複雑・ファジー小説
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- ブラッドエッジ
- 日時: 2012/07/16 00:43
- 名前: 緑川 蓮 ◆vcRbhehpKE (ID: U.L93BRt)
はじめまして、緑川蓮といいます。
以前、別の名前で、当サイトのシリアス・ダーク掲示板で書かせていただいていたものを
ここ複雑・ファジー小説掲示板で、また書かせていただきます。
まだ私のことを覚えてくださっている方々。
大変申し訳在りませんでした。
大変お待たせいたしました。
この作品を完結させたいので、完結させたいと思います。
注:現在、小説カキコ内で小説大会の投票が行われておりますが、
この作品には投票しないでもらえればと思います。
誠に身勝手なお願いでは在りますが、何卒了承くださいませ。
プロローグ
>>3
【弔う暇が在るのなら、生き返らせてくださいと】
>>4 >>5
- Re: ブラッドエッジ ( No.1 )
- 日時: 2012/07/15 23:21
- 名前: ゆかむらさき (ID: a8bifGsH)
こんばんは^^
わたしも、今書いている小説を完結させるために頑張ってます!
お互い頑張りましょうね^^
また きます^^
- Re: ブラッドエッジ ( No.2 )
- 日時: 2012/07/15 23:38
- 名前: 緑川 蓮 ◆vcRbhehpKE (ID: U.L93BRt)
ゆかむらさき さん⇒
突然コメントが着ていたものですから、びっくりして座椅子ごとひっくり返ってしまいました。
激励の言葉ありがとうございます。
- Re: ブラッドエッジ ( No.3 )
- 日時: 2012/07/15 23:39
- 名前: 緑川 蓮 ◆vcRbhehpKE (ID: U.L93BRt)
かん、かん、かん、と、非常階段を駆け上がる音が響く。都会の夜空は相変わらず星が少ない。只でさえ風情が無いというのに、静けさまでぶち壊して男は走る。
当然ながらエレベーターもある筈のビルの、わざわざ非常階段を駆け上がる。つまり、男は確実に『誰か』から逃げているのだ。
しかし、男にはそいつから逃げきる算段も、それを実行できるという自信もあった。
———今回の取引は中断せざるを得ないが、逃げきればどうとでもなる。今回の『薬』の取り引き、受け取る側のこちらには何の落ち度も無かった。
何せ俺の役割は上の人間達が依頼した『薬』を受け取るだけ。そんなことは何回もやってきたし、何回も成功させてきた。情報が漏洩した原因は向こう、取引先にあるとしか思えない。
そっちの落ち度なんか知るか。勝手に捕まっておけ。間違っても俺達の情報を吐いたりするんじゃねえぞ……。
だが、それ以外は簡単だ。この———電磁波を操る端末———で警備人造人間、つまり『ガードロイド』共の回路を狂わせて、暴走させればいい。
巨大なビルには、大概多くのガードロイドが控えている。それらが一気に暴走したとなれば、幾ら『断罪者(エクスキューショナー)』とはいっても簡単には追ってこれやしない。もしかしたら断罪者まで暴走しちまうかもなあ……?
そして何より、暴走した『アンドロイド』は、動力中枢及び思考中枢———つまり、人間で言う心臓や脳———を破壊しない限りは、止まらない。強みである筈のそれを利用すれば、強力な壁になるのだ。
さあ、思う存分暴れやがれ、デク人形共!———
口の端を歪め吊り上げた男は、小さい板のような端末のボタンの内の一つを押した。
♪
業務用ガードロイド『サイクロプス』。一つ目の化け物の名を冠するだけはある見た目と、その馬力。都内の企業の警備にはよく見かけられるアンドロイド。
白い曲線に包まれた巨体、眼の代わりの一眼カメラ。それらは見る者に頼もしさを与える筈であった、が。
それらは今暴走し、ビルの中から飛び出し、かけずり回り、窓を割り、壁を砕き、床を壊し、鉄柵を曲げ、大挙して押し寄せる。赤い一つ目を輝かせ、怒り狂ったようにサイレンを鳴らす。非常時のサインを示す色。
そしてサイクロプスの群れは今、非常階段を駆け上がる少年に襲いかからんとしていた。少年の髪の色もまた、緋色。男なのか女なのかわからない整った顔立ち。
服の色はモスグリーン。首元に赤いネクタイが見えるが、とてもスーツには見えない。似たものを強いて上げるとすれば、陸上自衛隊の制服だろうか。更にその上から防弾チョッキのようなものを着込んでいる。
少年は華奢な体で、しかし表情一つ変えずに非常階段を駆け上がる。少年を壊さんとばかりに、サイクロプスの大群が非常階段を潰さんばかりの勢いで襲いかかる。
♪
男はドアを端末でハッキングしてこじ開けた、最上階の一室に身をひそめていた。この部屋であれば、サイクロプス達でさえも入ってこれない。社長室は明日の朝になるまでは完璧に安全だ。このビルに警察が来たとしてもサイクロプス共にてこずるのは明白。それに紛れて抜け出してしまえばいい、と男は考えていた。
そう、サイクロプス。今このビルの中では、サイクロプス共が大暴れしている筈である。だというのに、さっきまでの下階からの騒音は消え失せて、すっかり夜のしじまを取り戻していた。
男の脳内に、嫌な予感が走る。でもあり得ない。このビルには少なく見積もっても、五十体のサイクロプスが配備されているという話であった。まさか。いや、でも、あり得ない。あり得ない……。
次の瞬間。ぴしぃん、という小気味好い音と共に、扉が———サイクロプスでさえ破ることのできない強固な扉———が、右斜め四十五度に両断された。
重い音を立てて切り倒された扉の向こうに佇んでいたのは、緋色の髪の少年。陸上自衛隊のような軽装備に身を包んだ少年。少年の左袖は、手首から肘のあたりにかけてが破けていた。が、その他は全くの無傷だった。
端整な顔立ちの少年は、男の方に向かって静かに一歩を踏み出す。
「く…来るんじゃねえっ!」
男は華奢な、しかし得体の知れない少年に拳銃を向ける。確証も無い。だが、何故か男は、目の前に居るこの少年に得体の知れない恐怖を感じた。
「大人しく投降しろ」
少年らしい、凛とした済んだ声であった。淡々と言い放ち、少年は躊躇いもせず、男に歩みを進める。
「来るんじゃねえって言ってんだろうがぁ!」
恐怖にたまりかねた男は少年に向けて引き金を引く。銃声。弾丸は一直線に少年の額に飛んでいき、その頭を穿いた———かのように見えた。
頭部に弾丸を喰らった衝撃で天井を向いた少年。しかし再び犯人を向くと、やはり全くの無傷、その端正な顔立ちには傷一つもついていないのであった。
「え…———」
驚きのあまり声も出ない男を意にも介さず、少年は地面と水平に左腕を持ち上げる。
少年———もとい、そのアンドロイドの左腕が、手首から肘の中央の直線上を沿って引き裂かれる。顕れたものは、長さは少年の指先から肩ほどまである———深紅の刃だった。
更に驚く暇も与えない。風を切り裂くほどの疾さで男の懐に飛び込み、拳銃を、端末を刃で切り裂く。足をかけて男を転倒させる。男が受け身をとる暇も与えず男の上に馬乗りになって、
「ひィッ!?」
肘の先から伸びた切っ先を男の頭のすぐ横に突き立てる。
「や…やめろ、殺さないでくれ!」
「安心しろ。ボクは『アンドロイド』だから人を殺せないようにできている。それにもうじき警察が来る。武器も端末も破壊した。もうお前に打つ手は無い」
きん、と音がして刃が床を少し抉る。男は小さく悲鳴を上げ、人造人間は男に顔を近づける。
「ボクの役目は暴走してしまった『仲間』の介錯と、その原因の排除だ」
【機械人間戦譚『ブラッドエッジ』開始】
- Re: ブラッドエッジ ( No.4 )
- 日時: 2012/07/16 00:13
- 名前: 緑川 蓮 ◆vcRbhehpKE (ID: U.L93BRt)
第一章【弔う暇が在るのなら、生き返らせてくださいと】
「…やっぱり、また新しい端末が開発されたんですね、これだけ次から次へととハッキング端末を作られてしまっては対策も遅れざるを得ないです」
桃色の髪をポニーテールにした可愛らしい顔立ちの少女は、人差し指と親指の先でつまんだ、両断された端末を眺めながら言った。
「しかも今回はワイヤレスでウイルスを送り込むタイプではなく、電磁波そのものを狂わせるタイプと来ましたか…。これは研究所の皆さん、しばらくは徹夜ですね」
少女の見た目は十五歳くらい、義務付けられた派手な桃色という髪の色と、人間で言う耳の辺りに装着されたプロテクターで一目でアンドロイドだとわかる。
「しかしこれを持っていたのが、只の一介のチンピラ……」
この端末によって暴走させられたアンドロイド『サイクロプス』は、ガードロイド、人物や施設の警護を目的に造られたものである。第三者の介入によって暴走する可能性など開発を始める段階で予想はできるのだから、当然その対策も施してある。
にも拘らず、結果として『サイクロプス』は暴走し、またその残骸からも欠陥は検出されていない。これだけ高性能なものを個人で、及び個人の施設で作り出すことは不可能と言って良い。
背景に誰かほかの人間の協力があったこと、そしてそれが並大抵の勢力でないことは明確であり、確実だった。
「今回の件は、氷山の一角の様な気がしますね……って、ルージュ、聞いていますか?」
「ん……?」
幾つものモニターの前に座っていた少女は、返事が無い事にたまりかねて、黒く大きなソファーで横たわっている少年の方を向く。ルージュと言われた少年の髪の色は緋色、陸自用の制服の下にワイシャツとネクタイ、陸自用のズボンに黒ブーツという服装。
「…ローズ、何か用?」
起き上がり、ソファに座った体制でルージュはローズの方を向く。
「話全然聞いてなかったんですね…」
「ごめん、寝てた」
「既に七十分以上はスリープモードだった筈ですが?」
アンドロイドにとっての睡眠は、一日約一時間程度で事足りるのだ。
「寝る子は育つって言うから」
「私達アンドロイドですよ?」
「あと冷蔵庫からカフェオイルとってきて」
「自分で取ってください!」
と、言いながら、「まったく…」と溜め息を吐きながらも、ローズと呼ばれた桃色の髪の少女は立ち上がった。ローズの服装も軍用のものであったが、ルージュのものと違う点はミニスカートであることぐらいだろうか。
そんなローズが冷蔵庫を開き、中を覗き込む。が、一つとして缶カフェオイルは無い。
「あ、さっき全部飲んだかも」
「ちょっと!?」
『断罪者(エクスキューショナー)』。暴走した人造人間の制圧及び破壊、またその原因を排除する機関、その名称。機関員は全てAランク以上のアンドロイドで構成されており、少人数とはいえど『対アンドロイドの最終兵器』の名を冠する組織である。
だがそれも日本政府内の話、機密上世間一般にはこの組織の存在はあまり知られておらず、またその存在が陽の目を浴びることもない。つまるところ、人造人間ですらない道路清掃機と変わらない存在だった。
「…出動要請です」
モニターのひとつに、電子音と共に赤いウインドウが表示されると同時、二人の目つきが変わった。
素早くモニターの前に戻るローズ。モニターのタッチパネルを素早く操作する。キーボードやタッチパネルを叩く軽い音が絶え間なく響き、モニターの表示がめまぐるしく変化する。
ローズの製造ランクはAランクだが、頭脳特化型である彼女のオペレーティング能力は、全国の『断罪者』支部の中でもトップクラスであり、またそれが彼女がこの『断罪者』本部に配属された理由でもある。
「区内D−12エリアにてBランク人造人間の暴走を確認。原因は現在特定中。第二部隊はメンテナンス中、第三部隊〜第六部隊は行動可能。第七部隊は巡回警備中。第三部隊に出動指令を———」
「いいよ、ボクが行く」
ローズの高速かつ的確な指令を遮り、ルージュが言い放った。黒い防弾チョッキに腕を通して、左腕の袖をまくり、手袋をはめる。
「…わかりました、お願いします」
「うん。行ってくるよ」
ルージュはローズの方を向いて微笑む。イヤホンを模した通信端末を耳に着けて、ルージュは駆け出した。
♪
警備人造人間が暴走すると厄介な理由は、その装備の強固さに由来する。D−12エリアはビル街。平日の昼間である今は通行人も少ない。
それは確かに幸いだったが、不幸中の幸いであることには変わりはない。
ガードロイド『ミノタウロス』。警察などでも正式採用されている高性能ガードロイド。
それは今暴走し、大きな両腕を振り回し暴れていた。ガードレールを易々と捻じ曲げ、コンクリを軽々と砕く、警備人造人間特有の怪力。もし生身の人間がその餌食になったらと、想像するだけで背筋を薄ら寒いものが走りぬけるだろう。
いや、実際に今、そうなろうとしていた。尻餅をついた少女。服装からしておそらく女子高生だと推測できる。授業に遅刻したのか授業をサボったのかはわからないが、この状況下において、それは瑣末なことでしかない。
クリア『念動力』でミノタウロスを吹き飛ばそうとするも、その重量故にびくともしない。授業で習う程度のクリアでは、この状況下でもなんの役にも立たなかった。
「ひっ……!」
ミノタウロスが腕を振り上げると、少女が小さく切羽詰った悲鳴を上げた。ブティックのショーウインドウの前まで追い詰められた少女に、もう逃げる手段も場所もありはしない。怪力の腕が、少女に振り下ろされる。
しかし、突如現れた影が、高い金属音と共にミノタウロスの頭部を蹴り飛ばした。
七メートルほどフッ飛ばされたミノタウロスは重々しく鈍い音を立ててコンクリートを転がり、少女は驚いて目を見開く。そして、緋色の髪の少年が路上に佇んでいた。
ルージュはミノタウロスの方へ歩みを進める。ゆるりとした動作で立ち上がるミノタウロス。そして、ルージュの方へ駆け出したミノタウロス。咆哮のような音を上げて、巨体が迫りくる。
ルージュは左腕を構える。指先から肩の長さまでの深紅の刃がその刀身を表す。そして、緋色の髪に空気を纏わせ、疾風の如く駆け出した。ルージュと牛頭鬼。二体が交差する瞬間。
ルージュの初撃はミノタウロスが突き出していた両腕を斬り落とし、二撃目はミノタウロスの胸部を動力中枢ごと斜めに両断し、止めの三撃目はその頭部を刎ねた。
- Re: ブラッドエッジ ( No.5 )
- 日時: 2012/07/16 00:47
- 名前: 緑川 蓮 ◆vcRbhehpKE (ID: U.L93BRt)
『クリア』と呼ばれるものがある。それはかつて魔法と呼ばれ、超能力と呼ばれ、サイキックと呼ばれていたものの類を指す。
口から火を噴き出し、離れた場所から物質を掴み、相手の心中を読み抜き、その他数多。
いつの頃からか人類は、そのクリアのメカニズムを、極限まで高められた『科学』を駆使することにより解明し、そしてクリアはいまや、未知なる力としてではなく日常生活の一部として浸透しきっていた。地球温暖化は解決に向けての一途を辿り、資源枯渇に関する問題は過去のものへと追いやられ、生身の人間一人一人が何か一つのクリアを持つに至っていた。
自立行動し感情や意思を持つ機械人形、アンドロイドもまた、このクリアと科学の結晶による産物である。
しかし彼らは、ただのからくり人形と言い捨てるには、少々進化しすぎたともいえる点が、一部において見て取れた。
♪
ルージュはビルの屋上の一角に座り、ビル群を眺めていた。体のほとんどを機械で構成されているアンドロイドにも心はある。つまり、意味がなくたってそういう時間や場所が欲しくなることはあるのだ。
ルージュにとって、そういう時間とは任務の後、そういう場所とはここ『断罪者』本部の屋上だった。ビルディングだらけのこの街を、見据える眼はどこか悲しげで。
不意に、ルージュの肩に何かが触れる。それは缶カフェオイルだった。
「…ノワール」
「緊急出動、お疲れさん」
ルージュが振り向くと、そこには缶カフェオイルを二つ持った黒髪のアンドロイドが立っていた。ルージュはノワールの右手の方の缶カフェオイルを無言で受け取る。
このノワールというアンドロイドは顔の右半分が機械に覆われおり、それ故このアンドロイドは『髪と瞳の色を派手にしなければならない』という義務から逃れることが出来た。
よっこいせ、と小さく言って、ノワールはルージュの隣に座る。
「…Bランクの暴走、一人で片付けたってな。やるじゃねーか」
カフェオイルをすするノワール。そのガタイは華奢で小柄なルージュよりも一回り、二回りくらいは大きい。制服をいつも着崩していて、一日一回はローズに注意されているが、おちょくったついでにはぐらかすばかりで一向に正す様子は見えない。
パキン、とルージュの手元で缶の蓋が鳴るとカフェオイルの湯気が上った。
「知ってたんだ?」
「さっき帰ってきた時にローズから聞いたよ」
本来、Bランク以上のアンドロイドの暴走の鎮圧には、Sランクでも七、八人程のチームが出動する。そんな危険な任務を、ルージュは毎回一人でやってのけていた。
第一部隊のメンバーは、彼のみである。『断罪者』のメンバーから見て、彼は『尊敬の的』である。しかし———
「…なあ、ノワール」
「ん?」
カフェオイルの残りを一気に飲み干そうとした手を止め、ノワールはルージュに返事を返す。
「ノワールは、この仕事をしていてどう思う?」
「どう、って……?」
「時々、わからなくなるんだ。ボクは本当に正しいことをしてるのかな、って」
ノワールはルージュの言葉を聞き、二人の間に僅かな沈黙の時間が流れる。
「人間達の手違いで暴走した僕らの仲間達を、僕ら自身で破壊して、処分して。……ボクらって、何してるんだろうね?」
ルージュは俯いた。とても悲しげに。ノワールは、無言でルージュを見ていた。
体のほとんどを機械で構成されている人造人間にも心はある。つまり、意味がなくたって悩む時間や場所が欲しくなることはあるのだ。ルージュにとって、悩む時間とは任務の後、悩む場所とはここ『断罪者』本部の屋上だった。
カフェオイルの揺れる水面を、見据える眼はどこか悲しげで。
不意に、ルージュの頭に何かが触れる。それは、ノワールの大きな掌だった。
「難しい事はわからねえよ。俺は戦闘機能特化型だからな。でもよ。お前は人を一人助けたんだろ?」
「それも聞いたんだ?」
「今回だけじゃねえ。お前は今までそうやって、沢山の人を救ってきた。それは誰が何と言おうが正しい事だ。…違うか?」
「……うん、そうだね」
ルージュの表情は少し柔らかくなって、微笑を浮かべてノワールの方を向く。そして再びビルディングだらけの街の方を向いた。
「『オリハルコン』の刃を持ってるくせして、メンタル弱いでやんの」
わしわしと、ノワールの手がルージュの髪を掻きまわす。
「一言多い」
♪
「やはり今回も電磁波異常……」
モニターの前で、ローズは呟いた。今回暴走したアンドロイドの調査報告、今はその原因の途中経過の報告を受けていた。こういった報告書などの仕事も、オペレーターである彼女の仕事であり、また彼女が手がける場合は特に、恐ろしく精密、正確である。
———最近、この手の暴走のケースが多発していますね。
綺麗に切断された残骸にも、その前の製造段階の報告にも異常は見当たらない。果たして、これはただの偶然なのだろうか…?
いや。恐らく今回もあの端末が使われている筈。やはり先の一件は、氷山の一角。もしかしたらその前の事件も…?
アレの製造者が、今回の暴走にも、最近に連なる電磁波暴走に関与している…?
つまりあの端末の製造者の目的は、アンドロイドの暴走……?
「…一体、何の目的で…?」
———そして、未だ捕まらず、その正体も明かさず、尻尾さえも出さない。あの端末の製造者は、一体何者なのでしょう———?
♪
「…実験結果としては、上々だ」
その老人が見ている映像は、暴走したミノタウロスと、ルージュの戦闘。ルージュが左腕の刃でミノタウロスの両腕、胸、頭部を切断する瞬間が余りに速く一瞬に見える。
———暫くの間、奴等はこの端末の解析に躍起になる筈だ。だが私の研究は、『彼』のクリアはここで終わりではない。更にその先があり、またこれはその為の時間稼ぎにしか過ぎない。
さあ勝負だ極東の猿共。貴様らの傲慢、その罪をこの私が神に代わって断罪してくれよう———。
その老人の長い髪は茶色く縮れていて、顔に合わない大きな丸眼鏡がモニターの光を反射していた。
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