複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- メリーな都市伝説【1000参照突破!】
- 日時: 2013/05/10 23:34
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
- 参照: https://twitter.com/raika861
↑活動用ツイッター始めました。現状報告等を呟いていきます。
オリキャラ募集終了しました。
応募してくださった皆様、ありがとうございました!
あの都市伝説が、俺の所にやってきた。
あの『話』が、俺の所にやってきた。
はじめまして、星の欠片と申します。
この作品は興味本位で都市伝説を調べて後味が悪くなったので、怖くない都市伝説の小説を書こうと思い始めたものです。
ライト板で書いていたものですが移転しました。
・都市伝説に特別な嫌悪感を持っている人はブラウザバックをお願いします。
・読んでくださった方はできれば感想等のレスを下さると嬉しいです。励みになります。
・荒らし目的の方はお帰りください。
・少なからず戦闘描写があります。
・題材が題材なので一部、残虐な描写等があります。
目次
登場人物 人間編 >>1
プロローグ >>2
第一章・人形編
#1 >>3
#2 >>4
#3 >>5
#4 >>6
#5 >>7
第二章・怒れる子狐編
#6 >>8
#7 >>9
#8 >>10
#9 >>11
#10 >>12
第三章・二色の死紙編
#11 >>13
#12 >>14
#13 >>15
#14 >>20
#15 >>21
#16 >>22
#17 >>23
#18 >>24
#19 >>25
#20 >>26
#21 >>28
#22 >>29
第四章・泡沫の煌き、不変の輝き編
#23 >>30
#24 >>34
#25 >>37
#26 >>41
#27 >>45
#28 >>46
#29 >>49
#30 >>50
#31 >>51
#32 >>52
#33 >>53
第五章・結び束ねるもの編
#34 >>54
#35 >>55
#36 >>56
#37 >>57
#38 >>59
#39 >>60
#40 >>61
#41 >>62
#42 >>63
#43 >>64
#44 >>66
#45 >>67
#46 >>68
#47 >>69
#48 >>70
#49 >>71
#50 >>73
#51 >>74
#52 >>75
第六章・鏡の休日編
#53 >>76
#54 >>78
#55 >>79
#56 >>80
番外編『おまけな都市伝説』
参照100記念 >>27
参照200記念 >>42
参照300記念 >>58
参照400記念 >>65
参照500記念 >>72
参照600、700、800記念 >>77
コメントをくださった方々
・saku様
複雑・ファジー板で『神喰い』という作品を書いています。
神様や妖怪が好きな方におすすめです。
・秋桜様
・氷空様
・優勇様
同作者の別作品(良かったら拝見して下さい)
二次創作(映像/アニメ、ゲームなど)板
『未来日記 The Destiny』
未来日記の二次創作。
三周目の世界で行われる新たなサバイバルゲーム!
- #53 ( No.76 )
- 日時: 2013/01/17 21:41
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
〜〜〜〜〜〜
「んー、道、間違えたかな? 櫛禍のじーちゃんが言ってた町ってここだよね?」
「う、うん。その筈だけど……」
全く、日本の町ってのはどこ行っても変わり映えしない。
どっかしらに目印の一つや二つあれば良いのに。
「あっ! あれ、看板じゃない?」
『黒見沢』と書かれた看板を見つける。
「櫛禍様は『黒見沢町に行け』って行ってたから……間違いはないかも」
良っし! やっぱりあたしの勘も捨てたもんじゃないわね!
「さっ! 行くよ! ヒグチユーキって人を探すんでしょ?」
「で、でもその人がどこにいるか分からな——あ! 待ってよ!」
考えるより行動。
これが成功の秘訣よ。
と、
「きゃっ!」
走りだした瞬間、肩に何かがぶつかってくる。
「痛って、何しやがる!」
見た目だけで不良だって分かる男だった。
どこの国にも居るのね、こんなん。
「あんたが勝手にぶつかってきたんでしょ?」
「んあぁっ!? んだとてめぇ!」
こういう奴はすぐに頭に血が上る。
喧嘩事なら何でも来いだけど、さすがに人間を相手にするほど馬鹿じゃない。
出来れば何事も無く終わらせたかったのに。
「おいてめぇ! こいつの連れか!?」
あ、飛び火した。
「え、あ、えっと……」
口篭ってないではっきりと言えば良いのに。
この臆病な性格は直さないといけないかな。
「ちっ、てめぇら、ちょっとこっちこい!」
正直、これ以上の面倒事はごめんね。
「……しょうがない、やるわよ」
「え? でも、相手は人間だよ!?」
「こんなんじゃ櫛禍のじーちゃんからの頼まれごともいつまで経っても終わらないわよ?」
「え……う……」
またしても口篭る。
あーもう、じれったい。
「何ごちゃごちゃ言ってやがる! 早くこっちに来い!」
こいつもうるさい。
「たまにはレジェンズらしさを見せなさい!」
その気になれば強いのに、全くその気にならないんだから。
「……分かったよ」
あー疲れた。
説得だけでこんなに疲れちゃやってらんないわ。
「さ、行くわよ」
「う、うん!」
「全く、喧嘩も大概にしてよ……」
「はいはい。善処しますよー」
「反省してるの……?」
「勿論してるって。さ、今度こそ行くわよ」
「はぁ……本当にリヒトは喧嘩っ早いんだから……」
「シャッテンは引っ込みがちすぎんの!」
そんな会話をしながら、目的の人を探す。
この町もそこそこ広そうだし、時間がかかりそうだけど、まぁ、のんびり行こうか。
〜〜〜〜〜〜
メリーを櫛禍さんに預けて三日が経った。
未だにメリーは帰ってこない。
あれだけの力を使った後だ、たった三日で動けるとも思わない。
しかし、気になってしょうがない。
栗狐は「櫛禍様に任せておけば問題はない」と言っていた。
彼が信頼できる存在である事はもう分かった。
今頃、何か手を尽くし、メリーの復活を手伝ってくれていることだろう。
あの日の夜、夢子が来た。
どうやら神槍の顕現には夢子の補佐が必須らしく、それ自体夢子は大変だそうで、一旦神槍の顕現を解除した。
夢子曰く、また新たなお友達を連れてくるらしい。
メリーの事は言わないでおいた。
学校の皆には所用というかたちで誤魔化している。
それも三日となれば皆疑い始める。
朝のホームルームを終え、メリーの安否を俺に聞いてくる人は多かった。
「風邪じゃないの?」
心配の声に「大丈夫」と返し、
「もしかして死ん」
妙に的を射る様な発言を殴って中断させ、
「あの日か!? アノ日なのか!?」
思春期男子の妄想にはスルー。
対応にも結構神経を使うものだがやはりメリーの安否は心配だった。
結果的に授業もあまり集中できない。
気が付けばその日の授業が終わっているという状況だった。
「優輝、大丈夫か? 今日全然集中できてなかったじゃないか」
竜生が心配してくる。
こういった時にこういう心配をしてくれる友人はありがたく思える。
「あぁ、大丈夫だ」
さっさと荷物を纏め、帰ろうとする。
「優輝!」
そこに声を掛けてくるのは災厄こと琴吹 凛だ。
「なんだ?」
てっきりメリーの心配でもするのではと思っていたが、凛が言う言葉は予想外なものだった。
「今から暇? 遊びに行かない?」
「……」
遊び心を忘れない、子供らしいというか。
精神面で成長しない幼馴染に呆れる。
「ごめん、ちょっと予定あるから……」
本当は無いが、メリーが戻ってくるまであまり遊ぶとかそういう気にはなれない。
「……あっそ」
疑いの目を向けてきた凛だったが、意外と早く引き下がった。
いつもはしつこく誘ってくるのだが。
まぁ面倒な事にならなかったのはありがたい。
そんな事を考えているうちに荷物を纏め終わり、帰路についた。
- 参照600、700、800記念『おまけな都市伝説』 ( No.77 )
- 日時: 2013/01/28 20:53
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
てんどー「アンインストール アンインストール」
せんどー「この星の無数の塵の一つだと今の僕には理解できない」
こどー「アンインストール アンインストール」
きゅーどー「恐れを知らない戦士の様に振舞うしかない アンインストール…」
かねこ「この歌の『アンインストール』の数はパイロットの子供たちの人数と同じらしいわね」
作者「最終巻は心が痛くなった。どうもあの地球の人たちに感情移入してしまって……」
第六回 おまけな都市伝説
ゆーき「えー、せーのっ」
作者 ゆーき めりぃ くりこ しし りゅーせい りん かねこ その他
「あけましておめでとうございます!」
作者「さて、新年初の番外だ」
りゅーせい「何で僕ら呼ばれてんの?」
ゆーき「お前作品始まって初めて一人称出たな」
作者「俺が忘れてたほど影薄いしな」
りゅーせい「えっ」
りん「ほとんど喋ってないしね」
りゅーせい「なん……だと……?」
ゆーき「なんか、まぁ、ドンマイ」
作者「ついでに言わせてもらうとさ」
りゅーせい「ま、まだ何かあるのか……?」
作者「名前の字数的にお前読者が読みづらいだろうからしばらく出てこないでくれる?」
りゅーせい「!?」
作者「後で少し出番はやるからさ」
めりぃ「という訳で竜生さんには眠ってもらいました」
ゆーき「ご苦労、メリー」
りん「ところで優輝……」
ゆーき「ん?」
りん「この連中は誰?」
くりこ しし かねこ てんどー せんどー こどー きゅーどー
「?」
作者「ちなみにキャラが多すぎるとカオスなのでオリキャラさんは今回は不参加です」
ゆーき「あー、えー、知り合いだ。知り合い」
りん「は!? なんか狐耳生えてたり紙だったり変な仮面つけてたりするけど!?」
作者「優輝、眠らせろ」
ゆーき「はいはい。ぃよっと」
りん「がんがぁあっ!」
作者「次に目覚めたときには二人とも「皆を見慣れたもの」、という設定にしておこう」
めりぃ「相変わらず変な悲鳴ですね」
作者「そんじゃ今回も裏話的なものをしていきましょ」
かねこ「まずは何から?」
作者「とりあえずそれぞれのイメージからかな?」
しし「イメージ?」
作者「それぞれ、登場したキャラクターにはイメージ的な言葉があります」
ゆーき「ほう」
作者「キャラクターはまずイメージを決め、そこからキャラクターに発展させていきます」
かねこ「これがその紹介ね」
樋口 優輝
イメージ:謙遜 無自覚
ゆーき「謙遜、ねぇ……。そんなつもりはないんだが」
かねこ「この子わざとやってんじゃないの?」
りん「どうなんでしょう。昔からこんなですし」
佐山 竜生
イメージ:脇役らしさ
りゅーせい「ちょっと待て。何だこれ」
作者「言わずもがな、と」
琴吹 凛
イメージ:一途
りん「……」
作者「典型的な幼馴染として作ったキャラクターです」
ゆーき「まぁ何にしても一途なのは良いことじゃないか?」
りん「……ばーか」
しし「ぜってぇわざとだろこいつ」
九道 金子
イメージ:隠者
かねこ「これは?」
作者「深くは言わないが色々な意味を纏めて『隠者』とした。詳細は今後のおまけで話そう」
作者「ここまでが人間のイメージ。今度はレジェンズです」
メリー・メアリー・ミラー
イメージ:正反対
めりぃ「何と正反対なんですか?」
作者「これまた色々な意味を纏めた。詳細は、やっぱり今後のおまけで。重要だからね」
尾々 栗狐
イメージ:信心
くりこ「……」
作者「これまた(ry 詳細は(ry」
紙々
イメージ:憧憬
しし「憧憬か……」
作者「子供達への憧れやらなんやら。これは、今後話す機会は……あるかなぁ?」
しし「いやいや、ちょっと待て! 説明しようぜ!?」
作者「俺の気分次第だな」
星美
イメージ:自己中心的
作者「これは以前説明したな。本人も居ないし、これだけで良いだろう」
四隅舞踏
イメージ:結束
作者「これは個々じゃなく、四隅舞踏全体のイメージだな」
てんどー「結束。良い言葉だ」
せんどー「はははははっ! 俺達に相応しい!」
こどー「またの名を……あー、まぁ良いか」
きゅーどー「我々は」
作者「お前は黙れ。台詞考えるの面倒なんだから」
かねこ「ぶっちゃけたわね」
作者「まぁこんなところか。オリキャラさんは現在は未定ですが登場に際してある程度のイメージをつけていこうと思う」
めりぃ「櫛禍様はもう出ていますが」
作者「いや、あれだけじゃイメージ的なものも決めれないって」
ゆーき「これからの活躍に期待だな」
作者「んじゃ次、一部のキャラの名前の由来でも晒そうか」
めりぃ「作中で語られるんじゃなかったでしたっけ?」
作者「語られる予定の子は除外。それまでは読者の皆さんで自由に想像してくださいな」
紙々
由来:
赤い紙青い紙→二枚の紙→紙紙といった感じで。
最初の敵、という事で多少なりとも強さを表したいということで「獅子」もかけてます。
三章のタイトル「二色の死紙」も言わずもがな、神と紙のひっかけです。
星美
由来:
前回明記したとおり、「ほし」を「み」るじょせいから。
四隅舞踏
由来:
マスカレードは仮面をつけて身分を隠して行われる舞踏会のこと。
仮面舞踏会やバル・マスケともいわれます。
漢字自体は四隅と舞踏を繋げただけの単純さ。
ちなみにそれぞれの名前の由来は順に一つずつ点を置いていき、できる形から。
点道 点は一つ、何の形にもならないのでそのまま点道。
線道 点は二つ、繋げると線になるので線道。
虎道 点は三つ、繋げると三角形、即ちトライアングルになるので「トラ」イからとって虎道。
救道 点は四つ、繋げると四角形、即ちスクウェアになるので「スクウ」ェアからとって救道。
立道 上記の四つ、即ち四角形の角の上方に一つずつ点を置き、繋げると立方体。だから立道。
作者「オリキャラさんも二名は名前の由来を教えてもらった」
シャッテン・ツヴァイ リヒト・ツヴァイ
由来:
ツヴァイはドイツ語で2。
シャッテンは影、リヒトは光という意味。
櫛禍
由来:
神隠しの「カクシ」のアナグラム。
櫛は神隠しとの関係が深い。
禍は文字通りわざわいの意。
作者「以上だ。とりあえずこれだけだな」
ゆーき「他の裏話は?」
作者「そう急かすな。凛を呼んだのは何故だと思う?」
めりぃ「何か理由があるんですか?」
作者「無論、凛の裏話をするためさ」
りゅーせい「僕は?」
作者「とはいっても一つだが。凛の悲鳴についてだな」
ゆーき「殴ったときの?」
作者「そう」
りん「えっ」
りゅーせい「僕は?」
ゆーき「あれ何か設定あったのか」
りゅーせい「……」
作者「無論、彼女の悲鳴は一昔前のアニメに登場するロボットの捩りなのだ」
めりぃ「ざ…ザン○ット?」
くりこ「……コ○バトラー」
作者「次はマ○ロス辺りかな」
ゆーき「アレ戦艦じゃん」
作者「じゃあナ○シコだな」
ゆーき「アレも戦艦じゃん。しかもさっきの悲鳴の元ネタってゲキ・○ンガー*だろ」 *機動戦艦ナデ○コの劇中劇に登場するロボット。
作者「良く知ってるなお前」
ゆーき「書いてるのお前だから」
作者「元も子もない。まぁとりあえず、凛の今後の悲鳴にも乞うご期待って事で」
めりぃ「今回はここまでです」
くりこ「切れが悪い……」
作者「許してくれ。参照600記念の筈だったのにいつのまにか800超えてたんだ。急ぐこっちの身にもなってくれ」
ゆーき「更新亀だもんな」
作者「おいやめろ」
めりぃ「では次回(多分)900回記念でお会いしましょう」
参照600、700、800記念おまけコーナー 終わり 参照(多分)900記念に続く
りゅーせい「結局僕は何のために呼ばれたんだ」
作者「凛のおまけ」
りゅーせい「……」
ゆーき「不憫すぎる。マジで救ってやってくれ。せめて出番を」
作者「……分かったよ。とりあえず次回のおまけでやれるだけやってみる」
ゆーき「嫌な予感しかしねえ」
- #54 ( No.78 )
- 日時: 2013/02/16 20:53
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
いつも賑わっている筈の商店街に人一人歩いていない、と気付くのは早かった。
気味悪い、と感じる前に察したのはレジェンズ特有の寒気の様な感覚。
その気配は商店街の中から発せられていると思い、半ば自然とその中に足を踏み入れていた。
しばらく進んでも、誰一人いない。
この時間なら学生達で盛況している筈の人気ファストフード店にさえ。
というより、どの店を除いても店員すらいない。
やはり偶然ではない。レジェンズによって引き起こされた異常だ。
商店街の真ん中ごろに差し掛かった頃。
「っ……!」
寒気の様な感覚が強くなってきた。
それが感じられるのは老舗の和菓子屋。
そして、見つける。
「んー、日本のお菓子も結構美味しいわね」
「り、リヒト……無断で食べたらマズいって……」
商品棚に置かれた和菓子を躊躇い無く食べる少女と、それを止めようとする少年。
少女は黒髪、少年は白髪。
「シャッテン、このキンツバとかいうの凄く美味しいわよ」
「いや、だからね」
「あ、このヨーカンってのも美味しい」
「いや、あの」
「モナカってのも中々いけるわ」
「……」
少年は諦めたようで、店内に設置された椅子に寄り掛かる。
と、そこで店の扉の前で立っていた俺と目が合った。
「……」
「……」
数秒、沈黙が続いた後、はっと気付いたように此方に駆けて来る。
「あ、あの、もしかしてヒグチ ユウキさんですか?」
「えっ」
彼らから発せられていた気配から察するところ、レジェンズであることは間違いない。
しかし何故俺を知っていたのだろうか。
メリーが言うにはレジェンズの間では俺は割と有名らしいが。
「そう、だけど……」
「やっぱり! リヒト、見つかったよ!」
リヒトというらしい少女に向けて少年が言うが、
「ワラビモチ……これもいける……!」
「……」
「……」
少年は溜息をつく。
「えっとですね。メリーちゃんの事で櫛禍様から言伝があって来ました」
「メリーの!?」
櫛禍さんの名前が出てきたのも驚いたが、メリーの知り合いということにさらに驚いた。
「はい、メリーちゃんの容態は回復に向かっています。全快も結構早いかと」
「そうか……」
メリーの事は心配無さそうだ。
一旦は安心する。
「それと、ユウキさんの護衛を頼まれました」
「護衛?」
「はい、ユウキさんは短期間でレジェンズと関わりすぎている事に気付いていますか?」
考えても見れば、メリーと出会ってまだ一週間程度ではなかったか。
確かにたったこれだけの期間でレジェンズに会った回数が多すぎる。
「これから先、恐らく貴方を中心として何か良くないことが起きるだろうと櫛禍様が言っていました」
既に起きすぎている様な気もするが。
「それで君達が?」
「はい、えっと、僕はシャッテンと言います。シャッテン・ツヴァイです」
シャッテン・ツヴァイ。
何のレジェンズだろうか。
「それで、あの子は?」
店内で未だに和菓子を頬張っている少女を指して聞く。
「あ、あぁ……僕の妹です」
「妹?」
兄妹のレジェンズというのもいるのか。
「はい。リヒト!」
少年、シャッテンが少女、リヒトを呼ぶ。
「ん! このドラヤキ……バター入り。凝ってるわね……!」
「……」
「……」
しっかりしているが弱気そうな兄と、どうやらマイペースな妹。
何となく心配になる。
口いっぱいに和菓子を頬張るリヒトを見て、二人揃って溜息をついた。
- #55 ( No.79 )
- 日時: 2013/03/17 22:09
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
〜〜〜〜〜〜
黒見沢の東端は過疎が目立っており、活気のある中央区に比べて自然が多いのが特徴だ。
電車も一日五本の少なさで、そもそも利用者が少ないためこの小さな停留場には誰一人いない。
求人雑誌を開きつつも、別にそれの内容に目を通しているわけではない。
頭の中は別の事が巡る。
今まで苦難を共にしてきた「五人」。
この街で、私が起こした戦いに最後まで付き合い、その戦いの末に果てた。
三日経った。
ドラマとかのフィクションで良くあるような、何日も悲しみに暮れるような事はなかった。
いや、もしかするとこの、心のどっかしらにぽっかりと穴の開いたような虚無感はそういったものの類なのかもしれない。
今まで普通に生きるために仕事として行ってきたレジェンズ殺しも、何故か「二度とする気にならない」。
両親に対する憎しみも、綺麗さっぱり、とはいかないが、気にならない程度にまで消え去っていた。
彼らは逝く時、私の憎悪も持っていったのだろうか。
——結局のところ、要するに私はもう殺しをする気はなくなり、新たな仕事を探す事になっている訳だ。
まぁ、今まで常人を逸脱した仕事を行ってきただけに、自分に向く仕事がそう簡単に見つかるわけが無い。
雑誌を閉じ、辺りを見る。
一面田畑で、いかにも田舎といった雰囲気だ。
今時あまり見ることもなくなった案山子がいくつも立っている。
ひたすらに広い青田の野原は考え事を忘れさせ、無心にしてくれる。
色々な感情が混じったような今の状況では、結構ありがたかったりする。
どうせこの街を今日発つのだ。
戦友と別れた街の最後の景色にしては、悪くない。
どうせだから、この景色くらいは目に焼き付けておこうと思う。
しかし、その自然の静寂さの中に、私は先刻から不自然を感じていた。
気配によれば、間違いなくレジェンズに分類される。
——だが、なんだろうか。
あの「案山子」からは、それ以上の何かが感じられた。
見た目は、どこまでもオーソドックスな案山子である。
十字に木の棒で突き立てられ、服やら手袋やらがやや雑に身に着けられている。
布で造られた顔には大きな目と口が描かれ、安っぽい麦藁帽子が被せられている。
ただ簡素なだけの案山子から、何故こんなにも強大な気配がするのか。
その好意でもなければ悪意でもない、どうにも例えようのない気配は、私に対して向けられている。
辺りに誰もいないことを確認し、案山子に問う。
「……何か、用かしら?」
言語能力があるかどうかも定かではなかったが、以外にも返答が返ってきた。
『悲しみ、いや——憎しみ、かな?』
声がしない。
ただ脳に文字のみが入ってくる。
「何のことかしらね?」
『誰か、大切なヒトを失ったね。それで君はその仇に憎しみを抱いている』
一人の坊やと、レジェンズたちの姿が思い浮かぶ。
だが、私は別に坊や達に憎しみ、恨みなんて感情は抱いていない。
曖昧なのだが、寧ろ坊や達に感謝すべきなのかもしれない。
『違うね』
その思考は脳へ入ってくる文字によって掻き消される。
『本音を押し潰すのは良くないよ。おかしくなってしまうからね』
一体何なのだろうか。
早く去ってしまいたい所だが、電車が来るまでまだ時間がある。
「何が目的?」
『目的、ねえ。強いて言えば、君が自分の気持ちに正直になってくれる事かな』
坊や達に恨みを抱けとでも言うのか。
『その通り。君はもっと素直になるべきだ』
分かったような口を聞く(とは言っても喋っているわけではないのだが)案山子に段々苛立ちを覚える。
『憎しみは大切な感情の一つだ。大切なヒトを殺した仇、討ちたいだ——』
その文が紡がれる前に、私は銃を出現させ、案山子の頭を撃ち抜いた。
乾いた銃声が響き渡るが、案山子は開いた風穴をまるで気にしないように佇んでいる。
『ほらね、殺意を少し引っ張り出しただけでこうだ』
確かに今の一瞬、躊躇いはなかった。
この案山子が何やら私の脳に干渉している事は間違いないようだ。
『素直になろうよ。九道 金子』
馴れ馴れしく、当然のように私の名前を呼ぶ案山子に、酷く悪寒を覚えた。
- #56 ( No.80 )
- 日時: 2013/05/10 23:33
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
電車が来るまで、あの案山子は余計な戯言を繰り返すだろう。
不愉快ならないので、別の駅から街を出ることも考える。
しかし、それは考えただけで、実行には至らなかった。
否、至れなかった。
「……開放しなさい」
『君が真に拒んでいるのなら構わないが、心の底で思っているのではないかい?』
身体中を鎖で縛られているかのように、指一本動かせない。
『復讐。それを果たしてあげよう。君は後一歩、憎悪を歩ませるだけでいい』
復讐心は無いと何度言ったら分かるのだろうか。
まぁ、心というものは自分の自覚していない感情もあるらしいので、その辺りをあの案山子が感じ取ることが出来るのなら、何ら不思議ではない。
しかしその心の奥底にあるらしい私の復讐心は既に私の気にならないものに違いは無い。
それを引き出したところで、どうでもいい事でまた坊や達に迷惑をかけるだけなのだ。
『君が知らないだけで、その復讐心は水面にある。何をしなくとも数年経てば出てきてしまうさ』
だからどうしたというのか。
人は常に変化し続ける生き物だ。
ここから先、真っ当な人生を歩み続けるならば、そんな復讐心、消えてしまう。
『それで良いのかい? ますかれぇど、かい? 彼らへの手向けの花の一つでも与えてやりたいだろう?』
「……記憶を探らないで。あの子達の名前を口に出す権利は貴方にはない」
脳を探られ、記憶を覗き込まれる精神的な嫌悪感。
今すぐにでもその報いを受けてもらいたいが、身体が動かせない今、それは叶わない。
『さあ』
ただ一時、身を委ねてしまえば、身体は動くだろうか。
すぐに拒絶して、逃げ出してしまえばいい。
これは逃げるためだ。
私は坊や達への復讐心など無い。
だから、逃げるために、敢えて一瞬気を許すだけ。
逃げようとした身体はやはり動かず、何ともいえない後悔が襲う。
仕方ないのだ。こんな人外の能力、“普通の人間”である私に抵抗など出来るはずもない。
「君は凄いな、九道 金子」
不意に口から、予期しない言葉が紡がれた。
そうか、と、案山子が身体に侵食していくのを悟る。
薄れ行く意識の中、私の声で聞こえてくる案山子の言葉は、
「これだけ誘導しても少しの復讐心も出てこないとは。安心したまえ、身体を少し借りるだけだ。その子供達に危害は加えない」
“心”の底から愉しんでいるような声色だった。
しばらく(リヒトが)和菓子を満喫した後、店で販売していた(リヒトが)茶を飲んでいた。
店内で一番高い粉末茶のパックを開け、店の奥から急須と湯飲みを持ってきて三人分の茶を淹れ、飲み始めたのだ。
「さて、ま、そんなワケでシャッテンとあんたの護衛に就くことになったリヒト。リヒト・ツヴァイよ」
よろしく、と湯飲みを持っていない方の手を出されたので握る。
レジェンズとはいえ、華奢な体つきは間違いなく女の子のものだ。
そういえば、とふと気になった事を口に出してみる。
「ところで、二人は何のレジェンズなんだ?」
リヒトが茶を飲み、一息ついてから答えた。
「ドッペルゲンガーよ」
ドッペルゲンガー。
生きている人間の生き写し。
自分の姿が何故か覚えの無いところで目撃されたり、“自分”が“自分”とは違う“自分自身”を見る減少。
また、自分自身のドッペルゲンガーと出会ってしまうと、それは寿命が尽きる寸前の証と言われている。
自己像幻視という、脳の機能の損失による錯覚がその正体だとも言われるが、それでは第三者がドッペルゲンガーに遭遇するという事象の説明がつかないため、今でも代表的なオカルト話とされる。
いや、謎に包まれたこの現象、その正体が目の前に居るという事は、この二人に聞けばその秘密が分かるのでは?
「ドッペルゲンガーか……。なぁ、あの現象ってどうやって起きているんだ?」
昔から割と気になっていた事ではある。
この秘密が今、遂に解ける——
「……シャッテン、説明よろしく」
「え!? いや、僕にもよく……」
あれ?
「あんた、それでもドッペルゲンガーのレジェンズなの? 何か少しでも知らないの?」
「リヒトだってドッペルゲンガーじゃないか!」
えぇー……
どうしてこうなった。
まだまだレジェンズは、謎が多い存在のようだった。
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