複雑・ファジー小説

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たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜(サブタイトル付き)
日時: 2012/10/21 10:21
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13729

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ

 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。

 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
 宣伝文(秋原かざや様・作)
 >>1
 はじめに
 《情けなさすぎる主人公》
 >>2
 イメージ・ソング
 >>5
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
 《塾になんか行きたくない!〜いざ! 出陣!〜夢にオチそう》
 >>6-10
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
 《忍び寄る疫病神〜もの好き男の宣戦布告!?》
 >>11-14
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
 《初めての恋、そして初めての……〜王子様の暴走〜狙われちゃったくちびる〜なんてったって……バージン》
 >>15-22

Re: たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜(サブタイトル付き) ( No.31 )
日時: 2012/10/26 21:36
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

塩さん>
見事(?)に直しました(笑)
せっかく素晴らしいアドバイスを頂けたので。

まだ解決してないです……。(管理人さんに伝えてあります)
間違いは絶対無いし、短く、打ちやすいパスなのに……。
目次を修正したいです(サブタイトルも付けたので)

セリフだけで、その人の性格や容姿とか表すのがわたしの書く物語の特徴かもです。(脇役にもこだわり)
セリフじゃないところでも上手く表せる様になりたいです。(でも、文章書くのヘタ……)

わたしも書くの、飽きない様に色々やって頑張ってます^^
はぁ……松浦くんのムッツリ裏ストーリーの続き、載せたい……(けど、アレはえろい)

怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎 ( No.32 )
日時: 2012/10/28 23:04
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 ……パチン。
 松浦くんは担いでいたあたしを降ろし、電気を点けた。


「!」
 突然、部屋全体がワインレッド色に染まった。天井も、壁も、床も……全部同じ色。
 自分の両方の手の平を広げ、顔の前に近づけた。手の平も……体もワインレッド色になっている。
(何、この色……)
 背後からワインレッド色になり、更に怪しい雰囲気をパワーアップさせた松浦くんがゆっくりと近付き、あたしの肩にそっと手を置いた。
「ん?
 ああ、確かに変だよなァ、この照明の色。
 誰かが蛍光灯に細工でもしたんだろ。勉強もしねぇで、こんなことに時間費やして……
 ————お盛んな奴等だぜ、全く」


 まるで赤ワインの入ったグラスの中に沈んでいくような気分。
 ————ずっとこの部屋にいたら、本当に酔っぱらってしまいそう……。
 あたしは、おそるおそる部屋を見渡した。
 壁にはダーツボードが掛けられていて、床にはホコリだらけのお酒が何本か入った木箱。部屋の端にはボロボロのビリヤードの台がたくさん積み上げられていて、その中の1台が部屋の真ん中にポツン、と置かれている。台の上には箱ティッシュ一箱と、丸めたティッシュのゴミがゴロゴロと散乱している。


「この部屋が……なんの部屋か、って?」
 松浦くんはあたしの両脇に手を入れて、まるで小さな荷物を運ぶ様に軽々と持ち上げ、部屋の真ん中に置かれているビリヤードの台の上に座らせて話し出した。
「ヤリまくり部屋……って、俺たちは言っている……。
 そういえば、おまえはまだ、この塾に入ったばかりだから知らねぇか」
(やりまくり、べや……?)
 ビリヤードをやりまくるのだろうか。————絶対そんなワケがない。
 ニヤニヤしながら話す松浦くんの顔を見て、あたしは察した。  
 集中どころか頭がおかしくなりそうな部屋の色。それに……こんなにゴミが散らかった傷だらけの台でビリヤードなんてできるのだろうか————


「この塾のカップル達が、“楽しーコト”スルための部屋……だってさ」


 彼はあたしの表情をおもしろそうにうかがいながら、着ているパーカーのえり首から手を忍び込ませ、鎖骨を指でゆっくりと撫でてきた。
「なァ……これ以上言わせる気かよ……。ホントはもう分かってるんじゃねーのか。————いじわるだなぁ、なみこ……」
「……やめてッ!!」
 全身に鳥肌が立ったあたしは、彼の手を掴んで止めた。


「俺がいつも、どんな気持ちでいるのかも知らねぇでヘラヘラしやがって……。どうせ、恋愛小説なんかの世界にでも夢見て浮かれちまってんじゃねぇのか?
 ————おまえ……高樹にメチャクチャにされるぞ……」


 ワインレッドの照明が、あたしのいかりの炎を増強させる。
「へっ、変な事言わないでよッ! 松浦くんのバカ! 大っキライ!!」
 あたしはビリヤードの台の上から、目の前の松浦くんを思いっきり蹴飛ばして叫んだ。
 松浦くんはあたしに蹴られて倒れている。
 勢いだとはいえ、マズい事をしてしまった。
(に……逃げよう!!)
 あたしは慌てて台から降りて視線をドアに向けた。
「——っ! 痛ぇなコラ!!」
 彼は起き上がり、あたしを睨み付けて飛び掛かってきた。


「 !! 」
 あまりにも予測不能な彼の行動。どうして“こんな事”をしてきたのか————
 突然、あたしは松浦くんに強く抱き締められた。 


「————これでもまだ分かんねぇのか。……バーカ」
 プライドの高い彼の事だから、蹴られた仕返しに十倍返しで反撃されると思っていた。
 あたしは恐怖と混乱で松浦くんの胸の中で固まってしまった。
 気のせいなのかもしれないけれど、バカにされた言葉のはずなのに、何故だろう……。あたしを抱き締めながら耳元で囁く彼の声が、少し震えていた様な感じがした。
 松浦くんはあたしに何か大事な事を伝えようとしているみたいだけど、はっきり言ってくれないから分からない。そんな事よりも、身長170センチ近くもある彼に、こうやって力の加減無しで覆い被されている状態で抱き締められていて苦しい。
 多分、もう1分以上もこの体勢ではないだろうか。————いい加減に離してほしい。
 『蹴っちゃってごめんなさい』って言おう……。
 そう思った時に、彼は抱き締める腕の力を緩め、あたしの顔を覗き込んできた。
 研ぎ澄まされた刃のような視線を顔面に突きつけられ、あたしは言葉を失った。


「俺が先に奪ってやる……」


「 !! 」
 口の中に広がるミントの味。
 あたしのファーストキスは、予想もできない不意打ちで松浦くんに奪われてしまった。
「……じゃあな。楽しかったぞ、なみこ」
 あたしのくちびるを指でギュッとつまんで鼻で笑い、彼は一人で部屋を出て行った。


 あたしの口の中に、噛みかけのガムを残して————


     ☆     ★     ☆


(……よし。松浦くん、もういないな……)
 “やりまくりべや”のドアを開け、顔を出して覗いて確認をしてから、あたしは廊下に出た。
 でも、いくらこんな事をしたって、どうせまた帰りのバスでイヤでも顔を合わせなくちゃいけない。彼からは逃げたくても逃げる事ができない。
 さっき、松浦くんに強引に口移しで放り込まれたガムも捨てて、くちびるも箱ティッシュが空っぽになるまでいっぱい使って拭いた。でも……ミントの味が消えただけで松浦くんの味は消えてくれない。


『楽しかったぞ……なみこ……』


 勝手にあんな事をしておいて“楽しかった”だなんて……。あたしを見下ろし、いやらしく笑っていた彼の顔も消せない。 
 昨夜、せっかく“素敵な思い出の場所”として胸の中に残しておいた“3階の思い出”が、松浦くんのせいで、今夜一気に“最悪の事故現場”へと崩れ堕ちてしまった。
 思い出したくない……。もう二度とここへは来たくない————!!
 あたしは両方の手の平をギュッと握り締め、早歩きで廊下を渡った。


 教室に戻ろう。
 とにかく高樹くんの前では、何も無かった様な顔をしていなくっちゃ————


「!」
 階段を降りようとしたら、2階から高樹くんが昇ってきた。
(どうしよう……。よりにもよって、こんなところで会っちゃうなんて……。3階に松浦くんと一緒にいた事、知られちゃったかも————)
 あたしは頑張って何も無かった様な顔をしたつもりだったけれど、絶対、動揺している顔になっていた。
 『なみこちゃん』
 いつもなら、こんな風に優しい笑顔で呼んでくれる彼が、あたしの顔を見ても何も言わずにゆっくりと昇ってくる。
 キーンコーン……
 高樹くんが階段をあたしのいる所から1段下の段まで昇ってきた時、始令のベルが鳴り出した。


「————サボっちゃおっか」


 驚いている間もなく、あたしの手は彼に握られ、再び3階に連れて行かれた。
 ————松浦くんだけではない。高樹くんの様子も今日はなんだかおかしい。
「だっ、だめだよ高樹くんっ、戻らないと叱られちゃうよ……。
 あたし達、この前も問題起こしてるし……マズいよっ……」
 高樹くんに手を引かれ3階の廊下を渡りながら、頭の中に色んな事が浮かび上がってくる。
 ビリヤードの台の上で高樹くんにキスされて……
 服を脱がされて……
 キスされて……
 いろんなところを触られて……
 キスされて————


     ☆     ★     ☆


 気が付くとあたしたちは“やりまくりべや”の前に来ていた。
 高樹くんはドアを開けて、あたしの背中を押した。


「僕の事、嫌いだったら————ごめん」

一線越えのエスケープ!? ( No.33 )
日時: 2012/10/28 23:57
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 ……パタン。
 ドアが閉まる瞬間の小さな音と共に、あたしの心臓が大きく『ドキン』と鳴った。


「僕の気持ち……今、教えてあげたい。
 なみこちゃんの事をどのくらい好きなのか————」
 電気も点けずに真っ暗な部屋の中。
 高樹くんはあたしの肩に片方の手を乗せ、もう片方の手で髪を優しく撫でながら耳元で囁いた。
 “どのくらい”好きなのか……だなんて、わざわざ教えてくれなくても、耳の穴からストレートに入り込んでくる激しい彼の吐息の量から、もうすでに感じ取っている。
 初めてこの部屋に足を踏み入れた時は、ここが何の部屋なのか分からなかった。
 でも今は知っている。————さっき松浦くんに教えてもらったから。 
 この部屋は、この塾に通うカップル達が二人っきりになって————
(“どのくらい”って……どうやって教えてくれるんだろう……)
 言葉で……? ————それとも行動で?
 暗闇に閉ざされて、彼の声だけしか聞き取る事ができない。確か前にも彼に頭を撫でられた事があったけれど、今は顔が良く見えないからなのだろうか。それに“この部屋で2人っきりの状態”でされているからだろう、その時とは比べものにならないくらいドキドキする。
 髪を撫でる高樹くんの手の指が、時々あたしの首すじに軽く触れる。触れられる度にあたしの体の力が少しづつ抜けていく。
 そのまま彼は髪を撫でていた手をスーッと滑らせて、今度は腕を撫でてきた。
「ここ……さっき痛そうだったけど、大丈夫?」
(大丈夫じゃ……ない、よ……)
 あたしの足がブルブルと震え出す。
「どうしたの、足……。
 ————なんか震えちゃってるよ……」
 高樹くんは少し腰を落として、腕を撫でていた手を太ももにあてた。
 あたしは今日、ショートパンツをはいてきたので、彼の手の平の体温をじかに感じる。同時に彼の気持ちも充分過ぎるほどに伝わってくる————


「高……樹くん……」
 あたしは、もう立っている事ができなくなってしまい、高樹くんにしがみ付いてしまった。
「なみこちゃん……」
 力が抜けきって、しがみついているあたしを支えながら、高樹くんはすぐ後ろにあるドアの横にあるスイッチを押し、電気を点けた。


「————あっちで“しよう”か……」
 高樹くんのさす指の先にはティッシュのゴミがいっぱい散らかったビリヤードの台があった。
 どうやらワインレッドの照明が高樹くんを狂わせてしまった様だ。
(待って……)
 あたしは、しがみ付く腕に思いっ切り力を入れた。————これでも精いっぱいの抵抗のつもりだった。
 講習はまだ始まったばかり……。あたし達二人が教室に居ない事に、先生は気付いているのだろうか……。
 今、大好きな高樹くんと一緒にいるのに、できる事ならば、この部屋から逃げ出してしまいたい。でも……嫌われたくない。
 震えるあたしの顔を覗き込んで彼は囁いた。


「やっぱり、初めてなんだね……。
 ————大丈夫だよ。ちゃんとおしえてあげるから……」


     ☆     ★     ☆


「ん、しょっ……と。
 あはっ、すっげー。なみこちゃん、軽すぎ」
 あたしをお姫様抱っこして、やっと高樹くんがいつも通りの笑顔を見せた。
(お……おちつけ、あたし……)
 あたしは今、自分と一緒に高樹くんの気持ちを落ち着かせる事、ただ、それだけを考えている。まるで時限爆弾を処理する警察機動隊の様な気分だ。


「ちょっと待ってて。ここ、キレイにしないと……“できない”から……」


 彼はあたしをビリヤードの台に座らせた。そして足元にゴロゴロと転がっている中身が空っぽの封の開いた小さな段ボール箱を1箱手に取り、台の上に散らかっているティッシュのゴミを片付け始めた。


(逃げるなら……絶対、今、だよね……)
 そう思ってはいるのだけれど、こんな時になってもいっこうに震えが止まらないあたしの足。
 彼の気持ちを受け入れてあげたいけれども、体が言う事を利いてくれない。
 ————第一ないでしょう。こんな大胆な告白パターン……。


 高樹くんは手際良くティッシュのゴミを片付け、さっきあたしが使って中身が無くなったティッシュの箱を潰している。
 彼のサラサラの前髪の間から、長いまつ毛のセクシーな瞳があたしをチラリと覗いた。
「なみこちゃんだけに、僕のカッコいー姿……見せてあげる……」
 突然、高樹くんは上に羽織っているカーキ色のジャケットをバサッっと脱ぎ捨て、着ているシャツのボタンをプチプチと外し出した。


「!」
(もしかして……あたしが脱がされるんじゃなくって————そっちが脱ぐのッッ!?)


「うっひゃあ!」
 高樹くんの突拍子もない行動に、一瞬目が飛び出てしまったけれど、慌ててあたしは両目を手で覆い隠した。
(おちつけ……おちつけ……。落ち着け、あたしッ!!)

一線越えのエスケープ ( No.34 )
日時: 2012/10/29 10:09
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「————見てないじゃん、なみこちゃん……」


(え……?)
 あたしは目を隠した手の指と指の間から、おそるおそる高樹くんを見た。


 高樹くんはあたしの腰かけているすぐ横でビリヤードの棒を構え、台の反対側の端にいつの間にセッティングをしたのか、“ダイヤの形”に並べられた番号と色のついたボールの塊をめがけて、手元の白いボールを思いっ切り突いた。
 彼はボールの塊をバラバラに散らばらせた後、棒を持ち、台の周りを歩きながら慣れた手付きで次々と白いボールを突いていった。そして一番、二番、三番……と、番号と色の付いたボールを若い番号から順番に穴へ上手に落としていった。
 ビリヤードなんて生まれてから一度もやった事なんて無く、もちろんルールも全く知らないあたしだけど、一目で彼の腕は相当なものだと思った。高樹くんの隠れた特技に驚き過ぎて拍手をする余裕も無く、あたしは口を半開きにして彼を見ていた。


 ボールを狙う高樹くんの真剣な眼差し。
 腕まくりした、細めだけど引き締まった男らしい腕から伸びる、棒を持つ手。
 そしてセクシーな指先。
 上から三つ目までボタンの外したシャツからチラリと覗く胸元————
「かっこ……いい……」
 もしも自分が今、少女漫画の中にいたとしたら、絶対目がハートになっている。
 あたしは高樹くんに魂を吸い取られてしまったかの様に、うっとりしてしまった。


 ビリヤードの台に腰掛けているあたしのお尻の傍に、高樹くんが突いた白いボールがゆっくりと転がってくる。
「ハッ」っと我に返ったあたしは手でよだれを拭いて、台から降りた。


「はいっ。じゃあ次は、なみこちゃん……やってみて」


「えっ!? う、うん……。白いボールを突けばいいんだよ……ね?」
 彼にいきなりビリヤードの棒を渡され、あたしは慣れない手つきで白いボールを狙って構えた。
「————棒の持ちかたが……わかんない……」
「初めてだもんね。ふふっ、この棒“キュー”っていうんだよ」
「きゅっ、キュー?」
 心臓がキューキュー鳴り出した。
「構え方は……なみこちゃんは右利きだから……こう持って……こう、かな?」
 へっぴり腰のあたしの後ろに高樹くんがピッタリと密着して優しく両手を回し、キューを持つ手を支えて親切に教えてくれる。
 近すぎる……。————もう、びりやーど、どころでは……ない。
 あたしの心臓の音を聞かれてしまうんじゃないかという心配をよそに、高樹くんはキューを持つ緊張で震えているあたしの手の上から自分の手を包みこんで耳元で囁いた。
「五番のボールに当てるつもりで、白いボールの真ん中を強めに突いてごらん」


「はっ、はいっ!」
 裏返った声の返事に加え、さっきからキューキュー鳴りっぱなしで止まらないあたしの心臓。
 ずっとこのまま時間が止まってくれればいいのに————


     ☆     ★     ☆


 せっかくあんなに親切に高樹くんに教えてもらったのに、五回もファウルを(しかも二回、空振り)してしまい、やっとの思いで五番のボールを“ポケット”に落とした。
「——ふぅぅ」
(情けない……。ホント、ダメ人間だ、あたし……)


「高樹くん……って、左利きなんだね……」
 苦笑いをしながら、おでこにかいた汗を手で拭った。
 高樹くんがズボンのポケットから左手でハンカチを出して、
「んー。一応は両利き……なんだけど、左利きの人って少ないでしょ?
 ————なんか、カッコいいかな、って思って」
 彼は舌をペロッと出し、お茶目な笑顔を見せて、あたしのおでこをハンカチで撫でた。
(高樹くんは左利きじゃなくってもカッコいいよ……っていうか、両利きだなんて凄すぎる……)


「————僕……テクニシャンだからね……」
 高樹くんはビリヤードの台に腰掛け、あたしの手から取ったキューを背中側に持ち、六番のボールをいとも簡単にポケットに落とした。
 そして台から降り、あたしに向けて得意げな顔でウインクをしてきた。
(……え? 何シャン?)
 拍手をしながら顔面が固まった。
 お願いだから突然の英語はやめてほしい。意味が分からず、あたしは茫然としていた。
 せっかくさっきまで雰囲気良く(?)弾んでいた会話が、あたしのバカさのおかげでプッツリと途切れてしまった。
(とっ……とにかく、この空気をなんとかして変えなくっちゃ——!!)
 あたしは頑張って返した。


「てッ……“テクニッシャン”だなんて、すごーい、高樹くん!」


「なみこ……ちゃん?」
(……んえっ?)
 ————どうやら思いっ切り墓穴を掘ってしまった様だ。
 高樹くんは大爆笑したいところを懸命に堪えている顔で背中を震わせながら、あたしにキューを渡してきた。
「ああっ、そ、そうだ! 高樹くんっ!」
 あたしは受け取ったキューを再び彼に渡した。


「このボール、九番まで全部ノーファウルで落としたら、今度の日曜日、あたしとデート……してあげる————キスつきで」


「…………」
 ————部屋の中が急に静かになった。
 あんなあたしの言葉をまともに間に受けたのか、ビリヤードの台の周りをゆっくりと歩きながら、真剣な顔で残っている七番、八番、九番のボールとポケットの位置をキューを使って計算している高樹くん。
 “照れ隠し”でとっさに出てしまった、すっとんきょうな言葉なのに……。
 しかもこんなにカッコいい高樹くんに向かって、キスつきのデートを“してあげる”だなんてエラそうに……何を言っちゃってんのだろうか、あたしは————
 もうこれ以上何も言わない方がいいのかもしれない。
 あたしは自分のくちびるをギュッと締めて高樹くんを見た。


「一発で……落とす……」
 彼は唇を噛み締めてキューを構え、白いボールを思いっ切り突いた。
 白いボールが台の壁に跳ね返りながら転がり、色のついたボールに当たる度にあたしの胸が震える。ビリヤードはボールの位置を把握するだけではなく、微妙な力の加減も大事なのだ。それができないと、こんな風に……一回突いただけで残り三つ、全ての色付きボールに当てる事なんてできない。
 そんな事ができるだけでもすごいのに————


 ガコン……ガコン……
                 ————ガコン。


 七番、八番、九番……番号の付いている全てのボールは、次々と綺麗にポケットに落とされていった。
「————すっ、ごぉい……」
 白いボールは、高樹くんの勇姿にうっとりと口を半開きにして見とれてしまっているあたしの手元にコロコロと転がってきて止まった————と同時にあたしの心も高樹くんの一発で……落とされてしまった。


「今度の日曜日、午前十時、この塾の前で待ってる。
 ————キス……楽しみにしてるよ……」


 高樹くんは嬉しそうにビリヤードのボールとキューを棚の中に片付けている。
 さっきボールの軌道を予測して計算していた高樹くんの顔を思い出した。
(あたしのことも真剣に考えてくれていたんだね。————ごめんね。めちゃくちゃな事言って試しちゃったみたいで……)
 あたしは彼の方にゆっくりと近付き————後ろからフワッと抱き締めた。
「あんなに上手だなんて……反則だよ……」
「ふふっ。友達とゲーセンで一時期どっぷりハマッちゃってね。気が付いたらなんか上手くなっちゃってた。 
 うん、でも今はもう————“違うもの”にハマッちゃってるんだけど、ね……」
(? ちがう、もの……?)
 高樹くんはあたしの手をほどいて振り向き、両手であたしの頬に指を添えて優しくキスをした。
「ごめん。我慢できなかった……。
 こんなに可愛いなんて……なみこちゃんのほうこそ————反則だよ」


 キーンコーン……。
 前半の講習終了のベルが鳴り出した。 

醜い自惚れ ( No.35 )
日時: 2012/10/29 14:48
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 Bクラスの教室に戻ったあたしは、次の講習の科目の準備もせず自分の席で、今日一日だけで二人の男の子にたて続けにキスをされた事が信じられなくて、何回もほっぺたをつねっていた。 何回つねっても……痛い。
 高樹くんは“やりまくりべや”に着ていたジャケットを忘れたらしく、取りに行っている。
「……はぁ」
 両手の平を頬に当てて、あたしは大きなため息をついた。
 ほっぺたがこんなに熱いのは、つねりすぎたからなのか…… それとも————


(————デート、どうしよう……)
 今まで男の子とまともに話すらした事がないあたしなんかが、知りあってたった三日の……しかも通う学校の違う男の子、高樹くんと二人っきりで一日を過ごす事になるなんて考えたことも無かった。
(しかもキスつき……)
 つねったほっぺたの痛みの熱はだんだん引いていくはずなのに、どんどんあつくなる————
 あたしは、まだ準備もしないで何も置いていない机の上にほっぺたを付けて冷ました。


「ふふっ。 どうしたの?」
 取りにいったジャケットを肩に掛けた高樹くんが、いつの間にか教室に戻ってきていた。 そして机の上に顔を付けてつっ伏しているあたしの耳元で囁いた。
「……なに? 今になって緊張してきた?」


「高樹くーん。 ちょーっと聞きたいんだけどさー……」


 高樹くんと同じ学校の子だろうか。 いきなり現れたクラスの女の子があたしの隣で彼と話をしている。
 どうやら話の内容は勉強の事の様だけど、時折、彼女は高樹くんの肩に手を置いたり軽く押したりしてなんだかとても親しそうだ。 それに……あたしなんかといるよりも、彼女と一緒にいるほうが似合っている。
 見たくない……。 あたしは机の上に置いた自分の腕の中に顔をうずめた。
 胸がキューッと締めつけられて苦しい。 仲良さそうに話す高樹くんとナゾの彼女(?)の会話……聞きたくないくせに自然と聞き耳をたててしまう————。
 ゆっくりと顔を上げて、彼らを視界に入れないように教室の中をぐるりと見渡すと、あたしなんかよりも何十倍もかわいい女の子がいっぱいいることに気付いた。


「————なみこ、ちゃん…… でしょ」
 隣で高樹くんと親しそうに話している女の子が、長い黒髪をかきあげながら突然あたしに話し掛けてきた。


「おウワサは かねがね聞ーてマー……ス」
(うっ…… うわさ!?)
 “美しい”と“可愛い”をともに兼ね備えた、ほっぺに“えくぼ”をつけた笑顔の似合う長い黒髪の女の子。 彼女はあたしに向けた人差し指の先をクルクルと回しながら大きな瞳でジーッと見つめてくる。 どうやら彼女はあたしの事をいろいろと知っている様だ。
(あたしはこの子の事、何にも知らないのに……)
 それにしても“ウワサ”なんて一体誰から聞いたのだろうか。 もしかして————
 あたしはおそるおそる高樹くんの顔を見た。
 彼は右手で頬づえをつきながら、あたしを見て微笑んでいる。
(————えっ?  高樹くんどうして笑ってるの……?
                   今度の日曜日、あたしたちデート……するんでしょ……?
                                           この状況…… 絶対、気まずいはずなのに……!!)
 高樹くんは優しくてかっこいいから女の子にモテるのは当たり前……。 でも……さっきのキスは一体何だったの……?
 今までお互いの想いが通じ合っていたと思っていたのに彼の気持ちがさっぱり分からなくなってしまった。
 モヤモヤとあたしの頭の中に黒い霧がたちこめる。
 確かにあたしは高樹くんに「可愛い」って言われただけで、まだ「付きあってほしい」とは言われていない。
(あっ…… そういえば、前に読んだお母さんの週刊誌に書いてあったっけ————)


 “男はその場の雰囲気で、好きでもなんでもない女に簡単に「好き」と言えるし、キスだってできる。”


 思いあたるふしが……あった。
 それは“やりまくりべや”に松浦くんと一緒にいた時————彼はあたしのことが嫌いなはずなのに……キスをした。
 キスをされる前に、松浦くんに言われた言葉を思い出した。 


「どうせ、恋愛小説なんかの世界にでも夢見て 浮かれちまってんじゃねぇのか?
                                  ————おまえ……高樹にメチャクチャにされるぞ……」


 さっきから、あたしの顔をまるで品定めをしているかの様に見てくる黒髪の女の子は、再び口を開いた。
「なみこちゃんのこと、“マスコット・ガール”なんだってー。 健たちがいっつも言ってんだぁ。 ウフ、ホントだねーっ、イマドキ珍しい純情そうなかわいーコだぁー。
 あっ、申し遅れちゃったケド、あたしの名前は小栗由季。 Aクラスにいる高樹くんの友達の『健』っていうヤツの彼女でーすっ。」


 キーン コーン……
 後半の講習の始令のベルが鳴った。
(健……。 なんか聞いたことがある名前だな……)
「————覚えてる? この前なみこちゃんのおしりを触った僕の友達……
                                          ————の“彼女”だよ」
 高樹くんがあたしの方に身を乗り出して顔を近付け、耳打ちをした。
「あはっ、 なんか違う学校のコが友達って魅力的ッ。 仲良くしよーね! な・み・こ・ちゃんっ!」
 さっき高樹くんに見せていた笑顔と変わらない笑顔で嬉しそうに、握ったあたしの両手をブンブンと大きく振って“由季ちゃん”は自分の席に戻っていった。
 茫然としてる間に、先生が教室に入ってきて講習が始まった。


「心配…… した……?」
 隣で高樹くんは回していたペンを机の上に置いて、あたしの手をふんわりと握ってきた。 彼に握られた手に持っている蛍光ペンがブルブルと震えている…… 目頭が…… あつくなる……
「心配なんて、しなくていいよ……。 さっきなみこちゃんが松浦くんに連れていかれた時の、僕のほうが心配したよ……」
 頭の中にたちこめていた黒い霧が一気に晴れて、一粒の涙があたしの頬をつたった。
 あたしはそれを軽く指で拭い、高樹くんに笑顔を見せた。
「エへ。 エへへ……  心配なんてしなくていいよ……
                             ————松浦くんとあたしだなんて……ありえないよ……」


————あたしはまだ 知らない。
          あたしの見ていないところで 高樹くんと松浦くんの戦いの火蓋がきられて落とされていたことを……


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