複雑・ファジー小説

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【3-2-4掲載】君を探し、夢に囚われる
日時: 2017/03/11 13:46
名前: 黒雪 (ID: rHtcSzQu)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15987

ただいま更新停止中です。


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 夢の中で出会った君に誓ったのは、現実世界でも君を探すこと。
 でも——その夢から、抜け出せなくなってしまったら、どうすれば良いのだろうか?


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サロン『Dream Prison』支配人の黒雪より、注意事項

・他のお客様のご迷惑になりますので、荒らしはお断りいたします。
・保留中のコメントはお控え下さい。
・小説本編に関係の無いコメントもお控え下さい。
・サロンにご来店くださるのはまことに嬉しい限りです。しかし、お客様が夢に囚われてしまっても、当サロンは責任を負いかねますので、ご了承ください


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更新履歴

更新開始日 2012,08,03
参照1万突破 2014,07,29
参照2万突破 2016,04,07

小説大会2013夏 銀賞受賞


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>>1 >>2

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第一遍 >>3-4
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第一章 夢を思い出し、
 第一遍 >>8 >>9 第二遍 >>10 >>11 >>15 >>16 第三遍 >>17 >>20 >>21 >>27 第四遍 >>28 >>29 >>31 >>32
 第五遍 >>34 >>35 >>36 >>40

第二章 君と出会う
 第一遍 >>47 >>48 >>50 >>52 第二遍 >>53 >>54 >>56 >>57 >>58 第三遍 >>59 >>60 >>63
 第四遍 >>67 >>73 >>76 >>77 第五遍 >>86 >>89 >>92 >>93

第三章 君を探し、
 第一遍 >>99 >>100 >>101 >>102 第二遍 >>106 >>109 >>110  >>111 ←new


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当サロン、『Dream Prison』にお越しくださったお客様
(只今、11名様ご案内中です)


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短編集をメインにしているので、連載のくせに更新はとても遅いです。
続けてポンポン書くのが苦手なんです。許してください。あと何年かかるかは分かりませんが、必ず完結はさせます。
こんなペースですが、読んでくださってる方には本当に感謝してもしきれません。更新遅いんだよとか言わずに、のんびりとお付き合いいただけると幸いです。


初めまして、あるいはこんにちは。
小説板では、黒雪(くろゆき)と言います。
雑談掲示板では黒崎加奈(くろさきかな)を名乗っているので、そちらの方が馴染みがある、という方もいらっしゃいますね。
トリップは◆SNOW.jyxyk、◆KANA.Iz1Fk、の2種類です。名前で変化いたしますので、ご了承を。
更新は遅いですが、『君夢』(略称です。きみゆめ、と読みます)をよろしくお願いします。

参照は『移ろう花は、徒然に。』のURLとなっております。こちらは短編を掲載していますので、宜しければご覧くださいな。


Twitterアカウント

@reserved_kana
鍵垢ですがまぁカキコの方は大体フォロバしてますので。ただのキチガイだってな。

Re: 【終焉に向け】君を探し、夢に囚われる【参照5桁感謝です】 ( No.106 )
日時: 2014/11/03 17:09
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: osQJhSZL)

三章 第二幕 第一遍




 咲月と沙羅が記憶を辿っている頃、サクラとアオイはイタリアにいた。

「んー! それにしてもこっちは良い空気ねー。やっぱり日本とは違うわー」
「サクラ、観光で来たわけじゃないんだからな」
「わかってますー。でもちょっとぐらいいいじゃないの。どうせ時間はあるんだし」

 やれやれ、ですね。と言ってアオイは首を振る。
 シンシアの町に行くには、少し特殊な方法を必要とする。最先端の科学技術の応用により、町の入り口が隠されているからだ。大きく分けると方法は2つあり、サクラとアオイは一般的な方法を使うことにしていた。

「15時ちょうどに噴水の中を突っ切るねぇ……よくバレないわよね。つくづく思うんだけど、詩織様って賢いわ」
「人目を引きそうだからこそ、気づかれないんだろう。事実、本が出版された時に誰1人シンシアには辿り着けなかった」

 シンシアの町は、現実世界と重なるようにして作られている、いわば仮想空間だ。つまり、普通に生活を送っていればその存在に気がつくことはない。存在を知っているものだけが、仮想空間と現実世界を行き来することができる。
 どんな技術が使われているのかは、四天王すら知らされていない。詩織が1人で作り上げた技術と空間であり、彼女自身しか管理に携わっていないからだ。

「でも、水に濡れちゃうのはいただけないわね。せっかくの紅茶が湿気てしまうわ」
「……缶などの容器に入れてないのか?」
「もちろん入れてるわよ。でも、香りを楽しむためにティーバッグの状態のまま持ち歩いて香水代わりにも使ってるの」

 サクラはそう言うと懐から小さな包みを取り出し、顔の横で楽しそうに揺らしてみせる。アオイは、見なかったこと、聞かなかったことにしたようだ。

「ほら、あと少しだぞ。5・4・3・2・1……」

 カウントが終わると同時に、遠くの方で音楽がなる。水飛沫の音と混ざり、徐々に小さくなる音。しかし時報が完全に鳴り終わる前、別の音が聞こえてきた。
 重たい鐘の音。
 耳の奥を震わせるような、ゆったりとした振動が伝わる。2人が石畳の道に降り立つのと同じくして、止まった。

「着いたわね。ここに来るのは、ずいぶん久しぶりだわ」

 煉瓦で作られた町並み。長く住んでいるため、ところどころに入っているヒビ。煙突からたちのぼる白い蒸気に目をやれば、この町で最も古い建造物である時計台が目に入る。

「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。私が、黒崎詩織です」

Re: 【終焉に向け】君を探し、夢に囚われる【参照5桁感謝です】 ( No.108 )
日時: 2015/04/07 00:06
名前: Orfevre ◆ONTLfA/kg2 (ID: YnXlFcJ5)


1年前、貴方に文章が上から目線と言われたり、色々とご迷惑をかけたOrfevreです。

とりあえず、貴方のことは覚えてますと、挨拶レスを投下しておきます。
「もう来るな」「消してくれ」等の要望も御随意に。

Re: 【3-2-2掲載】君を探し、夢に囚われる【更新不定期】 ( No.109 )
日時: 2015/12/07 00:02
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: jwhubU7D)

三章 第二幕 第二遍




 艶やかな笑顔を浮かべた美人がそこに立っていた。しかし『私が』と強調するように名乗った彼女とは、初対面ではない。でも何故か以前に会った時よりも幼い感じがする。最後に会ったのは10年前だというのにだ。

「お久しぶりでございます。以前にお会いした時と雰囲気が変わられたようですね。ますますお美しい」
「お世辞は充分です。まぁ10年も経てば変わっていないと思っていても、様々なところが変わってしまいますからね」

 そう言って、ふふふと笑っている詩織はこんなに二面性があっただろうか。幼く見えたかと思えば、妖艶な大人の顔が現れる。彼女のドレスに刺繍された蝶に笑われたような気がした。

「それで、本日はどのようなご用件でいらっしゃいましたのでしょう? わざわざ観光でここに来たわけではないでしょう」
「単刀直入に、サクッと本題に入らせてもらいますねー。詩織様——『鍵』は今どこにありますか?」

 町の音が消えた。風の音も、木々のざわめきも、鳥の羽ばたきも、すべてが呼吸をやめたかのように訪れた静寂。答えるまでの僅かな時間が、止まっていた。

「分かりきったことを聞くのですね。てっきり私は誰かが死んだのかと思いましたよ。えぇ、屋敷の中にありますわ。お見せしましょうか?」
「この目で確認して来いとスイゼンから言われてるものでね。そうさせていただきたい」
「了解いたしました。こちらへ」

 屋敷の地下は滅多に使われることがない。それ故に何か物を置いておくにはうってつけの場所になっている。
 階段を降りて1つ目の部屋は白い木。2つ目は錆びた鉄の扉。薄明かりの中を進むたびに床は軋み、オレンジのランプは点滅した。

「以前来た時と建物の雰囲気が変わりましたね。建て替えですか?」
「半年ほど前に使用人の不始末で屋敷が火事になってしまって。それで1階から上の部分を建て替えなきゃならなかったんです。幸いこの地下部分は燃えることなく残って……いえ、何があっても残るように作ったのだから当然ですわね」
「なるほど。流石の技術です」

 彼らは3つ目の曇りガラスでできた扉の前で立ち止まった。ぼんやりとしか見えないが、中央の辺りに何か黒っぽくて丸いものが浮かんでいるようだ。
 詩織が手元の端末を操作すると、部屋の中から黒いものがどんどん近づき、ガラスの扉を通り抜けてこちらへ現れた。もちろん、扉の鍵は開いていないし扉に穴が空いたわけでもない。

「鍵はこの中に」

Re: 君を探し、夢に囚われる【更新不定期】 ( No.110 )
日時: 2016/01/17 22:36
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: jwhubU7D)

三章 第二幕 第三遍




 3人の目の前で浮かんでいる黒い球が、ぼんやりと光を放っている。再び手元の端末を操作すると、ブルブルっと歪に震え始めた。硬い物質に見えた球は、スライムのように形を変化させて平べったくなった。その真ん中にできた窪みの上に、小さな紫色の鍵がある。
 サクラは指を伸ばして、それを触ろうとした。だが、確かに鍵の感触を感じても掴むことはできない。何度も、何度も空を切る。

「そんな……鍵の形や細かい凹凸まではっきり分かるのに、実体はここにないなんて。でも、これじゃあこの鍵が本物かは区別できないわ」
「ふふふ、そう言われるだろうと思いましたわ。でも、私ですらこの鍵を取り出すことはできないのです」

 そう言って、詩織は扉の横に手のひらを当てた。すると壁が波打ち、手を飲み込んでしまった。手が見えなくなると同時に、扉に表示される『Eroer』。チカチカと点滅を繰り返す赤い文字を見ながら、力を込めて手を引き抜くと文字は消えた。

「本来なら、このロックは私の手の静脈で解除できます。ですが、火事のせいでシステムにバグが生じてしまったようで、私の静脈に反応しなくなってしまったのです。設定をし直そうにも、そもそも他の人物の静脈に変更できないようにプログラミングしてしまったので、どうすることもできないのです。私としたことが、お恥ずかしい限りですわ」

 扉を見つめたまま、淡々と話す詩織。あまり後悔しているようには見えなかった。

「まぁこの先鍵を使うような機会もないでしょうし、問題はないと思いますの。如何でしょう?」
「あぁ、そういうことなら大丈夫だろう。スイゼンは詩織様が鍵を咲月様に渡したと考えていたが……やつの考えすぎだな」

 たまには休んだほうがいい、そう言ってアオイは派手に笑い飛ばした。

「そうね、そうと分かればさっさと上の階でお茶でもして帰りましょ。こんな辛気臭い地下に、いつまでもいる必要はないわ」

 笑いながら階段を上っていたアオイが、ふいに真顔になる。

「どうしたの?」
「いや……火災の前に鍵がすり替わっていたとしたら、それを確認する術がないんだなと。ま、偶然の産物だろうし、ないとは思うけどな」
「そうね……でもこういうのって意図してできるわけじゃないんでしょ? たぶん大丈夫よ。大体、詩織様に鍵を渡すメリットなんてないじゃない。私はむしろあの地下室のほうが気になったわよ」

 1階と2階の踊り場で立ち止まった。そのときの微妙な風で、ランプシェードから細かい埃が舞い上がる。

「どういうことだ?」
「何かおかしな臭いがしたの。ほら、私って紅茶が好きだから、香りとかそういうのには普段から気をつけているのよ。本当に注意しなきゃ判らないぐらい微かにだけど、卵が腐ったような、その手の類の臭いがした」

 茶色い髪が儚げに揺れる。

「気にするほどのことではないんだけど、詩織様って綺麗好きでしょ? 何か引っかかっているの……」

Re: 【3-2-3掲載】君を探し、夢に囚われる ( No.111 )
日時: 2016/04/15 01:19
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: jwhubU7D)

三章 第二幕 第四遍




 階段を昇っていく背中を見つめながら、詩織は微笑む。2人がいなくなった地下室の壁を指でなぞって、ゆったりと歩いていた。そして、鉄の扉の前で立ち止まる。
 いくら隠しても、隠しきれないもの。鉄の扉といえど、空気は通す。扉の奥から微かに流れ出るのは、薔薇の香りと腐臭。薔薇の香りで懸命に隠そうしても、その香はそこに存在していた。

「あの扉は、もう二度と開けられない。それは——私が黒崎詩織ではないから」

 火事のあったあの夜、この鉄の扉の奥で彼女は絶命した。誤算だったのは、彼女がはるか離れた異国の地で重要な人物であったこと。彼女を殺せば、自分が成り代われると思っていたのに、結局は無理だった。今はこうして火事のせいにして誤魔化すことができているが、それもいつまで続けられるかは分からない。
——所詮、私は私。そういうことなのね、お姉さま。
 詩織、否、詩織を名乗っている人物の、本当の名前は麗奈(れいな)。半年前までは玲菜(れな)という名でこの屋敷で働いていたが、現在は火事で命を落としたと記録されているはずの人間だった。なぜ、そんな入れ替わるような事態になったのかは知る由もない。だが、こうして少しずつ見えてくる綻びは、確かに彼女が『黒崎詩織』ではないことを示している。
 キィと音を立てて、鉄の扉が開く。すでに詩織は白い骨と化していたが、その過程で発生した臭いは、いくら換気しても決して消えなかった。

「ねぇ、お姉さま。あなたは、一体どんな人だったの? なんで……なんで、こんなに、死んでも邪魔な存在なの? なんで、生まれてきたの? ねぇ、どうしてこんな面倒なことをやったのよ!」

 部屋の中に、骨が飛び散る。大きいものも、割れたものも、バラバラに。足元に転がってきたのは踏みつぶした。だから、麗奈は知らない。
 部屋の片隅に転がったロケットの中に、彼女の問いの答えが、全て記されていたことを。ロケットの存在は知られないまま——扉は閉ざされた。

「すみませんね、お待たせしてしまって。もうお帰りになるのですか?」
「えぇ、これ以上ここにいても何にもならないし、サロンの営業もしなければいけませんからねー。四天王不在だと、客が少ないらしくって」

 サクラが軽くウィンクしながら答えた。そして次の瞬間には、その場から姿は消えている。現実世界へと戻ったようだ。その後にアオイが続く。

「真面目にやらないと怒られるもんで。ま、バタバタしてしまいましたが、また会う日までお元気にお過ごしくださいませ」

 彼にしては珍しく形式ばった挨拶をして、姿を消した。もう二度と会わない、そんな感じのニュアンスを含んだ言葉だった。


「ねぇ、アオイ。スイゼンは、彼は一体なにがしたいのかしら?」
「そんなの俺に聞かれてもわからねぇよ」

 飛行機の中で、ほとんど呟きに近い形で会話がなされる。答えは求めてないけれど、反応はしてほしい。

「ただな、俺が思うに、奴は社長とは考え方が違う人間だ。面倒なことになるんじゃねぇの?」

 それを肯定するかのように、機内はその後静まりかえっていた。


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