複雑・ファジー小説

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僕と家族と愛情と【六章】
日時: 2015/03/23 11:17
名前: ナル姫 (ID: MX8BW3Ro)
参照: http://www.fastpic.jp/users.php?act=gallery

僕愛のイラスト(全体的に低クオリティ)が掲載されています
ぜひご覧ください

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皆さんこんにちは!こんばんは!おはようございます!
タイトル変わってしまってすいません!!

初っ端から謝ってしまいました…。


MARIONNETTE 〜蒼の翼〜の書き直しにやって来たナル姫です。
いやほんとすいません。あんな中途半端なところで止めてしまい…。

しかし次こそはちゃんとやります。
頑張ります。悔いのないようにします。

attention
※史実と創作が入り混じってます。これで歴史を学ぼうとは間違ってもしないでください。
※荒らし、チェンメ、中傷はお帰りください。
※誤字、脱字、多々見受けられると思います。お知らせいただけると幸いです。
※スレ主の心はガラス製です。
※スレ主は基本携帯からのアクセスです。>>0が直せてなくても怒らないでください。
※上記の通り携帯からアクセスなため、携帯が不調な時は返信が遅くなります。ご了承ください。
※一応、学生です。途中カメさんが通過するかもです。
※グロ、エロ、たまにあります。


information>>606


SPECIAL THANKS!
アリス-Alice-様!ファンクラブなんて素敵なものを作っていただきありがとうございます!!

comment
春嵐様 檸檬様 陽炎様 六花様 しーちゃん様 世詩瑠様 ヰルマ(千襾)様 秋桜様 明星陽炎様 緋賀アリス様 奈未様 パール様 蓮華様 赤のす様 三毛猫様 磁石様 ゆぅ様 赤月蘇羅様 黒服様 まい様 無花果様 アリス-Alice-様 彩羽様 梅次郎様 真夜空羅斗様 みかん殿様 F様 コーラマスター様 雛罌粟様 真琴様 魁人様 碧颯様

story
一章『蒼丸』>>521
二章『伊達家の仲間』>>522
三章『父の背中』>>523
四章『姫と殿』>>524
五章『死闘、人取橋の戦い』
part1>>542
part2>>543



☆番外編☆
>>340【成実withティア・アウカル(無花果様より)】
>>349【佳孝with楽獲紗沙(ヰルマ様より)】
>>350【政宗withティア・アウカル(無花果様より)】
>>354【政宗(梵天丸)withエルカ・ゼロ(真夜空 羅斗様より)】

☆小十郎スピンオフ☆
>>351 >>362-363 >>369-370 >>373


では次からプロローグです。










◇◆◇◆



何が、『蒼い空の様に』だ。

ただの綺麗事にしか聞こえない。
この空は、灰色にしか見えない。
僕の目には、ゴミの様に汚いものにしか映らない。



何処が、『蒼く澄んだ空』だ。


この乱世で汚れない事なんて無いのに。
綺麗なんてありえないのに。




こんな荒んだ心が、一番汚いのも分かってるけど。

それもどうしようもない事で。






いつか、誰かが僕を『綺麗だ』と言ってくれる日が








来るのだろうか─…?



◇◆◇◆


壊れてしまった家族に、永久の愛を──



     【僕と家族と愛情と】

Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.613 )
日時: 2015/07/08 09:40
名前: ナル姫 (ID: Tf5VGYTU)

「夢を見ているのかしらね」
「……」
「こうして松ちゃんと再会できるなんて、思わなかったの」
「……私も…姉さんは、死んでいるものかと思っていました」
「松ちゃんが生きてるのは何となくわかっていたわ……梵ちゃんや時ちゃんが、貴方を見殺しにするはずないから」
「……そうでしたね…………姉さんの言う通りだ」

十年前の出来事を思い出す。あの時自分は絶望の中、二人の優しさを否定し、侮辱し、遠退けたが、そうだ、二人が自分のことを見捨てないのは、当たり前のことだった。だからこそ残酷なのも事実で、それでいて、どうしようもないこと−−もう済んだこと、戻れない過去なのだけれど。

「……ねえ、松ちゃん」

けれど。

「昔に戻りたいわね」

貴女という存在が。

「そう思わない?」

自分達を、伊達家を、十年前に引き戻すなら。

「えぇ……けれど、戻れませんよ…………もう、二度と」

ぽたり、ぽたりと涙が零れ落ちる。おかしいなぁ、ここでこぼれるべきのものは、涙なんて綺麗で透明な液体ではないはずなのに、もっと淀んでいて、赤くて、黒くて、ぼたぼたと垂れる汚い液体のはずなのに。痛がる人物は自分ではなく従姉のはずなのに、心臓に、ずきん、ずきんと鋭い痛みが走って、中々離れていってはくれない。

「……泣かないで」

強く抱き寄せられて、余計に涙が溢れて来る。とめどなく、透明な涙が、桃の着物を濡らしていく。

「っ、−−……どうして、っ……」
「ごめんね」
「どうして、どうして捕まっちゃったんですか……もっと、もっと上手に隠れて、くださいよ……!!」

もう遅い。そんなこと知っている。

「ごめん……本当にごめんね」

とめどないと思われていた涙は、桃に抱きしめられて気持ちが少し落ち着いた為か、つ、と一滴、小さな雫を流したのを最後に止まった。顔面がヒリヒリと痛むのを、ぐいっと袖で拭うと、服と肌が擦れて余計に痛む。だがもう、時間がない。時刻はもうとっくに夕刻を過ぎているのだ、躊躇っている隙などない。
桃の身体を両手でゆっくりと離す。とくに何の抵抗も彼女はせず、彼から離れる。

「……姉さん」
「…」
「貴女は最後まで、私はとにかく梵や時にまで……姉と呼べ、と強制してきましたね」
「弟みたいなものだもの、皆」
「恥ずかしがっていたようですが……実際は、誰も嫌がっていませんでしたよ」
「それは嬉しいわね」
「貴女の話をするときには……木野が滅んでなお、桃姉と呼んでいました……二人とも」

そんなに貴女を想ってくれていた二人に、迷惑をかけるつもりなどないでしょう?……言おうとした言葉は、喉から出てこない。だって彼女は、これを肯定するはずだから。

だから。


___



「−−松ちゃん……」

一瞬だった。
ぼたぼたと、刀から赤い雫が滴り落ちる。
抜いた刀は、一瞬にして桃の胸をまっすぐ貫いた。
ずぶり、ずぶり、と体重をかけた刀は肉の塊へ沈んでいく。
そのうち刀に体重をかけるのをやめ、刃を引き抜くと、胸を貫かれた彼女はどしゃりと畳の上に俯せに倒れた。絶命は確認するまでもない。

『−−松ちゃん……』

貫かれた直後、彼の名を切なそうに口にした彼女は、一体何を言いたかったのだろう。彼は自分を生かして逃がしてくれるだろうという、淡い一縷の希望を持っていたのか。父を母を、一族を手に掛け、挙げ句生き残っていた姉にさえ刃を立てねばならなかった彼に同情したのか。どちらも、彼には嬉しくない感情だった。

(今更、生かすはずもない……生かせるほど強くなどない)

無力窮まりない、左手を眺める。血はついていない。

(同情なんか……してほしくない)

悪いのは全て、自分だ。

「……くそ」

血で汚れていない畳の上に座り込む。
……もう、今の彼にはどうでもよくなっていた。伊達の未来も、自分のこれからも−−過去のことも。

Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.614 )
日時: 2015/07/14 15:51
名前: ナル姫 (ID: rLJ4eDXw)

たたっ、と畳を蹴った音。
ずぶり、と肉の裂ける音。
どしゃ、と崩れ落ちる音。
家臣達の様子を見てくる、とその場を去った従弟の背を見送った後、成実はその場にうずくまって、襖の向こうで繰り広げられる悲劇を物語る音を聞いていた。彼を見下ろす小十郎も、ゆるゆると首を振る。
話す時間……二人っきりの時間を設けること。それは、桃を殺せと−−小十郎は、暗に定行にそう伝えたのだ。伊達家の未来のために定行が行うべきことは、彼の手による桃の始末。それが、伊達家のためであり、定行のためでもあった。そして、それは桃にもわかっていた。二人っきりの時間が設けられた時、自分は定行に殺される。でも、それは定行にとってとても辛いこと……それ以上でもそれ以下でもない。しかし、伊達のために、自分の命の保障のために、彼は桃を殺したのだ。
ぎゅっと、成実は袖を握った。顔を腕に埋めて、震えていた。彼のことだ、恐らく泣いてはいないのだろうが、定行のことを考えての苦悩は、計り知れない。

「……何か」
「……」
「何か別の方法は……無かったのかよ……ッ!?」
「……成実」
「木野家も桃姉も、死なないで済む方法は無かったのかッ!?」

無かったのだ、わかっている。
十年前から、わかっていた。
音もなく襖が開いた。定行は悲しげな笑みを浮かべて、終わったよ、時、と呟いた。

「……」

無言で立ち上がり、部屋の中を覗くと、赤い水溜まりの上に倒れる女性がいた。今だじわじわと、水溜まりは広がっていく。

「ッ……、……桃姉…」

悲痛な声を漏らす。定行の服に血が着いてないことを確認すると、振り払うように頭を振って、成実は政宗を探しに行った。


___



「ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな……!」

小さく呟きながら城内を歩く。
十年前の自分は大人が大嫌いだった。十年前と比べると、もしかしたら一番大人びているのは彼かもしれない。だからこそ、そんな自分が嫌だった。
定行のことは二の次にして、伊達家の未来のためにと桃を殺させてしまった自分が嫌で仕方ない。……何より、桃の死骸を見たところで、こうなることはわかっていたとは言え、涙の出てこない自分が、大嫌いだ。


___



半刻程して、年長者に会いに行っていた家臣達が全員政宗の部屋に揃った。定行は、多分今頃寝ているのだろう。小十郎が部屋を見張っているため暗殺の心配はない。

「さて、皆揃ったか……事情は佳孝から聞いた。……で?どうであった?」
「……」

誰も、何もいわずにただただ目を伏せていた。溜息を吐き出し、政宗は小さく、わかっているけどな、と声を出した。

「貴様らももう諦めろ。伊達の……いや、伊達家臣達の定行に対する扱いの悪さには前から気付いていた筈だ。それなのに今更、処分どうこう聞きに行くだけ無駄だろう」
「……政宗様」

白金が声を出す。

「……もう、教えてくださるのでしょう?…………全て」
「……そのつもりだ」

暫くの沈黙の後、政宗は再び口を開いた。

「桃姉が生きていた。この事実は、儂や成実、小十郎と、あの事件を知ってる家臣達の仲を引き裂こうとしている。十年前の事件をお前達に教えるのは、最悪の結末を招かないようにだ。お前達に教えれば、家臣達の寝返りや、定行の処分を回避できるかもしれない……だからこそ、ここで決めろ」

政宗の青っぽい瞳が、家臣達を見渡す。

「貴様らは、定行の過去に、どんなことがあっても定行を拒絶しない自信があるか」
「……、……」

表情に僅かに変化が訪れたのは、言わずもがな、今回の戦で河原に奇襲をかけた面子と、白銀と白金、そして涼影だった。あの時の定行は、明らかに天才だった、そして、狂気だった。

「…ないのなら、聞かなくて良い。別にそれを責めはせん、言及もしない、聞く勇気がありませんと、申し出ることもない……静かにここから去れ。それで良い」

Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.615 )
日時: 2015/07/16 00:34
名前: ナル姫 (ID: q6ctOqAf)

誰一人、そこを立ち去る者はいなかった。息さえ殺すように、じっと、石になったかのように、そこで政宗の次の言葉を待っていた。

「……全員、聞くと……それで良いのだな?」

多少、頷くまでの早さにばらつきはあったものの、全員が政宗の声に頷いた。政宗は安心したような、悲しいような、複雑そうな顔を見せた。

「……奴は果報者だな…良い主と仲間に恵まれた」
「…梵天丸」
「もう、良かろう。儂らが言わなければ…定行が自ら言うと思うか」
「……」

成実ももう、反論するつもりもないようだ。もとより、こんな状況になってなお、もう少し考えようと言うなど無粋であり、無駄なことではあるのだけど。
そして、政宗は口を開いた。

「……定行…若松は、木野の長男だった」

語られるのは、赤毛の話。


全てを失った、少年の話。


___



政宗が生まれる前年、1566年の四月−−木野家当主の持行モチユキの嫡男、篤行アツユキとその従妹、徳姫の間に待望の第一子が生まれた。幼名を若松。その日、屋敷の庭の若い松の葉が、太陽に照らされて美しく見えたことから名付けられた。
父も母も木野の出身である彼は木野の血を濃く受け継ぎ、木野家の証である赤い髪と目を持って生まれてきた。賢そうな顔つきをしていた彼に、木野家の大人達は期待していた。
その子供が、木野家最後の天才になるとは、この時は誰も想定していなかった−−。


___



そもそも、木野家とは何なのか。
その歴史は古く、定行が今の当主だとすると、彼は25代目にまでなる。
時は鎌倉幕府が置かれる前のこと。源義経討伐の際に、軍師と言う立場で置かれたのが木野家の祖となる山見仲辰(ヤマミ ナカタツ)だった。彼は義経が殺されたそのすぐ後、病に侵され死んでしまったが、源頼朝はその功績を讃えて彼の一族に木野と言う名を与え、仲辰を木野家の初代当主とし、二代目に仲辰の弟、辰行タツユキを立てた。
幕府に重用された木野家は執権北条氏と幾たびに渡り小さな対立を繰り返したものの、和田家のように北条によって滅ぼされることはなかった。なぜか。それは、北条が木野の恐ろしさを知っていたからであった。
藤原頼経が四代目として鎌倉幕府の将軍の役職に就いた際、後鳥羽上皇が起こした承久の乱において、木野家は北条氏を裏で支えたのだった。元より優秀な脳を生かし、知略にて一族は活躍を見せた。そのことによって木野家に恩の出来た北条は木野を責めづらくなったのだった。また、木野の知略をこれでもかと言うほどに見せつけられ、むやみに敵視するとこちらが滅ぼされると言う恐怖心を植え付けられていた。勿論、木野家も源頼朝に恩があるから北条を支えたわけではなかった。北条を支えれば、北条は木野に恩ができるから、そして自分達に逆らえばどうなるか見せ付けることができるから−−そんな理由で木野は北条を支えた。早い話、彼らは残忍な一族なのだ。
だがそんな木野家の態度は、元が日ノ本に襲来した頃から変わっていく。元冦により崩れた、御恩と奉公。これにより揺らぎはじめた鎌倉幕府を木野は見限った。そして、幕府を裏切って密かに朝廷の傘下に入ったのだった。
しかし木野は後醍醐天皇の企てた二度に渡る鎌倉幕府討伐には手を貸さなかった。だが、密かに動いていた。鎌倉幕府の有力御家人である足利を、言葉巧みに幕府を裏切るように唆していたのだ。結果足利尊氏は幕府を見限り、さらに新田義貞によって鎌倉幕府は滅亡した。
さらにこの後、中先代の乱を起こした北条時行の鎮圧に貢献し、後醍醐天皇に反旗を翻すように尊氏を唆したのも木野である。結果、尊氏は室町幕府を開くことになる。
木野は南北朝のことに関しては何一つ関わりを持とうとはしなかった。歴史の表舞台に出ようとは一切しなかったが、裏で幕府を支えつづけたのだった。無論、それも北条を支えたのと同じ理由ではあったが。

Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.616 )
日時: 2015/07/20 15:38
名前: ナル姫 (ID: K.HEaMnc)

そんな木野が足利を見限ったのは、意外にも応仁の乱から結構経った日のことだった。勿論その前から、木野は足利を見限っており離反しようとは考えていたのだが、他に傘下に入るべき大名家が見つからなかったのだ。
そのままに月日は流れ、京を荒らした足利将軍家は没落したが、木野家は将軍の権威を取り戻そうとはしなかった。やがて目に着いたのが、伊達家であった。彼らは、1542年、晴宗とその父稙宗の戦いである天文の乱が起こった少し後に、晴宗の傘下に入った。敗戦続きだった晴宗だが、木野家の知略によりついに稙宗を隠居させた。功績を讃えられ、木野家は伊達の重臣へ取り立てられたが、家臣達の反応は白けたものだった。

木野家は、長年の残忍な裏切りによる生き残り方から、『木野家の赤は血の赤だ』と揶揄されるようになっていたのだ。


___



「……木野家の、赤は…」
「…………血の赤……」

全身に返り血を浴びた定行を思い出す。成実が因みに、と口を開く。

「木野が伊達についたときの当主が、定行の爺さんの持行……二十三代目だ」
「え、でもその頃晴宗様と稙宗様の戦いでしょう?若くないですか?」
「木野の先代が若くして死んだからな…父上からはそう聞いた」

さて、続きだ、と政宗は言った。


___



家臣の反応はとにかくとして、木野は伊達に歓迎された。だがやがて晴宗と輝宗の間で対立が起こると、持行は晴宗に、これ以上の争いは無意味である、ここで争いを起こせば次々と家臣が独立しかねない、輝宗に家督を譲り隠居するべきだと助言した。晴宗は承諾し、争いを本格的にする前に輝宗へ家督を譲った。その頃木野家も、定行の父、篤行へと家督が渡った。伊達と木野の若き当主の結束は強く、木野はますます伊達家の信頼を得るようになった。そして1566年、篤行と徳の間に若松が、翌年に輝宗と義姫の間に梵天丸が、さらに翌年、実元と和の間に時宗丸が生まれることになる。
三人が親友となるのは、最早当然のことだったのかもしれない。

幼い頃から、三人はいつも一緒だった。飯を食べるとき、昼寝をするとき、遊ぶとき、写経をするとき、修業をするとき、虎哉の元へ行くとき。梵天丸が片目となったあとも、時宗丸と若松は、決して彼を遠ざけたりしなかった。

「天下を取ろう!」

最初に言ったのは、誰だったか。もう、随分昔のことで忘れてしまった。恐らく、記憶の中では時宗丸なのだろうけど、時宗丸が言う前にも、誰かがそんなことを言っていたような気もする。
若松が知で支えて、時宗丸が武で支える。そうしていつか天下を取るのだと、自分達は天下を取れるのだと、信じて疑わなかった。現実を知って大人になる度、そう口に出すことはなくなってしまったが。
それでも三人は支え合って生きてきた。せめて、せめて伊達家の復興を。奥州探題として栄華を築いた伊達家は、小大名にまで成り下がった。このままでは終わらせない。終わらせるつもりはないと、三人は強く心に秘めていた。

若松は、自分の生まれた家が嫌いだった。
卑怯な手を使って生き延びてきた家が嫌いだった。
『人に優しくする事勿れ』−−それが木野家に伝わる家訓。木野家は、家の存続のためにならどんな残忍な事でもやりのける。厳しいことを強いる。特に、大切な後継ぎには。

少年は、怯えているような、確信を持ったような瞳で父を見詰めた。やがて父は、少年の持ってきた紙を机の上に乱雑に置いた。

「若松、やり直しだ」
「な、何故ですか」
「よく見ろ、ここだ。ここの守りが弱い」

ごつごつとした指で父親が指差したところを凝視する。やがて気がついたのか、あ、と小さく少年は声を漏らした。

「良いか若松。お前は木野家の御曹司だ。だが、だからといって甘やかすつもりはない。今お前は七つだ。あと十五年もすれば伊達の家督は梵天丸様…いや、竺丸様やも知れぬな。まぁ、どちらかに譲られるだろう。調度その時、お前も木野の家督を継ぐのだ。今からしっかり戦術を学んでおけ」

背を向けた父。少年は歯を食いしばった。

Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.617 )
日時: 2015/08/15 14:28
名前: ナル姫 (ID: AllLJKcR)

何度だって叱られた。何度だって指摘された。何度だって怒鳴られた。
だが、それでも、若松は天賦の才を確かに持っていた。木野の跡継ぎにふさわしかった。
ただ、問題は若松の両親にあった。二人は伊達に媚ることしか考えてはおらず、若松の教育といえば軍司としての指摘のみ。そのため、若松を人間として育てていたのは、彼の従姉の桃だった。

「まーつーちゃん!御饅頭を持ってきたわ。食べましょう?」
「ね、姉さん……僕はまだ父上から言われたことを終えていません……」
「良いのよ、そんなこと。さぁ、お食べなさい」

にこりと笑う従姉に苦笑を漏らし、若松は饅頭へ手を伸ばした。はむ、と一口食べると、彼女は優しく彼を撫でた。
桃は、梵天丸と時宗丸にもよくしてくれた。勿論立場としては梵天丸達の方が上なのだが、二人が桃に良く懐いていたのもあり、四人は本当の姉弟のようだった。
この家のことは嫌いだ。家訓だって気に入らない。けれど自分は後継ぎとして、この家の方針に逆らう権利はない。だが、誰にも優しく、家訓なんて関係無しに生きている彼女のことは好きだった。大好きだった。
桃は若松より七歳年上だった。もういつ嫁に行ってもおかしくない彼女だったが、若松の世話をするのは自分だと言って、決して結婚に同意などしなかった。そのうち家の大人も、あんな頑固な娘はどこの嫁にもやれないと、彼女のことを諦めてしまった。


___



「金、銀」
「……はい」
「河原が伊達へ……いや、木野へついたのは、儂らが七ツか八つの頃だ。その後、貴様らはすぐに捨てられた……相違ないな?」
「……はい」
「……河原は、蘆名を見限ったと……そう言って伊達へ来た」


___



「あんな当主に我々はもうついて行けませぬ!!」

客間から聞こえた声に、梵天丸と時宗丸、そして若松は驚いてそちらの方を向いた。互いに顔を合わせて草履を脱いで縁側へ上がり、そっと客間の襖を開ける。そこには、当主の輝宗が、土下座している誰かを困った顔で見ている姿があった。
結局、その行動は基信に見付かって三人は叱られたため、どんな会話をしていたのかはわからない。だが結局河原は木野配下として伊達の傘下へ入った。

−−それが、悲劇の始まりだった。


___



「今までのは、全て前置きだ。本題はここから入る」

ごくりと、固唾を飲む音が響く。

「結論だけを単刀直入に言わせてもらうぞ」
「……」

すぅ、と一度息を吸うと、政宗は躊躇いを感じさせない声で言った。

「定行は両親を含め、木野家の人間と家臣達を、皆殺しにした」
「!?」

その場にいた全員、驚きの表情を浮かべる。

「そして、木野家は滅んだ……ただ一人、定行を残して」


___



「よろしくお願い致します、若松様」

にこりと微笑んだ、今日から側近だという男を若松はキョトンと見ていた。どういう風の吹き回しか、この間輝宗に頭を下げていた男が自分の側近となるとは。数秒見つめて、若松は数歩後ろで控えていた桃の後ろへ隠れた。

「あぁこら、松ちゃん。ちゃんと挨拶なさらないと。家臣とは言え失礼になるわよ」
「し、しかし姉さん…」
「いえいえ仕方ありませんでしょう、蘆名から来たと聞いているのですね、警戒されるのも仕方ありません」
「申し訳ないわね……」
「しかし若松様…我々一族は地位も低く、当主の顔など見たこともないくらいでございますれば」

苦笑しながら必死に若松の警戒を解こうとしている男−−この男こそが、後に定行が永遠に恨む相手にして、人取り橋の戦いで惨殺された河原景就であった。困った笑顔で若松の機嫌をとろうとするも、すぐ懐こうとする若松ではなかった。
だが、徐々に若松はこの男を気に入っていった。

−−何故あんなに信頼してしまったのか、後悔するほどに。


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