのは不思議でたまらなかった。
 本などで見たものとは少し違うがまるで夢でも見たかのようだ。
 魔法のようなもので戦えることも。
 
「力を吸うって吸血鬼みたいなのじゃなくて良かった」
「どういうことだ?」
「だって、あれ痛そうだから」
「だろうな。まあ、吸血鬼もいるにはいるが」
「いるんだ……」

 もはや何でもいるのではないかと思い始めた。
 天使や悪魔がこうも存在しているのなら、他にも不思議な生き物がいても全くおかしくない。
 普通の動物でさえ、その存在を知らなかった不思議な生き物に分類されてしまうのでは思い出すとキリがなくなってきてしまい、流石にそれ以上考えるのはやめた。
 昨日の悪魔のことも思い出した。
 黒い身体をして鋭い角を生やした不気味な悪魔。 
 まだ他にもあんなものがいるのだと思うと流石に恐くなって身震いした。
 そのまま寒くなってしまったので急いで扇風機を止めた。
 そしていそいそとベッドに潜り込んだ。
 その行動を不思議に思ったセームはちょこちょことベッドに上がり、枕元まで行くと声をかけた。

「いきなりどうしたんだ?」
「寒くなっただけ。あ、あと何だか悪魔が恐いです……」
「そ、それは悪かったな。俺がいるから多分大丈夫だ」

 そう言いながらちょこちょこよユナの上に登る。

「むぎゅ。ちょっと重い」
「あ、重さの調整を忘れていたな」

 するとすぐに軽くなる。
 どうやら重さを調整したらしい。
 重さまで調整できてしまうのかと関心しつつも一つ、心配だったことを思い切って尋ねてみる。
 
「そ、その……私、死んだりしない……?」
「恐らく大丈夫だが……この空気は人間サイズになった方がいいのか?」
「な、なってどうする……?」
「こういう時はそっと抱きしめてやれと神様が言ってた気がする」

 ユナは顔を赤くしてふるふると首を左右に振った。
 






Page:1